地域医療の向上に奮闘した小泉日出雄医師の生涯を描く
第33回釜石市民劇場「釜石の赤ひげ~小泉日出雄伝」(実行委員会主催)は16日午前と午後の2回、大町の釜石市民ホールTETTOで上演された。戦中、戦後を通じ医師として地域医療の充実に奮闘し、市議会議員としても市勢の発展に努めた小泉日出雄(1916~85)の生涯を描いた。今も釜石市民の心に宿る、真摯(しんし)で思いやりにあふれた日出雄の人物像に、約1千人の観客が拍手を送った。
熱演したキャスト、支えたスタッフに客席から大きな拍手
■正義感あふれ
3幕9場、約2時間にわたる舞台は、盛岡生まれの日出雄が岩手医学専門学校(現在の岩手医大)学生時代、不良に乱暴な言いがかりを受けた母娘を助けるシーンで幕開け。正義感あふれる青年像が描かれた。
娘サヨ(さっちゃんは後に看護師となり、「恩人」日出雄が開院した小泉医院で働く。母お圭は釜石市平田の実家に帰ったあと病気で亡くなり、日出雄が「平田診療所」開設に奔走する契機をつくる。母娘との縁が、全編を彩る〝線〟となった。
医師となり旧満州での3年余の軍医勤務を終え、宮古共済病院を経て釜石市民病院に着任した1945年春の釜石駅前は、製鉄所の煙突が林立していた。各地で毎日のように空襲があり、敗戦が色濃くなった時期。重要な軍需物資の鉄を生産する拠点は攻撃対象となる危険をはらんだ。予想は的中。2度の艦砲射撃に見舞われた惨状は、医師日出雄の胸を押しつぶした。
20年に及ぶ市議会議員に初当選するシーンには、八雲神楽保存会、柳家細川流舞踊の「秋田大黒舞」が花を添えた。家族を慈しみ、地域の人々や患者と接する姿、医療を求める市民に応えようとする行動で「医は仁術」を信条とする日出雄の生き方を表現した。
ラストシーンでは、白衣姿の日出雄が診察室に腰掛け、家族や多くの人々に感謝し、「人生に悔いなし」と言い残す。68歳だった。
■肩の荷おりた
主役を演じた埼玉県出身の神脇隼人さん(31)は2018年7月から釜石に移り住み、起業型地域おこし協力隊(釜石ローカルベンチャー)として釜石大観音仲見世商店街の活性化に取り組んでいる。大役を終えて「多くの人前で話す経験はあるが、演技は初めて。日出雄さんの、多くの人から頼られ、慕われ、市民のために行動する豪快さを持つ人物像を演じるのは、初めは難しかった。仕事との兼ね合いで稽古になかなか出られず、仲間のみなさんの優しさに支えられた。肩の荷が下りた」とホッとした表情。
キャストとして10年目になる会社員阿部弘さん(43)は「仕事の関係で土・日曜日の稽古になった。経験は長いが、なかなかうまくできない。キャスト、スタッフの不足は長年の課題だ。お客さんの反応は笑いもあって良かったと思う」と笑顔を浮かべた。
■お人柄に感謝
初めて市民劇場の脚本を手がけた紺野仁司さん(64)は「たくさんの人が見てくれた。(日出雄さんの)お人柄かと感謝する。市民のために身も心もささげた、あんな人(日出雄)がいた―ということを多くの人に知ってもらえたことがうれしい」と語った。
初めて演出を担当した武田仁一さん(69)は「やっと無事終わった。多くの制約があったが、みんなの意識が一つになった。今後は違うイメージの劇、テーマも探したい」と新たな意欲を燃やす。
久保秀俊実行委員長(71)は「組織も一新して臨んだ舞台だった。少人数でも、ここまでたどり着いた喜びは大きい。子どもたちの成長にはいつも驚かされる」と市民劇場の醍醐味(だいごみ)をかみしめた。
■父の志自分も
日出雄の長男で現在は釜石医師会の会長を務める小泉嘉明さん(74)は2回の公演を見守り、「何となく恥ずかしい」と面はゆそうだった。父親の生き方については表情を改め、「人を思い、人々と仲良く、楽しく生きる。そのためにそれぞれが目標を持ち、苦労があっても前向きに進む。自分もそうあろうと思ってきた。父は豪快といわれるが、自分には繊細な人という印象が強い」としのんだ
■すばらしい方
定内町の田沢ひろ子さん(72)は、22年前にスタッフとして活動した経験がある。「近所の関係者の方に誘われて久しぶりに見ました。懐かしかった。よかった」と満足そう。
只越町の佐々木八重子さん(82)は、長い東京暮らしを終えて釜石市に帰郷したが、新築したばかりの住まいを震災で失い復興公営住宅に暮らす。「演劇や演芸は大好きです。日出雄先生のことは、釜石を離れていた時期に活躍されたので、よくは存じません。劇を見て、すばらしい方がいたと、うれしくなりました。楽しかった」と声を弾ませた。
(復興釜石新聞 2020年2月19日発行 第868号より)
第33回 釜石市民劇場「釜石の赤ひげ」 – 縁とらんす
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