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民謡で古里に恩返し、津波で両親犠牲の佐野よりこさん〜震災復興支援チャリティーショー、12月2日釜石で

民謡で古里に恩返し、津波で両親犠牲の佐野よりこさん〜震災復興支援チャリティーショー、12月2日釜石で

古里への感謝を込めて民謡ショーを企画する佐野よりこさん

古里への感謝を込めて民謡ショーを企画する佐野よりこさん

 

 釜石市鵜住居町出身の民謡歌手、佐野よりこさん(48)=盛岡市在住=は20日、小佐野町の特別養護老人ホームアミーガはまゆり(久喜真施設長、長期利用90人、短期利用10人、デイサービス利用25人)を慰問し、歌や踊りで高齢者らを癒やした。東日本大震災で両親を亡くした佐野さんは、ショックで声を出せない時期もあったというが、地元の声に背中を押されて活動を再開。「恩返しをしたい」と思いを込めて歌声を届けている。そんな佐野さんが企画する震災復興支援チャリティーショー「笑福! 民謡(うた)と踊りの祭典」(一般社団法人清流会主催)が12月2日、大町の市民ホールTETTOで開かれる。

 

 「一足先に歌っこ届けにきたよ」。慰問では、「南部俵積み唄」「涙そうそう」など民謡、歌謡曲を織り交ぜて披露。三味線の弾き語りでは「釜石浜唄」を、しっとりと聴かせた。

 

 佐野さんは3歳で民謡を習い始めると、めきめきと実力を付け、中学時代には釜石の民謡大会で史上最年少優勝。「南部牛追唄」「外山節」など数々の全国大会で日本一となるなど活躍している。一昨年には第56回郷土民謡民舞全国大会で最高賞の民謡グランプリ大賞に輝き、内閣総理大臣賞を受けている。

 

 震災の津波で実家が流され、父祐三さん(当時73)、母マサエさん(同74)も奪われた。失った衝撃で歌えない日が続いた。そんな中、聞こえてきたのは、地元の被災者の「よりこちゃんの歌が聴きたい」という声。古里の声に押され活動を再開してからは、県内の民謡仲間らと被災地を回る活動にも参加している。

 

 「育て、かわいがってもらった古里に恩返ししたい」と考えていた佐野さん。待望の市民ホールが完成し、「私には民謡しかない。古里の舞台で、歌で思いを伝えたい」と、自分なりの恩返しの場となるショーを企画した。

 

 ショーには佐野さんのほか、民謡の吉田やす子さん、北條真由美さん、舞踊の井上ひとみさん、吉田成美さんら県内の若手メンバーが出演。お笑いパフォーマーの石黒サンペイさんによるステージもある。菊池信夫さん、山崎隆男さん、漆原栄美子さん、細川艶柳華さんが特別出演。「桜舞太鼓」「おおつち一心会」も協力する。

 

 午後0時半開演。全自由席で大人1500円(当日2千円)、高校生以下800円(同1千円)。収益の一部を釜石の復興支援金として寄付する。

 

 慰問で、利用者らは曲が始まると自然と口ずさみ、手拍子を合わせる。佐野さんは「民謡は生活に根ざしたもの。自然と体が反応する」と歌の力を実感。恩返しはもちろん、「地域住民の集いの場となり、世代間交流につながれば。師走のTETTOで笑って楽しんで、笑顔で新しい年を迎えてほしい」と願っている。

 

 問い合わせは佐野よりこ民謡チャリティーショー事務局(電話019・651・8886)へ。

 

(復興釜石新聞 2018年11月24日発行 第743号より)

復興釜石新聞

復興釜石新聞(合同会社 釜石新聞社)

復興釜石新聞と連携し、各号紙面より数日の期間を設け記者のピックアップ記事を2〜3点掲載しています。

問い合わせ:0193-55-4713 〒026-0044 岩手県釜石市住吉町3-3

入館者100万人目となった深谷さん夫妻(左)

鉄の歴史館100万人達成、東海市の深谷さん〜「鉄のまち」の発信拠点、開館から33年

入館者100万人目となった深谷さん夫妻(左)

入館者100万人目となった深谷さん夫妻(左)

 

 釜石市大平町の市立鉄の歴史館(佐々木育男館長)の入館者が16日、100万人を達成し、記念セレモニーが行われた。1985年7月に開館し、近代製鉄発祥の地・釜石の歴史と価値を発信する拠点として親しまれ、33年で大台に到達した。

 

 100万人目となったのは、釜石の姉妹都市・愛知県東海市の市民ツアーで訪れた深谷鈴子さん(72)。セレモニーでは、夫の守行さん(75)とくす玉を割って節目を祝った。

 

 野田武則市長がオリジナルピンバッジや地酒「浜千鳥」などを贈呈。ツアー参加者約20人にも記念のクリアファイルなどをプレゼントした。
 深谷さんは「突然でびっくり。大切な場に立ち会えて光栄」と感激。釜石を訪れるのは初めてで、「その土地の文化に触れられるのが旅の楽しみ。釜石は鉄つながりで身近に感じられる。いい思い出をもらった」と笑顔を広げた。

 

大台到達を東海市民も喜んだ

大台到達を東海市民も喜んだ

 

 鉄に関わる資料を数多く展示する同館は、1994年に大規模な改修工事を行って再オープンし、近代製鉄発祥150周年に合わせ2007年に1階の展示パネルをリニューアル。世界遺産登録を機に16年には建物自体の改修やシアター映像の内容を新調、17年に2階の展示パネルを新たにした。

 

 来館者は開館翌年の6万8800人余りをピークに、毎年2万人前後で推移。東日本大震災後は1万2千人前後となっていたが、「橋野鉄鉱山」が世界遺産に登録された2015年度は1万8千人余りと伸びた。

 

 今年度は、例年を若干上回るペース。佐々木館長は「鉄のまち釜石を発信する重要拠点。展示物の整理、見直しを図って新しいものを見せ続け、利用者の増加につなげたい」と気持ちを新たにした。

 

 同館では100万人達成を記念し、特製クリアファイルを5千枚作製、入館者に配布している。「鉄の記念日(12月1日)」特別企画として、23日から同館2階会議室で「高任再考」展を開催。未展示の収蔵資料などを紹介し、大島高任の偉業をひも解く。来年1月7日まで。

 

 開館時間は午前9時~午後5時(入館は同4時まで)。入館料は大人500円、高校生300円、小中学生150円。毎週火曜日と年末年始(12月29日―1月3日)は休館。問い合わせは同館(電話0193・24・2211)へ。

 

(復興釜石新聞 2018年11月21日発行 第742号より)

 

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先人の知恵を地域づくりに、釜石で嚶鳴フォーラム〜童門さんと高橋さん 近代製鉄の父・大島高任を語る

先人の知恵を地域づくりに、釜石で嚶鳴フォーラム〜童門冬二さんと高橋克彦さん、近代製鉄の父・大島高任を語る

公開フォーラムの会場で舞台に勢ぞろいした嚶鳴協議会加盟市町の代表ら

公開フォーラムの会場で舞台に勢ぞろいした嚶鳴協議会加盟市町の代表ら

 

 先人の知恵や経験から普遍的な人間の英知を再発見し、地域づくりに生かす「嚶鳴(おうめい)フォーラムin釜石」(釜石市、市教育委員会主催、嚶鳴協議会共催)が16、17の両日、釜石市を会場に開かれた。17日は作家の童門冬二さん(91)、高橋克彦さん(71)を講師に招き、市民ホールTETTOで公開フォーラムを実施。歴史小説で有名な2人が、近代製鉄の父・大島高任の生き方や地域の歴史を知る意義を語り、約250人が聞き入った。

 

 童門さんは、大島高任と明治の先人をテーマに講演。高任が釜石で日本初の洋式高炉連続出銑に成功した出発点として、17歳で上京、原書を読み込み蘭学の知識を習得していったことを挙げた。

 

 水戸藩で反射炉による大砲鋳造に成功後、南部藩に戻った高任は、砂鉄より強固な原料を求め、磁鉄鉱の鉱脈がある釜石で洋式高炉の建設に着手する。「地域資源を利用しながら自分の仕事を組み立てていく。これが高任の原点。従来の考え方や慣習を変えなければできなかったこと」と童門さん。高任の改革を「物・仕組み(制度)・心(意識)の3つの壁への挑戦」と表現し、「鉄生産の恩人だけでなく、むしろ日本近代化への新しい日本人を生むための教育者だった」と評価した。

 

 高任の人格にも言及。「徳あれば隣あり」という論語の言葉を引用し、「高任の生涯には隣人(理解、協力者)が多い。徳がオーラ(気)となって発せられると自然と人が集まり、手助けをしてくれる」とし、「私利私欲なく、自然科学で生活を豊かにしようとした。日本人、南部藩士の立場を捨てず、自分がやるべきことに一生懸命だった」と、高任の“徳”を示した。

 

 25年ぶりの釜石訪問という高橋さんは、母親の里帰り出産により釜石で生まれたことを明かし、東北を舞台にした小説を書くようになったきっかけなどを話した。「物書きになっていなければ、岩手や東北に全く興味を持たなかった」と高橋さん。上京した学生時代は方言がコンプレックスで、東北生まれに誇りを感じられなかったという。契機は作家になって約3年後。取材に訪れた京都の山中で高齢女性から土地の歴史を聞き、「一番大事なのは自分の住む土地に自信、愛着を持つこと」と気付かされた。

 

 後に、自分が生まれ育ったまちをテーマに書いた短編連作「緋い記憶」が直木賞を受賞。以来、長編にも幅を広げ、NHK大河ドラマ(炎立つ、時宗)の原作を執筆するまでになった。高橋さんは「東北の歴史資料はほとんど残されていないが、口伝という形で伝えられてきた隠された歴史がある。それを発掘するのも必要」と使命感をのぞかせた。

 

高橋さん(左)と童門さん

高橋さん(左)と童門さん

 

 この日は2人の対談も。著書は600冊以上、70歳を過ぎてからも120~30冊もの書籍を出している童門さんに、高橋さんが気力の源を尋ねると、「食事に気を使っているが、休肝日は無い。嫌なことは忘れる。人をとがめない。心穏やかに、前向きに」との答えが。童門さんは東京都庁に30年勤務後、作家活動に専念。1999年には「勲三等瑞宝章」を受章している。

 

(復興釜石新聞 2018年11月21日発行 第742号より)

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切り絵の「迦楼羅」中美展で初入賞、独学の創作 光放つ〜美術集団「サムディ45」黒須さん

切り絵の「迦楼羅」中美展で初入賞、独学の創作 光放つ〜美術集団「サムディ45」黒須さん

入賞作「迦楼羅」

入賞作「迦楼羅」

 

 中央美術協会が東京都美術館で開いた「第70回記念中美展」で、釜石市の美術集団サムディ45に所属する黒須由里江さん(40)の切り絵作品「迦楼羅(カルラ)」が小品部門賞に選ばれた。中美展には2015年から出品し毎回入選していたが、賞を受けるのは今回が初めて。黒須さんは「びっくりしたが、やっときたかという感じ。独学で頑張ってきたが、やってきたことは間違いでなかった。続けてきて本当に良かった」と喜びをかみしめた。

 

 中美展は協会員が作品を出展するほか、油彩画、日本画、水彩画、版画、工芸、水墨画など多様な美術ジャンルで作品を全国から公募。その中から審査を通過した入選・入賞作品も展示する美術展。今回の記念展は10日から16日まで開かれ、黒須さんの作品も会場に展示された。

 

 入賞作品は、インド神話に登場する鳥神「ガルーダ」がモチーフ。題名は、仏教に取り込まれ守護神となった「迦楼羅天」から付けた。サイズは縦約110センチ、横約80センチ。口から金の火を吹き、赤い翼を持つとされる「鳥頭人身有翼」の姿を繊細な技で作り込み、躍動感あふれる独創的な世界観を表現した。

 

 黒須さんは大槌町出身。美術学校を卒業するなど専門的に学んでいないものの、デッサンには自信があったという。「描くだけでは落書きと思われる。形に残したいが、色を塗るのは、学んだ人たちにはかなわない」と、描いた線を際立たせる手段として選んだのが、切り絵。7年ほど前に始め、同じ頃に同集団にも参加した。

 

黒須さん

作者の黒須由里江さん

 

 釜石市内の郵便局に勤める傍ら創作活動に励んでいて、「仕事だけでは得られない、さまざまな人との出会い、体験のできる環境が創造の力になっている。やりがいもある」と黒須さん。展示会で人に見てもらう機会ができたことも、「上達した」との実感につながっている。

 

 全国公募の美術展に応募したのは中美展が初めて。3回の入選で、昨年には会友に推挙された。今回は会友として出品し、念願の初入賞。「テンション、モチベーションが上がる」と満面の笑顔を見せた。

 

 黒須さんの作品づくりの原動力は「今に見てろー」という向上心。この気持ちは変わることはなく、「どこまで勝負できるか。もっと上位の賞を目指す。面白そうな刺激を受けられることにも積極的に挑戦したい」と意欲を高めている。

 

(復興釜石新聞 2018年11月17日発行 第741号より)

 

復興釜石新聞

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震災後の活動を来場者に伝える伊藤さんと会員ら

震災乗り越え 不屈の書作展〜津波で師を失うも奮起、沙舟書院釜石教室

震災後の活動を来場者に伝える伊藤さんと会員ら

震災後の活動を来場者に伝える伊藤さんと会員ら

 

 釜石市小川町の小川ふれあいセンターで活動する沙舟書院釜石教室(伊藤沙舟主宰)の書作展が11、12の両日、大町の市民ホールTETTOで開かれた。東日本大震災で師を失いながらも、新たな指導者のもとで書に打ち込んできた会員らが、7年の歩みの成果を披露。被災を乗り越え、全国展で評価を得るまでになった書人魂で、釜石人の“不撓(ふとう)不屈”の精神を体現した。

 

 同教室の会員は震災前、三陸書人社役員で、鵜住居、小川に2教室を開設していた故・木下溪泉(本名・長壽)さん(創玄書道会学生部審査会員、岩手日報書展理事)に師事。木下さんが津波の犠牲になり、鵜住居教室の会員もほとんどが自宅を失ったが、書へのゆるぎない情熱が被災から立ち上がる原動力となった。

 

 会員らは、木下さんと同門で、陸前高田市で教室を開く伊藤沙舟さん(沙舟書院理事長)に指導を懇願。月1回、釜石に来てもらえることになり、震災から半年後の2011年9月、2教室を集約し、同センターでの稽古を再開した。現在、会員は震災後に入会した2人を合わせ14人。50代から80代までが「近代詩文書」に親しむ。同書は現代詩などを漢字と仮名で表現するスタイルで、美しい日本語を書くことを目的に、昭和に入って生まれたものだという。

 

 展示会には、会員と伊藤さんが33点を出品。北原白秋、島崎藤村、宮澤賢治など著名詩人らの作品が味わいのある書体でよみがえり、来場者の目を楽しませた。

 

 書道歴約20年の前川美流(本名・美智子)さん(80)は津波で、鵜住居町新川原の自宅兼店舗を失った。被災後は夫婦で中妻町のアパートに暮らし、「(書道を)もうやめようかとも思った」が、仲間に誘われ奮起。その後、夫が病弱になり、3年ほど休んだ。苦楽を共にした夫は、地元に戻る願いかなわず一昨年逝去。鵜住居の復興住宅に入居した前川さんは今年4月、教室に復帰した。

 

 「夢中になって書いていると余計なことを考えなくて済む。生活の張り合い、気晴らしにも。できる限り長く続け、元気でいたい」と前川さん。小川での月2回の教室に加え、鵜住居の会員らと地元集会所で週2回の自主活動にも励む。

 

 故・木下さんの下で腕を磨いた会員らは、伊藤さんの指導で、さらに実力を開花。岩手日報展のほか、毎日書道展、国内最大組織「創玄書道会」の書展で入選、入賞するまでに成長した。

 

 自身も震災で夫を亡くした伊藤さんは「被災直後は、私も続けられるかどうか悩んだ。みんな同じような気持ちで前に進んできたのでは。よくここまでやってきた」と万感の7年を代弁。各種書展での会員の躍進に「個々の中で、自分に対する可能性が芽生えてきた。若い会員も先輩たちの背中を見て育っている。これからも地道に精進を重ねていければ」と願った。

 

 会場には2日間で、約300人が訪れ、会員らに称賛の声を寄せた。

 

(復興釜石新聞 2018年11月17日発行 第741号より)

 

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海の恵みを喜び、人と人との絆を深めて大漁御祝いに興ずる大団演

海に生きる人々 親子の情愛描く、第32回釜石市民劇場「両石村庄助」〜少年漁師の物語、新ホールで初公演

海の恵みを喜び、人と人との絆を深めて大漁御祝いに興ずる大団演

 

 釜石の人々が海を愛しながら生きてきた歴史や絆、親子が思いやる姿を舞台で表現する第32回釜石市民劇場「伝説浜の孝子(こうし)両石村庄助と鐘」(実行委員会主催)は10、11の両日、釜石市民ホールTETTOで上演された。東日本大震災で2年間中断したあと、2013年から鈴子町のシープラザ遊を会場に“テント劇”で活動を継続。新市民ホールの完成を受け、念願の「劇場公演」が復活した。2回公演合わせて約600人が、万感の思いを込めた熱演に大きな拍手を送った。

 

 物語は、江戸中期の両石村(現・釜石市両石町)に生きる人々の姿を描いた。主人公の少年庄助は両親と暮らし、釜石村に奉公する姉がいる。病弱の父親に代わり漁師として一家を支え、優しい庄助は誰からも好かれる。

 

 父親が病没し、消沈する庄助はある日、浜から見事な鐘を持ち帰る。その話は遠方にも伝わり、庄助の孝行ぶりとともに南部侯の耳に入る。藩がその鐘を預かり、庄助には褒美に扶持米が与えられた。

 

父(武田仁一さん)は庄助に感謝しながら…

父(武田仁一さん)は庄助に感謝しながら…

 

 キャストは18人。ありがたい鐘の出現に村人が「大漁御祝い」を歌い踊る場面では、釜石民謡保存会(山崎隆男会長、5人)と柳家細川流舞踊(家元・細川艶柳華さん、10人)が特別出演し、舞台を盛り上げた。

 

 踊りの輪には、舞台装置の製作を手伝ったベトナムの水産加工技能実習生チン・ティ・タイン・タインさん(21)、レ・ティ・フェさん(21)も着物姿で加わった。

 

 舞台装置を製作するスタッフは時間的な制約、テント劇との違いを懸命にカバー。キャストも数人がダブルキャストで出演するなど工夫して乗り切った。

 

荒海の波は子役が青のコスチュームで表現

荒海の波は子役が青のコスチュームで表現

 

 1997年の第12回公演「漁(すなどり)の孝子」の脚本を実行委の久保秀俊会長がリメークした作品。演出も担当する久保会長は「家族や周囲の人を思う優しさにあふれる舞台で、震災の恐怖や悲しみが少しでもやわらげることができれば」と再上演に願いを込めた。公演2日目は、震災から7年8カ月の月命日でもあった。

 

 2日目の公演では、野田武則市長が「両石も数多い困難から立ち上がった。劇が伝える村人の思いと、それをすくい上げる行政には、今につながる意義と教訓がある」とあいさつした。

 

 みなし仮設を経て、自宅を自力再建して家族と戻った山本洋子さん(81)は「初めて(市民劇場を)見た。いがった。演技も、子どもの言葉も、うまかった」と喜んだ。両石町出身で野田町に住む作山松子さん(81)も山本さんら旧知の人たちと語らい、交流を楽しんだ。

 

新ホールの上演を終え、観客に感謝

新ホールの上演を終え、観客に感謝

 

 久保会長は「多くの市民、演劇仲間が来場し、成功だった。大型テントで再開し続けたのは、本格的な劇場公演のノウハウを絶やさず、継承する願いがあった。みんなの努力で、それが生かされたことがうれしい」と総括した。

 

(復興釜石新聞 2018年11月14日発行 第740号より)

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開会式の全体合唱で声出しする釜石・大槌地区の児童ら

リズムに乗り 明るく元気に、新ホールに歌声あふれる〜釜石・大槌小中学校連合音楽会

開会式の全体合唱で声出しする釜石・大槌地区の児童ら

開会式の全体合唱で声出しする釜石・大槌地区の児童ら

 

 釜石市、大槌町の小学校、中学校による連合音楽会は6日、釜石市民ホールTETTOで開かれた。東日本大震災で会場となっていた市民文化会館が被災したため、震災後は市内の学校体育館で開催。本年度は新しいホールでの初めての音楽会となり、18校の児童・生徒が合唱や合奏などで元気な歌声、音色を響かせた。

 

 小学校の部は両市町の教育委員会が主催し、11校が参加。開会式で、大槌町の伊藤正治教育長は「初めての場所で緊張しているかもしれないが、みんなは歌の持つ不思議な魔法の力や心を学んできた。思いっきり心を響かせよう」と激励した。

 

白と黒のそろいの衣装で、息の合った合唱を披露した釜石小児童

白と黒のそろいの衣装で、息の合った合唱を披露した釜石小児童

 

 唐丹小3~6年生約30人の合唱でスタート。「いつも何度でも」ではトーンチャイムで息の合った演奏も披露した。釜石小4年生約20人は「帰りの会のサンバ」などを軽快に歌い上げ、栗林小の全校児童約40人は「もしも宝物をひとつ」などで息の合った歌声を聞かせた。

 

 平田小4年生27人は、明るく元気に「たいようのサンバ」を合唱。佐々木悠真君は「緊張したけど、リズムに乗ってうまく歌えた。(市民ホールは)音が響いて、歌っていて気持ち良かった」と満足げだった。

 

 中学校の部(釜石学校教育文化活動連絡協議会、釜石地区中学校文化連盟主催)には7校が出演し、ポップスやクラシックの名曲など多彩な曲目で練習の成果を披露。会場には家族らも駆け付け、子どもたちの音楽に大きな拍手を送った。

 

(復興釜石新聞 2018年11月10日発行 第739号より)

 

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【インタビュー】佐野よりこ民謡プロジェクト 笑福!民謡(うた)と踊りの祭典 東日本大震災復興支援チャリティーショー

【インタビュー】佐野よりこ民謡プロジェクト 笑福!民謡(うた)と踊りの祭典 東日本大震災復興支援チャリティーショー

【インタビュー】佐野よりこ民謡プロジェクト 笑福!民謡(うた)と踊りの祭典 東日本大震災復興支援チャリティーショー

 

東日本大震災後、この方の唄声とおしゃべりに「元気をもらった!」という方は多いのではないでしょうか。釜石市鵜住居町出身の民謡歌手、佐野よりこさんが、釜石市民ホールTETTOで民謡ショーを開催します。

 

よりこさんにとっても、念願が叶ってようやく釜石の皆さんへ“ご恩返し”が出来るという想いが込められた“東日本大震災復興支援チャリティーショー”「笑福!民謡(うた)と踊りの祭典」。“ふるさと”と“唄”に寄せる想いをお聞きして来ました。

 

ーー『佐野よりこ民謡プロジェクト』とありますが、このようなイベント開催は初めてになりますか?

 

実は昨年、復興庁から沿岸被災地での住民交流を目的とした予算を頂いて、活動を行っていました。その時に立ち上げたプロジェクトなんです。お隣の大槌町で、民謡ショーを3回開催しました。

 

そもそも、こうした活動をしようと思った経緯は、今回のイベントにも特別出演して頂く漆原栄美子先生が、震災後すぐに、地域活性のお話をされる先生と一緒に被災地に民謡を届ける活動をされていたんです。仮設住宅の談話室や集会室に集まってもらって、歌や踊りを観て頂くという。

 

ただ、集まって下さる方の表情を見ているとやっぱり暗い表情をされているんですよね。お互いに知らない人同士も多く、会話も全然弾まなくて・・・。
それでも民謡が始まると、それまで暗い表情で下を向いていた方が、顔を上げて表情が緩んできたり、一緒に歌を歌ったり、中には踊り始めるおばぁちゃんもいて。
その時に、やっぱり民謡の持つ力ってすごいなぁ・・・って。

 

民謡歌手 佐野よりこさん

 

もちろん他のジャンルも素晴らしいですし、感動するんですけど、民謡のメロディーって日本人の心、DNAに響くような哀愁がありますよね。
元々、私たちの生活に根差した“作業曲”だったり、めでたい席で唄われる曲だったりするわけで、本当に生活に密着した唄が多いので、「懐かしいな」って思って下さる方が多いのかなぁと感じました。

 

そうした経験をさせて頂いた事で、「唄をきっかけに、地域や人のつながりが生まれたらいいなぁ・・・」という想いが、このプロジェクトを立ち上げた理由なんです。

 

ーー出演者の皆さんの顔触れが多彩ですね!

 

まず、昨年からこのプロジェクトで一緒に活動してきた若手メンバーですね。
岩手県沿岸地域の出身で、自身やご家族が被災した人も中にはいます。その他のメンバーも岩手県の出身です。

 

ゲストには、唐丹町の「桜舞太鼓」。そして「おおつち一心会」。
おおつち一心会の皆さんは、昨年の大槌町での活動の際に運営の裏方などを引き受けて下さり、とても助けられました。

 

特別出演には、私が最初に民謡を教わった、鵜住居の民謡教室の山崎隆男先生。
現在お世話になっている菊池信夫先生、漆原栄美子先生。
細川艶柳華先生は踊りの先生で、私も小さい頃からたくさんお世話になっていて、色々な舞台をご一緒させて頂いています。

 

ナナオさんは“笑顔と夢を絆でプロジェクト”という活動をされていて、私のお声がけをすぐに快諾して下さいました。想いは同じという感じですね。
そして、お笑いパフォーマーの石黒サンペイさんは、ナナオさんの後輩で浅草芸人の方です。

 

ーーよりこさんにとって、唄う事、民謡(うた)をみなさんに届ける事とは?

 

震災の直後はなかなか唄えなかった、唄う事が出来なかったんです。
先輩方が被災地への慰問活動をされていたんですけど、私はその中に入る事が出来なくて・・・そうですね、しばらくの間、1年くらいは唄えなかったです。

 

でも、周りの人から、これまで私を一番応援してくれた両親に為にも、「唄を辞めるのは良くないよ」という話をされて・・・。
親からもらったこの声と身体が財産ですし、「唄って行く事でご両親も一緒に生きて行くんだよ」ってお話をして下さる方もいて、確かにその通りだなぁって・・・だんだんそう思えるようになっていきましたね。

 

そして先ほどお話したように、漆原先生の被災地へ唄を届ける活動を、数年前からお手伝いさせて頂いているのですが、ある時「ほんとは今でも辛くて、こういう場に出てくるのも嫌だったんだけど、今日は来て良かった」と、帰り際にぽそっと声を掛けて下さった方がいました。
大槌町では、杖をついたおばあちゃんが、「今までずっと喪中だったけど、今日で喪はあけた!」と言って下さった事がありました。すごく重い言葉だなぁと思いながら受け止めました。

 

民謡歌手 佐野よりこさん

 

仮設住宅の集会室だと、膝と膝がつきそうな距離に住民の方々がいて聴いて下さる。
“ただ上手に唄えばいい”ではなくて、本気で心を込めて唄うことの大切さをあらためて学び、民謡(うた)を唄う事、それ自体の意識がとても自分の中で変わりました。

 

こうした経験ができたことで、より私の中でも想いが強くなりましたし、私もそこで一つ乗り越える事が出来たと思います。

 

ーーそして、今回は地元での開催。どんな想いが・・・。

 

私は“釜石の皆さんにここまで育てて頂いた”という想いがあって、「何かお返しをしたい」「出来る事って何だろう?自分が出来る事は唄やおしゃべりしかないから・・・」と、ずっと考えていました。
そして釜石に新しい市民ホールが完成し、「今だ!今、お返ししよう!」と。

 

民謡歌手 佐野よりこさん

 

“ようやく恩返しする事が出来る”という気持ちが大きいので、このようなタイトルを付け、少しかもしれないですけど収益を釜石市に寄付したいと考えています。

 

出演者の皆さんと、盛りだくさんで魅力的なステージをご用意してお待ちしています!釜石の皆さん、ぜひ一緒に唄って笑って楽しみましょう!

 

佐野よりこ民謡プロジェクト 笑福!民謡(うた)と踊りの祭典 東日本大震災復興支援チャリティーショー」

 

佐野よりこ民謡プロジェクト 笑福!民謡(うた)と踊りの祭典 東日本大震災復興支援チャリティーショー

 

開催日時:2018年12月2日(日) 開場 11:30/開演 12:30
会場:釜石市民ホールTETTO
入場料〔全席自由席〕:
大人 前売り 1,500円(当日 2,000円)
高校生以下 前売り 800円(当日 1,000円)

 

前売り券プレイガイド

〔釜石市〕釜石市民ホールTETTO 〔宮古市〕宮古市民文化会館 〔大槌町〕シーサイドタウンマスト 〔大船渡市〕サン・リア、リアスホール 〔遠野市〕とぴあ 〔盛岡市〕カワトク

 

お問い合わせ

一般社団法人 清流会(佐野よりこ民謡チャリティーショー事務局)
TEL 019-651-8886 / FAX 019-601-7795
URL http://www.s-seiryukai.com/
E-mail info@s-seiryukai.com

 

縁とらんす

かまいし情報ポータルサイト〜縁とらんす

縁とらんす編集部による記事です。

問い合わせ:0193-22-3607 〒026-0024 岩手県釜石市大町1-1-10 釜石情報交流センター内

『第11回鉄の検定』の開催について

『第11回鉄の検定』の開催について

第11回鉄の検定

 

鉄と釜石の関わりを学ぶ『第11回 鉄の検定』の参加者を大募集しています。誰でも気軽に参加OK。参加料は必要ありません。釜石の魅力を知りたい方、鉄の知識を学びたい方、記念に受けてみたい方、一度参加してみませんか?

 

日時

平成30年12月1日(土) 13時30分~

場所

釜石市教育センター5階 岩手大学釜石教室

内容

釜石の鉄の歴史に関する問題80問100点満点

試験時間

60分

申込

11月29日(木)17時まで
釜石市教育委員会総務課 文化財保護係(0193-22-8832)
宛てにお電話でお申し込みください。

表彰

平成31年1月中旬(予定)
賞状1~3位(副賞あり)
100点満点:アイアンマスター認定
90点以上:1級認定、80点以上:2級認定

 

※過去の問題を釜石市郷土資料館で販売しております。(1部100円)
郷土資料館事務室(22-2046)にお問い合わせください。

この記事に関するお問い合わせ
釜石市 教育委員会 総務課 文化財保護係
〒026-0031 岩手県釜石市鈴子町15番2号
電話:0193-22-8832 / Fax 0193-22-3633 / メール
元記事:http://www.city.kamaishi.iwate.jp/tanoshimu/kanko/matsuri_event/detail/1223744_2438.html
釜石市

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ホールAはステージ発表と作品展示の会場に。各団体が活動成果を公開した市民芸術文化祭

「文化熱」新ホールで花開く、待望のTETTOで市民芸文祭〜展示部門20団体 発表部門に14団体、活動成果を一堂に

ホールAはステージ発表と作品展示の会場に。各団体が活動成果を公開した市民芸術文化祭

ホールAはステージ発表と作品展示の会場に。各団体が活動成果を公開した市民芸術文化祭

 

 震災を乗り越えた釜石市民の文化への情熱が、待望の拠点施設で花開いた――。第48回釜石市民芸術文化祭(市、市教育委員会、市芸術文化協会主催)が2日から4日まで大町の市民ホールTETTOで開かれ、市内の活動団体が作品展示やステージ発表で躍動した。同祭の会場としてきた市民文化会館を津波で失って7年。新施設完成を待ちわびてきた市民らは、充実した環境で各種文化活動の成果を鑑賞し、「文化のまち釜石」の誇りを再認識した。

 

 3日午後に行われた記念セレモニーで野田武則市長は「新しいホールで、今まで積み重ねてきた取り組みを多くの市民に伝え、芸術文化の輪を大きく広げてほしい」とあいさつした。

 

優れた作品が並んだホールBの特別企画展示。テーマは「光の美術館」

優れた作品が並んだホールBの特別企画展示。テーマは「光の美術館」

 

 新ホールで初めての芸文祭を華やかに彩ったのは、ホールBを美術館風に仕立てた特別展示コーナー。釜石小が所蔵する放浪の天才画家・山下清(1922―71)の昆虫画、陸前高田市在住で仏パリの美術展で数々の受賞歴を持つ熊谷睦男氏の延年の舞・老女〈鎮魂〉シリーズ、芸文協加盟団体の代表作品をスポットライトで浮かび上がらせ、これまでにない空間を演出した。

 

 展示部門には芸文協加盟の20団体が参加。生け花、絵画、写真、書道など各分野の力作が並んだほか、茶道協会の呈茶があり、来場者の心を潤した。

 

芸術の秋を楽しむ来場者は茶道協会の呈茶でほっと一息

芸術の秋を楽しむ来場者は茶道協会の呈茶でほっと一息

 

 同祭参加16年目となるステンドグラス「BEHOLD(ビフォルド)」の会員、野中登世子さん(72)=大平町=は新ホールでの作品披露に「感激です」と喜びの表情。制作を始めて13年。「コツコツと集中していると、時間がたつのが早くて。毎日が充実している。少しでも長く続けられたら」と創作意欲をにじませた。

 

デザインや色づかいが目を引いたステンドグラスの展示

デザインや色づかいが目を引いたステンドグラスの展示

 

 発表部門には3日間で14団体・個人が出演した。今年は協会外からも出演者を募り、子どもの空手やエアロビックの参加も。和洋の演奏、歌、踊りと多彩なステージに観客から盛んな拍手が送られた。

 

かわいらしい衣装で華麗な舞を披露した「小柳玲子バレエ教室」の子どもたち

かわいらしい衣装で華麗な舞を披露した「小柳玲子バレエ教室」の子どもたち

 

 同祭を鑑賞するのは震災前以来という平田の佐々木和子さんは「皆さん一生懸命やられているんだなと驚いた。特別展示も素晴らしい」と称賛。自身も生け花に親しみ、震災前は作品を出品していた。講師を亡くし長らく休んできたが、会場で同じ流派の仲間と再会。「自主活動を始めたことを聞き、復帰を勧められた」と思わぬ出会いに顔をほころばせた。

 

 2011年の震災以降、同祭は中妻体育館やシープラザ遊・釜石を会場に開催。先人が培ってきた文化活動の魂を絶やさず、復興に向かう市民の癒やし、活力を生む場として大役を果たしてきた。運営の中心を担う市芸文協は、再出発となる今祭典に総力を傾注。次世代につなぐための試みにも挑戦した。

 

 同協会の河東眞澄会長は「各団体の苦労のかいあって形になった。今年が一つのベースになる。寄せられた意見を生かし、次につなげたい。協会員は高齢化が進む。小中高生を軸にした若い世代、協会の枠に捉われない参画を促し、釜石の芸術文化活動の継承、発展に努めたい」と今後を見据えた。

 

(復興釜石新聞 2018年11月7日発行 第738号より)

 

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釜石初のファッションショー、市民モデル 美を競演〜「コバリオン」指輪で発信、コステロさんW杯での再訪に意欲

釜石初のファッションショー、市民モデル 美を競演〜「コバリオン」指輪で発信、コステロさんW杯での再訪に意欲

コステロさんの華やかな新作衣装を着て舞台に立った高校生ら市民モデル

コステロさんの華やかな新作衣装を着て舞台に立った高校生ら市民モデル

 

 釜石市と県が共同開発し実用化された高付加価値コバルト合金「コバリオン」を用いて指輪を製作したアイルランドの世界的デザイナー、ポール・コステロさん(72)のファッションショーが26日、釜石市民ホールTETTOで開かれた。高校生ら市民7人を含む11人のモデルが華やかな衣装に身を包み、ランウエーを歩いた。市民ら約420人が客席を埋め、釜石ではこれまで味わうことができなかった「異次元の美しさ」に酔った。

 

 市内の企業や団体で組織する釜石プライド実行委員会(佐々木雄大委員長)が、コバリオンを広く発信しようと釜石初のファッションショーを企画。故ダイアナ元英国皇太子妃のデザイナーを務めたコステロさんの2019春夏新作など約30着が披露された。

 

 タレントのハリー杉山さんが司会を担当。ステージから客席に突き出た形のランウエーをモデルたちが進み、客席まで降りて新作コレクションを間近で見せた。

 

 市民モデルとして169㌢の長身に華やかな衣装をまとって歩を進めた遠藤櫻さん(釜石高1年)は「緊張しましたが、本番は自信を持ってできました。客席のみなさんの顔もしっかりと見え、気持ちよかった」と、さわやかな笑顔で話した。

 

 市民ホールの近くで美容院を営む片桐浩一さん(48)は、この日は早く店を閉め、2人の従業員と共にショーに足を運んだ。「女性のシルエットをきれいに見せるデザイナーさんだと感じた。いい刺激になった」と収穫を喜んだ。

 

 市内で指輪の製作を手掛ける山﨑弾さん(39)は「コバリオンは釜石の新しい宝物になる。銀の3分の1ぐらいの値段で、加工もしやすい。ぜひ使ってみたい」と興味を示した。

 

 客席の好反応にコステロさんも上機嫌。「とても温かな空気で迎えてもらった。秋冬のコレクションもやりたい。来年のラグビーワールドカップ(W杯)にも訪れたい」と釜石に寄せる思いを語った。

 

「来年のW杯でまた釜石に来たい」とコステロさん

「来年のW杯でまた釜石に来たい」とコステロさん

 

 コバリオン製の指輪は金属アレルギーを起こしにくく、さびないなどの利点がある。今回発表された新作は女性用指輪2万2千円、ペンダント2万4200円、ピアス1万3200円(いずれも税込み)の3点。来年1月から京セラジュエリー通販ショップで販売する。

 

(復興釜石新聞 2018年10月31日発行 第736号より)

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好きな本を紹介する発表参加者

本好き5人 おすすめの一冊紹介、楽しく書評合戦〜桑畑書店、初のビブリオバトル

好きな本を紹介する発表参加者

好きな本を紹介する発表参加者

 

 東日本大震災の津波で被災し、昨夏、本設店舗での営業を始めた釜石市の桑畑書店(桑畑眞一社長)は13日、店内イベントとしては初となる「ビブリオバトル(知的書評合戦)」を大町復興住宅4号棟1階の同店で開いた。市内外の本好き5人が、おすすめの一冊を紹介。プレゼンテーションの後、参加者全員が読みたくなった本に一票を投じた。本を知り、人を知る読書の新たな楽しみに参加者は心躍らせ、継続開催を望んだ。

 

 ビブリオバトルは2007年、京都大の大学院生が考案。ゲーム感覚で誰でも楽しめる書評スタイルが受け全国に広まり、大学や書店、サークルなどさまざまな場でコミュニケーションツールとして活用されている。“ビブリオ”はラテン語で書物(本)を指す言葉。

 

 同店にはこの日、20人余りが集まり、桑畑社長が声掛けした発表者が、お気に入りの本を紹介。岩手大経済学部の杭田俊之准教授は「魚と日本人」(濱田武士)、釜石市郷土資料館の村上修館長は「点と線」(松本清張)、釜石地方森林組合で活動する釜援隊の手塚さや香さんは「ワーカーズ・ダイジェスト」(津村記久子)、市内で読み聞かせボランティアをする佐藤裕子さんは「最初の質問」(詩・長田弘、絵・いせひでこ)、釜石支援センター「望」の海老原祐治代表は「天下分け目の関ヶ原の合戦はなかった」(乃至政彦、高橋陽介)を持ち寄った。

 

 5人は1人5分の持ち時間で、その本に出会ったきっかけ、引かれるポイント、好きな描写、紹介理由などを熱く語り、興味をそそられた観客が盛んに質問を投げかけた。

 

 佐藤さん(65)は卒業間近の小学6年生に読んであげたという、29の問い掛けだけで構成された絵本を紹介した。日常生活や人生、世界について考えさせられる問いに「大人向けに発信してもいい本。自分自身に問い掛けながら読んでほしい。すぐに答えられなくても、これから答えが見つかるものもきっとあるはず」と勧めた。

 

 最後は、プレゼンを聞いて読みたくなった本に全参加者が投票。最も多くの票を集めた「天下分け目の―」には、“チャンプ本”の称号が与えられた。紹介した海老原さん(38)は「歴史小説の有名シーンには後に創作されたものも。われわれが信じている歴史は意外に怪しいということを見事に証明している本」とインパクトを示した。今イベントについては「共通の趣味で人が集まるのはコミュニティーの一つの策になる。本屋は知の発信地。活字離れが続く中、紙媒体の良さも含め共有する場になっていけば」と話した。

 

 観客として参加した女性(31)は「普段、自分が読まないジャンルの本に興味が湧いた。面白そうな本がいっぱい。こういうイベントをどんどんやってほしい」と期待を込めた。

 

 企画を温め、4年越しの夢をかなえた桑畑社長は「発表者には、いい本を紹介してもらい、観客も熱心に聞いてくれた。感謝、感謝です。いろいろなジャンルの人を集め、お客さんをつなぐ機会にもしていければ」と今後に意欲を示した。チャンプ本は、店内でも紹介する予定。

 

(復興釜石新聞 2018年10月20日発行 第733号より)

 

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