佐々涼子さん(ノンフィクション作家)トークイベント〜「エンド・オブ・ライフ」出版記念


2020/03/06
復興釜石新聞アーカイブ #文化・教育

取材時のさまざまなエピソードを交え、三作について語る佐々涼子さん(左)

取材時のさまざまなエピソードを交え、三作について語る佐々涼子さん(左)

 

 ベストセラーとなった「エンジェルフライト国際霊柩送還士」(集英社)、「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場」(早川書房)で注目のノンフィクション作家佐々涼子さん(52)=神奈川県出身=が、新刊「エンド・オブ・ライフ」の発売を記念して24日、釜石市でトークイベントを開いた。親交のある大町の桑畑書店(桑畑眞一社長)が主催。人の生死を見つめ続けてきた佐々さんの取材姿勢や“伝えたい思い”が観客の心を捉えた。

 

 同店隣のSOMPOケア釜石事務所が会場。来訪を心待ちにしていた市民ら約20人が客席を埋めた。佐々さんの著書が人生の転機になったという釜援隊隊長の二宮雄岳さん(53)=神奈川県出身=が聞き手となり、対談形式でトークを展開した。

 

 「エンジェルフライト」は、異国で亡くなった人の遺体を家族の元に届ける日本の専門業者が舞台。「紙つなげ!」は、東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた製紙工場の再興を描く。「登場するのはプロフェッショナルだが名前のない人たち。自分自身を無にし、他の人たちを支えていこうとする姿が、読者はぐっとくるのかな」と佐々さん。

 

 二宮さんは、前職の金融機関勤務時代に両著と出会った。30年来の友人の急死、震災発生も重なり、「生きていく意味を真剣に考えるようになった」。20年続けた仕事を辞め、2014年10月、釜石に来た。

 

 観客が驚いたのは、佐々さんが明かした身を削るような執筆時の様子。「自分に話をしてくれた人たちの気持ちを何とかして届けなきゃと毎回必死。書いて伝えないと、そこで止まってしまうから…」。自らに課す重圧は体が悲鳴を上げるほど。頭髪の脱毛や手術にまで至ったこともあったという。

 

 今月5日に発売された「エンド・オブ・ライフ」(集英社)は、在宅での終末医療の現場を7年にわたり追った作品。「エンジェル―」「紙つなげ!」に続く命と向き合う三部作の最終章で、早くも話題となっている。

 

 本を執筆するきっかけとなったのは、すい臓がんを患った看護師の友人の存在。訪問診療に従事し、200人の患者をみとってきた友人は、自身の病とどう向き合い、最期を迎えたのか。患者宅の訪問にも度々同行した佐々さんは、末期がん患者らそれぞれの生きざまをつぶさに見つめてきた。

 

 「理想の死の迎え方に正解はない。この本を機に(誰にも訪れる)死に向かって、どう生きていくのか考えることができれば。“生きるためのレッスン”を彼らは教えてくれた」と佐々さん。二宮さんは「人は生きてきたように死んでいく」という心に響いた一節を示し、「死ぬことと生きることは表裏一体。今、何をすべきなのか深く考えさせられた」と話した。

 

 日本語教師を経て、39歳ごろから本格的に執筆を始めた佐々さんは、これまで5作品を出版。数々の賞も受賞している。新刊について「重い話かもしれないが、読んだ後は明るい気持ちになれる部分も。自分の生き方や幸せを点検、確認してもらえたらいいのかな」。

 

 この日は観客の質問にも答え、サイン会で交流。釜石市民との新たな絆を結んだ。

 

(復興釜石新聞 2020年2月29日発行 第871号より)

 

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