タグ別アーカイブ: 文化・教育

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紡ごう「鋼鐵の路」 釜石高校創立110周年記念式典 続く学び…OBの大学教授が講演

歴史と伝統をかみしめながら校歌を歌う釜石高の生徒ら

歴史と伝統をかみしめながら校歌を歌う釜石高の生徒ら

 
 釜石市甲子町の岩手県立釜石高校(青木裕信校長、生徒・全日制387人、定時制16人)の創立110周年記念式典は5日、同市大町の市民ホールTETTOで開かれた。在校生、教職員、同窓生ら約550人が出席。歴史の重みを感じながら「鋼鐵(はがね)の路(みち)」を紡ぐ思いを一つにした。
 
 同校の始まりは、1914(大正3)年に設置された釜石女子職業補習学校。学制改革を経て49(昭和24)年、3校の統合により釜石高校が誕生した。高校進学率の向上などで釜石南、釜石北の2高校に分離独立。2008(平成20)年、高校再編で2校が統合し新生「釜石高校」となった。これまでに4万人近くの卒業生を輩出している。
 
 教育理念「文礼一如(ぶんれいいちにょ)」を礎に、広い視野を持った人材の育成に力を入れる。ここ10年間は、変化する生活様式や社会との関係性に対応すべく変革を推進。ICT(情報通信技術)を教育活動に取り入れた生徒主体の探究的な学びや体験学習を重視する。東日本大震災後の復興の道のり、防災の学びを伝える活動も活発。新型コロナウイルス感染症の流行で生活の一変という逆境に直面したが、学び続ける姿勢は変わらない。
 
釜石高校の創立110周年を記念して開かれた式典

釜石高校の創立110周年を記念して開かれた式典

 
 式典で、青木校長が「先輩たちが築き上げた歴史と伝統の重さを受け止め、釜高生としての誇りを持ちながら新しい時代の創造者に。創立110周年を一つの出発点として、鋼鐵の路を紡いでいこう」と式辞。創立110周年記念事業実行委員会の澤田龍明委員長は「今、この時が人生においての経験であり、将来の大きな糧になる。高校時代の一瞬一瞬を大切に過ごしてほしい」とあいさつした。
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式典であいさつした青木裕信校長(左の写真)、澤田龍明委員長

式典であいさつした青木裕信校長(左の写真)、澤田龍明委員長

 
 生徒を代表し、前生徒会長の一関航帆(かずほ)さん(3年)は「110年の歴史を持つことは数多くの先輩方が挑戦し、地域に貢献してきた証し。その重みを受け止め、後世に伝えていく決意を新たに、それぞれが高みを目指して挑戦し続ける」と誓った。
 
釜高生としての誇りを胸に飛躍を誓う一関航帆さん

釜高生としての誇りを胸に飛躍を誓う一関航帆さん

 
 「岩手の山川 太平洋の……百錬鍛へし 鋼鐵の意志(こころ)……文あり 我等の釜石高校」。校歌斉唱、心一つに声を合わせた。歴代の校長(3人)やPTA会長(4人)、定時制教育振興会長(2人)、同窓会長(2人)、記念事業実行委員長(1人)への感謝状贈呈もあった。
 
教育理念「文礼一如」が詰まった釜石高の校歌

教育理念「文礼一如」が詰まった釜石高の校歌

 
校歌斉唱。「鋼鐵の意志」をかみしめながら歌う在校生ら

校歌斉唱。「鋼鐵の意志」をかみしめながら歌う在校生ら

 
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吹奏楽部の生徒らは音に思いをのせて演奏した

 
 式典後は、同校OBで広島大宇宙科学センター長の川端弘治教授(観測天文学)=1989年度卒=による記念講演があった。タイトルは「五葉下ろしと鉄の街に導かれた我が天文学の旅」。高校時代は山岳部に所属し、幾度も登った三陸沿岸最高峰・五葉山(標高1351メートル)などで見た絶景や星空に感動して天文学に興味を持ったこと、部活での経験が現在の研究者人生にも役立っていることを紹介し、「釜石高を選んで良かった」と大きくうなずいた。
 
高校時代や研究人生を振り返る川端弘治教授

高校時代や研究人生を振り返る川端弘治教授

 
 宇宙の成り立ちに大きく寄与する超新星に関する研究に取り組み続ける川端教授。謎に迫る研究の成果を示しながら、「『鉄』は超新星爆発を引き起こし、中性子やブラックホールをつくる特別な重元素。釜石とのつながりを感じ続けていた」と、これまでの道のりを振り返った。
 
 宇宙に関心があるという阿部愛奈(えな)さん(3年)は「ゴールがない研究をすることは大変なこともあったと思う。釜高での経験が今につながっている―という言葉が印象に残った。私も日々の生活、青春を大切にしていきたい」とお礼の言葉。木村妃菜さん(同)が花束を手渡した。
 
式典会場には生徒らの探究活動を紹介する展示もあった

式典会場には生徒らの探究活動を紹介する展示もあった

 
 記念事業は、記念誌「10年小史」の刊行、記念品(トートバッグ)やメッセージパネルの製作など。文部科学省の「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」指定校(第3期)として課題研究に取り組む生徒らを支援する取り組みも行っており、会場となった同ホール内には、研究成果をまとめたポスターが展示された。

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書で応援!ふるさと大使・支部蘭蹊さん(書家) 釜石で個展「言葉との出合いを」

釜石で2回目の個展を開いた書家の支部蘭蹊さん

釜石で2回目の個展を開いた書家の支部蘭蹊さん

 
 「釜石応援ふるさと大使」で宮城県仙台市在住の書家、支部蘭蹊(はせべらんけい=本名・一郎)さん(73)の個展「見る・観る・魅る-書・響きあい展」は9月27日~29日、釜石市大町の市民ホールTETTOで開かれた。昨年に続く2回目の開催で、ずらりと並んだ約100点はほぼ新作。つづった言葉に込めた思いや表現世界を、独創性という“味”を加えた文字で伝えた。
 
 支部さんは中学、高校時代を釜石で過ごした。東日本大震災後、釜石市内の仮設住宅を回って書を届けたり、高校の同期生でつくった復興支援グループ「釜南44」の活動(作品展示や音楽イベントなど)を通じて古里応援を続けている。2022年に同大使に就任。今年から、「脳活書道」という手法で文字を書くことや創ることを楽しんでもらう講座を月に1回開いている。
 
 会場に多く並んだのは額入りや掛け軸、帯地を利用したタペストリーなど日常生活で目にできる形に仕上げられた作品。はがきや置物もあり、心に寄り添う言葉のほか、宮沢賢治や石川啄木、金子みすゞらの詩、井上ひさしの言葉、種田山頭火の句などを書で表現した。
 
大小さまざまな作品が並んだ「書・響きあい展」

大小さまざまな作品が並んだ「書・響きあい展」

 
紙、布、硯石、壁紙などさまざまなものに表現した書作品

紙、布、硯石、壁紙などさまざまなものに表現した書作品

 
 ひと味違う―のが、支部さんの作風。書道は「筆と紙があれば」と思うが、半紙のような白っぽい紙を使っているものは少ない。紙ではないものも多く、着物など布、壁紙を使い、表面の凸凹を生かした立体表現を見せる。硯石に刻字(すかし彫り)した作品は震災被災地で石の産地・石巻市(宮城)を応援、「一緒に頑張ろう」と気持ちを込めて使い続ける“書紙”の一つだ。
 
 立体との視点では、独自の技法「墨彩書(ぼくさいしょ)」も紹介する。表面には普通に文字を書くが、裏面から油分を含んだ墨を吹きかける手法。墨の黒文字の外側に白い枠線がついた“袋文字”的なものだが、色彩のコントラストで文字が浮かび上がっているように見える。
 
支部さんオリジナル技法「墨彩書」を用いた作品

支部さんオリジナル技法「墨彩書」を用いた作品

 
 墨をつけたら筆になるー。「何を求める 風の中ゆく」としたためた作品はたばこのフィルターを使い、「はばたき」と記したものは金色のインクが入ったチューブで字形を絞り出している。使う素材を生かす支部さんが残す文字は自然体。「書道は言葉との出合い。手紙文なようなもので、読めて、相手に伝わらなければ」と一文字ごとに思いを乗せている。
 
教えてもらわなければ分からない⁉筆ではないものを使った作品

教えてもらわなければ分からない⁉筆ではないものを使った作品

 
作品の説明をしながら来場者と触れ合いを楽しむ支部さん

作品の説明をしながら来場者と触れ合いを楽しむ支部さん

 
 書道は「難しい、次元が違う」「書いても下手」と思われがちだと話す支部さん。「違う世界がある」と、会期中に書のパフォーマンスを見せた。来場者の好きな言葉を書いてプレゼント。その際に見せたのが脳活書道で、文字を分解して書き順を変えながら書き上げた。「絵を描くように文字を創り上げる。書はデザイン。アートしようよ、ということ」と楽しそうに笑った。
 
訪れた人のリクエストに応えて書をしたためる支部さん

訪れた人のリクエストに応えて書をしたためる支部さん

 
脳活書道の実演。左上の写真から時計回りに見ていくと…

脳活書道の実演。左上の写真から時計回りに見ていくと…

 
 支部さんは、鑑賞をきっかけに「何かやってみよう」という人が増えることを期待する。「だまされたと思ってやってみてほしい」と呼びかける脳活書道講座は10月13日、11月24日(会場はいずれも釜石情報交流センター)に開催予定。「文字に対する新発見を糸口に発想を転換させ、脳に刺激を。若々しく元気に、人生、いきいき楽しみましょう」。個展のタイトルに込めた“響きあい”を待つ。

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ネパールの多様な文化を紹介 釜石・国際外語大学校 留学生受け入れ前に展示会

釜石市国際外語大学校で開かれている「ネパール展」

釜石市国際外語大学校で開かれている「ネパール展」

 
 釜石市鈴子町に今春開校した専門学校「釜石市国際外語大学校」。若者の定着や地域活性化を狙って市が誘致し、先行する外語観光学科で日本人学生が社会で活躍する力を磨いている。その学びの場にまもなく日本語学科が開設される。ネパールから約20人が仲間入りを予定。同国について理解を深め、留学生をあたたかく迎えてもらおうと、校内で「ネパール展」を開いている。30日まで。
 
 インドと中国チベット自治区に接するネパールは多民族国家で、公用語はネパール語だが、さまざまな言語が飛び交う。宗教はヒンズー教が主流だが、仏教徒やイスラム教徒も暮らす。世界最高峰エベレストで知られるヒマラヤの山国として、日本人にとってもなじみがある。
 
 会場は、校舎として利用する市教育センター5階の教室。民族衣装、バッグや帽子などの民芸品、生活用品を並べて多様な文化を紹介する。合わせると90点ほどあり、来釜する留学生が現在、通っている現地の日本語学校や、青年海外協力隊員などから提供されたものが中心。展示物に添えられた説明文を見ながら、生活の様子をうかがい知ることができる。
 
教室の一室を使って展示。90点ほどが並ぶ

教室の一室を使って展示。90点ほどが並ぶ

 
民芸品や書籍などがずらり。興味津々で見つめる来場者

民芸品や書籍などがずらり。興味津々で見つめる来場者

 
ボードゲームや宗教用品、教科書、手作り辞典などもある

ボードゲームや宗教用品、教科書、手作り辞典などもある

 
 展示には、外語観光学科の学生も協力。食文化や言語などを調べ、スライドにまとめたものを壁に映し出し、同国について発信している。「首都は?」「国旗の特徴は何?」といったクイズも用意。楽しみながら魅力に触れてもらうよう見せ方に工夫を加えた。
 
外語観光学科の学生が制作したスライドショーも見られる

外語観光学科の学生が制作したスライドショーも見られる

 
クイズを楽しみながらネパールについて理解を深める来場者

クイズを楽しみながらネパールについて理解を深める来場者

 
 市民に外国の人や文化に理解を深めることで歓迎ムードを高めてほしいとの願いに加え、「留学生が早く地域になじむよう、土台作りにつながれば」という期待も込もった展示となっている。「互いに理解し、あたたかい交流ができたら」と、日本語学科を担当する教師の佐々木美穂さん(41)。学校を飛び出し、地域での活動も視野に入れている。
 
異国の雰囲気が加わった釜石の街景色も楽しめる⁉

異国の雰囲気が加わった釜石の街景色も楽しめる!?

 
 留学生の生活支援として、家庭で眠る未使用の調理用具などの提供を呼びかけたところ、十分な心が寄せられた。海外の若者たちがやって来ることを「楽しみにしている」との声もあるといい、同校では「釜石に来てよかった」と留学生が感じられるようサポートしていく。
 
 日本語学科は10月中旬に授業が始まる。留学生と街で出会ったら…展示での学びを生かし、ネパールで使われる「ナマステ(おはよう、こんにちはといった、あいさつ言葉)」、「サンチェイ チョウ?(お元気ですか?)」、「ダンネバード(ありがとう)」などと笑顔で声をかけてみては。

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海から町を見てみよう!釜石中1年生、巡視船で体験航海 海保の仕事 触れて実感

巡視船から港内を見つめる釜石中の生徒。海上保安業務を体験した

巡視船から港内を見つめる釜石中の生徒。海上保安業務を体験した

 
 釜石中(佐々木一成校長、生徒294人)の1年生88人は8月29日、地域を知る総合的な学習の一環として釜石海上保安部(佐々木篤部長)で業務体験学習を行った。業務内容の説明を受け、救助方法・搬送法に挑戦したほか、実際に巡視船にも搭乗し見学。身近にある海に親しみながら、その安全を守る仕事について理解を深めた。
 
 同校では1年生が釜石について学習中。これまでに製鉄体験、ラグビー、漁業・農業などをテーマに学びを深めてきた。今回は「海のまち」に親しんでもらうのを狙いに、釜石市生涯学習まちづくり出前講座に登録されている同保安部が提供するプログラムを活用。2班に分かれ、さまざまな体験に取り組んだ。
 
釜石海上保安部で業務内容について説明を受けた

釜石海上保安部で業務内容について説明を受けた

 
 市魚河岸の釜石港湾合同庁舎では、同保安部総務係の半澤朋幸さん(36)が船舶の安全な航行や治安の確保、海の環境保全、災害への備えなど多岐にわたる業務の概要を説明した。船舶だけでなく、情報通信や設計など陸上で行う仕事、航空に携わる仕事も。「海上保安部は警察、消防、パイロット、一般事務、潜水士などさまざまな職種があり、将来の仕事を決める参考にしてほしい」と強調した。
 
 海上保安官の業務もいくつか体験。火災時や有害気体物質が発生している時に呼吸を確保するために使用する「ライフゼム」と呼ばれる空気呼吸器を装着する体験では空気ボンベやハーネス、マスクなどを背負い、身に付けると総重量15キロほどになり、「重たい」「これで作業するのはきつい」などと声を上げた。毛布を使った傷病者の搬送方法、船をつなぎ留めるときに使う「もやい結び」などロープワークも実践。釣り中に海中転落した際のペットボトルやクーラーボックスを利用した救助方法も学んだ。
 
空気呼吸器の取り扱いについて説明を聞く中学生

空気呼吸器の取り扱いについて説明を聞く中学生

 
海上保安官に教わりながら空気ボンベの装着や搬送方法を実践

海上保安官に教わりながら空気ボンベの装着や搬送方法を実践

 
海中転落時の救助方法やロープワークにも挑戦した

海中転落時の救助方法やロープワークにも挑戦した

 
 すぐ目の前にある釜石港に移動。同保安部所属の巡視船きたかみ(650トン)に乗船し航海に繰り出した。船では出入港の作業を見学。主任機関士の大越和弥さん(30)らの案内でガントリークレーンや湾口防波堤など港湾施設を海上から見つめた。船を進める際に灯台や釜石大観音が目印になっていること、コンテナ船や漁船など大小さまざまな船舶が利用していることも実感。令和元年に発生した台風災害の際、断水で孤立した市内半島部に給水支援を行ったことも聞き、保安官の仕事へ関心を高めた。巡視艇きじかぜの放水も見学。生徒は手を振って感謝を伝えていた。
 
釜石港に停泊する巡視船きたかみで生徒らは航海を体験

釜石港に停泊する巡視船きたかみで生徒らは航海を体験

 
「出港用意」と号令をかける体験も(左上写真)。出港の様子も見守った

「出港用意」と号令をかける体験も(左上写真)。出港の様子も見守った

 
釜石海保職員の説明を聞きながら湾内を巡った

釜石海保職員の説明を聞きながら湾内を巡った

 
 下村篤弘さんは「船にはいろんな機器があって驚いた。知らなかったことを知る貴重な機会になった」と感想。消防士の父親に憧れを持ち、「将来は人の役に立つ仕事を」と考えていて、海保のことも調べてみるという。嶋田芽衣奈さんが印象に残ったのは空気呼吸器の装着体験で、重さや息苦しさを感じたうえ、船上、海上での活動の大変さを想像。安全、命、自然を守る業務にも触れ、「何かあったら、体験した簡単な救助法を生かしたい」とうなずいた。
 
巡視艇の放水を見学し、感謝を込めて手を振る場面もあった

巡視艇の放水を見学し、感謝を込めて手を振る場面もあった

 
海上保安官に質問したり海を守る仕事に関心を示す生徒

海上保安官に質問したり海を守る仕事に関心を示す生徒

 
 同保安部ではこの出前講座のほか、職業体験も受け入れる。「将来なりたい職業」に海上保安官を選択肢の一つとして考えてもらうことが目的。佐々木賢一次長は「少しでも海上保安庁の業務を知ってほしい。海に面した釜石で生活していても海上から港の施設を見る機会はなかなかないと思うので、巡視船に乗って違った視点、立場でまちを観察する面白さも感じてもらえたら」と期待を込めた。

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次世代につなぐ岩手の3世界遺産 有する市町の児童ら釜石・橋野鉄鉱山で交流「みんなの誇りに」

岩手の3つの世界遺産 児童交流会=8月29日、橋野鉄鉱山

岩手の3つの世界遺産 児童交流会=8月29日、橋野鉄鉱山

 
 鹿児島、奈良両県と並び、国内最多3つの世界遺産を有する岩手県。その地元小学生が互いの遺産への理解を深め、保護意識を育む児童交流会が8月29日、釜石市で開かれた。栗林小(八木澤江利子校長、児童30人)の5、6年生11人が同市の世界遺産「橋野鉄鉱山」を案内。一戸、平泉両町から訪れた3校の6年生19人に、洋式高炉での鉄づくりについて教えた。学校では鋳造体験も行われ、児童らが協力し合って作業。「世界遺産のまち」の絆を結んだ。
 
 同交流会は県文化スポーツ部文化振興課が主催し、世界遺産のある県内3市町で2022年から開始。3回目の本年度は釜石市が会場となった。同市を訪れたのは「御所野遺跡」がある一戸町から一戸南小(若松優子校長、児童70人)の6年生12人と、「平泉(の文化遺産)」の地元、平泉、長島両小の希望者7人(6年生)。橋野鉄鉱山インフォメーションセンターで開会行事を行い、高炉場跡の見学に出発した。
 
栗林小児童の案内で高炉場跡に向かう一戸南小の児童(青帽子)

栗林小児童の案内で高炉場跡に向かう一戸南小の児童(青帽子)

 
 見学は3班に分かれて実施。ガイド役を務める栗林小の児童が先導し、国内に現存する最古の洋式高炉跡3基を見て回った。栗小児童は、稼働時の高炉の高さや組まれた花こう岩の重さ、石組みが崩れない工夫などを説明。水車でフイゴを動かして風を送り、高炉を稼働させていたこと、採掘場から運ばれた鉄鉱石は加熱し、砕いて高炉に投入していたことなども教えた。高炉の中央に残る炉底塊は出銑時に流れきれなかった鉄がたまってできたもので、栗小児童に促された一戸と平泉の児童らが磁石を近づけてみるとくっついた。
 
二番高炉の石組み。近くの山から切り出した花こう岩が使われている

二番高炉の石組み。近くの山から切り出した花こう岩が使われている

 
各ポイントで高炉稼働時の様子を伝える栗林小の5、6年生

各ポイントで高炉稼働時の様子を伝える栗林小の5、6年生

 
高炉の中央に残る「炉底塊」に磁石をくっつけてみる一戸南小の6年生

高炉の中央に残る「炉底塊」に磁石をくっつけてみる一戸南小の6年生

 
 栗小児童は花こう岩の重さを「メジャーリーガー大谷翔平選手何人分」など、分かりやすいたとえで示したり、4択のクイズを出したりして、遺産を楽しく学べるようにした。一戸南小の小谷地龍之介さんは、御所野遺跡のガイドや清掃活動に取り組む「御所野愛護少年団」の団長。栗小児童のガイドについて「すごく明るくて、クイズも楽しい。僕たちも見習いたいところ」と刺激を受けた様子。橋野鉄鉱山を訪れるのは初めてで、「明治の時代のものがあんなに残っているのはすごいと思う」と話した。
 
作業員に賃金を払う「御日払所」は礎石だけが残る(写真下)。説明に聞き入る一戸と平泉の小学生(同上)

作業員に賃金を払う「御日払所」は礎石だけが残る(写真下)。説明に聞き入る一戸と平泉の小学生(同上)

 
三番高炉の石組みに残るガスを逃がすための穴について説明。周辺では現在、発掘調査を実施中

三番高炉の石組みに残るガスを逃がすための穴について説明。周辺では現在、発掘調査を実施中

 
 栗林小に移動後、昼食をはさんで行われたのが鋳造体験。油砂を木枠に詰め、好きなデザインの鋳型を取り、熱して溶かしたスズを流し込む、金属鋳造の一端に触れられる体験だ。4校の児童はそれぞれ他校の児童とペアを組み作業に挑戦。一部は固まったものをその場で見せた。完成品は後日、児童らに届けられる。
 
栗林小の教室で行われた鋳造体験。2人1組で鋳型を作る

栗林小の教室で行われた鋳造体験。2人1組で鋳型を作る

 
高温で溶かしたスズを型に流し込む作業に興味津々。希望者は液体状のスズをおたまですくってその重さも実感(写真左下)

高温で溶かしたスズを型に流し込む作業に興味津々。希望者は液体状のスズをおたまですくってその重さも実感(写真左下)

 
上段の木枠をはずし、スズが固まった状態を確認

上段の木枠をはずし、スズが固まった状態を確認

 
 長島小の吉家七音さんは他校の児童との交流に「知らない人と話し、友達になれて楽しかった」と、世界遺産がつなぐ縁を喜んだ。「自分たちが住むまちに世界遺産があるのはうれしい。岩手には3つも世界遺産があり驚いた。みんなで守っていかねば」と気持ちを新たにした。
 
 釜石市は日本で初めて洋式高炉による連続出銑に成功した近代製鉄発祥の地で、高炉跡などが残る橋野鉄鉱山は明治日本の産業革命遺産(8県11市23資産)の構成資産の一つとして、2015年に世界文化遺産に登録された。同鉄鉱山は栗林小の学区内にあり、同小児童にとってはより地元感の強い場所。今回の交流会開催にあたり5、6年生は、同年代に遺産価値を伝えるためのガイド活動に初めて挑戦した。1学期の終盤から調べ学習を開始。夏休み明けに市世界遺産室の森一欽室長から話を聞くなどしてガイド内容をまとめ、現地で森室長相手にリハーサルも行って本番を迎えた。
 
 手ぶりを交え、はきはきと説明した中平栞愛さん(5年)は「最初はちゃんとできるか不安もあったけど、いっぱい練習して、本番では自分が伝えたいことを伝えられた。楽しくできたので良かった」と満足そう。他校の児童とも会話を弾ませ、「また、こういう機会があるといい。一戸と平泉の世界遺産にも行ってみたい」と期待を膨らませた。
 
 児童らの“晴れ舞台”を見守った5、6年担任の伊藤知基教諭は「よく頑張った」と称賛。一生懸命ガイドをするだけではなく、「積極的に話しかけ、仲良く交流する姿が見られた」と収穫を口にした。11月に予定される学習発表会では郷土の偉人を絡めた鉄づくりの劇にも取り組むことにしていて、「今回の経験を次につなげてほしい」と願った。
 
プログラムの合間に他校の児童と会話を弾ませる(写真上)。楽しい交流の思い出を心に刻んだ

プログラムの合間に他校の児童と会話を弾ませる(写真上)。楽しい交流の思い出を心に刻んだ

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釜石産食材でフランス家庭料理を! そば粉ガレット…包む“おいしい交流” 姉妹都市30周年で企画

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釜石産のそば粉を使ったガレット作りに取り組む参加者

 
 釜石産食材を使ってフランスの家庭料理を作る体験教室が8月24日、釜石市大町の青葉ビルで開かれた。釜石と同国ディーニュ・レ・バン市の姉妹都市提携30周年を記念した2回シリーズの企画で、最終回となった今回のメニューはそば粉を使った「ガレット」。海外の文化や調理に関心のある市民8人が参加し、香ばしいガレットを味わいながら姉妹都市交流について理解を深めた。
 
 講師は同国・ナンジ出身の佐々木イザベルさん(大船渡市在住)。7月開催の1回目に作った「クレープ」に触れながらガレットを紹介。どちらも薄くのばした生地で具を包む料理だが、小麦粉を使うクレープは“おやつ”という感覚で家庭でもよく作られていて、「クレープの日(2月2日)」もあるとか。ガレットは生地にそば粉を使うが、手に入れるのは難しく、レストランなどで味わう外食メニューだという。甘い具材を包むこともなく「同じようでも、ガレットは食事」と伝えた。
 
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佐々木イザベルさん(左)の実演に見入る参加者

 
 調理は生地作りから開始。参加者は、溶き卵に釜石・橋野町和山高原産のそば粉、釜石鉱山が製造するナチュラルミネラルウォーター「仙人秘水」、塩を加えてペースト状になるまでかき混ぜた。佐々木さんは「少しずつ水を加えた方がやりやすい」「そば粉はかき混ぜると泡が出るが、少なめに」「本場では生地を1時間は寝かす。そうするとおいしくなる」などとポイントを説明した。
 
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そば粉に水を少しずつ加えながら生地作りに取り組む

 
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佐々木さんのアドバイスを受けながら調理に挑む

 
 いよいよ仕上げの“焼き”に挑戦。生地をフライパンに薄く延ばし、ベーコン、チーズ、目玉焼きをのせて包むとガレットが完成した。参加者から「(生地を)たたんで、こっちも(たたんで)…おー、いいじゃん」「おしゃれ~」とうれしそうな声が聞こえてきた。
 
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焼き色がついた生地で具材を包んでガレットを仕上げる

 
 佐々木さんはフランス語も紹介。「ボナペティ(召し上がれ)」と促し、参加者は「セボン(おいしい)」と言葉を返しながら味わった。試食の間には、主催する市国際交流課の東洋平主査が姉妹都市提携の経緯やこれまでの交流を説明。9月にディーニュ市から訪問団がやってくることも伝え、「見かけたら、ボンジュール(おはよう、こんにちは)と声をかけてほしい」と呼びかけた。
 
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ガレットを味わいながらディーニュ市の紹介に耳を傾けた

 
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食を通して交流を楽しんだ佐々木さん(前列中央)と釜石市民

 
 職場仲間だったという60代と70代の女性は「日本の料理はバタバタとやらなければならないことがあってお母さんたちは大変だけど、外国の料理はゆったりとした時間が流れている感じ。生地の焼き上がりを待つ間にお話しができて調理が楽しい」とにっこり。姉妹都市交流について初めて知った様子で、「食べ物を通した体験で興味が湧いた。外国を身近に感じられる」と新たな情報との出合いも楽しんだ。
 
 記念事業は、まだ続く。記念パネル展(9月15~18日・市民ホールTETTO)やディーニュ市訪問団の来釜(同21日~23日予定)に合わせた交流会、ハーバリウムづくり体験なども計画。他にも、市中心地で環境美化活動の実施も予定されており、迎える準備を進める。

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地域の海、未利用魚…おいしく学ぶ 釜石小、教員のための出前授業 学習内容のヒント探る

海洋環境に関する出前授業で魚をさばく体験をする釜石小教員ら

海洋環境に関する出前授業で魚をさばく体験をする釜石小教員ら

 
 釜石市大渡町の釜石小(五安城正敏校長)の教員を対象にした出前授業「海の学習会」が19日、同市鈴子町の釜石ガス・キッチンスタジオで行われた。若手からベテランまで教員13人が参加。岩手大釜石キャンパス特任専門職員の齋藤孝信さん(63)から地域の海の状況を聞いたり、「未利用魚」を使った調理を体験し、学校の授業に生かすヒントを得た。
 
 釜石小が、海洋教育パイオニアスクールプログラム(笹川平和財団海洋政策研究所など主催)の採択を受けて2021年度から取り組む活動の一環。これまでは児童を対象に水産業について学ぶ授業を行ってきたが、4年目の今年は教職員向けの活動も取り入れ、深化させることにした。
 
メモを取ったりしながら真剣な表情で座学に臨む教員たち

メモを取ったりしながら真剣な表情で座学に臨む教員たち

 
 この日、齋藤さんは海洋環境の変化を解説。釜石湾の水温変化(月平均)の表やグラフなどを示しながら、「2024年は過去最高を更新中。平田湾では瞬間的に25度台になったり。そうなると、22度で活動を停止するとされるホタテは死滅する。影響を受けてしまうか、悩ましい状況」と明かした。海水温の上昇が要因の一つとされる磯焼け、海洋環境を守るためにできる活動(地産地消、プラスチックごみの排出削減など)も紹介した。
 
 海水温が高いことで釜石市魚市場に水揚げされる魚種が変化していることも伝えた。「ここ15年ほどのデータを見ると、安定しているのはサバ。イワシは増大。マダイ、タチウオなど暖かい南の海域にいるはずの魚が増えている」と説明。この先も見慣れない魚種の水揚げあると予想するが、「なじみがないものは食べ方が分からず、需要も見込まれず収入にはならないと漁師は考え、手を付けにくい。だから普及しない」と見解を加えた。
 
魚をさばく齋藤孝信さん(右)をじっと見つめる参加者

魚をさばく齋藤孝信さん(右)をじっと見つめる参加者

 
 海の現状に触れた後は魚のさばき方教室で、教員らは基本の「三枚おろし」に挑んだ。この日、定置網に入ったカンパチなどを使用。どれも、大きさが出荷の規格よりも小さく、値段がつかないことなどを理由に食用にされない「未利用魚」だった。齋藤さんがうろこ取りから包丁の入れ方まで実演を交えて指導。魚をさばくのが初めてという教員も多く、同市平田の釜石キャンパスで水産を学ぶ岩大生らのサポートを受けながら、苦労しつつも楽しそうに手を動かしていた。
 
未利用魚(右下写真、カンパチなど)を使ったさばき方教室

未利用魚(右下写真、カンパチなど)を使ったさばき方教室

 
初めての挑戦ながら手際よく作業を進める参加者

初めての挑戦ながら手際よく作業を進める参加者

 
 「よし!やるぞ」「わ~」「できた!ほめて」。表情豊かな先生たち

「よし!やるぞ」「わ~」「できた!ほめて」。表情豊かな先生たち

 
 未利用魚の利用は、市場に出回る魚介類と同じようにおいしく食べられるのを知ってもらう狙いもあり、1年生担任の菊地華奈教諭(27)は「命をいただいていることを感じた。大事に食べることを子どもたちに伝えたい」とうなずく。食を守ることは地球環境を大切にすることになり、そのためにできることをしっかりやろうと呼びかけもしたい考え。初めて挑んだ魚の三枚おろしは「上々」と手応えがあり、「やり方を教えてもらえれば、意外とできる。子どもたちにも苦手と思い込まず、やってみてと促すようにしたい」と手掛かりを得た様子だった。
 
やってみたら…「意外とできた」。成功体験に笑顔が広がる

やってみたら…「意外とできた」。成功体験に笑顔が広がる

 
丁寧な作業を仲間たちがあたたかい笑顔で見守る

丁寧な作業を仲間たちがあたたかい笑顔で見守る

 
 さばいた魚は刺し身、塩焼き、あら汁にして味わった。教務主任の西川亮教諭(50)は岩手県内陸部の出身ながら、沿岸部での生活が長い上に釣り好きとあって、魚さばきも三枚おろしもお手の物。若手教諭の活動を見守り、「意外と地域や海の環境を知らない先生も多い。釜小は若い人が多いので、こうした研修で知識を得て、うまく子どもたちに還元してもらえたら。各自、尻込みせずに挑戦する、いい機会になった」と目を細めた。
 
 釜石小では同プログラムを活用して現在、6年生がサケの学習に取り組み、岩大が講師の派遣などで協力している。今回新たに加えた教員向けの海洋教育体験での学びは、4~6年生の理科や社会、総合学習などに役立てていく。

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古里見つめ…震災後の海景、街並み「趣くままに画く」 釜石の洋画家・菊池政時さん作品展

震災後に描き下ろした絵画を展示した菊池政時さん

震災後に描き下ろした絵画を展示した菊池政時さん

 
 穏やかに停泊する漁船、荷役クレーンや浮きドックが稼働する活発な港、高台の住宅地から望む海岸線…。海にまつわる景色がずらりと並んだ絵画展が7日から11日まで、釜石市大町の市民ホールTETTOで開かれた。作品を手がけたのは、地元の洋画家菊池政時さん(88)。東日本大震災津波で被災しながらも、身近にある港、まちの風景を変わらず描き続ける。
 
 展示会のタイトルは「3・11から趣(おもむ)くままに画(えが)く」。震災後に描き下ろした具象画を中心に160点を紹介した。油彩、アクリル、水彩など画材は多様で、サイズもサムホール~80号とさまざま。モチーフは古里・釜石のほか、大海原と迫力ある断崖が連なる「北山崎」(岩手県田野畑村)など三陸の海岸風景が多い。「誰が見ても分かる」と自認する作風。その力作からは豊かな観察眼と高い描写力がうかがえる。
 
釜石の港や街の風景を題材にした作品が並んだ

釜石の港や街の風景を題材にした作品が並んだ

 
 菊池さんは浜町出身。戦中・戦後の遊びの一つが絵を描くことで、「好んだモチーフは軍艦や飛行機。自己表現の手段だった」と思い起こす。絵画にのめり込んだのは中学時代。美術を専門とする教師が持つ“油絵の具”に心引かれ、画材を手に入れるのは難しかったが、見よう見まねで手法を学んだ。
 
 盛岡市の岩手県立美術工芸学校(のちの盛岡短期大学美術工芸科)に進学。盛岡市ゆかりの洋画家深沢省三、紅子夫妻や美術評論家の森口多里ら魅力的な講師陣から手ほどきを受け、筆を走らせた。非常勤講師には詩人・彫刻家・画家の高村光太郎もいたとか。美術の教員免許を取得したが、家業(公衆浴場業)を継ぐため、釜石に戻った。
 
 家業の傍ら、映画館の手描き看板や建築現場で利用される完成予想図を手がけたり、「絵に関することは何でもやった」。1990年代に入ると、釜石や大槌の高校で非常勤美術講師として活動。現在も釜石商工高校で指導し、生徒の取り組みを見守りつつ自身の創作活動にも励む。過去には一線美術会、日本美術家連盟に所属し、グループ展や個展など国内外で多数出展。現在は無所属だが、岩手芸術祭洋画部門の理事を務める。
 
精力的に筆を持つ様子がうかがえる作品がずらり

精力的に筆を持つ様子がうかがえる作品がずらり

 
「描いた場所が分かる」。菊池さんがもらってうれしい言葉

 「描いた場所が分かる」。菊池さんがもらってうれしい言葉

 
 震災後の活動を見せる展示だが、1点だけ震災前の作品を掲げた。「造船所A」。菊池さんが長年講師を務める釜石絵画クラブ(市民絵画教室から改名)のグループ展出品作で、震災の津波の爪痕を残す。実家の銭湯、その建物2階にあったアトリエも津波にのみ込まれ、描きためていた作品の多くを失った。手元に残ったのは、数点だけ。今回の展示作と同じく水没したが、生徒らが救い出してくれた。
 
津波で被災し一部が切り取られた「造船所A」。色彩も薄れる

津波で被災し一部が切り取られた「造船所A」。色彩も薄れる

 
 被災後は県内陸部への避難、みなし仮設住宅での生活を経て、今は大町の復興住宅で暮らす。高層階の住まいから見える街並みを描写した作品もいくつもあり、精力的な創作活動が続いていると感じられる。
 
 そんな菊池さんだが、一時期、筆を持てない時期があった。震災を機に銭湯は廃業し、画材道具や作品を失った悲しさに加え、「津波で荒廃した街を描くわけにいかない」と思ったから。意欲を取り戻したのは、平田で仮住まいをしていた頃。津波浸水地から離れた地域で「あるのは健全な建物ばかり」だったこともあってスケッチブックを手に散歩し、目に留まった風景を描きまくった。
 
 心を動かした平田地区の風景を写生した作品も数点紹介した。その中の1点は、大きな平屋と蔵が並ぶたたずまいを透明水彩で味わい深く表現。モチーフとなったのは津波の被害を免れた家屋で、「残しておきたい景観。負けない力強さを感じた」と思いをのせた。
 
仮住まい中に描いた作品を紹介する菊池さん

仮住まい中に描いた作品を紹介する菊池さん

 
生活の中で見つめる街並みを写し出す作品も多い

生活の中で見つめる街並みを写し出す作品も多い

 
 高校の教室から見える尾崎半島をモチーフにさらりとペンを走らせたスケッチと、構図や色彩をしっかりと整え時間をかけて仕上げた一枚を一緒に見せたりもした。菊池さんは「さまざまな表現の方法があることを知ってほしい。自由だということを」と期待する。
 
 ほぼ毎日筆を持ち、描きたいものを求め散策しているが、「行き当たりばったりで、うまくいかないことも。そんな時は、ぶっ壊して進む」と豪快さをにじませる。そこには「『いい形にはいい色がつく』との省三先生の教え」があり、「デッサンがしっかりしていればどうにかなる。描いていれば絵になる。自分次第」と解釈しているからだ。
 
「スケッチがあるほど豊かな絵になる」と菊池さんは話す

「スケッチがあるほど豊かな絵になる」と菊池さんは話す

 
荷役クレーンと漁船を描けば⁉「釜石らしい風景」を描き続ける

荷役クレーンと漁船を描けば⁉「釜石らしい風景」を描き続ける

 
 創作意欲は衰え知らずの菊池さん。「これでいい」という正解はなく、「よし次は!」と挑戦は続く。「思うように描けると期待できる自分がいるから」。画材や作風に変化を加えてみて「大革新」と感じても、「違った絵を…変えよう」と貪欲な姿勢を垣間見せる。「まだ描きたいモチーフがある。さまざまな手法も試したい」。これからも“画描き”であり続ける。

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まちに飛び出し学ぶ!?「釜国スタイル」体感 釜石・国際外語大学校オープンキャンパス

まちでの学びを体感する釜石市国際外語大学校のオープンキャンパス

まちでの学びを体感する釜石市国際外語大学校のオープンキャンパス

 
 観光分野などで地域に貢献できる人材の育成を目指し、英語力や地域課題解決力、情報発信力を磨く学びを提供する釜石市国際外語大学校(竹内新也校長)のオープンキャンパスが10日、同市鈴子町の校内であった。4月に開校したばかりの専門学校で、毎月公開日を設けているが、今回は夏休みの特別企画を用意。「進学の選択肢に」と考えている高校生と保護者、新設の教育機関が気になる人ら約20人が参加し、まち全体を学びの場とする「釜国スタイル」を体感した。
 
 先行する外語観光学科(2年制)の概要説明からスタート。松島理香子副校長が、▽国際理解・英語コミュニケーション力▽地域創生・課題解決▽ITスキル・情報発信―という学びの3つの柱について解説した。地域の現場を見つめるフィールドスタディーを重視しているとし、学生らの取り組みを紹介。「まちに出て、見て、産業や歴史などを知り、課題を発見して探究、提案、発信したりすることで自主性、社会性などの力を磨いている。出会った人にリアルな仕事を聞く時間にもなっている」と強調した。
 
教室で学校概要や学生の活動について説明を聞く参加者

教室で学校概要や学生の活動について説明を聞く参加者

 
 なぜ「KAMAISHIの観光」に着目するのか―。持続可能な観光の国際認証機関グリーン・デスティネーションズが地域を表彰するアワードで、日本で初のゴールド賞を受賞し、「世界の持続可能な観光地100選」には6年連続で選ばれている。そこに結び付くのが、市内全域を博物館に見立てる「オープン・フィールド・ミュージアム構想」。自然や文化、人など地域に眠る宝を発掘しながら、住民と来訪者をつなぐ観光地域づくりの手法で、継続的な収益を生みつつ住民の郷土愛を育み、地域を活性化させている。
 
 この構想が、同学科の学びにぴたりとハマる。そんな外部と連携した活動を実際に体験してもらうのが今回の企画で、バスに乗り込み、まちに繰り出した。市外からの参加者もいて、車内ではスマホを使ったクイズに挑戦。「三陸産〇〇の入った貝だしスープで海鮮をしゃぶしゃぶする名物は?」「力強く押し寄せる海の波との意味を持つ地域型ラグビーチームの名称とは?」など、釜石にちなんだ問いから特色に触れた。
 
「まち全体が学びの場」と説明する松島理香子副校長

「まち全体が学びの場」と説明する松島理香子副校長

 
バスに乗って校外へ。車内では釜石にちなんだクイズに挑む

バスに乗って校外へ。車内では釜石にちなんだクイズに挑む

 
 同市鵜住居町方面へ向かい、根浜シーサイド、いのちをつなぐ未来館は車窓から見学。釜石鵜住居復興スタジアムでは同学科担任の藤原花連さんの案内で歩き、施設の特徴を感じたりした。市外出身の学生向けに確保する居住施設を紹介しながら、魚河岸テラスへ移動。「甲子柿」「浜千鳥」といった特産品PRに一役買うジェラートの取り組みを見て学校に戻った。
 
釜石鵜住居復興スタジアム(写真上部)や魚河岸テラス(同下部)を見て回った

釜石鵜住居復興スタジアム(写真上部)や魚河岸テラス(同下部)を見て回った

 
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海と山が融合した釜石は「学びのヒントがたくさんある」らしい

 
 車内で藤原さんは「普段の生活にあるものの価値に気づき、観光の一手段として考えていく。それを授業の中にしみ込ませ、経済学、マネジメント、動画・ウェブサイト制作と広く学習に取り組んでいる。学生の活躍を発信しているので見てほしい」とアピール。竹内校長は「日々、地域に開かれた学校でありたい。まち全体をキャンパスにしたユニークな教育理念の中でともに楽しみ、成長してほしい」と仲間入りを求めた。
 
 教室に戻って、入試や奨学金制度などの説明も受けた。釜石高定時制に通う生徒(4年)は2回目の参加で、前回は英語の授業を体験。同校への進学を決めていて、「コミュニケーションツールとして英語の表現力を身に付けたい。地域のことをまるっと学べる最適な場所。釜石に貢献できる人になりたい」と意欲を高めていた。
 
クイズにアンケート…スマホを使った活動も体験した

クイズにアンケート…スマホを使った活動も体験した

 
 10月には留学生向けの日本語学科(1年半と2年制)も開設。ネパールから20人ほどが仲間入りするという。北上市から足を運んだ高校生(3年)は「まち全体で学べるのがいい。将来の方向が決まっていないので、広い学びで見つけられたら。国際交流が楽しみ」と選択肢に入れた。付き添った両親は「先生たちが明るい。心配もあるけど、見て回って安心した。自分でさまざま挑戦し、成長してくれたら」と見守った。
 
地域に開かれた運営を目指す釜石市国際外語大学校

地域に開かれた運営を目指す釜石市国際外語大学校

 
 同校では魅力を広く周知するため月に1、2回のオープンキャンパスを実施。9月は7日、21日を予定し、カリキュラムなどを体験できる。

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筆おどる!?御朱印墨絵展 釜石の菊池錬城さん(日高寺住職) 躍動感あふれるライブペイントも

テットで開催中の御朱印墨絵展で披露されたライブペイント

テットで開催中の御朱印墨絵展で披露されたライブペイント

 
 勢いで描いてはみたけど二度と描けない―。そんな気になるタイトルがついた展示会が、釜石市大町の市民ホールTETTOギャラリーで開かれている。並ぶのは白い紙に絵や文字を墨書きし、赤い印を添えた「御朱印(ごしゅいん)」や墨絵約50点。同市礼ケ口町にある日高寺(にっこうじ、日蓮宗寺院)の菊池錬城(れんじょう)住職(47)が筆を執り、独自の感性で来場者を魅せる。釜石・大槌在住の作家を紹介する同ホールの自主事業「art at TETTO(アート・アット・テット)」の第13弾。18日まで。
 
御朱印や墨絵を手がける日高寺住職の菊池錬城さん

御朱印や墨絵を手がける日高寺住職の菊池錬城さん

 
 菊池さんは、1950年代後半に建立された同寺の第3世住職として寺院業務をこなす。「子どもの頃、癖だった」というのが絵を描くこと。「おもちゃや食べ物…欲しいものがあっても全てを手に入れることはできないから描いて、遊んだり味わったり楽しんでいるのを想像した。それで満足だった」。そんな少年の夢は漫画家だった。
 
 長男だったこともあり、寺を継ぐため立正大(仏教学部宗学科)を卒業して古里に戻った。寺院業務の傍ら、2008年から岩手県日蓮宗青年会の仲間と手作り紙芝居を披露する保育施設訪問ボランティア活動を開始。同じ頃、「お坊さんぽいから」と墨絵を描きだした。
 
 昨年、友人のために描いた「龍の御朱印」がSNS(交流サイト)で広がると、海外向けのテレビ番組でも紹介され、絵柄が入った御朱印を求める参拝者が国内外から訪れるようになった。「絵を描くことを仕事にしたい」という少年時代の夢を「思いがけず手にした」と菊池さん。会場には「文殊師利菩薩」「炎虎」など、要望に応える形で絵柄を入れて実際に手渡した御朱印の複製版を並べた。
 
寺院参拝者に手渡した御朱印の複製版を紹介

寺院参拝者に手渡した御朱印の複製版を紹介

 
 同寺がまつるのは山の神「禮口山神(れいこうさんじん)」、水の神「八大龍王(はちだいりゅうおう)」、火の神「大聖不動明王(たいせいふどうみょうおう)」、鬼の神「鬼子母神(きじぼじん)」の四神。その神様たちをキャラクターデザインして描いた墨絵や御朱印、絵本風にまとめた作品も多く見せる。「4体の神様が力を合わせて、この地を守っている。人間も支え合っていこう」。そんな助け合い、「円満和合」を伝えられたらと菊池さんは願いを込める。
 
日高寺の歴史やまつる神様をモチーフにした作品もずらり

日高寺の歴史やまつる神様をモチーフにした作品もずらり

 
スマホを構えて好みの墨書を写真に収める人の姿も

スマホを構えて好みの墨書を写真に収める人の姿も

 
 「商売繁盛」や「安全第一」といった願いを込めた墨絵、ラグビー選手など釜石ならではのモチーフを取り入れた作品も紹介する。お気に入りは「近所のバスケ少年」と題した一枚。バスケットボールのゴールリンクを設ける同寺境内で競技に熱中する中学生を描いている。そこに込めたのは、「頑張れ」と応援する気持ち。御朱印を書く時にも「誰かのために」という思いは共通する。檀家(だんか)、信者らと接する時間の多くは人生相談だといい、「粗末にしてはいけない仕事」と実感。寄り添い、背中を押す気持ちを投入している。
 
願い事を込めた墨絵、制作過程を見せる下絵なども並べた

願い事を込めた墨絵、制作過程を見せる下絵なども並べた

 
お気に入り作品「近所のバスケ少年」を見つめる菊池さん

お気に入り作品「近所のバスケ少年」を見つめる菊池さん

 
 11日は会場で墨絵のライブペイントを披露。音楽に合わせながら約2メートル四方の紙に筆をおどらせ、躍動感あふれる「寅(とら)」を生み出した。かけた時間は10分ほど。「御朱印は参拝している間に描き終える」と心がけていたら、字を書くように絵を描くことができるようになったという。そんな手際のよい筆さばきを来場者は食い入るように見入り、「ほ~」と感動していた。
 
多くの来場者が見入ったライブペイント

多くの来場者が見入ったライブペイント

 
即興で完成させた「寅」も会場を彩る作品に

即興で完成させた「寅」も会場を彩る作品に

 
 描く絵はすべてオリジナル。「漫画っぽい」のが特徴だと菊池さんは話す。リクエストを受けても、既存のものを写すのではなく、参考にはするが、デザインを考えることからスタート。この作業が「素人だから時間はかかる」という。そのため、現在は御朱印のリクエストを休止中。少し落ち着いたら再開したい考えで、「希望の絵を持ち帰り、楽しんでもらえるようにしたい」と、“自己流”という“野良”の意地で精進を重ねる。
 
 個展も夢の一つだった菊池さん。作品を見てもらうことで、「日高寺を知ってもらいたいし、御朱印が釜石を訪れる観光の一助になれば」と期待する。御朱印や墨絵作品のほか、寺の近況をインスタグラムで公開中。「令和の神様がいたっていいじゃないか」と、独自のアート性を生かした発信を続ける。

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姉妹都市提携30周年 ディーニュ・レ・バン市代表団 9月来釜 市民らが歓迎の巨大アート制作

9月に訪れるディーニュ・レ・バン市代表団を歓迎する巨大アートの制作=10日

9月に訪れるディーニュ・レ・バン市代表団を歓迎する巨大アートの制作=10日

 
 釜石市とフランスのディーニュ・レ・バン市は、姉妹都市提携から今年で30周年を迎えた。記念事業で9月に釜石市を訪問するディーニュ市代表団を歓迎しようと、釜石市民らが両市の絆を表す巨大アート作品(絵)を制作した。市では「ぜひ、多くの皆さんで代表団を歓迎していただければ」と呼び掛ける。
 
 巨大アートは縦3.6メートル、横5.4メートル。防炎シートをキャンバスに描いた。ディーニュ市を象徴するモチーフとしてラベンダーとアンモナイト、釜石市は市の花・ハマユリとラグビーボールを配した。真ん中にはフランス南部にある世界遺産「アヴィニョン橋」とフランス、日本の両国旗が描かれた。
 
 10日は大町の市民ホールTETTO前広場で、色塗り作業が行われた。市広報などで一般市民に参加を呼び掛けたところ、午前と午後合わせて約50人が協力。テント用の水性塗料を使って、絵や文字の色塗りに精を出した。
 
参加者は防炎シートに描かれた下絵に色を塗った

参加者は防炎シートに描かれた下絵に色を塗った

 
TETTO前広場で行われた制作作業に通りがかりの市民も興味津々

TETTO前広場で行われた制作作業に通りがかりの市民も興味津々

 
「お絵かき大好き!」幼児もはけを持ち、色塗りに協力

「お絵かき大好き!」幼児もはけを持ち、色塗りに協力

 
 甲子中2年の白石恋菜さんは昨年、市の中学生海外体験事業でフランスを訪問。ディーニュ市でホームステイし、現地の同年代の子どもらと交流したほか、姉妹都市提携のきっかけとなったジオパーク資産・アンモナイト化石群も見学してきた。今回はディーニュ市の人たちを“お迎え”する番ということで、「協力できることをうれしく思う。この絵をきっかけに多くの人がディーニュ市に興味を持ってくれたら」と期待。代表団には「震災から立ち上がり市全体で復興に向かったことで、ラグビーワールドカップ(W杯)ができるまでになったこと、世界遺産(橋野鉄鉱山)もある鉄のまちであることなど、釜石の魅力をたくさん知ってほしい」と願う。
 
 東京都から帰省した同市出身の女性(43)は、中学生の時にディーニュ市に送る版画作品を制作し、感謝状をもらった経験を持つ。「フランスは遠いイメージだが、姉妹都市交流が続くことで、ちょっとだけ近く感じる」。マスキングテープはがしを手伝う長女(3)を温かく見守り、「大きな絵の制作はなかなかできない体験」と喜んだ。
 
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写真左:マスキングテープをはがすときれいな輪郭が… 同右:市民ら1千人以上に声掛けし、撮影した笑顔をちりばめた記念ポスター

 
ディーニュ市と釜石市の象徴が色鮮やかに浮かび上がる

ディーニュ市と釜石市の象徴が色鮮やかに浮かび上がる

 
 釜石市は1992年に同市で開かれた三陸・海の博覧会で、ディーニュ市の「アンモナイトの壁」のレプリカ(剥離標本)を展示。その後、鉄の歴史館での保存が決まったのを機に、94年に姉妹都市提携を結んだ。2011年の東日本大震災後は、ディーニュ市から義援金や応援メッセージが届いた。その後、官民での相互訪問を重ね、交流が深まっている。昨年、ディーニュ市を中心に初開催されたアマチュアラグビーの世界大会は、同市訪問団が19年に釜石で目にしたラグビーW杯がきっかけで実現したという。
 
 ディーニュ市からの訪問は震災後、今回で3回目。パトリシア・グラネ市長ら代表団8人が9月21~24日の日程で釜石市を訪れる。期間中、記念式典への出席やジオサイト見学、釜石鵜住居復興スタジアムで開催予定の「釜石絆の日」イベントの視察、市民との交流などを予定する。これに先立ち、9月15~18日にTETTOで姉妹都市提携30周年記念パネル展を開催。制作した巨大アートは同パネル展や記念式典会場などに展示される予定。
 
両市のアルファベットの仕上げをする釜石高生ら

両市のアルファベットの仕上げをする釜石高生ら

 
素敵な歓迎アートが完成!(写真提供:市国際交流課)

素敵な歓迎アートが完成!(写真提供:市国際交流課)

 
 歓迎アートの制作には、釜石高の放課後フリースペース「774(ナナシ)プロジェクト」で活動する生徒6人が協力した。美術部員の森美惠さん(2年)がメンバーから入れ込みたいモチーフを聞いて、原画のデザインを担当。“30周年の絆”をイメージし、両市の中学生が過去に交流事業でセッションしたという「アヴィニョン橋」を盛り込んだ。「市民の方々が一緒に作ってくれることで、釜石全体のつながりも感じられる。この絵でディーニュ市の皆さんを明るくお迎えしたい。言葉の壁を越えて、何か通じるものがあれば」と期待を込める。

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釜石の海から知る生物多様性「触感いろいろー!」 移動水族館・おさかな学習会

おさかな学習会でマサバの解剖に挑む親子ら

おさかな学習会でマサバの解剖に挑む親子ら

 
 地元の海に生息する生き物に親しむ「おさかな学習会」が7月27日、釜石市上中島町の中妻公民館(小山田富美子館長)で開かれた。学校が長期休みになった子どもたちに楽しんでもらおうと、公民館事業として実施し3回目。親子連れら15人ほどが生き物に触れたり、魚を解剖したりとさまざまな体験をした。
 
 講師は、同市平田の釜石キャンパスで学ぶ岩手大農学部食料生産環境学科水産システム学コースの加賀谷康太さん(4年)をリーダーにした学生5人。箱崎町桑ノ浜地区の定置網に入ったマサバを取り上げ、名前の由来や特徴を紹介した後、子どもたちと一緒に解剖に挑んだ。
 
参加者は学生のサポートを受けながら解剖に取り組む

参加者は学生のサポートを受けながら解剖に取り組む

 
 ピンセットやはさみを使って身を切り開いて肝臓や心臓など、さまざまな部位を取り出した。“ふにゃふにゃ”な内臓らしきものがつながって出てきて、学生らは「幽門垂(ゆうもんすい)という消化器官。人間にはない、魚だけが持っている特徴」と解説した。胃袋が“パンパン”に膨らんでいるものが多く、はさみで切り込みを入れてみるとカタクチイワシと見られるものがビッシリ。「めっちゃ、食べてる。メタボサバだ」と食物網を感じる場面もあった。
 
 脊椎動物の頭の骨の中にあるが、取り出すのにコツがいるという耳石。大きさ1ミリほどのマサバの耳石を見事に取り出した加賀谷さんは「平衡を保つ働きがある器官で、魚も音を振動で受け取る。顕微鏡で見ると、年齢が分かるよ」と子どもたちの興味をそそった。刺激された参加者がイシモチを解剖すると、耳石がポロリ。「おー、(イシモチの耳石は)初めて見た。研究できる。ちょうだい」と、子ども以上に気持ちを高ぶらせた。
 
マサバを解剖したりトビウオに触れたりして観察を楽しむ

マサバを解剖したりトビウオに触れたりして観察を楽しむ

 
夢中になる子どもの姿に講師役の学生も笑みをこぼす

夢中になる子どもの姿に講師役の学生も笑みをこぼす

 
 アイナメ、ウマヅラハギ、ウニ、タコ、ヒトデ、ヤドカリ…。タッチプールには学生らが釜石の海で捕まえた生き物が放たれ、子どもたちが楽しそうに触れ合った。鈴木楓さん(11)は「いろんな魚がいることを知った。初めての解剖も楽しかった。サバは目がガラスみたいですごいと思った」と学びを広げた。
 
タッチプールで笑顔を広げる子どもたち

タッチプールで笑顔を広げる子どもたち

 
 学習会は、学生らによる地域活動「移動水族館ちょこっとかまいSEA(シー)!」のプログラムの一つ。同館内に26日まで3つの水槽を並べ、研究や調査用に集めたボラ、ヨロイメバル、ムラソイ、トゲクリガニなど約15種を紹介。身近にある生き物の多様性を見せながら岩大、釜石キャンパスの取り組みを発信する機会にした。
 
多様な海の生き物を水槽で展示した移動水族館

多様な海の生き物を水槽で展示した移動水族館

 
涼しげに泳ぐ魚たちに大人たちは癒やされる

涼しげに泳ぐ魚たちに大人たちは癒やされる

 
 加賀谷さんは「地域の水産を盛り上げたい。魚に興味関心を持ち、好きになってくれる人が増えたらうれしい」と期待。大学の講師陣は三陸の漁師とのツテもあり、「バイトしながら漁業体験したり、魚を分けてもらったり、味わったり、船にも乗れる。さまざまな経験ができるのが魅力。釣りもできるし、魚、水産が好きで仕方ない人はここで一緒に研究しましょう」と仲間入りを求めていた。
 
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魚の特徴を解説する学生リーダーの加賀谷康太さん(左から2人目)

 
魚の解剖体験などが行われた学習会の参加者

魚の解剖体験などが行われた学習会の参加者

 
中妻公民館で開催中の「海のいきもの図書展」

中妻公民館で開催中の「海のいきもの図書展」

 
 同館では催しに合わせ、「海のいきもの図書展」を8月10日まで開催中。魚が出てくる絵本や海に住んでいる生き物図鑑など市立図書館所蔵の約50冊が並ぶ。本の貸し出しは不可。土・日曜を除く午前8時半~午後5時15分までの開館時間中に、その場で自由に手に取って楽しめる。