タグ別アーカイブ: 文化・教育

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釜石思う心今も… 小樽「旅するピアノ」8度目の訪問コンサート 元仮設住民らと交流継続

小樽市出身者らでつくる「旅するピアノ・プロジェクト」のメンバーと、交流を続ける釜石市民ら

小樽市出身者らでつくる「旅するピアノ・プロジェクト」のメンバーと、交流を続ける釜石市民ら

 
 北海道小樽市出身者でつくる被災地応援プロジェクト「旅するピアノ」(佐藤慶一代表)のメンバーが今年も釜石市でコンサートを開いた。2016年、東日本大震災の被災者が入居していた平田第6仮設団地を初めて訪問。以来、音楽を楽しむ時間を届け続けるメンバー。その寄り添いの気持ちは今も変わらない。8度目の訪問となった今回は大只越町のカトリック釜石教会を会場にし、集まった約30人を新たな趣向で楽しませた。
 
 3日、プロジェクトメンバー7人が来釜。「ピアノでつづる賢治童話の世界」と題したコンサートを繰り広げた。小樽で新聞記者をしていたこともある盛岡市出身の歌人石川啄木(1886-1912)の短歌に曲を付けた「初恋」を、畠山典之さんが歌って幕開け。三浦明子さんと関口ゆかりさんがピアノの独奏を披露した。今回初めての企画も。花巻市出身の童話作家宮沢賢治(1896-1933)の「どんぐりと山猫」を畠山さんが朗読し、三浦さんと関口さんがピアノ伴奏や間奏で物語の世界観を表現した。
 
昨年に続き、カトリック釜石教会で開かれたコンサート

昨年に続き、カトリック釜石教会で開かれたコンサート

 
宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」を朗読とピアノで…。畠山さん(写真右上)は「星めぐりの歌」も歌った

宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」を朗読とピアノで…。畠山さん(写真右上)は「星めぐりの歌」も歌った

 
岩手出身作家の作品を題材にしたコンサートに拍手を送る来場者

岩手出身作家の作品を題材にしたコンサートに拍手を送る来場者

 
 同プロジェクトは小樽潮陵高出身(1990年卒)の岩森勇児さん、野瀬栄進さん、山中泰さんが中心となって進めた東日本大震災復興支援活動が始まり。北海道などでチャリティーコンサートを行った後、2016年2月、初めて釜石市を訪問。平田第6仮設団地内の集会施設「平田パークホール」でピアノコンサートを開いた。ニューヨーク在住のジャズピアニスト野瀬さん、小樽市在住のクラシックピアニスト三浦さんが演奏し、仮設生活が長引いていた被災者らに元気と癒やしを届けた。釜石とのつながりを作った建築家の岩森さんは住民の声を聞き、ホールで使う木製の簡易ステージを製作。団地自治会役員らと一緒に作業し、心を通わせた。
 
2016年2月に平田第6仮設団地で開かれた初めてのコンサート。野瀬栄進さん(写真上)と三浦明子さんが演奏した

2016年2月に平田第6仮設団地で開かれた初めてのコンサート。野瀬栄進さん(写真上)と三浦明子さんが演奏した

 
仮設団地の住民と平田パークホール用の簡易ステージを作る岩森勇児さん(手前右)

仮設団地の住民と平田パークホール用の簡易ステージを作る岩森勇児さん(手前右)

 
 これを機に毎年、釜石を訪問し、幼児施設や公民館、教会などでコンサートを続けてきたメンバーら。訪問後は、小樽市民に被災地の現状を伝える活動も行ってきた。新型コロナウイルス禍で3年間は活動できなかったが、昨年から復活させている。
 
 今回、会場には1回目のコンサートが開かれた平田第6仮設の元住民らが多数訪れた。市内の復興住宅で暮らす人、自宅を再建した人、市外に移住した人…。それぞれ異なる環境で生活する人たちは久しぶりの再会となった人も多く、同窓会的な雰囲気も。コンサート後はメンバーとも会話を弾ませ、思い出話に花を咲かせた。平田の復興住宅に暮らす女性(80)は「懐かしい顔が見られてうれしい。年を重ねると出かけるのもおっくうになりがち。こういうきっかけがないとなかなかね…」と話し、(震災から)13年という年月の経過をあらためて実感した。
 
第1回目のコンサートから出演しているピアノの三浦明子さん(右から2人目)は顔なじみの住民らとの再会を喜んだ

第1回目のコンサートから出演しているピアノの三浦明子さん(右から2人目)は顔なじみの住民らとの再会を喜んだ

 
 ピアノの三浦さん(55)は初めて被災地に足を踏み入れたのが8年前の釜石訪問。被災から5年たっても仮設住宅で暮らす現状に衝撃を受けた。自分たちを温かく迎えてくれる住民と接し、「今回だけなんてありえない。喜んでくれるのなら継続しなければ」と思うようになった。他のメンバーも同じだった。「毎年お会いする中で元気な様子は見えるが、心には今も計り知れないものを抱えていると思う。これからも寄り添い続けたい」と三浦さん。
 
宮沢賢治の世界観を表現したステージセットも岩森さんらの手作り

宮沢賢治の世界観を表現したステージセットも岩森さんらの手作り

 
写真上:コンサート後、あいさつする岩森さん(右)と三浦さん 同左下:小樽の菓子をプレゼントするメンバー

写真上:コンサート後、あいさつする岩森さん(右)と三浦さん 同左下:小樽の菓子をプレゼントするメンバー

 
 岩森さん(53)は仕事の拠点がある静岡県から駆け付ける。「訪問の半年前にミーティングをして企画を練る。ステージは年々バージョンアップし、私たちは釜石の皆さんに育ててもらっている感がある」と話す。建築の技術を生かし、被災地(釜石、大槌、陸前高田など)訪問のたびに木製ベンチやテーブルなどを作る活動も続けてきた。木工品は仮設住宅や復興住宅、公共施設などで住民のコミュニティ―形成に役立てられてきた。今回は製作済みのベンチ5脚を持参し、希望者に引き渡した。これまでに製作したベンチは累計で50脚に上る。岩森さんは「(被災した)皆さんの生活も少しずつ落ち着いてきた印象。それでもメンバーからは『何年を区切りに』という話は出たことがない。被災者と支援者ではなく市民同士、長く縁をつないでいければ」と願う。

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編み物、絵画、写真、舞踊…個性豊かに釜石市民芸文祭 楽しみ発信「あなたは、何する?」

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生け花など多彩な作品が並んだ釜石市民芸術文化祭

 
 釜石市民芸術文化祭(釜石市、市芸術文化協会主催)は3日までの2日間、同市大町の市民ホールTETTOで開かれ、日頃の芸術活動の成果を披露した。秋を彩るこの催しは54回目。展示部門には生け花や書道、絵画、水墨画、切り絵などの作品が並び、ステージ発表部門では舞踊やバレエ、バンド演奏などが繰り広げられた。
 
 芸文協には26団体(約450人)が加盟。市外を拠点に活動している人、団体もあるが、みな釜石にゆかりがある。それぞれが多様な表現方法を楽しんでいて、年に一度、その姿を発信、共有している。
 
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多種多様な文化芸術活動に取り組む団体が一堂に会した芸文祭

 
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好きなことに取り組む人たちの楽しみが鑑賞者にも伝わる

 
 今年、2団体が新たに加わった。その一つが「ニット&レース編人・あみっとの会」。同市甲子町で教室を主宰する石井美智子さんと、釜石を中心とした岩手県沿岸部の生徒8人が繊細なレース編みの敷物や洋服、毛糸で編んだインテリア小物などを多数出展した。「タティング」「クンスト」「フィレ」などレース編みの多彩な技法のほか、ひもを結んだり編んだりして装飾模様や立体を作る手芸「マクラメ」、英国伝統刺しゅう「ニードルポイント」なども紹介。作り手たちの細やかな手仕事を楽しめる作品が目を引いた。
 
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芸文祭初参加の「あみっとの会」の展示コーナー

 
 教室に通って2年ほどという佐々木純子さん(55)は「いろんな技法に触れられるのが魅力」と話す。かぎ針編みの作品づくりに取り組むが、「年上の先輩たちのやる気がすごい。難しいものに挑戦しようとする姿勢は刺激になる。棒編み、タティングレースをやってみたい」と目標を見いだす。初参加の芸文祭は、他分野の活動を知る機会になった様子。「いざない」というタイトルが付いた写真に感動したといい、「風景を自然のまま写し出しているよう。自分が撮ってもそうならない」と笑っていた。
 
 写真作品「いざない」(全倍・900ミリ×600ミリ)は、幾重にも重なった橋脚の先にたたずむシカを捉えた一枚。撮影者は釜石写光クラブの生田輝夫さん(69)で、「偶然の一枚。趣のある古い橋を撮ろうと行ってみたら、シカがいた。何となく誘っている感じがあって…」とシャッターを切ったという。昨年度の第76回県芸術祭美術展写真部門入選作で、「見てほしい」と望むこの作品を今回、釜石市民に公開。気に入ってくれた人がいたことをうれしく思った様子で、「偶然の出会い、タイミングを楽しみに自然の風景を撮り続けたい」と意欲を高めた。
 
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仲間と集合写真に納まる生田輝夫さん(左から2人目)。右下の写真が「いざない」

 
 「優れたデザインが多い」と生田さんが感心を寄せたのは、美術集団サムディ45の展示。釜石の街並みをデザインしたマップ風の作品、災害時の冷静な行動の大切さを伝えるポスター看板などがあった。同集団に所属するイラストレーター須藤郁美さん(36)は、タブレット端末を使ったデジタルイラストの実演、体験を提供。色塗りに夢中になる岩洞木春さん(6)ら体験者の活動を見守り、「知らない人が多い分野。感動した表情がうれしい。見てもらったり触れる機会を作って普及させたい」と話した。
 
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個性あふれるデザイン画などが並んだ「サムディ45」の展示

 
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デジタルイラストの色塗り体験を提供した須藤郁美さん(左の写真)

 
 須藤さんはもともと絵を描くのが趣味で、大学時代からデジタルアートに取り組む。2年前にアーティスト活動に一本化。似顔絵、擬人化の表現を得意とし、「ポップで気軽に親しみやすい作品づくり」を心がける。芸文祭では多くの目があり、「見る側が求めているものを知ることができた」とヒントを得たようで、「もっと大きなサイズの作品を」と奮起した。
 
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書、絵画、切り絵なども並び、蘭煎会による呈茶もあった

 
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小柳玲子バレエ教室は「くるみ割り人形」で舞台発表。釜石のほか宮古、松園教室の生徒が出演

 
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KIKIダンススクールの3チームは今夏初出場を果たした全国大会の演技を披露した
 

古里釜石で舞踊初披露 菊池由美子(藤間宣福)さん 来春のタレント養成所開設に意欲

 
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「長唄 越後獅子」を踊る菊池由美子(藤間宣福)さん=2日、TETTO

 
 ステージ発表で日本舞踊を初披露したのは、釜石市出身で昨年、37年ぶりにUターンした菊池由美子さん(56)=FUKUプロモーション代表=。日本舞踊「藤間流」の名取で、舞踊家名は藤間宣福さん。東京で約30年、俳優やモデル、ナレーターとして活躍し、舞台の所作指導なども行ってきた菊池さんは、このたび市芸術文化協会にも加盟し、古里で第2の芸能人生をスタートさせた。
 
 菊池さんは釜石で踊ること自体が初めて。この日は、日本舞踊のゆったりとしたイメージを覆す「長唄 越後獅子」を披露。頭に獅子頭を乗せ、胸に太鼓をつけた越後の旅芸人が江戸に出稼ぎに来た様子を描いたもので、小道具を使って大道芸を踊りで表現した。16分の舞台を、早変わりを含め全て一人で演じ切った。
 
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元気で軽快な踊りを披露し、観客を楽しませた菊池さん
 
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釜石での初舞台を終え、ほっとした表情。会場には小中高の同級生らも駆け付けた

 
 菊池さんは高校までを釜石で過ごし、短大進学のため上京。後にモデルの仕事を始め、23歳で役者の道へ進んだ。劇団在籍時、舞台で必要だった日本舞踊を習うため、藤間流の門をたたいた。舞踊歴は約30年に及ぶ。劇団退団後、舞台の仕事を続けながら、興味のあった美容やリラクゼーションの業界にも足を踏み入れ、エステサロン経営や美容雑誌の監修なども手掛けた。
 
 2013年からはエンターテインメント会社に入り、舞台の所作指導のほかナレーターや俳優としても活躍。舞台や映画、ドラマなど制作側の仕事も学んだ。2022年には、古くからの日本女性の理想“大和なでしこ”を和の文化で発信する「なでしこ日本コンテスト全国大会クラシックの部」でグランプリを獲得した。
 
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芸能事務所「FUKUプロモーション」を立ち上げ、釜石で第2の人生を歩み始めた菊池由美子さん(写真:本人提供)

 
 Uターンを決めたのは高齢の両親のため。現在は「地方から芸能の世界を目指す人たちの力になりたい」と、タレント養成所の開設を目指して準備中。日本の伝統文化や芸能、礼儀作法などを学びながら、演技や声楽、ナレーションといった必要な技能を身に付けられる場を作りたいという。釜石の歴史や観光も学んでもらい、同市のPR役を担っていける人材の育成も目的とする。
 
 「日本には素晴らしい文化や伝統があるが、日本人は海外の人に比べ、自国の誇りを発信する力が弱い。勉強する機会が極端に少ないからだと思う。近年は担い手の高齢化や継承も問題になっている。まずは若い人たちに体験してもらい、次につながる一歩にできれば」と菊池さん。これまで自身が培ってきたものを古里釜石のために生かそうと奮闘する。
 
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2002年、厚木市文化会館で常磐津「廓八景」を踊る菊池さん(写真:本人提供)

 
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今年9月、早稲田edu日本語学校で開かれた日舞ワークショップでは講師を務めた(写真:同)

 
 養成所の開設は来春を予定。対象は幼児からシニアを想定する。将来的には、立ち上げた芸能事務所のタレントとして自らマネジメントもしていく考え。「芸能の世界を目指している子たちが自分の夢に近づけるよう全力で応援したい―」。菊池さんの新たな挑戦に目が離せない。

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油彩一筋45年 釜石市民絵画教室前会長・小野寺豊喜さん 初の個展で自身の創作活動回顧

油彩画の個展を初めて開いた小野寺豊喜さん(中央)=TETTO、30日

油彩画の個展を初めて開いた小野寺豊喜さん(中央)=TETTO、30日

 
 釜石市鵜住居町のアマチュア画家、小野寺豊喜さん(76)が自身初となる個展を開いた。釜石市民絵画教室(現・釜石絵画クラブ)で腕を磨き、長年、同教室の会長も務めてきた小野寺さん。油彩画に魅せられ、続けてきた創作活動は45年にも及ぶ。今回、同級生の働きかけも背中を押し、「これまで手がけた作品をもう一度見直す機会に」と個展開催を決めた。
 
 小野寺さんの個展は10月28日から30日まで、大町の市民ホールTETTOで開かれた。1980年代初頭の作品から近作まで計88点を展示。最小のF0(エフゼロ)から400号の大作まで見応えのある作品の数々が並んだ。小野寺さんが描くのは季節の野菜や果物、魚などの静物、海や山、花の自然風景…など。県内陸部出身ということもあり、興味をそそられるのは海や魚。中でも三陸海岸の荒々しい岩々に創作意欲をかき立てられるという。
 
野菜や果物、花などを描いた静物画。これまでに描いた作品は数知れず

野菜や果物、花などを描いた静物画。これまでに描いた作品は数知れず

 
昔、各家庭の軒先で見られた「新巻きザケ」は定番のモチーフ(左)。食卓に上る前の魚やカニも

昔、各家庭の軒先で見られた「新巻きザケ」は定番のモチーフ(左)。食卓に上る前の魚やカニも

 
悠久の時が生み出した三陸海岸の岩のある風景                                                 

悠久の時が生み出した三陸海岸の岩のある風景

 
 展示会場でひときわ目を引いたのが「震災前の御箱崎 仮宿海岸」という作品(1997年作)。画布を張ったベニヤ板4枚を一つのキャンバスにして、テトラポットの上から見えたダイナミックな“岩”風景を描いた400号の大作だ。今回の展示のために一部、加筆し、27年ぶりに日の目を見た。
 
F400の大作「震災前の御箱崎 仮宿海岸」には来場者が驚きの声を上げた

F400の大作「震災前の御箱崎 仮宿海岸」には来場者が驚きの声を上げた

 
 「震災後の風景」として4作品(F100)も公開した。がれきが積み重なるなど実際に目にした光景に、2人の孫の姿を入れて画面構成。荒れ果てた古里に立つ子どもたちの視線の先には何が見えるのか…。見る人の視点で、さまざまな感情が湧き起こる。このうち2作品は、岩手芸術祭美術展洋画部門で部門賞を受賞している。
 
県の芸術祭洋画部門で部門賞を受賞した作品「震災後の風景1」

県の芸術祭洋画部門で部門賞を受賞した作品「震災後の風景1」

 
震災後の風景2(左)と同3(右)。2人の孫とともに描かれる

震災後の風景2(左)と同3(右)。2人の孫とともに描かれる

 
 小野寺さんは1979(昭和54)年30歳の時、市教委が前年から始めた社会教育講座の絵画教室を受講。同教室終了後の81(同56)年、受講生らが自主活動グループとして立ち上げた「釜石市民絵画教室」の会員となり、創作活動を続けてきた。後に同教室の5代目会長に就任。昨年、グループ名を改称するまで務め上げた。これまでは、教室が年度末に開く「わたくしたちの絵画展」や11月の市民芸術文化祭で作品を発表してきたが、今回初めて“個展”と言う形での発表が実現した。
 
 油彩の魅力について小野寺さんは「こすったり削ったり重ねたり…。創作が自由にできるところ」と話し、その過程を人生に照らし合わせる。「人も失敗や成功、気持ちの高ぶりや落ち込み、いろいろな場面に遭遇するが、失敗したら直せばいいし、絵にも人生にも答えというものはない。ものの見方、感じ方も人それぞれ。どちらも自由さが必要」。自身は20代後半に単身でオーストラリアに渡り、砂漠地帯の一人旅を経験した。そこで得た「良いことも悪いことも受け止めて生きる」姿勢は絵を描く上でも生かされているという。
 
来場者に作品の説明をする小野寺豊喜さん(左)

来場者に作品の説明をする小野寺豊喜さん(左)

 
全88点の作品が小野寺さんの絵画人生を物語る

全88点の作品が小野寺さんの絵画人生を物語る

 
 縁あって釜石で仕事をすることになり、人生を豊かにする絵画の世界にも足を踏み入れた。それから45年―。2011年の東日本大震災では、高台の自宅は津波被害を免れたが、地元鵜住居の景色は一変した。発災時は市民絵画教室の展示会初日。会場の市民文化会館(大町)にいた会員4人は辛うじて避難し無事だった。小野寺さんは3日後、同館に向かい、暗く泥にまみれた室内から自作9点を含む43点の作品を“救出”。泥を落とし会員に返した。
 
左:函館連絡船でのスケッチ 右:ツバキを描いた小作品(F0)

左:函館連絡船でのスケッチ 右:ツバキを描いた小作品(F0)

 
小野寺さんの作風に触れながら鑑賞する来場者

小野寺さんの作風に触れながら鑑賞する来場者

 
 初の個展を経験した小野寺さんは、作品を振り返る中で「新たなテーマが見つかった」と話す。今までは忠実に描こうという気持ちが強かったが、「単純化された表現」に興味が向いた。「もっと物の見方、感じ方も変わっていいのではないか。そうすればさらに面白い作品ができる。まだまだ、あと10年は描きたい―」。当初、“最初で最後”と考えていた個展だが、また数年後にも実現するかもしれない。

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釜石・国際外語大学校で入学式 日本語学科開設、希望胸にネパール出身16人 観光系と2学科体制に

サリーなど華やかな衣装をまとって入学式に臨んだ学生たち

サリーなど華やかな衣装をまとって入学式に臨んだ学生たち

 
 釜石市鈴子町の「釜石市国際外語大学校」(竹内新也校長)に留学生を受け入れる日本語学科が開設され、28日、入学式があった。1年半コースの第1期生として、ネパール出身の16人が仲間入り。「日本語の勉強をがんばりたい」「日本で働きたい」との夢や希望を抱き、実現へ新たな一歩を踏み出した。日本人向けの外語観光学科との2学科体制が始動。同校にとっても新展開が予想され、関係者らは“わくわく感”を膨らませる。
 
 同校は学校法人龍澤学館(盛岡市)が運営する専門学校。若者の定着や地域活性化を狙いに釜石市が誘致し、今年4月に開校した。外国人対象の日本語学科は1年半と2年の2コースを設け、定員は各40人。法的手続きの影響で開講が予定より1年遅れていたが、ようやく1年半コースの10月開始にこぎつけた。
 
 日本語学科開設・入学式は大町の市民ホールTETTOであった。「サリー」など華やかな民族衣装や真新しいスーツに身を包んだ18~22歳の留学生16人が参加。学校や市の関係者ら約60人が拍手で迎えた。
 
拍手で迎えられる釜石市国際外語大学校日本語学科の1期生

拍手で迎えられる釜石市国際外語大学校日本語学科の1期生

 
 竹内校長は「ようこそ、日本、岩手県、釜石へ。皆さんが思い描く夢や希望の実現を導くために全力を挙げる」と式辞。2学科体制が本格化し、「わが校がどのように進むか興味深い」とワクワク感を募らせた。留学生を迎えるにあたり、市民から食器や調理器具などの提供があったことも紹介。「釜石のコミュニティーの一員として、自覚を持って生活をしてほしい」と望んだ。
 
日本語学科開設・入学式。式辞を述べた竹内新也校長(右上写真)

日本語学科開設・入学式。式辞を述べた竹内新也校長(右上写真)

 
竹内校長らのあいさつに熱心に耳を傾けるネパール人学生

竹内校長らのあいさつに熱心に耳を傾けるネパール人学生

 
 新入生を代表し、ラワル ユブラズさん(20)は「日本語の勉強をがんばります。卒業したら、日本でビジネスを勉強したいです。自動車のメカニックにも興味があります」と意気込みを伝えた。16日に来日し、釜石での生活は始まったばかり。「まち、道、海がとてもきれい。人も親切で優しい」と好印象を持った様子だ。
 
新入生を代表し意気込みを伝えるラワル ユブラズさん

新入生を代表し意気込みを伝えるラワル ユブラズさん

 
夢や希望を持ってネパールから釜石にやってきた学生たち

夢や希望を持ってネパールから釜石にやってきた学生たち

 
 先行する外語観光学科1年生の2人が歓迎の言葉。「多様性を尊重し、皆が分かり合うことを大切にするこの学校で一緒に学び、互いに成長できることを楽しみにしている。支え合いながら楽しい学校生活を送りましょう」と激励を込めた。
 
外語観光学科で学ぶ在校生は日本語と英語で歓迎を伝えた

外語観光学科で学ぶ在校生は日本語と英語で歓迎を伝えた

 
 同法人が取り組む日本語教育は20年目を迎え、これまで世界20カ国、1000人超を受け入れてきた。仕事の都合で入学式に参加できなかった龍澤尚孝理事長は「思いっきり勉強、アルバイトに励み、釜石での暮らしを楽しんでください。生きる学びで地域に溶け込み、多文化共生社会につなげてほしい」などとメッセージを寄せた。
 
 日本語学科の授業はすでに始まっている。学生らはある程度日本語は理解できるというが、今後週に20時間、日本語を学習。日本の大学や専門学校への進学を見据えており、1年半後には日常生活に必要な言葉が分かる程度の習熟を目指す。
 
釜石での生活をスタートさせた学生と見守る講師陣

釜石での生活をスタートさせた学生と見守る講師陣

 
食器や調理器具などの提供に感謝を伝えるパネル

食器や調理器具などの提供に感謝を伝えるパネル

 
 学生は市が整備したアパートで生活。学内の交流のほか、地域活動も進めながら異文化理解を深めていく。アルバイトについて、出入国管理法では申請すれば週28時間以内(長期休暇中は週40時間)の就労が可能となっていて、学校と市が市内事業所を訪問活動中。また、来春には2年コースが始まる予定で、ネパールやミャンマーからの留学生20人ほどが入学を希望しているという。

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楽しい!高校生活、見せます 釜石・商工祭 専門の学び 特色生かした体験、展示で

釜石商工高の学校祭で機械科の生徒の作業を見守る家族連れ

釜石商工高の学校祭で機械科の生徒の作業を見守る家族連れ

 
 釜石市大平町の釜石商工高(今野晋校長、生徒180人)で27日までの2日間、「商工祭」が開かれた。商業、工業高の統合から16年目の学校祭は「商工華~百花斉放~」がテーマ。機械、電気電子、総合情報科の生徒それぞれが専門的に学んできた成果を地域に公開した。学業と合わせ、「楽しい」を視点に取り組む委員会や部活動でも多彩な個性を発揮。生き生きとした魅力あふれる学校生活を来場者に伝えた。
 
 学校のことをたくさん知ってほしい―との思いが込もった商工祭。工業系、商業系の特徴を生かした企画や展示を用意した。機械科は旋盤や溶接作業の実演、電気電子科は静電気発生装置「バンデグラフ」を使った実験やエネルギー模型の展示などを実施。ものづくりの楽しさ、磨いてきた技術力を見せた。
 
s黒い線を感知しながら自動で走る模型を紹介した電気電子科

黒い線を感知しながら自動で走る模型を紹介した電気電子科

 
実演や体験を通じ、ものづくりの楽しさを伝えた工業系の生徒ら

実演や体験を通じ、ものづくりの楽しさを伝えた工業系の生徒ら

 
 体験企画もあり、機械科では六角形の真ちゅう(直径約1センチ、長さ10センチ)を加工する文鎮作りを準備。生徒の保護者や家族、地域住民らは、同科1、2年生の説明を聞きながら旋盤での切削、取っ手となるねじを付けるための穴あけなどの作業を見学したり、やすりでの面取りに取り組んで完成させた。
 
 同科の佐々木琥羽さん(1年)は「誰でもできる簡単な作業で、ものづくりの楽しさを体感してもらえる機会だ」と積極的にアピール。佐藤匠さん(同)は緊張しながらも体験を希望した子どもらに寄り添い、作業を支えた。機械関係の仕事を念頭に知識や技術を習得中で、「さまざまな工具、機械に触れられて楽しい。資格取得もできるので就活に有利」と意欲を見せた。
 
スマホカメラで撮影しながら真剣な表情で見守る保護者も

スマホカメラで撮影しながら真剣な表情で見守る保護者も

 
 総合情報科は伝統の「商工マーケット」でおもてなし。生徒らが調査し、「おいしそう」「売れる」と思った菓子や麺、レトルト食品などを全国から仕入れて販売した。「おすすめですよ」「おやつにどうぞ」など元気に呼び込み、購入者には「ありがとうございます」と笑顔を添えた。
 
商工マーケットで購入者に笑顔で感謝を伝える生徒

商工マーケットで購入者に笑顔で感謝を伝える生徒

 
 ご当地スナックと岩手産リンゴを販売した同科の木下莉星さん(2年)のイチ押しは京都の金平糖専門店・青木光悦堂の砂糖菓子「ボンボン」。小さくてカラフルな見た目が「かわいい!」と選んだ商品で、狙い通り、子連れの家族が手に取っていて、「うれしい」と笑った。班の仲間7人で調査、仕入れ、交渉などを手分けし、苦労もあったというが、「言葉遣いに気を付けたり、質問された時の対処とか、コミュニケーション力を身に付ける機会。大変だったことは将来、役立つはず」と充実感をにじませた。
 
工夫を凝らして呼び込みをする総合情報科の生徒ら

工夫を凝らして呼び込みをする総合情報科の生徒ら

 
 ステージ発表ではなぎなたの演舞や、吹奏楽部の演奏会があった。「商工虎舞」は若々しい舞、威勢のいい掛け声で学校祭を盛り上げた。虎舞委員会の委員長で機械科2年の山崎陸翔さんによると、練習は週2回、昼休み時間が主で、18人いるメンバーがそろうことはほぼなし。それでも、コロナ禍の影響が落ち着き、声を出せるようになったことで活動意欲は高まっている。
 
なぎなたの演舞や虎舞を生徒や地域住民が楽しんだ

なぎなたの演舞や虎舞を生徒や地域住民が楽しんだ

 
好き、楽しさを表現。息を合わせて虎舞を披露した

好き、楽しさを表現。息を合わせて虎舞を披露した

 
 幼少期から身近にあった虎舞が「大好き」な山崎さん。伝統の商工虎舞の素晴らしさを多くの人に知ってもらおうと演舞にも力が入る。委員会としての活動だが、1年生メンバーが少ないのが気になっている様子。学年間の基本的な礼儀はあるが壁はなく、「仲も雰囲気もいい。やってみれば楽しさも分かると思う。学外で披露したり、いろんなことに挑戦したい」と前を向いた。
 
 生徒たちが開かせた多彩な花(学びの成果)は来場者に届いた様子。総合情報科で学ぶ娘の姿を見守った高木未来さん(40)は「接客や運営をしっかりやっていたし、普段とは違った面を見られた」と目を細めた。高校時代から専門的な学びに取り組む生徒たちにも感心。「各科の特色を生かした内容で楽しむことができた」とほほ笑んだ。
 
階段を彩るアート作品。たくさんの「商工華」は成長を続ける

階段を彩るアート作品。たくさんの「商工華」は成長を続ける

 
 戸塚敏彦副校長は「人とのつながりを感じ、学びを実践する場になれば。失敗も経験。トライ&エラー、やって失敗しても、また挑戦して改善、磨き上げればいい。地域の人たちに学校を知り、理解し、喜んでもらえたらうれしい」と話した。

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釜石の民俗芸能・片岸虎舞 6年ぶりに演舞 待ちわびた住民ら「最高だ」目頭熱く

心一つに片岸虎舞を披露する保存会のメンバー

心一つに片岸虎舞を披露する保存会のメンバー

 
 釜石市片岸町で伝承される「片岸虎舞」が13日、住民らを前に6年ぶりに躍動した。地元鎮守・片岸稲荷神社の例大祭に合わせ舞の奉納や門打ちを行ってきたが、新型コロナウイルス禍の影響や少子高齢化による人手不足などから活動が停滞。そんな状況に危機感を持った保存会の中堅メンバーらが「地域の宝を守らねば。できることをやろう」と再び動き出した。
 
 70人ほどの人が集まった同神社前の広場。笛や太鼓の音、威勢のいい掛け声を町内に響かせながら近づく特設の山車を多くのワクワク顔が迎えた。片岸虎舞保存会(柏﨑育也会長)の有志約30人は鎮守にあいさつ。「よし、やるかー!」と、気持ちを一つに舞台に向かった。
 
 遊び戯れる様子を表現する「片岸虎」、笹で牙を磨く場面を見せる「笹喰(ば)み」を勇ましく舞った。「うさぎ」「甚句」「大漁万作」など手踊りも披露。鳥を捕らえる姿を表する「刺鳥舞」は風流な歌い節に合わせて舞い手が軽やかに踊り、住民から盛んな拍手を受けた。
 
片岸稲荷神社前にある広場で虎舞を披露した

片岸稲荷神社前にある広場で虎舞を披露した

 
多彩な手踊りを次々と繰り広げるメンバーら

多彩な手踊りを次々と繰り広げるメンバーら

 
 片岸虎舞は江戸時代から続き、市内でも古い歴史を有する芸能の一つ。1998年に市の無形文化財に指定された。虎舞のルーツとされる国性爺合戦の和藤内の虎退治の場面を演じ、多くの手踊りがあるのが特徴。虎の勢いのよいしぐさを表現した勇壮な舞と、テンポの速いおはやしも持ち味となっている。
 
 「おはやし、耳になじんでいる」「懐かしいね」「こんなに人が集まるのは久しぶり。ウキウキする」「覇気もらった」「虎舞がないなんて…考えられない」。民俗芸能が人、地域をつなぎ、住まう人たちに伝統を大切にする思いが根付く。
 
ベテランメンバーの歌声が舞い手を盛り立てる

ベテランメンバーの歌声が舞い手を盛り立てる

 
虎舞、再会を待ちわびた住民らには笑顔が広がった

虎舞、再会を待ちわびた住民らには笑顔が広がった

 
 そんな虎舞も近年、思うような活動ができない状況が重なった。片岸地区は2011年の東日本大震災で被災。虎頭や太鼓、踊り道具も津波で失ったが、全国からの支援でそろい、翌年に復活。その後は10月の同神社例大祭で舞を奉納、門打ちを行ってきた。
 
 19年、釜石も会場となったラグビーワールドカップ(W杯)日本大会では2試合目が台風災害の影響で中止されたが、同じように祭り時期を迎えていた虎舞もお披露目が取りやめとなった。以降、コロナ禍で制約の多い生活が続いた上、保存会メンバーの高齢化、踊り手となる子どもの減少などもあり、祭り神事での奉納だけとなった。門打ちはせず、郷土芸能が一堂に会す催しへの出演も控えていたため、住民の多くは目にする機会が減った。
 
 震災後、住民が散り散りになった同地区では再建が進んだものの、地区外に居を移した人も少なくない。保存会のメンバーも然り。そんな中、地区内に住む保存会メンバーの耳に「虎舞が見たい。おはやしが聞きたい。今年はどうするの、踊らないの?」などと声が届くようになっていたという。
 
 伝統継承-。思いを持ち続けていた保存会事務局の柏﨑洋也さん(41)が中心となって仲間に声掛けし、「伝え続けるため、やれることをやろう」と決めた。今年は11日が同神社例大祭で、前日の宵宮祭で虎舞を奉納。平日だったこともあり門打ちは行わず、週末の日曜日に披露する形にした。
 
つなぐ誇りを胸に虎舞、手踊りを披露する保存会のメンバー

つなぐ誇りを胸に虎舞、手踊りを披露する保存会のメンバー

 
 当初、40代メンバー8人ほどの予定だったが、本番には「やりたい」という子どもや地区外からも仲間が集った。見る側の住民も同じで、久しぶりの再会を楽しむ姿もあった。洋也さんは「地域の人たちが喜んでくれたのが一番。集いの場を作るいい機会にもなった」とうれしそうに目を細めた。
 
 地元の新屋碧さん(鵜住居小6年)は5年前に練習に参加したものの祭りが中止となり、「どうしても踊りたい」と、友達の三浦琉生さん(同)を誘って参加した。数回の練習だったことから緊張したというが、保存会メンバーの教え方や雰囲気が心地よく、「楽しかった」と満足げ。来年は中学生となり、部活などで忙しくなるが、「地域にこういう伝統があるのを誇りに思う。残していきたいから続けたい」と受け止めた。
 
ベテラン、若手、子ども、OBも加わり伝統芸をつなぐ

ベテラン、若手、子ども、OBも加わり伝統芸をつなぐ

 
息の合った演舞とおはやしに住民らが拍手を送った

息の合った演舞とおはやしに住民らが拍手を送った

 
 片岸の虎頭は市内でも数少ない木彫り。がれきの中から見つかった1つは修復し大切に保管する。支援で2つが新調された。かつてはケヤキが使われていたが、今回は桐の木を使い軽量化。それでもズシリとした重さは舞い手たちに残る。洋也さんも久々の感触に「年齢を感じる」というが、表情には充実感がにじむ。
 
 かつてメンバーだった70代男性のもとに現役メンバーが歩み寄り、「どうだ?」と虎頭を手渡す場面も。男性は「軽いと思って踊っていたけど、重いなー。昔を思い出す。片岸に住んでいたら、やっぱりやらなきゃ。虎舞が死んだら、地域も死ぬ」と目頭を熱くする。そして、しみじみと…「最高だ」。足腰が弱くなったというが、「来年は踊っているかも、そんな力をもらった。ありがてぇ」と笑顔も光らせた。
 
虎舞がつなぐ世代間交流。笑顔がまぶしい

虎舞がつなぐ世代間交流。笑顔がまぶしい

 
大人の演舞に感化されてウズウズ。子ども虎舞も躍動

大人の演舞に感化されてウズウズ。子ども虎舞も躍動

 
 若い世代につなぐステップに―。保存会では「来年は門打ちを」と気持ちを一つにする。そして、今回披露できなかった演目・和藤内の復活も目指す構え。片岸虎舞の見どころの一つで、子どもの舞い手が欠かせない。洋也さんは「今回、思いのほか子どもたちが参加してくれた。その意気込みを大事にしたい」と話した。
 
伝統芸が地域を彩る景色…来年もまた見られますように

伝統芸が地域を彩る景色…来年もまた見られますように

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医療従事者ら趣味の作品多彩に 釜石医師会が41回目の美術工芸展 20日まで開催中

17日に行われた釜石医師会「第41回医家美術工芸展」の展示作業

17日に行われた釜石医師会「第41回医家美術工芸展」の展示作業

 
 釜石医師会(小泉嘉明会長、会員52人)が開く「医家美術工芸展」が、本日18日から釜石市中妻町の釜石医師会館で始まった。会員医師や看護師、薬剤師とその家族らが制作した趣味の作品を展示する。医療現場の顔とはまた違った一面をのぞかせる同展。今年もさまざまなジャンルの作品が並び、出品者の豊かな人間性を感じさせる。20日までの開催で、同会事務局は「ぜひ多くの皆さんに見に来てほしい」と呼び掛ける。
 
 同展は1979(昭和54)年から続く秋の恒例行事。東日本大震災で2年間、新型コロナウイルス禍で3年間の中止はあったものの、脈々と回数を重ね、今回で41回目を迎えた。同医師会に所属する釜石大槌地区の開業医や地区内の国立、県立病院の勤務医のほか、関係病医院の看護師、薬局の薬剤師、それぞれの家族など67人が出品。作品数は114点に上る。
 
 絵画は油彩やパステルなど。医業の傍ら創作活動を続け、美術分野でも名を知られる医師の作品のほか、医師家族3世代が描いたほのぼのとした作品も。絵手紙や書、水墨画の作品も出品された。今回は写真が多く、各地の自然風景や祭り、スポーツなど多彩な被写体が並ぶ。季節の写真は年に6回発行する医師会報の紙面にも活用されるという。
 
東日本大震災津波に襲われた市中心市街地を描いた絵画も(右)

東日本大震災津波に襲われた市中心市街地を描いた絵画も(右)

 
市内外の季節の風景を捉えた写真作品

市内外の季節の風景を捉えた写真作品

 
体長1メートル18センチ! タチウオのデジタル魚拓は本物の色や質感が出てきれい

体長1メートル18センチ! タチウオのデジタル魚拓は本物の色や質感が出てきれい

 
 今の時代を感じさせるのが「デジタル魚拓」。スマートフォンやデジタルカメラで撮影した魚の画像を実寸大でプリントするもので、会員医師が釣り上げた1メートル超えのタチウオが色や大きさそのままに魚拓として残されている。
 
 細かな手仕事が光る作品も多数。ステンドグラス、レースや毛糸の編み物、各種フラワーアレンジなど、根気と集中力が発揮された作品が見られた。木の皮で編んだ籠バッグ、木の実細工など自然素材を生かした作品も。ツイッター(現X)発の人気キャラクター「ちいかわ」の漫画ページを刺しゅうで再現した作品は、一針一針でつないだ線の美しさに驚かされる。パン屋の店頭で見られる飾りパンもお目見え。ディスプレイ用だけでなくインテリアとしても楽しめる“食べられないパン”は実際の食材で作られ、焼きたての香りが漂ってきそうな仕上がり。
 
書やステンドグラス、フラワーアレンジの作品などが会場を彩る

書やステンドグラス、フラワーアレンジの作品などが会場を彩る

 
「ちいかわ」漫画の刺しゅう作品。文字まで全て縫い込まれている

「ちいかわ」漫画の刺しゅう作品。文字まで全て縫い込まれている

 
飾りパンやビーズアート(写真上段)など珍しい作品も…

飾りパンやビーズアート(写真上段)など珍しい作品も…

 
 県内には地域ごとに組織される医師会が14あるというが、同様の展示会を開いているのは釜石だけ。会場には会員やその家族のほか一般市民が足を運び、作品鑑賞を通じて交流の輪を広げている。同医師会の川崎浩一事務長(60)は「忙しい日々を送る医療関係者にとって、こうした趣味に親しむ時間は貴重なリフレッシュの機会になっているよう。診療でまとまった休みが取りづらい先生方も大型連休などに遠出して写真を撮ってきたり…。長く続くこの展示会は歴代の先生方が紡いできた医師会の大切な歴史の一つ」と話す。
 
展示会では作品に出品者の名前も添えられている。顔見知りの医師や看護師の作品もあるかも

展示会では作品に出品者の名前も添えられている。顔見知りの医師や看護師の作品もあるかも

 
 第41回医家美術工芸展は20日まで開催。開場時間は午前10時から午後5時まで。展示会場の釜石医師会館は、国道283号沿いの小泉医院裏手にある。

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紡ごう「鋼鐵の路」 釜石高校創立110周年記念式典 続く学び…OBの大学教授が講演

歴史と伝統をかみしめながら校歌を歌う釜石高の生徒ら

歴史と伝統をかみしめながら校歌を歌う釜石高の生徒ら

 
 釜石市甲子町の岩手県立釜石高校(青木裕信校長、生徒・全日制387人、定時制16人)の創立110周年記念式典は5日、同市大町の市民ホールTETTOで開かれた。在校生、教職員、同窓生ら約550人が出席。歴史の重みを感じながら「鋼鐵(はがね)の路(みち)」を紡ぐ思いを一つにした。
 
 同校の始まりは、1914(大正3)年に設置された釜石女子職業補習学校。学制改革を経て49(昭和24)年、3校の統合により釜石高校が誕生した。高校進学率の向上などで釜石南、釜石北の2高校に分離独立。2008(平成20)年、高校再編で2校が統合し新生「釜石高校」となった。これまでに4万人近くの卒業生を輩出している。
 
 教育理念「文礼一如(ぶんれいいちにょ)」を礎に、広い視野を持った人材の育成に力を入れる。ここ10年間は、変化する生活様式や社会との関係性に対応すべく変革を推進。ICT(情報通信技術)を教育活動に取り入れた生徒主体の探究的な学びや体験学習を重視する。東日本大震災後の復興の道のり、防災の学びを伝える活動も活発。新型コロナウイルス感染症の流行で生活の一変という逆境に直面したが、学び続ける姿勢は変わらない。
 
釜石高校の創立110周年を記念して開かれた式典

釜石高校の創立110周年を記念して開かれた式典

 
 式典で、青木校長が「先輩たちが築き上げた歴史と伝統の重さを受け止め、釜高生としての誇りを持ちながら新しい時代の創造者に。創立110周年を一つの出発点として、鋼鐵の路を紡いでいこう」と式辞。創立110周年記念事業実行委員会の澤田龍明委員長は「今、この時が人生においての経験であり、将来の大きな糧になる。高校時代の一瞬一瞬を大切に過ごしてほしい」とあいさつした。
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式典であいさつした青木裕信校長(左の写真)、澤田龍明委員長

式典であいさつした青木裕信校長(左の写真)、澤田龍明委員長

 
 生徒を代表し、前生徒会長の一関航帆(かずほ)さん(3年)は「110年の歴史を持つことは数多くの先輩方が挑戦し、地域に貢献してきた証し。その重みを受け止め、後世に伝えていく決意を新たに、それぞれが高みを目指して挑戦し続ける」と誓った。
 
釜高生としての誇りを胸に飛躍を誓う一関航帆さん

釜高生としての誇りを胸に飛躍を誓う一関航帆さん

 
 「岩手の山川 太平洋の……百錬鍛へし 鋼鐵の意志(こころ)……文あり 我等の釜石高校」。校歌斉唱、心一つに声を合わせた。歴代の校長(3人)やPTA会長(4人)、定時制教育振興会長(2人)、同窓会長(2人)、記念事業実行委員長(1人)への感謝状贈呈もあった。
 
教育理念「文礼一如」が詰まった釜石高の校歌

教育理念「文礼一如」が詰まった釜石高の校歌

 
校歌斉唱。「鋼鐵の意志」をかみしめながら歌う在校生ら

校歌斉唱。「鋼鐵の意志」をかみしめながら歌う在校生ら

 
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吹奏楽部の生徒らは音に思いをのせて演奏した

 
 式典後は、同校OBで広島大宇宙科学センター長の川端弘治教授(観測天文学)=1989年度卒=による記念講演があった。タイトルは「五葉下ろしと鉄の街に導かれた我が天文学の旅」。高校時代は山岳部に所属し、幾度も登った三陸沿岸最高峰・五葉山(標高1351メートル)などで見た絶景や星空に感動して天文学に興味を持ったこと、部活での経験が現在の研究者人生にも役立っていることを紹介し、「釜石高を選んで良かった」と大きくうなずいた。
 
高校時代や研究人生を振り返る川端弘治教授

高校時代や研究人生を振り返る川端弘治教授

 
 宇宙の成り立ちに大きく寄与する超新星に関する研究に取り組み続ける川端教授。謎に迫る研究の成果を示しながら、「『鉄』は超新星爆発を引き起こし、中性子やブラックホールをつくる特別な重元素。釜石とのつながりを感じ続けていた」と、これまでの道のりを振り返った。
 
 宇宙に関心があるという阿部愛奈(えな)さん(3年)は「ゴールがない研究をすることは大変なこともあったと思う。釜高での経験が今につながっている―という言葉が印象に残った。私も日々の生活、青春を大切にしていきたい」とお礼の言葉。木村妃菜さん(同)が花束を手渡した。
 
式典会場には生徒らの探究活動を紹介する展示もあった

式典会場には生徒らの探究活動を紹介する展示もあった

 
 記念事業は、記念誌「10年小史」の刊行、記念品(トートバッグ)やメッセージパネルの製作など。文部科学省の「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」指定校(第3期)として課題研究に取り組む生徒らを支援する取り組みも行っており、会場となった同ホール内には、研究成果をまとめたポスターが展示された。

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書で応援!ふるさと大使・支部蘭蹊さん(書家) 釜石で個展「言葉との出合いを」

釜石で2回目の個展を開いた書家の支部蘭蹊さん

釜石で2回目の個展を開いた書家の支部蘭蹊さん

 
 「釜石応援ふるさと大使」で宮城県仙台市在住の書家、支部蘭蹊(はせべらんけい=本名・一郎)さん(73)の個展「見る・観る・魅る-書・響きあい展」は9月27日~29日、釜石市大町の市民ホールTETTOで開かれた。昨年に続く2回目の開催で、ずらりと並んだ約100点はほぼ新作。つづった言葉に込めた思いや表現世界を、独創性という“味”を加えた文字で伝えた。
 
 支部さんは中学、高校時代を釜石で過ごした。東日本大震災後、釜石市内の仮設住宅を回って書を届けたり、高校の同期生でつくった復興支援グループ「釜南44」の活動(作品展示や音楽イベントなど)を通じて古里応援を続けている。2022年に同大使に就任。今年から、「脳活書道」という手法で文字を書くことや創ることを楽しんでもらう講座を月に1回開いている。
 
 会場に多く並んだのは額入りや掛け軸、帯地を利用したタペストリーなど日常生活で目にできる形に仕上げられた作品。はがきや置物もあり、心に寄り添う言葉のほか、宮沢賢治や石川啄木、金子みすゞらの詩、井上ひさしの言葉、種田山頭火の句などを書で表現した。
 
大小さまざまな作品が並んだ「書・響きあい展」

大小さまざまな作品が並んだ「書・響きあい展」

 
紙、布、硯石、壁紙などさまざまなものに表現した書作品

紙、布、硯石、壁紙などさまざまなものに表現した書作品

 
 ひと味違う―のが、支部さんの作風。書道は「筆と紙があれば」と思うが、半紙のような白っぽい紙を使っているものは少ない。紙ではないものも多く、着物など布、壁紙を使い、表面の凸凹を生かした立体表現を見せる。硯石に刻字(すかし彫り)した作品は震災被災地で石の産地・石巻市(宮城)を応援、「一緒に頑張ろう」と気持ちを込めて使い続ける“書紙”の一つだ。
 
 立体との視点では、独自の技法「墨彩書(ぼくさいしょ)」も紹介する。表面には普通に文字を書くが、裏面から油分を含んだ墨を吹きかける手法。墨の黒文字の外側に白い枠線がついた“袋文字”的なものだが、色彩のコントラストで文字が浮かび上がっているように見える。
 
支部さんオリジナル技法「墨彩書」を用いた作品

支部さんオリジナル技法「墨彩書」を用いた作品

 
 墨をつけたら筆になるー。「何を求める 風の中ゆく」としたためた作品はたばこのフィルターを使い、「はばたき」と記したものは金色のインクが入ったチューブで字形を絞り出している。使う素材を生かす支部さんが残す文字は自然体。「書道は言葉との出合い。手紙文なようなもので、読めて、相手に伝わらなければ」と一文字ごとに思いを乗せている。
 
教えてもらわなければ分からない⁉筆ではないものを使った作品

教えてもらわなければ分からない⁉筆ではないものを使った作品

 
作品の説明をしながら来場者と触れ合いを楽しむ支部さん

作品の説明をしながら来場者と触れ合いを楽しむ支部さん

 
 書道は「難しい、次元が違う」「書いても下手」と思われがちだと話す支部さん。「違う世界がある」と、会期中に書のパフォーマンスを見せた。来場者の好きな言葉を書いてプレゼント。その際に見せたのが脳活書道で、文字を分解して書き順を変えながら書き上げた。「絵を描くように文字を創り上げる。書はデザイン。アートしようよ、ということ」と楽しそうに笑った。
 
訪れた人のリクエストに応えて書をしたためる支部さん

訪れた人のリクエストに応えて書をしたためる支部さん

 
脳活書道の実演。左上の写真から時計回りに見ていくと…

脳活書道の実演。左上の写真から時計回りに見ていくと…

 
 支部さんは、鑑賞をきっかけに「何かやってみよう」という人が増えることを期待する。「だまされたと思ってやってみてほしい」と呼びかける脳活書道講座は10月13日、11月24日(会場はいずれも釜石情報交流センター)に開催予定。「文字に対する新発見を糸口に発想を転換させ、脳に刺激を。若々しく元気に、人生、いきいき楽しみましょう」。個展のタイトルに込めた“響きあい”を待つ。

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ネパールの多様な文化を紹介 釜石・国際外語大学校 留学生受け入れ前に展示会

釜石市国際外語大学校で開かれている「ネパール展」

釜石市国際外語大学校で開かれている「ネパール展」

 
 釜石市鈴子町に今春開校した専門学校「釜石市国際外語大学校」。若者の定着や地域活性化を狙って市が誘致し、先行する外語観光学科で日本人学生が社会で活躍する力を磨いている。その学びの場にまもなく日本語学科が開設される。ネパールから約20人が仲間入りを予定。同国について理解を深め、留学生をあたたかく迎えてもらおうと、校内で「ネパール展」を開いている。30日まで。
 
 インドと中国チベット自治区に接するネパールは多民族国家で、公用語はネパール語だが、さまざまな言語が飛び交う。宗教はヒンズー教が主流だが、仏教徒やイスラム教徒も暮らす。世界最高峰エベレストで知られるヒマラヤの山国として、日本人にとってもなじみがある。
 
 会場は、校舎として利用する市教育センター5階の教室。民族衣装、バッグや帽子などの民芸品、生活用品を並べて多様な文化を紹介する。合わせると90点ほどあり、来釜する留学生が現在、通っている現地の日本語学校や、青年海外協力隊員などから提供されたものが中心。展示物に添えられた説明文を見ながら、生活の様子をうかがい知ることができる。
 
教室の一室を使って展示。90点ほどが並ぶ

教室の一室を使って展示。90点ほどが並ぶ

 
民芸品や書籍などがずらり。興味津々で見つめる来場者

民芸品や書籍などがずらり。興味津々で見つめる来場者

 
ボードゲームや宗教用品、教科書、手作り辞典などもある

ボードゲームや宗教用品、教科書、手作り辞典などもある

 
 展示には、外語観光学科の学生も協力。食文化や言語などを調べ、スライドにまとめたものを壁に映し出し、同国について発信している。「首都は?」「国旗の特徴は何?」といったクイズも用意。楽しみながら魅力に触れてもらうよう見せ方に工夫を加えた。
 
外語観光学科の学生が制作したスライドショーも見られる

外語観光学科の学生が制作したスライドショーも見られる

 
クイズを楽しみながらネパールについて理解を深める来場者

クイズを楽しみながらネパールについて理解を深める来場者

 
 市民に外国の人や文化に理解を深めることで歓迎ムードを高めてほしいとの願いに加え、「留学生が早く地域になじむよう、土台作りにつながれば」という期待も込もった展示となっている。「互いに理解し、あたたかい交流ができたら」と、日本語学科を担当する教師の佐々木美穂さん(41)。学校を飛び出し、地域での活動も視野に入れている。
 
異国の雰囲気が加わった釜石の街景色も楽しめる⁉

異国の雰囲気が加わった釜石の街景色も楽しめる!?

 
 留学生の生活支援として、家庭で眠る未使用の調理用具などの提供を呼びかけたところ、十分な心が寄せられた。海外の若者たちがやって来ることを「楽しみにしている」との声もあるといい、同校では「釜石に来てよかった」と留学生が感じられるようサポートしていく。
 
 日本語学科は10月中旬に授業が始まる。留学生と街で出会ったら…展示での学びを生かし、ネパールで使われる「ナマステ(おはよう、こんにちはといった、あいさつ言葉)」、「サンチェイ チョウ?(お元気ですか?)」、「ダンネバード(ありがとう)」などと笑顔で声をかけてみては。

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海から町を見てみよう!釜石中1年生、巡視船で体験航海 海保の仕事 触れて実感

巡視船から港内を見つめる釜石中の生徒。海上保安業務を体験した

巡視船から港内を見つめる釜石中の生徒。海上保安業務を体験した

 
 釜石中(佐々木一成校長、生徒294人)の1年生88人は8月29日、地域を知る総合的な学習の一環として釜石海上保安部(佐々木篤部長)で業務体験学習を行った。業務内容の説明を受け、救助方法・搬送法に挑戦したほか、実際に巡視船にも搭乗し見学。身近にある海に親しみながら、その安全を守る仕事について理解を深めた。
 
 同校では1年生が釜石について学習中。これまでに製鉄体験、ラグビー、漁業・農業などをテーマに学びを深めてきた。今回は「海のまち」に親しんでもらうのを狙いに、釜石市生涯学習まちづくり出前講座に登録されている同保安部が提供するプログラムを活用。2班に分かれ、さまざまな体験に取り組んだ。
 
釜石海上保安部で業務内容について説明を受けた

釜石海上保安部で業務内容について説明を受けた

 
 市魚河岸の釜石港湾合同庁舎では、同保安部総務係の半澤朋幸さん(36)が船舶の安全な航行や治安の確保、海の環境保全、災害への備えなど多岐にわたる業務の概要を説明した。船舶だけでなく、情報通信や設計など陸上で行う仕事、航空に携わる仕事も。「海上保安部は警察、消防、パイロット、一般事務、潜水士などさまざまな職種があり、将来の仕事を決める参考にしてほしい」と強調した。
 
 海上保安官の業務もいくつか体験。火災時や有害気体物質が発生している時に呼吸を確保するために使用する「ライフゼム」と呼ばれる空気呼吸器を装着する体験では空気ボンベやハーネス、マスクなどを背負い、身に付けると総重量15キロほどになり、「重たい」「これで作業するのはきつい」などと声を上げた。毛布を使った傷病者の搬送方法、船をつなぎ留めるときに使う「もやい結び」などロープワークも実践。釣り中に海中転落した際のペットボトルやクーラーボックスを利用した救助方法も学んだ。
 
空気呼吸器の取り扱いについて説明を聞く中学生

空気呼吸器の取り扱いについて説明を聞く中学生

 
海上保安官に教わりながら空気ボンベの装着や搬送方法を実践

海上保安官に教わりながら空気ボンベの装着や搬送方法を実践

 
海中転落時の救助方法やロープワークにも挑戦した

海中転落時の救助方法やロープワークにも挑戦した

 
 すぐ目の前にある釜石港に移動。同保安部所属の巡視船きたかみ(650トン)に乗船し航海に繰り出した。船では出入港の作業を見学。主任機関士の大越和弥さん(30)らの案内でガントリークレーンや湾口防波堤など港湾施設を海上から見つめた。船を進める際に灯台や釜石大観音が目印になっていること、コンテナ船や漁船など大小さまざまな船舶が利用していることも実感。令和元年に発生した台風災害の際、断水で孤立した市内半島部に給水支援を行ったことも聞き、保安官の仕事へ関心を高めた。巡視艇きじかぜの放水も見学。生徒は手を振って感謝を伝えていた。
 
釜石港に停泊する巡視船きたかみで生徒らは航海を体験

釜石港に停泊する巡視船きたかみで生徒らは航海を体験

 
「出港用意」と号令をかける体験も(左上写真)。出港の様子も見守った

「出港用意」と号令をかける体験も(左上写真)。出港の様子も見守った

 
釜石海保職員の説明を聞きながら湾内を巡った

釜石海保職員の説明を聞きながら湾内を巡った

 
 下村篤弘さんは「船にはいろんな機器があって驚いた。知らなかったことを知る貴重な機会になった」と感想。消防士の父親に憧れを持ち、「将来は人の役に立つ仕事を」と考えていて、海保のことも調べてみるという。嶋田芽衣奈さんが印象に残ったのは空気呼吸器の装着体験で、重さや息苦しさを感じたうえ、船上、海上での活動の大変さを想像。安全、命、自然を守る業務にも触れ、「何かあったら、体験した簡単な救助法を生かしたい」とうなずいた。
 
巡視艇の放水を見学し、感謝を込めて手を振る場面もあった

巡視艇の放水を見学し、感謝を込めて手を振る場面もあった

 
海上保安官に質問したり海を守る仕事に関心を示す生徒

海上保安官に質問したり海を守る仕事に関心を示す生徒

 
 同保安部ではこの出前講座のほか、職業体験も受け入れる。「将来なりたい職業」に海上保安官を選択肢の一つとして考えてもらうことが目的。佐々木賢一次長は「少しでも海上保安庁の業務を知ってほしい。海に面した釜石で生活していても海上から港の施設を見る機会はなかなかないと思うので、巡視船に乗って違った視点、立場でまちを観察する面白さも感じてもらえたら」と期待を込めた。

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次世代につなぐ岩手の3世界遺産 有する市町の児童ら釜石・橋野鉄鉱山で交流「みんなの誇りに」

岩手の3つの世界遺産 児童交流会=8月29日、橋野鉄鉱山

岩手の3つの世界遺産 児童交流会=8月29日、橋野鉄鉱山

 
 鹿児島、奈良両県と並び、国内最多3つの世界遺産を有する岩手県。その地元小学生が互いの遺産への理解を深め、保護意識を育む児童交流会が8月29日、釜石市で開かれた。栗林小(八木澤江利子校長、児童30人)の5、6年生11人が同市の世界遺産「橋野鉄鉱山」を案内。一戸、平泉両町から訪れた3校の6年生19人に、洋式高炉での鉄づくりについて教えた。学校では鋳造体験も行われ、児童らが協力し合って作業。「世界遺産のまち」の絆を結んだ。
 
 同交流会は県文化スポーツ部文化振興課が主催し、世界遺産のある県内3市町で2022年から開始。3回目の本年度は釜石市が会場となった。同市を訪れたのは「御所野遺跡」がある一戸町から一戸南小(若松優子校長、児童70人)の6年生12人と、「平泉(の文化遺産)」の地元、平泉、長島両小の希望者7人(6年生)。橋野鉄鉱山インフォメーションセンターで開会行事を行い、高炉場跡の見学に出発した。
 
栗林小児童の案内で高炉場跡に向かう一戸南小の児童(青帽子)

栗林小児童の案内で高炉場跡に向かう一戸南小の児童(青帽子)

 
 見学は3班に分かれて実施。ガイド役を務める栗林小の児童が先導し、国内に現存する最古の洋式高炉跡3基を見て回った。栗小児童は、稼働時の高炉の高さや組まれた花こう岩の重さ、石組みが崩れない工夫などを説明。水車でフイゴを動かして風を送り、高炉を稼働させていたこと、採掘場から運ばれた鉄鉱石は加熱し、砕いて高炉に投入していたことなども教えた。高炉の中央に残る炉底塊は出銑時に流れきれなかった鉄がたまってできたもので、栗小児童に促された一戸と平泉の児童らが磁石を近づけてみるとくっついた。
 
二番高炉の石組み。近くの山から切り出した花こう岩が使われている

二番高炉の石組み。近くの山から切り出した花こう岩が使われている

 
各ポイントで高炉稼働時の様子を伝える栗林小の5、6年生

各ポイントで高炉稼働時の様子を伝える栗林小の5、6年生

 
高炉の中央に残る「炉底塊」に磁石をくっつけてみる一戸南小の6年生

高炉の中央に残る「炉底塊」に磁石をくっつけてみる一戸南小の6年生

 
 栗小児童は花こう岩の重さを「メジャーリーガー大谷翔平選手何人分」など、分かりやすいたとえで示したり、4択のクイズを出したりして、遺産を楽しく学べるようにした。一戸南小の小谷地龍之介さんは、御所野遺跡のガイドや清掃活動に取り組む「御所野愛護少年団」の団長。栗小児童のガイドについて「すごく明るくて、クイズも楽しい。僕たちも見習いたいところ」と刺激を受けた様子。橋野鉄鉱山を訪れるのは初めてで、「明治の時代のものがあんなに残っているのはすごいと思う」と話した。
 
作業員に賃金を払う「御日払所」は礎石だけが残る(写真下)。説明に聞き入る一戸と平泉の小学生(同上)

作業員に賃金を払う「御日払所」は礎石だけが残る(写真下)。説明に聞き入る一戸と平泉の小学生(同上)

 
三番高炉の石組みに残るガスを逃がすための穴について説明。周辺では現在、発掘調査を実施中

三番高炉の石組みに残るガスを逃がすための穴について説明。周辺では現在、発掘調査を実施中

 
 栗林小に移動後、昼食をはさんで行われたのが鋳造体験。油砂を木枠に詰め、好きなデザインの鋳型を取り、熱して溶かしたスズを流し込む、金属鋳造の一端に触れられる体験だ。4校の児童はそれぞれ他校の児童とペアを組み作業に挑戦。一部は固まったものをその場で見せた。完成品は後日、児童らに届けられる。
 
栗林小の教室で行われた鋳造体験。2人1組で鋳型を作る

栗林小の教室で行われた鋳造体験。2人1組で鋳型を作る

 
高温で溶かしたスズを型に流し込む作業に興味津々。希望者は液体状のスズをおたまですくってその重さも実感(写真左下)

高温で溶かしたスズを型に流し込む作業に興味津々。希望者は液体状のスズをおたまですくってその重さも実感(写真左下)

 
上段の木枠をはずし、スズが固まった状態を確認

上段の木枠をはずし、スズが固まった状態を確認

 
 長島小の吉家七音さんは他校の児童との交流に「知らない人と話し、友達になれて楽しかった」と、世界遺産がつなぐ縁を喜んだ。「自分たちが住むまちに世界遺産があるのはうれしい。岩手には3つも世界遺産があり驚いた。みんなで守っていかねば」と気持ちを新たにした。
 
 釜石市は日本で初めて洋式高炉による連続出銑に成功した近代製鉄発祥の地で、高炉跡などが残る橋野鉄鉱山は明治日本の産業革命遺産(8県11市23資産)の構成資産の一つとして、2015年に世界文化遺産に登録された。同鉄鉱山は栗林小の学区内にあり、同小児童にとってはより地元感の強い場所。今回の交流会開催にあたり5、6年生は、同年代に遺産価値を伝えるためのガイド活動に初めて挑戦した。1学期の終盤から調べ学習を開始。夏休み明けに市世界遺産室の森一欽室長から話を聞くなどしてガイド内容をまとめ、現地で森室長相手にリハーサルも行って本番を迎えた。
 
 手ぶりを交え、はきはきと説明した中平栞愛さん(5年)は「最初はちゃんとできるか不安もあったけど、いっぱい練習して、本番では自分が伝えたいことを伝えられた。楽しくできたので良かった」と満足そう。他校の児童とも会話を弾ませ、「また、こういう機会があるといい。一戸と平泉の世界遺産にも行ってみたい」と期待を膨らませた。
 
 児童らの“晴れ舞台”を見守った5、6年担任の伊藤知基教諭は「よく頑張った」と称賛。一生懸命ガイドをするだけではなく、「積極的に話しかけ、仲良く交流する姿が見られた」と収穫を口にした。11月に予定される学習発表会では郷土の偉人を絡めた鉄づくりの劇にも取り組むことにしていて、「今回の経験を次につなげてほしい」と願った。
 
プログラムの合間に他校の児童と会話を弾ませる(写真上)。楽しい交流の思い出を心に刻んだ

プログラムの合間に他校の児童と会話を弾ませる(写真上)。楽しい交流の思い出を心に刻んだ