タグ別アーカイブ: 文化・教育

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釜石艦砲80年― 「翳った太陽」を歌う会 合唱で伝える戦禍の記憶 釜中生 平和への願い心に刻む

「翳った太陽」を歌う会 第11回学校コンサート=14日、釜石中体育館

「翳った太陽」を歌う会 第11回学校コンサート=14日、釜石中体育館

 
 「忘れもしない 昭和20年7月14日のこと…」。太平洋戦争末期の1945(昭20)年、釜石市が米艦隊から受けた艦砲射撃の惨禍をつづった女声合唱組曲「翳(かげ)った太陽」。この曲を歌い継ぐ市内のコーラスグループ「翳った太陽」を歌う会(菊地直美会長、会員11人)は、被災から80年となった14日、釜石中(佐々木一成校長、生徒284人)の全校生徒に対し、同曲を歌い聞かせた。「命を奪う戦争は決してあってはならない―」。生徒たちは郷土の悲しい歴史を脳裏に刻み、平和な世界の実現を心から願った。
 
 会員8人によるコンサートは同校の体育館で行われた。作曲者で歌の指導にあたる最知節子さん(82)が指揮し、全6曲を歌い上げた。「翳った太陽」は、艦砲戦災経験者の故石橋巌さん(2006年逝去)が残した絵手紙などを基に作られた。当時、小学校教員だった石橋さんは砲撃で教え子を失った。焼け野原となったまちで遺体を運ぶ過酷な作業にも従事。絵手紙にはそのつらい記憶が記されていて、これが歌詞の原形になった。
 
合唱組曲の基になった、故石橋巌さんが孫に宛てた絵手紙(生徒用資料)。艦砲射撃の記憶がつづられる

合唱組曲の基になった、故石橋巌さんが孫に宛てた絵手紙(生徒用資料)。艦砲射撃の記憶がつづられる

 
歌詞を見ながら会の合唱に聞き入る生徒ら

歌詞を見ながら会の合唱に聞き入る生徒ら

 
 歌唱後、最知さんは組曲の1曲「さいかちの実」の作詞者で、釜石艦砲の証言記録集の刊行、反戦・平和運動に力を注いだ故千田ハルさん(2021年逝去)から託された言葉を紹介。「戦争はどんなことがあってもしてはいけない。どんな理由があってもです」。重ねて最知さんは「今日、私たちは皆さんの心に『平和』という種をまきました。一生懸命育てて、美しい平和の花を咲かせてください」と呼び掛けた。
 
 小学校の頃から語り部の話を聞くなど戦争について学んできたという川端俐湖さん(2年)は「歌によって、戦争の悲惨さがより重く伝わってきた。合唱という伝え方は幅広い年代の方々に知ってもらえる方法だと思うので、これからも続けていってほしい」と話し、聞かせてくれた同会に感謝。生徒会長の白野真心さん(3年)は「戦争は恐ろしく、命が簡単に失われてしまう。戦後80年。艦砲射撃を受けた方々は亡くなってきて、戦争の記憶が失われつつある。少しでも世界の人々の命が救われるよう、今日聞いたことをしっかりと後世に伝えていきたい」と誓った。
 
最知節子さんの指揮で「翳った太陽」を歌う合唱メンバー。当時の情景がよみがえる

最知節子さんの指揮で「翳った太陽」を歌う合唱メンバー。当時の情景がよみがえる

 
生徒らは歌を通して80年前に古里を襲った艦砲射撃について学んだ

生徒らは歌を通して80年前に古里を襲った艦砲射撃について学んだ

 
 同会は戦後60年の2005年に活動を開始。市内小中学校でのコンサート、米英両艦隊による2回目の砲撃を受けた8月9日に行われる市戦没者追悼式などで歌い続けてきた。東日本大震災や新型コロナ禍で活動休止を余儀なくされた時期もあったが、継承への強い思いは変わらない。戦争体験者からじかに話を聞く勉強会も開いていて、さらなる理解を深めている。現合唱メンバーは14~83歳の女性。
 
 後継者育成を願う同会の意向をくみ、釜石中では2017年、特設合唱部が同曲を歌う活動を開始。会員らと追悼式の献唱に参加してきた。21年には、同会制作のCD収録にも協力。現在、校内での合唱団活動は行われていないが、3年の髙橋杏奈さんが会のメンバーとして活動している。髙橋さんはピアノを習っていた最知さんに誘われ、小学2年生から合唱に参加。「中学生になり戦争について学んだことで、歌詞の意味をより深く理解し歌うことができている」と話す。この日は初めてソロパートにも挑戦。「緊張したが、練習の成果を悔いなく出せた」と表情を緩めた。ロシアとウクライナの戦争など海外の悲しい現実を見聞きするたび、「本当につらい。世界が早く平和になってくれることを祈るばかり」と思いを明かした。
 
釜中生の前で初めて同曲を歌った髙橋杏奈さん(写真左中央)。同世代に戦争の恐ろしさ、平和の大切さを訴えた

釜中生の前で初めて同曲を歌った髙橋杏奈さん(写真左中央)。同世代に戦争の恐ろしさ、平和の大切さを訴えた

 
最後に生徒の代表が会のメンバーにお礼の気持ちを伝えた

最後に生徒の代表が会のメンバーにお礼の気持ちを伝えた

 
 同会の学校訪問コンサートは今回で11回目。これまで市内8校で実施し、釜石中では統合前の釜石一中での開催を含め4回目となった。菊地直美会長(62)は「ここまで歌い継いできた先輩方には頭が下がる思い。次世代を生きる人たちには、平和を願う気持ちをずっと持ち続けてほしい。1人でも多くの方に合唱に参加してもらいたい」と、一緒に歌う仲間を募集する。

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電気の世界に興味を 釜石商工高生が白山小で出前授業 魅力ある高校の学び伝える

釜石商工高生が講師の出前授業を楽しむ白山小の児童

釜石商工高生が講師の出前授業を楽しむ白山小の児童

 
 釜石市大平町の釜石商工高(小松了校長、生徒176人)の電気電子科3年生は7日、同市嬉石町の白山小(鈴木慎校長、児童33人)の5、6年生14人を対象に出前授業を行った。高校生4人が訪問し、指示通りに黒い線上を走る「ライントレースカー」を使った実験を披露。小学生に模型の操作を体験してもらいながら、電気を使った技術を学ぶおもしろさを伝えた。
 
 講師を務めたのは秋田捷太さん、佐々木新生さん、笹山大河さん、成田彗七さんの4人。課題研究の授業で作ったライントレースカーを持ち込み、走行させるために使われる技術、光センサーや超音波センサーについて解説した。
 
出前授業の講師を務めた釜石商工高電気電子科の3年生

出前授業の講師を務めた釜石商工高電気電子科の3年生

 
 センサーは身の回りにあるものと高校生。「どんなものがある?」と質問すると、児童は「自動ドア」「顔で熱を測れる機械」「手を出すと消毒液が出てくるものとか」などと答えた。その上で、「センサーは測定したいものを、コンピューターや装置が仕事をしやすいよう電気信号に変換する役割を持っている」と説明。ライントレースカーでは走行、障害物を回避するのに活用されているという。
 
 小学生が分かりやすいようにと、高校生は体を使った寸劇を披露。2種類のセンサーの動きを確かめる実験も取り入れたり、教え方を工夫した。
 
センサーの働きを寸劇で分かりやすく伝える高校生

センサーの働きを寸劇で分かりやすく伝える高校生

 
光センサーの動きを確認する実験に児童は興味津々

光センサーの動きを確認する実験に児童は興味津々

 
 原理を何となく理解したところで、ライントレースカーの実走。2台を走らせ、ぶつかりそうになると止まる様子を小学生は好奇心に満ちた表情で見つめた。模型の車を使った無線遠隔操作(ラジコン)も体験。ゲーム感覚で楽しみながら、電気を使った技術に関心を深めた。
 
児童の視線が集中したライントレースカーの走行実験

児童の視線が集中したライントレースカーの走行実験

 
無線を使った遠隔操作で模型の車を走らせる体験を楽しむ

無線を使った遠隔操作で模型の車を走らせる体験を楽しむ

 
 川﨑仁遥さん(5年)は「センサーの動き方を分かりやすく教えてもらえた。難しかったけど楽しかった」と笑顔を見せた。
 
 白山小出身の成田さんは、母校に懐かしさを感じながら後輩たちと向き合った。説明を聞く時は真剣に、体験時には楽しそうな児童の姿に、「電気の世界に興味を持ってもらえた」とうれしさを実感。電気工事ものづくりコンテスト岩手大会2位との実績を持ち、専門的な授業や課題研究で興味関心のある学びを深められるのが商工高の魅力だとし、「将来は商工高に来て」と期待を込めた。
 
出前授業で児童と交流しながら高校生活の魅力を伝えた

出前授業で児童と交流しながら高校生活の魅力を伝えた

 
 出前授業は、工業系の専門的知識を学ぶことができる学校の魅力を発信しようと続ける企画。これまで中学生向けに行ってきたが、昨年度末に市教育委員会から要請があり、今回初めて小学生を対象に実施。秋頃に、ほかの小学校でも開催を予定する。

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釜石市 学校規模適正化計画案を市民に説明 統合で6小学校、2中学校へ 望ましい教育環境目指す

4日から行われている「学校規模の適正化・適正配置に関する地域説明会」

4日から行われている「学校規模の適正化・適正配置に関する地域説明会」

 
 少子化の進行や人口減で児童生徒数の減少が続く釜石市は、子どもたちにとってより良い教育環境を確保するため、小中学校の規模、配置の適正化に取り組む。市教委は「学校統合」と「小中一貫教育導入」を柱に、2032年度までの推進計画案をまとめた。現在、市内で地域説明会を開催中。今後、パブリックコメントなども受け、今秋の計画策定を目指す考え。
 
 同市には9小学校、5中学校があるが、いずれも児童生徒数の減少が顕著。2038年度には現在の人数と比較し4割以上減少、5小学校で複式学級を有する見込みとなっている。小規模校化が進むと、多様な学習や集団活動、学校運営に支障が出るなど教育環境へのさまざまな影響が懸念される。このため、市教委は24年3月に策定した「市立小・中学校における学校規模の適正化・適正配置基本方針」のもと、全市的な観点からの学校統合、小中一貫教育導入の可能性を検討。このたび、内容を具現化するための「市学校規模適正化・適正配置推進計画(案)」をまとめた。
 
「学校規模適正化・適正配置推進計画(案)」について市教委から説明=10日、栗林小

「学校規模適正化・適正配置推進計画(案)」について市教委から説明=10日、栗林小

 
 同計画では、小学校の複式学級解消、中学校の教科指導充実を図るための学校規模確保を重点に、学校統合を進める。ただし、学校は地域コミュニティーの中核的な役割を担っていることから、「現中学校区内に1小学校は存続させる」との基本方針を維持し、対象校の唐丹小は当面残す考え。また、中学校は学区が広範囲になるなどの課題があるため「複数配置を基本」とし、(4校統合の)釜石中と釜石東中の2校体制とする。釜石東中は鵜住居小と校舎が一体型となっており、小規模校を存続させる場合の教育充実策として、両校の「小中一貫教育導入」も計画に盛り込まれる。
 
 計画期間は2032年度までの8年間。前期(25~28年度)と後期(29~32同)に分けて計画を遂行する。統合は27年度に栗林小と鵜住居小(使用校舎:鵜住居)、白山小と平田小(同:平田)、29年度に唐丹中と釜石中(同:釜石)、31年度に釜石小と双葉小(同:要検討)、32年度に(唐丹と統合後の)釜石、甲子、大平3中学校(同:釜石)の実施を目標とする。(栗林と統合後の)鵜住居小と釜石東中の小中一貫教育(小学校、中学校の枠組みを残した小中一貫校)導入は30年度を目標とする。通学区域の変更も検討する。計画には通学手段の確保、統合対象校同士の事前交流など、統合を進める上での配慮事項も示される。
 
学校統合や小中一貫教育導入など今後の教育環境整備に関する説明に聞き入る参加者

学校統合や小中一貫教育導入など今後の教育環境整備に関する説明に聞き入る参加者

 
 地域説明会は4日から始まり、計9カ所での開催を予定する。10日は統合対象となる栗林小で説明会が開かれ、児童の保護者や地域住民、同校教員ら23人が参加。市側から髙橋勝教育長、市教委学校規模適正化推進室職員など14人が出席した。これまでの経緯や推進計画(案)の概要について説明後、質疑応答が行われた。参加者からは児童の心のケア対策、統合後の栗林小校舎、体育館の利活用、中学校の部活動に関する意見、要望などが出された。
 
 現4年児童の父親で、PTA役員の男性(37)は「子どもたちのことを第一に考え、PTAとしては全家庭、(統合)賛成の回答を得ている。大人数の学校への不安はあるかもしれないが、成長していけば、いずれ人が多い環境でやっていかねばならないので」とプラスに捉える。目標年度が確定になれば、「子どもも家族も27年度からと心の準備ができると思う」と計画の早期成案を願った。
 
参加者からはさまざまな質問、意見が出され、市教委の担当者が答えた

参加者からはさまざまな質問、意見が出され、市教委の担当者が答えた

 
 市教委は7月中の地域説明会終了後、8月1日から1カ月間、パブリックコメントを受け付ける(計画案は市教委ホームページで公開)。8月上旬には市議会全員協議会で説明。出された意見を参考に修正した計画案は教育委員会議での議決を得て正式決定される。決定後は、対象校に学校統合準備委員会(仮称)を設置。必要事項を検討し、具体的準備に入る。
 
【今後の説明会日程】 ※時間はいずれも午後6時30分~1時間半程度、申し込み不要
7月15日(火)甲子小体育館
7月23日(水)白山小体育館
7月25日(金)鵜住居地区生活応援センター
7月30日(水)青葉ビル

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「鉄の町」の歴史知る 釜石の中学生が製鉄体験 ものづくりの熱、体感「最後まで全力で」

「近代製鉄発祥の地・釜石」で鉄づくり体験に挑む中学生=3日

「近代製鉄発祥の地・釜石」で鉄づくり体験に挑む中学生=3日

 
 国内初の洋式高炉による製鉄(連続出銑)を成功させるなど「鉄の町」として発展してきた釜石市(岩手県)。市はその歴史を知ってもらおうと、市内の中学1年生を対象に鉄づくり体験を実施している。生徒は古くから伝わる、たたら技法による作業に取り組むことで、地域に根づくものづくり精神に理解を深めている。チームワークやコミュニケーション力を磨く機会にもなっており、今年度も継続。2、3の両日には釜石東中(髙橋晃一校長、生徒86人)の1年生33人が挑んだ。
 
 体験の場は、同市甲子町大橋の旧釜石鉱山事務所前。この地は日本最大の鉄鉱山として栄え、豊富な資源を基に国内で初めて洋式高炉による連続出銑に成功し、「近代製鉄発祥の地」として知られる。
 
仲間と協力して炉造りに取り組む釜石東中の1年生=2日

仲間と協力して炉造りに取り組む釜石東中の1年生=2日

 
 3班に分かれた生徒は初日の2日、炉づくりに取り組んだ。コンクリートブロックを基盤に耐火レンガ約100個を積み上げ、湯出し口や送風管を固定。鉄製の煙突を取り付けた高さ約2メートルの炉を造った。
 
 写真が添えられた平面の設計図から想像し、立体的な炉を造る過程に生徒たちは苦戦。指導する市教育委員会事務局文化財課の加藤幹樹さん(40)は図を読み解く力を養ってもらおうと、「ものづくりは図面が命。よく見て」と言葉少なく助言した。
 
助言、相談、にらめっこ…平面図と写真をもとに炉を組み立てる

助言、相談、にらめっこ…平面図と写真をもとに炉を組み立てる

 
 翌日の3日に火入れ。釜石で産出した鉄鉱石10キロと木炭や石灰を投入した。原料は10回に分けて入れるが、燃焼が進むと炉内だけでなく炉の周辺も熱くなることから、作業時に防火手袋の着用は必須。「ちゃんと着けてから」と指摘した生徒に対し、加藤さんは「そう!ものづくりは事故をなくすためルールを徹底すること」と評価した。
 
完成した炉に木炭を投入。本格的な製鉄体験に取り組む生徒=3日

完成した炉に木炭を投入。本格的な製鉄体験に取り組む生徒=3日

 
鉄鉱石と石炭を混ぜたものを投入。「鉄ができますように」

鉄鉱石と石炭を混ぜたものを投入。「鉄ができますように」

 
 6回目を投入する前に「ノロ」と呼ばれる不純物の排出作業を行い、生徒が見守った。鉄鉱石の主成分の酸化鉄に、炭素を混ぜて高温で熱すると一酸化炭素や二酸化炭素となって気化し、純度の高い鉄が残る。そうした化学反応が「還元。酸化鉄から余分な酸素が抜けている状態」と加藤さんは説明した。
 
炉内から不純物を取り出す「ノロ出し」と呼ばれる作業に興味津々

炉内から不純物を取り出す「ノロ出し」と呼ばれる作業に興味津々

 
ノロ出しを見守り、鉄づくりが順調に進んでいるのを確かめた

ノロ出しを見守り、鉄づくりが順調に進んでいるのを確かめた

 
 作業開始から約4時間後に解体した炉から鉄の塊(粗鉄、ケラ)が現れると、生徒たちは「よし」と歓声を上げた。加藤さんによると、地元産の鉄鉱石に含まれる鉄の含有量は6~7割程度で、たたら製鉄では10キロの鉄鉱石から2~3キロの鉄ができるという。今回はどの班も3キロ以上あった。
 
炉を解体すると鉄の塊が出現し、生徒は“ほっと”ひと息

炉を解体すると鉄の塊が出現し、生徒は“ほっと”ひと息

 
塊を磨くと火の粉が舞い、鉄づくりの成功を実感する生徒ら

塊を磨くと火の粉が舞い、鉄づくりの成功を実感する生徒ら

 
 6キロのケラを得たA班リーダーの新屋碧さんは「本来のたたら製鉄は七日七晩続いたと聞き、鉄づくりに熱を込めた昔の人の心を感じて頑張ろうと思った。トラブルを互いにカバーしながら、最後まで全力でやれた」と振り返った。学級委員長を務め、チームづくりの大変さを感じていたというが、「仲間とのコミュニケーションやまとめ方が何となくわかった。協力の大切さも感じた。忘れずに引っぱっていきたい」と学び取った。
 
 “近代製鉄発祥”と言えば、7月は同市橋野町青ノ木の「橋野鉄鉱山」が明治日本の産業革命遺産(8県11市23資産)の構成資産の一つとして、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に登録されてから10周年となる。
 
 学区内に遺産があることで小学生のころから鉄の学習を続ける小林彩恋(あこ)さん(栗林小卒)は「鉄づくりを体験することで、座学とは違う歴史を感じられて面白かった。一から作り出すのは大変だけど楽しい」とにっこり。橋野鉄鉱山は地域の誇りであり、大切にしていきたい宝物で、「鉄の歴史が釜石から広まったことをもっと発信したい」と愛着をにじませた。
 
にじむ充実感。製鉄体験を終え、集合写真をパチリ

にじむ充実感。製鉄体験を終え、集合写真をパチリ

 
 加藤さんは「ものをつくるのは苦労や難しさがあり、試行錯誤の繰り返し。基礎、小さなものを積み重ね、大変な思いをしながら生み出すのがものづくり。みんなが使っているもの、全てがものづくりによるもの。そのことを忘れないで」と思いを伝えた。中学生向けの製鉄体験は全5校が2022年から学校行事として取り入れる。今年度、他4校は8~9月にかけて開催する。
 

橋野鉄鉱山・世界遺産登録10周年、記念行事も

 
 市は世界遺産登録10周年の機運を盛り上げようと、12日に同市大町の市民ホールTETTOで記念式典(午後1時半~)とシンポジウム(同2時10分~)を開く。シンポジウムでは歴史作家で多摩大学客員教授の河合敦氏が基調講演。岩手大学理工学部准教授で釜石市立鉄の歴史館名誉館長の小野寺英輝氏をコーディネーターとし、歴史の活用をテーマにパネルトークも行われる。
 
 13日には橋野鉄鉱山周辺でマルシェ(午前11時~午後3時)を開催。飲食のキッチンカーや手作り雑貨などの出店が集結するほか、森の音楽会・バイオリンミニコンサート、ラベンダーの鑑賞・摘み取り体験なども楽しめる。
 

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世代超え つながる笑顔 釜石・平田地区の地域交流カフェ 30回目、中学生が盛り上げる

30回目の「平田つながるカフェ」で紙飛行機飛ばしを楽しむ参加者

30回目の「平田つながるカフェ」で紙飛行機飛ばしを楽しむ参加者

 
 住民同士の交流を促す「平田つながるカフェ」は6月30日、釜石市平田の上平田ニュータウン集会所で開かれた。30回目の今回、福祉学習に取り組んでいる大平中(髙橋信昌校長、生徒75人)の3年生18人が企画・運営に挑戦。軽運動や歌、遊びなどを通じて高齢の住民と未就学児の触れ合いをサポートし、世代を超えた「顔の見える関係性」のつなぎ役として力を発揮した。
 
 つながるカフェは市、平田地区で特別養護老人ホーム「あいぜんの里」を運営する社会福祉法人清風会が主催し、市社会福祉協議会が協力する。高齢者らの孤立予防や心身の健康維持などにつなげようと2021年11月に始まり、月1回の開催を継続中。地区の住民もサポーターとして関わり、地域が一体となり「住み慣れた場所で安心して生活できるまちづくり」を進めている。
 
 同校の福祉学習は総合的な学習の一環で、同法人が支援。3年間の連続した学び(座学・実技)で、世代や障害の有無を超えた福祉の視点を身に付ける。現3年生は、学習初年の1年生の時に“お客さま”としてカフェに参加し高齢者と交流。地域社会の一員として積極的に関わる意識を高め、これまでの学びの成果を確かめる機会にと今回、企画運営に挑んだ。
 
受付や案内など役割を決めて参加者をもてなす大平中3年生

受付や案内など役割を決めて参加者をもてなす大平中3年生

 
 この日は、地域住民ら約40人が参加した。平田こども園の年長児(17人)が招かれ、「ちゃちゃつぼちゃつぼ」など手遊び歌を披露。さらに、一緒に歌えるようにと練習してきた「川の流れのように」を元気いっぱいに響かせ、大人たちを驚かせた。
 
園児、中学生、地域住民が歌声を合わせて「あ~あ~、かわの…」

園児、中学生、地域住民が歌声を合わせて「あ~あ~、かわの…」

 
 園児のかわいらしさにほっこりした後、大平中生が用意したプログラムを楽しむ時間がスタート。子どもから大人まで手軽に遊べる紙飛行機飛ばしでは、中学生のアドバイスを取り入れて作った紙飛行機を「せーの」の掛け声で放った。スピードはあっても滞空時間が短い機体や、ゆっくりと旋回しながら飛距離を伸ばす機体など、それぞれが個性を発揮。大人は童心に帰り、子どもたちと笑顔を重ねた。
 
紙飛行機を作りながら地域住民や園児と交流する中学生

紙飛行機を作りながら地域住民や園児と交流する中学生

 
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手作り紙飛行機を思い思いに放つ。子どもも大人も笑顔

 
 カフェタイムをはさみ、高齢者と中学生は健康体操を行った。「涙そうそう」など聞きなじみのある曲に生徒が考えた簡単な動きを付けたオリジナルの体操で、高齢者は見よう見まねでチャレンジ。「北酒場」ではマイクを手にした生徒が“こぶし”を回しながら気持ちよさげに歌う姿に会場から笑いが沸き起こり、体とともに心もほぐした参加者の表情にはすがすがしさが共通していた。
 
笑顔が弾ける健康体操。心身ともにリフレッシュ

笑顔が弾ける健康体操。心身ともにリフレッシュ

 
大盛り上がり!本気モードで歌う生徒につられ笑顔が連鎖

大盛り上がり!本気モードで歌う生徒につられ笑顔が連鎖

 
 終始笑顔の女性(94)は「小さい時に遊んだ紙飛行機が、今の子どもたちにも遊びとしてつながっているのがうれしい。若い人たちとのつながりが地域づくりには必要で、小さくてもこうした触れ合いがずっと続いてほしい」と期待。カフェは初参加だったが、「差別なく、みんな優しく接してくれた。地域のつながり、大切さを身にしみて感じた。人はひとりでは生きていけないから、皆さんに目配り、気配りをしてもらい、居場所をつくってもらってありがたい気持ちでいっぱい」と感激していた。
 
目線を合わせて笑顔で「はい、どうぞ」。学びを生かす生徒

目線を合わせて笑顔で「はい、どうぞ」。学びを生かす生徒

 
 3年生は6月から、市出先機関の平田地区生活応援センターや同法人の職員らの力を借りながらプログラムや担当する係を決め、参加者の名札づくり、茶菓の購入など準備を進めてきた。当日は会場設営の後、▽受付▽案内▽おもてなし▽進行▽イベント▽体操―の6つの係に分かれ活動。カフェの終わり、進行係の中嶋真帆さんが「来てくれてありがとうございます。運営、進行は難しく、スムーズに進められないこともあったけど、さまざまな支えで成功させることができました」と感謝の言葉を伝えた。
 
中学生が企画運営に携わったつながるカフェの参加者

中学生が企画運営に携わったつながるカフェの参加者

 
 生徒らは会場の片付けも手際よく進めた。「それぞれの係が自分の仕事をてきぱきとやって、イベントが盛り上がった」とうれしそうに話したのは、進行係の庭璃美亜(りびあ)さん。カフェでは、高齢者や幼児など対面する相手と「同じ目線」で、そして「はきはきと、口を開けて」話すことを意識したという。住民との積極的な関わり合いは刺激になったようで、「周りの人とコミュニケーションを取って互いに助け合うことは学校生活や社会に出た時にも役立つはず」とうなずいた。
 
 今後、3年生は認知症サポーター養成講座やステップアップ講座を受講。3年間の学習の集大成として演劇にも取り組み、10月に学校文化祭や市内の認知症サポーターらの研修会で発信する予定だ。

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鉄と魚とラグビーのまち!? 釜石小5年生「釜石PR大作戦」進行 歴史ストーリー学ぶ

釜石市世界遺産室の森一欽室長の話を聞く釜石小5年生

釜石市世界遺産室の森一欽室長の話を聞く釜石小5年生

 
 釜石小(五安城正敏校長、児童67人)の5年生11人は今年度、総合的な学習の時間を活用し、地域の魅力を学び発信する活動に取り組んでいる。「釜石PR大作戦」と命名したその取り組みで、注目するのは釜石市のキャッチコピー「鉄と魚とラグビーのまち」。手始めは“鉄”の学習で、16日に市文化財課世界遺産室の森一欽室長から地域の歴史について話を聞いた。
 
 鉄の学習は大渡町の同校で行われた。5年生の教室で、森室長はテレビモニターに写真や絵図などを映しながら、「鉄のまち」とうたう理由を地質、歴史の面から解説。児童は、気になったキーワードをメモしながら熱心に耳を傾けた。
 
児童はメモを取ったりしながら鉄の話に聞き入った

児童はメモを取ったりしながら鉄の話に聞き入った

 
 ほとんどの児童が記した「変成」という言葉は、三陸地域の大地や鉄原料の成り立ちについての説明で出てきた。釜石に眠る鉱床は、約1億2千万年前(中生代白亜紀)の火山活動で生まれ、マグマの熱で石灰岩などが溶かされ“変成”。冷え固まる過程でさまざまな鉱物が生成された。変成岩の中でも柘榴(ざくろ)石の近くで鉄鉱石(磁鉄鉱)が見つかっていて、製鉄の歴史につながる。花崗(かこう)岩も多く、森室長は「身近なところではそこ、学校の門柱」と窓の外を指さした。
 
地質の面から地域の特性を解説。釜石小の門柱(左上の写真)など身近にある情報を教えた

地質の面から地域の特性を解説。釜石小の門柱(左上の写真)など身近にある情報を教えた

 
興味津々!鉄の歴史にじっくりと耳を傾ける児童

興味津々!鉄の歴史にじっくりと耳を傾ける児童

 
 「12月1日は鉄の記念日」とのメモ書きも多かった。1857(安政4)年に大島高任が釜石・大橋に建設した洋式高炉で国内初の鉄の連続出銑に成功したことにちなむと話した森さんは「高任がすごいのは外国の技術を学んだことだけでなく、日本のことも学んでいること。ただ知っているだけではダメで、技術を持ち込んだ地元のこともよく知ったうえで実践している」と紹介。地元・釜石出身の高橋亦助らが49回目にして連続出銑に成功したことにも触れながら、“釜石だから”の歴史ストーリーに熱を込めた。
 
 江戸から明治へと時代が変わる中で釜石製鉄所が現在の場所(鈴子町)に建設されたことにより、「日本で3番目の鉄道が走った」ことに反応した児童は、その新知識を文字にした。そんな一人、山﨑良菜(らな)さんは「新しいことをたくさん知れた。マグマにとかされて石が変成する話が印象に残った。気になったことを調べてみたい」と好奇心を刺激された。
 
鉄の学習で気になったことを質問して理解を深める児童

鉄の学習で気になったことを質問して理解を深める児童

 
「知りたいことをどんどん調べて。分かったら教えて」と森室長(左)

「知りたいことをどんどん調べて。分かったら教えて」と森室長(左)

 
 5年生が「釜石PR大作戦」を今年度の活動に設定したのは、なぜか?…「まちのキャッチコピーを多くの児童が不思議に思っていたから。まちの印象としてピンとこない感じだった」と担任の佐藤航平教諭(26)は明かす。3つのキーワードが有名か、今の釜石について尋ねてみると、「それを生かした観光ができていない」「周りの大人や市民もよく知らない」などと意見が出たという。
 
釜石小の校門前から見える製鉄所の建物とまちのキャッチコピー

釜石小の校門前から見える製鉄所の建物とまちのキャッチコピー

 
釜石小周辺から見える街並み。山際に製鉄所の建物が連なる

釜石小周辺から見える街並み。山際に製鉄所の建物が連なる

 
 2015年に橋野鉄鉱山(橋野町)が世界遺産に登録され、今年は10周年の節目。遺産の存在を児童は認識しており、地域の魅力の一つでもある「鉄」に関する学びを深め、郷土愛を育むのを狙いにする。2学期に橋野鉄鉱山、鉄の歴史館などを見学する予定。「魚」「ラグビー」についても学習する計画で、「釜石の未来を切り拓(ひら)く活動」につなげる。
 
 PRの方法はポスターか、動画にするか…思案中。5年生11人は日常として身近に感じている風景、知っているようで知らない「釜石の良いところを発信したい」と気合を入れている。

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文京学院大(東京)、釜石市で「スタディケーション」 地域の「悩み」に解決策提案

エヌエスオカムラでインターンに取り組んだ文京学院大の学生=5月30日

エヌエスオカムラでインターンに取り組んだ文京学院大の学生=5月30日

 
 文京学院大学(東京都文京区)による産学官連携プログラム「釜石スタディケーション」が5月17日~6月1日まで、釜石市内で展開された。経営学部の学生12人が2週間滞在し、企業や行政機関などでインターンシップ(就業体験、インターン)に挑戦。地域が抱える課題に対して学生ならではのアイデアで提案、解決のヒントを残した。鋼製家具製造事業を手がけるエヌエスオカムラ(釜石市鈴子町)では2人が活動。「悩み」の解決に向けた取り組み、成果発表の様子を取材した。
 
 スタディケーションは「Study(勉強)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせた造語で、参加する学生は地方で遠隔授業を受けながらインターンにも取り組む。大学とは異なる環境で学び、新しい出会いや経験によって学生自身の成長を促すのが狙い。受け入れ先の地域にとっては若い感性や発想力を得ることで職場の活性化や地方創生につながる可能性が期待される。2023年に始まり、今年で3年目。5つの企業などがインターンを受け入れ、集客リサーチ、情報発信力の強化などに取り組んだ。
 
 エヌエスオカムラで活動したのは、松本将汰さん(3年)と関波音(はのん)さん(2年)。5月19日に会社概要の説明を受けたり、製造工場を見学したりした。21日は同社から与えられた課題「外国人労働者の定着率向上に向けた取り組み」の提案について情報収集。佐藤裕副社長から技能実習生らの受け入れ状況や課題付与の背景を聞いた。
 
佐藤裕副社長(右奥)の説明に耳を傾ける関波音さん(手前)、松本将汰さん=5月21日

佐藤裕副社長(右奥)の説明に耳を傾ける関波音さん(手前)、松本将汰さん=5月21日

 
 約150人が働く同社では国際貢献として、23年から「技能実習生」の受け入れや「技人国(ぎじんこく、「技術・人文知識・国際業務」の略称)」と呼ばれる在留資格を有した高度な専門人材の採用を行っている。現在、技能実習生は6人、技人国として2人の外国人労働者が働く。いずれもベトナム人で、年代は10~30代。日本では、生産年齢人口(15~64歳)の減少から労働力不足が問題となっており、外国人労働者は大きな戦力。同様の認識を持つ企業は同社を含め、釜石地域でも少なくない。
 
 技能実習生や技人国は人材育成が本来の目的だが、現状は人手確保や人手不足解消との要素が色濃くなっている。実態とそぐわないことから、政府内で制度の見直しが議論されており、人権保護や労働者としての権利向上の観点から“転籍”も認められる方向にあるという。そうなると、給料の高い都市部や業種に集中する可能性が高く、地方の中小企業は不利な状況に置かれるとの見方も。企業の存続に関わる問題にもなり得るため、「いかに定着してもらうか」が課題となっている。
 
エヌエスオカムラで働く技能実習生。職場で活躍中

エヌエスオカムラで働く技能実習生。職場で活躍中

 
スマートフォンも使いながら外国人労働者とやりとり

スマートフォンも使いながら外国人労働者とやりとり

 
 佐藤副社長は、会社になじんでもらうためバーベキューを行ったり海に連れて行ったり、業務内外での取り組みを紹介。家族に仕送りをするため懸命に働く外国人労働者との関わりで日本人従業員の視野が広がり、いい意味で刺激になっていることから「長く働いてほしい」と考えている。そこで、年齢の近い学生インターンの2人に実習生らの本音を聞いてもらう現状把握、対応策の提案を求めた。
 
 2人は計5日間、同社に出向いて実習生や日本人従業員らへの聞き取り、インターネットなどを活用し他自治体の取り組みなどを調査。釜石のまちを知るため、鉄の歴史館やうのすまいトモスなども見学して、地域に合う解決策を考えた。
 
与えられた課題についての情報集めを進める学生

与えられた課題についての情報集めを進める学生

 
 30日、同社の幹部職員10人を前にまとめの発表を行った。聞き取り調査では、日本語能力に課題がある実習生、指導側の日本人ともに仕事の情報伝達に不安を感じていることを確認。家族の帯同が認められている技人国の一人は「長く働きたい」が、家族の働き先や医療などへの不安があり呼び寄せるのをためらっていると明かしたという。実習生らは出稼ぎという考え方が強く節約志向、食文化の違いに慣れていない、サッカー好きが多いといった情報も得た。
 
幹部職員に対して行ったまとめ発表=5月30日

幹部職員に対して行ったまとめ発表=5月30日

 
 日本語能力の向上やコミュニティー形成の必要性を指摘した上で、定着率向上の解決策として▽社内での日本語教室の実施▽費用を抑えた交流イベントの開催▽雇用の機会を作るベトナム料理店の出店―を提案した。松本さんは「日本になじんでもらうのではなく、外国人労働者に寄り添って互いの文化を尊重し合い、釜石に住みやすくすることが大切」と強調。関さんは「釜石では飲食店で話しかけてもらうことが多く、スタディケーションの励みになった。そのあたたかい地域性を生かして、外国人労働者の生活の手助け、情報共有や相談できる場所の提供となれば魅力的だと思う」とまとめた。
 
「悩み」の解決策を提案する松本さん(左)と関さん

「悩み」の解決策を提案する松本さん(左)と関さん

 
幹部職員らは学生たちの説明に熱心に耳を傾けた

幹部職員らは学生たちの説明に熱心に耳を傾けた

 
 報告を聞いた幹部職員から「分かりやすい。『まさにその通り』と思う内容だった」「諦めずにコミュニケーションを取ろうとする姿勢が大事だと改めて分かった」との声が上がった。同社総務課の八幡拓見課長は「(実習生らと)普段会話していても、悩みや不安は聞けない。職場には言いにくいこともあるだろうし…2人のおかげで、悩み事が少し分かった気がする。正解のない課題だが、参考にして対応していきたい」と感謝した。
 
 釜石での活動を終えた関さんは「働くことに対し漠然としたイメージしかなく不安だったが、挑戦することで現状を一歩飛び越えてみることは大事だと感じた。プレゼンとか人前で話せたのは成長かな」と振り返った。松本さんは「現実的でなくでも、若者ならではの真新しい考えを示すことができたと思う。新しい何かが派生していけばうれしい」と充実した表情を見せた。
 
 最終的な成果報告会は7月(予定)に同大で行われる。

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患者に寄り添う心学ぶ 県立釜石病院で看護体験 命に向き合う中高生、やりがい実感

県立釜石病院の看護体験で新生児を抱っこする中学生

県立釜石病院の看護体験で新生児を抱っこする中学生

 
 釜石市甲子町の県立釜石病院(坂下伸夫院長)は14日、ふれあい看護体験を行い、市内の中高生16人が患者への対応や感染防止対策などに理解を深め、命と向き合う仕事のやりがいを体感した。
 
 釜石中、甲子中、釜石高の生徒が参加。白衣に身を包んだ生徒は手洗いや消毒など感染予防対策の重要性を学んだ後、2~5人の班に分かれて病棟や手術室での実習に取り組んだ。
 
手洗いや消毒など座学で得た感染予防対策を実践する生徒たち

手洗いや消毒など座学で得た感染予防対策を実践する生徒たち

 
 小児科、泌尿器科、緩和ケアなどの5病棟では中高生4人が入院患者の手浴に挑戦。緊張しながらも「熱くないですか」などと声をかけ、丁寧に洗った。患者から「気持ちよかった」との気持ちを表現するうなずきが返ってくると、生徒たちは肩の力を緩めた。
 
 食事の配膳、患者役・介助役となり車椅子による移動を体験したり、食事の介助も見学。現役看護師の岡崎琴音さん(27)が「患者さんと向き合う時、見えているところがすべてではない。ほんの小さなことでも変化があれば、他の看護師、医師に伝えたりする。やることに集中しながらも、いろんなところにアンテナをはるのが大事。看護の難しいところであり、やりがいでもある」と、自分の体験を交えて助言した。
 
現役看護師(左)に教わりながら入院患者の手浴に取り組む

現役看護師(左)に教わりながら入院患者の手浴に取り組む

 
食事を届けて入院患者と触れ合い笑顔を見せる生徒

食事を届けて入院患者と触れ合い笑顔を見せる生徒

 
点滴スタンドを持ちながら車椅子の移動にチャレンジ

点滴スタンドを持ちながら車椅子の移動にチャレンジ

 
 産婦人科の分娩(ぶんべん)業務が休止された同病院では、平日にデイサービス型の産後ケアを開設し、助産師の指導で授乳や入浴などの支援を行っている。この日は休息にやってきた親子がおり、生徒たちは新生児を抱っこする体験も。「かわいい」と愛らしい姿を見つめ、ぬくもりを実感した。
 
緊張!新生児を両腕でしっかり抱っこ…「かわいい」

緊張!新生児を両腕でしっかり抱っこ…「かわいい」

 
沐浴(もくよく)も見学して助産師の仕事に触れた

沐浴(もくよく)も見学して助産師の仕事に触れた

 
 甲子中3年の菊池夏希さん、釜石高3年の伊藤智哉さんはそれぞれ看護師の家族の影響で同じ道を志す。菊池さんは「人に寄り添えるのはすてきなこと。いろんな事に気を付けて、てきぱき動いていてかっこいい」と興味を深めた。伊藤さんは「繊細な仕事のイメージがあったけど、スピード勝負な場面もあると感じた。一人一人に合わせて対応し、ちょっとしたことでも連想して頭を働かせていると知り、新鮮だった。実際の仕事は大変そうというより、楽しい気持ちが強かった。患者さんに『担当してもらえてよかった』と思ってもらえる看護師になりたい」と意欲を高めていた。
 
体験を通して医療現場、看護の仕事に関心を深めた中高生

体験を通して医療現場、看護の仕事に関心を深めた中高生

 
 髙橋佳世子副総看護師長(教育専従看護師兼務)は「体験を通じて患者さんの笑顔に触れ、やりがいを感じ、職業意識を高めてほしい。誰かのためにできる仕事、医療、看護の道を志し、共に岩手で頑張ってもらえたらうれしい」と期待した。
 
 体験は看護週間(11~17日)に合わせて実施。16日にも行われ、高校生16人が参加した。

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ポップな世界で魅せる!釜石のイラストレーター須藤郁美さん デジタルアート展

デジタルイラストでポップな世界観を表現する須藤郁美さん

デジタルイラストでポップな世界観を表現する須藤郁美さん

 
 釜石市鵜住居町のイラストレーター須藤郁美(すとう いくみ)さん(36)の作品展「feel(フィール)」が、大町の市民ホールTETTOギャラリーで開かれている。タブレット端末を使ったデジタルイラストで創り出すポップな世界観を紹介。遊び心を加えた作品もあり、「『かわいい!』『おしゃれー』とか感じてもらえたら」と来場を呼びかける。同ホール自主事業「art at TETTO(アート・アット・テット)」の第14弾。11日まで楽しめる。
 
 作品づくりのテーマは「ポップ」。似顔絵、擬人化の表現を得意とし、お笑いコンビのサンドウィッチマンなど著名人の描写や自画像、精霊や妖怪の姿を創造したカラフルな作品など約50点を並べる。モミジやイチョウなどの葉っぱに埋もれる人物を描いた「かくれんぼ」(A3サイズ)は、隠れたリスを探す遊びも取り入れた作品。メイン展示品の「釜石大観音と虎舞」(B1サイズ)は、郷土芸能虎舞の継承と街の未来を見守る擬人化された観音様の柔らかな表情が印象に残る。
 
大小さまざまな作品が並ぶデジタルイラスト展「feel」

大小さまざまな作品が並ぶデジタルイラスト展「feel」

 
カラフルでかわいい作品がずらり。釜石にちなんだ作品も

カラフルでかわいい作品がずらり。釜石にちなんだ作品も

 
会場ではかわいらしさが詰まった作品をじっくり楽しめる

会場ではかわいらしさが詰まった作品をじっくり楽しめる

 
 須藤さんはもともと絵を描いたり、物を作ったりするのが好きで、デザインを学ぶため東北工業大に進学。広告、ウェブデザインの基礎を身につける中で、デジタルアートが趣味に加わった。「仕事にしたい」とは考えていたが、「食べていける仕事」とは思えず、卒業後は地元に戻って教員補助、販売員、事務職員として働いた。
 
 そして、結婚・出産。子育て、仕事と忙しい日々が続く中、全てを頑張ろうとして心身ともに疲弊し、人との関わりに悩んだり、ストレスをうまく解消できず、「適応障害」「抑うつ」と診断されて療養が必要な状態になった。そうした診断があったことで「逆に吹っ切れた」と須藤さん。「キャパオーバー。嫌なことを続けるのはヤダ。いったんリセットしよう」。家族の理解を得て、休息期間に入った。
 
 「人生に欠かせないもの」という絵を描くことは継続。気持ちに余裕ができた頃、SNS(交流サイト)での作品紹介、ウェブショップでのグッズ販売を始めた。すると、「学校の図書室に掲示するポスターを作ってもらえないか」という依頼が入った。知人らのつてで企業や釣り好きの人向けのステッカー制作、似顔絵の要望も受けるように。ちょうど働かなければと思っていた時期で、「人と会うのは…だけど、病気に負けたくない」「やりたいことをやろう。チャレンジしてみよう」と発起。イラストレーターとしての活動に本腰を入れ、3年目となった。
 
仕事として請け負う中で創り出した作品も紹介する

仕事として請け負う中で創り出した作品も紹介する

 
制作過程を知らせるパネルやオリジナルの塗り絵も用意

制作過程を知らせるパネルやオリジナルの塗り絵も用意

 
 地元の美術集団「サムディ45」に所属し、グループ展で作品を紹介しているが、個展は初めて。タイトルのフィールには「直感で動くタイプで、感じたままに生きてきた自分」と「デジタルイラストが身近にあふれていることを知り、感じてほしい」との思いを込めた。
 
 期間中の3、4日には、似顔絵を描いてプレゼントする企画も。「親子一緒に描いてもらいたかったから、うれしい」と満足げな関谷千帆さん(42)は、額に入れて自宅に飾るという。翔也ちゃん(5)は「(ママは)かわいい。(自分は)かっこいい」と、イラストと同じ笑い顔を見せた。
 
「大満足」。似顔絵そっくり⁉な笑顔を見せる親子

「大満足」。似顔絵そっくり⁉な笑顔を見せる親子

 
似顔絵を描く須藤さん(右)の傍らで来場者が作品を楽しむ

似顔絵を描く須藤さん(右)の傍らで来場者が作品を楽しむ

 
 アーティスト活動によって、人と触れ合う機会が増えてきた須藤さん。自身の活動を知ってもらうことで、心身の不調を感じる人たちや周囲の人に「ふとしたきっかけで誰にでも起こりうる身近なもの(病気)だよ」「元気を出してほしい」とメッセージを送る。
 
 「まだ、駆け出し。もっと勉強し、仕事をもらえるようにしたい」。岩手県内には同じようにデジタルアートを活用した活動を展開するイラストレーターが多くいるといい、交流し刺激し合いながら創作の世界観を広げていきたい考え。釜石を飛び出した作品紹介、展示会開催への意欲も持つ。
 
 午前10時~午後6時(最終日は午後4時まで)。入場無料。

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自主防結成後初 釜石東中が新年度スタートで防災オリエンテーション 校内の備えを確認

避難所開設時に使う段ボールベッドを組み立て、寝心地を確かめる=釜石東中防災オリエンテーション

避難所開設時に使う段ボールベッドを組み立て、寝心地を確かめる=釜石東中防災オリエンテーション

 
 釜石東中(高橋晃一校長、生徒86人)は4月30日、年度初め恒例の防災オリエンテーションを行った。2011年の東日本大震災で受けた同校の被害、復興の歩みを知り、防災力を高めるための活動。本年1月に県内初の中学生による自主防災組織(自主防)を立ち上げた同校。“結成元年”の取り組みを深化させるべく、生徒らは各種災害への備えを再確認するなどし、発災時の適切な行動を考えた。
 
 全学年を縦割りにした3つの組団ごとに6項目の活動を展開。2、3年生は初めて臨む新1年生(33人)にアドバイスしながら活動した。校内の災害への備えを確認する活動では、ウオークラリー形式で消火器・栓、担架、自動体外式除細動器(AED)が設置してある場所をチェック。校舎図に印を付けて全体の配置も頭に入れた。合わせて避難経路も確認した。
 
校舎内を歩き、消火器などがある場所を確認。いざという時、速やかに使えるように…

校舎内を歩き、消火器などがある場所を確認。いざという時、速やかに使えるように…

 
AEDや担架は普段の傷病者発生時にも必要。しっかり場所をチェック

AEDや担架は普段の傷病者発生時にも必要。しっかり場所をチェック

 
 2階の防災備蓄倉庫では在庫の種類と数を確認し、リストに書き込んだ。同校が鵜住居小と共用する校庭と体育館はそれぞれ、地震津波、火災、洪水・土砂災害時の緊急避難場所、拠点避難所に指定されている(市指定)。発災が生徒たちの在校時間帯の場合、自らの命を守り、安全が確認された後には、自主防として避難所開設にあたることを目指している。生徒らはこの日、毛布や飲料水、炊き出し釜、暖房器具など必要な備品が倉庫内のどこにどれだけあるかを把握。災害用の簡易トイレや段ボールベッドの組み立てを体験し、避難者名簿の作成の仕方も教わった。
 
「防災備蓄倉庫には何がある?」備蓄品の種類や数を確認

「防災備蓄倉庫には何がある?」備蓄品の種類や数を確認

 
災害時に避難所となる体育館で段ボールベッドの組み立てを体験

災害時に避難所となる体育館で段ボールベッドの組み立てを体験

 
簡易トイレの設置の仕方を学ぶ。座り心地も試した

簡易トイレの設置の仕方を学ぶ。座り心地も試した

 
 震災前から行われてきた同校の防災の取り組み、被災から復興までの歩みを知る活動も。2009年に当時の1年生が制作した津波防災の啓発DVD「てんでんこレンジャー」の視聴では、自分の命を守るために必要な、▽大きな地震がきたら高い所を目指してひたすら逃げる▽いつでも避難できるよう枕元に衣服や持ち物を置いておく▽避難場所や待ち合わせ場所を普段から家族で話し合っておく―ことを学んだ。
 
釜石東中オリジナル防災キャラクター「てんでんこレンジャー」が教える、津波から命を守る方法を心に刻む

釜石東中オリジナル防災キャラクター「てんでんこレンジャー」が教える、津波から命を守る方法を心に刻む

 
 同校には14年前の震災被害や世界中から受けた多くの支援を一堂に見ることができるメモリアルルームが開設されている。津波で全壊した校舎を含む鵜住居地域の甚大な被害、数えきれない支援に力をもらい地域とともに歩んだ復興への道のり…。生徒らは先輩方が経験してきたことを写真や支援品などから感じ取り、学校や地域のためにこれからできることを考えた。
 
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東日本大震災の被害や復興への歩みを知ることができるメモリアルルーム

 
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さまざまな展示品を見ながら気付いたことを書き留める生徒ら

 
 1年の川崎煌聖さんは「段ボールベッドの組み立てなど、避難してきた人たちへの対応の仕方が少し分かった。寝ている時とか、いつ災害があっても逃げられるよう準備していきたい」と知識を深めた様子。震災は生まれる前の出来事だが、親から話を聞き、幼稚園、小学校と避難訓練を重ねてきていて、「いざという時の行動は身に付いている」。中学生になったことで、「自分の命は自分で守ることはもちろん、周りに人がいる時は呼び掛けをしながら逃げたい」とステップアップを望んだ。
 
 同校の自主防は全校生徒と教職員で組織する。本年度は教職員19人を含め105人体制。会長を務める千葉心菜さん(3年、生徒会長)は結成後初の本格的な活動を終え、「みんな真剣に協力し合って取り組めていた」と一安心。組織の立ち上げに携わり、本年度が実質1年目となるが、「災害時に誰もが自分の立場を理解し、的確な判断と行動ができるよう学年を超えて学んでいけたら。全校参加の地域を巻き込んだ訓練もやりたい。活動を浸透させるために回数も増やせれば」と願う。
 
 同校が掲げる生徒像の一つが「助けられる人から助ける人へ―」。防災、命の学習に加え、各種地域貢献活動で「人を助ける」「誰かのために動く」ことができる人間を目指す。意欲的に取り組めるよう設けられているのが「EAST(イースト)レスキュー隊員」制度。各学習、地域活動への参加でポイントを集めると5~1級まで取得可能。普段から地域とのつながりを深めることで、災害時のスムーズな連携を図る狙いもある。オリエンテーションではその隊員証も配られた。
 
 復興・防災教育担当の佐々木伊織教諭(28)は「防災に関してはやれることをやりたいという生徒も多い。自身で必要なことを判断し、地域のために動けるようになってほしい。いかに楽しく学んで力をつけていくかが大事。新しいことにもどんどんチャレンジを」と期待を寄せる。

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夢へ、踏み出す一歩 釜石市国際外語大学校で入学式 日本・ミャンマー・ネパール人学生、決意新たに

釜石市国際大学校の入学式で在校生の歓迎を受ける新入生

釜石市国際大学校の入学式で在校生の歓迎を受ける新入生

 
 釜石市国際外語大学校(及川源太校長)の入学式は15日、同市大町の市民ホールTETTOで行われた。開校して2年目となる学びやに、留学生を含む22人が仲間入り。「釜石と世界をつなぐ存在に」「将来は日本で働きたい」など、それぞれが思い描く夢をかなえるために一歩を踏み出した。
 
 日本人向けの外語観光学科に市内外から3人が入学。外国人対象の日本語学科はネパール、ミャンマー出身の19人を迎え入れる。入国時期が遅れている学生(ネパール人)もいて、入学式には15人が参加した。
 
在校生や教職員らの拍手を受けながら入場する新入生

在校生や教職員らの拍手を受けながら入場する新入生

 
 新入生は真新しいスーツ、民族衣装のロンジー(ミャンマー)やサリー(ネパール)に身を包み入場。期待や不安が入り交じる様子だったが、自分の名前が呼ばれると「はい」と返事し、深くお辞儀した。
 
 式辞に立った及川校長は「日本人と留学生が同じ屋根の下で共に学び、成長できる『釜国』での学生生活を思いっきり楽しんで。それぞれの国で培ったグローバルな視点と、今いる地域で何ができるかという視点を持ち合わせた大人となり、未来を築いてほしい」と期待した。
 
「共に学び、成長を」などと式辞を述べる及川源太校長

「共に学び、成長を」などと式辞を述べる及川源太校長

 
真剣な表情で式辞や祝辞に耳を傾ける新入生

真剣な表情で式辞や祝辞に耳を傾ける新入生

 
 外語観光学科代表の小笠原奈那さん(19)は「ここで出会った仲間と刺激し合いながら自己実現のために学びを深めていく。多様なルーツや文化、価値観を持つ日本語学科の皆さんとも積極的に交流し、理解し合える関係を築いていきたい」と誓いの言葉を述べた。大槌町出身で、東日本大震災を機に釜石市に転居。地元で学べることへの感謝を口にし、「釜石と世界を言葉でつなげる存在、グローバルな人材になるため挑戦していく。切り開いた道を全力で歩み、恩返しをしていきたい」と前を向いた。
 
外語観光学科の新入生代表として決意を述べる小笠原奈那さん(手前)

外語観光学科の新入生代表として決意を述べる小笠原奈那さん(手前)

 
 日本語学科代表として決意を述べたのは、ミャンマー出身のタン タン ソーさん(25)。「釜石に来ることができて、とてもうれしいです。2年間、日本語の勉強を頑張ります」と片言の日本語で思いを伝えた。7日に来日し、自然豊かな景色に好感を持った様子。「釜石の人は優しい。まちで会った時、あいさつをしたら、優しい顔であいさつを返してくれます」といったエピソードも紹介した。
 
意気込みを伝える日本語学科代表のタン タン ソーさん(手前)

意気込みを伝える日本語学科代表のタン タン ソーさん(手前)

 
 鈴子町の校舎で学ぶ在校生が「ここは多くの素晴らしい出会いや経験を重ね、仲間と共に成長できる、すてきな場所。励まし合いながら進んでいきましょう」と歓迎。半年前から学ぶ日本語学科2年のタマン プラヂプさん(21)=ネパール出身=は「家族から離れて寂しくなったとしても、心配しないでくさい。学校に通って、だんだんに生活に慣れます。私たちは自分の夢をかなえるために来ているので、皆さんも一緒に勉強して、自分の夢をかなえましょう」とアドバイスを送った。
 
心待ちにしていた新しい仲間を在校生が歓迎した

心待ちにしていた新しい仲間を在校生が歓迎した

 
 同校は学校法人龍澤学館(盛岡市)が運営する専門学校。外語観光学科(2年制)では英語や観光マネジメントなどを学べる。新入生の小笠原さんは公務員志望で、そうしたニーズに応じ、選択制の試験対策講座も用意する。在籍は新入生を含め計5人となった。
 
記念撮影で笑顔を見せる外語観光学科の新入生と保護者ら

記念撮影で笑顔を見せる外語観光学科の新入生と保護者ら

 
ビシッと!日本語学科の新入生と学校関係者らも記念撮影

ビシッと!日本語学科の新入生と学校関係者らも記念撮影

 
 日本語学科は1年半と2年の2コース(4月と10月の年2回入学制)がある。1年半コースではネパール人16人が学んでいて、2年コースの新入生を含めると計35人が在籍。ミャンマーから留学生を迎え入れるのは初めてとなる。
 
 ミャンマーでは3月28日に中部のマンダレー近郊を震源とする大地震が発生。同国からの留学生6人は南部のヤンゴン出身で、直接の被害はなかった。ただ、被災地の甚大な被害状況に、タンさんやアウン へインさん(20)は「とても悲しい。心配している」と気遣う。来日前には、募金をしたり支援を行ってきたという。
 
手を合わせて「こんにちは」とあいさつするミャンマー人留学生

手を合わせて「こんにちは」とあいさつするミャンマー人留学生

 
 6人はそれぞれ夢を抱いて日本にやってきた。写真好きのタンさんはフォトグラファー、車に関心のあるアウンさんはトラックドライバーを夢見る。ほかにも、介護や自動車整備、ビジネスを学びたいと希望は各人各様。多くは日本で働くことを望み、2年間の学びで、日常会話レベルへの到達が目標。卒業後は日本国内の大学や専門学校への進学を見据える。「悲しいけど、釜石で頑張りたい」。共通の思いを胸に仲間と共に歩み続ける。
 
入学式を終えリラックスした表情のネパール人留学生。夢の実現に向け釜石で一歩を踏み出した

入学式を終えリラックスした表情のネパール人留学生。夢の実現に向け釜石で一歩を踏み出した

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全国高校ラグビー強豪校 釜石に集結! 3年目の交流会 雨にも風にも負けず熱戦 震災・防災学習も

“ラグビーのまち釜石”で開かれた「東北復興高校ラグビー交流会」=2日、根浜シーサイド

“ラグビーのまち釜石”で開かれた「東北復興高校ラグビー交流会」=2日、根浜シーサイド

 
 東北復興高校ラグビー交流会2025は1~3日まで、釜石市の釜石鵜住居復興スタジアムなど3会場で行われた。同参加校幹事(野上友一、大西一平代表幹事)、同実行委(小笠原順一実行委員長)が共催。3年目の開催となる今年は17チーム約600人が参加。北海道から九州まで各地の強豪校に加え、本県各校で結成した合同チームが交流試合を行った。東日本大震災から立ち上がり、2019年のラグビーワールドカップ(W杯)開催を成し遂げた地で、高校生らは競技に通じる“不撓不屈(ふとうふくつ)”の精神を学び、レベルアップへの足掛かりとした。
 
 同交流会はW杯日本大会で高まったラグビー熱や大会レガシーを次世代に継承し、選手の心身育成や競技の普及・振興につなげようと企画された。常翔学園(大阪府)ラグビー部の野上友一ゼネラルマネジャーが全国の伝統校に参加を呼び掛け、2023年に初開催。年々、参加校が増えている。
 
 1、2の両日はW杯会場となった同スタジアムのほか、根浜シーサイド多目的広場、市球技場で参加チーム対抗の交流試合が行われた。1試合20分で、できるだけ多くのチームと対戦できるようにし、2日間で43の対戦カードが組まれた。両日はあいにくの雨模様。2日は風もあり、冷え込む中での試合となったが、選手らは気合十分。互いに声を掛け合い、気迫みなぎるプレーを展開した。新年度のチームづくりに向け、自他の力を知る機会にもなり、レベルアップにつながる学びを得た。
 
県内チーム同士の対戦「黒沢尻工業-南昌みらい・岩手・盛岡三合同チーム」=1日、釜石鵜住居復興スタジアム

県内チーム同士の対戦「黒沢尻工業-南昌みらい・岩手・盛岡三合同チーム」=1日、釜石鵜住居復興スタジアム

 
「名古屋-盛岡工業」中部と東北、離れた地域のチームとの対戦は貴重な機会

「名古屋-盛岡工業」中部と東北、離れた地域のチームとの対戦は貴重な機会

 
 2日は午後の試合の前に防災学習も行われた。スタジアムに全参加者が集まり、震災伝承施設「いのちをつなぐ未来館」スタッフの川崎杏樹さん(28)から話を聞いた。川崎さんは震災当時、中学2年生。スタジアムの場所に学校があり、隣接する小学校の児童の手を引いて津波から逃れた経験を持つ。地震発生から高台避難までの詳細を伝え、津波災害の恐ろしさ、迅速避難の大切さを教えた。「助かったのは防災学習のおかげ。ラグビーの練習も防災も同じ。自分の命を守るために普段から考え、訓練や体験で正しい知識を得て避難行動につなげてほしい」と願った。
 
14年前の震災を経験した川崎杏樹さん(右)から当時の話を聞く

14年前の震災を経験した川崎杏樹さん(右)から当時の話を聞く

 
津波の怖さ、平時の備え(防災学習)の有効性を学んだ高校生ら

津波の怖さ、平時の備え(防災学習)の有効性を学んだ高校生ら

 
 広島県から初めて参加した尾道高の佐藤麗斗主将(3年)は“ラグビーのまち釜石”の訪問を楽しみにしていたといい、「今まで対戦経験のないチームともたくさん試合を組んでもらいありがたい。各校独特のプレーが見られて勉強になるし、自分たちが通用する部分、しない部分が分かったので、さらにレベルアップできそう」。自身は熊本県出身で、小学2年時に熊本地震を経験。川崎さんの話や釜石の津波防災対策が強く印象に残り、「尾道も海に面しているので、いざという時には(避難)行動を取れるようにしている」とうなずいた。
 
初参加の尾道高(黄色ジャージ)。降りしきる雨の中でも全力プレー!トライを重ねる

初参加の尾道高(黄色ジャージ)。降りしきる雨の中でも全力プレー!トライを重ねる

 
 尾道高の田中春助監督(37)は震災直後に釜石を訪問。その後、複数回にわたりボランティア活動に従事した。「ここ(スタジアム)にあった小学校の上階に車が突き刺さっていたのが忘れられない。あれだけの被害を受けたまちがここまで復興した姿に感激している」。部員らには「こうしてラグビーができること自体、決して当たり前ではない。感謝の気持ちを忘れないでほしい。震災を生き延びた人たちの思いを受け止め、自分に何ができるか、意識できる人になってくれれば」と期待を込めた。
 
 最終日の3日は、各校の選抜選手で結成した2チームによるドリームマッチも行われ、予定していた47試合全ての日程を終えた。
 

県外進学の釜石出身高校生ラガー 久しぶり 地元での試合に特別な思い

 
釜石出身!仙台育英でプレーする(左から)眞田羚史さん、八幡玲翔さん、倉田煌生さん(いずれも2年)

釜石出身!仙台育英でプレーする(左から)眞田羚史さん、八幡玲翔さん、倉田煌生さん(いずれも2年)

 
 同交流会に参加した県外の高校には、釜石出身者も複数在籍。2年生部員21人が参加した宮城県の仙台育英学園高には、日本製鉄釜石シーウェイブス(SW)の子ども育成部門ジュニア(幼児・小学生)とアカデミー(中学生)で競技に励んだ眞田羚史(甲子中出身)、八幡玲翔(釜石中同)、倉田煌生(大平中同)の3選手の姿が…。会場には中学まで指導にあたったSW関係者も足を運び、そのプレーを目で追った。
 
 八幡さんは中学3年時に、県中総体ラグビーで釜石中特設チームの主将を務め、大会初優勝を飾った。同大会など思い出の多い“うのスタ”への来訪は約1年ぶり。「新チームが始まる4月に全国の強豪と対戦でき、自分だけでなく東北全体のレベルアップにつながったと思う」と感謝。仙台育英でのラグビーは「環境が整っていて、自分自身しっかりとラグビーに向き合うことができ、日々、成長できている。東北大会で1位になり、花園でベスト8に入るのが目標」と志を立てた。
 
「仙台育英-札幌山の手」の試合。W杯聖地“うのスタ”で熱戦

「仙台育英-札幌山の手」の試合。W杯聖地“うのスタ”で熱戦

 
釜石出身、國學院栃木で高みを目指す阿部海凛さん

釜石出身、國學院栃木で高みを目指す阿部海凛さん

 
 2、3年生38人が参加した栃木県の國學院大栃木高には、SWアカデミー、甲子中出身の阿部海凛さんが在籍する。関東に出たことで、さまざまなチームとの対戦機会を得ているが、「地元釜石で多くの強豪校と試合ができるのは新鮮」と気持ちも新たに試合に臨んだ。3歳の時に震災を経験。停電し、懐中電灯一つで夜を過ごした記憶が残る。交流会での震災学習について、「津波の恐ろしさ、危険が分からない人が多いと思うので、東北で学んでもらい、将来に生かしてほしい」と願う。寮生活を送りながら努力を重ねる日々。「自分がやるべきことを考え練習に励んでいる」とし、チーム目標の“花園優勝”に向け「一刻も早くメンバー入りして試合に出たい。応援してくれている家族のためにも試合に出て恩返しがしたい」と意気込む。
 
九州王者・東福岡に挑む國學院栃木(紺ジャージ)

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