タグ別アーカイブ: 文化・教育

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「また聞けてうれしい」 釜石の“第九” 合唱協会 継承模索の一歩を市民ら歓迎 歌の力再び

釜石市合唱協会が開いた演奏会でベートーベンの「第九」を歌い上げる参加者

釜石市合唱協会が開いた演奏会でベートーベンの「第九」を歌い上げる参加者

 
 釜石に「歓喜の歌」再び…。昨年、45年の歴史に終止符を打った年末恒例の演奏会「かまいしの第九」を合唱メインで歌い継ぐ初の試みが行われた。「釜石の合唱文化を絶やすまい―」と、釜石市合唱協会(柿崎昌源会長、3団体)が企画した合同演奏会「つなコン」。訪れた観客からは「形は変わっても第九を聞けるのはうれしい」と歓迎の声が聞かれ、同市に根付く“第九愛”を改めて感じさせた。継承への一歩を踏み出した協会は、本演奏会を基に未来につなぐ形を模索する。
 
 「つながろう・つなげよう・絆のコンサート」(つなコン)と銘打った同演奏会は15日、市民ホールTETTOで開かれた。4部構成のステージ。1~3部では協会員が混声合唱による聖歌や賛歌、女声合唱による組曲など全9曲を歌い上げた。賛助出演として釜石高音楽部も歌声を披露。部員7人がアカペラを交え、3曲を聞かせた。
 
合唱協会初の合同演奏会には約230人が来場。開場前から長蛇の列ができた

合唱協会初の合同演奏会には約230人が来場。開場前から長蛇の列ができた

 
賛助出演した釜石高音楽部。若さあふれる美しいハーモニーで観客を魅了した

賛助出演した釜石高音楽部。若さあふれる美しいハーモニーで観客を魅了した

 
市内の合唱団体会員による混声合唱「ケヤキ」。釜石出身で、盛岡などで合唱指導を行う小濱和子さんが指揮した

市内の合唱団体会員による混声合唱「ケヤキ」。釜石出身で、盛岡などで合唱指導を行う小濱和子さんが指揮した

 
 4部が、つなごう「かまいしの第九」と題したステージ。ベートーベンの交響曲第9番(1~4楽章)のうち、合唱が入る第4楽章を抜粋した形で演奏した。合唱メンバーは協会員を中心に地元在住、ゆかりの48人。メンバーの中から男女6人がソリストを務めた。オーケストラは釜石市民吹奏楽団の団員ら有志20人が担当。管楽器主体の編成で演奏した。合唱、楽器演奏ともに、これまでの半分以下の規模となったが、メンバーが心を一つに奏でる第九は変わらず顕在。長年の演奏会で培われた堂々の歌声、新たな編成で魅力を放つオケの音色が相まって感動のフィナーレを迎えた。
 
「かまいしの第九」に参加してきたバス小澤一郎さん(右)、テノール大和田宏明さんはソリストの大役を務めた

「かまいしの第九」に参加してきたバス小澤一郎さん(右)、テノール大和田宏明さんはソリストの大役を務めた

 
第九を歌える喜びを胸に仲間と声を重ねる参加者(前列男女6人がソリスト)

第九を歌える喜びを胸に仲間と声を重ねる参加者(前列男女6人がソリスト)

 
市民吹奏楽団団員と釜石ゆかりの弦楽器奏者で編成したオーケストラ。ピアノは釜石の合唱団体の活動を支える高橋伊緒さん

市民吹奏楽団団員と釜石ゆかりの弦楽器奏者で編成したオーケストラ。ピアノは釜石の合唱団体の活動を支える高橋伊緒さん

 
 毎年、かまいしの第九を聞いてきたという市内の65歳女性は「(規模は縮小されたが)想像していた以上に素晴らしい演奏で感動した。第九はみんなで喜びを分かち合い、『これからまた頑張るぞ』という気持ちにさせてくれる。年末に聞けるのはやっぱりうれしい」と笑顔。大槌町の鈴木英彦さん(67)も「昨年、終了と聞いて寂しく思っていたが、こういう形で復帰というか、聞けたのは大きな喜び。楽器も小編成ながら聞き応えがあった。いろいろ苦労もあるだろうが、高校生の合唱応援などもいただいて何とか続いてくれるといい」と願った。
 
 「かまいしの第九」は地元の合唱愛好者のほか、市外から招くプロのオーケストラや声楽家の出演を得て発展を遂げ、長年にわたり釜石の音楽文化をけん引してきた。しかし、人口減少や少子高齢化、市内経済の低迷など時代変化を背景に、資金確保や運営体制の維持が困難となり、実行委は昨年の演奏会をもって終了を決断した。
 
 今年に入り、「釜石の合唱活動の原点となった第九をこのまま絶やしたくない。形を変えて継続できないか」と、同合唱協会が歌い継ぐ方法を模索。協会の合同演奏会という新たな枠組みでの第九演奏を発案した。地元の市民吹奏楽団にも協力を呼び掛けたところ、賛同する仲間が集結。7月から本格練習を重ね、例年通りの年末の第九演奏が実現した。
 
最後は観客と第6コーラス(歓喜の歌)を大合唱。釜石の第九演奏会恒例のフィナーレ。指揮者の小原一穂さん(写真右上)は釜石の演奏会で長年ソリストを務めてきた

最後は観客と第6コーラス(歓喜の歌)を大合唱。釜石の第九演奏会恒例のフィナーレ。指揮者の小原一穂さん(写真右上)は釜石の演奏会で長年ソリストを務めてきた

 
釜石での第九演奏継続への一歩となった演奏会。今後、合唱仲間が増えることを願う

釜石での第九演奏継続への一歩となった演奏会。今後、合唱仲間が増えることを願う

 
 テノールのソリストを務めた大船渡市の大和田宏明さん(53)は、釜石の第九演奏会に10数年参加。昨年まで練習で担当していたソロパートを初めて観客の前で歌った。「一生に一度と思って頑張った。喉が痛いです」と照れ笑い。再び第九を歌える機会が得られたことに喜びを感じ、「この曲はどこまでも挑戦し続けられる面白さがある。形は何であれ、みんなで歌っていければ…釜石の第九は不滅です」と継続への思いを込めた。
 
 昨年まで第九合唱のメンバーとして参加してきた釜石高音楽部。今回は自分たちの発表後、客席最前列で聞く側として演奏を堪能した。前見琉綺亜部長(2年)は「祖母も第九を歌っていた。これまで演奏会が続いてきたのは需要があってのことだと思うし、やはりなくすべきではない」と実感。「私たち世代が受け継ぎ、次の代につないでいければ」と願い、若年層の合唱参加の広がりに期待した。
 
 演奏会実現へ奔走した合唱協会の小澤一郎事務局長(47)は「初の試みで心配なところはあったが、最終的にこれだけの歌い手、演奏者、観客に集まっていただき、何とか成功することができた」と安堵(あんど)の表情。「形式は変われど、釜石の第九をつなげられたのは大きい。やって良かった」と手応えを感じ、今後の形をさらに検討しながら継続の道を探っていく考えを示した。

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発信!将棋の魅力 釜石でフェス 地元出身・小山怜央四段ら、子どもたちと触れ合い

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「将棋フェスティバルin釜石」に参加した小山怜央四段(右)

 
 釜石市出身で、岩手県初の将棋のプロ棋士となった小山怜央四段(31)。今夏、フリークラスから順位戦C級2組への昇級を決めた。飛躍を続ける地域の星を応援しようと、市民らが棋士と交流する「将棋フェスティバル」を企画。愛棋家や子どもたちと触れ合った小山四段は「釜石に関するいいニュースの発信源になれるよう頑張りたい」と意気込みを見せた。
 
 イベントは8日、同市大町の市民ホールTETTOで開かれた。岩手日報釜石広華会(新里進会長、25会員)、岩手日報社が主催。小山四段、渡辺明九段(40)、本田小百合女流三段(46)を招き、市内外のファンら約200人が集結。憧れの棋士との指導対局やトークを楽しんだ。
 
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小山四段、渡辺明九段、本田小百合女流三段によるトークショー

 
 トークショーは、釜石出身のフリーアナウンサー佐野よりこさんが進行役を担当。棋士3人はそれぞれの将棋にまつわる経験や印象に残る対局について語った。将棋界における人工知能(AI)の活用について、渡辺九段は「誰もが使うようになって、むちゃくちゃ大変になった。AIで研究しようと思えば終わりがない。時間がいっぱいあった5、6年前に戻りたい」と苦笑い。本田女流三段は「AIは研究には欠かせない存在」とし、小山四段も「研究すべき視点が明確になった。『これを習得できた』みたいな実感を得られる」と恩恵があることを明かした。
 
 特に注目されたのは「どうやったら強くなれるのか」という質問。渡辺九段が「普段から『分からない』と答えている」と明かすと、本田女流三段が「それを生で聞けた」と返し、和やかな笑いを誘った。そして、「得意戦法を持つことや、詰将棋(つめしょうぎ)をやるのがいい。終盤力を鍛えるのに役立つ」とアドバイス。小山四段は「自分の体験と重なる部分が多い」と同調した。
 
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憧れの棋士たちのトークや抽選会をファンらが楽しんだ

 
 また、将棋の普及に関して渡辺九段は「地域にある教室や指導者の存在が大きいが、それがない地域もあるので課題だと思う」と指摘。本田女流三段は「学校教育とかで取り入れてもらえると、初心者や子どもたちにも将棋の楽しさを伝わる」と伝統文化としての魅力の浸透に期待を込めた。
 
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子どもたちを相手に対局する「多面指しぐるぐる将棋」

 
 イベント終盤では、棋士3人が小中高生約20人と一斉に戦う「多面指しぐるぐる将棋」が行われた。紫波町から参加した小学6年生の櫻田大貴さんは「すごい人たちと指すことができて楽しかった。感想戦では褒めてもらってうれしい。こつこつ勉強を続けて強くなって、小山四段のように棋士の道を進んでいけたら」と夢を膨らませた。
 
 将棋ファンの大人たちは、受ける棋士の手に視線が集中。地元の佐々木信孝さん(74)、鈴木守義さん(80)は「子どもたちもなかなかの腕前、強い」と“見る将”を満喫した。小山四段の活躍に注目していて、「これからも上がっていくのを期待している」と応援を続ける構えだ。
 
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プロ棋士と子どもたちのやり取りに熱視線を送る大人たち

 
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盤面に鋭い視線を送り、思考し、繰り広げられる真剣勝負。決すと笑顔も

 
 将棋フェスは、釜石が持つ文化的魅力と将棋界の発展をつなぐ意義深い催しとなった。主催者の新里会長(66)は「小山四段の存在がきっかけとなった。プロ棋士との交流で刺激を受け、将棋人口が増えれば」と願った。
 
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名棋士を囲んで記念写真に収まる子どもたち

 

小山四段 市長に昇級報告「常に、いいニュースを」

 
 小山四段は翌9日、父・敏昭さん、母・聖子さん、日本将棋連盟釜石支部長の土橋吉孝さんとともに市役所を訪れ、小野共市長に昇級を報告。「地元の期待に応えたい」と思いを伝えた。
 
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昇級を報告するため市役所を訪れた小山四段(中)

 
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活躍に祝意を表した小野共市長(右下写真・左)らと懇談

 
 来年度から順位戦に挑む小山四段は「長時間の対局に耐えられる体力と集中力をつけたい。どんな戦型にも対応できるよう準備し、勝率6割を目指したい」と抱負を語った。小野市長は「諦めず夢を持ち続けて取り組めば、かなう。それを体現する怜央さんは我々のスター。徹底的に応援する」とエールを送った。
 
 小山四段は7月の棋戦で谷川浩司十七世名人に勝利し、成績要件(30局以上指して勝率が6割5分以上)を満たして昇級を果たした。プロ入りから約1年半での達成に「思ったより早い」と振り返りながらも、「厳しい世界なので、現実を見据えながら頑張りたい」と気を引き締めた。
 
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地元からの応援を力にさらなる高みを目指す小山四段

 
 地元からの応援を実感している小山四段は「常に釜石のいいニュースになるよう、一つひとつ結果を残していきたい。最近は負けが込んでいるが、しっかり頑張るので安心してください」と笑顔で決意を語った。

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手づくり小型ボート、いざ進水 釜石商工高・機械科の課題研究 試行錯誤で成長実感

鵜住居川を進む小型ボート。釜石商工高生が製作した

鵜住居川を進む小型ボート。釜石商工高生が製作した

 
 釜石市大平町の釜石商工高(今野晋校長、生徒180人)の機械科3年生21人は、バイク製作やボードゲーム作りなど4つのテーマで課題研究カリキュラムに取り組んでいる。このうち、小型ボート(2人乗り)の製作に挑んだ7人が6日、同市鵜住居町の鵜住居川で出来栄えを確認。「学びや実習の経験を生かせた。楽しい」と納得の笑顔を連鎖させた。
 
課題研究で小型ボートづくりに挑戦した機械科の生徒7人

課題研究で小型ボートづくりに挑戦した機械科の生徒7人

 
 課題研究は5月に本格化。小型ボート班は、製作や運航を通じて安全に関する知識や理解を深めることも目的に、今年初めてテーマに組み込まれた。楽しいことが好きな7人が選択し、週3時間、ものづくりを通じた学びの深化に取り組んできた。
 
 ボートは発泡スチロール製。ガラス繊維で強化し、さらに繊維強化プラスチック(FRP)樹脂で固めて船体を作り、船舶用塗料で塗装した。手こぎ用にオールも作製。旋盤を使って加工し、固定する金具部分は溶接で仕上げた。製作の過程では、船体の曲げ加工や樹脂の塗布で隙間ができるなどの課題に直面。試行錯誤を重ねて完成させた。
 
 川で実運転をする一週間ほど前に、市営プールで試験運転を行った。その際、船体の下部から水が浸入するトラブルが発生。この問題を受け、塗料を3度重ね塗りし、再度運航に臨んだ。
 
進水場所を探して堤防を歩く釜石商工高の生徒ら

進水場所を探して堤防を歩く釜石商工高の生徒ら

 
 進水場所は鵜住居水門付近。初めにオールを使った手こぎで船を出した。想定通りに船が進むと、生徒らは「おー、やったー」と歓声を上げた。さらにボート用のエンジンを取り付けた運航も確認。交代で2人ずつ乗り込み、安定性や耐久性に好感触を得た。
 
期待を込めて鵜住居川に船を運ぶ生徒ら。浸水なし「よし」

期待を込めて鵜住居川に船を運ぶ生徒ら。浸水なし「よし」

 
ライフジャケットや救助用のロープを用意し安全対策もよし

ライフジャケットや救助用のロープを用意し安全対策もよし

 
エンジンを取り付けてスムーズに進むボートに「よっしゃー」

エンジンを取り付けてスムーズに進むボートに「よっしゃー」

 
 この取り組みで生徒たちは、模型作りに3次元(3D)CADを使い、ボートやオールで使うパーツの寸法を測ったり、切り抜く作業でも校内にある機械を活用。船体とオールの製作を担当する班に分かれ、進ちょくを確認しながら作業を進め、計画性とチームワークの重要性を学んだ。試験運転での問題点を本番前に修正できたことも成長につながった。
 
鵜住居水門そばでボートを走らせて成果を確認した

鵜住居水門そばでボートを走らせて成果を確認した

 
仲間と挑むものづくりの楽しさを共有した生徒たち

仲間と挑むものづくりの楽しさを共有した生徒たち

 
 リーダーの栗澤大翔さんは「実習の経験を生かしたものづくりができた。苦労もあったが、みんなで意見を出し合い、改善した結果。みんなが楽しそうに乗っていたのがうれしい」と胸を張った。地元の空気圧機器メーカーに就職が決まっていて、「技能職として力を発揮したい。仕事以外でも地域を盛り上げられたら」と未来を思い描いていた。
 
 活動を見守り、指導や助言をしてきた同科の似内拓也教諭(34)は「樹脂の固まりのでこぼこをなくすため、ひたすら削ったり、細かい作業、根気のいる作業が多かったが、粘り強く取り組んでいた。船体の表面の滑らかさ、船の浮いたバランスも良かった」と肩の力を抜いた。最後まで楽しそうな姿が印象的な7人に目を向け、「職場で粘り強く頑張ってほしい」と願った。
 
小型ボート製作に取り組んできた生徒と見守った教師ら

小型ボート製作に取り組んできた生徒と見守った教師ら

 
 今回、浮かぶ船の製作には成功したが、7人はさらなる改良の余地があると感じている。年内に科内の成果発表会があり、1、2年生に活動を紹介。「ハンドルなど船内の改装をしてほしい」などと希望を伝え、次年度以降、引き継ぎたいと名乗り出る後輩の出現を待つ。
 

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かまいしの第九“原点回帰”で歌い継ぐ 15日開催の合唱協会初の試み「つなコン」で

15日のコンサートに向け「第九」の合唱練習に励む参加者=8日、中妻公民館

15日のコンサートに向け「第九」の合唱練習に励む参加者=8日、中妻公民館

 
 釜石の合唱文化の原点、ベートーベンの「第九」が有志の熱い思いで歌い継がれる―。昨年12月、惜しまれながら45年の歴史に幕を下ろした「かまいしの第九」演奏会(実行委主催)。その合唱メンバーに名を連ねてきた釜石市合唱協会(柿崎昌源会長、3団体)所属の各団体会員らが、形を変えて歌い継ぐ方法を模索。新たな試みとなる協会の合同演奏会「つなコン」で、第4楽章(抜粋)を響かせることになった。演奏会は15日午後1時半から市民ホールTETTOで開かれる。
 
 「つながろう・つなげよう・絆のコンサート」と銘打った合同演奏会は4部構成。典礼聖歌などの混声合唱で幕を開け、賛助出演の釜石高音楽部の合唱、女声合唱組曲「遙かな歩み」と続き、合同演奏の「ケヤキ(合唱組曲「よかったなあ」より)」で前半を締めくくる。
 
 休憩後の第4部が「第九」のステージ。第4楽章を通常の3分の2ほどの長さにし、合唱メインの構成で届ける。合唱メンバーは約40人。これまでプロの声楽家を招待していたソリスト(独唱者)は、今回の参加メンバーから男女6人を選出。ソプラノは永田理恵さんと川畑薫さん、アルトは中野和子さん、テノールは大和田宏明さんと石田昌玄さん、バスは小澤一郎さんが務める。指揮は、かまいしの第九で昨年までソリスト(バス)を務め、合唱指導も行ってきた小原一穂さん(盛岡市)。演奏は釜石市民吹奏楽団の団員を中心とした19人で編成し、管楽器主体のミニオーケストラとなる。
 
ソリストは地元在住者を中心とした男女6人が務める。ソプラノとテノールは2人体制

ソリストは地元在住者を中心とした男女6人が務める。ソプラノとテノールは2人体制

 
釜石市民吹奏楽団の団員を中心とした有志が楽器演奏を担当

釜石市民吹奏楽団の団員を中心とした有志が楽器演奏を担当

 
 8日、中妻公民館で行われた最後の合同練習では、指揮者の小原さんの指導のもと、テンポやタイミング、強弱など細かな部分を調整。1週間後に控えた本番に向け、約2時間にわたって熱のこもった練習が続いた。
 
 ソプラノソリストの2人は「素人が出すのは難しい音域。声帯も筋肉なので、運動しながら頑張ってきた」と口をそろえ、永田さんは「この半年間、生活のほとんどが第九練習」、川畑さんは「コロナ禍前以来の参加で、声を戻すためにレッスンを受けた」と苦労を明かした。それでも第九を歌える喜びは大きく、「みんなのやりたいという気持ちが原動力。(釜石の第九演奏会を始めた)渡邊顯麿先生(故人)もきっと見ていてくれていると思う」と川畑さん。永田さんは「プロのような演奏ではないが、同じ市民目線であたたかく見守っていただければ」と本番を心待ちにする。
 
 トランペットの岡本崇子さん(44)は3回目の第九オケ参加。「弦楽器のプロが主体だったこれまでに比べ個々の負担が大きく心配もあるが、アットホームでもいいからきちんと形にして届けたい」と意欲を見せる。形を変え続く第九には「楽器が吹けなくなったら合唱で…という夢も持ち続けてきた。希望がつながった」とうれしさをのぞかせた。
 
合唱にはこれまでかまいしの第九を歌ってきたメンバーらが集う

合唱にはこれまでかまいしの第九を歌ってきたメンバーらが集う

 
小原一穂さん(写真左上)の指揮で届ける初めての第九。本番へ意欲を高める

小原一穂さん(写真左上)の指揮で届ける初めての第九。本番へ意欲を高める

 
 指揮者の小原さん(65)は、かまいしの第九のソリストを約30年務めてきた。今回の試みに「新鮮な驚きとともに、やっぱり皆さん、歌いたいんだな」と思いを受け止める。小原さんが第九演奏で指揮するのは初めて。「出演者の第九を愛する気持ちを届けられれば。昨年の演奏会終了後、観客の寂しがる声も多数あったので、『また聞けて良かった』と思ってもらえるような演奏ができれば」と本番を見据える。
 
 1978年の「かまいしの第九」スタートの礎となったのは、前年77年に釜石混声合唱団が行った釜石初の第九演奏。合唱メンバー27人、吹奏楽10人足らずの編成だったという。今回の試みは、いわば“原点回帰”。釜石の合唱文化を次世代につなぐ方策を考える中、合唱協会が中心となって「新たな一歩を踏み出せれば」と、第九を含めた合同演奏会開催を発案した。
 
 合唱協会事務局長の小澤一郎さん(47)は「コロナ禍で演奏活動が休止になった時、その後の再開には大きな労力を要した。何とか間を空けずに…と考え、有志で動き出すことにした」と開催経緯を説明。「釜石で培われた合唱をつないでいきたいというのが一番の思い。その一部が第九。来場をきっかけに、歌い継いでいく仲間が増えてほしい」と願う。
 
合唱メンバーは約40人。一人一人がこれまで培った力を発揮する

合唱メンバーは約40人。一人一人がこれまで培った力を発揮する

 
10人ほどが初めての第九演奏。経験者のアドバイスを受けながら練習に励む

10人ほどが初めての第九演奏。経験者のアドバイスを受けながら練習に励む

 
 釜石市合唱協会合同演奏会「つなコン」は15日午後1時半開演(同1時開場)。入場料は500円(未就学児無料)。プレイガイドは釜石市合唱協会、市民ホールTETTO。

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ボーイスカウト指導者54年 釜石市の末永正志さん(県連副連盟長) 社会教育功労で県教育表彰

県教育表彰受賞を報告した末永正志さん(左から3人目)と市幹部ら

県教育表彰受賞を報告した末永正志さん(左から3人目)と市幹部ら

 
 日本ボーイスカウト岩手連盟の副連盟長で、本県の指導者養成などに尽力してきた釜石第2団先達の末永正志さん(74)が、社会教育振興に貢献したとして県教育表彰を受けた。社会教育活動の指導者の功績で同表彰を受けるのは同市では初めて。末永さんは「ボーイスカウトそのものの活動が広く認められたようでうれしい。今後は次に続く指導者の育成にもさらに力を入れたい」と思いを強くする。
 
 本県の教育振興、文化財保護に貢献した団体や個人をたたえる同表彰は県教委が実施。毎年11月1日の「いわて教育の日」のつどいで伝達している。本年度は各分野での功績が認められ、12団体37人が表彰を受けた。盛岡市で開かれたつどいに出席した末永さんは26日、釜石市の小野共市長を訪ね、受賞を報告した。
 
これまでのボーイスカウト活動について話す末永正志さん。現在、日本ボーイスカウト岩手連盟の副連盟長を務める

これまでのボーイスカウト活動について話す末永正志さん。現在、日本ボーイスカウト岩手連盟の副連盟長を務める

 
 末永さんは小学6年時に釜石第2団の団員となり、21歳からは指導者として活動。野外活動や奉仕活動を通じて、子どもの自立心や協調性、リーダーシップなど社会で役立つ力を育んできた。40歳で日本連盟の指導者養成のためのトレーナー資格を取得。プログラム開発や各種活動のマネジメントなどに携わってきた。岩手連盟の要職も歴任。2006年からコミッショナーを4年、12年から8年間は理事長、20年から副連盟長に就任し現在に至る。
 
 岩手連盟は東日本大震災後、関係団体と連携し、被災地の子どもの傷ついた心をケアする活動を展開。2011年から年2回、釜石、大槌、大船渡3市町の小学4~6年生を滝沢市の国立岩手山青少年交流の家に招待し、キャンプや自然観察、乗馬など各種体験活動で心身の回復を図ってきた。12年からは釜石市などで「遊びの広場」を開設。被災で遊び場の減った子どもたちのために、昔遊びやボーイスカウトで行う野外活動の体験プログラムを用意し、訪れた親子らを楽しませた。
 
震災後に滝沢市で開催したグリーフケアのための「岩手しぜんとあそぼキャンプ」=写真提供:末永さん

震災後に滝沢市で開催したグリーフケアのための「岩手しぜんとあそぼキャンプ」=写真提供:末永さん

 
釜石・シープラザ遊で開いた第1回目の「遊びの広場」=2012年5月

釜石・シープラザ遊で開いた第1回目の「遊びの広場」=2012年5月

 
 末永さんは、連盟理事長を務める釜石第2団の山崎義勝団委員長(71)とともに市役所を訪問。長年にわたる青少年の健全育成活動を振り返りながら、今回の受賞について報告した。
 
 市職員として働きながらボーイスカウト活動を続けてきた末永さんは、同活動の理念“備えよ常に”に触れ、「ボーイスカウトで培ったことが市職員としての下地になったと思う。防災課長時代には小中学校の防災教育にも着手することができた。震災後の支援活動で市にも恩返しができたかな」。同活動は人と交わる楽しさも魅力といい、未来を担う子どもらに「ぜひ経験してほしい」と願った。
 
末永さんと連盟理事長を務める山崎義勝さん(右)はボーイスカウト活動の現状なども説明した

末永さんと連盟理事長を務める山崎義勝さん(右)はボーイスカウト活動の現状なども説明した

 
 「大きな課題の一つが指導者の確保」と山崎さん。少子高齢化の影響もあり、近年、担い手不足が顕著という。末永さんは「指導者の育成には時間がかかる。われわれの経験を若いリーダーに伝え、活動を広げる手助けができれば」と今後を見据える。
 
 報告を受けた小野市長は「子どもたちの健全な成長、健康増進に多大な貢献をいただいている」と感謝。学校以外での学びの多さも実感し、「今後も健康に留意し、釜石の教育、子どもたちの育成にお力添えを」と期待を込めた。

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ラグビーのまち釜石 裾野の拡大着々と 小学校タグR大会で16チームが熱戦 低学年も楕円球に笑顔

6回目を迎えた小学校対抗タグラグビー大会(釜石東ロータリーカップ)

6回目を迎えた小学校対抗タグラグビー大会(釜石東ロータリーカップ)

 
 第6回釜石市小学校対抗タグラグビー大会(釜石東ロータリーカップ2024)は17日、釜石鵜住居復興スタジアムで開かれた。県内外の有志で組織する釜石ラグビー応援団(中田義仁団長)が主催。小学4年生以上は試合を、3年生以下はボールを使った運動教室を楽しみ、約140人が紅葉に囲まれたグラウンドで心地良い汗を流した。ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会釜石開催から5年―。大会レガシー(遺産)を受け継ぐ子どもらの元気なプレーが「ラグビーのまち釜石」のさらなる発展を後押しする。
 
 開会式では双葉小6年の川村桔平さんが選手宣誓。同スタジアムが会場となったラグビーW杯で震災復興支援への感謝の気持ちを表した歌「ありがとうの手紙」を全員で合唱し、試合での健闘を誓い合った。
 
紅葉に囲まれたスタジアムで開会式。双葉小の川村桔平さんが元気に選手宣誓(写真左上)

紅葉に囲まれたスタジアムで開会式。双葉小の川村桔平さんが元気に選手宣誓(写真左上)

 
 今大会には市内6校と釜石シーウェイブス(SW)ジュニアから計16チームが参加。4ブロックで予選リーグを行った後、各ブロックの上位2チームが決勝トーナメントに挑んだ。1チームは4~6年の男女5人で編成。選手の入れ替えは自由で、登録選手全員に出場機会を与えた。試合時間は予選リーグが前後半なしの7分、決勝トーナメントは前後半5分ずつ。各ブロックの3、4位チームもフレンドリートーナメントで試合経験を重ねた。
 
4ブロックで総当たり戦が行われた予選リーグ

4ブロックで総当たり戦が行われた予選リーグ

 
対戦相手の腰にぶらさげたタグを取るのがタックル代わり

対戦相手の腰にぶらさげたタグを取るのがタックル代わり

 
タグを取りにくる相手を振り切りトライゾーンへまっしぐら

タグを取りにくる相手を振り切りトライゾーンへまっしぐら

 
 2チームを結成した双葉小はコロナ禍前以来の久しぶりの出場。参加希望メンバーを募り、大会に向けた放課後練習を重ねて本番に臨んだ。同大会初参加の金野優輝さん(5年)は「体育の授業も含めけっこう練習はしてきたが、(昨年優勝の)鵜住居のチームが強くてびっくりした」。同じチームで戦った鈴木慶大さん(同)も他校の強さを感じて闘志に火がついたようで、「来年も絶対出て、優勝を目指したい。僕たちの得意な部分は出せていたので、あとは気持ちの強さと緊張感があれば…」とリベンジを誓った。
 
双葉Jr.(赤ビブス)と平田ウォーリアーズの試合は接戦に…

双葉Jr.(赤ビブス)と平田ウォーリアーズの試合は接戦に…

 
 昨年、決勝で鵜住居のチームに敗れた小佐野バーバリアンズの鹿野遥斗さん(6年)は午前中の予選リーグを終え、「3試合とも点差をつけて勝てたので、いいスタート」と手応えを実感。今年は練習期間を長くとれたということで、「メンバーの仲も深まり、チームプレーの精度も上がった」という。プレー中は互いに声を掛け合い、コミュニケーションを意識。決勝トーナメントを前に「去年の優勝チームに一歩でも近づけるよう頑張りたい」と話していたが…。
 
 最終決戦は互いに切磋琢磨してきた同校の別チーム(小佐野バーバリアンズレッド)との対戦となり、6-3でバーバリアンズが頂点に輝いた。小佐野小は12月に行われるSMBCカップ全国小学生タグラグビー大会県予選などへの参加も予定。鹿野さんは「まだ時間があるので、強豪の日詰に食らいつけるようなチームになりたい」と意気込んだ。
 
予選は3戦全勝、決勝トーナメントに進んだ小佐野バーバリアンズ(赤ユニホーム)

予選は3戦全勝、決勝トーナメントに進んだ小佐野バーバリアンズ(赤ユニホーム)

 
優勝、準優勝を果たした小佐野小のチームは来月参加予定の県大会へ弾みをつけた

優勝、準優勝を果たした小佐野小のチームは来月参加予定の県大会へ弾みをつけた

 
 同大会は、釜石東ロータリークラブがラグビーW杯釜石開催の機運醸成を図ろうと、2年前の2017年に開始。初回は甲子町の市球技場で開かれ、第2回大会から新設された同スタジアムに会場を移した。W杯開催年の第3回大会には20チーム約190人が参加。その後、新型コロナウイルス感染症の影響で2年間の中止を余儀なくされた。仕切り直しの22年から釜石ラグビー応援団が主催を引き継ぎ、児童の健全育成、同市のスポーツ文化発展などを目的に大会を継続する。
 
 中田団長(56)は「学校側の大会に対する理解も深まり、子どもたちが参加しやすい環境ができている。大会経験者が中学生になり、県中総体ラグビーを制覇していることもうれしい限り。今後は他地域からの参加も促し、大会をより発展させていきたい」と思いを込めた。
 
ラグビー人口拡大への足掛かりにもなっている大会。将来、有名選手が出るかも?

ラグビー人口拡大への足掛かりにもなっている大会。将来、有名選手が出るかも?

 

低学年も集まれ~! SWアンバサダー向井陽さんら 楕円球との触れ合い、運動の楽しさ伝授

 
日本製鉄釜石SWアンバサダーの向井陽さん(中央)も指導に駆け付けた低学年対象の体験教室

日本製鉄釜石SWアンバサダーの向井陽さん(中央)も指導に駆け付けた低学年対象の体験教室

 
 同大会は地元クラブチームの日本製鉄釜石シーウェイブス(SW)、釜石市ラグビーフットボール協会が全面支援する。試合は小学4年生以上が対象だが、3年生以下の子どもたちにもラグビーを通じて体を動かす楽しさを味わってもらおうと体験教室を開いている。今年は同市地域おこし協力隊員(ラグビー普及コーディネーター)で、SW事務局員でもある竹中伸明さん(36)が中心となってプログラムを提供した。
 
教室はラグビーの普及活動に取り組む地域おこし協力隊員竹中伸明さん(左奥)が中心となり実施

教室はラグビーの普及活動に取り組む地域おこし協力隊員竹中伸明さん(左奥)が中心となり実施

 
SWの選手OBらも子どもたちの体験をサポート

SWの選手OBらも子どもたちの体験をサポート

 
 SWからは桜庭吉彦ゼネラルマネジャーや選手OBらがサポートした。強力な“助っ人”として千葉県から駆け付けたのは同OBで、現在はチームのアンバサダーを務める向井陽さん(47)。釜石では甲東幼稚園(現・同こども園)に勤務しながら、SH として7年間プレー。2008年に退団、現役引退後はスポーツ教育の会社を経て、千葉県松戸市で保育園の園長を務めている。日本ラグビーフットボール協会の普及コーチでもあり、全国各地で子どもたちの指導にあたっている。
 
遊びの要素を取り入れたプログラムで子どもたちを楽しませる向井さん

遊びの要素を取り入れたプログラムで子どもたちを楽しませる向井さん

 
 「初めてボールに触る子どもたちが楽しさを感じ、(ラグビーをやってみたいとか)次につながるようなきっかけづくりをしたくて…」と向井さん。日本協会でも今、未就学児や小学校低学年向けのトレーニングプログラム作りに取り組んでいるという。「ラグビーボールは使うが、遊びの要素を入れて、その年代の運動能力を伸ばすようなメニュー」と、子どもの発育、発達を促す活動に力を注ぐ。この日もそうした知識や経験を釜石の子どもたちに還元した。
 
子どもたちはボールやタグを使った運動メニューに笑顔満開!

子どもたちはボールやタグを使った運動メニューに笑顔満開!

 
向井さんら指導者は釜石の子どもたちの健やかな成長を願う

向井さんら指導者は釜石の子どもたちの健やかな成長を願う

 
 タグラグビー大会をはじめ、子ども向けの競技普及、関心喚起活動に積極的な釜石の取り組みを喜ぶ向井さん。「このスタジアムで体を動かした思い出が残り、またここでラグビーをしたい、見たい、行ってみたいと思うような場所になったらいい。ラグビーはそれぞれの良さ(持ち味)を生かせるスポーツ。自分や仲間の良さに気付き、力を合わせて物事を成し遂げる素晴らしさも感じてもらえたら」と話した。

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釜石の海、今を伝える「おさかなフェス」 岩手大生が初開催 触れ合い創出・水産資源の魅力発信

釜石で水揚げされた新鮮な魚介類を買い求める人でにぎわう

釜石で水揚げされた新鮮な魚介類を買い求める人でにぎわう

 
 釜石市平田の岩手大学釜石キャンパスで16日、地元の海や水産資源の魅力を発信するイベント「おさかなフェス」が初めて開かれた。同大農学部食料生産環境学科水産システム学コースの学生が企画した同キャンパス独自の学園祭的な催しで、海洋生物との触れ合い、鮮魚の格安販売、魚や海にまつわる知識を試す検定などの体験プログラムを用意。市内外から多くの家族連れらが訪れて思い思いに楽しみ、「釜石の海」に理解を深めた。
 
 子どもたちに人気だったのは、三陸の海でとれた10種類以上の生物を間近で観察できるタッチプール。タコ、ヒトデ、ヤドカリ、ホヤ、カレイ…多様な生き物に和田優広ちゃん(2)は夢中になり、あちこちから手を伸ばして触れていた。子どもに楽しんでもらおうと北上市から足を運んだ父・哲志さん(35)は「生き物や自然を大切にしようと気持ちを育んでもらえたらいい。岩手は漁港から見る海の景色、海のそばにある街並みがきれいなところが多い。そんな地域性も感じてもらえたら」と目を細めた。
 
海洋生物に触れながら学びを深める子どもたち

海洋生物に触れながら学びを深める子どもたち

 
多様な生き物に触れ合う機会に大人も子どもも夢中

多様な生き物に触れ合う機会に大人も子どもも夢中

 
 学生が考えた問いに挑戦する「釜石さかなと海の検定」もプログラムに加えて実施。3回目となった今回も小中学生は40問(制限時間30分)、一般(高校生以上)は70問(同60分)の出題で、4つの選択肢から正解を選ぶ方式で行った。魚介類の生態や地理、海洋変化、漁港に関することなど幅広い知識を試す内容。それぞれの部門に合わせて約20人が挑んだ。
 
 終了後、小学生の部では答え合わせがあった。ギネス登録されている釜石港の湾口防波堤の水深について、同系統の魚の見分け方など、子どもらが解答に悩んだ問題を伝えると、学生がホワイドボードに図を描いたりして解説。「へ~、そうなんだー」と知識を増やした。
 
検定を終えて学生の解説に耳を傾ける子どもたち

検定を終えて学生の解説に耳を傾ける子どもたち

 
 初挑戦の前川大悟さん(8)は“ゆるい感じ”と思っていたら、“本格的な試験”で「驚いて緊張した」というが、海や釣り、生き物が好きなこともあって「楽しかった」とうなずいた。父・仁さん(49)は「頼もしい」とうれしそうな笑顔を見せ、「いろんなものに興味を持って、どんどん挑戦していってほしい」と背中を押した。
 
 大人たちが関心を示したのは、市魚市場で水揚げされた魚介類の販売コーナー。学生が市内の水産会社を通して仕入れたブリやサンマ、ドンコ、カワハギ、ワラサなどが「ほぼ仕入れ値と同じ価格」で並んだ。「安い!」と品定めすると、来場者が次々と購入。なじみのある「マアジ」の隣に並んだ「メアジ」が気になった人が、学生に質問して交流する場面も見られた。
 
釜石の魚市場に揚がった魚介類が並び人気を集めた

釜石の魚市場に揚がった魚介類が並び人気を集めた

 
 朝5時に起きて、いち早く買い物を楽しんだ市内の70代女性は「知らなかったことだらけ。釜石の新鮮な魚を安く買えたし、(学生の)若いエネルギーももらえた」と喜んだ。
 
 高品質の水産資源、水産業の魅力を広く知ってほしい―。そんな願いを込めて催しを企画し、全体を統括した髙山琢磨さん(4年)は、予想を上回る来場や反響に手応えを感じた様子だった。
 
消費者となる買い物客に仕入れた魚種の説明をする髙山琢磨さん(中)

消費者となる買い物客に仕入れた魚種の説明をする髙山琢磨さん(中)

 
 釜石キャンパスでは現在、同コースの3、4年生22人が学ぶ。普段、授業や研究では「漁獲量を増やすには」といった視点で漁業者と関わることが多いが、消費者に届けるという流通面に携わる機会は少ないという。そこで今回、“実践”という経験を積む場として鮮魚販売を設定。メアジやシイラ、ムツなど“なじみがない”魚種も積極的に仕入れて、「今の釜石の海が分かる」よう準備を進めてきた。
 
 「消費者とも関わることができてうれしい」と話す髙山さんら学生たち。そばで見守った釜石キャンパス特任専門職員の齋藤孝信さん(63)は「初めてのチャレンジ、よく頑張ってたどり着いた。ゼロから考え企画して実践、清算、報告書作りという一連の流れを経験することは、社会人の準備に役立つだろう。糧として釜石から巣立ってほしい」と願った。

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釜石市と東京大タッグ!海と希望の学園祭 「船出」テーマに未来考え、楽しみ学ぶ

釜石市と東京大の連携イベント「海と希望の学園祭」

釜石市と東京大の連携イベント「海と希望の学園祭」

 
 「海と希望の学園 in Kamaishi」は9、10の両日、釜石市大町の市民ホールTETTOと釜石PITを会場に開かれた。同市と東京大学の連携事業として継続する交流イベントで、今年のテーマは「船出」。船や海にまつわる展示や工作などがあり、子どもたちが楽しんだ。先を見据えた各種研究のかじ取りを担う教授陣によるパネル討論は大人たちの学びの機会に。一緒に「地域の未来」を考えて新たな思考を得たり刺激にした。
 
 2006年の同大社会科学研究所(社研)による「希望学」釜石調査を機につながり、東日本大震災後は「危機対応学」で研究連携を継続。そうした背景を基に22年に社研、同大大気海洋研究所(海洋研)、同大先端科学技術研究センター(先端研)と覚書や協定を結び、地域社会の発展、人材育成、学術振興に向けて相互交流を続ける。
 
 展示では同大生産技術研究所(生産研)、先端研などが研究内容を紹介した。社研は遂行中の「測る」をテーマにした研究プロジェクトを会場内で実践。来場者に「測ってみたい」「測ってはいけない」と思うものを書き込んでもらった。その理由や意味、影響などについて聞き取り、意見を交わす場面も。他の人の考えに触れ、関心や探究心をくすぐり合った。
 
「測る」を切り口にした東京大社会科学研究所の展示ブース

「測る」を切り口にした東京大社会科学研究所の展示ブース

 
先端科学技術研究センターは災害時避難の補助装置などを紹介

先端科学技術研究センターは災害時避難の補助装置などを紹介

 
大気海洋研究所の巨大バルーンオブジェは写真スポットに

大気海洋研究所の巨大バルーンオブジェは写真スポットに

 
 海に関する展示はさまざまあり、釜石海上保安部は海洋調査業務の紹介や海上保安官の制服試着体験などを用意。岩手大釜石キャンパスの学生らは三陸に生息する海の生き物に触れられるタッチプールを設け、子どもたちの心をつかんだ。ウニの殻を使ったランプづくり(釜石商工高ブース)、ウニを模した樹脂製のフィギュアを使ったインテリア小物づくり(SASAMOブース)は大人も楽しんだ。
 
海にまつわる活動やものづくりを楽しむ来場者

海にまつわる活動やものづくりを楽しむ来場者

 
海の生き物に触れるタッチプールは子どもに人気

海の生き物に触れるタッチプールは子どもに人気

 
 船や魚にちなんだアート作品づくりを提供したのは、文京学院大の学生9人。ペットボトルのキャップやラベルを使い、環境やリサイクルについて考えてもらう内容にした。浜田幸奈さん(経営学部3年)は「本来廃棄されるもので楽しんでもらえてうれしい」と素直な感想。自身にとっても学びの機会で、来場者との触れ合いを通して「社会とつながってできることをやる」という姿勢、スキルを磨いた。
 
文京学院大のブースは工作を楽しむ人でにぎわった

文京学院大のブースは工作を楽しむ人でにぎわった

 
ものづくり体験を提供したりチャリティーグッズも販売

ものづくり体験を提供したりチャリティーグッズも販売

 
 体験活動を楽しんだ大槌町の小國翔太郎さん(8)の夢は“生き物博士”。今一番のお気に入りは町の天然記念物に指定されているトゲウオ科の希少魚「(淡水型)イトヨ!」と胸を張った。そばで笑うのは父親の晃也さん(46)。子どもの興味を引き出す取り組みだと歓迎し、「海がそばにあるのに触れ合う機会は少なかったりする。自然を体感し、たくさん学んでほしい」と見守った。
 
 「希望の船出」をテーマにしたパネル討論は東京大の玄田有史副学長が進行。大海研の兵藤晋所長、社研の宇野重規所長、生産研の年吉洋所長、先端研の杉山正和所長というパネリストに小野共市長が加わり、長としての組織運営の苦労など、ざっくばらんに話した。
 
東京大の副学長や4研究所長、釜石市長がトークを展開

東京大の副学長や4研究所長、釜石市長がトークを展開

 
 船出には「新しいことに挑戦するというイメージもある」と玄田副学長。「未知の領域に挑む時、ゼロから始める時に気を付けていることは?」と聞くと、4月に就任したばかりの年吉所長は「とにかく始めちゃえばいい」とスパッと言い切った。兵藤所長は「船があるからではなく、行きたいから船を出す。自分から動き出すことだ」と強調。杉山所長は「思いを共有すれば実現する」とし、同じ船に乗る仲間集め、チームづくりを大切にしていると伝えた。
 
 「不安、悲観主義を持ちつつも歩いて、船を進めたら、何かの出会いで今がある」と語ったのは宇野所長。実は、希望学調査で釜石と関わりがあり、「思想や歴史、哲学といった昔のことが専門なのに…地域に放り込まれ、何をやっていいか分からなかった。これこそ、ドキドキの船出」と振り返った。20年も続く活動や関係性に見いだすことは多かったようで、「(挑戦には)新しい可能性がある」と確信を込めた。
 
教授らのざっくばらんな語り口を楽しむ聴講者

教授らのざっくばらんな語り口を楽しむ聴講者

 
 市政運営のかじ取り役を担い、船出して間もなく1年となる小野市長。財政再建や持続可能なまちづくりなど挑まなければならない課題は多いとの認識を示した。前向きな教授陣の考えに触れ、「希望学によって住んでいても気づかないことに気づかされ、希望が地域に伝ぱした。小さなネタでも地域にある限り、まちは生き続けられると感じた。失敗が多いほど希望も…」とヒントを得た様子。自身と同じように聴講した市民らが「未来を考えるきっかけになれば」と期待した。
 
 希望学のプロジェクトリーダーだった玄田副学長。釜石との縁は05年からと長い。「真剣な遊びとしてやろうと始めたのが希望学だったな」と思い返し、ニヤリ。この先も、「いろんな楽しいことに挑戦していきたい」とトークを締めくくった。

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釜石思う心今も… 小樽「旅するピアノ」8度目の訪問コンサート 元仮設住民らと交流継続

小樽市出身者らでつくる「旅するピアノ・プロジェクト」のメンバーと、交流を続ける釜石市民ら

小樽市出身者らでつくる「旅するピアノ・プロジェクト」のメンバーと、交流を続ける釜石市民ら

 
 北海道小樽市出身者でつくる被災地応援プロジェクト「旅するピアノ」(佐藤慶一代表)のメンバーが今年も釜石市でコンサートを開いた。2016年、東日本大震災の被災者が入居していた平田第6仮設団地を初めて訪問。以来、音楽を楽しむ時間を届け続けるメンバー。その寄り添いの気持ちは今も変わらない。8度目の訪問となった今回は大只越町のカトリック釜石教会を会場にし、集まった約30人を新たな趣向で楽しませた。
 
 3日、プロジェクトメンバー7人が来釜。「ピアノでつづる賢治童話の世界」と題したコンサートを繰り広げた。小樽で新聞記者をしていたこともある盛岡市出身の歌人石川啄木(1886-1912)の短歌に曲を付けた「初恋」を、畠山典之さんが歌って幕開け。三浦明子さんと関口ゆかりさんがピアノの独奏を披露した。今回初めての企画も。花巻市出身の童話作家宮沢賢治(1896-1933)の「どんぐりと山猫」を畠山さんが朗読し、三浦さんと関口さんがピアノ伴奏や間奏で物語の世界観を表現した。
 
昨年に続き、カトリック釜石教会で開かれたコンサート

昨年に続き、カトリック釜石教会で開かれたコンサート

 
宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」を朗読とピアノで…。畠山さん(写真右上)は「星めぐりの歌」も歌った

宮沢賢治の童話「どんぐりと山猫」を朗読とピアノで…。畠山さん(写真右上)は「星めぐりの歌」も歌った

 
岩手出身作家の作品を題材にしたコンサートに拍手を送る来場者

岩手出身作家の作品を題材にしたコンサートに拍手を送る来場者

 
 同プロジェクトは小樽潮陵高出身(1990年卒)の岩森勇児さん、野瀬栄進さん、山中泰さんが中心となって進めた東日本大震災復興支援活動が始まり。北海道などでチャリティーコンサートを行った後、2016年2月、初めて釜石市を訪問。平田第6仮設団地内の集会施設「平田パークホール」でピアノコンサートを開いた。ニューヨーク在住のジャズピアニスト野瀬さん、小樽市在住のクラシックピアニスト三浦さんが演奏し、仮設生活が長引いていた被災者らに元気と癒やしを届けた。釜石とのつながりを作った建築家の岩森さんは住民の声を聞き、ホールで使う木製の簡易ステージを製作。団地自治会役員らと一緒に作業し、心を通わせた。
 
2016年2月に平田第6仮設団地で開かれた初めてのコンサート。野瀬栄進さん(写真上)と三浦明子さんが演奏した

2016年2月に平田第6仮設団地で開かれた初めてのコンサート。野瀬栄進さん(写真上)と三浦明子さんが演奏した

 
仮設団地の住民と平田パークホール用の簡易ステージを作る岩森勇児さん(手前右)

仮設団地の住民と平田パークホール用の簡易ステージを作る岩森勇児さん(手前右)

 
 これを機に毎年、釜石を訪問し、幼児施設や公民館、教会などでコンサートを続けてきたメンバーら。訪問後は、小樽市民に被災地の現状を伝える活動も行ってきた。新型コロナウイルス禍で3年間は活動できなかったが、昨年から復活させている。
 
 今回、会場には1回目のコンサートが開かれた平田第6仮設の元住民らが多数訪れた。市内の復興住宅で暮らす人、自宅を再建した人、市外に移住した人…。それぞれ異なる環境で生活する人たちは久しぶりの再会となった人も多く、同窓会的な雰囲気も。コンサート後はメンバーとも会話を弾ませ、思い出話に花を咲かせた。平田の復興住宅に暮らす女性(80)は「懐かしい顔が見られてうれしい。年を重ねると出かけるのもおっくうになりがち。こういうきっかけがないとなかなかね…」と話し、(震災から)13年という年月の経過をあらためて実感した。
 
第1回目のコンサートから出演しているピアノの三浦明子さん(右から2人目)は顔なじみの住民らとの再会を喜んだ

第1回目のコンサートから出演しているピアノの三浦明子さん(右から2人目)は顔なじみの住民らとの再会を喜んだ

 
 ピアノの三浦さん(55)は初めて被災地に足を踏み入れたのが8年前の釜石訪問。被災から5年たっても仮設住宅で暮らす現状に衝撃を受けた。自分たちを温かく迎えてくれる住民と接し、「今回だけなんてありえない。喜んでくれるのなら継続しなければ」と思うようになった。他のメンバーも同じだった。「毎年お会いする中で元気な様子は見えるが、心には今も計り知れないものを抱えていると思う。これからも寄り添い続けたい」と三浦さん。
 
宮沢賢治の世界観を表現したステージセットも岩森さんらの手作り

宮沢賢治の世界観を表現したステージセットも岩森さんらの手作り

 
写真上:コンサート後、あいさつする岩森さん(右)と三浦さん 同左下:小樽の菓子をプレゼントするメンバー

写真上:コンサート後、あいさつする岩森さん(右)と三浦さん 同左下:小樽の菓子をプレゼントするメンバー

 
 岩森さん(53)は仕事の拠点がある静岡県から駆け付ける。「訪問の半年前にミーティングをして企画を練る。ステージは年々バージョンアップし、私たちは釜石の皆さんに育ててもらっている感がある」と話す。建築の技術を生かし、被災地(釜石、大槌、陸前高田など)訪問のたびに木製ベンチやテーブルなどを作る活動も続けてきた。木工品は仮設住宅や復興住宅、公共施設などで住民のコミュニティ―形成に役立てられてきた。今回は製作済みのベンチ5脚を持参し、希望者に引き渡した。これまでに製作したベンチは累計で50脚に上る。岩森さんは「(被災した)皆さんの生活も少しずつ落ち着いてきた印象。それでもメンバーからは『何年を区切りに』という話は出たことがない。被災者と支援者ではなく市民同士、長く縁をつないでいければ」と願う。

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編み物、絵画、写真、舞踊…個性豊かに釜石市民芸文祭 楽しみ発信「あなたは、何する?」

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生け花など多彩な作品が並んだ釜石市民芸術文化祭

 
 釜石市民芸術文化祭(釜石市、市芸術文化協会主催)は3日までの2日間、同市大町の市民ホールTETTOで開かれ、日頃の芸術活動の成果を披露した。秋を彩るこの催しは54回目。展示部門には生け花や書道、絵画、水墨画、切り絵などの作品が並び、ステージ発表部門では舞踊やバレエ、バンド演奏などが繰り広げられた。
 
 芸文協には26団体(約450人)が加盟。市外を拠点に活動している人、団体もあるが、みな釜石にゆかりがある。それぞれが多様な表現方法を楽しんでいて、年に一度、その姿を発信、共有している。
 
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多種多様な文化芸術活動に取り組む団体が一堂に会した芸文祭

 
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好きなことに取り組む人たちの楽しみが鑑賞者にも伝わる

 
 今年、2団体が新たに加わった。その一つが「ニット&レース編人・あみっとの会」。同市甲子町で教室を主宰する石井美智子さんと、釜石を中心とした岩手県沿岸部の生徒8人が繊細なレース編みの敷物や洋服、毛糸で編んだインテリア小物などを多数出展した。「タティング」「クンスト」「フィレ」などレース編みの多彩な技法のほか、ひもを結んだり編んだりして装飾模様や立体を作る手芸「マクラメ」、英国伝統刺しゅう「ニードルポイント」なども紹介。作り手たちの細やかな手仕事を楽しめる作品が目を引いた。
 
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芸文祭初参加の「あみっとの会」の展示コーナー

 
 教室に通って2年ほどという佐々木純子さん(55)は「いろんな技法に触れられるのが魅力」と話す。かぎ針編みの作品づくりに取り組むが、「年上の先輩たちのやる気がすごい。難しいものに挑戦しようとする姿勢は刺激になる。棒編み、タティングレースをやってみたい」と目標を見いだす。初参加の芸文祭は、他分野の活動を知る機会になった様子。「いざない」というタイトルが付いた写真に感動したといい、「風景を自然のまま写し出しているよう。自分が撮ってもそうならない」と笑っていた。
 
 写真作品「いざない」(全倍・900ミリ×600ミリ)は、幾重にも重なった橋脚の先にたたずむシカを捉えた一枚。撮影者は釜石写光クラブの生田輝夫さん(69)で、「偶然の一枚。趣のある古い橋を撮ろうと行ってみたら、シカがいた。何となく誘っている感じがあって…」とシャッターを切ったという。昨年度の第76回県芸術祭美術展写真部門入選作で、「見てほしい」と望むこの作品を今回、釜石市民に公開。気に入ってくれた人がいたことをうれしく思った様子で、「偶然の出会い、タイミングを楽しみに自然の風景を撮り続けたい」と意欲を高めた。
 
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仲間と集合写真に納まる生田輝夫さん(左から2人目)。右下の写真が「いざない」

 
 「優れたデザインが多い」と生田さんが感心を寄せたのは、美術集団サムディ45の展示。釜石の街並みをデザインしたマップ風の作品、災害時の冷静な行動の大切さを伝えるポスター看板などがあった。同集団に所属するイラストレーター須藤郁美さん(36)は、タブレット端末を使ったデジタルイラストの実演、体験を提供。色塗りに夢中になる岩洞木春さん(6)ら体験者の活動を見守り、「知らない人が多い分野。感動した表情がうれしい。見てもらったり触れる機会を作って普及させたい」と話した。
 
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個性あふれるデザイン画などが並んだ「サムディ45」の展示

 
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デジタルイラストの色塗り体験を提供した須藤郁美さん(左の写真)

 
 須藤さんはもともと絵を描くのが趣味で、大学時代からデジタルアートに取り組む。2年前にアーティスト活動に一本化。似顔絵、擬人化の表現を得意とし、「ポップで気軽に親しみやすい作品づくり」を心がける。芸文祭では多くの目があり、「見る側が求めているものを知ることができた」とヒントを得たようで、「もっと大きなサイズの作品を」と奮起した。
 
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書、絵画、切り絵なども並び、蘭煎会による呈茶もあった

 
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小柳玲子バレエ教室は「くるみ割り人形」で舞台発表。釜石のほか宮古、松園教室の生徒が出演

 
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KIKIダンススクールの3チームは今夏初出場を果たした全国大会の演技を披露した
 

古里釜石で舞踊初披露 菊池由美子(藤間宣福)さん 来春のタレント養成所開設に意欲

 
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「長唄 越後獅子」を踊る菊池由美子(藤間宣福)さん=2日、TETTO

 
 ステージ発表で日本舞踊を初披露したのは、釜石市出身で昨年、37年ぶりにUターンした菊池由美子さん(56)=FUKUプロモーション代表=。日本舞踊「藤間流」の名取で、舞踊家名は藤間宣福さん。東京で約30年、俳優やモデル、ナレーターとして活躍し、舞台の所作指導なども行ってきた菊池さんは、このたび市芸術文化協会にも加盟し、古里で第2の芸能人生をスタートさせた。
 
 菊池さんは釜石で踊ること自体が初めて。この日は、日本舞踊のゆったりとしたイメージを覆す「長唄 越後獅子」を披露。頭に獅子頭を乗せ、胸に太鼓をつけた越後の旅芸人が江戸に出稼ぎに来た様子を描いたもので、小道具を使って大道芸を踊りで表現した。16分の舞台を、早変わりを含め全て一人で演じ切った。
 
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元気で軽快な踊りを披露し、観客を楽しませた菊池さん
 
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釜石での初舞台を終え、ほっとした表情。会場には小中高の同級生らも駆け付けた

 
 菊池さんは高校までを釜石で過ごし、短大進学のため上京。後にモデルの仕事を始め、23歳で役者の道へ進んだ。劇団在籍時、舞台で必要だった日本舞踊を習うため、藤間流の門をたたいた。舞踊歴は約30年に及ぶ。劇団退団後、舞台の仕事を続けながら、興味のあった美容やリラクゼーションの業界にも足を踏み入れ、エステサロン経営や美容雑誌の監修なども手掛けた。
 
 2013年からはエンターテインメント会社に入り、舞台の所作指導のほかナレーターや俳優としても活躍。舞台や映画、ドラマなど制作側の仕事も学んだ。2022年には、古くからの日本女性の理想“大和なでしこ”を和の文化で発信する「なでしこ日本コンテスト全国大会クラシックの部」でグランプリを獲得した。
 
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芸能事務所「FUKUプロモーション」を立ち上げ、釜石で第2の人生を歩み始めた菊池由美子さん(写真:本人提供)

 
 Uターンを決めたのは高齢の両親のため。現在は「地方から芸能の世界を目指す人たちの力になりたい」と、タレント養成所の開設を目指して準備中。日本の伝統文化や芸能、礼儀作法などを学びながら、演技や声楽、ナレーションといった必要な技能を身に付けられる場を作りたいという。釜石の歴史や観光も学んでもらい、同市のPR役を担っていける人材の育成も目的とする。
 
 「日本には素晴らしい文化や伝統があるが、日本人は海外の人に比べ、自国の誇りを発信する力が弱い。勉強する機会が極端に少ないからだと思う。近年は担い手の高齢化や継承も問題になっている。まずは若い人たちに体験してもらい、次につながる一歩にできれば」と菊池さん。これまで自身が培ってきたものを古里釜石のために生かそうと奮闘する。
 
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2002年、厚木市文化会館で常磐津「廓八景」を踊る菊池さん(写真:本人提供)

 
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今年9月、早稲田edu日本語学校で開かれた日舞ワークショップでは講師を務めた(写真:同)

 
 養成所の開設は来春を予定。対象は幼児からシニアを想定する。将来的には、立ち上げた芸能事務所のタレントとして自らマネジメントもしていく考え。「芸能の世界を目指している子たちが自分の夢に近づけるよう全力で応援したい―」。菊池さんの新たな挑戦に目が離せない。

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油彩一筋45年 釜石市民絵画教室前会長・小野寺豊喜さん 初の個展で自身の創作活動回顧

油彩画の個展を初めて開いた小野寺豊喜さん(中央)=TETTO、30日

油彩画の個展を初めて開いた小野寺豊喜さん(中央)=TETTO、30日

 
 釜石市鵜住居町のアマチュア画家、小野寺豊喜さん(76)が自身初となる個展を開いた。釜石市民絵画教室(現・釜石絵画クラブ)で腕を磨き、長年、同教室の会長も務めてきた小野寺さん。油彩画に魅せられ、続けてきた創作活動は45年にも及ぶ。今回、同級生の働きかけも背中を押し、「これまで手がけた作品をもう一度見直す機会に」と個展開催を決めた。
 
 小野寺さんの個展は10月28日から30日まで、大町の市民ホールTETTOで開かれた。1980年代初頭の作品から近作まで計88点を展示。最小のF0(エフゼロ)から400号の大作まで見応えのある作品の数々が並んだ。小野寺さんが描くのは季節の野菜や果物、魚などの静物、海や山、花の自然風景…など。県内陸部出身ということもあり、興味をそそられるのは海や魚。中でも三陸海岸の荒々しい岩々に創作意欲をかき立てられるという。
 
野菜や果物、花などを描いた静物画。これまでに描いた作品は数知れず

野菜や果物、花などを描いた静物画。これまでに描いた作品は数知れず

 
昔、各家庭の軒先で見られた「新巻きザケ」は定番のモチーフ(左)。食卓に上る前の魚やカニも

昔、各家庭の軒先で見られた「新巻きザケ」は定番のモチーフ(左)。食卓に上る前の魚やカニも

 
悠久の時が生み出した三陸海岸の岩のある風景                                                 

悠久の時が生み出した三陸海岸の岩のある風景

 
 展示会場でひときわ目を引いたのが「震災前の御箱崎 仮宿海岸」という作品(1997年作)。画布を張ったベニヤ板4枚を一つのキャンバスにして、テトラポットの上から見えたダイナミックな“岩”風景を描いた400号の大作だ。今回の展示のために一部、加筆し、27年ぶりに日の目を見た。
 
F400の大作「震災前の御箱崎 仮宿海岸」には来場者が驚きの声を上げた

F400の大作「震災前の御箱崎 仮宿海岸」には来場者が驚きの声を上げた

 
 「震災後の風景」として4作品(F100)も公開した。がれきが積み重なるなど実際に目にした光景に、2人の孫の姿を入れて画面構成。荒れ果てた古里に立つ子どもたちの視線の先には何が見えるのか…。見る人の視点で、さまざまな感情が湧き起こる。このうち2作品は、岩手芸術祭美術展洋画部門で部門賞を受賞している。
 
県の芸術祭洋画部門で部門賞を受賞した作品「震災後の風景1」

県の芸術祭洋画部門で部門賞を受賞した作品「震災後の風景1」

 
震災後の風景2(左)と同3(右)。2人の孫とともに描かれる

震災後の風景2(左)と同3(右)。2人の孫とともに描かれる

 
 小野寺さんは1979(昭和54)年30歳の時、市教委が前年から始めた社会教育講座の絵画教室を受講。同教室終了後の81(同56)年、受講生らが自主活動グループとして立ち上げた「釜石市民絵画教室」の会員となり、創作活動を続けてきた。後に同教室の5代目会長に就任。昨年、グループ名を改称するまで務め上げた。これまでは、教室が年度末に開く「わたくしたちの絵画展」や11月の市民芸術文化祭で作品を発表してきたが、今回初めて“個展”と言う形での発表が実現した。
 
 油彩の魅力について小野寺さんは「こすったり削ったり重ねたり…。創作が自由にできるところ」と話し、その過程を人生に照らし合わせる。「人も失敗や成功、気持ちの高ぶりや落ち込み、いろいろな場面に遭遇するが、失敗したら直せばいいし、絵にも人生にも答えというものはない。ものの見方、感じ方も人それぞれ。どちらも自由さが必要」。自身は20代後半に単身でオーストラリアに渡り、砂漠地帯の一人旅を経験した。そこで得た「良いことも悪いことも受け止めて生きる」姿勢は絵を描く上でも生かされているという。
 
来場者に作品の説明をする小野寺豊喜さん(左)

来場者に作品の説明をする小野寺豊喜さん(左)

 
全88点の作品が小野寺さんの絵画人生を物語る

全88点の作品が小野寺さんの絵画人生を物語る

 
 縁あって釜石で仕事をすることになり、人生を豊かにする絵画の世界にも足を踏み入れた。それから45年―。2011年の東日本大震災では、高台の自宅は津波被害を免れたが、地元鵜住居の景色は一変した。発災時は市民絵画教室の展示会初日。会場の市民文化会館(大町)にいた会員4人は辛うじて避難し無事だった。小野寺さんは3日後、同館に向かい、暗く泥にまみれた室内から自作9点を含む43点の作品を“救出”。泥を落とし会員に返した。
 
左:函館連絡船でのスケッチ 右:ツバキを描いた小作品(F0)

左:函館連絡船でのスケッチ 右:ツバキを描いた小作品(F0)

 
小野寺さんの作風に触れながら鑑賞する来場者

小野寺さんの作風に触れながら鑑賞する来場者

 
 初の個展を経験した小野寺さんは、作品を振り返る中で「新たなテーマが見つかった」と話す。今までは忠実に描こうという気持ちが強かったが、「単純化された表現」に興味が向いた。「もっと物の見方、感じ方も変わっていいのではないか。そうすればさらに面白い作品ができる。まだまだ、あと10年は描きたい―」。当初、“最初で最後”と考えていた個展だが、また数年後にも実現するかもしれない。

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釜石・国際外語大学校で入学式 日本語学科開設、希望胸にネパール出身16人 観光系と2学科体制に

サリーなど華やかな衣装をまとって入学式に臨んだ学生たち

サリーなど華やかな衣装をまとって入学式に臨んだ学生たち

 
 釜石市鈴子町の「釜石市国際外語大学校」(竹内新也校長)に留学生を受け入れる日本語学科が開設され、28日、入学式があった。1年半コースの第1期生として、ネパール出身の16人が仲間入り。「日本語の勉強をがんばりたい」「日本で働きたい」との夢や希望を抱き、実現へ新たな一歩を踏み出した。日本人向けの外語観光学科との2学科体制が始動。同校にとっても新展開が予想され、関係者らは“わくわく感”を膨らませる。
 
 同校は学校法人龍澤学館(盛岡市)が運営する専門学校。若者の定着や地域活性化を狙いに釜石市が誘致し、今年4月に開校した。外国人対象の日本語学科は1年半と2年の2コースを設け、定員は各40人。法的手続きの影響で開講が予定より1年遅れていたが、ようやく1年半コースの10月開始にこぎつけた。
 
 日本語学科開設・入学式は大町の市民ホールTETTOであった。「サリー」など華やかな民族衣装や真新しいスーツに身を包んだ18~22歳の留学生16人が参加。学校や市の関係者ら約60人が拍手で迎えた。
 
拍手で迎えられる釜石市国際外語大学校日本語学科の1期生

拍手で迎えられる釜石市国際外語大学校日本語学科の1期生

 
 竹内校長は「ようこそ、日本、岩手県、釜石へ。皆さんが思い描く夢や希望の実現を導くために全力を挙げる」と式辞。2学科体制が本格化し、「わが校がどのように進むか興味深い」とワクワク感を募らせた。留学生を迎えるにあたり、市民から食器や調理器具などの提供があったことも紹介。「釜石のコミュニティーの一員として、自覚を持って生活をしてほしい」と望んだ。
 
日本語学科開設・入学式。式辞を述べた竹内新也校長(右上写真)

日本語学科開設・入学式。式辞を述べた竹内新也校長(右上写真)

 
竹内校長らのあいさつに熱心に耳を傾けるネパール人学生

竹内校長らのあいさつに熱心に耳を傾けるネパール人学生

 
 新入生を代表し、ラワル ユブラズさん(20)は「日本語の勉強をがんばります。卒業したら、日本でビジネスを勉強したいです。自動車のメカニックにも興味があります」と意気込みを伝えた。16日に来日し、釜石での生活は始まったばかり。「まち、道、海がとてもきれい。人も親切で優しい」と好印象を持った様子だ。
 
新入生を代表し意気込みを伝えるラワル ユブラズさん

新入生を代表し意気込みを伝えるラワル ユブラズさん

 
夢や希望を持ってネパールから釜石にやってきた学生たち

夢や希望を持ってネパールから釜石にやってきた学生たち

 
 先行する外語観光学科1年生の2人が歓迎の言葉。「多様性を尊重し、皆が分かり合うことを大切にするこの学校で一緒に学び、互いに成長できることを楽しみにしている。支え合いながら楽しい学校生活を送りましょう」と激励を込めた。
 
外語観光学科で学ぶ在校生は日本語と英語で歓迎を伝えた

外語観光学科で学ぶ在校生は日本語と英語で歓迎を伝えた

 
 同法人が取り組む日本語教育は20年目を迎え、これまで世界20カ国、1000人超を受け入れてきた。仕事の都合で入学式に参加できなかった龍澤尚孝理事長は「思いっきり勉強、アルバイトに励み、釜石での暮らしを楽しんでください。生きる学びで地域に溶け込み、多文化共生社会につなげてほしい」などとメッセージを寄せた。
 
 日本語学科の授業はすでに始まっている。学生らはある程度日本語は理解できるというが、今後週に20時間、日本語を学習。日本の大学や専門学校への進学を見据えており、1年半後には日常生活に必要な言葉が分かる程度の習熟を目指す。
 
釜石での生活をスタートさせた学生と見守る講師陣

釜石での生活をスタートさせた学生と見守る講師陣

 
食器や調理器具などの提供に感謝を伝えるパネル

食器や調理器具などの提供に感謝を伝えるパネル

 
 学生は市が整備したアパートで生活。学内の交流のほか、地域活動も進めながら異文化理解を深めていく。アルバイトについて、出入国管理法では申請すれば週28時間以内(長期休暇中は週40時間)の就労が可能となっていて、学校と市が市内事業所を訪問活動中。また、来春には2年コースが始まる予定で、ネパールやミャンマーからの留学生20人ほどが入学を希望しているという。