
演技ワークショップに臨むC-Zeroアカデミーの生徒ら=8月31日
芸能の世界を夢見る人たちを後押しする釜石市のタレント養成所「C-Zero(シーゼロ)アカデミー」(菊池由美子校長)は、開校から4カ月経った。生徒たちは月に7、8回、演技やボイストレーニングなどレッスンを重ねる。さらに、首都圏、第一線で活躍する映画監督や演出家らの特別指導を受ける機会も得、力を蓄積。ラジオドラマや短編映画の製作・出演が決まるなど、夢実現への歩みを着実に前進させている。
8月31日に同市大町の市民ホールTETTOで行われた特別な演技ワークショップ。俳優への指導やプロデュースを手がけるボビー中西さん(東京)が講師を務め、映像作品に生きる自然でリアルな演技表現「リアリズム演技」の心得を伝えた。

ボビー中西さん(奥)を講師に楽しく学ぶ生徒たち

信頼関係や一体感を高めるゲームでウオーミングアップ
「演技とは想像の設定の中で真実に生きること。ただ役を演じることではなく、生きることが大事」「演技とは行動。演じるのではなく、役の目的に沿って、すべき行動をして」「ドラマとは葛藤。感情がぶつかり合う、対立の構造で進む。大事なのは相手との会話。伝えて、受け取って、返す―、キャッチボールをして」「虚構の中で生きる。演じない、相手と影響し合うこと。互いの思い、行動がつながり、いい演技になる。感じているものをちゃんと出していこう」。中西さんの言葉が降り注ぐ。
感じ合う、響き合うとはどういうことか―。生徒らは2人一組に分かれ部活動の仲間や親子などの設定で、感情がぶつかり合う場面の演技に挑戦。中西さんは「クールではなく、ホットで」「目を見て、もっと気持ちを込めて」「エネルギーをバーンと!」「もっと、もっと、もっとー!」などと促した。

「演じる」のではなく、「生きる」こと。背中でも語る

「殻を破れー!」。アドバイスに熱を込める中西さん(右)
演技初挑戦という子や、せりふを覚えるのに精いっぱいな生徒もいたが、何度か繰り返すうちに「次こそは」といった気持ちを乗せて演じたり変化が生まれた。繊細なやりとりに思わず涙する組も。中西さんのもとで学ぶ岩手県出身の俳優2人(遠野出身の石川紗世さんと一関出身の佐藤響さん)も参加しており、アカデミーの生徒たちの表現を刺激した。

感情を込めた言葉のキャッチボールを体感する生徒

台本の読み合わせに遠野出身の俳優石川紗世さん(左から2人目)も協力
地元釜石から表現者を目指しアカデミーで学ぶ会社員の佐藤愛莉さん(25)は「生きる演技がどういうことか、今は何となく分かった感じ。自分を表現することに緊張があって難しかったが、感情を表現していけるようになりたい。声を出して伝えることを意識していきたい。誰かを笑顔にできる人になるために」とうなずいた。

佐藤愛莉さん(左)は一関出身の俳優佐藤響さんと会話対決⁉
そんな佐藤さんやアカデミーの生徒らに活躍の場が広がっている。シーゼロオリジナル作品によるラジオドラマが北上市のコミュニティーFM「きたかみE&Be(いいあんべ)エフエム」で10月から放送されることになり、8月17日に1回目の収録に臨んだ。放送は12月まで続き、数話ごとに収録する予定だ。
続いて持ち込まれたのは、短編映画製作の話。7月に行われた別の演技ワークショップがきっかけになった。釜石が舞台となった映画「釜石ラーメン物語」でメガホンを取った今関あきよし監督ら制作陣が講師を務め、映像作品で求められる演技表現について助言し、2人一組で演技する様子を撮影したりした。そこで生徒の芝居が目に留まり、決まった。

今関あきよし監督(奥)を講師に迎えた映像演技ワークショップ=7月27日

今関監督らは撮影した映像を見ながら生徒にアドバイスした
映画のタイトルは「シグナルとシグナレス」。信号機同士の恋愛を描いた宮沢賢治の同名童話をモチーフにした、高校生の仲良し4人組の不安と希望を描いた物語だという。
出演するのはアカデミーの生徒4人で、佐藤さんはそのひとり。働きながら芸能界入りを目指しオーディションを受け続け、「25歳で区切りを」と考えていた頃にアカデミーが開校、「最後の挑戦」と飛び込むと夢に近づく機会を引き寄せた。「チャンスを生かし演技の幅を広げたい」。目を輝かせながら意気込む。せりふには釜石弁も。カメラを向けられたら「うまく出てくるかな」と笑いながら首をかしげた。やる気に満ちる。
普段のレッスンはもちろん、第一線で活躍中のプロによる特別指導を体感する生徒たちを見守った菊池校長は「短時間で成長している。のびしろがある」と確信。さまざまな背景や感性を持つ講師陣からの学びを受け取ることで、「才能という引き出しがどんどん増える」と話す。

菊池由美子校長(後列左から2人目)らC-Zeroアカデミー講師陣が笑顔で見守る=8月31日
多種多様な刺激を受ける生徒たち。「アイドル」「歌手」「ダンサー」と絞り込んでいた夢を「声を生かせる仕事を」「いろんなことができる人に」と視野を広げているという。
アカデミーでは将来の人脈作りにつながる機会でもある、こうした試みを継続する構え。キャスティングを手掛ける東北芸能企画事務所(秋田県横手市、池端祐士代表)と提携しており仕事のオファーはある。一方で、「岩手はまだ開拓途上」と菊池校長。「種をまいているところ。シーゼロを知ってもらい、ネットワークを広げていきたい」と、生徒と一緒に夢を広げる。











































































