タグ別アーカイブ: 産業・経済

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釜石市と東京大タッグ!海と希望の学園祭 「船出」テーマに未来考え、楽しみ学ぶ

釜石市と東京大の連携イベント「海と希望の学園祭」

釜石市と東京大の連携イベント「海と希望の学園祭」

 
 「海と希望の学園 in Kamaishi」は9、10の両日、釜石市大町の市民ホールTETTOと釜石PITを会場に開かれた。同市と東京大学の連携事業として継続する交流イベントで、今年のテーマは「船出」。船や海にまつわる展示や工作などがあり、子どもたちが楽しんだ。先を見据えた各種研究のかじ取りを担う教授陣によるパネル討論は大人たちの学びの機会に。一緒に「地域の未来」を考えて新たな思考を得たり刺激にした。
 
 2006年の同大社会科学研究所(社研)による「希望学」釜石調査を機につながり、東日本大震災後は「危機対応学」で研究連携を継続。そうした背景を基に22年に社研、同大大気海洋研究所(海洋研)、同大先端科学技術研究センター(先端研)と覚書や協定を結び、地域社会の発展、人材育成、学術振興に向けて相互交流を続ける。
 
 展示では同大生産技術研究所(生産研)、先端研などが研究内容を紹介した。社研は遂行中の「測る」をテーマにした研究プロジェクトを会場内で実践。来場者に「測ってみたい」「測ってはいけない」と思うものを書き込んでもらった。その理由や意味、影響などについて聞き取り、意見を交わす場面も。他の人の考えに触れ、関心や探究心をくすぐり合った。
 
「測る」を切り口にした東京大社会科学研究所の展示ブース

「測る」を切り口にした東京大社会科学研究所の展示ブース

 
先端科学技術研究センターは災害時避難の補助装置などを紹介

先端科学技術研究センターは災害時避難の補助装置などを紹介

 
大気海洋研究所の巨大バルーンオブジェは写真スポットに

大気海洋研究所の巨大バルーンオブジェは写真スポットに

 
 海に関する展示はさまざまあり、釜石海上保安部は海洋調査業務の紹介や海上保安官の制服試着体験などを用意。岩手大釜石キャンパスの学生らは三陸に生息する海の生き物に触れられるタッチプールを設け、子どもたちの心をつかんだ。ウニの殻を使ったランプづくり(釜石商工高ブース)、ウニを模した樹脂製のフィギュアを使ったインテリア小物づくり(SASAMOブース)は大人も楽しんだ。
 
海にまつわる活動やものづくりを楽しむ来場者

海にまつわる活動やものづくりを楽しむ来場者

 
海の生き物に触れるタッチプールは子どもに人気

海の生き物に触れるタッチプールは子どもに人気

 
 船や魚にちなんだアート作品づくりを提供したのは、文京学院大の学生9人。ペットボトルのキャップやラベルを使い、環境やリサイクルについて考えてもらう内容にした。浜田幸奈さん(経営学部3年)は「本来廃棄されるもので楽しんでもらえてうれしい」と素直な感想。自身にとっても学びの機会で、来場者との触れ合いを通して「社会とつながってできることをやる」という姿勢、スキルを磨いた。
 
文京学院大のブースは工作を楽しむ人でにぎわった

文京学院大のブースは工作を楽しむ人でにぎわった

 
ものづくり体験を提供したりチャリティーグッズも販売

ものづくり体験を提供したりチャリティーグッズも販売

 
 体験活動を楽しんだ大槌町の小國翔太郎さん(8)の夢は“生き物博士”。今一番のお気に入りは町の天然記念物に指定されているトゲウオ科の希少魚「(淡水型)イトヨ!」と胸を張った。そばで笑うのは父親の晃也さん(46)。子どもの興味を引き出す取り組みだと歓迎し、「海がそばにあるのに触れ合う機会は少なかったりする。自然を体感し、たくさん学んでほしい」と見守った。
 
 「希望の船出」をテーマにしたパネル討論は東京大の玄田有史副学長が進行。大海研の兵藤晋所長、社研の宇野重規所長、生産研の年吉洋所長、先端研の杉山正和所長というパネリストに小野共市長が加わり、長としての組織運営の苦労など、ざっくばらんに話した。
 
東京大の副学長や4研究所長、釜石市長がトークを展開

東京大の副学長や4研究所長、釜石市長がトークを展開

 
 船出には「新しいことに挑戦するというイメージもある」と玄田副学長。「未知の領域に挑む時、ゼロから始める時に気を付けていることは?」と聞くと、4月に就任したばかりの年吉所長は「とにかく始めちゃえばいい」とスパッと言い切った。兵藤所長は「船があるからではなく、行きたいから船を出す。自分から動き出すことだ」と強調。杉山所長は「思いを共有すれば実現する」とし、同じ船に乗る仲間集め、チームづくりを大切にしていると伝えた。
 
 「不安、悲観主義を持ちつつも歩いて、船を進めたら、何かの出会いで今がある」と語ったのは宇野所長。実は、希望学調査で釜石と関わりがあり、「思想や歴史、哲学といった昔のことが専門なのに…地域に放り込まれ、何をやっていいか分からなかった。これこそ、ドキドキの船出」と振り返った。20年も続く活動や関係性に見いだすことは多かったようで、「(挑戦には)新しい可能性がある」と確信を込めた。
 
教授らのざっくばらんな語り口を楽しむ聴講者

教授らのざっくばらんな語り口を楽しむ聴講者

 
 市政運営のかじ取り役を担い、船出して間もなく1年となる小野市長。財政再建や持続可能なまちづくりなど挑まなければならない課題は多いとの認識を示した。前向きな教授陣の考えに触れ、「希望学によって住んでいても気づかないことに気づかされ、希望が地域に伝ぱした。小さなネタでも地域にある限り、まちは生き続けられると感じた。失敗が多いほど希望も…」とヒントを得た様子。自身と同じように聴講した市民らが「未来を考えるきっかけになれば」と期待した。
 
 希望学のプロジェクトリーダーだった玄田副学長。釜石との縁は05年からと長い。「真剣な遊びとしてやろうと始めたのが希望学だったな」と思い返し、ニヤリ。この先も、「いろんな楽しいことに挑戦していきたい」とトークを締めくくった。

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釜石・浜千鳥が評価員特別賞 東北清酒鑑評会、純米酒の部 吟醸酒の部も優等賞

東北清酒鑑評会で評価員特別賞を獲得した浜千鳥の社員ら

東北清酒鑑評会で評価員特別賞を獲得した浜千鳥の社員ら

 
 仙台国税局による東北清酒鑑評会の結果が発表され、純米酒の部で釜石市小川町の酒造会社、浜千鳥(新里進社長)が最優秀賞に次ぐ「評価員特別賞」に選ばれた。吟醸酒の部でも優等賞を獲得。地域性を大事にした酒造りを続けており、新里社長は「岩手県の味わいが認められた」と喜ぶ。日本の「伝統的酒造り」が近く、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しで、「文化的な面で味わいも深めて楽しんでもらえたら」と期待を膨らませる。
 
 同鑑評会は東北6県で造られた日本酒の品質を評価する。今年は清酒製造場147場(県内は15場)が計274点(同29点)を出品。部門別では吟醸酒が122場136点(同10場10点)、純米酒は122場138点(同14場19点)だった。研究機関の職員や製造場の技術者、外国人の専門家らが10月上旬、香りや味などを総合的に審査した。
 
 その結果、優等賞に吟醸で47場52点、純米で43場46点を選び、その中から、最も評価が高かったものを最優秀賞、次点の2点を評価員特別賞とした。県内からは両部門で9場が選ばれ、浜千鳥を含む4場がダブル受賞。純米の評価員特別賞には浜千鳥とともに、わしの尾(八幡平市)も上位入賞を果たした。
 
 表彰式は11月7日にあり、浜千鳥の本社を訪れた仙台国税局課税第二部の田村英好部長が表彰状を伝達。新里社長、奥村康太郎杜氏(とうじ)・製造部長らが受け取り、社員らと喜びを分かち合った。インバウンド消費や輸出促進に役立ててもらうため、英語の賞状も授与された。
 
h評価員特別賞の表彰状を受け取る新里進社長(中央)ら

評価員特別賞の表彰状を受け取る新里進社長(中央)ら

 
吟醸酒の部の賞状は奥村康太郎杜氏(中央)らが受け取った

吟醸酒の部の賞状は奥村康太郎杜氏(中央)らが受け取った

 
 評価員特別賞を受けた「浜千鳥 純米大吟醸 結の香」は、本県最上級のオリジナル酒米「結の香」を原料に、岩手オリジナル酵母「ジョバンニの調べ」で醸造。軽やかに広がるフルーティーな香り、甘みと酸味の調和感、余韻の心地よさなどが評価された。吟醸の部優等賞の「浜千鳥 大吟醸」は酒米の王「山田錦」が原料。酵母は同じくジョバンニを使う。
 
 同社のダブル受賞は今年で5年連続7回目。全国トップクラスの技術を持つ杜氏や蔵人がひしめく東北鑑評会での入賞は「難しい」との声もある中、2部門での連続受賞に奥村杜氏は素直にうれしさを見せる。「全国に誇れる素材を生かし、浜千鳥らしい味をこれからも。品質も高めていく」。次の酒造りがすでに始まっているといい、「米、酵母、釜石の水…素材本来の味、特徴を見いだしたい」と眼光を鋭くする。
 
田村英好部長に代表銘柄「浜千鳥」を紹介する新里社長(右)

田村英好部長に代表銘柄「浜千鳥」を紹介する新里社長(右)

 
 新里社長は「ありがとう。これまで頑張ってきた成果」と社員への感謝を口にする。冬場に丹精込めて醸造し、夏場も細心の注意を払って管理、熟成させる伝統的な酒造りは変わらない。同じ材料で風合いを守りつつ品質を高めていく姿勢もしかり。「継続性を大切に」と望む中、無形遺産登録への流れを「日本酒の良さを知ってもらう好機」と捉える。「浜千鳥、そして岩手の清酒をどうぞ」。笑顔を添えてアピールした。

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平田に廃プラ対応のリサイクルセンター開設 11月から産廃処理開始、家庭プラは来年4月から

岩手資源循環 釜石総合リサイクルセンター完成見学会(自治体、報道機関向け)=10月31日

岩手資源循環 釜石総合リサイクルセンター完成見学会(自治体、報道機関向け)=10月31日

 
 岩手資源循環(谷博之代表取締役)が釜石市平田に建設を進めていた「釜石総合リサイクルセンター」が完成した。同施設は自治体収集の家庭プラスチックごみの再資源化を主に、産業廃棄物処理にも対応。来年度からの家庭プラごみ分別収集を計画する同市を含め、沿岸地域の資源再生への取り組み加速が期待される。11月からの施設稼働を前に10月31日から11月3日まで、自治体や法人関係者、地域住民向けの見学会が開かれた。
 
 31日は同市関係者約30人が見学。谷代表取締役(49)が工場棟を案内した。同施設は敷地面積約8120平方メートル。釜石など3市2町のごみ処理を行う岩手沿岸南部クリーンセンター隣の日本製鉄所有地を借りて整備された。工場棟(約1500平方メートル)はテント型の鉄骨組み幕構造。中に、家庭プラスチックごみと産業廃棄物を処理する装置がある。
 
釜石市平田第3地割に整備された「釜石総合リサイクルセンター」 写真上:左が工場棟、右が事務所棟

釜石市平田第3地割に整備された「釜石総合リサイクルセンター」 写真上:左が工場棟、右が事務所棟

 
 自治体が分別収集した家庭排出のプラスチックごみは検品後、機械に投入。2台の破集袋機で回収時の袋をはずし、手選別ラインでプラスチック再生できないものを除去。磁選機を経て、最終的に圧縮梱包機で「プラスチックベール」という固まりにし、再生業者に引き渡す。1日(8時間稼働)に12トンまで処理可能。釜石市のプラごみ分別収集が始まる来年4月から、市の委託事業として操業を開始する。
 
自治体回収の家庭プラごみを選別、圧縮梱包する機械装置

自治体回収の家庭プラごみを選別、圧縮梱包する機械装置

 
再生可能なプラごみを圧縮梱包機でプラスチックベール(写真左下)にする。プラベールは1個300キロ

再生可能なプラごみを圧縮梱包機でプラスチックベール(写真左下)にする。プラベールは1個300キロ

 
 産業廃棄物は機械投入前に、危険物のチェックを含め人の手でしっかり分別。廃プラスチック、木くず、繊維くず、ガラス・陶磁器くずなどに分け、品目ごとに機械に入れる。1次破砕機で約5センチ角に破砕。磁選機を経てベルトコンベヤーで運ばれ、品目ごとに下部の保管ボックスに落ちる仕組み。廃プラは2次破砕機でさらに細かく粉砕(約2センチ角)。再生プラスチックを成型するための原料、または化石(石炭)代替燃料として出荷する。廃プラは1日(同)100トンの処理が可能。産廃処理は11月中に開始する。 
 
産業廃棄物を破砕処理する機械。一番奥に2次破砕機がある

産業廃棄物を破砕処理する機械。一番奥に2次破砕機がある

 
 同社は、東日本を中心に廃棄物処理や再資源化事業を行う有明興業(東京都江東区)グループの3社が共同出資し、2022年5月に設立。23年2月、同市と工場立地協定を締結し、同年12月から建設工事が進められてきた。工場棟のほか、事務所棟(木造平屋建て、約250平方メートル)を有する。事業費は約10億円。従業員は地元雇用の24人。今後、選別作業に高齢者や障害者を含むパート採用も行っていきたい考え。
 
 谷代表取締役は「廃プラスチックの再生を一番の目的とした工場。家庭プラごみの選別、梱包は釜石市から始めて、他の沿岸自治体の受け皿にもなっていければ。沿岸特有の漁業系廃棄物はプラスチックが多く使われている。一つでも多くリサイクルし、新たな原料として生かせるようにしたい」と話す。既に多くの漁業関係者や一般法人が関心を寄せているという。全体で年間約9000トンの処理を当初目標とする。
 
左上写真:施設について説明する谷博之代表取締役 右上写真:説明を聞く小野共釜石市長ら

左上写真:施設について説明する谷博之代表取締役 右上写真:説明を聞く小野共釜石市長ら

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見て触れて魅力味わう JR釜石駅で鉄道まつり 初の列車運転シミュレーター体験に子どもら大喜び

列車運転シミュレーター体験に目を輝かせる来場者=釜石駅鉄道まつり

列車運転シミュレーター体験に目を輝かせる来場者=釜石駅鉄道まつり

 
 釜石市鈴子町のJR釜石駅(髙橋恒平駅長)で12日、同駅や釜石線の利用者、地域住民への感謝を込めた鉄道まつりが開かれた。10月14日の「鉄道の日」、11日から20日の「鉄道の旬間」に合わせて企画。同駅では初となる列車の運転シミュレーター体験、鉄道模型(Nゲージ)の展示などが行われ、家族連れなどが鉄道の魅力に触れた。
 
 運転シミュレーター体験は、同駅構内の旧盛岡運輸区釜石派出所の訓練室で行われた。同運輸区はJR東日本盛岡支社の運転士、車掌が所属していた組織で、2021年3月まで釜石派出所があった。派出所廃止後、使われずに置かれていた運転士の訓練用機械―。「イベントでお客様に体験してもらっては」と社員が提案し、同まつりでの実施が実現した。3回の開催時間を設けて抽選券を配布。各回6人の定員で、当選者に体験してもらった。
 
 運転台から見える釜石線の線路と周辺の景色をモニターに映し出した機械で、来場者が機器を操作。大雨や大雪時の走行、地震発生時の緊急停止を指令する無線対応のシミュレーションもでき、体験した人たちは興味をそそられながら束の間の運転士気分を味わった。
 
釜石線の線路をモニターで見ながら運転体験!

釜石線の線路をモニターで見ながら運転体験!

 
JR社員との会話も楽しいひととき。来場者は鉄道の仕事に興味津々(写真は一部画像加工)

JR社員との会話も楽しいひととき。来場者は鉄道の仕事に興味津々(写真は一部画像加工)

 
 同市八雲町の中学生前田雄基さん(15)は釜石駅から小佐野駅間の走行を体験した。「停車する時が大変。運転士さんはこんな難しいことをやっているのか」と驚いた様子。鉄道が好きで普段から写真を撮ったりしているが、運転体験は初めて。自宅近くも走り、「運転士の目線で見る景色はとても新鮮だった」と声を弾ませた。好きな列車を聞いてみると、「釜石線を走る『キハ100』が一番好き」との答えが…。「将来は列車の運転士になりたい」と夢を膨らませた。
 
 同駅近くのシープラザ釜石では鉄道模型(Nゲージ)を展示した。社員有志が持ち寄ったもので、まちのジオラマの中を走らせた。JR東日本が運行する豪華寝台列車「四季島」、主に新宿-松本間を走る特急「あずさ」、石油運搬用のタンク車などさまざまな車両が登場。子どもたちを中心に人気を集めた。
 
鉄道模型(Nゲージ)の展示に子どもたちは目がくぎ付け

鉄道模型(Nゲージ)の展示に子どもたちは目がくぎ付け

 
この日は「ポケモントレイン釜石号」の運転日と重なり、釜石駅にはおなじみの黄色い車両が…(写真下)。まつりには三陸鉄道の車両、ポケモン列車の模型も登場(写真上)

この日は「ポケモントレイン釜石号」の運転日と重なり、釜石駅にはおなじみの黄色い車両が…(写真下)。まつりには三陸鉄道の車両、ポケモン列車の模型も登場(写真上)

 
 同市の菊池蛍志ちゃん(3)は周回するさまざまな列車に大興奮。ひときわ目立つ黄色い車両に歓声を上げ、「ポケモン列車大好き。乗ってみたい」と目を輝かせた。母志帆さん(37)は「時間がある時は(息子を連れて)駅に列車を見に行ったりする。今日は運転シミュレーターも体験できて大喜びでした。近場でこういうイベントがあると家族で楽しめるのですごく助かる」とうれしそうに話した。
 
 鉄道模型とともに、過去に県内で走っていた急行や快速列車の「行き先表示板(サボ)」、電柱に取り付けられていた縦型の駅名板も展示。古いものでは昭和30~40年代の代物もあり、当時を知る人にとっては懐かしい空間となった。
 
昭和の時代の鉄道風景を思い起こさせる「行き先表示板」「駅名板」も公開

昭和の時代の鉄道風景を思い起こさせる「行き先表示板」「駅名板」も公開

 
観光列車「ひなび」の塗り絵作品の展示も。写真左下は乗客に塩蔵ワカメを配る釜石駅の髙橋恒平駅長

観光列車「ひなび」の塗り絵作品の展示も。写真左下は乗客に塩蔵ワカメを配る釜石駅の髙橋恒平駅長

 
 会場内には、昨年11月に運行を開始した観光列車「ひなび」の塗り絵作品を展示。釜石、双葉、小佐野の3小学校の1年生が寄せたもので、自由な発想の色使いが目を引いた。作品はイベント終了後、今月31日まで釜石駅待合室に展示する。ひなびのPRコーナーや「大人の休日倶楽部」「えきねっと」などの相談会も開設した。昼前後には、釜石駅に到着した列車の乗客先着100人に同市特産の「塩蔵ワカメ」をプレゼント。髙橋駅長が改札口で手渡した。
 
 「この機会に鉄道の魅力に触れ、身近に感じてもらえれば」と髙橋駅長。これから本格化する県内の紅葉シーズンを見据え、「ぜひ鉄道を利用し、窓からゆったりと秋の景色を眺めていただければ。秋はおいしいものもたくさん。釜石にもお越しいただきたいし、釜石からも県内各所に足を延ばしていただければ」と“鉄道旅”をPRする。
 
 「鉄道の日」は1872(明治5)年10月14日、新橋-横浜間に日本初の鉄道が開業したことを記念して制定された。1880(同13)年に釜石で運行を開始した「工部省鉱山寮釜石鉄道」(大橋-釜石港間)は国内3番目(鉱山鉄道としては初)の鉄道として知られる。

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絆を次世代に 姉妹都市提携30周年 ディーニュ市(仏)から釜石へ友好の代表団

触れ合いを楽しんだディーニュ・レ・バン市の代表団と釜石市民=9月23日

触れ合いを楽しんだディーニュ・レ・バン市の代表団と釜石市民=9月23日

 
 アンモナイトの化石が縁となり、釜石市とフランスのディーニュ・レ・バン市は1994年に姉妹都市の提携を結び、30周年を迎えた。これを記念し、9月21日から24日までディーニュ市の代表団が釜石市を訪問。さまざまな交流活動を重ねた。両市の友好を一層深めるべく共同宣言にも署名。「絆を次世代に継ぐ」との思いを共有した。
 
 一行はパトリシア・グラネ市長、ベルナール・テシエ市議ら関係者8人。初日は、釜石港周辺を視察した後、市役所で小野共市長らと懇談した。来訪を歓迎する小野市長は「30年の友情を今後も強いものにしたい」と希望。同席した高橋勝教育長も「未来をつくる子どもたちが絆をつないでいってほしい」と期待を込めた。
 
 グラネ市長は「つらい時も楽しい時も支え合う関係をつくっていきたい」と応じた。今回の訪問は文化的な交流のほか、機能的な役割を確認しながら関係性を強化するのが目標。中でも、「われわれの地域には世界初のジオパークがある」と強調し、「三陸ジオパークの世界的な認知に向け、経験を提供しサポートしたい」と約束した。
 
市役所で懇談する釜石市とディーニュ市の関係者=21日

市役所で懇談する釜石市とディーニュ市の関係者=21日

 
 大町のホテルクラウンヒルズ釜石に移動し、記念式典に臨んだ。市内で活動する女声合唱団「アンサンブル ル シエル」が両国の国家を斉唱。30年の交流を振り返る動画が上映され、ナレーションを担当した大井暖乃(のの)さん、加藤祢音(ねね)さん(ともに釜石高2年)が歓迎の言葉を伝えた。
 
 先人が長きにわたり紡いできた姉妹都市の交流を次世代へ引き継ぎ、さらなる相互理解と友好を深め、両国の親善に寄与していく―。そう記された共同宣言に両市長が署名した。
 
共同宣言に署名した小野共市長(右)とパトリシア・グラネ市長

共同宣言に署名した小野共市長(右)とパトリシア・グラネ市長

 
記念式典には約80人が集い、国歌斉唱や動画上映などが行われた

記念式典には約80人が集い、国歌斉唱や動画上映などが行われた

 
 両市の交流は、1992年に釜石で開催された「三陸・海の博覧会」で、ディーニュ市にある「アンモナイトの壁」の剥離標本を展示したのがきっかけ。鉄の歴史館での保存が決まり、94年4月に姉妹都市提携を結んだ。
 
 交流が一時停滞した時期もあったが、2011年の東日本大震災以降、ディーニュ市は物心両面から釜石復興の道のりを応援。官民での相互訪問を重ねてきた。22年にディーニュ市で栽培が盛んなラベンダーの種を譲り受け、育てた苗で釜石の街を彩る取り組みが進行。23年にはディーニュ市を中心に初開催されたアマチュアラグビー世界大会に岩手・釜石から特設チームを派遣するなど、関係が発展している。
 
震災の事実に耳を傾け、犠牲者を悼んで白菊を手向けた=9月22日

震災の事実に耳を傾け、犠牲者を悼んで白菊を手向けた=9月22日

 
 22日は、鵜住居町の震災追悼施設祈りのパークで犠牲者を悼み、黙とうと献花をした後、伝承施設いのちをつなぐ未来館を見学。釜石鵜住居復興スタジアムでのイベントに足を運び、祝い餅を来場者に手渡したり、いわて釜石ラグビーフットボールクラブと流通経済大ラグビー部の交流試合を観戦した。
 
笑顔を添えて祝い餅を手渡すディーニュ市の関係者(左)

笑顔を添えて祝い餅を手渡すディーニュ市の関係者(左)

 
うのスタで写真に納まる釜石市とディーニュ市の関係者

うのスタで写真に納まる釜石市とディーニュ市の関係者

 
 姉妹都市交流のきっかけとなった剥離標本が展示されている大平町の鉄の歴史館も見て回った。32年前の博覧会開催時に、標本を持ち込んだ地質学者のジャン・シモン・パジェスさん(オート・プロバンス ユネスコ世界ジオパーク関係者)は感動の再会。対応した市世界遺産室の森一欽室長らに当時の準備作業の大変さなどを伝えた。
 
鉄の歴史館にある「アンモナイトの壁」の剥離標本に再会⁉喜ぶディーニュ市のジオパーク関係者

鉄の歴史館にある「アンモナイトの壁」の剥離標本に再会⁉喜ぶディーニュ市のジオパーク関係者

 
「この標本に化石はいくつある?」とジャン・シモン・パジェスさん(右下写真)

「この標本に化石はいくつある?」とジャン・シモン・パジェスさん(右下写真)

 
 「この標本には3種類の化石がある。分かる?」。パジェスさんが問いかける場面も。アンモナイトとオウムガイは分かりやすいが、“イカの骨”がどこかにあるといい、釜石側の関係者は「新しい視点になる」と、うれしい発見を喜んだ。
 
 同館駐車場の一角には「ディーニュ・レ・バン市の丘」と名付けられた植え込みがある。30年前、両国にちなみサクラとマロニエ各1本が植えられており、その場所に今回、コブシの苗木1本を記念植樹。加えて、ラベンダーの苗12本も植え付けた。
 
鉄の歴史館駐車場の一角にある「ディーニュ・レ・バン市の丘」

鉄の歴史館駐車場の一角にある「ディーニュ・レ・バン市の丘」

 
交流継続を願い植樹するディーニュ市の代表団と釜石の子どもたち

交流継続を願い植樹するディーニュ市の代表団と釜石の子どもたち

 
 コブシの花言葉は「信頼」「友愛」などで、両市のつながり進展を願う。植樹には、次世代を担う小学生6人が参加。小山琉世さん(白山小5年)はその願いを受け止め、「僕たちが架け橋になって、つながりを盛り上げていきたい」と背筋を伸ばした。
 
 23日は、鵜住居町根浜で震災の講話、海浜植物ハマナスの再生活動に参加した。観光施設根浜シーサイドのレストハウスで昼食。郷土料理の研究、継承に取り組む女性たちが作った料理を味わいながら談笑した。
 
海と山の味覚をふんだんに使った料理を楽しむ昼食会=9月23日

海と山の味覚をふんだんに使った料理を楽しむ昼食会=9月23日

 
 朝どりしたホタテの炭火焼き、地元特産のクッキングトマト「すずこま」のはちみつ漬け、海藻のテングサを使った自家製ところてん、新鮮野菜たっぷりのすいとん汁…。“普通の家庭料理”を提供した前川良子さん(72)は「国は違っても古里は大事。食を通じて手を取り合う、気持ちの交流ができたと思う。言葉は分からずとも、心遣いを感じてもらえたらいい」とほほ笑んだ。
 
 三陸ジオパークの見どころの一つとなるジオサイト・釜石鉱山(甲子町大橋)の坑道見学に夢中になったという一行。旧釜石鉱山事務所にも立ち寄り、昭和時代を再現したレトロな室内とアナログな道具、展示室「Teson(てっさん)」にあるナウマンが作製した東北地方の地質図(予察地質図東北部)や鉱山で採取された鉱物に関心を示した。
 
三陸ジオパークの魅力に触れた代表団。認知度アップのサポートに期待

三陸ジオパークの魅力に触れた代表団。認知度アップのサポートに期待

 
 パジェスさんは「三陸地域には魅力的な点があると確信している。オート・プロバンスの経験を生かしたアドバイスでサポートしたい」と協力を惜しまない姿勢。両市の関係について、「地質という古い歴史から始まった交流がまた地質に戻り、新しい絆を深めるきっかけになるのでは」と期待を高めた。
 
 このほか、医療現場の様子や保護猫の活動にも触れた。グラネ市長は「自然が美しく、産業も発展しているまち。姉妹都市としていい関係を持っていて、若い世代の交流を強くしたいと感じた。オンラインから始め、現地交流させたい」と考えを示した。一行は24日に釜石を発ち、帰途に就いた。

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釜石港にもサンマ!第1船、秋味運ぶ 出足「まずまず」 去年上回る量も…厳しさ続く

釜石港に今シーズン初水揚げされたサンマ

釜石港に今シーズン初水揚げされたサンマ

 
 釜石市の新浜町魚市場に8月29日朝、今シーズン初となるサンマ船1隻が入港し、約26トンを水揚げした。昨年の初船と比べると1カ月以上早い到着で、量も約4倍と上向きに。重さは100グラム程度が中心で、「まずまず」「サイズ感がまだ…」と市場の反応はさまざまだったが、季節感を運ぶ味覚の到来に浜は活気づいた。
 
新浜町魚市場に接岸する第68善龍丸を関係者が見守った

新浜町魚市場に接岸する第68善龍丸を関係者が見守った

 
 水揚げしたのは、富山県魚津市の大型サンマ船「第68善龍丸」(199トン、大高真澄漁労長、17人乗り組み)。北海道東方の公海上で操業し、2昼夜をかけて釜石まで運んできた。重さは小ぶりのものが多いが、140グラムのものも交じり、価格は1キロ当たり800~1200円で取引された。
 
 この日は小野共市長らも駆け付け、飲み物を差し入れて船を歓迎。大高漁労長(44)は「走りとしてはまずまず。大きさも去年に比べればいい」と話しつつ、今後の漁については「魚次第」ともどかしい気持ちもこぼす。漁期は12月まで。「できるだけ長く操業したい。魚がいてくれれば」と望みを持つ。
 
乗組員たちの連係プレー。船から網で水揚げ

乗組員たちの連係プレー。船から網で水揚げ

 
大高真澄漁労長(左)に飲料水を手渡す小野共市長

大高真澄漁労長(左)に飲料水を手渡す小野共市長

 
 大部分を買い取った新浜町の水産加工会社「平庄」の平野隆司社長(48)は「昨年に比べて量はいいが、サイズ感はまだ小さい。今後、多少大きくなるだろうが、これ(小ぶりな魚)が主流になるかもしれない」と独自の見解。「漁場が日本に近い」とも聞いていて、早い時期の水揚げに「期待感はある」とうなずいた。
 
 漢字では「秋刀魚」と表記されるサンマ。その字のごとく“秋の訪れ”を感じさせるかと思いきや、全国的な暑さは釜石でも残っていて、水揚げ作業を繰り返す乗組員、仕分け作業に精を出す市場や水産会社の関係者は汗だく。そんな“熱気”を加えた秋味は関東方面に鮮魚出荷された。一部は釜石市内のスーパーや魚屋の店頭にも。平野社長も「旬の魚をご賞味ください」と促す。
 
網で釣り上げ、魚市場に運ぶ作業を何度も繰り返す

網で釣り上げ、魚市場に運ぶ作業を何度も繰り返す

 
釜石に初物をお届け。網を持つ手にも力が入る

釜石に初物をお届け。網を持つ手にも力が入る

 
重さなどで分別する関係者のかけ声で浜が活気づく

重さなどで分別する関係者のかけ声で浜が活気づく

 
 釜石港の2023年のサンマ水揚げ量は339トン(取引額約1億3000万円)。22年と比べると量は67%増(同4%増)となったものの、不漁が顕著になる前の18年の13%程度にとどまり、厳しい状況は続く。

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副業型の地域活性化起業人 釜石市、初登用 都市圏のデジタル人材に期待「地方に刺激を」

小野共市長(左)から委嘱状を受け取った野辺地葵さん

小野共市長(左)から委嘱状を受け取った野辺地葵さん

 
 釜石市は23日、「地域活性化起業人」として、IT(情報技術)を活用したものづくりや中小企業のコンサルタント業務などを手掛ける「Crossover Group」(東京)の最高経営責任者(CEO)、野辺地葵さん(27)に委嘱状を交付した。三大都市圏の民間力を地域活性に生かす総務省の制度を活用するが、これまでの企業派遣型とは異なり、「副業型」での受け入れ。野辺地さんは従来通り同社で働きながら、市が依頼する業務に取り組む。
 
 地域活性化起業人制度は、地域の課題解決に民間企業のノウハウや知見を活用しようと総務省が2014年度に創設した。地方自治体と協定を結んだ民間企業が社員を一定期間派遣し、即戦力として業務に取り組んでもらうもので、国は特別交付税措置で財源を支援する。
 
 この企業派遣型に加え、24年度からは企業に所属する社員個人と自治体が協定を結ぶ形の副業型制度がスタート。企業派遣型は月の半分以上は受け入れ自治体に滞在して働く必要があるが、副業型は月に4日以上、計20時間以上を自治体業務に充て、受け入れ自治体での滞在日数は最低月1日とする。居住の必要をなくし参加のハードルを下げた形だ。国は副業期間中の経費や交通費(上限合計200万円)を補助。自治体のホームページ運営など主にリモート対応が可能な分野で、都市部のデジタル人材らに働いてもらうことを想定する。
 
釜石初の副業型地域活性化起業人として活動を始める野辺地さん

釜石初の副業型地域活性化起業人として活動を始める野辺地さん

 
 野辺地さんは岩手県九戸村出身。3年ほど前に同社を立ち上げ、中小企業が抱える課題についてITデータなどを使って解決策を練ったり、ネット通販サイトやアプリ制作などの事業を展開する。釜石には母方の実家があり、年に数回訪れる「故郷のような街」だったことから、「活気ある街づくりの一助になりたい」と参加を決めた。
 
 任期は来年3月末まで(最長3年)。「地方創生・政策推進研究員」として、市の人口統計データや市内企業に関するデータなどを分析し現状と課題を整理、それに対応する施策の立案・展開に向けた助言といった活動に取り組む。
 
「釜石の熱意から生まれる活動を全力で手伝う」と話す野辺地さん

「釜石の熱意から生まれる活動を全力で手伝う」と話す野辺地さん

 
 市役所であった交付式で小野共市長から委嘱状を受け取った野辺地さんは「故郷が抱える課題に向き合い、解決の後押しができる取り組みだと感じ、一念発起。一朝一夕にはいかないだろうが、市の職員や企業関係者、市民の活動を全力で手伝いたい」と気合十分。もともと同起業人に関心があり、副業型の開始を耳にしていたことから、いち早く市の募集に手を上げた。拠点を移さず地方創生に携わったり、自身のキャリアを生かせることに魅力を感じていて、「関わる人と互いに刺激し合い、活動や施策を磨き上げたい」と力を込める。
 
委嘱後の懇談では公共交通のあり方などで意見を交わした

委嘱後の懇談では公共交通のあり方などで意見を交わした

 
 市はこれまでに企業派遣型で4人を受け入れ(全員任期終了)たが、副業型での受け入れは今回が初めて。小野市長は「目に見える課題だけでなく、裏に隠されている事実に対応した施策や事業を作り、精度を上げることが重要。民間の刺激、面白い指摘を期待している」と述べた。

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公共交通維持へ自動運転バス 釜石で実証実験スタート 生活の足に…可能性探る

釜石市平田地区を走行する自動運転バスを関係者が見送る

釜石市平田地区を走行する自動運転バスを関係者が見送る

 
 釜石市の平田地区で5日、自動運転バスの実証実験が始まった。オペレーターが同乗し、一部操作の指示を出す「レベル2」の方式で、22日まで運行。市内でも運転手の高齢化や人手不足で公共交通の維持が課題となっており、市では新たな交通手段としての可能性や安全性、課題を確認する。
 
 自動運転バスは、同市平田町のスーパー「ベルジョイスみずかみ平田店」を中心に循環する2つのルートで運行。上平田ニュータウン方面は1周約4キロ、復興住宅・県営平田アパートへ向かう経路は約2.6キロで、1日各5便を走らせる。県交通など既存のバス停近くで乗降でき、運賃は無料。乗車は事前予約制で、LINE(ライン)か電話(市生活環境課)で申し込む。
 
自動運転バスの実証実験が平田地区で進行中

自動運転バスの実証実験が平田地区で進行中

 
 車両は、エストニア製の電気バス「Mica(ミカ)」(8人乗り)。センサーとカメラが搭載され、車両の周りを検知し位置を把握しながら進む。事前に設定されたルートをハンドル操作なく、時速20キロ程度で走行。運行は自動運転事業を手がけるボードリー(東京)に委託し、オペレーターが同乗するため乗車できるのは7人となる。
 
釜石にちなんだ塗装が施された自動運転バス

釜石にちなんだ塗装が施された自動運転バス

 
車外にはセンサーやカメラ、車内にはモニターやタブレットなどの機器が搭載される

車外にはセンサーやカメラ、車内にはモニターやタブレットなどの機器が搭載される

 
 自動運転は自動化の度合いで5段階に区分され、今回の実証実験はレベル2。横断歩道や交差点では一時停止し、障害物を感知すると自動で停車したりするが、オペレーターが周囲を確認して停車や発進などの指示を出す。市は、特定の条件下で運転手不在でも走行が可能な「レベル4」への移行を見据えており、技術の立証や課題の検証も目的とする。
 
オペレーター(右)が同乗し、自動運転レベル2で運行する

オペレーター(右)が同乗し、自動運転レベル2で運行する

 
 同店駐車場で出発式があり、市関係者や住民ら約40人が参加した。小野共市長が「人口減や少子高齢化を踏まえ、従来の施策に新たな手法を加える必要がある。次世代の交通を体感し、生活の足としての可能性を考えるきっかけになれば」とあいさつ。関係者によるテープカットを行った後、住民5人を乗せた第1便が発進した。
 
実証事業の出発式でテープカットする関係者

実証事業の出発式でテープカットする関係者

 
自動運転バスの第1便に乗り込む地元住民

自動運転バスの第1便に乗り込む地元住民

 
 乗車した藤澤静子さん(82)は「少し不安だったが、スムーズに走っていて安心した。2年ほど前に運転免許を返納したので、早く実用化してもらいたい」と期待。佐藤清さん(80)は、ゆっくり走行するバスを車が追い越す際に自動でブレーキがかかって“おっ”と身構えたというが、危険性はほとんど感じなかったという。やはり自動化の実現を望み、「車を手放すことを考える歳になってきたからね。いろんな交通手段があった方がいい」とうなずいた。
 
 同地区は、中心地にスーパーや郵便局、歯科医院、三陸鉄道平田駅など社会基盤があり、住宅地から一定の距離もあってルート設定が可能なことから実験場所に選んだ。自動運転は期待感より、「きちんと走るか」「安心して乗れるのか」といった不安感が上回ると思われるが、通学や通院などで普段からバスを利用する学生や高齢者らがいて受け入れられやすい地域性、需要が見込まれることも選定の理由だという。事業費は約3500万円。全額、国土交通省の「地域公共交通確保維持改善事業費補助金(自動運転社会実装推進事業)」を充てる。
 
ベルジョイスみずかみ平田店敷地にある既存のバス乗り場を利用。写真右下のバス停が目印

ベルジョイスみずかみ平田店敷地にある既存のバス乗り場を利用。写真右下のバス停が目印

 
 市生活環境課の二本松史敏課長は「初めての自動運転バスの運行で不安もあると思うが、走っている姿を見て、実際に乗ってみて、安全で安心な乗り物と体感してほしい」と呼びかける。利用者へのアンケートも行い、課題を洗い出して導入の可能性を探る考えで、「将来的に安心して暮らしていけるよう公共交通の維持に努めていく」と強調した。

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三陸の海に人知れず生息!? 欧州原産カキ 岩手県水産技術センター(釜石)が研究 活用模索「起死回生の一手に」

岩手県水産技術センターで育てられているヨーロッパヒラガキ

岩手県水産技術センターで育てられているヨーロッパヒラガキ

 
 70年以上前に養殖試験のため日本に持ち込まれ、岩手県沿岸でも試験的に養殖されていた欧州原産の食用カキ。東日本大震災の津波で流失し消滅したと考えられていたが、県水産技術センター(釜石市)などの調査研究で“生息”していることが確認された。その名は「ヨーロッパヒラガキ」。人知れず生き残り、繁殖・定着した生存力は、不漁が続く三陸海域の有用な資源になりうる可能性を秘める。同センターでは既に種苗の生産に成功。その規模を拡大させながらさらに研究を進め、養殖試験につなげる考えだ。
 
 センターによると、ヨーロッパヒラガキは丸く平たい見た目が特徴で、殻の幅は10センチほど。欧州では古くから生食用として親しまれてきた高級食材で、独特の渋みがあり、シャンパンや白ワインに合うとされる。近年は病気の流行などで生産量が激減しているという。
 
ヨーロッパヒラガキとマガキを比較。3つ並んだものは右側の2つがヒラガキ

ヨーロッパヒラガキとマガキを比較。3つ並んだものは右側の2つがヒラガキ

 
調査研究に取り組んだ寺本沙也加さん(右)と小林俊将さん

調査研究に取り組んだ寺本沙也加さん(右)と小林俊将さん

 
 そんな高級食用カキの調査研究に取り組んだのは、同センター増養殖部専門研究員の寺本沙也加さん(29)と、部長の小林俊将さん(57)。成果は今年5月に日本貝類学会の国際学術誌に掲載された。
 
 研究のきっかけは昨年4月、寺本さんが山田湾でカキ養殖を行う漁業者のSNS(交流サイト)で「種が不明のカキ類」の写真を見つけたことだった。その漁業者から「正体を調べてほしい」との要望もあり、調査を開始。譲り受けた26個体から10個体を選定して貝殻の形態やDNA解析を行った結果、全てがヨーロッパヒラガキと判明した。
 
 ヒラガキは1952年に東北大がオランダから国内に持ち込み、北海道や、青森、岩手、宮城の3県で養殖試験を進めた。岩手県内では91~95年にかけて山田湾で種苗生産と養殖試験を行っていたが、94年の北海道東方沖地震の津波で母貝や種苗が流失して全ての試験を終了。最後まで養殖していた宮城沖でも2011年の震災の津波で流され、消滅したと考えられていた。
 
ヨーロッパヒラガキを手にする小林さん。センターで種苗生産試験を続ける

ヨーロッパヒラガキを手にする小林さん。センターで種苗生産試験を続ける

 
 今回の調査でヒラガキの存在を確認したこともあり、県内24の漁業協同組合を対象にアンケートを実施。その結果、宮古市から陸前高田市までの7湾で生息していることを確認した。養殖のホタテなどに付着した形でヒラガキを発見しているとのこと。小林さんは「あちこちに存在していると思われ、驚いた。定着の過程など実態は不明だが、生息できる環境があったということだろう。さらなる研究が必要」と目を光らせる。
 
 過去に人為的な移入が確認されていない海域でも生息していることが分かったが、今回、釜石地域の漁業者からの報告はなかったという。ただ、本県沿岸各地への分布拡大が進んでいると考えられることや、大槌湾でも見つかっていることから、小林さんは「近い海域ですから…」と、希望を残してくれた。
 
仕事でもあり趣味でもある貝類をテーマにした研究を楽しんだという寺本さん

仕事でもあり趣味でもある貝類をテーマにした研究を楽しんだという寺本さん

 
ヨーロッパヒラガキと、研究成果として発表された論文

ヨーロッパヒラガキと、研究成果として発表された論文

 
 国外から意図的に移入されたカキ類が天然海域に定着した事例としては国内初になると考えられる―。そうした成果をまとめた寺本さんは、貝類の分類が専門。「歴史をひもとく研究であり、地元の貝をネタにした研究で楽しかった」と、うれしそうに話す。貝殻のコレクターでもあると自認するが、「食べるのは苦手」というところが面白い。
 
 世界的に水産有用種として知られ、その利用が注目されると予想する寺本さん。分布把握や周辺海域でのモニタリングを続けていく構えで、「落ち込んでいる三陸の水産業にとって起死回生の一手を打てる産品になればいい」と期待する。
 
 同センターでは、新たな養殖対象種として利用の可能性を探るため、昨年度から種苗生産試験を続ける。今年の秋以降、漁業者と連携して養殖試験にも取り組みたい考え。今のところ生態系への影響は確認されていないとするが、状況を注視していくという。

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発足10年「釜石地方梅栽培研究会」生産者最多に 梅酒製造後の“漬梅”活用で地サイダー誕生

栗林町で行われた浜千鳥によるウメの実の集荷=6月25日

栗林町で行われた浜千鳥によるウメの実の集荷=6月25日

 
 梅酒製造に使うウメの実の生産者、漬梅(製造後のウメの実)の活用業者らで組織する釜石地方梅栽培研究会(前川訓章会長、34会員)は6月25日、本年度総会を釜石市栗林町の砂子畑集会所さんあいセンターで開いた。2014年に発足した同研究会は10年を経過。梅酒を製造する地元酒造会社、浜千鳥(新里進社長)は会員からの継続的な原料の供給で、年間約9千~1万本の販売数を維持。課題だった漬梅の活用も進んでいる。総会では漬梅を活用した新商品も紹介された。
 
 総会には会員と県や市の農林担当者ら18人が出席した。前川会長(78)は「今年のウメは全国的に不作という情報を耳にした。自分のところも昨年の3分の1程度になりそう。自然界相手で結果を出すのは大変だが、新会員も増えてきている。できることをやって安定供給に努めたい」とあいさつした。
 
釜石地方梅栽培研究会が開いた2024年度総会

釜石地方梅栽培研究会が開いた2024年度総会

 
 事務局を務める浜千鳥によると、昨年度の青梅の集荷(期間:6月15日~7月5日)は6134キロ(前年度対比226%)で過去最高を記録。出荷者は22人(うち会員21人)だった。漬梅は3914キロ発生し、県内外で1074キロが再利用された。廃棄率は67%。
 
 本年度は生産者の会員が過去最多の31人に。総会では大船渡農業改良普及センターから病害虫防除の方法や収穫の注意点、市水産農林課から地域振興作物、農産物加工品開発を支援する補助金などについて説明があり、両機関の指導を受けながら栽培技術の向上、生産の安定化を図ることを確認した。来年1月に例年通り、せん定や病害虫防除の講習会を開く。役員改選では前川会長(栗林町)、山崎元市副会長(鵜住居町)が再選された。任期は2年。
 
23年度事業では市の補助金を活用しPR用のぼり旗を制作。会員5人が新たに苗木を購入した

23年度事業では市の補助金を活用しPR用のぼり旗を制作。会員5人が新たに苗木を購入した

 
 同研究会は廃棄されていた漬梅の活用策についても模索してきた。これまでに県外の業者の買い取りのほか、20年に開店した魚河岸テラスのジェラート店での活用、22年に大槌町の甘輝舎(研究会会員)が盛岡農業高と共同開発した「浜梅ジャム」の商品化が実現している。こうした取り組みで22年には廃棄量ゼロを達成した。
 
 本年4月には、釜石振興開発(研究会会員)が「梅しゅサイダー」(税込み250円)を新たに発売。漬梅をシロップに漬けてさらにエキスを抽出、風味が飛ばないようにアルコールをじっくり抜いて、釜石の“地サイダー”として仕上げた。下川原繁夫部長(かまいし特産店店長)は「アルコール度数は0.1%未満で、麺つゆなどと同レベル。子どもにも安心して飲んでもらえる。梅酒好きな方にもおいしく召し上がっていただける」と太鼓判。サンプルを提供した販売店からも注文が入っているという。「県内他地域の地サイダーとの区別化を図り、地元飲食店などでの定番需要にもつなげていければ」と下川原部長。県内では道の駅釜石仙人峠、同遠野風の丘、かまいし特産店(シープラザ釜石2階)などで販売中。
 
 片岸町の麻生三陸釜石工場(研究会会員)でも漬梅活用の研究が進む。総会では試作品を紹介し、出席者から意見を聞いた。
 
写真左:甘輝舎プロデュースの「浜梅ジャム」と釜石振興開発が販売する「梅しゅサイダー」同右:総会ではサイダーの紹介と試飲も行われた

写真左:甘輝舎プロデュースの「浜梅ジャム」と釜石振興開発が販売する「梅しゅサイダー」同右:総会ではサイダーの紹介と試飲も行われた

 
麻生三陸釜石工場は漬梅を活用した商品の試作品を配り、意見を聞いた

麻生三陸釜石工場は漬梅を活用した商品の試作品を配り、意見を聞いた

 
 総会後はウメの実の集荷も行われた。栗林地区では今季初で、会員らが収穫したばかりの青梅を持ち寄った。この日出荷したのは4人で計400キロ。3~4種、10数本を栽培する川崎充さん(76)は「昨年は一番の豊作だったので、それに比べれば今年は少ないと思う。ウメ栽培は定年後に始めた。少しでも収入になるのはいい」と話す。規模の拡大については「本数を増やすと今の時期、暑くて作業が大変」と現状維持を望んだ。
 
 ウメの実の収量はその年の気候に左右されるという。今年は春先の気温が高めに推移し開花が進んだが、満開の後に気温が降下。実になり始めたころに強風に見舞われ、多くの実が落ちてしまったという。前川会長は「毎年のことだが、良い悪いはどうしてもある。平均して右肩上がりにいけばいいが、そうもいかないのがウメ」と難しさを語る。それでも遊休農地などを活用し生産者は少しずつ増えていて、今後、出荷可能になる木も増えていくとみられる。
 
浜千鳥の担当者は会員が持ち込んだ青梅を計量、集荷した

浜千鳥の担当者は会員が持ち込んだ青梅を計量、集荷した

 
会員らは今季のウメの出来具合について確認し合いながら出荷

会員らは今季のウメの出来具合について確認し合いながら出荷

 
 浜千鳥の梅酒は2011年7月から発売。720ミリリットル入りに加え、21年からはコロナ禍の巣ごもり需要を背景に300ミリリットル入りが仲間入りしている。

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店開きは金曜日!? 釜石の事業者有志、買い物弱者ら支援で移動販売開始 交流の場創出にも

釜石市の事業者が連携して始めた移動販売で買い物をする利用客ら=6月28日、上平田ニュータウン

釜石市の事業者が連携して始めた移動販売で買い物をする利用客ら=6月28日、上平田ニュータウン

 
 スーパーの閉店、公共交通の減便や廃止などで深刻化する「買い物難民」。高齢者世帯が増え、交通が不便で買い物に行くのも大変という釜石市平田地区で、そんな“弱者”たちを支える取り組みが始まっている。市内の事業者有志による週1回の移動販売で、住民らの評価は上々。買い物難民の解消だけでなく、高齢者の交流の場、対面販売することで商店や商品の名も売る事業者支援の場としての役割が期待される。
 
 「車の運転免許を返納したから、移動の足はバス。知り合いの車に乗せてもらうこともあるけど、毎回というわけにはいかない。移動販売を近くでやってもらうのはありがたい」。買い物を済ませた後、70代の女性がにこやかに語った。
 
 移動販売が行われているのは、上平田ニュータウン地区。数年前に閉店したスーパーの敷地を利用し、毎週金曜日に店開きする(午前10時半~正午ごろ)。地元農家が育てた新鮮野菜、米屋の手作りおにぎりや総菜、菓子店の団子などがずらり。訪れた住民らが品定めしながら次々と手を伸ばした。
 
閉店したスーパーの軒先を利用して店開きする移動販売

閉店したスーパーの軒先を利用して店開きする移動販売

 
運び込まれる総菜や菓子などを品定めする買い物客ら

運び込まれる総菜や菓子などを品定めする買い物客ら

 
 シュークリームなどを買った1人暮らしの高齢女性は「今日のおやつ。ランチしに来る人がいるから2人分買った」と頬を緩めた。最も近いスーパーはバスで5分ほどの場所にあるが、運行は1時間に1本。週に1、2回出掛けるが、待ち時間があるのが少し気になっているという。移動販売の場所までは歩いて10分ほどかかるが、「散歩がてら。外に出る日が増える」と心待ちにしている様子だ。
 
 バスで片道約30分かけて市街地のスーパーに行っている人も。移動販売が始まって、往復で600円ほどかかる運賃を食費に回すことができ、「安く上がる」と喜ぶ。手押し車を押してやってきた高齢者は「元気だった?」と、顔見知りを見つけておしゃべり。帰り際、「お互いの安否確認だ」と笑った。
 
買い物を楽しむ地域住民ら。自然と会話も生まれる

買い物を楽しむ地域住民ら。自然と会話も生まれる

 
「高齢者にいいね」。小分けされた米は手ごろな価格で即完売

「高齢者にいいね」。小分けされた米は手ごろな価格で即完売

 
 この移動販売は、同市上中島町の菓子製造販売・卸業「小島製菓」(菊地広隆社長)が中心となって運営する。きっかけとなったのは、同じ場所で冬場に同社単独で実施した移動販売。自社製品の和洋菓子を売り出していたが、徐々に「〇〇がほしい」「××があったらいいな」と声が寄せられるようになった。高齢化率40%超という市内の状況と、利用者との触れ合いから高齢者の1人暮らしや移動手段に困難を抱えている人が増えていると感じた菊地社長(41)。一方、「やってくる人たちはたくさん買ってくれる」との感覚もあって、事業者の収入増になるのではと個人商店主らに声がけをした。
 
 それに3社が応え、今年5月24日に「さわやか移動販売」と銘打ち活動を始めた。市内の小澤商店が場所を提供し、芽吹き屋の団子なども陳列。佐々木仁平商店はおにぎりや弁当、小分けした米(2合)などを安価で売り出す。「作っているの、知らなかった」と驚く人も多い漬物は、食品容器などを製造・販売する菅原紙器の自家製品。人気の野菜は農家などから仕入れている。そして、小島製菓の菓子類ももちろん並ぶ。
 
菅原紙器の漬物。移動販売は事業者の商品を紹介する機会にも

菅原紙器の漬物。移動販売は事業者の商品を紹介する機会にも

 
 開始から約1カ月、6月最後の金曜日となった28日、菊地社長は集荷、陳列、販売対応と大忙し。住民らが楽しく買い物を楽しむ様子を見つめ、「自分で商品を手にとって選ぶことができるというのは、とても大切なこと。対面販売するスタッフや、住民同士の交流もできる。この風景がいいよね」と意義を強調する。
 
「笑顔のやりとり、いいね」。対面販売の良さを実感する菊地広隆社長(右)

「笑顔のやりとり、いいね」。対面販売の良さを実感する菊地広隆社長(右)

 
 「高齢者の生き生き生活応援」も狙いの一つ。委託販売的な形にし、参加事業者から受け取る手数料を人件費に充てている。スタッフとして活躍する菊池利教さん(71)は道の駅駅長を務めるなど長年接客に携わった経験を生かして住民らを迎えたり、事業者との調整役も担う。「楽しみにしてくれる人が一人でもいたら来ないとね。週1の活動は自分の健康管理にもなる」と腕をまくった。
 
 この日は新たな事業者が仲間入り。中妻町の「お茶の丸山園」が茶葉を並べた。消費者だけでなく事業者の高齢化も進み、後継ぎ不足などもあって個人商店が減る中で、商売の大変さを感じていた井ケ田昌信代表取締役(57)。「待っているだけではやっていけない。こちら側から地域に出ていき、一つでも多く買ってもらえたらありがたい」と参加する。
 
地域を盛り上げる取り組みに事業者も客もみんな笑顔

地域を盛り上げる取り組みに事業者も客もみんな笑顔

 
 「同じように感じる事業者は少なくない」と菊地社長。他にも参加の申し出があるといい、「個人商店をつないで商品を運んで販売する、そんな仕組みづくりをしているところ。お客さんとなる住民のニーズも聞きながら続けられる形を見いだしたい」と前を向く。ただ、「常設は無理。週に数回、2、3時間の活動が程よい」と実感。できる範囲で取り組みつつ、「他地区にも広げていければ」と展望した。
 
 そばにある高齢者施設付近も巡回。そこでもやりとりは続く。
 「来てくれて助かる」「お買い上げ、ありがとう。また、来週金曜日に」

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釜石湾養殖「はまゆりサクラマス」 水揚げ順調 大きさ、味も“うまい”と分かりマス⁉

釜石市魚市場に水揚げされる「釜石はまゆりサクラマス」=6月26日

釜石市魚市場に水揚げされる「釜石はまゆりサクラマス」=6月26日

 
 釜石湾で養殖される「釜石はまゆりサクラマス」が、今季も順調に水揚げされている。昨季より魚体が大きく、3キロ超のものも増加。1キロ当たり1000円前後で取引されており、こちらも高めで推移している。生産に取り組む泉澤水産(釜石市両石町、泉澤宏代表取締役)はこの春に養殖に関する国際認証「ASC」を取得し、価値を高めた安全で安心な水産物を届け続ける構え。その恵みに市内の水産加工業者や飲食店、スーパーの関係者らが視線を送っていて、店先、売り場で消費者が目にする機会も増えそうだ。
 
 今季の水揚げは6月24日に始まった。3回目となった26日は午前4時半ごろから同市魚河岸の市魚市場に次々と運び込まれ、同社の社員らが重さによって選別した。この日は約11トンが揚がり、体長約60センチ、重さ2~2.5キロのものが中心。昨季より100円ほど高値で取引され、主に地元の加工業者などが買い取った。水揚げは7月10日ごろまでの予定。200トンの漁獲を見込む。
 
釜石湾で養殖したサクラマスを水揚げする関係者

釜石湾で養殖したサクラマスを水揚げする関係者

 
魚市場に次々と水揚げされる養殖サクラマス

魚市場に次々と水揚げされる養殖サクラマス

 
重さ別に仕分ける関係者。魚市場が活気づく

重さ別に仕分ける関係者。魚市場が活気づく

 
 サクラマスの養殖は2020年、同社や市、岩手大などで構成するコンソーシアムが試験的に開始。22年に同社が事業化した。今季は直径40メートルのいけす2基に約11万9000匹の稚魚を投入。餌の中身を見直したり、自動給餌器と人による餌やりを併用するなど工夫しながら成長させた。昨季は約160トンの水揚げで1匹の平均は2キロ未満だったが、今季は2割ほどが3キロ以上に。漁獲量も増えそうで、養殖での生産量は日本一になるという。
 
今期のサクラマスは3キロを超えるものを増えた

今期のサクラマスは3キロを超えるものを増えた

 
関係者は笑顔を見せながら水揚げ、選別作業を進めた

関係者は笑顔を見せながら水揚げ、選別作業を進めた

 
 秋サケの不漁などを受け、サーモン養殖が広がっている三陸沿岸。釜石では日本の在来種で、地域で「ママス」としてなじみのあるサクラマスに着目してきた。主力の定置網漁業で記録的な不漁が続くサケの供給不足を補う手段として、事業を手がけてきた同社。泉澤代表取締役は「想定よりもいい仕上がり。単価を下げないことが大事で、工夫しながら他地域との差別化を図りたい。日本の固有種であることが一つの特徴。アピールしながら、特産品としての市場価値を高めたい」と力を込めた。
 
 同社では、自然や地域環境に配慮して生産された水産物であることを示すASC認証を受けた漁場で今季、ギンザケの養殖も始めた。6月中旬から水揚げしており、重さが4キロ以上のものも確認。こちらも200トンの出荷を目指す。
 
養殖事業へ期待を高める泉澤代表取締役(左)ら漁業関係者

養殖事業へ期待を高める泉澤代表取締役(左)ら漁業関係者

 
水揚げに合わせて行われた試食会で関係者らが味を確かめた

水揚げに合わせて行われた試食会で関係者らが味を確かめた

 
 26日は試食も用意され、関係者らが刺し身や市内の旅館で提供されている献立で味を確かめた。釜石湾漁業協同組合の佐藤雅彦組合長は「今年のサクラマスはいい。見ただけで脂がのっているのが分かる。食べても、やっぱりうまい」と太鼓判。市漁業協同組合連合会の木村嘉人会長は「市場にどんどんサクラマスが揚がり、釜石の活性化につながれば」と期待した。
 
 「脂がさっぱりしていて食べやすかった。生臭みもなく、魚が苦手な人にも味わってもらえると思う」と話したのは、港町のイオンタウン釜石内のイオンスーパーセンター食品商品部の清水大輔水産マネジャー。今季初めて仕入れ、切り身などにし店頭に並べた。「養殖なので、刺し身で食べられるのも売り。地元でとれるものを認知してもらえるようアピールに協力していければ」と強調。釜石店のほか、県内の同センター6店舗でも売り出される。