エヌエスオカムラでインターンに取り組んだ文京学院大の学生=5月30日
文京学院大学(東京都文京区)による産学官連携プログラム「釜石スタディケーション」が5月17日~6月1日まで、釜石市内で展開された。経営学部の学生12人が2週間滞在し、企業や行政機関などでインターンシップ(就業体験、インターン)に挑戦。地域が抱える課題に対して学生ならではのアイデアで提案、解決のヒントを残した。鋼製家具製造事業を手がけるエヌエスオカムラ(釜石市鈴子町)では2人が活動。「悩み」の解決に向けた取り組み、成果発表の様子を取材した。
スタディケーションは「Study(勉強)」と「Vacation(休暇)」を組み合わせた造語で、参加する学生は地方で遠隔授業を受けながらインターンにも取り組む。大学とは異なる環境で学び、新しい出会いや経験によって学生自身の成長を促すのが狙い。受け入れ先の地域にとっては若い感性や発想力を得ることで職場の活性化や地方創生につながる可能性が期待される。2023年に始まり、今年で3年目。5つの企業などがインターンを受け入れ、集客リサーチ、情報発信力の強化などに取り組んだ。
エヌエスオカムラで活動したのは、松本将汰さん(3年)と関波音(はのん)さん(2年)。5月19日に会社概要の説明を受けたり、製造工場を見学したりした。21日は同社から与えられた課題「外国人労働者の定着率向上に向けた取り組み」の提案について情報収集。佐藤裕副社長から技能実習生らの受け入れ状況や課題付与の背景を聞いた。
佐藤裕副社長(右奥)の説明に耳を傾ける関波音さん(手前)、松本将汰さん=5月21日
約150人が働く同社では国際貢献として、23年から「技能実習生」の受け入れや「技人国(ぎじんこく、「技術・人文知識・国際業務」の略称)」と呼ばれる在留資格を有した高度な専門人材の採用を行っている。現在、技能実習生は6人、技人国として2人の外国人労働者が働く。いずれもベトナム人で、年代は10~30代。日本では、生産年齢人口(15~64歳)の減少から労働力不足が問題となっており、外国人労働者は大きな戦力。同様の認識を持つ企業は同社を含め、釜石地域でも少なくない。
技能実習生や技人国は人材育成が本来の目的だが、現状は人手確保や人手不足解消との要素が色濃くなっている。実態とそぐわないことから、政府内で制度の見直しが議論されており、人権保護や労働者としての権利向上の観点から“転籍”も認められる方向にあるという。そうなると、給料の高い都市部や業種に集中する可能性が高く、地方の中小企業は不利な状況に置かれるとの見方も。企業の存続に関わる問題にもなり得るため、「いかに定着してもらうか」が課題となっている。
エヌエスオカムラで働く技能実習生。職場で活躍中
スマートフォンも使いながら外国人労働者とやりとり
佐藤副社長は、会社になじんでもらうためバーベキューを行ったり海に連れて行ったり、業務内外での取り組みを紹介。家族に仕送りをするため懸命に働く外国人労働者との関わりで日本人従業員の視野が広がり、いい意味で刺激になっていることから「長く働いてほしい」と考えている。そこで、年齢の近い学生インターンの2人に実習生らの本音を聞いてもらう現状把握、対応策の提案を求めた。
2人は計5日間、同社に出向いて実習生や日本人従業員らへの聞き取り、インターネットなどを活用し他自治体の取り組みなどを調査。釜石のまちを知るため、鉄の歴史館やうのすまいトモスなども見学して、地域に合う解決策を考えた。
与えられた課題についての情報集めを進める学生
30日、同社の幹部職員10人を前にまとめの発表を行った。聞き取り調査では、日本語能力に課題がある実習生、指導側の日本人ともに仕事の情報伝達に不安を感じていることを確認。家族の帯同が認められている技人国の一人は「長く働きたい」が、家族の働き先や医療などへの不安があり呼び寄せるのをためらっていると明かしたという。実習生らは出稼ぎという考え方が強く節約志向、食文化の違いに慣れていない、サッカー好きが多いといった情報も得た。
幹部職員に対して行ったまとめ発表=5月30日
日本語能力の向上やコミュニティー形成の必要性を指摘した上で、定着率向上の解決策として▽社内での日本語教室の実施▽費用を抑えた交流イベントの開催▽雇用の機会を作るベトナム料理店の出店―を提案した。松本さんは「日本になじんでもらうのではなく、外国人労働者に寄り添って互いの文化を尊重し合い、釜石に住みやすくすることが大切」と強調。関さんは「釜石では飲食店で話しかけてもらうことが多く、スタディケーションの励みになった。そのあたたかい地域性を生かして、外国人労働者の生活の手助け、情報共有や相談できる場所の提供となれば魅力的だと思う」とまとめた。
「悩み」の解決策を提案する松本さん(左)と関さん
幹部職員らは学生たちの説明に熱心に耳を傾けた
報告を聞いた幹部職員から「分かりやすい。『まさにその通り』と思う内容だった」「諦めずにコミュニケーションを取ろうとする姿勢が大事だと改めて分かった」との声が上がった。同社総務課の八幡拓見課長は「(実習生らと)普段会話していても、悩みや不安は聞けない。職場には言いにくいこともあるだろうし…2人のおかげで、悩み事が少し分かった気がする。正解のない課題だが、参考にして対応していきたい」と感謝した。
釜石での活動を終えた関さんは「働くことに対し漠然としたイメージしかなく不安だったが、挑戦することで現状を一歩飛び越えてみることは大事だと感じた。プレゼンとか人前で話せたのは成長かな」と振り返った。松本さんは「現実的でなくでも、若者ならではの真新しい考えを示すことができたと思う。新しい何かが派生していけばうれしい」と充実した表情を見せた。
最終的な成果報告会は7月(予定)に同大で行われる。