タグ別アーカイブ: 産業・経済

kasshikagi01

おいしい「甲子柿」届けたい 釜石の生産者 冬場の管理、知識深化へ講習会

柿の木のせん定の仕方を学ぶ「甲子柿」の生産者ら

柿の木のせん定の仕方を学ぶ「甲子柿」の生産者ら

 
 良い柿の実を作り、収穫、販売につなげようと釜石市甲子町などで1月30日、柿の木のせん定講習会が開かれた。甲子柿の里生産組合(佐々木裕一組合長)が、栽培農家の底上げを狙い、毎年この時期に実施。大船渡農業改良普及センター農業普及員の千田聡実さん(31)が講師を務め、枝切り作業のポイントを教えた。
 
 組合員ら約20人が参加。一部でせん定作業を始めている佐々木組合長(74)の柿畑(甲子・大畑)を見学した後、甲子町松倉で柿を育てる佐野朋彦さん(45)の畑に移動して成木のせん定作業の実演を見守った。
 
甲子町松倉地区の畑で枝切作業の実演を見守る参加者

甲子町松倉地区の畑で枝切作業の実演を見守る参加者

 
 千田さんは「成木は実の付き、バランスを考え、樹形を整える視点が必要」と強調。ノコギリやハサミを手に収穫期に良い実を出すために軸となる枝を決め、日当たりをさえぎるような不要な枝を切っていった。「悩ましいとことは多々あると思う。二股に分かれていたり、上に向かって勢い良すぎるくらい伸びている枝は切った方がいい。幹に向かって内側に伸びる枝も」などと助言。作業しやすさも考慮し、樹高を「ほど良く」することもポイントとして挙げた。
 
 見守った組合員らは「どこを切ればいいか悩む。なかなか切れない」と難しさをこぼした。親の代から柿生産を続ける60代女性は「大木で枝も多く、実がなると重さで垂れさがる。木を小さくコンパクトにしたいが、数が多くて大変。でも、良いものをとって届けたいから、少しずつやってみる」と話した。
 
「自分だったら」と意見を出し合う生産者たち

「自分だったら」と意見を出し合う生産者たち

 
小川町の柿畑で枝切りのポイントを説明する千田聡実さん(左)

小川町の柿畑で枝切りのポイントを説明する千田聡実さん(左)

 
 組合は現在、約30の個人、団体が加入する。昨年は30代の若手1人が加わった。新規就農者や収量アップを考えている人らの参考にと、幼木(植えて1年ほど、未収穫)のせん定方法も研修内容に組み込んだ。小川町の佐々木智勇さん(66)の畑で実演。千田さんは「幼木はまず体をしっかりつくること。よく伸び、成長させることを考えて」とアドバイスした。このほか、参加者は座学で病害虫防除についても知識を深めた。
 
 甲子柿は、甲子地区で育った小枝柿(渋柿の一種)を煙でいぶして甘さを凝縮させた地域の特産品。真っ赤に染まる鮮やかな色味とぷるんとした食感が特長。豊富な栄養素も注目され、国の2つの制度(地理的表示[GI]保護制度、機能性表示食品)で特性が認められている。
 
甲子地区で育つ柿の木。実の色合いは淡い

甲子地区で育つ柿の木。実の色合いは淡い

 
煙でいぶして渋抜きすると、釜石特産「甲子柿」に

煙でいぶして渋抜きすると、釜石特産「甲子柿」に

 
 ただ、近年は気象や温暖化などの影響を受け、一年ごとに豊作と不作を繰り返している。組合ではブランド化を進める中、講習会の開催などで高品質安定生産に向けた栽培管理、技術向上を図ってきた。
 
 組合などによると、2024年は夏場の気温が高めだったものの、順調に成育。ところが、収穫直前、9月の豪雨などで実が落ち、一部では落葉病など病害の影響も重なり、収量が予測より減った。実は残ったとしても、葉が落ちたことで栄養が十分に取り込めず、「甘味が不十分」と収穫を見送った農家もあったという。
 
仲間と情報を交換する佐々木裕一組合長(左)

仲間と情報を交換する佐々木裕一組合長(左)

 
 佐々木組合長も、半分ほどを収穫しなかった。それでも年間収量は例年と変わらずで、「長年の栽培管理のたまものだ」という。一方で、天候などの影響で収穫が遅れ、「自然が相手」の作業に改めて難しさを感じている。
 
 それでも、「好きだから、やれる」と笑う佐々木組合長。高齢の人には“小ぶり”のイメージがある甲子柿だが、最近はずっしりと重みのある“大ぶり”なものも増えている。「地域ならではだから残したい」。楽しみにしている人たちに季節の味を届けるべく、挑戦を続ける。

greenpas01

より便利にスムーズに 県交通バス釜石大槌路線に地域連携ICカード28日から導入

地域連携ICカード「Iwate Green Pass」をバス車内で試す小野共市長(右)=28日

地域連携ICカード「Iwate Green Pass」をバス車内で試す小野共市長(右)=28日

 
 岩手県交通(本田一彦社長)の釜石営業所管内で28日、地域連携ICカード「Iwate Green Pass(いわてグリーンパス)」の運用が始まった。管内6路線、バス19台に順次導入される。「Suica(スイカ)」など全国交通系ICカードとの相互利用が可能で、独自のポイントサービスもある。スムーズな乗降、利便性向上で地域公共交通の活性化に期待が寄せられる。
 
 28日は釜石市鈴子町の釜石駅前ロータリーで、関係者による運用開始式が行われた。同市の小野共市長は「市内の交通弱者、バス利用者の利便性が大きく向上するものと期待している」とあいさつ。本田社長は「国、県、市町の支援に感謝する。地域のインフラの一部としてご愛顧いただき、皆さまのお力で育てていただきたい」と述べた。初日はICカード対応車両2台が運行した。
 
地域連携ICカードの運用開始を祝う小野市長と県交通の本田一彦代表取締役会長兼社長(右)

地域連携ICカードの運用開始を祝う小野市長と県交通の本田一彦代表取締役会長兼社長(右)

 
運用開始式には県交通と市、釜石駅周辺の事業者、団体など関係者が集まった

運用開始式には県交通と市、釜石駅周辺の事業者、団体など関係者が集まった

 
 いわてグリーンパスはJR東日本の「Suica」をベースにした地域版交通系ICカード。同カードで県交通バスの運賃を支払うと、3%が交通ポイントとして付与される。たまったポイントが乗車運賃と同額以上になると、自動的にポイントで運賃が支払われる。交通ポイントは県交通の対象路線でのみ利用できる。
 
 カードは無記名と記名式の2種類があり、発行金額は2千円。野田町の釜石営業所で販売している。チャージ(入金)は導入路線のバス車内、コンビニエンスストアなどでできる。バス車内では千円単位で、最大2万円までチャージ可能。
 
乗車時は右側のカードリーダー(読み取り機)にICカードをしっかりタッチ

乗車時は右側のカードリーダー(読み取り機)にICカードをしっかりタッチ

 
降車時は運賃箱上部のカードリーダーにタッチ(音が鳴る)。カード残高から自動的に精算される

降車時は運賃箱上部のカードリーダーにタッチ(音が鳴る)。カード残高から自動的に精算される

 
 釜石営業所管内の導入路線は釜石市内線、上平田ニュータウン線、小川線、定内県立病院線、浪板線、赤浜線。ICカード対応機器の入れ替えは2月中旬ごろまでかかる見通し。切り替え期間中はICカード対応車両と旧来の磁気式バスカード対応車両が混在するため、利用者には両カードの所持を呼び掛ける。
 
 同営業所の鶴飼光裕所長は「スピーディーに乗車でき、カードの買い替えの必要もない。ポイントもたまってお得。ぜひ、お客様にご利用いただきたい」と話す。
 
ICカードが使える車両にはロゴマーク(赤丸)が掲示されている(写真右下は拡大)

ICカードが使える車両にはロゴマーク(赤丸)が掲示されている(写真右下は拡大)

 
 同カードは2021年の盛岡地区での運用を皮切りに、県内営業所に導入されてきた。釜石は13営業所中11カ所目の導入。現在、盛岡地区だけで運用される “IC定期券”も将来的には県内全域に拡大していきたいという。

025iwaterengo01

賃上げ、組織拡大、平和実現へ共に歩もう 連合岩手釜石・遠野地域協議会新春旗開き

連合岩手釜石・遠野地域協議会 2025年新春旗開き=15日

連合岩手釜石・遠野地域協議会 2025年新春旗開き=15日

 
 連合岩手釜石・遠野地域協議会(小島安友議長)の2025年新春旗開きは15日、釜石市大町の釜石PITで開かれた。構成する各労組から75人が参加。「社会を新たなステージへ、ともに歩もう、ともに変えよう~仲間の輪を広げ、安心社会、賃上げが当たり前の社会をめざす~」をスローガンに掲げ、本年の活動へ意欲を高めた。
 
 主催者を代表し小島議長があいさつ。米国のトランプ新政権始動をはじめ世界情勢の変化が日本に及ぼす影響を懸念しながら、「国内では物価上昇が続くが、賃金上昇が追い付いていない状況。賃上げの流れを止めることなく、今度の春闘も頑張っていこう。地域の少子高齢化が厳しさを増す中、さまざまなレベルでの政策要請も必要」と組合員の奮起を促した。
 
小島安友議長(写真上)が主催者あいさつ

小島安友議長(写真上)が主催者あいさつ

 
 来賓の連合岩手、佐々木正人副事務局長は本年取り組むべき事項として、「戦後80年」「2025春闘」「参院選」の3つのキーワードを挙げた。先の大戦の悲惨な経験を次世代に伝える役割を若い世代が担っていく必要性を指摘。賃上げの新たなノルム(規範意識)を定着させ、本県最低賃金のさらなる引き上げを目指すこと、労働組合の組織強化、拡大を図ることなどを訴え、「互いに協力し合い、より良い職場や社会を作るため努力する1年に」と呼び掛けた。
 
協議会を構成する各労組から新年の決意表明

協議会を構成する各労組から新年の決意表明

 
 乾杯後、協議会を構成する15労組が紹介され、代表者が本年の活動へ決意表明。女性青年委員会によるお楽しみ抽選会で懇親を深めた。最後は“がんばろう”三唱で、団結を誓った。会場では発生から1年の能登半島地震被災者を支援するための募金活動も行われた。
 
お楽しみ抽選会で親睦を深めたほか、能登半島地震被災者支援の募金活動も…

お楽しみ抽選会で親睦を深めたほか、能登半島地震被災者支援の募金活動も…

2025start01

釜石、2025年の船出 市魚市場、市役所で仕事始め「厳しさあるも、力強く前進」

釜石市魚市場にマイワシを水揚げする漁業者=4日

釜石市魚市場にマイワシを水揚げする漁業者=4日

 
 2025年、新しい一年が本格的に動き出した。釜石市内では、各業界で働く人たちが仕事始めを迎えた。市魚市場(魚河岸)の初売り式では前年を上回る水揚げがあり、幸先のいいスタートを切った。市役所(只越町)では小野共市長が年頭訓示。「気概を持ってまちづくりを進めよう」と奮起を促した。
 

水揚げ好調、漁業関係者「上々のスタート」

 
朝早くから動き出す釜石市魚市場=4日

朝早くから動き出す釜石市魚市場=4日

 
 市魚市場では4日、初売り式が行われた。午前6時ごろから定置網船が次々と入港し、マイワシを中心に約95トンを水揚げ。24年初日の約14トンを大幅に上回り、上々の出だしとなった。
 
 同市場の24年4~12月の水揚げ量は6268トン(23年同期比66%増)、金額は16億3100万円(同45%増)。サンマ棒受け網漁業、かご漁業の好調が押し上げ要因となった一方、秋サケの記録的な不漁やサバなどの取扱量は伸び悩みも見られた。市漁業協同組合連合会の木村嘉人会長は「不透明さが増す状況にあっても、巻き網船やサンマ船の取り扱い増加を重点に積極的な誘致活動に取り組む」と意気込みを語った。
 
 市場開設者の小野市長や漁業関係者らが鏡開きや手締めをして景気づけ。初競りでは買い受け人が真剣な表情で鮮魚を見定め、取引を進めた。
 
初売り式で関係者が鏡開きをし、豊漁を祈った

初売り式で関係者が鏡開きをし、豊漁を祈った

 
買い受け人らの掛け声が響き活気づく魚市場

買い受け人らの掛け声が響き活気づく魚市場

 
 萬漁業生産組合(萬文貴組合長)も、この日が初漁日。萬宝丸(19トン)など2隻で暗いうちから水揚げ作業を続けた。いくら揚げてもなかなか魚槽の底が見えず、「飽きた」とこぼす漁師もいたが、声の主の顔をのぞくと、目尻は下がっていた。「おー、イキがいい」。うれしそうに手を動かした。
 
水揚げ、仕分け作業に励む漁師の目元は…緩む

水揚げ、仕分け作業に励む漁師の目元は…緩む

 
「とれるものをとる」と話す萬文貴組合長(奥)

「とれるものをとる」と話す萬文貴組合長(奥)

 
 まとまったマイワシの水揚げは昨年末から続き、「予定通り」と淡々と話す萬組合長(47)。とはいえ漁業の厳しさは依然として残り、「秋サケも諦めたくはないが、自然の状況に合わせてとれるものを狙う。それが漁師だ」と語る。自身は巳(み)年生まれの年男で、「事業拡大を視野に入れ、攻めていきたい。チャンスを得てチャレンジすれば、いいことがある。努力していかないと」と粘りを見せる。
 

市長、訓示「気概を持って前へ」

 
仕事始め式で訓示する小野共市長=6日

仕事始め式で訓示する小野共市長=6日

 
 市の仕事始め式は6日に市役所議場で行われ、小野市長が幹部職員ら約60人を前に訓示。手探りだった就任1年目を振り返りつつ、「令和7年は小野カラーを出していく」と強調した。人口減少や地域経済の悪化などを課題に挙げ、「原因や理由を探り、それに基づいた施策や事業を考える必要がある」と指摘。その上で、「まず歳入のことを考えながら事業などの精度を上げていく。長期的に体質を変えていく必要がある」と、財政健全化に本腰を入れる考えを示した。
 
 持続可能なまちづくりに向け、人材育成や、都市機能を縮小・集約して維持する「コンパクトシティー」化も進めたい考え。職務に臨む姿勢として、「釜石を引っ張っていくという気概を持って前に進んでいこう。能力をまちのために役立ててほしい」と協力を求めた。
 
訓示を聞き、身を引き締める幹部職員ら

訓示を聞き、身を引き締める幹部職員ら

 
 巳年生まれという中村達也総務企画部長は「住んでよかった、来てよかったと誇りに思えるまちづくりを進めたい。より実のある取り組みをしていかなければ」と気を引き締めた。来年、定年を迎えるにあたり「引き継ぎもしていかないと」と引き際を意識し始めている様子も。まちの持続性を守るため、行政マンとしての経験も後進に伝えていく。

irontown01

橋野鉄鉱山含む「明治日本の産業革命遺産」とは? 世界遺産登録10周年を前に市立図書館で講座

鉄の記念日に合わせ、市立図書館が開いた「鉄の町かまいし歴史講座」

鉄の記念日に合わせ、市立図書館が開いた「鉄の町かまいし歴史講座」

 
 釜石市の橋野鉄鉱山を含む「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」(8県11市23資産)は来年、世界遺産登録から10周年を迎える。これを前に同遺産の内容を学ぶ講座が1日、釜石市立図書館で開かれた。「鉄の記念日」に合わせた市民教養講座として同館が企画。同市世界遺産室の森一欽室長が講師を務め、市民ら20人が聴講した。
 
 日本における製鉄・製鋼、造船、石炭産業の急速な発展(1850年代~1910年)を物語る遺構が「顕著な普遍的価値」を有するとして、世界遺産に登録された同遺産。日本の産業革命は非西洋地域では初めて、さらには約60年という短期間で達成されたことから「東洋の奇跡」とも呼ばれる(英産業革命は200年を要した)。
 
 「日本の産業革命はその過程が独特」と森室長。1857(安政4)年、釜石・大橋で日本初の洋式高炉による連続出銑に成功した大島高任は、現物を見ずして蘭学書を頼りに高炉建設を実現した。試行錯誤の挑戦は世界遺産の鹿児島(旧集成館)、韮山、萩の反射炉建設でも象徴される。後に外国人技術者の招へいや留学から戻った日本人の活躍で、長崎、三池の造船、石炭産業を中心に西洋の科学技術導入が進む。明治末期までに官営八幡製鉄所が軌道に乗り、三菱長崎造船所や端島炭鉱(長崎)、三池炭鉱(福岡)の近代化で日本の産業基盤が確立されていった。
 
市世界遺産室の森一欽室長が「明治日本の産業革命遺産」について解説した width=

市世界遺産室の森一欽室長が「明治日本の産業革命遺産」について解説した

 
 世界遺産の構成資産以外にも重工業の産業革命に関連する資産は数多くあるものの、登録には「完全性」と「真実性」が求められるため、「“本物”が残っていないものは世界遺産にはならない」と森室長。近代製鉄発祥の地とされる釜石でも、最初に操業に成功した大橋の高炉は現物が残っていないため、翌年から稼働した橋野鉄鉱山(国内現存最古の洋式高炉がある)が世界遺産になったことを明かした。
 
 森室長は3分野の資産の相関図も示した。製鉄・製鋼の分野では、釜石(大橋、橋野)で成功した鉄鉱石を原料、木炭を燃料とした連続出銑、官営釜石製鉄所の失敗、釜石鉱山田中製鉄所のコークス燃料での大量生産実現が、後の官営八幡製鉄所(銑鋼一貫)の成功につながっていった歴史を紹介。八幡製鉄所の高炉建設では大島高任の息子、道太郎が技監を務め、釜石の田中製鉄所から技術者や熟練労働者が派遣された。八幡ではドイツの最新技術が導入されたものの相次ぐトラブルで操業停止に追い込まれ、高炉の改良や本格的なコークス炉の導入で操業を可能にしたのは、釜石でコークス操業技術を確立した野呂景義の尽力によるものだった。
 
コークス燃料での高炉操業に成功した釜石鉱山田中製鉄所に関連する遺構や遺物を紹介

コークス燃料での高炉操業に成功した釜石鉱山田中製鉄所に関連する遺構や遺物を紹介

 
長崎県は最も多い8資産(造船、石炭産業)が世界遺産に登録されている

長崎県は最も多い8資産(造船、石炭産業)が世界遺産に登録されている

 
 森室長は全国8エリアに分類される各地の構成資産についても説明した。釜石と他地域の資産とはつながりも多く、韮山のれんがが釜石の官営製鉄所で使われたり、釜石で作られた鉄が長崎で造船の原料になったり、釜石で採掘された銅の精錬に三池の石炭が使われていたり…。あまり知りえない話に聴講者は興味をそそられながら聞き入った。
 
市立図書館で開催中の「鉄の記念日図書展」。さまざまな書籍が並ぶ

市立図書館で開催中の「鉄の記念日図書展」。さまざまな書籍が並ぶ

 
 市立図書館では1日から「鉄の記念日図書展」も開催中。ユネスコに提出した「明治日本の産業革命遺産」世界遺産推薦書の原本のほか、釜石の鉄の歴史に関する著作、鉄がどうやってできるかを記したものなど、さまざまな視点の鉄に関する本が並ぶ。ほとんどが貸し出し可能。川畑広恵館長は「釜石のものづくりの精神が世界遺産に結実したのが10年前。身内が製鉄業に携わっていたという方も多いと思う。普段、手が出ない分野という方もこの機会に手に取っていただき、理解を深めてもらえれば」と来館を呼び掛ける。図書展は15日まで開催されている。
 
鉄をテーマに集めた本のほか、市が作成した橋野鉄鉱山に関するパンフレットなども展示

鉄をテーマに集めた本のほか、市が作成した橋野鉄鉱山に関するパンフレットなども展示

sashiko01

地域の伝統・刺し子…つなぐには 釜石商工高生8人、課題研究で挑戦 一針に込める「手作業の味」

刺し子の製品づくりに取り組む釜石商工高の生徒ら

刺し子の製品づくりに取り組む釜石商工高の生徒ら

 
 釜石商工高(今野晋校長)では機械、電気電子、総合情報科の3年生が各科の特徴を生かした課題研究に取り組む。産業や地域課題などのテーマを選んで5月にスタートさせた探究活動は終盤戦に突入。年内に予定する校内発表会に向け、まとめの作業が進む。このうち、総合情報科の8人は地域で受け継がれてきた伝統的な手芸「刺し子」に注目。担い手の育成について考える中で、技術の習得にも挑む。集大成として東京での販売会(12月)を計画。参加のめどが立ち、応援者への“返礼品”づくりに励む。11月20日、同校の一教室。8人の挑戦をのぞいてみた。
 
 刺し子は重ねた布を細かく縫いつける伝統技法。布の補強や保温のために東北地方で始まったと言われる。「運針」と呼ばれる針を刺し進める手法は波縫いが基本。縫い目の間隔にとらわれず、ちくちくと直線に縫っていく手軽さが魅力。幾何学模様などの図柄を縫い込む技法もあり、少しの手間で布をよみがえらせ日常に彩りを添える。
 
 地域の産業として事業化、ブランド化させ新しい魅力を吹き込んでいるのが「大槌刺し子」。東日本大震災で被災した女性たちの生きがいづくりに―と2011年に復興支援プロジェクトで発足し、京都市のNPO法人テラ・ルネッサンスが運営する。バッグや小物などを作ってきたが、近年は売り上げが停滞。最盛期に約200人いたという職人も高齢化など社会変化の影響を受け、現在は15人と大きく減った。
 
 そんな中、長く取引を続ける東京のアパレル会社MOONSHOT(ムーンショット)から提案があり、ブランド「SASHIKO GALS(サシコギャルズ)」を創設。靴や洋服などに古布を縫い当てて刺し子を施して作り直す、ひと手間を加えたものづくりを始めた。新たな感性を取り入れた動きに合わせ、技術の担い手を育成する取り組みも開始。今回の釜石商工高との連携につなげた。
 
釜石商工高総合情報科の教室で生徒らが刺し子づくりに励む

釜石商工高総合情報科の教室で生徒らが刺し子づくりに励む

 
 同校には、もともと別のテーマで講師役を担当した人から刺し子の話が持ち込まれた。課題研究テーマとして組み込まれ、8人が手を挙げ、週3時間、刺し子を学んでいる。講師は大槌刺し子事務所スタッフで職人の黒澤かおりさんと佐々木加奈子さん(ともに47)。針を持つのは小学校の家庭科の授業以来という生徒がほとんどで、持ち方や進め方から、「くぐり刺し」「かがり刺し」といった技法も丁寧に教えてきた。
 
 “若さ”が光り、すんなり身に付けた生徒たちだが、始めた当初は「刺し子をやるとは思っていなかった」という。研究は担い手を増やす方策を考えたり、ビジネスを学ぶ内容だと思っていたらしい。
 
 堀切好花(このか)さんもそんな一人。苦笑いしつつも、新たな試みに挑戦できると前向きに捉えて実践。ムーンショット代表の講話などでサシコギャルズが世界的に評価されていることも知り、「刺し子の可能性を広げる過程に協力したい」と強く思うようになった。作り手としての大変さ、やりがいも実感。「ネクタイとか日常的、実用的なもので、目にする機会を増やした方がいい」とアイデアも出てきた。慣れてきたことで作業中に弾ませるのはおしゃべり。「手を動かしながら団らん。そこも刺し子の魅力」と楽しそうに笑う。
 
布を持ち真剣な表情で一針一針と進める生徒たち

布を持ち真剣な表情で一針一針と進める生徒たち

 
大槌刺し子の職人に助言をもらいながら取り組む

大槌刺し子の職人に助言をもらいながら取り組む

 
生徒を見守る講師とおしゃべりも楽しむ

生徒を見守る講師とおしゃべりも楽しむ

 
 生徒らはこの研究プログラムに「Harito(はりと)」と名を付けた。“針と〇〇(まるまる)”という意味で、「結びつけるものは無限大」と可能性の広がりを期待してのもの。半年たった今、総仕上げとしてさらに熱心に針を進めている。作っているのは「HOME」との刺しゅう文字が入ったミニトートバッグと、古布を重ねつなぎ合わせたりカラフルな波縫いの線が交差するクッション。10月に実施したクラウドファンディング(CF)の返礼品だ。
 
 成果を発信すべく、東京での販売会に臨むため行ったCFでは60人余りから応援が寄せられた。大槌刺し子の職人らを含めて参加できることになり、支援者へ感謝を込めた一点物を製作中。「手作業の味が伝わるように」と一針一針に思いをのせている。
 
クラウドファンディングに向けて撮影した集合写真(提供:釜石商工高)

クラウドファンディングに向けて撮影した集合写真(提供:釜石商工高)

 
ちくちく…一針ごとに感謝の気持ちを込めて縫い進める

ちくちく…一針ごとに感謝の気持ちを込めて縫い進める

 
返礼品として生徒がすべて手作業で仕上げている刺し子

返礼品として生徒がすべて手作業で仕上げている刺し子

 
 CFは生徒らの学びの機会にもなった。販売内容に関わる計画やマーケティング、広報、チラシ作り、交通費の算出など、それぞれが得意分野を生かして取り組んでいたと同科の沼﨑麗(うらら)教諭。「学校外の人と関わることで視野が広がったと思う。担い手の課題はすぐに結果が出るものではないが、地域の伝統を知り、外に出た時に伝え広げられたら、成功という一つの形になるのかな」と目を細めた。
 
 生徒自身もそれぞれ成長を感じている様子。久保菜月さんは「思った意見を言えるようになった」とはにかむ。刺しゅうデザインなど提案、相談を重ね、採用されたり意見が通らなかったこともあったが、「あとで生かされる」と確信。地域との関わりや伝統を身近に感じられる機会にもなり、「後輩たちにつなぎ、残したい」と願いを抱いた。
 
 技術を紹介した大槌刺し子の2人にも発見があった。長く携わると型にはまってしまうが、まっさらな状態の高校生は「自由に思うまま」で、色合いや発想に驚かされることもしばしば。「参考になる」と刺激を受けた。
 
講師を務める大槌刺し子職人の佐々木加奈子さん(左)、黒澤かおりさん(右)

講師を務める大槌刺し子職人の佐々木加奈子さん(左)、黒澤かおりさん(右)

 
 佐々木さんは「古くなったものを新しい糸で生き返らせる。補修にデザイン性が加わっておしゃれによみがえる。刺し子のすてきなところ」と愛着をにじませ、黒澤さんも「手を加えるだけでオリジナルになる」とうなずく。地方でもファッション業界に関われる可能性、世界での評価という手応えを得る一方、すべて手作業で一つの製品に一週間以上かかることもあり、大変さも身に染みて思う2人。それでも「現代にあった刺し子を作り続けたい」と気持ちも重ねる。今回の授業は間もなく終わるが、形は変わったとしても継続させたい考えだ。
 
大槌刺し子の拠点でも販売会に向け職人たちが追い込み作業中

大槌刺し子の拠点でも販売会に向け職人たちが追い込み作業中

 
 販売会は12月14日、東京の伊勢丹新宿本店の本館で予定する。ムーンショットが手がけるファッションブランド「KUON(クオン)」の期間限定店に参加する形で展開。大槌刺し子の職人が手がけた帽子などを並べる。

ringyo01

ドローンなど活用で森林測量の効率、省力化へ 林業関係者ら事例学ぶ 釜石でセミナー開催

ドローン測量の実演などが行われた釜石地方林業活性化セミナー

ドローン測量の実演などが行われた釜石地方林業活性化セミナー

 
 険しい山での作業負担軽減や担い手確保が課題となっている林業―。そうした諸課題解決に、デジタル技術を活用し作業の効率、省力化を図ろうという取り組みが進む。産業用無人ヘリコプターやドローンを使った森林測量もその一つ。釜石市でこのほど開かれた「釜石地方林業活性化セミナー」では、ドローンや三次元計測が可能なアプリを使った森林測量の事例が紹介された。
 
 同セミナーは釜石地方林業振興協議会(会長=林春彦県沿岸広域振興局農林部長)と同振興局農林部が主催し、片岸町の釜石地方森林組合事務所で開かれた。沿岸市町村から自治体職員や民間事業者など約30人が参加した。
 
 本年8月、県は「デジタル技術を活用した森林整備事業の申請等に関する取扱について」という通知を発出。施行地の現地測量にGNSS(衛星測位システム)やドローン(無人航空機)などのデジタル技術を活用する場合に守るべき基準、適切な林務手続きを行うために参照すべき事項を定めた。セミナーでは同通知で定められている4つの測量方法について説明。現時点で補助金交付対象は人工造林、下刈りの周囲測量、森林作業道の延長測量のみであることが伝えられた。
 
県の担当者が8月に発出された通知について概要を説明

県の担当者が8月に発出された通知について概要を説明

 
 県林業技術センター(矢巾町)専門研究員の中軽米聖花さんはドローンなどを活用した測量事例を紹介。どんなデータが得られるかやメリット、デメリット、補助金申請書類の作成、検査の作業イメージなどを説明した。
 
 「ドローン測量」は、空中から連続撮影した写真をパソコンのSfMソフト(三次元形状に復元するソフトウェア)で正射投影化(オルソ画像という)。これを基にGISソフト(地理情報システム)で施行地の位置、形状、面積のデータを得る。GNSS受信機2つ(移動局、基準局)の観測データを使って高精度の測位をリアルタイムで行う方法(RTK-GNSS 対応)と、1つの受信機で測位する方法(単独測位)がある。
 
 この他、現地を歩いて衛星測位システム観測機器で測点の位置座標を記録し、GIS上でつないで施行地のデータを得る「GNSS測量」、“mapry(マプリィ)林業”などのアプリを入れたスマートフォン、タブレットを使い、現地を歩いて座標を記録する方法(地上レーザースキャナーによる三次元測量)がある。
 
衛星測位システムやドローンなどを活用した測量事例が紹介された

衛星測位システムやドローンなどを活用した測量事例が紹介された

 
 中軽米さんはドローン測量について、「全測点を歩かなくても測量ができ、画像、点群データとして森林全体の現況把握、記録ができる」一方、「ドローンや処理ソフト導入などの初期投資が必要で、GIS操作などが不慣れな人は使いこなすのに時間がかかる」ことを説明した。また、単独測位では3~10メートルほどの絶対位置のずれが生じるため、現地しゅん工検査にはST計算(水平距離、方位角算定)で変換した測量野帳が必要となることも付け加えた。
 
釜石地方森林組合事務所の駐車場でドローンのデモフライトが行われた

釜石地方森林組合事務所の駐車場でドローンのデモフライトが行われた

 
 この日は座学の後、同組合事務所の駐車場で、ドローン測量の実演も行われた。大槌町のNPO法人吉里吉里国の河井舞さん(同町地域おこし協力隊員)は「大槌町も実態が分かっていない山がたくさんあるので、こういう技術が使えればより現状把握が可能になりそう。地道に山を歩いて測量、分布を調査するのに比べ格段に便利。あとは金額の問題」と導入の課題を示した。
 
ドローン撮影の空中写真を基にした計測データ(写真左)を示す県林業技術センター専門研究員の中軽米聖花さん(写真右)

ドローン撮影の空中写真を基にした計測データ(写真左)を示す県林業技術センター専門研究員の中軽米聖花さん(写真右)

 
 中軽米さんは「林業は人手不足が顕著。現場労務が軽減されるドローン測量は今後、広がっていくと思われる。撮影した森林の画像データは施業計画立案にも活用可能」と話す。2022年6月からは100グラム以上の無人航空機の登録が義務化され、航空法の規制対象となっている。目視外を飛ばすには免許も必要だという。
 
 釜石市では22年6月に釜石地方森林組合が開いた研修会以降、レーザー計測機を搭載した産業用無人ヘリコプターによる森林計測サービス(ヤマハ発動機)が県内に先駆けて導入されている。
 
ドローン測量の実演に興味津々の参加者。写真右下はヤマハ発動機が森林計測サービスで使用する産業用無人ヘリコプター

ドローン測量の実演に興味津々の参加者。写真右下はヤマハ発動機が森林計測サービスで使用する産業用無人ヘリコプター

umitokibou01

釜石市と東京大タッグ!海と希望の学園祭 「船出」テーマに未来考え、楽しみ学ぶ

釜石市と東京大の連携イベント「海と希望の学園祭」

釜石市と東京大の連携イベント「海と希望の学園祭」

 
 「海と希望の学園 in Kamaishi」は9、10の両日、釜石市大町の市民ホールTETTOと釜石PITを会場に開かれた。同市と東京大学の連携事業として継続する交流イベントで、今年のテーマは「船出」。船や海にまつわる展示や工作などがあり、子どもたちが楽しんだ。先を見据えた各種研究のかじ取りを担う教授陣によるパネル討論は大人たちの学びの機会に。一緒に「地域の未来」を考えて新たな思考を得たり刺激にした。
 
 2006年の同大社会科学研究所(社研)による「希望学」釜石調査を機につながり、東日本大震災後は「危機対応学」で研究連携を継続。そうした背景を基に22年に社研、同大大気海洋研究所(海洋研)、同大先端科学技術研究センター(先端研)と覚書や協定を結び、地域社会の発展、人材育成、学術振興に向けて相互交流を続ける。
 
 展示では同大生産技術研究所(生産研)、先端研などが研究内容を紹介した。社研は遂行中の「測る」をテーマにした研究プロジェクトを会場内で実践。来場者に「測ってみたい」「測ってはいけない」と思うものを書き込んでもらった。その理由や意味、影響などについて聞き取り、意見を交わす場面も。他の人の考えに触れ、関心や探究心をくすぐり合った。
 
「測る」を切り口にした東京大社会科学研究所の展示ブース

「測る」を切り口にした東京大社会科学研究所の展示ブース

 
先端科学技術研究センターは災害時避難の補助装置などを紹介

先端科学技術研究センターは災害時避難の補助装置などを紹介

 
大気海洋研究所の巨大バルーンオブジェは写真スポットに

大気海洋研究所の巨大バルーンオブジェは写真スポットに

 
 海に関する展示はさまざまあり、釜石海上保安部は海洋調査業務の紹介や海上保安官の制服試着体験などを用意。岩手大釜石キャンパスの学生らは三陸に生息する海の生き物に触れられるタッチプールを設け、子どもたちの心をつかんだ。ウニの殻を使ったランプづくり(釜石商工高ブース)、ウニを模した樹脂製のフィギュアを使ったインテリア小物づくり(SASAMOブース)は大人も楽しんだ。
 
海にまつわる活動やものづくりを楽しむ来場者

海にまつわる活動やものづくりを楽しむ来場者

 
海の生き物に触れるタッチプールは子どもに人気

海の生き物に触れるタッチプールは子どもに人気

 
 船や魚にちなんだアート作品づくりを提供したのは、文京学院大の学生9人。ペットボトルのキャップやラベルを使い、環境やリサイクルについて考えてもらう内容にした。浜田幸奈さん(経営学部3年)は「本来廃棄されるもので楽しんでもらえてうれしい」と素直な感想。自身にとっても学びの機会で、来場者との触れ合いを通して「社会とつながってできることをやる」という姿勢、スキルを磨いた。
 
文京学院大のブースは工作を楽しむ人でにぎわった

文京学院大のブースは工作を楽しむ人でにぎわった

 
ものづくり体験を提供したりチャリティーグッズも販売

ものづくり体験を提供したりチャリティーグッズも販売

 
 体験活動を楽しんだ大槌町の小國翔太郎さん(8)の夢は“生き物博士”。今一番のお気に入りは町の天然記念物に指定されているトゲウオ科の希少魚「(淡水型)イトヨ!」と胸を張った。そばで笑うのは父親の晃也さん(46)。子どもの興味を引き出す取り組みだと歓迎し、「海がそばにあるのに触れ合う機会は少なかったりする。自然を体感し、たくさん学んでほしい」と見守った。
 
 「希望の船出」をテーマにしたパネル討論は東京大の玄田有史副学長が進行。大海研の兵藤晋所長、社研の宇野重規所長、生産研の年吉洋所長、先端研の杉山正和所長というパネリストに小野共市長が加わり、長としての組織運営の苦労など、ざっくばらんに話した。
 
東京大の副学長や4研究所長、釜石市長がトークを展開

東京大の副学長や4研究所長、釜石市長がトークを展開

 
 船出には「新しいことに挑戦するというイメージもある」と玄田副学長。「未知の領域に挑む時、ゼロから始める時に気を付けていることは?」と聞くと、4月に就任したばかりの年吉所長は「とにかく始めちゃえばいい」とスパッと言い切った。兵藤所長は「船があるからではなく、行きたいから船を出す。自分から動き出すことだ」と強調。杉山所長は「思いを共有すれば実現する」とし、同じ船に乗る仲間集め、チームづくりを大切にしていると伝えた。
 
 「不安、悲観主義を持ちつつも歩いて、船を進めたら、何かの出会いで今がある」と語ったのは宇野所長。実は、希望学調査で釜石と関わりがあり、「思想や歴史、哲学といった昔のことが専門なのに…地域に放り込まれ、何をやっていいか分からなかった。これこそ、ドキドキの船出」と振り返った。20年も続く活動や関係性に見いだすことは多かったようで、「(挑戦には)新しい可能性がある」と確信を込めた。
 
教授らのざっくばらんな語り口を楽しむ聴講者

教授らのざっくばらんな語り口を楽しむ聴講者

 
 市政運営のかじ取り役を担い、船出して間もなく1年となる小野市長。財政再建や持続可能なまちづくりなど挑まなければならない課題は多いとの認識を示した。前向きな教授陣の考えに触れ、「希望学によって住んでいても気づかないことに気づかされ、希望が地域に伝ぱした。小さなネタでも地域にある限り、まちは生き続けられると感じた。失敗が多いほど希望も…」とヒントを得た様子。自身と同じように聴講した市民らが「未来を考えるきっかけになれば」と期待した。
 
 希望学のプロジェクトリーダーだった玄田副学長。釜石との縁は05年からと長い。「真剣な遊びとしてやろうと始めたのが希望学だったな」と思い返し、ニヤリ。この先も、「いろんな楽しいことに挑戦していきたい」とトークを締めくくった。

hamachidori_kanpyokai01

釜石・浜千鳥が評価員特別賞 東北清酒鑑評会、純米酒の部 吟醸酒の部も優等賞

東北清酒鑑評会で評価員特別賞を獲得した浜千鳥の社員ら

東北清酒鑑評会で評価員特別賞を獲得した浜千鳥の社員ら

 
 仙台国税局による東北清酒鑑評会の結果が発表され、純米酒の部で釜石市小川町の酒造会社、浜千鳥(新里進社長)が最優秀賞に次ぐ「評価員特別賞」に選ばれた。吟醸酒の部でも優等賞を獲得。地域性を大事にした酒造りを続けており、新里社長は「岩手県の味わいが認められた」と喜ぶ。日本の「伝統的酒造り」が近く、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しで、「文化的な面で味わいも深めて楽しんでもらえたら」と期待を膨らませる。
 
 同鑑評会は東北6県で造られた日本酒の品質を評価する。今年は清酒製造場147場(県内は15場)が計274点(同29点)を出品。部門別では吟醸酒が122場136点(同10場10点)、純米酒は122場138点(同14場19点)だった。研究機関の職員や製造場の技術者、外国人の専門家らが10月上旬、香りや味などを総合的に審査した。
 
 その結果、優等賞に吟醸で47場52点、純米で43場46点を選び、その中から、最も評価が高かったものを最優秀賞、次点の2点を評価員特別賞とした。県内からは両部門で9場が選ばれ、浜千鳥を含む4場がダブル受賞。純米の評価員特別賞には浜千鳥とともに、わしの尾(八幡平市)も上位入賞を果たした。
 
 表彰式は11月7日にあり、浜千鳥の本社を訪れた仙台国税局課税第二部の田村英好部長が表彰状を伝達。新里社長、奥村康太郎杜氏(とうじ)・製造部長らが受け取り、社員らと喜びを分かち合った。インバウンド消費や輸出促進に役立ててもらうため、英語の賞状も授与された。
 
h評価員特別賞の表彰状を受け取る新里進社長(中央)ら

評価員特別賞の表彰状を受け取る新里進社長(中央)ら

 
吟醸酒の部の賞状は奥村康太郎杜氏(中央)らが受け取った

吟醸酒の部の賞状は奥村康太郎杜氏(中央)らが受け取った

 
 評価員特別賞を受けた「浜千鳥 純米大吟醸 結の香」は、本県最上級のオリジナル酒米「結の香」を原料に、岩手オリジナル酵母「ジョバンニの調べ」で醸造。軽やかに広がるフルーティーな香り、甘みと酸味の調和感、余韻の心地よさなどが評価された。吟醸の部優等賞の「浜千鳥 大吟醸」は酒米の王「山田錦」が原料。酵母は同じくジョバンニを使う。
 
 同社のダブル受賞は今年で5年連続7回目。全国トップクラスの技術を持つ杜氏や蔵人がひしめく東北鑑評会での入賞は「難しい」との声もある中、2部門での連続受賞に奥村杜氏は素直にうれしさを見せる。「全国に誇れる素材を生かし、浜千鳥らしい味をこれからも。品質も高めていく」。次の酒造りがすでに始まっているといい、「米、酵母、釜石の水…素材本来の味、特徴を見いだしたい」と眼光を鋭くする。
 
田村英好部長に代表銘柄「浜千鳥」を紹介する新里社長(右)

田村英好部長に代表銘柄「浜千鳥」を紹介する新里社長(右)

 
 新里社長は「ありがとう。これまで頑張ってきた成果」と社員への感謝を口にする。冬場に丹精込めて醸造し、夏場も細心の注意を払って管理、熟成させる伝統的な酒造りは変わらない。同じ材料で風合いを守りつつ品質を高めていく姿勢もしかり。「継続性を大切に」と望む中、無形遺産登録への流れを「日本酒の良さを知ってもらう好機」と捉える。「浜千鳥、そして岩手の清酒をどうぞ」。笑顔を添えてアピールした。

recyclecenter01

平田に廃プラ対応のリサイクルセンター開設 11月から産廃処理開始、家庭プラは来年4月から

岩手資源循環 釜石総合リサイクルセンター完成見学会(自治体、報道機関向け)=10月31日

岩手資源循環 釜石総合リサイクルセンター完成見学会(自治体、報道機関向け)=10月31日

 
 岩手資源循環(谷博之代表取締役)が釜石市平田に建設を進めていた「釜石総合リサイクルセンター」が完成した。同施設は自治体収集の家庭プラスチックごみの再資源化を主に、産業廃棄物処理にも対応。来年度からの家庭プラごみ分別収集を計画する同市を含め、沿岸地域の資源再生への取り組み加速が期待される。11月からの施設稼働を前に10月31日から11月3日まで、自治体や法人関係者、地域住民向けの見学会が開かれた。
 
 31日は同市関係者約30人が見学。谷代表取締役(49)が工場棟を案内した。同施設は敷地面積約8120平方メートル。釜石など3市2町のごみ処理を行う岩手沿岸南部クリーンセンター隣の日本製鉄所有地を借りて整備された。工場棟(約1500平方メートル)はテント型の鉄骨組み幕構造。中に、家庭プラスチックごみと産業廃棄物を処理する装置がある。
 
釜石市平田第3地割に整備された「釜石総合リサイクルセンター」 写真上:左が工場棟、右が事務所棟

釜石市平田第3地割に整備された「釜石総合リサイクルセンター」 写真上:左が工場棟、右が事務所棟

 
 自治体が分別収集した家庭排出のプラスチックごみは検品後、機械に投入。2台の破集袋機で回収時の袋をはずし、手選別ラインでプラスチック再生できないものを除去。磁選機を経て、最終的に圧縮梱包機で「プラスチックベール」という固まりにし、再生業者に引き渡す。1日(8時間稼働)に12トンまで処理可能。釜石市のプラごみ分別収集が始まる来年4月から、市の委託事業として操業を開始する。
 
自治体回収の家庭プラごみを選別、圧縮梱包する機械装置

自治体回収の家庭プラごみを選別、圧縮梱包する機械装置

 
再生可能なプラごみを圧縮梱包機でプラスチックベール(写真左下)にする。プラベールは1個300キロ

再生可能なプラごみを圧縮梱包機でプラスチックベール(写真左下)にする。プラベールは1個300キロ

 
 産業廃棄物は機械投入前に、危険物のチェックを含め人の手でしっかり分別。廃プラスチック、木くず、繊維くず、ガラス・陶磁器くずなどに分け、品目ごとに機械に入れる。1次破砕機で約5センチ角に破砕。磁選機を経てベルトコンベヤーで運ばれ、品目ごとに下部の保管ボックスに落ちる仕組み。廃プラは2次破砕機でさらに細かく粉砕(約2センチ角)。再生プラスチックを成型するための原料、または化石(石炭)代替燃料として出荷する。廃プラは1日(同)100トンの処理が可能。産廃処理は11月中に開始する。 
 
産業廃棄物を破砕処理する機械。一番奥に2次破砕機がある

産業廃棄物を破砕処理する機械。一番奥に2次破砕機がある

 
 同社は、東日本を中心に廃棄物処理や再資源化事業を行う有明興業(東京都江東区)グループの3社が共同出資し、2022年5月に設立。23年2月、同市と工場立地協定を締結し、同年12月から建設工事が進められてきた。工場棟のほか、事務所棟(木造平屋建て、約250平方メートル)を有する。事業費は約10億円。従業員は地元雇用の24人。今後、選別作業に高齢者や障害者を含むパート採用も行っていきたい考え。
 
 谷代表取締役は「廃プラスチックの再生を一番の目的とした工場。家庭プラごみの選別、梱包は釜石市から始めて、他の沿岸自治体の受け皿にもなっていければ。沿岸特有の漁業系廃棄物はプラスチックが多く使われている。一つでも多くリサイクルし、新たな原料として生かせるようにしたい」と話す。既に多くの漁業関係者や一般法人が関心を寄せているという。全体で年間約9000トンの処理を当初目標とする。
 
左上写真:施設について説明する谷博之代表取締役 右上写真:説明を聞く小野共釜石市長ら

左上写真:施設について説明する谷博之代表取締役 右上写真:説明を聞く小野共釜石市長ら

tetudo02

見て触れて魅力味わう JR釜石駅で鉄道まつり 初の列車運転シミュレーター体験に子どもら大喜び

列車運転シミュレーター体験に目を輝かせる来場者=釜石駅鉄道まつり

列車運転シミュレーター体験に目を輝かせる来場者=釜石駅鉄道まつり

 
 釜石市鈴子町のJR釜石駅(髙橋恒平駅長)で12日、同駅や釜石線の利用者、地域住民への感謝を込めた鉄道まつりが開かれた。10月14日の「鉄道の日」、11日から20日の「鉄道の旬間」に合わせて企画。同駅では初となる列車の運転シミュレーター体験、鉄道模型(Nゲージ)の展示などが行われ、家族連れなどが鉄道の魅力に触れた。
 
 運転シミュレーター体験は、同駅構内の旧盛岡運輸区釜石派出所の訓練室で行われた。同運輸区はJR東日本盛岡支社の運転士、車掌が所属していた組織で、2021年3月まで釜石派出所があった。派出所廃止後、使われずに置かれていた運転士の訓練用機械―。「イベントでお客様に体験してもらっては」と社員が提案し、同まつりでの実施が実現した。3回の開催時間を設けて抽選券を配布。各回6人の定員で、当選者に体験してもらった。
 
 運転台から見える釜石線の線路と周辺の景色をモニターに映し出した機械で、来場者が機器を操作。大雨や大雪時の走行、地震発生時の緊急停止を指令する無線対応のシミュレーションもでき、体験した人たちは興味をそそられながら束の間の運転士気分を味わった。
 
釜石線の線路をモニターで見ながら運転体験!

釜石線の線路をモニターで見ながら運転体験!

 
JR社員との会話も楽しいひととき。来場者は鉄道の仕事に興味津々(写真は一部画像加工)

JR社員との会話も楽しいひととき。来場者は鉄道の仕事に興味津々(写真は一部画像加工)

 
 同市八雲町の中学生前田雄基さん(15)は釜石駅から小佐野駅間の走行を体験した。「停車する時が大変。運転士さんはこんな難しいことをやっているのか」と驚いた様子。鉄道が好きで普段から写真を撮ったりしているが、運転体験は初めて。自宅近くも走り、「運転士の目線で見る景色はとても新鮮だった」と声を弾ませた。好きな列車を聞いてみると、「釜石線を走る『キハ100』が一番好き」との答えが…。「将来は列車の運転士になりたい」と夢を膨らませた。
 
 同駅近くのシープラザ釜石では鉄道模型(Nゲージ)を展示した。社員有志が持ち寄ったもので、まちのジオラマの中を走らせた。JR東日本が運行する豪華寝台列車「四季島」、主に新宿-松本間を走る特急「あずさ」、石油運搬用のタンク車などさまざまな車両が登場。子どもたちを中心に人気を集めた。
 
鉄道模型(Nゲージ)の展示に子どもたちは目がくぎ付け

鉄道模型(Nゲージ)の展示に子どもたちは目がくぎ付け

 
この日は「ポケモントレイン釜石号」の運転日と重なり、釜石駅にはおなじみの黄色い車両が…(写真下)。まつりには三陸鉄道の車両、ポケモン列車の模型も登場(写真上)

この日は「ポケモントレイン釜石号」の運転日と重なり、釜石駅にはおなじみの黄色い車両が…(写真下)。まつりには三陸鉄道の車両、ポケモン列車の模型も登場(写真上)

 
 同市の菊池蛍志ちゃん(3)は周回するさまざまな列車に大興奮。ひときわ目立つ黄色い車両に歓声を上げ、「ポケモン列車大好き。乗ってみたい」と目を輝かせた。母志帆さん(37)は「時間がある時は(息子を連れて)駅に列車を見に行ったりする。今日は運転シミュレーターも体験できて大喜びでした。近場でこういうイベントがあると家族で楽しめるのですごく助かる」とうれしそうに話した。
 
 鉄道模型とともに、過去に県内で走っていた急行や快速列車の「行き先表示板(サボ)」、電柱に取り付けられていた縦型の駅名板も展示。古いものでは昭和30~40年代の代物もあり、当時を知る人にとっては懐かしい空間となった。
 
昭和の時代の鉄道風景を思い起こさせる「行き先表示板」「駅名板」も公開

昭和の時代の鉄道風景を思い起こさせる「行き先表示板」「駅名板」も公開

 
観光列車「ひなび」の塗り絵作品の展示も。写真左下は乗客に塩蔵ワカメを配る釜石駅の髙橋恒平駅長

観光列車「ひなび」の塗り絵作品の展示も。写真左下は乗客に塩蔵ワカメを配る釜石駅の髙橋恒平駅長

 
 会場内には、昨年11月に運行を開始した観光列車「ひなび」の塗り絵作品を展示。釜石、双葉、小佐野の3小学校の1年生が寄せたもので、自由な発想の色使いが目を引いた。作品はイベント終了後、今月31日まで釜石駅待合室に展示する。ひなびのPRコーナーや「大人の休日倶楽部」「えきねっと」などの相談会も開設した。昼前後には、釜石駅に到着した列車の乗客先着100人に同市特産の「塩蔵ワカメ」をプレゼント。髙橋駅長が改札口で手渡した。
 
 「この機会に鉄道の魅力に触れ、身近に感じてもらえれば」と髙橋駅長。これから本格化する県内の紅葉シーズンを見据え、「ぜひ鉄道を利用し、窓からゆったりと秋の景色を眺めていただければ。秋はおいしいものもたくさん。釜石にもお越しいただきたいし、釜石からも県内各所に足を延ばしていただければ」と“鉄道旅”をPRする。
 
 「鉄道の日」は1872(明治5)年10月14日、新橋-横浜間に日本初の鉄道が開業したことを記念して制定された。1880(同13)年に釜石で運行を開始した「工部省鉱山寮釜石鉄道」(大橋-釜石港間)は国内3番目(鉱山鉄道としては初)の鉄道として知られる。

sistercities01

絆を次世代に 姉妹都市提携30周年 ディーニュ市(仏)から釜石へ友好の代表団

触れ合いを楽しんだディーニュ・レ・バン市の代表団と釜石市民=9月23日

触れ合いを楽しんだディーニュ・レ・バン市の代表団と釜石市民=9月23日

 
 アンモナイトの化石が縁となり、釜石市とフランスのディーニュ・レ・バン市は1994年に姉妹都市の提携を結び、30周年を迎えた。これを記念し、9月21日から24日までディーニュ市の代表団が釜石市を訪問。さまざまな交流活動を重ねた。両市の友好を一層深めるべく共同宣言にも署名。「絆を次世代に継ぐ」との思いを共有した。
 
 一行はパトリシア・グラネ市長、ベルナール・テシエ市議ら関係者8人。初日は、釜石港周辺を視察した後、市役所で小野共市長らと懇談した。来訪を歓迎する小野市長は「30年の友情を今後も強いものにしたい」と希望。同席した高橋勝教育長も「未来をつくる子どもたちが絆をつないでいってほしい」と期待を込めた。
 
 グラネ市長は「つらい時も楽しい時も支え合う関係をつくっていきたい」と応じた。今回の訪問は文化的な交流のほか、機能的な役割を確認しながら関係性を強化するのが目標。中でも、「われわれの地域には世界初のジオパークがある」と強調し、「三陸ジオパークの世界的な認知に向け、経験を提供しサポートしたい」と約束した。
 
市役所で懇談する釜石市とディーニュ市の関係者=21日

市役所で懇談する釜石市とディーニュ市の関係者=21日

 
 大町のホテルクラウンヒルズ釜石に移動し、記念式典に臨んだ。市内で活動する女声合唱団「アンサンブル ル シエル」が両国の国家を斉唱。30年の交流を振り返る動画が上映され、ナレーションを担当した大井暖乃(のの)さん、加藤祢音(ねね)さん(ともに釜石高2年)が歓迎の言葉を伝えた。
 
 先人が長きにわたり紡いできた姉妹都市の交流を次世代へ引き継ぎ、さらなる相互理解と友好を深め、両国の親善に寄与していく―。そう記された共同宣言に両市長が署名した。
 
共同宣言に署名した小野共市長(右)とパトリシア・グラネ市長

共同宣言に署名した小野共市長(右)とパトリシア・グラネ市長

 
記念式典には約80人が集い、国歌斉唱や動画上映などが行われた

記念式典には約80人が集い、国歌斉唱や動画上映などが行われた

 
 両市の交流は、1992年に釜石で開催された「三陸・海の博覧会」で、ディーニュ市にある「アンモナイトの壁」の剥離標本を展示したのがきっかけ。鉄の歴史館での保存が決まり、94年4月に姉妹都市提携を結んだ。
 
 交流が一時停滞した時期もあったが、2011年の東日本大震災以降、ディーニュ市は物心両面から釜石復興の道のりを応援。官民での相互訪問を重ねてきた。22年にディーニュ市で栽培が盛んなラベンダーの種を譲り受け、育てた苗で釜石の街を彩る取り組みが進行。23年にはディーニュ市を中心に初開催されたアマチュアラグビー世界大会に岩手・釜石から特設チームを派遣するなど、関係が発展している。
 
震災の事実に耳を傾け、犠牲者を悼んで白菊を手向けた=9月22日

震災の事実に耳を傾け、犠牲者を悼んで白菊を手向けた=9月22日

 
 22日は、鵜住居町の震災追悼施設祈りのパークで犠牲者を悼み、黙とうと献花をした後、伝承施設いのちをつなぐ未来館を見学。釜石鵜住居復興スタジアムでのイベントに足を運び、祝い餅を来場者に手渡したり、いわて釜石ラグビーフットボールクラブと流通経済大ラグビー部の交流試合を観戦した。
 
笑顔を添えて祝い餅を手渡すディーニュ市の関係者(左)

笑顔を添えて祝い餅を手渡すディーニュ市の関係者(左)

 
うのスタで写真に納まる釜石市とディーニュ市の関係者

うのスタで写真に納まる釜石市とディーニュ市の関係者

 
 姉妹都市交流のきっかけとなった剥離標本が展示されている大平町の鉄の歴史館も見て回った。32年前の博覧会開催時に、標本を持ち込んだ地質学者のジャン・シモン・パジェスさん(オート・プロバンス ユネスコ世界ジオパーク関係者)は感動の再会。対応した市世界遺産室の森一欽室長らに当時の準備作業の大変さなどを伝えた。
 
鉄の歴史館にある「アンモナイトの壁」の剥離標本に再会⁉喜ぶディーニュ市のジオパーク関係者

鉄の歴史館にある「アンモナイトの壁」の剥離標本に再会⁉喜ぶディーニュ市のジオパーク関係者

 
「この標本に化石はいくつある?」とジャン・シモン・パジェスさん(右下写真)

「この標本に化石はいくつある?」とジャン・シモン・パジェスさん(右下写真)

 
 「この標本には3種類の化石がある。分かる?」。パジェスさんが問いかける場面も。アンモナイトとオウムガイは分かりやすいが、“イカの骨”がどこかにあるといい、釜石側の関係者は「新しい視点になる」と、うれしい発見を喜んだ。
 
 同館駐車場の一角には「ディーニュ・レ・バン市の丘」と名付けられた植え込みがある。30年前、両国にちなみサクラとマロニエ各1本が植えられており、その場所に今回、コブシの苗木1本を記念植樹。加えて、ラベンダーの苗12本も植え付けた。
 
鉄の歴史館駐車場の一角にある「ディーニュ・レ・バン市の丘」

鉄の歴史館駐車場の一角にある「ディーニュ・レ・バン市の丘」

 
交流継続を願い植樹するディーニュ市の代表団と釜石の子どもたち

交流継続を願い植樹するディーニュ市の代表団と釜石の子どもたち

 
 コブシの花言葉は「信頼」「友愛」などで、両市のつながり進展を願う。植樹には、次世代を担う小学生6人が参加。小山琉世さん(白山小5年)はその願いを受け止め、「僕たちが架け橋になって、つながりを盛り上げていきたい」と背筋を伸ばした。
 
 23日は、鵜住居町根浜で震災の講話、海浜植物ハマナスの再生活動に参加した。観光施設根浜シーサイドのレストハウスで昼食。郷土料理の研究、継承に取り組む女性たちが作った料理を味わいながら談笑した。
 
海と山の味覚をふんだんに使った料理を楽しむ昼食会=9月23日

海と山の味覚をふんだんに使った料理を楽しむ昼食会=9月23日

 
 朝どりしたホタテの炭火焼き、地元特産のクッキングトマト「すずこま」のはちみつ漬け、海藻のテングサを使った自家製ところてん、新鮮野菜たっぷりのすいとん汁…。“普通の家庭料理”を提供した前川良子さん(72)は「国は違っても古里は大事。食を通じて手を取り合う、気持ちの交流ができたと思う。言葉は分からずとも、心遣いを感じてもらえたらいい」とほほ笑んだ。
 
 三陸ジオパークの見どころの一つとなるジオサイト・釜石鉱山(甲子町大橋)の坑道見学に夢中になったという一行。旧釜石鉱山事務所にも立ち寄り、昭和時代を再現したレトロな室内とアナログな道具、展示室「Teson(てっさん)」にあるナウマンが作製した東北地方の地質図(予察地質図東北部)や鉱山で採取された鉱物に関心を示した。
 
三陸ジオパークの魅力に触れた代表団。認知度アップのサポートに期待

三陸ジオパークの魅力に触れた代表団。認知度アップのサポートに期待

 
 パジェスさんは「三陸地域には魅力的な点があると確信している。オート・プロバンスの経験を生かしたアドバイスでサポートしたい」と協力を惜しまない姿勢。両市の関係について、「地質という古い歴史から始まった交流がまた地質に戻り、新しい絆を深めるきっかけになるのでは」と期待を高めた。
 
 このほか、医療現場の様子や保護猫の活動にも触れた。グラネ市長は「自然が美しく、産業も発展しているまち。姉妹都市としていい関係を持っていて、若い世代の交流を強くしたいと感じた。オンラインから始め、現地交流させたい」と考えを示した。一行は24日に釜石を発ち、帰途に就いた。