釜石で学ぶ!震災復興の歩み、避難行動 米ミネルバ大の学生 地域課題探り、戦略提案も

避難体験で高台に続く階段を駆け上がるミネルバ大学の学生ら=11月8日
世界の各都市を巡りながら実践的な学びを深める教育に取り組む米・ミネルバ大学(本部・サンフランシスコ)の2年生約50人が11月8日から10日にかけて釜石市を訪問。「災害復興と防災」をテーマに東日本大震災の被災状況や復興まちづくりの過程を学んだ。同市と同大、ミネルバジャパン(東京)の3者で結ぶ包括連携協定によるもの。被災者の体験談を聞いたり避難行動を追体験したり、復興後のまちの課題について関係者への聞き取りも行いながら、防災や観光などの面から市への提言や新たな取り組みのアイデアを残した。
同大は2014年に開校した4年制の大学。キャンパスを持たず、学生は世界の複数の都市に移り住みながら、少人数での議論を中心とするオンライン授業に参加する。現地の企業やNPOなどと協働し、課題解決型の学習も展開。約640人の学生(大学院生を含む)のうち、世界約100カ国からの留学生が85%以上を占めているのも特徴だ。
世界8カ所目となる日本拠点を8月に東京に開設。フィールドワークの場の一つとして釜石市が選ばれ、10月に協定を結んだ。受け入れ先の市や観光地域づくり法人かまいしDMCなどが学びと交流の場を提供すべく準備を進めてきた。

釜石市、ミネルバ大など3者が10月に協定を結んだ
釜石入りしたのは、26カ国の学生とドルトン東京学園高の生徒らの一行。岩手県主催の総合防災訓練が市内で展開された8日、住民参加の避難訓練はクマの出没が相次いでいるため中止となったが、一行はプログラムの一つとして独自に避難訓練を行った。
学生らは引率者の合図で、宿泊先のホテルから近くの高台にある仙寿院(大只越町)に向かった。寺に続く階段を急ぎ足で上って避難。その様子を見つめた芝崎恵応住職は「歩いて坂を上る学生がいた。のんびり歩いていたら助かりません。もし津波が来ていたら、みなさんの3分の1はお亡くなりになっていた」と告げた。

学生らは仙寿院で避難訓練を体験し、映像で震災当時の状況を学んだ=11月8日
本堂に招き入れ、震災の津波襲来時の映像を見せながら講話。津波から命を守る避難行動を意識づけるため継続する「新春韋駄天(いだてん)競走」にも触れ、寺に続く急坂を懸命に駆け上がる市民らの様子も紹介した。
一行はその後、大槌町へ。NTT東日本が企画した防災プログラムでデジタル活用の事例と課題などを考えるワークショップなどに臨んだ。さらに、釜石・鵜住居町に移動し、いのちをつなぐ未来館や祈りのパークを見学。震災時に小中学生がとった避難行動をたどる追体験にも取り組んだ。案内役は同館職員の川崎杏樹さん(29)。当時、釜石東中2年生で、学生は当時の状況を聞きながら、釜石鵜住居復興スタジアムから恋の峠まで約1.6キロの道を歩いた。

震災時に鵜住居地区の子どもたちがとった避難行動を追体験
自然災害が少ないというエストニア出身のレティ・イードラさん(20)は、坂道を走って逃げるのは初めての体験だった。体験者の「リアルなストーリー」から「当時、何を感じていたのか、どんな思いで行動したのか、心に触れられた。小さい頃から自衛的に得られたものがここにはあり、人として学ぶことが多い」と受け止めた。
同年代との交流の時間も。震災の伝承や防災活動に取り組む釜石高校の生徒有志グループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」副代表の高橋美羽さん(2年)は「災害が多い地域で高校生が立ち上がって行動していることを海外の人に伝えられた」とうれしそうに話した。将来、語学を駆使した仕事を視野に入れていて、「英語をもっと勉強し、質問に直接答えられるようにしたい」と、学生から刺激をもらった。

釜石高生から震災の語り部活動や防災の取り組みを聞いた
9日は、かまいしDMCの河東英宜代表取締役や市オープンシティ・プロモーション室の佐々木護室長から復興まちづくりの過程などの説明を聞き、ハード整備を終えた市中心部の街並みを見て回った。海を生かした観光などに取り組む人らとの意見交換も行った。10日は学びの成果を発表。10のグループに分かれ、▽高齢者の避難を助ける乗り物の導入▽防波堤の野外アートギャラリー化―などのアイデア、課題解決策を提言した。

復興まちづくりに関する講話に耳を傾ける学生=11月9日

釜石の未来戦略を提案⁉学びの成果を発表する学生=11月10日

ミネルバ大の学生は多様な考え方に触れながら学びを深め合う
被災者の体験談や都市再生の過程から「生きるために必要なレジリエンス(回復力)を学ぶ場」としての可能性を見いだしたのは、アメリカ人のウォルフガング・サンダーさん(18)。「災害があってもこの地で生き続ける覚悟や、ふるさとを受け継ぐために希望を作り続ける人々に触れた。習慣化された心のあり方や思考に変化をもたらすような体験を提供することは観光振興にもつながるだろう」と想像した。
同じグループの入江颯志さん(20)は福岡県大野城市出身。震災のニュースは記憶するが、「外から見るのと現地で実体験を聞くのではギャップが大きかった。コミュニティーのつながりを大事にし、不屈の精神を持つ人が多いと感じた」と学びを振り返った。印象に残ったのは「つながり人口」という言葉。外部との交流で新たな活力を育み、復興後の持続的成長を導こうとする市の「オープンシティ戦略」に掲げられるもので、「新しいポジティブな考え。発見として持ち帰り、深堀りしてみたい」と感化された。

新たな視点を学び合ったミネルバ大の学生、釜石市の関係者ら
発表を聞いた市関係者から「人口減、高齢化の課題はあっても、災害から命を守る行動の重要性は変わらない。解決につながりそうな提案であり、他の自治体でも使える考え。この話、進めましょう」などと声が上がっていた。学生たちの知見に期待感を示し、次年度以降も受け入れを続けたい考え。学びの場の提供に加え、子どもらとの交流も見込む。
同大学の2年生は1年間、日本で学ぶ。現地学習は釜石市のほか和歌山県田辺市、兵庫県姫路市で行われる。

釜石新聞NewS
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