震災15年― 誓う!「津波時は高台へ」 避難の教訓 新春韋駄天競走で釜石から再発信

第13回新春韋駄天競走。震災後に生まれた小学生も津波避難の教訓を学ぶ
未曽有の被害をもたらした東日本大震災からまもなく15年―。津波で多くの尊い命が奪われた大災害を教訓に、迅速な高台避難を啓発する「新春韋駄天競走」が今年も釜石市で行われた。同市大只越町の日蓮宗仙寿院(芝﨑恵応住職)が主催。2歳から81歳まで計122人が、高台の寺につながる急坂を懸命に駆け上がった。震災の記憶が薄れていく一方で、国内外では自然が猛威をふるう大規模災害が多発。参加者は地震津波以外にも通じる“命を守る行動”の大切さを改めて心に刻んだ。
同寺の節分行事と連携し13回目を迎える韋駄天競走。開催日となった1日は一時、雪がちらつくなど、厳しい寒さとなった。参加者が駆け上がるのは震災時、津波で浸水したエリアから市指定津波避難場所となっている同寺までの286メートル。高低差は約26メートルあり、急坂や急カーブが連続する。スタート前には運営責任者から参加者に「競走はするが、一番の目的は津波避難の練習」との開催趣旨が伝えられた。
年代別に6部門に分かれてスタート。親子の部では幼い子どもの手を引いて高台避難を疑似体験する姿が見られた。小中学生は日頃、運動の機会があるだけに坂道もなんのその。元気にゴールまで走り切った。

小学生以下の子どもが父母と参加する親子の部。手をつないで元気にスタート

ゴールまであと少し。沿道の声援を受けながら仙寿院境内を目指す親子

中高生の部は釜石の硬式野球チームの中学生が多数参加。激しいトップ争いを繰り広げる
一方、大人は…。男女とも先頭では“競走”らしいトップ争いを見せたほか、勢い余って最後の最後に転倒する人も。後続も力の限りを尽くし、それぞれのペースでゴールを目指した。沿道では声援を送ったり、拍手で出迎えたりと参加者を後押し。ゴール近くでは地元の只越虎舞がお囃子(はやし)を響かせて盛り上げた。

女性の部は過去の1位経験者らがトップ争い。余裕の表情で駆け上がる

ゴール前では勢い余って転倒する参加者も…

「きっつー!」。最後の上り坂で顔をゆがめる男性参加者
「大変かなと思ったけど、意外に走れた」と笑顔を見せたのは、釜石市の最年少震災語り部、鵜住居小6年の佐々木智桜さん(11)。3年時に母と研修を受け、「大震災かまいしの伝承者」として語り部活動を始めた。震災の教訓を伝える同行事に「こういう経験をしていれば、津波警報や注意報が出た時にすぐ逃げられる。すごくいいと思う」と共感。「中学生になっても語り部を続け、もっと分かりやすくみんなに伝えていきたい」と伝承への思いを強くした。一緒に参加したのは弟の智琉さん(9)。「楽勝っす!」と余裕の訳は、同小で続けられる「てんでんこマラソン」で3年男子の1位になった自慢の脚力。「いざという時は必ず逃げる。この行事でみんなも覚えていてくれると思う」と話した。

初参加の行事を楽しんだ佐々木智桜(ちさ)さん、智琉(さとる)さん姉弟。津波から命を守る行動を再確認した
昨年から団体参加するのは釜石市国際外語大学校で日本語を学ぶ留学生ら。今年は昨年来日したミャンマー、ネパール出身の1年生男女17人が参加した。釜石に来てから学校の津波避難訓練で震災のことも学んだ学生ら。ミャンマー出身のター トー テイ ザさん(20)は急な坂と厳しい寒さに体力を奪われたようで、「疲れた」と一言。それでも「個人的に練習してきた」という成果を発揮し、男性34歳以下で上位に入る健闘を見せた。同じくミャンマー出身のシュエー ウェー ヤン トゥッさん(20)は「走るのは得意。楽しかった」とにっこり。母国では海のない所にいたため、「津波は怖い。慌てないで避難場所に早く逃げることが大切だと思う」と釜石での学びを脳裏に刻んだ。

釜石市国際外語大学校の留学生も必死に坂を駆け上がった。全員無事完走!

女性の留学生からは笑みも…。津波防災を学ぶとともに釜石生活の思い出を作った

写真上:各部門で1位になった参加者ら。「福○○」で良き年に期待! 同下:今年も只越虎舞が協力。表彰式の前に演舞し、参加者を楽しませるのが恒例
各部門の1位には「福男」「福女」「福親子」の認定書が贈られた。男性34歳以下で1位となった奥州市の団体職員、田代優仁さん(28)は10年ぶり2回目の参加で2回目の「福男」。山田町出身で震災時は中学1年生。家族は無事だったが、津波で自宅が流失し、盛岡市に転居した。韋駄天競走には高校3年生の時に初参加。陸上競技部で鍛えた足で、男性29歳以下(当時の部門)で1位となった。今回は、転職で地元岩手に戻ってきたこともあり、「大船渡の山火事や能登の地震などさまざまな災害が起こる中で、(震災を経験した身として)避難の意識付けを啓発していく立場でありたい」と参加を決めた。「災害はいつどこで何が起こるが分からない。どんな状態でも逃げられるよう、常に意識を持っておかないと。県人のDNAとして受け継いでいきたい」と後世に伝えたい思いを口にした。

10年ぶりの参加で2度目の「福男」となった田代優仁(まさひと)さん(中央)。「いつでも逃げられるように…」と教訓伝承へ思いを強くする

しっかりと手をつなぎ、ゴールを目指す女性参加者。気持ちを一つに一歩一歩前へ…
同行事は兵庫県西宮市、西宮神社の新年開門神事「福男選び」を参考に2014年にスタート。同神社開門神事講社の平尾亮講長(49)が釜石を訪れ、運営に協力する。交通事故の後遺症で右足が不自由ながら、毎回、松葉づえをついて参加者と一緒に坂を駆け上がる。起源は鎌倉時代とされる歴史ある同神事に携わるが、「釜石に来ると、皆さんの熱意に『負けとるやないか』と悔しい思いになる。僕らも負けてられへん!」。西宮市は阪神・淡路大震災の被災地でもあり、両震災の教訓継承に思いを同じくする。

西宮神社開門神事講社の平尾亮講長。誰もが直面する避難への意識を持ってほしいと毎回、この坂を駆け上がる

海の方角に向かって黙とう。この行事の最後に必ず行う震災犠牲者への祈り
来月で東日本大震災から15年となる中、仙寿院の芝﨑住職は「(参加者の)皆さんのように津波のことを考えてくれる人たちは少なくなってきた。被災者がつらい思いからまだ抜けきっていないことも多くの人は忘れてしまっている」と警鐘を鳴らし、「津波はいつくるか分からない。『大震災を忘れてはならない』『身を守るには逃げるしかない』ということを声高に伝えてほしい」と願った。

釜石新聞NewS
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