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浜千鳥 創業100年記念し新地酒「源水・純米大吟醸」発売 米、水の産地大槌でお披露目パーティー

源水のすべてを楽しむパーティーで新地域おこし酒「源水・純米大吟醸」の誕生を祝う関係者ら=三陸花ホテルはまぎく

源水のすべてを楽しむパーティーで新地域おこし酒「源水・純米大吟醸」の誕生を祝う関係者ら=三陸花ホテルはまぎく

 
 釜石市小川町の酒造会社、浜千鳥(新里進社長)は創業100周年を記念した新商品「源水・純米大吟醸(720ミリリットル)」を21日から発売している。同社の酒造りを支える大槌町産酒米“吟ぎんが”と、良質で豊富な湧水で知られる同町源水地区の地下水で仕込んだ「地域おこし酒」の第2弾。発売日、町内のホテルで記念パーティーが開かれ、地域が誇る資源と同社の醸造技術で生まれたこだわりの地酒がお披露目された。
 
 関係者や一般客55人が参加。新里社長は22年前に始まった大槌町での酒米生産、地元発案で3年前から取り組む地域おこし酒「源水」のプロジェクトについて説明。「創業100周年にあたり、地酒メーカーとして『ひとつの柱になるものを』と考え、より品質の高い源水“純米大吟醸”の醸造に至った。皆さんの協力でできた自信作」と新商品を紹介した。
 
 「地域おこし酒 源水の魅力」と題し、関係者4人がトークセッション。古くから町内各地で見られた湧水を「地域おこしの一助に」と考え、酒の仕込み水としての活用を提案した地域商社ソーシャル・ネイチャー・ワークスの藤原朋代表取締役(39)は「住民の生活と密接だった湧水だが、震災で自噴する場所が減ってしまった。今回のプロジェクトで、大槌町の財産である湧水がいかに特別で尊いものかを知ってもらえれば」と期待。浜千鳥の奥村康太郎杜氏(43)は「源水の水はミネラルバランスなどが酵母の活動に適していて、発酵がよく進む。業界でも有名な酒所の水に近い。香りが非常に華やかに出る」と水質の良さを実感。上流の田んぼで生産される酒米との“水つながり”の相性も好要素に挙げた。
 
これまでの取り組みも紹介しながら源水の魅力について語ったトークセッション

これまでの取り組みも紹介しながら源水の魅力について語ったトークセッション

 
良質で豊富な湧水で知られる大槌町の源水川。希少種「淡水型イトヨ」の生息地

良質で豊富な湧水で知られる大槌町の源水川。希少種「淡水型イトヨ」の生息地

 
 新たな地酒の誕生を祝い乾杯。テーブルには2年前に発売した「源水・純米吟醸」、大槌産米の先駆け酒「ゆめほなみ本醸造」なども並び、参加者が飲み比べをしながら味わいを確かめた。
 
 宮古市の渡辺千津子さん(80)は“大吟醸”の味わいに「これはヒットしそう。さすが浜千鳥さん。いいのを出しましたね」と絶賛。地域資源に着目した取り組みにも触れ、「苦労もあったと思うが、若い人たちが地域のために積極的に頑張っているのは素晴らしい」と感心した。採水地の地元、源水自治会の佐藤孝夫副会長(51)は「昔から町民にはなじみの場所だったが、そこの水で酒が造られるとは思いも寄らなかった。これを機に全国に『源水』の名が広まっていけば」と願った。
 
 「源水・純米大吟醸」の“船出”を祝うパフォーマンス。商品を小舟に載せて会場を一周

「源水・純米大吟醸」の“船出”を祝うパフォーマンス。商品を小舟に載せて会場を一周

 
参加者全員で乾杯!

参加者全員で乾杯!

 
 プロジェクトでは、商品の売り上げの一部が源水地区の水辺環境保全、子どもたちの自然体験学習などに役立てられる。同パーティーで新里社長は、源水・純米吟醸の2022年11月の発売開始から本年3月までの売り上げの一部(1.8リットル=1本につき40円、720ミリリットル=同20円)計12万7780円を、NPO法人おおつちのあそびの大場理幹事務局長(理事)に手渡した。同町の東京大大気海洋研究所の施設で学ぶ院生でもある大場事務局長(27)は、源水川に生息する絶滅危惧種「淡水型イトヨ」の研究にも関わっていて、「市街地近くにこれだけの湧水地があるのは珍しい。生物進化の研究対象にもなっていて、世界に誇れる場所。地元の人にもっと知ってもらえるような活動をしたい」と意気込む。
 
浜千鳥の新里進社長(左)がNPO法人おおつちのあそびの大場理幹事務局長に寄付金を贈呈

浜千鳥の新里進社長(左)がNPO法人おおつちのあそびの大場理幹事務局長に寄付金を贈呈

 
 地酒「源水」は純米吟醸、純米大吟醸ともに、源水地区の地下40メートルの深井戸からくみ上げた水、大槌酒米研究会(佐々木重吾会長)栽培の吟ぎんがを原料に、本県オリジナルの酵母、こうじ菌で仕込む。大吟醸は精米歩合50%まで高めたことで、より洗練された味に仕上がり、バナナのような果実の香り、優しい甘みが感じられるという。奥村杜氏は「発酵が順調に進むことで適度な日数で酒をしぼることができ、雑味も抑えられる。大吟醸はボトルデザインもクール。今までにない当社のラインアップになるのではないか」と話す。
 
初めて「源水・純米大吟醸」を味わう参加者。お味は?

初めて「源水・純米大吟醸」を味わう参加者。お味は?

 
福を呼ぶにぎやかなアトラクションもパーティーを盛り上げた

福を呼ぶにぎやかなアトラクションもパーティーを盛り上げた

 
 プロジェクトの調整役を担うソーシャル・ネイチャー・ワークスの藤原代表は「地域おこし酒はハレの日がコンセプト。大事な人への贈り物、自分への特別なご褒美にもぴったり」と新商品の誕生を歓迎。今後は「源水川をより身近に感じられるようなしくみづくりにも取り組んでいきたい」と夢を描く。

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存在感増す!?釜石港 国際コンテナ定期航路が新設 週3便態勢で取扱量、回復期待

釜石港に新たな国際定期航路が開設され、初入港したコンテナ船

釜石港に新たな国際定期航路が開設され、初入港したコンテナ船

 
 釜石市の釜石港に22日、京浜港(東京・神奈川)を経由して海外へコンテナを輸送する「国際フィーダーコンテナ定期航路」が新たに開設された。運航船社は「横浜コンテナライン」(本社・横浜市)。中国海運大手「COSCO(コスコ)」の日本総代理店「コスコシッピングラインズジャパン」(本社・東京)が輸出入サービスで利用する。今回の新設により、釜石港には外貿コンテナ航路週1便、国際フィーダー航路週2便の計週3便の定期航路が就航。トラック運転手の残業規制強化による「2024年問題」で海上輸送への転換が見込まれており、関係者らはコンテナ取扱量の増大と港の存在感アップに期待を膨らませる。
 
 最初のコンテナ船「公龍丸」(749トン)が午前9時15分ごろ、ガントリークレーンが設置された釜石港公共ふ頭に着岸した。全長97メートル、全幅13.5メートルで、189TEU(20フィートコンテナ換算)を積載できる。今回は、中国で製造した量販雑貨や肥料の原料となる鉱石類が入ったコンテナ5個を陸揚げ。欧米向けに輸出するパルプ、除雪機などを収納したコンテナ8個を積み込んだ。
 
 新航路は苫小牧港(北海道苫小牧市)と横浜港(横浜市)を結ぶコスコの既存フィーダー(支線)航路に釜石港を加えた形で運航される。八戸を経て釜石には毎週土曜日に寄港。仙台を経て横浜港で貨物を積み替え、コスコが拠点とする京浜港から世界各国へ運ばれる。
 
釜石港公共ふ頭で国際定期航路の開設記念式典が行われた

釜石港公共ふ頭で国際定期航路の開設記念式典が行われた

 
 同日、開設を記念した式典が釜石港公共ふ頭であり、関係者約50人が出席した。小野共市長(釜石港湾振興協議会会長)は「堅調に推移していたコンテナ取扱量が新型コロナウイルス禍の影響で乱高下する事態に直面している。先行き不透明な社会経済情勢、2024年問題が顕在化する中、市や岩手県の経済発展の礎になると確信している」とあいさつ。関係者ら12人がテープカットして祝った。
 
荷主ら関係者を前に小野共市長(左上写真)らがあいさつした

荷主ら関係者を前に小野共市長(左上写真)らがあいさつした

 
釜石港に入港したコンテナ船の前で関係者がテープカットした

釜石港に入港したコンテナ船の前で関係者がテープカットした

 
 コスコシッピングラインズジャパンの喜多正樹取締役は「2024年問題への対応、脱炭素に向けて海上輸送へかじを切る荷主が増える中、釜石港と国内外の港をつなぐ我々のサービスに可能性を感じている。岩手は盛岡からの鉄道輸送サービスという環境もあり、十二分に生かすことで荷主の期待に応えることができる」と強調。横浜コンテナラインの菱沼昌祐営業部長は「6月はジューンブライド、釜石港と結ばれることになり、感無量。釜石、コスコ、横浜港、弊社がワンチームとなって盛り上げていきたい」と意欲を示した。
 
記念品の盾を手にする喜多正樹取締役(右)と菱沼昌祐部長

記念品の盾を手にする喜多正樹取締役(右)と菱沼昌祐部長

 
 釜石港は今年1月に開港90周年を迎えた。東日本大震災以降、県内に工場がある自動車メーカーの完成車物流は休止されたままだが、新たにコンテナ物流に活路を見いだし、誘致を進めた。11年7月に井本商運(神戸市)が香港の海運会社と連携して国際フィーダー航路を開設。17年11月には韓国船社による中国の主要港と韓国・釜山を結ぶ外貿コンテナ定期航路が新設された。新航路の開設は7年ぶり。今回はコスコ側からの提案を受け、市側も荷主探しに奔走した。
 
 同港のコンテナ取扱量は19年の9292TEUが最多。コロナ禍、中国による海産物の禁輸措置などの影響があり、23年は6444TEUに減った。今年は5月末現在で3168TEUとなっていて、今回の国際定期航路就航でさらに取扱量の上積みが見込まれる。

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同じ釜の飯!?釜石サクラマス 岩手大の学生、レシピ考案中 学食提供めざし“浜の母ちゃん”とタッグ

サクラマスを使った料理作りに取り組む岩手大釜石キャンパスの学生ら

サクラマスを使った料理作りに取り組む岩手大釜石キャンパスの学生ら

 
 岩手大釜石キャンパスの学生が、地元の漁協女性部の手を借り、釜石湾で養殖されたサクラマスを使ったレシピづくりに取り組んでいる。サクラマスの認知度を高めて販路拡大やブランド化の進展を図るのが狙い。盛岡市上田のキャンパスにある学生食堂で提供するのが目標で、学生が手を出したくなるメニューや量、価格帯など試行錯誤中だ。
 
 レシピづくりを進めるのは、釜石市平田のキャンパスで学ぶ岩大農学部食料生産環境学科水産システム学コース4年の阿部美幸さんと工藤りおさん。2020年度から継続する「浜のお母さんに学ぶ郷土料理教室」や、市を挙げてブランド化に取り組む「釜石はまゆりサクラマス」を合わせた活動を先輩から引き継ぎ、実現させようと奮闘する。
 
 協力するのは、釜石湾漁業協同組合平田女性部(高澤友子部長、部員約30人)。釜石キャンパス特任専門職員の齋藤孝信さん(62)が調整役を担う。今年3月に上田キャンパスの学食で担当者から実現の可能性や課題を聞き取り、5月の上旬からメニューづくりを本格化させた。
 
漁協女性部メンバー(左)の手を借りて試作に取り組む

漁協女性部メンバー(左)の手を借りて試作に取り組む

 
 6品考案し、レシピ化。15日には魚河岸の魚河岸テラスで試作し、学生に試食してもらった。この日のメニューは、火を通したサクラマスの身をほぐしカブと合わせたサラダ、みそや塩こうじに漬けた焼き物、しょうゆとみりんで下味をつけて揚げたフライの3品。学生たちは「一週間分の魚を食べた気分」と喜びつつ、「焼き物系はパサパサ。改善した方がいい」「サラダは酸味がいいアクセント。でも生臭さと混じるのを不快に感じる人もいるかも」と率直な感想を伝えた。一番人気はフライ。「外がサクサク、中はふっくらで食感がいい」と上々の評価だった。
 
焼き物やサラダなどを試作し、仲間に味わってもらった

焼き物やサラダなどを試作し、仲間に味わってもらった

 
 同じキャンパスで学ぶ仲間の声にうなずきながら耳を傾けた阿部さんと工藤さん。「机の上でしか考えていなかったが、料理として再現することで、学食で提供するイメージができた」と手応えを感じた。活動を後押しする“浜の母ちゃん”、高澤部長と中谷地万惠子副部長(ともに71)は「若い人たちに魚をいっぱい食べてほしいし、料理も覚えてほしい」と目を細めていた。
 
 今回使用したサクラマスは昨年水揚げされたものを市内の加工業者が急速冷凍した半身のフィレ。60~80グラムにそれぞれ切り分け、1食分のサイズ、原価なども考えながら調理した。20日にも残り3品の試作、試食の場を設定。食後のアンケートを用意し、味や量、見た目のほか、「単品だったら、いくら出す?」と問いかけていて、学生の反応を参考にしながら献立を絞り込む。
 
スマホで撮影しながら記録を残しつつ作業を進める

スマホで撮影しながら記録を残しつつ作業を進める

 
 「一切れのサイズは?」とイメージを膨らませながら調理

「一切れのサイズは?」とイメージを膨らませながら調理

 
「同じ釜の飯」を味わってもらおうと試行錯誤を続けるメンバーたち

「同じ釜の飯」を味わってもらおうと試行錯誤を続けるメンバーたち

 
 阿部さん、工藤さんはこの活動に「同じ釜の旬を食う」と名を付ける。24年度の同大学生支援事業「NEXT STEP工房」(学内基金)を活用したい考えで、応募に向け準備。「実現させて、釜石サクラマスの名とおいしさを多くの人たちに知ってもらいたい」と腕をまくる。

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釜石の養殖サクラマスとギンザケ 国際認証「ASC」取得 泉澤水産、持続可能な漁業へ環境配慮

ASC認証を受けた泉澤水産のいけすを船上から見学する関係者

ASC認証を受けた泉澤水産のいけすを船上から見学する関係者

 
 釜石湾で海面養殖を手掛ける泉澤水産(岩手県釜石市、泉澤宏代表取締役)の養殖場で育てられるサクラマスとギンザケが、自然・地域環境に配慮して生産された水産物であることを示す国際認証「ASC認証」を取得した。認証を受けたのは県内では初めてで、国内のサケマス養殖業者としては6件目。商用ベースのサクラマスでは世界初の事例だという。10日に認証書の授与式があり、泉澤代表取締役は「販路拡大や輸出も視野に入れて取り組みたい」と腕をまくる。
 
 同社は1933年創業。主力の定置網漁業でサケの記録的な不漁が続き、供給不足を補う手段として、市や岩手大などとコンソーシアムを構成して2020年11月から海面養殖を試験的に開始した。魚種は日本の在来種で、釜石地方で「ママス」としてなじみのあるサクラマス。翌年には稚魚の陸上養殖も始めた。22年に事業化。合わせて、ギンザケの試験養殖も開始し、今年事業化した。今期は、直径40メートルのいけすを計4基に倍増。2キロほどに成長したサクラマス200トン、ギンザケ180トンの出荷を見込む。
 
「asc認証」ののぼり旗を示し、展望を語る泉澤宏代表取締役

「asc認証」ののぼり旗を示し、展望を語る泉澤宏代表取締役

 
 ASC認証制度は、オランダに本部を置く国際的な非営利団体「水産養殖管理協議会(ASC)」が運営。認証取得には水資源や生態系の保全、餌原料となる天然魚の使用率、資源の保護など環境面だけでなく、養殖場の適切な労働環境や人権など社会面にも配慮を求め、細やかで厳しい審査基準を設ける。
 
 認証に向けて同社は、養殖場の泥を採取して水質検査をしたり、食べ残しがないよう給餌方法を見直したり、社員向けに養殖に関する勉強会を開くなど対応。さまざまある基準をクリアし、安全な環境と人による「責任ある養殖事業」を展開していると認められた。
 
認証ラベルには「責任ある養殖により生産された水産物」と文字が入る

認証ラベルには「責任ある養殖により生産された水産物」と文字が入る

 
 認証水産物には「ASCラベル」を付ける。適正に管理された養殖場で生産された水産物の保証になり、消費者へのメッセージ性も高まる。認証の有効期限は4月3日から3年間。継続するためのハードルも高く、認証機関による毎年の定期監査に加えて3年に1度、認証更新のための監査をクリアする必要がある。
 
認証書を手にする泉澤代表取締役(左から4人目)ら

認証書を手にする泉澤代表取締役(左から4人目)ら

 
 授与式は釜石・東前町の同社で行われ、ASCジャパンの山本光治ゼネラルマネジャーが「養殖では環境負荷が必ず起こってしまうが、環境汚染を最小限に抑える部分で改善が図られ、労働者の権利も守られていた。地域の一員として盛り上げていく姿勢も見られた」などと説明。審査に携わった認証機関アミタ大阪オフィスの纐纈(こうけつ)渉チームマネジャーが泉澤代表取締役に認証書を手渡した。
 
 先立って、養殖場の見学や試食会を実施。取引業者ら関係者約30人が参加した。刺し身などを味わい、「サクラマスは身の色が薄いが、上品な脂で中高年が好む。焼いても生でもよく、使っていきたい」と上々の声。「釜石サクラマス」「釜石サーモン」として広く認知されることへの期待も大きかった。
 
試食会で提供されたサクラマスとギンザケに手を伸ばす参加者

試食会で提供されたサクラマスとギンザケに手を伸ばす参加者

 
 今年の水揚げは間もなく始まる。泉澤代表取締役は「安全安心の基準をクリアすることは世界で必要になってきている。縮んでいたマーケットに、持続可能な漁業で踏み込んでいければ。安定供給し、漁業者の賃金と地位向上にも努めていく」と見据えた。

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賃上げ拡充、職場環境改善、平和実現…へ 5/1「メーデー」 釜石地区の労働者ら2集会で訴え

釜石市内で開かれたメーデー集会(写真上:連合岩手系、写真下:いわて労連系)

釜石市内で開かれたメーデー集会(写真上:連合岩手系、写真下:いわて労連系)

 
 メーデーの1日、釜石市内ではいわて労連系と連合岩手系の第95回地区集会がそれぞれ開かれた。円安、物価上昇、平和を脅かす世界情勢で暮らしの不安が増大する中、非正規を含む労働者の賃上げ、長時間勤務やハラスメントのない労働環境の実現などを目指し、声を上げた。集会後は中心市街地でデモ行進も行い、要求実現への強い思いをアピールした。
 
釜石地方労働組合連合会 第95回メーデー釜石地区集会=1日午前

釜石地方労働組合連合会 第95回メーデー釜石地区集会=1日午前

 
 釜石地方労働組合連合会のメーデー集会は1日午前、大町の市民ホールTETTO前広場で行われた。釜石、大槌、遠野3市町の医療、自治体の職員労組、年金者組合など8団体から約40人が参加した。
 
 木下大輝実行委員長(全医労釜石支部書記長)は「働く人たちを取り巻く状況は悪化の一途をたどっている。物価高、終わりの見えない戦争…。今日集まった全員で、より良い社会をつくるために声を上げていきたい」とあいさつ。来賓の日本共産党岩手県東部地区委員会の深澤寿郎委員長は昨年、県内外で行われた医療労組のストライキについて「戦ってこそ権利が守られる」、釜石市平和委員会の岩鼻美奈子会長は2015年から釜石駅前で継続する反戦行動、市内の医療機能低下などに触れ、「現役労働者が力をつけていかないと時代は変わらない」と述べた。
 
 県医労釜石病院支部、釜石市職労など4団体が連帯の決意表明。物価上昇を上回る大幅賃上げと全国最下位の本県最低賃金の抜本的な引き上げ、長時間労働や格差の是正、軍事費増額や殺傷兵器輸出解禁など軍拡への反対―を求め、団結するメーデー宣言を採択した。参加者は横断幕やプラカードを掲げ、大町から大渡町をデモ行進した。
 
集会ではプラカードコンテストも実施。3団体に賞が贈られた

集会ではプラカードコンテストも実施。3団体に賞が贈られた

 
デモ行進し、生活改善や平和実現を訴える釜石地方労連集会の参加者

デモ行進し、生活改善や平和実現を訴える釜石地方労連集会の参加者

 
 木下実行委員長は「賃上げも物価高には追い付いていない状況。このまま労働者の負担が増え続けると子育て世代はさらに厳しい。本県では医療現場の人手不足も深刻。働く現役世代の訴えをしっかり届けなければ」と話した。
 
連合岩手釜石・遠野地域協議会 第95回釜石地区メーデー集会=1日夕

連合岩手釜石・遠野地域協議会 第95回釜石地区メーデー集会=1日夕

 
 連合岩手釜石・遠野地域協議会のメーデー集会は1日夕、大町の釜石PITで開かれ、県職労、岩教組、民間企業各労組など15組合から約90人が参加した。小島安友実行委員長(日本製鉄釜石労組)は「今年の春闘では、連合の中間集計で5.77%の賃上げがあったとされる。加えて、(4月から)医師や建設、運送業従事者に対しても残業(時間外労働)規制が始まった。深刻な人手不足で事業継続さえ危ぶまれる中で、人が辞めないような働き方を進める必要がある。より良い暮らしを求めるため、われわれは声を上げ続けていかねばならない」とあいさつした。
 
 来賓が紹介され、代表して大久保隆規県議(釜石選挙区)があいさつ。「自治権の7割は国が握っているのが実態。地域だけの努力では大きな課題解決に向かわないのではないか」と、政治を動かす必要性を示した。
 
 今春闘の賃上げの勢いを中小企業の組合などに波及させること、働く者・生活者の立場に立った政治勢力の結集・拡大を目指すこと、石川県能登半島地震の早期復旧・復興への被災地支援活動―などを盛り込んだメーデー宣言を採択。団結「ガンバロウ」を三唱し結束を図った。会場ではお楽しみ抽選会、被災地支援の募金も行われた。
 
決起集会では参加15組合が決意表明を行った

決起集会では参加15組合が決意表明を行った

 
組合旗や風船を手に大町周辺をパレードする連合釜石・遠野地域協集会の参加者

組合旗や風船を手に大町周辺をパレードする連合釜石・遠野地域協集会の参加者

 
 決起集会で各労組が決意表明を行い、約7年ぶりにパレード(デモ行進)も実施。全ての労働者の処遇改善、ジェンダー平等の実現、暮らしの底上げ強化など安心社会の実現へシュプレヒコールを繰り返した。

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養鶏オヤマ 釜石に生産拠点「リアスファーム」完成 4月中に本格稼働 地の利生かす

完成した養鶏施設を見学する釜石市の関係者ら

完成した養鶏施設を見学する釜石市の関係者ら

 
 一関市の鶏肉生産加工販売業オヤマ(小山征男代表取締役)が釜石市栗林町に建設を進めていた養鶏農場「リアスファーム」が完成し、22日に現地でしゅん工式が行われた。8つの鶏舎で16万羽を飼育する釜石市内初の大型養鶏場。餌の仕入れ先が近く、配送コストの削減が見込まれるといった地の利を生かす。地元を中心に雇用した従業員6人体制で、4月中に本格稼働。1次産業の振興、雇用拡大が期待される。
 
釜石市栗林町に整備された養鶏農場「リアスファーム」の空撮写真

釜石市栗林町に整備された養鶏農場「リアスファーム」の空撮写真

 
 リアスファームは、オヤマグループのオヤマファーム(小山雅也代表取締役)が運営する。旧養豚場の跡地約4万2000平方メートルの敷地に鶏舎8棟(面積計9740平方メートル)を整備。鶏ふん倉庫、灰倉庫、管理棟、排水処理施設など付属施設(床面積計923平方メートル)も建てた。事業費は約13億円。
 
 鶏舎1棟当たり2万羽を飼育し、成長した鶏を一関市の工場に輸送して処理する。飼育期間は45~48日ほどで、年間最大88万羽を出荷する計画。鶏の出荷時期には臨時の雇用も想定する。
 
防疫対策の車両消毒ゲートを備え、施設内に入る車両を制限する

防疫対策の車両消毒ゲートを備え、施設内に入る車両を制限する

 
 オヤマは「いわいどり」「奥の都どり」などの鶏肉とその加工品を「安全、安心、健康」をキーワードに、生産・飼育、処理、加工、流通、販売の一貫システムで供給する。国産の鶏肉市場が拡大する中、鶏肉の処理能力が現状の2倍以上となる新工場を一関市内に建設中。生産量の増加、事業規模の拡大を視野に、餌の仕入れ先が立地する釜石に供給拠点となる農場新設を決めた。2021年夏に釜石市と立地協定を締結。22年秋に建設工事に着手し、整備を進めていた。
 
 しゅん工式には関係者ら約70人が参加し、神前に玉串をささげ、完成を祝った。式後に施設見学があり、鶏舎などを案内。鶏ふんを鶏舎の暖房燃料として活用したり、鶏ふんを燃やして肥料をつくるバイオマスボイラー室も備えるなど、環境に配慮した循環型の生産体制を取り入れていることを説明した。
 
鶏舎、鶏ふん倉庫などを見学。農場で使う機械の説明もあった

鶏舎、鶏ふん倉庫などを見学。農場で使う機械の説明もあった

 
施設内を確認できるモニターを備えた管理棟なども見て回った

施設内を確認できるモニターを備えた管理棟なども見て回った

 
 「地の利がある」とオヤマファームの小山代表取締役。餌の供給拠点が近いため人件費を含む配送コスト削減が見込まれ、三陸道や釜石道の整備で一関の工場への輸送時間が短縮されるのもメリットだとする。間もなく稼働する釜石初の大型養鶏場は、オヤマの直営農場として一関を飛び出しての事業展開となり、「大きな意味がある」と強調。国内向けの生産、販売量を増やす一方、将来的には国外市場への輸出増も視野に入れる。こうした展開には地元釜石の協力も欠かせないとし、「安心できる事業を行っていくので、見守ってほしい」と求めた。
 
しゅん工式であいさつするオヤマファームの小山雅也代表取締役

しゅん工式であいさつするオヤマファームの小山雅也代表取締役

 
 同日、港町の陸中海岸グランドホテルで祝賀会を開催。会場では、市とオヤマによる環境保全協定の調印式もあり、同社は農場の操業にあたり水質汚濁などの公害防止に取り組み、地域住民の健康保護、生活や自然環境の保全に貢献する。

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スマホでトライ!確定申告 ラグビー・釜石SW桜庭吉彦さん、模擬体験…「分かりやすい」

スマートフォンを使った確定申告を模擬体験する桜庭吉彦さん

スマートフォンを使った確定申告を模擬体験する桜庭吉彦さん

 
 2023年分の確定申告が2月16日に始まる。これを前に、釜石税務署(石亀博文署長)は1月30日、スマートフォンを使った電子申告・納税システム「e-Tax(イータックス)」のPRイベントを実施。地元ラグビーチーム「日本製鉄釜石シーウェイブス(SW)」ゼネラルマネジャーの桜庭吉彦さん(57)が申告を模擬体験した。
 
 釜石市小佐野町の同署が会場。桜庭さんは税務署員のサポートを受けながら、給与所得者が医療費の控除を申告する想定のスマホ申告を体験した。用意されたスマホで二次元コードを読み取り、入力を開始。源泉徴収票をスマホカメラで読み取ると、金額などのデータが自動入力され、10分ほどで申告書を完成させた。
 
源泉徴収票をスマホカメラで読み取り

源泉徴収票をスマホカメラで読み取り

 
 桜庭さんは「とっつきにくいイメージがあったが、スマホを活用することで身近に感じた。分かりやすく、ストレスなくできた」と感想。スマホに不慣れな高齢者にはサポートが必要だと感じたようだったが、「確定申告はスマホでトライ!!」を合言葉に、「ぜひチャレンジしてみて」とガッツポーズを決めた。
 
「確定申告はスマホでトライ」を合言葉にポーズを決めてPR

「確定申告はスマホでトライ」を合言葉にポーズを決めてPR

 
 会社員や年金受給者の多くは申告の必要はないが、収入が複数あり、その所得が20万円以上なら申告義務が生じる。混雑する税務署に行かずに確定申告ができるのがスマホ申告のメリット。パソコンでも、検索欄に国税庁の「確定申告書等作成コーナー」と入れ、サイトにアクセスすると同様の流れで申告ができる。源泉徴収票の項目が自動入力される機能は、マイナンバーカードの利用と専用サイト「マイナポータル」と連携すると可能になる。確定申告期間中は24時間利用でき、自宅など場所を選ばず、「いつでもどこでも」できる手軽さもポイントだ。
 
 石亀署長も「システムを使った申告にトライしてほしい」と呼びかける。加えて、国や県、市町の税金や公的サービス利用料の「キャッシュレス納付」もアピール。こちらもe-Taxや地方税ポータルシステム「eLTAX(エルタックス)」による簡単な操作と、口座振替やスマホ決済などを利用できるという。
 
釜石税務署ではスマホ申告を呼びかけている

釜石税務署ではスマホ申告を呼びかけている

 
 仙台国税局の管内(東北6県)で、e-Taxを使って自宅から22年分の所得税などの申告書を本人が提出したのは25万6000人。前年から約1.4倍に増え、税務署の会場で提出した人の数を初めて上回ったという。特に、パソコンではなくスマホを使った申告は前年に比べ、約1.8倍の11万5000人だった。
 
 今年の所得税の確定申告の期間は3月15日まで。e-Taxによる申告は、既に受け付けている。

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英国の産業革命 日本との違いは? 小野寺鉄歴名誉館長が講演/館内で18日まで「餅鐵の刃展」

「イギリスの産業革命-日本との差異」と題し講演した鉄の歴史館の小野寺英輝名誉館長(右)

「イギリスの産業革命-日本との差異」と題し講演した鉄の歴史館の小野寺英輝名誉館長(右)

 
 釜石市大平町の鉄の歴史館で2日、小野寺英輝名誉館長(岩手大理工学部准教授)の講演会「イギリスの産業革命-日本との差異」が開かれた。鉄の記念日(12月1日)にちなんだ鉄の週間行事の一環。世界遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産・橋野鉄鉱山を有する同市の市民らが、日本より100年も前に大量生産のための技術開発、機械化が進んだ英国の歴史を学んだ。
 
 英国の産業革命は18世紀半ばから後半。インドの植民地経営を背景に発達した綿工業が起点とされる。1733年に機織り機が導入されると糸の供給が不足するようになり、「ローラー紡績機」が登場。人の指でやっていた糸をつむぐ作業が機械化される。後に全自動の「シャトル式力織機」が発明され、紡績と織布の不均衡が解消。英国の繊維工業が急速に発展していく。
 
 機械の動力も変化。水車を回して得る水力から蒸気動力になると、工場立地も川の上流域から下流域へ移動。蒸気動力が主流になると川沿いの必要がなくなり、街なかの立地が可能になった。英国には産業革命に関わる繊維工業の世界遺産が3つあり、工場の近代化だけでなく、社員住宅や病院、工場の利益を労働者に還元する生活協同組合の基礎構築など労働環境の改善も評価されている。
 
英国の産業革命の核となった繊維工業発展の歴史を説明した

英国の産業革命の核となった繊維工業発展の歴史を説明した

 
 もう一つの革命は、機械の材質が木材から金属に転換されていったこと。世界初の高炉は1707年、英国のエイブラハム・ダービーが築いたコークス炉で、そこで造られた鉄で79年、世界最初の鉄橋「アイアンブリッジ」が建設された。ダービーによって鉄の大量生産技術が確立すると、輸送手段が必要になった。そこで開発されたのが鉄道。1802年、リチャード・トレビシックが世界初の蒸気機関車を発明。25年には英国内で炭坑から石炭を運ぶための産業用鉄道が開通する。
 
 小野寺名誉館長は英国の産業革命について「繊維産業で人間の能力を超える生産力をつくった。民間の利潤追求から始まったもので、下からの近代化といえる。一般向け商品の大量生産、大量消費を可能にした」と説明。これに対し、日本の産業革命は「製鉄産業から始まった。江戸期に植民地化抑止(列強への対抗)のために始まり、上からの近代化といえる。日本の鉄は非西欧社会で唯一の自力近代化成功の原動力になった」とし、両国の違いを示した。
 
鉄の週間にちなんだ講演会。市民が学びを深める貴重な機会

鉄の週間にちなんだ講演会。市民が学びを深める貴重な機会

 

鉄の週間企画展 若い世代も注目の「刀剣」にスポット当て18日まで開催

 
鉄の歴史館で18日まで開催される企画展「餅鐵の刃展」

鉄の歴史館で18日まで開催される企画展「餅鐵の刃展」

 
 鉄の歴史館2階の特別展示室では今、鉄の週間の企画展示として「餅鐵の刃展」を開催している。1850年代後半から80年代前半までの「餅鉄」「岩鉄」銘のある刀剣やつばを展示。盛岡藩お抱え刀工の銘がある刀剣は、刻まれた年代が釜石の大橋、橋野両鉄鉱山で高炉が稼働していた時期とほぼ重なるため、釜石の銑鉄を素材に作られたものと考えられる。
 
 県立博物館、花巻市博物館、個人の収集家などが収蔵する刀剣13振り、つば4点を展示。盛岡藩の刀工のほか、徳川家御用鍛冶で多くの門人を育成した石堂是一、大阪で長く作刀を続け明治天皇の目にも留まった月山貞一の作もある。釜石市指定文化財となっている、栗林の刀工・神清照の脇差し(鉄の歴史館蔵)も。
 
江戸の刀工として名高い石堂是一の作品は多くの人を魅了

江戸の刀工として名高い石堂是一の作品は多くの人を魅了

 
釜石・栗林の神清照が作った脇差し(市指定文化財)

釜石・栗林の神清照が作った脇差し(市指定文化財)

 
 通常、刀剣に「餅鉄」「岩鉄」などの素材銘が刻まれることはないが、展示品にはなぜ刻まれているのか?森一欽館長補佐は「これらの刀剣は盛岡藩が作らせたもの。那珂湊(現茨城県ひたちなか市)反射炉の閉鎖で岩鉄の供給先が閉ざされたため、藩が刀剣作りを奨励した。素材銘を入れたのは良質な鉄を世に知らしめる方策の一つだったのではないか」と推測する。
 
 会場では釜石の鉱山で見られるさまざまな鉱石や、磁鉄鉱が河川下流に流されていくうちに丸みを帯びた形になる餅鉄(鉄分約70%)も公開。磁石が引き寄せられる体験や、持ち上げることで見た目以上の重さを体感できる。
 
鉄含有率が70%の円礫「餅鉄」。橋野鉄鉱山では住民が持ち込んだ餅鉄を買い取っていた

鉄含有率が70%の円礫「餅鉄」。橋野鉄鉱山では住民が持ち込んだ餅鉄を買い取っていた

 
 甲子中1年の林野黎さんはゲームやアニメで刀剣に興味を持ち、企画展に足を運んだ。「実物はとてもきれい。刃文もしっかり出ていて感動。見られてうれしい」と大喜び。「刀鍛冶になりたい」と憧れを抱いた。
 
 森館長補佐によると、今回の企画展開催にあたり、高炉銑鉄を素材とする刀剣類を確認するため、幕末から明治の「餅鉄」「岩鉄」及び、それに近い添え銘のある刀剣を集成したところ、24刀工、115振りを確認できたという。
 
 同企画展は18日まで開催。同館の開館時間は午前9時から午後5時まで(最終入館午後4時)。火曜日休館。
 
「餅鉄」の銘が刻まれた月山貞一作の刀

「餅鉄」の銘が刻まれた月山貞一作の刀

 
約1億2千万年前、白亜紀のマグマの活動で生成されたさまざまな鉱石も展示

約1億2千万年前、白亜紀のマグマの活動で生成されたさまざまな鉱石も展示

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釜石は鉄の街「どうして?」 郷土の歴史学ぶ子どもたち、成果発表 関連行事も続々

釜石の歴史に触れる鉄の学習発表会

釜石の歴史に触れる鉄の学習発表会

 
 釜石市の児童・生徒による鉄の学習発表会(鉄のふるさと釜石創造事業実行委員会主催)は11月25日、大町の釜石PITで開かれ、2校が史跡見学や鉄づくり体験で得た学びを紹介した。市では「鉄の記念日」(12月1日)の前後1週間を「鉄の週間」として各種イベントを催しており、発表会もその一つ。関係者は「子どもだけでなく、大人も地域の歴史に触れ、学び続けるまちに」と願う。
 
 鉄の記念日は、近代製鉄の始まりを記念する日。盛岡藩士の大島高任が安政4(1857)年12月1日、釜石市甲子町大橋に建設した洋式高炉で日本初の連続出銑を成功させたことにちなむ。
 
学びから得た地域の魅力を伝える双葉小児童

学びから得た地域の魅力を伝える双葉小児童

 
 双葉小は4年生の代表5人が発表。近代製鉄発祥の地・大橋地区にある釜石鉱山の坑道見学や旧釜石鉱山事務所での鉱石採取体験などを通して「鉄の街釜石」に触れた。驚いたこととして挙げたのは、大橋地区に学校があったこと。多い時には1200人の子どもたちが通ったといい、「双葉小の9倍くらい。ここだけで生活ができた」と思いをはせた。
 
 鉱石の標本づくりにも挑戦。石の種類、鉄鉱石ができる仕組みなどを学び、「釜石を発展させた鉱石たちを宝物として大切にしたい」とまとめた。現在の釜石鉱山で製造されるナチュラルミネラルウォーター「仙人秘水」が印象に残ったのは磯﨑雄太君。坑道の中の岩盤を40年かけてつたってくるこの湧き水は「僕らが生まれる前のもの。魅力的。いろんな良いところをもっと伝えたい」と胸を張った。
 
「仙人秘水は常温の方がおいしいそうです」と豆知識も

「仙人秘水は常温の方がおいしいそうです」と豆知識も

 
 釜石東中の1年生20人は、同事務所で行った「たたら製鉄」実習の様子を寸劇で紹介した。大島高任は西洋の高炉設計図を頼りに釜石で製鉄を進めたといい、生徒たちも同様の手法で悪戦苦闘しながら築炉。木炭の小割作業など準備の大変さ、火入れの熱さ、鉄の混合物(ケラ)を得られるかといった不安も見せた。この活動で学んだのは、先人たちの偉大さや仲間と協力する大切さ。「失敗を恐れず、いろんなことにチャレンジし続ける」と声をそろえた。鈴木星愛(せな)さんは「この経験を生かして部活を頑張りたい」とうなずいた。
 
釜石東中の生徒は鉄づくり体験の様子を再現

釜石東中の生徒は鉄づくり体験の様子を再現

 
子どもたちの学びにじっと耳を傾けた市民ら

子どもたちの学びにじっと耳を傾けた市民ら

 
 高橋勝教育長が「堂々とした発表に驚いた。当時の人たちの苦労や思いを知り、自分たちに置き換え、考えることが学びになる。知る楽しさ、感動、気づきを大切にしてほしい」と講評。自身も今回の発表で発見があったと明かし、「大人も学んでいかなければ」と子どもたちからの刺激を歓迎した。
 
 同事務所が国登録有形文化財(建造物)になってから今年で10周年となるのを記念し企画したフォトコンテストの結果発表もあった。釜石鉱山をテーマに7月中旬から10月末まで募集し、鉄鉱石や銅鉱石の選鉱場跡、不要な砕石を積んだ堆積場、釜石線の線路などを写した30作品が寄せられた。最優秀賞に選ばれたのは、選鉱場と自然風景を一体的に捉えた「栄えた跡と秋空」。撮影した藤原信孝さん(75)は「世界遺産になるべき場所であり、多くの人に足を運んでほしいと思いを込めた。この地で、子どもたちの鉄づくり学習が行われているのも意義深い」と熱く語った。
 
釜石鉱山をテーマにしたフォトコンテスト最優秀作品

釜石鉱山をテーマにしたフォトコンテスト最優秀作品

 
撮影者の藤原信孝さんに賞状と記念品が贈られた

撮影者の藤原信孝さんに賞状と記念品が贈られた

 
 このほかにも鉄の週間行事はめじろ押し。1日は市鉄の歴史館や同事務所が無料公開され、夜には知る人ぞ知る「鉄の検定」がある。2日には歴史館で名誉館長講演会(午前10時~・テーマ「イギリスの産業革命―日本との差異」)のほか、県指定文化財「紙本両鉄鉱山御山内並高炉之図」(幕末の高炉操業の絵巻)も公開。企画展「餅鐵の刃」は18日まで催される。
 
 同事務所の企画展「いわての国登録有形文化財展」、橋野鉄鉱山インフォメーションセンターの「橋野高炉跡発掘調査速報展」は8日まで。市立図書館では3日午後1時半~、市民教養講座・鉄の町かまいし歴史講座「釜石鉄道の道―番号で呼ばれる橋」を予定し、鉄の記念日にちなんだ図書展を14日まで開く。市郷土資料館では企画展「かまいしの古き良き時代 ザ・昭和~鐵と共に」が開催中で、来年1月14日まで楽しめる。

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釜石市×東京大 2年目の「海と希望の学園祭」 体験、工作、トーク…さまざまに地域の魅力発見

来場者を出迎えた新種「オオヨツハモガニ」のバルーンオブジェ。風船1千個以上を使った大作

来場者を出迎えた新種「オオヨツハモガニ」のバルーンオブジェ。風船1千個以上を使った大作

 
 釜石市と東京大の連携事業「海と希望の学園祭」が18、19の両日、同市大町の市民ホールTETTOと釜石PITで開かれた。共同研究や技術開発などで協力協定を結ぶ両者が昨年から開始し2年目を迎えた。展示、ワークショップ、トークイベントなど多彩な企画が用意され、多くの来場者でにぎわった。
 
 展示コーナーでは同大生産技術研究所(生産研)、先端科学技術研究センター(先端研)が研究内容を紹介。大槌町に施設がある大気海洋研究所(大海研)の助教が2019年に発見した新種の「オオヨツハモガニ」は今年もバルーンオブジェで登場した。
 
 市水産農林課は釜石湾内で養殖が進む「釜石はまゆりサクラマス」の試食コーナーを設けた。昨年から事業化され、今季は約160トンを水揚げ。将来的には約1千トンの生産を目指す期待の魚。「生産体制は整ってきている。今後は市内で流通するしくみを確立したい」と小笠原太課長。試食した市民からは「サケとは違うおいしさ。身もやわらかい。値段がもう少し下がれば買いやすい」などの声が聞かれた。
 
 「釜石はまゆりサクラマス」の試食コーナーでは認知度のアンケート調査(シール投票)も

「釜石はまゆりサクラマス」の試食コーナーでは認知度のアンケート調査(シール投票)も

 
 釜石海上保安部は海上保安庁作成の「日本近海海底地形図」を公開。来場者は青と赤のフィルム眼鏡で立体感を体感した。職員からは日本列島が4つのプレートに囲まれていて、地震が起こりやすい環境であることが説明された。地震発生のしくみについて熱心に説明を受ける方も。
 
釜石海上保安部は「日本近海海底地形図」を公開

釜石海上保安部は「日本近海海底地形図」を公開

 
 同市平田にキャンパスを持つ岩手大は、三陸に生息する海の生き物9種に触れられるタッチプールを設置した。東日本大震災後、復興支援活動で同市とつながる文京学院大(東京都)は海にちなんだ工作、フォトスポットコーナーを開設。釜石のクルミの樹皮を利用し、学生らが商品開発したランタンは販売も行われた(売上金を市に寄付)。
 
 文京学院大の学生14人は全員が初めての釜石訪問。荒賀弓絃さん(3年)は「来場者が楽しんでくれているようでうれしい。今後もこのような活動で釜石の活性化、復興支援につなげていければ」。リーダーの武田愛華さん(2年)はランタン作りも手掛け、「地域のために役立つ活動がしたかった。釜石の人たちのやさしさに触れ、この場所をもっと盛り上げたいという気持ちになった」と話した。
 
地元の岩手大釜石キャンパスは海の生き物に触れられるタッチプールで来場者を楽しませた

地元の岩手大釜石キャンパスは海の生き物に触れられるタッチプールで来場者を楽しませた

 
文京学院大は海のいきもの帽子の工作コーナーを開設。海の中をイメージしたフォトスポットで記念撮影も(右下)

文京学院大は海のいきもの帽子の工作コーナーを開設。海の中をイメージしたフォトスポットで記念撮影も(右下)

 
文京学院大生が商品開発する釜石のクルミの樹皮を使ったランタンの販売コーナー。宝来館の女将岩崎昭子さんがプロジェクトに協力

文京学院大生が商品開発する釜石のクルミの樹皮を使ったランタンの販売コーナー。宝来館の女将岩崎昭子さんがプロジェクトに協力

 
 上中島町の前田倫太郎君(7)は海の生き物に初めて触れ、「ウニは固かった。海が好き。深海の魚を見てみたい」と興味をそそられた様子。父興大さん(38)は「海で生き物を見つけても怖くて触れないところがあったので、いい経験ができた」と喜び、地元の海の豊かさを実感。「鉄やラグビーだけでなく海や魚でも、もっと釜石が有名になってくれれば」と期待を込めた。
 
 5年前に東京から釜石に移住した親子は昨年に続き来場。息子(11)は「ウニのストラップを作ったり、工作が面白かった。海の生き物に興味があり、貝殻も集めている。将来は海に関わるお仕事もいいな」。父親(42)は「水産資源の減少が気になる。釜石でもサケの遡上が少ないと聞く。魚を食べることが多いので、資源復活を願う」と話した。
 
大槌町のSASAMO(ササキプラスチック)はウニフィギュアの製作体験コーナーを設けた

大槌町のSASAMO(ササキプラスチック)はウニフィギュアの製作体験コーナーを設けた

 
 会場では今年も東京大の教授陣らによる講演、トークイベントが2日間かけて行われた。初日のトークイベントには4人が出演。2006年の「希望学」調査を機に同市とつながり続ける社会科学研究所(社研)の玄田有史所長の進行で、大海研の兵藤晋所長、生産研の岡部徹所長、先端研の杉山正和所長が「科学とは」というテーマで話した。
 
 釜石港で行われる波力発電の技術指導も担う先端研の杉山所長は「世の中のしくみ、モノや人のことわり(道理)を知るのが科学。だとすれば、それを使って社会をもっと良くしていこうというのが技術なのではないか」。“レアメタル”研究で注目を集める生産研の岡部所長は「効率良く作って、みんなの生活を豊かにするためのものが工学。最近は生産性やコストだけでなく、アートやデザインなど人の感性に訴えることも大切な要素」。ハイギョ(肺魚)の研究を続ける大海研の兵藤所長は「比較生物学では生き物の進化を想像し、検証するのが科学。水の中からどうやって陸に上がれるのか、非常に興味深い」。
 
東京大の4研究所長らが出演した初日のトークイベント。会場では生産研と先端研の研究紹介展示も行われた(右下)

東京大の4研究所長らが出演した初日のトークイベント。会場では生産研と先端研の研究紹介展示も行われた(右下)

 
 4人は来場者からの質問にも答えた。「震災後の12年で最も進展した科学トピックは?」との問いには「AI(人工知能)の進展、世界のネットワークの広がり」、「必要性が強調されてきたのはカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)」と回答。同大と民間企業、地域とのつながりについては「東大は思ったよりオープン。遠い存在と感じずに相談を持ちかけ、いろいろなチャンスを広げてほしい。科学技術が地方の方々の問題意識とつながると面白い。ぜひアプローチを」などと述べた。

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「浜千鳥」東北鑑評会で4年連続のダブル優等賞(吟醸、純米酒)獲得/酒造り体験塾は仕込みへ

東北清酒鑑評会で4年連続の2部門「優等賞」を受賞した浜千鳥。英語の賞状も授与された=写真提供:浜千鳥

東北清酒鑑評会で4年連続の2部門「優等賞」を受賞した浜千鳥。英語の賞状も授与された=写真提供:浜千鳥

 
 釜石市の酒造会社、浜千鳥(新里進社長)は2023年の東北清酒鑑評会(仙台国税局主催)吟醸酒、純米酒の2部門で優等賞を受賞した。12年に奥村康太郎さん(43)が杜氏(醸造部長)に就任以降、同鑑評会での受賞は8回目。ダブル受賞は今年で4年連続6回目となる。全国トップクラスの東北6県の酒蔵が出品する鑑評会は入賞が非常に難しく、2部門での連続受賞はさらなる難関。今年、創業100周年を迎えた同社にさらに大きな喜びが重なった。
 
 同鑑評会は吟醸酒と純米酒の味や香りについて総合的に判断し、製造技術の優劣の観点から品質評価を行う。評価員は国税局鑑定官、管内の醸造に関わる研究機関職員、製造場の技術者などが務める。予審と決審を行い、成績が優秀な酒を「優等賞」として出品した製造場を表彰する。各部で入賞した製造場の上位3場のうち、1位に「最優秀賞」、他2場に「評価員特別賞」を授与する。
 
 本年は148の製造場から吟醸酒の部に125場143点、純米酒の部に118場134点が出品された。10月上旬に行われた審査の結果、吟醸酒の部で47点(45場)、純米酒の部で42点(40場)が優等賞となった。本県からは両部門で7場が受賞。浜千鳥、酔仙酒造大船渡蔵(大船渡市)、南部美人(二戸市)の3場が2部門での受賞を果たした。
 
 吟醸酒の部受賞の「浜千鳥 大吟醸」、純米酒の部受賞の「浜千鳥 純米大吟醸 結の香」は共に、岩手オリジナル酵母「ジョバンニの調べ」で醸造。純米大吟醸は本県最上級のオリジナル酒米「結の香」を使用する。大吟醸の原料は酒米の王「山田錦」。
 
釜石税務署の石亀博文署長(右)から仙台国税局長名の賞状を受け取る浜千鳥の奥村康太郎杜氏=写真提供:浜千鳥

釜石税務署の石亀博文署長(右)から仙台国税局長名の賞状を受け取る浜千鳥の奥村康太郎杜氏=写真提供:浜千鳥

 
 2010年に最年少で南部杜氏の資格を取得、12年に同社醸造部長・杜氏に就任以降、各種鑑評会などでの同社入賞をけん引する奥村さん。今回の連続受賞を「レベルの高い東北で入賞するのは大変なこと。続けて評価をいただいたというのは品質を維持できている根拠になり、お客様にいいものを届けられているという自信にもつながる」と喜ぶ。受賞回数を重ねても「毎年、結果は出てみないとわからない」と難しさを語る奥村さん。「品質を維持しつつ、さらに高められるよう頑張りたい。安定も課題」と今後を見据える。
 
 同社には10日、釜石税務署の石亀博文署長から表彰状が伝達された。「(鑑評会連続入賞で)商品への信頼度が増す。その年の原料米の傾向、対策を捉え、より良いもの、再現性も含め私たちらしい味を造るのが仕事。それが認められるのはうれしいこと」と新里社長。同社の4年連続ダブル受賞は5年連続の1社に次ぐ記録。同社は20年には純米酒の部で初の最優秀賞にも輝いている。
 

今季の仕込み10月始動 酒造り体験塾第3弾で市内外の36人がもろみ造りに挑戦

 
浜千鳥酒造り体験塾「仕込み体験会」=12日

浜千鳥酒造り体験塾「仕込み体験会」=12日

 
 浜千鳥の好評企画、一般向けの酒造り体験塾は11、12の両日、第3弾の仕込み体験会が同社酒蔵で開かれ、市内外から計36人が参加した。もろみ造りのための櫂(かい)入れ作業などを体験し、蔵人の苦労の一端を味わった。最後の工程となるしぼり体験会は12月10日に行われる予定。
 
 酒米の田植えから醸造、製品化まで酒造りの一連の工程を体験できる同塾は今年で25年目。仕込み体験は大槌町の田んぼで育てた岩手オリジナル酒米「吟ぎんが」を使って、清酒「ゆめほなみ(夢穂波)」に仕上げる作業に挑戦する。
 
 12日は参加者13人が4班に分かれ、交代で各作業を行った。60パーセントに精米された約680キロの酒米は高温の蒸気で蒸され、参加者が甑(こしき)から冷却機に移す作業を体験。湯気が立ち上る中、スコップで蒸し米を掘り起こし、機械に乗せるのはなかなかの重労働。暑さと戦いながら頑張った。機械で冷ました米は運搬用の布に受け、2人1組で仕込み場まで運び、酒母が入ったタンクに投入。発酵を促す「櫂入れ」作業で、しっかりかき混ぜた。
 
蒸した酒米を甑から冷却機に移す作業。スコップを持つ手に力が入る

蒸した酒米を甑から冷却機に移す作業。スコップを持つ手に力が入る

 
冷ました米は2人がかりで仕込み場へ運ぶ

冷ました米は2人がかりで仕込み場へ運ぶ

 
タンクに投入された米をかき混ぜる「櫂入れ」

タンクに投入された米をかき混ぜる「櫂入れ」

 
 翌日に使う米を洗う体験も行われた。米の状態に合わせ、吸水時間がきっちり管理されていて、参加者は社員の合図で行動。水を吸った米は白色に輝き、参加者の目を引いた。
 
米を洗って吸水させる。時間は時計を見ながら正確に管理

米を洗って吸水させる。時間は時計を見ながら正確に管理

 
水を吸ってきれいな白色になった米に興味津々

水を吸ってきれいな白色になった米に興味津々

 
 釜石市の会社員千葉勝哉さん(24)は職場の同僚に誘われ初めて参加。「蒸し米掘りは暑いし重いし、汗をかいた。一般向けの体験会をやっているところはなかなかないと思うので貴重な機会。しぼり体験会にもぜひ参加したい」と声を弾ませた。普段は浜千鳥の梅酒をよく飲むということで、参加賞の“漬け梅詰め放題”にもうれしさをのぞかせた。
 
 大船渡市の女性会社員(49)は酒好きの友人と参加。作業の大変さを感じつつ、「酒造りの流れを知ることができて面白かった。櫂入れは甘酒の香りもして…」と大満足の様子。「浜千鳥のお酒は飲みやすい。(作業を体験したことで)次、飲む時、3割増しでおいしくいただけそう」と笑った。
 
 同社の仕込み作業は今季も10月から開始。奥村杜氏によると、今夏の猛暑の影響で原料の米が固く、酒造りには例年にない難しさがあるというが、「いいものを消費者に」と社員一丸となって取り組む。今月29日には新型コロナウイルス禍で中止が続いていた「新酒蔵出し祭り」を4年ぶりに開催予定。奥村杜氏は「対面で商品の感想を聞いたり情報交換したりできるのが楽しみ」と心待ちにする。
 
作業を終え充実感をにじませる参加者。おつかれさまでした!

作業を終え充実感をにじませる参加者。おつかれさまでした!

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釜石版ブルーカーボン・オフセット制度 養殖ワカメなどCO2吸収量販売 漁業振興、環境保全につなぐ

釜石で始まったブルーカーボン・オフセット制度 

釜石で始まったブルーカーボン・オフセット制度

  
 2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出量実質ゼロを目指す釜石市。このほど、養殖ワカメやコンブが吸収、貯留する温室効果ガスのCO2の吸収量を販売し、企業や団体が買い取る排出権取引制度を創設した。企業活動で出るCO2を海藻などによる吸収で相殺する「ブルーカーボン・オフセット」の取り組み。市独自の制度となる “釜石版”の収益は生産者らに還元し、漁業振興に役立てる。6日には制度初となる認証を行い、首都圏の2社に証明書を交付した。
  
釜石版制度の流れやメリット

釜石版制度の流れやメリット

  
 ワカメなどが吸収、貯留するCO2量の算定方法については東京大学大気海洋研究所大槌沿岸センターと岩手大の協力で確立。成長過程で脱落した破片が海底に沈着し、長期間分解されずにとどまって海中に貯留された量を「ブルーカーボン」とする。
  
 この制度には市内の3漁協の力が不可欠。養殖ワカメやコンブの生産量の報告を受け、市独自の計算式に当てはめ算定する。それによると、2022年度生産分のカーボンクレジットは39.2トンに相当。1トン当たり8800円で販売する。
  
 制度運用の事務局は、観光地域づくり法人かまいしDMC(河東英宜代表取締役)が担う。同社が実施する企業研修などと組み合わせて販売。本年度は市が運営経費として90万円を補助する。
  
証明書交付式に出席したオカムラの関口政宏部長(中)

証明書交付式に出席したオカムラの関口政宏部長(中)

  
 第1号の認証を受けたのは、オフィス家具製造販売のオカムラ(横浜市)と防災設備メーカー能美防災(東京都)。両社とも釜石市内でワーケーションを行っていて、移動などで使ったCO2の排出量に当たる0.5トン分(4400円)、0.1トン分(880円)をそれぞれ購入した。証明書の交付式は6日に釜石市役所で行われ、両社の代表者が野田武則市長から受け取った。
  
 収益は漁協に還元され運営支援につながる一方、買い取った企業などは環境保全の取り組みを積極的に進めていることなどをPRできる。オカムラサステナビリティ推進部の関口政宏部長、能美防災東北支社の富永卓己支社長は「釜石とともに取り組んでいければ」と協力を継続する考えを示した。
 
証明書を手にする能美防災の富永卓己支社長(中)ら

証明書を手にする能美防災の富永卓己支社長(中)ら

 
 同席した同センターの福田秀樹准教授は「微々たる取り組みにも見えるが、海がCO2を吸収する仕組みを理解し、大切にする意識を持ってもらえるといい」と期待。かまいしDMCの河東代表取締役も「海での活動が気候変動の緩和に貢献する資源になることを考えるきっかけになれば」と釜石版の制度をアピールする。