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釜石は鉄の街「どうして?」 郷土の歴史学ぶ子どもたち、成果発表 関連行事も続々

釜石の歴史に触れる鉄の学習発表会

釜石の歴史に触れる鉄の学習発表会

 
 釜石市の児童・生徒による鉄の学習発表会(鉄のふるさと釜石創造事業実行委員会主催)は11月25日、大町の釜石PITで開かれ、2校が史跡見学や鉄づくり体験で得た学びを紹介した。市では「鉄の記念日」(12月1日)の前後1週間を「鉄の週間」として各種イベントを催しており、発表会もその一つ。関係者は「子どもだけでなく、大人も地域の歴史に触れ、学び続けるまちに」と願う。
 
 鉄の記念日は、近代製鉄の始まりを記念する日。盛岡藩士の大島高任が安政4(1857)年12月1日、釜石市甲子町大橋に建設した洋式高炉で日本初の連続出銑を成功させたことにちなむ。
 
学びから得た地域の魅力を伝える双葉小児童

学びから得た地域の魅力を伝える双葉小児童

 
 双葉小は4年生の代表5人が発表。近代製鉄発祥の地・大橋地区にある釜石鉱山の坑道見学や旧釜石鉱山事務所での鉱石採取体験などを通して「鉄の街釜石」に触れた。驚いたこととして挙げたのは、大橋地区に学校があったこと。多い時には1200人の子どもたちが通ったといい、「双葉小の9倍くらい。ここだけで生活ができた」と思いをはせた。
 
 鉱石の標本づくりにも挑戦。石の種類、鉄鉱石ができる仕組みなどを学び、「釜石を発展させた鉱石たちを宝物として大切にしたい」とまとめた。現在の釜石鉱山で製造されるナチュラルミネラルウォーター「仙人秘水」が印象に残ったのは磯﨑雄太君。坑道の中の岩盤を40年かけてつたってくるこの湧き水は「僕らが生まれる前のもの。魅力的。いろんな良いところをもっと伝えたい」と胸を張った。
 
「仙人秘水は常温の方がおいしいそうです」と豆知識も

「仙人秘水は常温の方がおいしいそうです」と豆知識も

 
 釜石東中の1年生20人は、同事務所で行った「たたら製鉄」実習の様子を寸劇で紹介した。大島高任は西洋の高炉設計図を頼りに釜石で製鉄を進めたといい、生徒たちも同様の手法で悪戦苦闘しながら築炉。木炭の小割作業など準備の大変さ、火入れの熱さ、鉄の混合物(ケラ)を得られるかといった不安も見せた。この活動で学んだのは、先人たちの偉大さや仲間と協力する大切さ。「失敗を恐れず、いろんなことにチャレンジし続ける」と声をそろえた。鈴木星愛(せな)さんは「この経験を生かして部活を頑張りたい」とうなずいた。
 
釜石東中の生徒は鉄づくり体験の様子を再現

釜石東中の生徒は鉄づくり体験の様子を再現

 
子どもたちの学びにじっと耳を傾けた市民ら

子どもたちの学びにじっと耳を傾けた市民ら

 
 高橋勝教育長が「堂々とした発表に驚いた。当時の人たちの苦労や思いを知り、自分たちに置き換え、考えることが学びになる。知る楽しさ、感動、気づきを大切にしてほしい」と講評。自身も今回の発表で発見があったと明かし、「大人も学んでいかなければ」と子どもたちからの刺激を歓迎した。
 
 同事務所が国登録有形文化財(建造物)になってから今年で10周年となるのを記念し企画したフォトコンテストの結果発表もあった。釜石鉱山をテーマに7月中旬から10月末まで募集し、鉄鉱石や銅鉱石の選鉱場跡、不要な砕石を積んだ堆積場、釜石線の線路などを写した30作品が寄せられた。最優秀賞に選ばれたのは、選鉱場と自然風景を一体的に捉えた「栄えた跡と秋空」。撮影した藤原信孝さん(75)は「世界遺産になるべき場所であり、多くの人に足を運んでほしいと思いを込めた。この地で、子どもたちの鉄づくり学習が行われているのも意義深い」と熱く語った。
 
釜石鉱山をテーマにしたフォトコンテスト最優秀作品

釜石鉱山をテーマにしたフォトコンテスト最優秀作品

 
撮影者の藤原信孝さんに賞状と記念品が贈られた

撮影者の藤原信孝さんに賞状と記念品が贈られた

 
 このほかにも鉄の週間行事はめじろ押し。1日は市鉄の歴史館や同事務所が無料公開され、夜には知る人ぞ知る「鉄の検定」がある。2日には歴史館で名誉館長講演会(午前10時~・テーマ「イギリスの産業革命―日本との差異」)のほか、県指定文化財「紙本両鉄鉱山御山内並高炉之図」(幕末の高炉操業の絵巻)も公開。企画展「餅鐵の刃」は18日まで催される。
 
 同事務所の企画展「いわての国登録有形文化財展」、橋野鉄鉱山インフォメーションセンターの「橋野高炉跡発掘調査速報展」は8日まで。市立図書館では3日午後1時半~、市民教養講座・鉄の町かまいし歴史講座「釜石鉄道の道―番号で呼ばれる橋」を予定し、鉄の記念日にちなんだ図書展を14日まで開く。市郷土資料館では企画展「かまいしの古き良き時代 ザ・昭和~鐵と共に」が開催中で、来年1月14日まで楽しめる。

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釜石市×東京大 2年目の「海と希望の学園祭」 体験、工作、トーク…さまざまに地域の魅力発見

来場者を出迎えた新種「オオヨツハモガニ」のバルーンオブジェ。風船1千個以上を使った大作

来場者を出迎えた新種「オオヨツハモガニ」のバルーンオブジェ。風船1千個以上を使った大作

 
 釜石市と東京大の連携事業「海と希望の学園祭」が18、19の両日、同市大町の市民ホールTETTOと釜石PITで開かれた。共同研究や技術開発などで協力協定を結ぶ両者が昨年から開始し2年目を迎えた。展示、ワークショップ、トークイベントなど多彩な企画が用意され、多くの来場者でにぎわった。
 
 展示コーナーでは同大生産技術研究所(生産研)、先端科学技術研究センター(先端研)が研究内容を紹介。大槌町に施設がある大気海洋研究所(大海研)の助教が2019年に発見した新種の「オオヨツハモガニ」は今年もバルーンオブジェで登場した。
 
 市水産農林課は釜石湾内で養殖が進む「釜石はまゆりサクラマス」の試食コーナーを設けた。昨年から事業化され、今季は約160トンを水揚げ。将来的には約1千トンの生産を目指す期待の魚。「生産体制は整ってきている。今後は市内で流通するしくみを確立したい」と小笠原太課長。試食した市民からは「サケとは違うおいしさ。身もやわらかい。値段がもう少し下がれば買いやすい」などの声が聞かれた。
 
 「釜石はまゆりサクラマス」の試食コーナーでは認知度のアンケート調査(シール投票)も

「釜石はまゆりサクラマス」の試食コーナーでは認知度のアンケート調査(シール投票)も

 
 釜石海上保安部は海上保安庁作成の「日本近海海底地形図」を公開。来場者は青と赤のフィルム眼鏡で立体感を体感した。職員からは日本列島が4つのプレートに囲まれていて、地震が起こりやすい環境であることが説明された。地震発生のしくみについて熱心に説明を受ける方も。
 
釜石海上保安部は「日本近海海底地形図」を公開

釜石海上保安部は「日本近海海底地形図」を公開

 
 同市平田にキャンパスを持つ岩手大は、三陸に生息する海の生き物9種に触れられるタッチプールを設置した。東日本大震災後、復興支援活動で同市とつながる文京学院大(東京都)は海にちなんだ工作、フォトスポットコーナーを開設。釜石のクルミの樹皮を利用し、学生らが商品開発したランタンは販売も行われた(売上金を市に寄付)。
 
 文京学院大の学生14人は全員が初めての釜石訪問。荒賀弓絃さん(3年)は「来場者が楽しんでくれているようでうれしい。今後もこのような活動で釜石の活性化、復興支援につなげていければ」。リーダーの武田愛華さん(2年)はランタン作りも手掛け、「地域のために役立つ活動がしたかった。釜石の人たちのやさしさに触れ、この場所をもっと盛り上げたいという気持ちになった」と話した。
 
地元の岩手大釜石キャンパスは海の生き物に触れられるタッチプールで来場者を楽しませた

地元の岩手大釜石キャンパスは海の生き物に触れられるタッチプールで来場者を楽しませた

 
文京学院大は海のいきもの帽子の工作コーナーを開設。海の中をイメージしたフォトスポットで記念撮影も(右下)

文京学院大は海のいきもの帽子の工作コーナーを開設。海の中をイメージしたフォトスポットで記念撮影も(右下)

 
文京学院大生が商品開発する釜石のクルミの樹皮を使ったランタンの販売コーナー。宝来館の女将岩崎昭子さんがプロジェクトに協力

文京学院大生が商品開発する釜石のクルミの樹皮を使ったランタンの販売コーナー。宝来館の女将岩崎昭子さんがプロジェクトに協力

 
 上中島町の前田倫太郎君(7)は海の生き物に初めて触れ、「ウニは固かった。海が好き。深海の魚を見てみたい」と興味をそそられた様子。父興大さん(38)は「海で生き物を見つけても怖くて触れないところがあったので、いい経験ができた」と喜び、地元の海の豊かさを実感。「鉄やラグビーだけでなく海や魚でも、もっと釜石が有名になってくれれば」と期待を込めた。
 
 5年前に東京から釜石に移住した親子は昨年に続き来場。息子(11)は「ウニのストラップを作ったり、工作が面白かった。海の生き物に興味があり、貝殻も集めている。将来は海に関わるお仕事もいいな」。父親(42)は「水産資源の減少が気になる。釜石でもサケの遡上が少ないと聞く。魚を食べることが多いので、資源復活を願う」と話した。
 
大槌町のSASAMO(ササキプラスチック)はウニフィギュアの製作体験コーナーを設けた

大槌町のSASAMO(ササキプラスチック)はウニフィギュアの製作体験コーナーを設けた

 
 会場では今年も東京大の教授陣らによる講演、トークイベントが2日間かけて行われた。初日のトークイベントには4人が出演。2006年の「希望学」調査を機に同市とつながり続ける社会科学研究所(社研)の玄田有史所長の進行で、大海研の兵藤晋所長、生産研の岡部徹所長、先端研の杉山正和所長が「科学とは」というテーマで話した。
 
 釜石港で行われる波力発電の技術指導も担う先端研の杉山所長は「世の中のしくみ、モノや人のことわり(道理)を知るのが科学。だとすれば、それを使って社会をもっと良くしていこうというのが技術なのではないか」。“レアメタル”研究で注目を集める生産研の岡部所長は「効率良く作って、みんなの生活を豊かにするためのものが工学。最近は生産性やコストだけでなく、アートやデザインなど人の感性に訴えることも大切な要素」。ハイギョ(肺魚)の研究を続ける大海研の兵藤所長は「比較生物学では生き物の進化を想像し、検証するのが科学。水の中からどうやって陸に上がれるのか、非常に興味深い」。
 
東京大の4研究所長らが出演した初日のトークイベント。会場では生産研と先端研の研究紹介展示も行われた(右下)

東京大の4研究所長らが出演した初日のトークイベント。会場では生産研と先端研の研究紹介展示も行われた(右下)

 
 4人は来場者からの質問にも答えた。「震災後の12年で最も進展した科学トピックは?」との問いには「AI(人工知能)の進展、世界のネットワークの広がり」、「必要性が強調されてきたのはカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)」と回答。同大と民間企業、地域とのつながりについては「東大は思ったよりオープン。遠い存在と感じずに相談を持ちかけ、いろいろなチャンスを広げてほしい。科学技術が地方の方々の問題意識とつながると面白い。ぜひアプローチを」などと述べた。

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「浜千鳥」東北鑑評会で4年連続のダブル優等賞(吟醸、純米酒)獲得/酒造り体験塾は仕込みへ

東北清酒鑑評会で4年連続の2部門「優等賞」を受賞した浜千鳥。英語の賞状も授与された=写真提供:浜千鳥

東北清酒鑑評会で4年連続の2部門「優等賞」を受賞した浜千鳥。英語の賞状も授与された=写真提供:浜千鳥

 
 釜石市の酒造会社、浜千鳥(新里進社長)は2023年の東北清酒鑑評会(仙台国税局主催)吟醸酒、純米酒の2部門で優等賞を受賞した。12年に奥村康太郎さん(43)が杜氏(醸造部長)に就任以降、同鑑評会での受賞は8回目。ダブル受賞は今年で4年連続6回目となる。全国トップクラスの東北6県の酒蔵が出品する鑑評会は入賞が非常に難しく、2部門での連続受賞はさらなる難関。今年、創業100周年を迎えた同社にさらに大きな喜びが重なった。
 
 同鑑評会は吟醸酒と純米酒の味や香りについて総合的に判断し、製造技術の優劣の観点から品質評価を行う。評価員は国税局鑑定官、管内の醸造に関わる研究機関職員、製造場の技術者などが務める。予審と決審を行い、成績が優秀な酒を「優等賞」として出品した製造場を表彰する。各部で入賞した製造場の上位3場のうち、1位に「最優秀賞」、他2場に「評価員特別賞」を授与する。
 
 本年は148の製造場から吟醸酒の部に125場143点、純米酒の部に118場134点が出品された。10月上旬に行われた審査の結果、吟醸酒の部で47点(45場)、純米酒の部で42点(40場)が優等賞となった。本県からは両部門で7場が受賞。浜千鳥、酔仙酒造大船渡蔵(大船渡市)、南部美人(二戸市)の3場が2部門での受賞を果たした。
 
 吟醸酒の部受賞の「浜千鳥 大吟醸」、純米酒の部受賞の「浜千鳥 純米大吟醸 結の香」は共に、岩手オリジナル酵母「ジョバンニの調べ」で醸造。純米大吟醸は本県最上級のオリジナル酒米「結の香」を使用する。大吟醸の原料は酒米の王「山田錦」。
 
釜石税務署の石亀博文署長(右)から仙台国税局長名の賞状を受け取る浜千鳥の奥村康太郎杜氏=写真提供:浜千鳥

釜石税務署の石亀博文署長(右)から仙台国税局長名の賞状を受け取る浜千鳥の奥村康太郎杜氏=写真提供:浜千鳥

 
 2010年に最年少で南部杜氏の資格を取得、12年に同社醸造部長・杜氏に就任以降、各種鑑評会などでの同社入賞をけん引する奥村さん。今回の連続受賞を「レベルの高い東北で入賞するのは大変なこと。続けて評価をいただいたというのは品質を維持できている根拠になり、お客様にいいものを届けられているという自信にもつながる」と喜ぶ。受賞回数を重ねても「毎年、結果は出てみないとわからない」と難しさを語る奥村さん。「品質を維持しつつ、さらに高められるよう頑張りたい。安定も課題」と今後を見据える。
 
 同社には10日、釜石税務署の石亀博文署長から表彰状が伝達された。「(鑑評会連続入賞で)商品への信頼度が増す。その年の原料米の傾向、対策を捉え、より良いもの、再現性も含め私たちらしい味を造るのが仕事。それが認められるのはうれしいこと」と新里社長。同社の4年連続ダブル受賞は5年連続の1社に次ぐ記録。同社は20年には純米酒の部で初の最優秀賞にも輝いている。
 

今季の仕込み10月始動 酒造り体験塾第3弾で市内外の36人がもろみ造りに挑戦

 
浜千鳥酒造り体験塾「仕込み体験会」=12日

浜千鳥酒造り体験塾「仕込み体験会」=12日

 
 浜千鳥の好評企画、一般向けの酒造り体験塾は11、12の両日、第3弾の仕込み体験会が同社酒蔵で開かれ、市内外から計36人が参加した。もろみ造りのための櫂(かい)入れ作業などを体験し、蔵人の苦労の一端を味わった。最後の工程となるしぼり体験会は12月10日に行われる予定。
 
 酒米の田植えから醸造、製品化まで酒造りの一連の工程を体験できる同塾は今年で25年目。仕込み体験は大槌町の田んぼで育てた岩手オリジナル酒米「吟ぎんが」を使って、清酒「ゆめほなみ(夢穂波)」に仕上げる作業に挑戦する。
 
 12日は参加者13人が4班に分かれ、交代で各作業を行った。60パーセントに精米された約680キロの酒米は高温の蒸気で蒸され、参加者が甑(こしき)から冷却機に移す作業を体験。湯気が立ち上る中、スコップで蒸し米を掘り起こし、機械に乗せるのはなかなかの重労働。暑さと戦いながら頑張った。機械で冷ました米は運搬用の布に受け、2人1組で仕込み場まで運び、酒母が入ったタンクに投入。発酵を促す「櫂入れ」作業で、しっかりかき混ぜた。
 
蒸した酒米を甑から冷却機に移す作業。スコップを持つ手に力が入る

蒸した酒米を甑から冷却機に移す作業。スコップを持つ手に力が入る

 
冷ました米は2人がかりで仕込み場へ運ぶ

冷ました米は2人がかりで仕込み場へ運ぶ

 
タンクに投入された米をかき混ぜる「櫂入れ」

タンクに投入された米をかき混ぜる「櫂入れ」

 
 翌日に使う米を洗う体験も行われた。米の状態に合わせ、吸水時間がきっちり管理されていて、参加者は社員の合図で行動。水を吸った米は白色に輝き、参加者の目を引いた。
 
米を洗って吸水させる。時間は時計を見ながら正確に管理

米を洗って吸水させる。時間は時計を見ながら正確に管理

 
水を吸ってきれいな白色になった米に興味津々

水を吸ってきれいな白色になった米に興味津々

 
 釜石市の会社員千葉勝哉さん(24)は職場の同僚に誘われ初めて参加。「蒸し米掘りは暑いし重いし、汗をかいた。一般向けの体験会をやっているところはなかなかないと思うので貴重な機会。しぼり体験会にもぜひ参加したい」と声を弾ませた。普段は浜千鳥の梅酒をよく飲むということで、参加賞の“漬け梅詰め放題”にもうれしさをのぞかせた。
 
 大船渡市の女性会社員(49)は酒好きの友人と参加。作業の大変さを感じつつ、「酒造りの流れを知ることができて面白かった。櫂入れは甘酒の香りもして…」と大満足の様子。「浜千鳥のお酒は飲みやすい。(作業を体験したことで)次、飲む時、3割増しでおいしくいただけそう」と笑った。
 
 同社の仕込み作業は今季も10月から開始。奥村杜氏によると、今夏の猛暑の影響で原料の米が固く、酒造りには例年にない難しさがあるというが、「いいものを消費者に」と社員一丸となって取り組む。今月29日には新型コロナウイルス禍で中止が続いていた「新酒蔵出し祭り」を4年ぶりに開催予定。奥村杜氏は「対面で商品の感想を聞いたり情報交換したりできるのが楽しみ」と心待ちにする。
 
作業を終え充実感をにじませる参加者。おつかれさまでした!

作業を終え充実感をにじませる参加者。おつかれさまでした!

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釜石版ブルーカーボン・オフセット制度 養殖ワカメなどCO2吸収量販売 漁業振興、環境保全につなぐ

釜石で始まったブルーカーボン・オフセット制度 

釜石で始まったブルーカーボン・オフセット制度

  
 2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出量実質ゼロを目指す釜石市。このほど、養殖ワカメやコンブが吸収、貯留する温室効果ガスのCO2の吸収量を販売し、企業や団体が買い取る排出権取引制度を創設した。企業活動で出るCO2を海藻などによる吸収で相殺する「ブルーカーボン・オフセット」の取り組み。市独自の制度となる “釜石版”の収益は生産者らに還元し、漁業振興に役立てる。6日には制度初となる認証を行い、首都圏の2社に証明書を交付した。
  
釜石版制度の流れやメリット

釜石版制度の流れやメリット

  
 ワカメなどが吸収、貯留するCO2量の算定方法については東京大学大気海洋研究所大槌沿岸センターと岩手大の協力で確立。成長過程で脱落した破片が海底に沈着し、長期間分解されずにとどまって海中に貯留された量を「ブルーカーボン」とする。
  
 この制度には市内の3漁協の力が不可欠。養殖ワカメやコンブの生産量の報告を受け、市独自の計算式に当てはめ算定する。それによると、2022年度生産分のカーボンクレジットは39.2トンに相当。1トン当たり8800円で販売する。
  
 制度運用の事務局は、観光地域づくり法人かまいしDMC(河東英宜代表取締役)が担う。同社が実施する企業研修などと組み合わせて販売。本年度は市が運営経費として90万円を補助する。
  
証明書交付式に出席したオカムラの関口政宏部長(中)

証明書交付式に出席したオカムラの関口政宏部長(中)

  
 第1号の認証を受けたのは、オフィス家具製造販売のオカムラ(横浜市)と防災設備メーカー能美防災(東京都)。両社とも釜石市内でワーケーションを行っていて、移動などで使ったCO2の排出量に当たる0.5トン分(4400円)、0.1トン分(880円)をそれぞれ購入した。証明書の交付式は6日に釜石市役所で行われ、両社の代表者が野田武則市長から受け取った。
  
 収益は漁協に還元され運営支援につながる一方、買い取った企業などは環境保全の取り組みを積極的に進めていることなどをPRできる。オカムラサステナビリティ推進部の関口政宏部長、能美防災東北支社の富永卓己支社長は「釜石とともに取り組んでいければ」と協力を継続する考えを示した。
 
証明書を手にする能美防災の富永卓己支社長(中)ら

証明書を手にする能美防災の富永卓己支社長(中)ら

 
 同席した同センターの福田秀樹准教授は「微々たる取り組みにも見えるが、海がCO2を吸収する仕組みを理解し、大切にする意識を持ってもらえるといい」と期待。かまいしDMCの河東代表取締役も「海での活動が気候変動の緩和に貢献する資源になることを考えるきっかけになれば」と釜石版の制度をアピールする。
 

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建設業者の林業参入を支援 県主導で技術研修会初開催 地域の森林環境保全へ新たな取り組み

林業研修で伐木の技術を学ぶ参加者=片岸町、釜石地方森林組合事務所

林業研修で伐木の技術を学ぶ参加者=片岸町、釜石地方森林組合事務所

 
 東日本大震災の復興工事が終わり事業量が減った沿岸地域の建設業者が、人手不足の林業へ参入するのを支援しようと、県主導の取り組みが釜石地域で始まった。24日、建設会社の社員などを対象とした林業の知識や技術習得のための研修会が、釜石市片岸町の釜石地方森林組合事務所で開かれた。
 
 研修会は県沿岸広域振興局農林部が、林業新規参入者スキルアップ事業(地域経営推進費)として実施。釜石、大槌、山田の3市町の建設業5社とNPO法人などから23人が参加した。研修に先立ち眞島芳明農林部長は「2019年度から始まった森林経営管理制度により、各市町村では森林整備事業の増加が見込まれる。建設業者の本格的な参入を支援するため、スキルアップ事業を実施していく」と研修の目的を示した。
 
県沿岸広域振興局が初めて開いた「林業新規参入者スキルアップ研修」

県沿岸広域振興局が初めて開いた「林業新規参入者スキルアップ研修」

 
 釜石地方森林組合(植田收代表理事組合長)の職員らが講師となり、座学と実技講習が行われた。座学で同組合の高橋幸男理事(兼参事)は「管内(釜石市・大槌町)の民有林3万8000ヘクタールのうち、現在、所有者が組合に管理を委託しているのは5700ヘクタールで、管理委託は年々増加傾向にある」と説明。近年は地球温暖化の影響とみられる豪雨災害が増えている状況もあり、「CO2の吸収量増、強固な地盤形成を促す適正な森林管理が求められる」と話した。
 
林業の仕事について説明する釜石地方森林組合の高橋幸男理事(兼参事)

林業の仕事について説明する釜石地方森林組合の高橋幸男理事(兼参事)

 
 参加者は作業道の開設方法、地拵(こしら)え、植林、下刈り、除・間伐、伐木作業の基本ルールなど林業に必要な基礎知識を学習。座学の後、チェーンソーで立木を伐倒することを想定した実技講習が行われた。木が倒れる方向をコントロールしながら安全、正確に切り倒すための受け口、追い口の作り方などを組合職員から教わった。
 
 本研修実施の背景には、社会情勢の変化に伴う建設業と林業が抱える問題がある。東日本大震災の復興工事がほぼ完了し、公共工事の事業量が減少した建設業では雇用の維持が課題。林業は高齢化などで従事者が減少傾向にある一方、「森林経営管理制度」の実施で今後、事業の増加が見込まれている。同制度は、手入れが行き届かない森林の所有者に市町村が意向調査を行い、経営管理の委託を受けた場合に地域の林業経営者に再委託するほか、林業経営に適さない森林は市町村が公的に管理するというもの。
 
座学の後、組合の敷地内で行われた実技講習

座学の後、組合の敷地内で行われた実技講習

 
伐倒方向を意識した切り込みを入れる練習

伐倒方向を意識した切り込みを入れる練習

 
 同組合管内では2年ほど前から建設業者の林業への参入が試験的に行われ、現在、釜石市内の2社が組合の業務を請け負う形で技術習得を進めている。「林業の担い手確保は大きな課題。新規参入は非常に助かる」と高橋理事。将来的には自社で山を所有し、森林経営をするのが理想だが、「経営が成り立つかどうか不安もあるだろう。議論を重ね、持続可能な形へ一番いい方法を見つけていく必要がある」と話す。
 
組合職員(右)がチェーンソーの扱い方を伝授

組合職員(右)がチェーンソーの扱い方を伝授

 
 研修に参加した青紀土木(釜石市鵜住居町)の吉田智春さん(37)は、昨年5月から同組合の業務に携わる。異業種参入に「林業は体力的にきついところもあるが、新しいことに挑戦でき満足感も。地域の環境を守る仕事でもあり、貢献できるのはうれしい」と意欲を見せる。
 
 研修はこの後12月まで4回実施予定。実際に現場に入り、下刈りや植林、除伐、間伐などの実習を行うことにしている。

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「明治日本の産業革命遺産」写真で感じる魅力満載 フォトコン作品展 釜石で8/31まで開催

鉄の歴史館で開催中の「明治日本の産業革命遺産フォトコンテスト」作品展

鉄の歴史館で開催中の「明治日本の産業革命遺産フォトコンテスト」作品展

 
 釜石市の「橋野鉄鉱山」など全国8県11市23資産が世界遺産登録されている「明治日本の産業革命遺産」。日本の近代化を急速に推し進めた製鉄・製鋼、造船、石炭産業に関わる各遺産は、今も目に見える形で私たちに歴史的意義を伝え続ける。2015年の世界遺産登録から間もなく10年を迎えるのを前に、その価値を再認識し広く発信する機運醸成にと昨年度、フォトコンテストが行われた。橋野鉄鉱山を撮影した作品が最優秀賞に輝いた同コンテストの作品展が31日まで、同市大平町の市立鉄の歴史館で開かれている。
 
 同館2階会議室で開かれる作品展は市が独自に企画。最優秀賞を受賞した橋野鉄鉱山の作品「悠久のたたら場跡と星空」=佐々木弘文さん(釜石市)撮影=をはじめ、優秀賞2点(端島炭鉱、遠賀川水源地ポンプ室)、エリア賞8点を拡大プリントしパネル展示する。釜石のエリア賞は「原燃料の山と橋野一番高炉」=藤原信孝さん(同)撮影=が受賞している。
 
最優秀賞を受賞した佐々木弘文さん(釜石市)の橋野鉄鉱山の写真(右)は多くの人が感嘆の声を上げながら見入った

最優秀賞を受賞した佐々木弘文さん(釜石市)の橋野鉄鉱山の写真(右)は多くの人が感嘆の声を上げながら見入った

 
釜石のエリア賞を受賞した一番高炉を捉えた藤原信孝さん(釜石市)の作品

釜石のエリア賞を受賞した一番高炉を捉えた藤原信孝さん(釜石市)の作品

 
 同コンテストは、構成資産のある県、市で組織する「明治日本の産業革命遺産」世界遺産協議会(事務局:鹿児島県)が登録10周年に向けたプロモーションの一環として企画。「つなぐ」をテーマに、昨年12月から本年2月まで作品を募集したところ、1084点の応募があった。審査はプロの写真家の選考と資産エリアの自治体投票で行われた。8エリア(佐賀、長崎、三池、鹿児島、八幡、萩、韮山、釜石)の各賞は、関係自治体に選考が任された。
 
優秀賞を受賞した長崎市の端島炭坑の写真(右)は普段なかなか見られない角度が印象的

優秀賞を受賞した長崎市の端島炭坑の写真(右)は普段なかなか見られない角度が印象的

 
静岡県伊豆の国市の韮山反射炉の写真「秋空に映える」=韮山・エリア賞

静岡県伊豆の国市の韮山反射炉の写真「秋空に映える」=韮山・エリア賞

 
福岡県北九州市の官営八幡製鉄所旧本事務所の写真「夢と浪漫を求めて」=八幡・エリア賞

福岡県北九州市の官営八幡製鉄所旧本事務所の写真「夢と浪漫を求めて」=八幡・エリア賞

 
 受賞作11点は同コンテストのWebサイトで公開されているが、展示会場で見る大型パネル作品は、来場者の視覚に訴える色彩の美しさや構図の迫力が際立つ。古い建物や構造物、遺跡など一見地味な遺産が撮影者の視点と技で魅力的に切り取られており、大型パネル化でより一層、見る人に強い印象を与えている。
 
 会場では、釜石の「橋野鉄鉱山」に関する応募作62点から抜粋した10点(撮影者5人)も展示。季節の移り変わりでさまざまな表情を見せる高炉場跡が、同所になじみのある市民にも新たな感動をもたらしている。
 
橋野鉄鉱山の応募作品の一部を公開。季節や時間帯で多彩な光景が見られる

橋野鉄鉱山の応募作品の一部を公開。季節や時間帯で多彩な光景が見られる

 
橋野鉄鉱山の山神社跡に目を向けた作品。鳥居の両側の大木が圧巻

橋野鉄鉱山の山神社跡に目を向けた作品。鳥居の両側の大木が圧巻

 
 同協議会は遺産を分かりやすく解説した新たなパンフレットも作成した。掲載のために撮影したプロ写真の中から16点を本作品展で公開している。コンテスト応募者が題材にしなかった資産を中心に紹介する。
 
 会場では、来場者が作品の感想を付箋に書いて貼る参加型企画も実施。市世界遺産課の森一欽課長補佐は「われわれでは発信できない視点で切り取られた作品が並ぶ。釜石市民が見慣れた橋野鉄鉱山も普段とは違った見方で魅力を感じてもらえるのではないか。寄せられたコメントも楽しんで見てみては」と来場を呼び掛ける。
 
 同コンテストは本年度も開催中で、10月15日まで作品を募集している。テーマは「記憶」。作品は応募者本人が過去1年以内に撮影した未発表のものに限る。応募方法などは同コンテストの特設サイトで閲覧できる。

 

釜石鉱山フォトコンテストも開催中 旧鉱山事務所の国有形文化財登録10周年で市が作品募集

 
鉱石の採掘が行われたことを示す跡が残る釜石鉱山周辺

鉱石の採掘が行われたことを示す跡が残る釜石鉱山周辺

 
 釜石市は「近代製鉄発祥の地」の原点となった甲子町大橋の釜石鉱山をテーマとしたフォトコンテストを開催している。市が管理する「旧釜石鉱山事務所」が国登録有形文化財(建造物)になってから本年で10周年を迎えるのを記念し企画。事務所や周辺に残る痕跡など釜石鉱山の残したい風景を写真で募集する。応募は10月30日まで。
 
 釜石鉱山は1727(享保12)年に発見された。後に盛岡藩士大島高任が同地に洋式高炉を築造。1858(安政4)年、鉄鉱石を原料とした連続出銑に日本で初めて成功した。1880(明治13)年、鈴子に官営製鉄所が操業すると鉄道が開通し、機関車で鉄鉱石を運搬。製鉄所が民間経営となった後も供給が続いた。同鉱山からは銅鉱石や石灰石も産出され、2000(平成12)年まで採掘が行われた。
 
 大橋に残る旧釜石鉱山事務所は1951(昭和26)年に建設された。2008(平成20)年に日鉄鉱業が建物を市に寄贈。市は寄託された鉱山関連の資料を一般公開する施設として運営している。建物は2013(平成25)年に国登録有形文化財となっている。
 
旧釜石鉱山事務所の建物や鉄、銅鉱石の選鉱場跡が残る一帯

旧釜石鉱山事務所の建物や鉄、銅鉱石の選鉱場跡が残る一帯

 
急峻な場所に礎石だけが残る鉄鉱石の選鉱場跡

急峻な場所に礎石だけが残る鉄鉱石の選鉱場跡

 
釜石鉱山学園跡地から臨む中ノ沢堆積場(写真正面奥)。積まれているのは選鉱後の不要な砕石

釜石鉱山学園跡地から臨む中ノ沢堆積場(写真正面奥)。積まれているのは選鉱後の不要な砕石

 
 募集する写真は応募者本人が過去1年以内に撮影した未発表のもの。立ち入り禁止場所や個人、企業の敷地などで了承を得ず撮影した作品は応募不可。応募方法や規約はポスターやチラシ、市広報7月15日号掲載のQRコードから確認できるほか、市のホームページからも検索できる。
 
 市は登録10周年記念事業として、旧釜石鉱山事務所の愛称募集も行う予定。フォトコンテストの受賞作品や選ばれた愛称は、「鉄の週間」期間中に行われる行事で発表することにしている。

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見て、触れて知る釜石の魚 中妻公民館と岩手大 夏休み中の子どもたちに体験学習の場提供

サクラマスの解剖に挑戦する子ども=おさかな学習会、中妻公民館

サクラマスの解剖に挑戦する子ども=おさかな学習会、中妻公民館

 
 釜石市上中島町の中妻公民館(菊池拓朗館長)で5日、地元の海に生息する魚などに親しむ学習会が開かれた。同館が夏休み中の子どもたちを対象に企画。同市平田の釜石キャンパスで学ぶ岩手大農学部食料生産環境学科水産システム学コースの学生を講師に迎え、釜石湾で養殖事業が進むサクラマスの解剖や海の生き物に触れるタッチプールで子どもたちの興味、関心を引き出した。
 
 魚の解剖学習には市内の小学生8人が参加。同大同コースの4年生5人が講師を務めた。サクラマスの名前の由来、産卵期の体の変化、サケのように川でふ化し、海に出て産卵のため再び川を上ることなどを学んだ後、解剖に取り組んだ。
 
サクラマスの特徴を教える岩手大4年の吉郷向陽さん(右)

サクラマスの特徴を教える岩手大4年の吉郷向陽さん(右)

 
学生らに教わりながら解剖開始。慎重にはさみを入れる

学生らに教わりながら解剖開始。慎重にはさみを入れる

 
 用意されたサクラマスは、研究のために釜石キャンパス敷地内で育成した陸上養殖魚。子どもたちはピンセットとはさみを使って身を切り開き、体の中のさまざまな部位を取り出した。魚にも心臓や肝臓、胃など人間と同じようなさまざまな臓器がある一方、呼吸のための“えら”、浮き沈みの調節や肺の役割をする“浮き袋”など魚類特有の部位があることを学んだ。雌の個体からは卵も出てきて、子どもたちは大興奮。生まれ故郷などを識別するために入れられたタグ(標識)も見つかり、興味をそそられた。
 
はさみを器用に使い、体の中の各種部位をきれいに切り離す

はさみを器用に使い、体の中の各種部位をきれいに切り離す

 
こちらは大学生顔負けの腕前!? 体の中からは魚の由来を示すタグ(左上黄枠)も見つかった

こちらは大学生顔負けの腕前!? 体の中からは魚の由来を示すタグ(左上黄枠)も見つかった

 
取り出した部位をじっくり観察。学生らがやさしく見守る

取り出した部位をじっくり観察。学生らがやさしく見守る

 
 菊池彩楓さん(10)は初めての解剖体験に「さまざまな部位をきれいに分けることができて、気持ち良かった。魚の体の中を実際に見るのは初めて。心臓が思いのほか小さくてびっくりした」と新たな発見を喜んだ。
 
 解剖後は、学生らが研究のために釜石の海で捕まえた生き物に触れる体験。地元では“ドンコ”の呼び名で親しまれる「チゴダラ」、体のしま模様がラガーシャツに似ていることから釣り人らに“ラグビー”の愛称で呼ばれる「リュウグウハゼ」、カジカ類のほか、キタムラサキウニやイソガニ、ナマコなど12種が水槽に放たれた。軟体動物のアメフラシは、触ると防衛反応で紫色の液体を放出。子どもたちを驚かせた。タッチプールには、解剖学習参加者のほか事前に申し込んだ親子連れも体験に訪れた。
 
海の生き物タッチに笑顔!左下白枠は子どもたちに触られて紫色の液体を出したアメフラシ

海の生き物タッチに笑顔!左下白枠は子どもたちに触られて紫色の液体を出したアメフラシ

 
恐る恐るウニを手に取ってみる子ども(右)。初めての感触は?

恐る恐るウニを手に取ってみる子ども(右)。初めての感触は?

 
生きた魚にじかに触れられるのは貴重な経験

生きた魚にじかに触れられるのは貴重な経験

 
 学生メンバーの代表、吉郷向陽さん(21)は「海のある釜石に住んでいても、磯場などで生き物に触れ合ったことがないという子も多い。実際に見て触れての学習は、自分もそうだったが成長につながる。こういう機会を通じて少しでも魚に興味を持ったり、地球温暖化などで変化している海洋環境にも目を向けてもらえれば」と期待する。
 
 同大釜石キャンパスの学生は昨秋、市役所本庁舎とイオンタウン釜石で、地元の海に生息する魚などを水槽展示する「移動水族館ちょこっとかまいSEA(シー)!」を開催。市民が海の生き物に親しむ場を提供し、好評だった。中妻公民館では昨冬に同様のイベントを開催。「またやってほしい」との要望を受け、今回は「自由研究の題材にも」と夏休み中の実施を企画した。館内では7月31日から学習会当日まで水槽展示も行われた。厳しい暑さが続く今夏とあって、来館者からは「涼しげでいいねぇ」など歓迎の声が聞かれたという。
 
中妻公民館では5日の学習会まで水槽展示も行われ、来館者から好評だった

中妻公民館では5日の学習会まで水槽展示も行われ、来館者から好評だった

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見て触れて学ぶ 岩手の海 県水産技術センター(釜石) 公開デー 家族連れ、興味津々

岩手県水産技術センターの施設内探検ツアーを楽しむ参加者

岩手県水産技術センターの施設内探検ツアーを楽しむ参加者

  
 釜石市平田の岩手県水産技術センター(神康俊所長)で22日、公開デーとしてイベントが催され、家族連れらが施設見学や研究の紹介、体験活動を通して身近な海や水産について理解を深めた。
   
 公開デーは「海の日」に合わせて行ってきたが、ここ数年は新型コロナウイルス感染症の影響で中止したり、入場などを制限する形の実施が続いた。制約のない開催は4年ぶり。同センターの研究に触れてもらう新企画を用意した。
  
 その一つが、探検ツアー。神所長らが環境化学実験室など普段は入ることができない施設内部を案内した。種苗棟ではアサリや海藻の養殖試験の様子を見学。地元企業などと協力し開発・商品化を進めた、ワカメを高速で塩漬けする機械「しおまる」について、神所長は「洗濯機に似ている。500キロを均質に効率よく作ることができる。三陸地域で約500台が使われ、広島や島根、北海道など全国で活躍している」と説明した。
  
 二枚貝や海藻類の養殖研究の様子を見学。施設内には震災の爪痕も残る(右下写真)

二枚貝や海藻類の養殖研究の様子を見学。施設内には震災の爪痕も残る(右下写真)

   
 この日くみ取った海水を顕微鏡で観察するコーナーも初企画。「アメフラシのたまご」などプランクトンが生息する小さな世界に大人も子どもも夢中になった。海の生き物に関するクイズを楽しむ、かるたも好評。「オタマジャクシじゃありません。口に4本のひげ。地震の前に暴れます」などと読み上げられると、子どもたちは元気よく「ナマズ」の絵札に手を伸ばした。
  
海のプランクトンを顕微鏡で観察。小さな世界に子どもたちは夢中

海のプランクトンを顕微鏡で観察。小さな世界に子どもたちは夢中

  
魚にまつわるクイズを解きながら挑むかるたも白熱した

魚にまつわるクイズを解きながら挑むかるたも白熱した

  
 ヒトデやウニなどの生き物に触れるタッチプール、塩蔵ワカメの芯抜き作業体験は恒例の催しながら、変わらず人気。60センチほどもあるタチウオの魚拓づくりに挑戦した大船渡市の中井幹太君(大船渡北小2年)は「うまくできた。うちに飾りたい。いろんな体験ができて楽しい」と満足げだった。
  
カラフルな魚拓づくりに挑んだ中井幹太君(左)。出来栄えに満足げ

カラフルな魚拓づくりに挑んだ中井幹太君(左)。出来栄えに満足げ

  
さまざまな海の生き物と触れ合えるタッチプールは子どもたちに人気

さまざまな海の生き物と触れ合えるタッチプールは子どもたちに人気

  
 漁業指導調査船・岩手丸(154トン)も公開。海洋の水温調査や底引き網漁での魚種調査などで使われる観測・漁労装置が並ぶ船内を興味深そうに巡った地元釜石の菊池結衣さん(甲子小2年)は夏休みに入ったばかりで、「船がかっこいい。絵日記に書ける」とにっこり。父・正利さん(53)も「こんな船は見る機会がないから楽しい。海が身近にある地域に住んでいるので、泳ぎに行ったり思い出をつくりたい」と目を細めた。
  
漁業指導調査船・岩手丸の船内巡りを楽しむ家族連れ

漁業指導調査船・岩手丸の船内巡りを楽しむ家族連れ

  
ずらりと並んだ調査用装置に大人も子どもも興味津々だった

ずらりと並んだ調査用装置に大人も子どもも興味津々だった

  
 海況変動に関する研究や貝毒に関する調査、県内水産物のブランド化を支える加工技術の開発など同センターの取り組みもパネルで紹介。神所長や研究員らは来場者と触れ合いながら、やりがいなども伝えていて、「何でもいいから興味を持ってもらえたら。そして将来、海や水産業に関わる人が増えたら」と期待した。

 

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出遅れ感 希少性で知名度アップなるか!? 釜石はまゆりサクラマス 地元飲食店、加工業者ら活用法模索

釜石はまゆりサクラマスの活用を探るワークショップ

釜石はまゆりサクラマスの活用を探るワークショップ

 
 釜石湾で養殖する「釜石はまゆりサクラマス」の事業化に伴い、釜石市はプロモーション活動に力を入れる。18日、地元の味として定着させようと、飲食店や水産加工業者対象のワークショップを「魚河岸テラス」で開催。料理人ら約10人が刺し身、焼き物などで味わいを確かめ、新メニュー開発にアイデアを出した。
 
 岩手県内の沿岸部では、サケやサンマの記録的な不漁を背景にサーモン類の養殖が各地で展開されるが、サクラマス生産に取り組むのは釜石だけ。その希少性を強みとして「ご当地グルメ」に育てていくのが狙いで、6月に実施した先行事例を学ぶセミナーに続く取り組みだ。
 
 アイデア出しの前に、釜石地域の地魚の良さを発信する魚食普及コーディネーターの清原拓磨さん(25)=市地域おこし協力隊員=が、サクラマスの味の特徴を紹介。生食に注目されがちな養殖魚だが、釜石産は脂がのっているのにさっぱりとしていて、塩焼きがおすすめだといい、生食以外の活用を提案。魚を数日間寝かせ、本来の味に加えうまみや食感を向上させる「熟成」についても解説し、「釜石を誇れる魚の一つ。海の環境に配慮した給餌方法など努力していて、味も秀でている。貴重な食材としてアピールできるので、いろんな食べ方で喜ばせてほしい」と期待を込めた。
 
味の特徴など清原さん(右)の話に耳を傾ける参加者

味の特徴など清原さん(右)の話に耳を傾ける参加者

 
 この日、水揚げされたサクラマスを刺し身、塩焼きやあぶり、ソテーなど焼き方を工夫しながら調理した後、試食。「ただ火を通すより、油でソテーする方がいい」「とれたては焼くと油分が出てこず食感がパサパサ。さっと焼き上げるのがいい」「養殖独特のにおいがする」などと声が上がった。
 
焼き方などを工夫しながら手分けして調理する参加者

焼き方などを工夫しながら手分けして調理する参加者

 
参加者は試食しながら味や調理法など情報交換した

参加者は試食しながら味や調理法など情報交換した

 
 市では秋ごろに市内飲食店でのサクラマスフェアの開催を計画中で、「自分の店だったらどんな料理、加工品を提供したいか」と案を求めた。参加者はマリネや天ぷら、ムニエル、カルパッチョなどを提案。「サクラマスをメインにするのは意外に難しい。癖が少なく、どう宣伝していくか…」と思考する声もあった。市内への流通量の確保や保存の在り方など先行きが不透明なことも多く、思い悩む人も。「他のサーモンに比べると、認知されておらず売り出しづらい」「食の多様性から養殖に取り組むのはいいが、釜石は出遅れた」と厳しい意見も聞かれた。
 
 市内ですし店を営む男性も「サクラマスは後発組」と辛口だが、活用のアイデアはあり、今後の動きを注目していくという。魚河岸テラス内で営業する「ヒカリ食堂」では漬け丼など2種のメニューを提供中で、料理長の阿部香さん(45)は「今後も使うことになると思うので、新たな献立を考えていかなければ」と思案。ワークショップで、ほかの事業者から「燻製(くんせい)がいい」と新発想を得て、「調理法を組み合わせれば面白そう」と腕をまくった。
 
フェア開催に向け売り出し方などについて意見を出し合う

フェア開催に向け売り出し方などについて意見を出し合う

 
 市では今回出た事業者らの声を踏まえ、フェアに向け統一ルールなどを設定する考え。新メニュー開発も進めるほか、イベント開催を通じて、ご当地グルメとしての知名度向上を図る。

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釜石はまゆりサクラマス 養殖事業化後、初水揚げ 特産品化へプロモーション活動も

釜石市魚市場に今季初めて水揚げされた養殖サクラマス

釜石市魚市場に今季初めて水揚げされた養殖サクラマス

  
 釜石湾で養殖されている「釜石はまゆりサクラマス」が6月27日、今季初めて釜石市魚市場に水揚げされた。昨秋に事業化してからの“初もの”は、体長60~80センチ、重さ1.7キロほどに育った計8.4トン。試食も用意され、「身ぶりが良い」「特長のさっぱりした脂がしつこくなく、おいしい」と関係者らは好感触を得る。事業化に伴ってプロモーション活動にも着手。岩手県内で主流のギンザケやトラウトサーモンとの差別化を図り、希少性を生かした取り組みに力を入れていく構えだ。
   
 サクラマスの養殖は2020年に市や岩手大、地元水産会社などが研究コンソーシアムを結成して試験的に始めた。成育が順調で、比較的高値で取引されるなど市場での評価もよく、生存率の向上など技術習得も進んだことから、計画を1年前倒しして22年秋に事業化した。これまでは直径20メートルのいけす1基で育てていたが、今季は直径40メートルのいけす2基を増設。稚魚も前年の2万1000匹から15万8000匹と大幅に増やした。
  
釜石湾で順調に生育したサクラマスに漁業者たちの顔もほころぶ

釜石湾で順調に生育したサクラマスに漁業者たちの顔もほころぶ

   
 この日は午前5時ごろに水揚げが始まり、漁師らがサイズによって選別。市によると、1キロ当たり100~1000円で取り引きされ、地元の鮮魚店などが買い取ったという。作業を見守った野田武則市長は「魚のまち復活へ明るい見通しが立ってきた。特産として、さらに発信していきたい」と手応え。岩手大三陸水産研究センターの平井俊朗センター長は「主流のサーモン養殖と、どう差別化を図るかが事業拡大の鍵になる」と指摘した。
   
 試食も用意され、養殖事業を担う泉澤水産(両石町)の担当者は「昨年より大きく育った。脂乗りもいい。さっぱりとしつこくなく、おいしい」とアピール。AI(人工知能)搭載の給餌機を導入して効率化を図り、昨季の約7倍、200トンの水揚げを見込んでいる。
 
サクラマスの刺し身を試食する野田武則市長(右)ら

サクラマスの刺し身を試食する野田武則市長(右)ら

  

どう売り出す?釜石サクラマス 地元飲食店、宿泊業、水産加工業者が先進地の成功事例学ぶ

  
釜石はまゆりサクラマスプロモーションキックオフセミナー=6月23日

釜石はまゆりサクラマスプロモーションキックオフセミナー=6月23日 

  
 釜石はまゆりサクラマスの生産拡大に伴い、昨年10月には一体的なプロモーション活動を行うための産学官によるコンソーシアム(共同事業体)も設立されている。県内沿岸では、サケやサンマの記録的な不漁を背景にサーモン類の養殖が各地で展開されるが、サクラマス生産に取り組むのは釜石市だけ。その希少性を強みとして「ご当地グルメ」に育てていこうと、関係者による取り組みが始まる。
  
 今季の初水揚げに先立ち、6月23日には平田の岩手大釜石キャンパスで、プロモ活動への第一弾となるセミナーを開催。地元飲食店、宿泊業者、水産加工業者などを対象に開かれ、オンラインを含め約40人が参加した。
  
 市水産農林課がこれまでの養殖の経過と今季の水揚げ見込みなどを説明。市外への流通が多かったサクラマスを今後、地元の味として定着させるためにメニュー開発を行っていきたい考えが示された。
  
 先進地の成功事例として、兵庫県南あわじ市が中心となって売り出す「淡路島サクラマス」のメニュー開発の経緯などが紹介された。事業に携わった、じゃらんリサーチセンター・ご当地グルメ開発プロデューサーの田中優子さんがオンラインで説明した。
  
「淡路島サクラマス」のご当地グルメ開発の事例を学ぶ

 「淡路島サクラマス」のご当地グルメ開発の事例を学ぶ

  
 同市では養殖サクラマスを春(3~5月)の味覚として前面に打ち出し、2017年から3年がかりでメニュー開発。丼と鍋料理から始め、後にピザやパスタなどのカフェグルメ、弁当、土産物などにも拡大していった。3年目には淡路島全体(3市)に取り組みを広げ、40店舗で76メニューを提供するまでになった。3年間の売り上げは2億3186万円。
  
 田中さんはご当地グルメ開発のポイントとして、目標・目的の共有、効果検証(販売数、売り上げなど)、振り返りによる課題抽出・解決策の実行-などを挙げたほか、メディアへの効果的なプレスリリースやSNSによる情報発信で話題性を作ることも重要視した。
  
 休憩時間にはサクラマスの刺身の試食も行われた。県中華料理生活衛生同業組合釜石支部長の小澤浩美さん(スナック経営)は「養殖なので、生でも安心して食べられるのが大きなメリット。欲しい時に手に入るよう、安定した供給をしてもらえるとありがたい」と期待。今後のプロモ活動については「みんなでスクラムを組んでやらないと。単独では難しい」と連携の必要性を示した。
  
サクラマスの刺し身を試食。「あっさりして甘みがある」「腹も背もおいしい」などの声が…

サクラマスの刺し身を試食。「あっさりして甘みがある」「腹も背もおいしい」などの声が…

  
 市水産農林課によると、本年度は商品化に向けたメニュー開発・意見交換、市内飲食店でのサクラマスフェアなどを予定する。同課の小笠原太課長は「今後の取り組みの中で、ターゲットやどのような売り方をするのか模索していきたい。地域が潤い、地域が誇れるようなものを作っていきたい」と話す。

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楽しみ尽くす 浜千鳥・釜石 パーティー、4年ぶり開催 合言葉は「酒、時々…」

多様な浜千鳥の味を楽しむパーティーは4年ぶりに開かれた

多様な浜千鳥の味を楽しむパーティーは4年ぶりに開かれた

  
 釜石市小川町の酒造会社浜千鳥(新里進社長)は13日、「浜千鳥のすべてを楽しむパーティー」を大町のホテルクラウンヒルズ釜石で開いた。新型コロナウイルス禍での休止を経て4年ぶりの開催。待ちわびた約120人が集い、蔵人が精魂込めて造った多様な清酒の風味を堪能した。
   
 パーティーは今回で31回目。冒頭であいさつした新里社長は、大槌町産の酒米「吟ぎんが」と地下水を使用した「源水」を紹介し、「地域おこしの酒で、ここに来れば飲める。地域を元気にする取り組みに関わることができてうれしい」と熱弁。久しぶりの顔合わせに気分も上々で、「いろんな酒があり、すべて飲み干すと呑(の)まれてしまう。『酒、時々、水』を合言葉に飲めば、爽やかに楽しめる」と来場者にすすめた。
  
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来場者に自慢の酒をアピールする新里社長(中)

   
 源水の開発で協力したソーシャル・ネイチャー・ワークス(大槌町)の藤原朋代表取締役がミニ講演。開発の物語に加え、今回、酒と合わせて提供する料理の食材となった「ジビエ(野生鳥獣の肉)」を活用した町おこしプロジェクトを紹介した。
 
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「源水」誕生のストーリーなどを紹介する藤原さん

  
 2つの取り組みに共通するのが、地域住民を巻き込んだ「対話」と、行政や関係者らとの「協働」。課題だと思っていることは「みんなで話し合えば、なんとかできる。そして専門性のある人と取り組めば前に進む」と実感を込めた。今後の目標は、ただ事業や産業をつくるのではなく、「100年続く文化をつくること」と強調。この熱い思いを、参加者らは程よい“食前酒”にした。
 
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卓上には夏限定の「純米うすにごり 銀河のしずく」「源水」などが並んだ

  
 源水をはじめ、岩手県最上級のオリジナル酒米「結の香(ゆいのか)」を原料とする「純米大吟醸結の香」、米焼酎「纜(ともづな)」、梅酒、非売品の「大吟醸古酒」など約20種類がずらり。14日蔵出しの「純米うすにごり 銀河のしずく」も一足早く並んだ。漆塗りの杯で味わう立ち呑み処(どころ)「いわて漆亭」もお目見え。5種類の酒を判別する利き酒もあり、参加者はじっくりと味の違いを確かめていた。
 
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20種を超える浜千鳥の銘柄がずらり…お気に入りは?

 
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漆塗りの杯で美酒と会話を楽しむ立ち飲みコーナー

 
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利き酒も行われ、ゲーム感覚で舌の鋭敏さを競った

  
 遠野市の小林裕介さん(34)は「転勤族で、その地で造られている酒を飲みたいから参加した。浜千鳥はご飯を食べながら、おいしく飲める。全部、いい酒。年1回でなく、定期的にやってほしい」と望んだ。
  
 合間には、同社に酒米を供給する大槌酒米研究会の佐々木重吾会長、同社醸造部長で杜氏(とうじ)の奥村康太郎さんが昨年の酒米の出来と酒造りの手応えを紹介。佐々木会長が太鼓判を押す酒米で造った酒について、奥村さんは「米の膨らみ、柔らかみを味に表すことができた。酒造りでは最終的に米を溶かすが、溶けすぎると雑味が出て、溶けないと薄く、そっけない印象になる。じわじわと溶けていき、いい仕上がりになった」と自信を見せた。
 
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酒米、酒造りへの思いを明かす佐々木会長(右)、奥村さん

  
 日本酒が大好きな小笠原いづみさん(55)は“ここぞとばかり”に飲み比べを楽しんでいる様子。「酒造りに携わる人たちの思いを知ると、より味わい深い」と杯を傾けた。大槌町で暮らし、源水の誕生を歓迎。「町の酒といえるものができてうれしい」と頬を桃色に染めていた。
   
 同社は今年、創業100周年。地域に根差した“うまい”酒を造り続けながら、新たなチャレンジもしていく―。新里社長らは、会場に広がる喜ぶ顔を力にする。
 

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大槌産酒米「吟ぎんが」に理解 釜石・浜千鳥の酒造り体験塾で80人が田植えに挑戦!

酒米の田植えでスタートした「浜千鳥酒造り体験塾」=5月28日、大槌町

酒米の田植えでスタートした「浜千鳥酒造り体験塾」=5月28日、大槌町

 
 釜石市小川町の酒造会社、浜千鳥(新里進社長)が行う「酒造り体験塾」が今年もスタート。5月28日、同社に酒米を供給する大槌町の農家の田んぼで田植え体験会が開かれた。県内外から約80人が参加。地元の酒米「吟ぎんが」で仕込む酒の味わいに期待を膨らませながら、丁寧に苗を植え付けた。秋には稲刈り、冬には仕込み作業などを体験する。
 
 作業の安全、豊作を祈る神事では、同社醸造部の田村真央さん(28)が田んぼにくわ入れ。参加者の代表が植え始めの儀式を行った。田んぼの所有者で、大槌酒米研究会(5個人、1法人)会長の佐々木重吾さん(66)が苗の植え方を説明した後、参加者が一列に並び、昔ながらの手植え作業に挑戦した。
 
新里進社長らが神前に玉串をささげ豊作を祈願。醸造部・田村真央さんがくわ入れした(左下)=写真提供:浜千鳥

新里進社長らが神前に玉串をささげ豊作を祈願。醸造部・田村真央さんがくわ入れした(左下)=写真提供:浜千鳥

 
佐々木重吾さん(左)から苗の植え方を教わる参加者=写真提供:浜千鳥

佐々木重吾さん(左)から苗の植え方を教わる参加者=写真提供:浜千鳥

 
 この日の天候は曇り。途中から雨も降り出したが、「曇天のほうが苗が乾かず、田植えには好都合」と佐々木さん。泥に足を取られて転んでしまう参加者もいて、泥まみれの子どもたちは周囲の笑みを誘った。約1時間半の作業で、7アールの田んぼはきれいな青苗の列で埋まった。
 
酒米「吟ぎんが」の苗を手植え。雨の中、作業に励んだ

酒米「吟ぎんが」の苗を手植え。雨の中、作業に励んだ

 
泥まみれも楽しい思い出。子どもたちも一生懸命頑張りました!

泥まみれも楽しい思い出。子どもたちも一生懸命頑張りました!

 
 東京都から参加した前川さやかさん(28)は大槌町出身。和食居酒屋で副店長を務めており、店では全国の日本酒を提供している。「酒匠」として酒の勉強を重ねる中、「原料の米についても学びたい」と体験塾に足を運んだ。田植えは小学校の体験学習以来。「すごく大変だったが、お酒を飲むのも売るのもより楽しみになった」と貴重な体験を喜んだ。最近は「全国的に地元の米を使ったこだわりの地酒が増えている」といい、来店客の注目度も高い。「浜千鳥は海産物に合う酒としてお薦めしている。まだあまり知られていないところもあるので、さらに広めたい」と意気込んだ。
 
 釜石市の小國賢太さん(釜石中2年)は両親と共に幼児のころから同体験会に参加。「昨年は学校のテストと重なり来られなかったので久しぶりの田植え。めっちゃ疲れた。手植えだけだった昔は本当に大変だっただろう」と想像を巡らせた。
 
慣れてくると作業もペースアップ。植え終わるまであと一息

慣れてくると作業もペースアップ。植え終わるまであと一息

 
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 同研究会メンバーの今年の作付面積は合わせて約20ヘクタール。30代の新規就農者も参入し、会では後継者育成にも力を入れる。昨年、浜千鳥に供給された大槌産吟ぎんがは約78トン(前年対比約6トン増)。佐々木さんは「(天候などが順調に推移し)今年もさらに良くなってくれれば」と願う。
 
 吟ぎんがは岩手オリジナル酒米として普及が図られ、県内の多くの酒蔵で使われる。沿岸で栽培しているのは大槌地域だけ。今では、浜千鳥が吟ぎんがで仕込む商品は全て大槌産米が使われ、同社商品全体の5割を占める。コロナ禍の3年間は宴会などの減少で同社の販売数も落ち込んだ。新里社長は「コロナの収束で需要も回復傾向にある。これまでは生産調整を余儀なくされるなど苦しい状況が続いたが、今年は増産できる見込み。この地区の酒米が豊作になるよう祈る」と期待をにじませる。同社は今年、創業100周年を迎える。
 
最後の記念写真は出来上がった酒のボトルラベルに使われる

最後の記念写真は出来上がった酒のボトルラベルに使われる