林業研修で伐木の技術を学ぶ参加者=片岸町、釜石地方森林組合事務所
東日本大震災の復興工事が終わり事業量が減った沿岸地域の建設業者が、人手不足の林業へ参入するのを支援しようと、県主導の取り組みが釜石地域で始まった。24日、建設会社の社員などを対象とした林業の知識や技術習得のための研修会が、釜石市片岸町の釜石地方森林組合事務所で開かれた。
研修会は県沿岸広域振興局農林部が、林業新規参入者スキルアップ事業(地域経営推進費)として実施。釜石、大槌、山田の3市町の建設業5社とNPO法人などから23人が参加した。研修に先立ち眞島芳明農林部長は「2019年度から始まった森林経営管理制度により、各市町村では森林整備事業の増加が見込まれる。建設業者の本格的な参入を支援するため、スキルアップ事業を実施していく」と研修の目的を示した。
県沿岸広域振興局が初めて開いた「林業新規参入者スキルアップ研修」
釜石地方森林組合(植田收代表理事組合長)の職員らが講師となり、座学と実技講習が行われた。座学で同組合の高橋幸男理事(兼参事)は「管内(釜石市・大槌町)の民有林3万8000ヘクタールのうち、現在、所有者が組合に管理を委託しているのは5700ヘクタールで、管理委託は年々増加傾向にある」と説明。近年は地球温暖化の影響とみられる豪雨災害が増えている状況もあり、「CO2の吸収量増、強固な地盤形成を促す適正な森林管理が求められる」と話した。
林業の仕事について説明する釜石地方森林組合の高橋幸男理事(兼参事)
参加者は作業道の開設方法、地拵(こしら)え、植林、下刈り、除・間伐、伐木作業の基本ルールなど林業に必要な基礎知識を学習。座学の後、チェーンソーで立木を伐倒することを想定した実技講習が行われた。木が倒れる方向をコントロールしながら安全、正確に切り倒すための受け口、追い口の作り方などを組合職員から教わった。
本研修実施の背景には、社会情勢の変化に伴う建設業と林業が抱える問題がある。東日本大震災の復興工事がほぼ完了し、公共工事の事業量が減少した建設業では雇用の維持が課題。林業は高齢化などで従事者が減少傾向にある一方、「森林経営管理制度」の実施で今後、事業の増加が見込まれている。同制度は、手入れが行き届かない森林の所有者に市町村が意向調査を行い、経営管理の委託を受けた場合に地域の林業経営者に再委託するほか、林業経営に適さない森林は市町村が公的に管理するというもの。
座学の後、組合の敷地内で行われた実技講習
伐倒方向を意識した切り込みを入れる練習
同組合管内では2年ほど前から建設業者の林業への参入が試験的に行われ、現在、釜石市内の2社が組合の業務を請け負う形で技術習得を進めている。「林業の担い手確保は大きな課題。新規参入は非常に助かる」と高橋理事。将来的には自社で山を所有し、森林経営をするのが理想だが、「経営が成り立つかどうか不安もあるだろう。議論を重ね、持続可能な形へ一番いい方法を見つけていく必要がある」と話す。
組合職員(右)がチェーンソーの扱い方を伝授
研修に参加した青紀土木(釜石市鵜住居町)の吉田智春さん(37)は、昨年5月から同組合の業務に携わる。異業種参入に「林業は体力的にきついところもあるが、新しいことに挑戦でき満足感も。地域の環境を守る仕事でもあり、貢献できるのはうれしい」と意欲を見せる。
研修はこの後12月まで4回実施予定。実際に現場に入り、下刈りや植林、除伐、間伐などの実習を行うことにしている。