タグ別アーカイブ: 観光

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人にも環境にも優しく 新型車両、JR釜石線を走る 釜石駅で出発式「歴史を紡いで」

JR釜石線で営業運転が始まった新型車両「HB-E220系」。出発の合図で走り出す

JR釜石線で営業運転が始まった新型車両「HB-E220系」。出発の合図で走り出す

 
 JR釜石線の花巻-釜石駅間で19日、新型車両「HB-E220系」の営業運転が始まった。JR東日本盛岡支社によると、動力に「ディーゼルハイブリッドシステム」を搭載し、環境への負荷を低減。電動車いす対応のトイレやベビーカーなどを置けるフリースペースなども設けた「人と環境に優しい車両」だ。岩手県内の路線で新型車両が導入されるのは2017年の八戸線以来。初日は釜石駅(釜石市鈴子町)で出発式があり、“デビュー”を祝う住民や鉄道ファンらでにぎわいだ。
 
新型車両を見に来た住民や鉄道ファンらが記念撮影を楽しんだ

新型車両を見に来た住民や鉄道ファンらが記念撮影を楽しんだ

 
 新型車両は、ステンレス製で全長20.6メートル。2両編成で定員243人。軽油を使ったディーゼルエンジン発電機と蓄電池からの電力を単独または組み合わせて動力を発生させるハイブリッドシステムを採用する。ブレーキ時にモーターを発電機として利用し、蓄電池に充電。発電機や蓄電池からの電力を走行にも役立てるという仕組み。環境対策として、排気中の窒素酸化物(NOx)や黒煙などの粒子状物質(PM)を低減するエンジンを搭載する。
 
 利用者に対しては、通勤や通学時の乗降をスムーズにするため、従来の車両からドアを1カ所増やして片側3カ所とした。車いすやベビーカー利用者のためのフリースペース、電動車いす対応の洋式トイレも設置。また、各車両には防犯カメラと非常通話装置が設置されており、安全性の向上が図られている。列車が進む方を向いた座席や向かい合わせの「ボックス席」を主体とした車両から転換し、全席を窓に背を向けるロングシートとした。
 
明るい青と緑色のラインが入った車体。車内はロングシート化し広いフリースペースなどが設けられた

明るい青と緑色のラインが入った車体。車内はロングシート化し広いフリースペースなどが設けられた

 
ホームを挟んだ左側には従来の車両が停車。貴重な共演!?

ホームを挟んだ左側には従来の車両が停車。貴重な共演!?

 
 出発式は釜石駅のホームで行われ、約60人が駆け付けた。同支社の大森健史支社長が「沿線に住む皆さんの利用はもちろん、観光を目的とした利用の一助にもなり、沿岸部の盛り上げに貢献できれば」とあいさつ。釜石市の小野共市長は「鉄道は人と人、地域と地域を結ぶ大切なインフラ。この車両が多くの人々に愛され、地域とともに歩み、歴史を紡ぐことを期待する」と歓迎の気持ちを示した。
 
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出発式であいさつする(右から)大森健史支社長、小野共市長、渋谷祭雄駅長

 
 記念のクリアファイルが配布されたほか、車内も公開された。「列車が大好き」という三木夏樹ちゃん(4)は新型車両のシートに座って「前のと違うね。かっこいいね」と大はしゃぎ。母綾菜さん(41)は「新しい匂いがする。広いのもいい。次は乗って旅してみたい」とほほ笑んだ。
 
 初列車に乗るために前日に釜石入りした滝沢市の袖林北翔さん(24)は「環境や人の流れに配慮されていて、いい」と好感触を持った。座り心地もよい車両で「仙人峠の景色を楽しみたい」とわくわくした様子。鉄道は通勤、通学の手段だと話しつつも“乗り鉄”を自認し、「釜石線は遠野とか魅力的な観光があり、グルメも楽しめる。また乗ってみたい」と再訪への思いを口にした。
 
出発式に集まった地域住民や観光関係者ら

出発式に集まった地域住民や観光関係者ら

 
出発を前に表示を確認する運転士ら

出発を前に表示を確認する運転士ら

 
 午前9時2分、釜石駅の渋谷祭雄駅長と小野市長が手を挙げて出発の合図。市職員が虎舞を披露する中、初列車が走り出し、観光関係者らは横断幕を掲げたり手旗を振って見送った。
 
多くの人が横断幕や手旗を持って初列車を見送った

多くの人が横断幕や手旗を持って初列車を見送った

 
 釜石線ではダイヤ改正を行う3月14日以降は全列車が新型車両に切り替わる。渋谷駅長は「地域の顔として末永く愛される列車となるよう育てていきたい。ぜひ、ご利用を」と呼びかけた。
 
 同支社によると、県内では東北本線の盛岡―花巻駅間へも新型車両を投入。JR東では高崎エリアの八高線で先行し、昨年12月から高崎(群馬県高崎市)-高麗川(埼玉県日高市)駅間を走る。

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雪に歓声!かまいし冬あそび 横手かまくら、滑り台出現 あったかグルメも集合「満腹~」

街なかに出現した雪の滑り台で遊ぶ子どもたち=10日

街なかに出現した雪の滑り台で遊ぶ子どもたち=10日

 
 かまいし冬あそび(釜石観光物産協会主催)は10、11の両日、釜石市鈴子町のシープラザ釜石周辺で開かれた。雪遊びや木製玩具との触れ合い体験など子どもたちが喜ぶ企画を多数用意。熱々のラーメンをかき込む早食い競争や汁物のお振る舞いなど、寒い時期ならではのあたたかさを味わえる食の催しもあり、家族連れらが楽しんだ。
 
 子どもらの人気を集めたのはシープラザ西側駐車場に出現した、かまくらと雪の滑り台。釜石市の友好都市・秋田県横手市から運ばれた約50トンの雪を使い、横手市の“かまくら職人”と釜石市職員がそれぞれ作った。
 
はんてんやヘルメットを身につけ「横手かまくら」体験

はんてんやヘルメットを身につけ「横手かまくら」体験

 
 かまくらでは中にまつられた水神様に家族の健康などを祈願したり、はんてんや職人が作業時に使うヘルメットを身につけて写真を撮ったり。滑り台ではそりが無料で貸し出され、子どもたちは歓声を上げながらそり遊びに夢中になった。
 
 栗林町の小学生伊藤晴喜さん(2年)は「怖いけど楽しい。久しぶりのそり滑りだから、ついつい叫んじゃった」と大はしゃぎ。父の健さん(44)は「雪の少ない釜石で雪に触れられる貴重な体験。横手から届けてくれてありがたい。また来年も」と望んだ。
 
そり滑りに夢中になる子どもたち。笑顔が広がった

そり滑りに夢中になる子どもたち。笑顔が広がった

 
 釜石の冬のイベントにかまくらがお目見えしたのは8年ぶり。横手市観光おもてなし課の佐藤健一郎主査(47)はたくさんの笑顔に触れ、「作ったかいがあった」と頬を緩めた。コロナ禍などがあり雪遊びの提供は控えていたが、両市間ではイベントへの特産品提供といった交流を継続。同課の山本剛課長(54)は「雪はつらい、苦労というイメージが強いが、喜んでもらい、雪が降るのも悪いことではないと思った。観光資源を生かしたつながりを強められたら。ここで和んで、横手にもぜひ」と期待した。
 
かまくら体験で撮影サービスに応じた横手市の佐藤健一郎さん

かまくら体験で撮影サービスに応じた横手市の佐藤健一郎さん

 
いぶりがっこ、甘酒…魅力ある食も紹介した横手市の販売ブース

いぶりがっこ、甘酒…魅力ある食も紹介した横手市の販売ブース

 
 子ども向けには電動カートなどを楽しむ乗り物広場、花巻市の体験型木育施設・花巻おもちゃ美術館の「出張おもちゃ美術館」などもあった。ステージイベントでは郷土芸能の虎舞が披露され、全国に発信したい釜石の特産品を投票するコンテスト企画も実施。市内外のグルメを味わえるキッチンカーが並んだほか、近くの駅前橋上市場「サン・フィッシュ釜石」では地酒や浜焼きなどが味わえる「かまいし屋台村」も同時開催された。
 
電動の乗り物を走らせて笑顔を見せる子どもら

電動の乗り物を走らせて笑顔を見せる子どもら

 
木製おもちゃ、虎舞、バルーンアートなど催しが多彩に

木製おもちゃ、虎舞、バルーンアートなど催しが多彩に

 
 10日に振る舞われたみそ仕立ての豚汁は地元の味「藤勇しょうゆ」が隠し味。屋外で食す来場者らを心身ともにあたためた。11日に行われた名物・釜石ラーメンの食べる早さを競う「腹ペコまつり」も8年ぶりに復活。挑戦者は「ふーふー」と息を吹きかけながら、アツアツの麺やスープを胃に流し込み、「食べて満腹ー」と叫んだ。
 
アツアツの豚汁のお振る舞い=10日

アツアツの豚汁のお振る舞い=10日

 
あったかグルメで屋外でもあったかい。「あ~ん」

あったかグルメで屋外でもあったかい。「あ~ん」
 
釜石ラーメンの早食い競争「腹ペコまつり」=11日

釜石ラーメンの早食い競争「腹ペコまつり」=11日

 
 ラーメンを提供した店舗の一つが、シープラザ内で営業する軽食&喫茶ユーモア。店主の前川朱美さん(64)は「にぎわいを生む催しに協力できたらいい」と腕を振るった。地元の味を提供し約20年。「常連さんに支えられ今がある。経営は大変だが、『おいしかったよ』のひと言で元気が出る」と、感謝を込めて店に立つ。
 
ピースサインをしながら笑顔を見せる前川朱美さん=11日

ピースサインをしながら笑顔を見せる前川朱美さん=11日

 
 冬あそびは冬休み中の子どもたちに楽しんでもらい、多彩な催しでまちを活気づけるのが狙い。同協会が入るシープラザは今年、開業30周年を迎える。佐々木一伸事務局次長(55)は「釜石駅前周辺の施設が協力し、にぎわいの呼び戻しに力を入れたい」と意気込む。恒例となっている春の大型連休期間に合わせたイベントも予定する。

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ふるさとの味に舌鼓 釜石・橋野で水車まつり 農作物の恵みに感謝し「いただきます!」

晴天に恵まれた第19回水車まつり=2日、橋野どんぐり広場

晴天に恵まれた第19回水車まつり=2日、橋野どんぐり広場

 
 農作物の収穫を祝う釜石市橋野町の「第19回水車まつり」は2日、産地直売所橋野どんぐり広場駐車場で開かれた。季節ごとに地域の魅力を発信する「はしの四季まつり」の1年の締めくくりイベント。今年も地元の秋の恵みをふんだんに使った各種メニューが用意され、約300人が青空の下で古里の味を堪能した。
 
 橋野町振興協議会(菊池郁夫会長)、栗橋地区まちづくり会議(洞口政伸議長)が共催。菊池会長が歓迎のあいさつをし、恒例の餅まきからスタートした。軽トラックの荷台からまかれた紅白餅は約800個。老若男女が手を伸ばし、昔ながらの祝いムードが広がった。
 
釜石の祝い事には欠かせない“餅まき”。子どもも大人も楽しむ

釜石の祝い事には欠かせない“餅まき”。子どもも大人も楽しむ

 
宙を舞う紅白餅。ダイレクトキャッチも? 手前の女の子は洋服の前見頃を袋代わりに…

宙を舞う紅白餅。ダイレクトキャッチも? 手前の女の子は洋服の前見頃を袋代わりに…

 
 お振る舞いは地元産の野菜を使った同振興協女性部手作りの豚汁。この味を求めて足を運ぶ客も多く、約300食の提供に今年も長蛇の列ができた。2種のおにぎり、手打ちそば、きびの焼き団子は安価で販売。来場者は好みのものを買い求め、豚汁とともに味わった。
 
食欲をそそる橋野自慢の味「どうぞ、召し上がれ~」

食欲をそそる橋野自慢の味「どうぞ、召し上がれ~」

 
無料の豚汁には長い列が…。炭火で焼くきび団子は香ばしさ満点

無料の豚汁には長い列が…。炭火で焼くきび団子は香ばしさ満点

 
 さらに今年は、同町和山地内に同市2カ所目となる養鶏農場を建設中の一関市のオヤマが初出店。自慢の「いわいどり」ももの唐揚げを販売した。用意した約100パックは早々に完売。同社商品開発課の加藤寛美係長(54)は「まだお客さまが並ばれていたところをお断わりする形になってしまって…」と予想以上の売れ行きにうれしい悲鳴。地域密着のまつりの雰囲気にも感激し、「とてもいいおまつり。皆さんに温かく迎えていただきありがたい。新しい農場もできるのでさらに交流を深められたら」と願った。
 
水車まつり初出店のオヤマ(一関市)。からあげグランプリ最高金賞の一品を多くの客が買い求めた

水車まつり初出店のオヤマ(一関市)。からあげグランプリ最高金賞の一品を多くの客が買い求めた

 
 会場周辺の山々は紅葉シーズン本番。駐車場の植え込みも赤く色づき、秋本番の景色を愛でながら、食事を楽しむ来場者。子ども2人と二戸市から橋野町の実家に帰省した佐藤優美さん(35)は、地元のいとこらと計8人でまつりを楽しんだ。「子どもたちは豚汁が大好き。こうして外で食べるのもいいですね」と声を弾ませ、「橋野は人口が減っているが、イベントなどで多くの人が足を運んでくれるのはうれしいこと」と古里のにぎわいを喜んだ。
 
紅葉や青空に囲まれて食べる豚汁は最高のごちそう。子どもたちの箸も進む

紅葉や青空に囲まれて食べる豚汁は最高のごちそう。子どもたちの箸も進む

 
 大只越町の和田美穂さんは妹親子に誘われて来場。3人で豚汁のほか3メニューをいただき、「そばは手打ちの麺がおいしい。おかわりしました」と舌鼓。会場までの道中は美しい紅葉も楽しみ、「周りの景色に癒やされて、お腹も満たされて…。最高ですね」と秋の休日を満喫した。
 
豚汁、唐揚げ、雑穀おにぎり…。「みんなで食べるとおいしいね!」

豚汁、唐揚げ、雑穀おにぎり…。「みんなで食べるとおいしいね!」

 
 橋野どんぐり広場の藤原英彦組合長によると、今年の地域の農作物は「米は例年並みの収量ながら、野菜は夏の高温、日照りの影響であまり良くなかった」という。今はダイコンやサツマイモが出始め、これからハクサイも並ぶ。この日は店頭に干し柿用のカキも並んだ。
 
 同地域は市内でも有数の農業地帯だが、生産者の高齢化で近年は休耕地が増加。産直への出荷も減っており、担い手確保が最重要課題となっている。昨年6月から漬物の製造販売に保健所の営業許可が必要になったことも影響する。国が定める衛生基準を満たすには設備投資が必要で、個人生産者はほぼ販売をやめてしまった。藤原組合長は「現在、地域の漬物販売の復活に向け動いているところ。近い将来、また橋野ならでは味をお届けしたい」と希望を見いだす。「学校がなくなり、商店も減った今、産直は最後のとりで。地域を維持していくためには絶対必要」と継続への模索が続く。

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海辺地域の活性化へ 釜石の箱崎・根浜で障害児家族対象に初の“海業”モニターツアー

釜石初開催の「海業モニターツアー」で漁船クルーズを楽しむ家族連れ=3日

釜石初開催の「海業モニターツアー」で漁船クルーズを楽しむ家族連れ=3日

 
 海や漁村の資源を活用し地域振興を図る「海業(うみぎょう)」。国が推進し、全国的な広がりを見せる中、本県では2024年度から海での各種体験をメニューとした一般向けのモニターツアーを実施している。釜石市で2、3の両日、開催されたのは障害児とその家族を対象とした初の同ツアー。県内各地から4家族が参加し、漁船クルーズや海の生き物タッチプールなどで楽しい“海旅”時間を過ごした。主催した県農林水産部漁港漁村課は「いずれは各地域で自走化を」と期待を寄せる。
 
 海業は、気候変動による不漁が続く漁業者の所得向上、漁村地域の活性化などを目指す取り組み。1泊2日のモニターツアーはこれまでに大槌町と山田町で開催。3カ所目となる釜石市では鵜住居町の根浜海岸周辺と箱崎町の箱崎漁港が海業推進地区になっていて、現地パートナーの観光地域づくり法人かまいしDMCが企画を担当した。同社は地元の障害児支援NPOと連携し、障害の有無にかかわらず誰でも海を楽しめる「ユニバーサルビーチプロジェクト」を進行中で、その取り組みを海業にも生かしたいと考えた。
 
 参加者は2日に釜石入り。オリエンテーションの後、市内の3宿泊施設に泊まった。3日は2班に分かれ、漁船クルーズとタッチプールを交互に体験した。大槌湾内を巡るクルーズは箱崎漁港から出発。スロープを使って車いすやバギーのまま、家族と一緒に乗り込んだ。船上では船主の説明を聞きながら、リアス海岸特有の景観や定置網漁場を見学。震災後の漁港の復興状況についても教わった。
 
参加者は車いすやバギーに座ったまま乗船可能。いざ、大海原へ!

参加者は車いすやバギーに座ったまま乗船可能。いざ、大海原へ!

 
船上では地元漁師が大槌湾内の漁業や海岸線の景観、震災復興の様子などを説明

船上では地元漁師が大槌湾内の漁業や海岸線の景観、震災復興の様子などを説明

 
大槌町赤浜の名勝「蓬莱島」(ひょうたん島)も海上から見学。シンボルの赤い灯台は震災の津波で倒壊し、その後再建されたもの

大槌町赤浜の名勝「蓬莱島」(ひょうたん島)も海上から見学。シンボルの赤い灯台は震災の津波で倒壊し、その後再建されたもの

 
 船を出した漁業者の一人、柏﨑之彦さん(71、片岸町)は震災前、根浜地区で行われていたグリーン・ツーリズム事業に参加。震災後は復興支援で訪れた人たちなどを船に乗せて案内してきた。「自分たちの仕事や自然を見せられるのはうれしいこと。人とのつながりもでき、その後、交流が続いている人たちもいる」。海業ツアーが事業化され、収入につながることも期待するが、「何より乗った人が喜んでくれるのが一番」とおもてなしの心をのぞかせる。
 
湾内の定置網漁について教える柏﨑之彦さん(右)

湾内の定置網漁について教える柏﨑之彦さん(右)

 
 根浜海岸レストハウスでは、岩手大釜石キャンパスで学ぶ3、4年生3人が準備した“海の生き物”タッチプールを楽しんだ。学生らが釜石の海で釣り上げた魚を中心に16種類の生き物が放たれた。子どもたちは恐る恐る水中に手を伸ばし、魚貝類の手触りを確かめた。
 
岩手大釜石キャンパスの学生らが釣った魚やナマコ、ウニなどが放たれたタッチプール

岩手大釜石キャンパスの学生らが釣った魚やナマコ、ウニなどが放たれたタッチプール

 
マダコの感触にびっくり仰天!笑顔を広げる親子

マダコの感触にびっくり仰天!笑顔を広げる親子

 
 北上市の医療的ケア児、羽藤凰ちゃん(3)は両親、祖母、兄2人と参加した。保育施設での誤えん事故で低酸素脳症となり、後遺症の重い障害のため家族の介助で暮らす凰ちゃん。船上では視線を左右に向け、手に乗せてもらった海の生き物もじっと見つめた。母緋沙子さん(37)によると、凰ちゃんの退院後、宿泊を伴う家族旅行は初めて。これまでは外出の際、あきらめざるを得なかった場面が多々あったが、「漁船に乗せてもらい、人の手を借りれば(凰ちゃん)何でもできるんだ」と実感できたという。宿泊先の宝来館でも積極的に要望を聞いてくれて、夜間に必要な呼吸器など多くの荷物の搬入も手伝ってもらった。「聞いてもらうことで、逆に『これが足りなかった』とか、自分たちも気付けなかった課題が見えた」と話す。
 
初めての漁船クルーズを楽しむ羽藤さん一家。次男杏くんはおひさまの光と波の揺れに身をまかせウトウト?(左)

初めての漁船クルーズを楽しむ羽藤さん一家。次男杏くんはおひさまの光と波の揺れに身をまかせウトウト?(左)

 
さまざまな海の生き物に触れ、たくさんの思い出を作った

さまざまな海の生き物に触れ、たくさんの思い出を作った

 
 兄弟3人で同じ体験をさせてあげられたことも喜ぶ緋沙子さん。海が好きだという長男優さん(10)は初めて見る船上からの景色に目を輝かせ、「水しぶきを飛ばしながら走る船が楽しかった。面白かったのは、漁師さんが教えてくれた鬼の伝説の話。また乗りたい」と心を躍らせた。家族で夢のような時間を過ごせたことに感謝する羽藤さん一家。緋沙子さんは「モニターとしての自分たちの経験が、同じ悩みを持つご家族の役に立てば。当事者家族にとってこうした情報が得られるかどうかも大きなポイント。積極的な情報発信にも期待したい」と話した。
 
 レストハウスでは、箱崎町白浜の漁業者がマダラやアイナメ、イカのさばき方を実演。昼食は参加者全員でバーベキューを楽しんだ。
 
地元漁師が魚のさばき方を実演。プロの手際に興味津々

地元漁師が魚のさばき方を実演。プロの手際に興味津々

 
 県が補助金を入れて行う同モニターツアーは各地区で2年間実施。釜石市では今回の参加者のアンケートをもとに修正を加え、来年度も実施する計画。かまいしDMC地域創生事業部の佐藤奏子さん(根浜・箱白地域マネジャー)は「ユニバーサルビーチの取り組みを土台にした新たなチャレンジ。参加者の声をもらいながら、持続可能な形でどう実現できるか検討していきたい」と今後の展開を見据える。

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色づく紅葉 ランナー後押し かまいし仙人峠マラソン キツさ楽しみ、坂道ひた走る

延々と続く⁉上り坂に挑む「かまいし仙人峠マラソン大会」

延々と続く⁉上り坂に挑む「かまいし仙人峠マラソン大会」

 
 第16回かまいし仙人峠マラソン大会(同実行委主催)は10月26日、釜石市甲子町大橋の旧釜石鉱山事務所を発着地点に開かれた。平坦な道がほとんどない2つの難コースに293人がエントリーし、うち250人が出走。あいにくの雨模様となったが、色づいた紅葉を背景に挑戦者たちが健脚を競った。
 
 昨年の16.9キロから従来の形に戻した17.2キロの峠コースと、家族で参加し走ることを楽しんでもらおうと復活させた10キロコースで実施。国道283号仙人トンネルまでを往復する峠コースに156人、甲子町大松で折り返す10キロコースには94人が挑んだ。
 
 開会式で実行委の小泉嘉明会長、開催市を代表し小野共市長があいさつに立ち、16回と歴史を刻む大会に全国各地から集ったランナーを歓迎した。最も遠方から参加した愛知県名古屋市の菊池竹美さん(76)は、走者仲間に気合を入れる役目を担い登壇。幼少期を過ごした古里や、東日本大震災から立ち上がり復興を進めた人々への思いを込め「フレーフレー釜石。ファイトー仙人峠マラソン」とエールを送った。
 
峠コース(17.2キロ)の参加者が駆け出す

峠コース(17.2キロ)の参加者が駆け出す

 
 午前10時に峠コース、10分遅れで10キロコースのランナーがスタート。5キロの折り返し地点まで勢いよく駆け下りた。標高差約400メートル、平均斜度5%の坂上がりでは、沿道の声援を受けながら一歩一歩力強く前進。序盤は控えめだった紅葉も、上るにつれ彩りが増し、ランナーたちの背を押した。
 
仙人大橋手前の上り坂を駆け上がる峠コースの参加者

仙人大橋手前の上り坂を駆け上がる峠コースの参加者

 
歯を食いしばり一歩一歩前へ(右)。勾配が少ない高架橋で一息(左)。ここから折り返し地点の頂上まで急坂が続く

歯を食いしばり一歩一歩前へ(右)。勾配が少ない高架橋で一息(左)。ここから折り返し地点の頂上まで急坂が続く

 
橋を渡り給水ポイントへ。ボランティアの声援を力に必死に頂上を目指す。タイガーマスクもこの表情!(右上)

橋を渡り給水ポイントへ。ボランティアの声援を力に必死に頂上を目指す。タイガーマスクもこの表情!(右上)

 
雨にぬれた紅葉もオツなもの?! 美しい秋景色が参加者の疲れを癒やす

雨にぬれた紅葉もオツなもの?! 美しい秋景色が参加者の疲れを癒やす

 
 「年に1回の再会を楽しみに」。地元釜石から参加を重ねる介護士の上村健さん(58)は東京や新潟の知人ランナーと峠コースに飛び出した。時に歩きも入れながら無事完走。「苦しいけど、走るのに夢中になる。紅葉もきれいだった。地元の大会だから参加し続け盛り上げたい」と話した。帰り際、知人に向けガッツポーズを掲げ、「会うぞ!」とひと言。早くも来年を見据えていた。
 
地元釜石市からの峠コース参加者。カメラを向けるとこの笑顔(右)

地元釜石市からの峠コース参加者。カメラを向けるとこの笑顔(右)

 
数少ない峠コースの女性参加者。20~60代まで幅広い年齢層が元気な走り

数少ない峠コースの女性参加者。20~60代まで幅広い年齢層が元気な走り

 
青森県から参加した外国人男性はすれ違うランナーに「ナイスラン!」と声がけ

青森県から参加した外国人男性はすれ違うランナーに「ナイスラン!」と声がけ

 
白い霧にかすむ頂上周辺。来年の大会は晴天になりますように…

白い霧にかすむ頂上周辺。来年の大会は晴天になりますように…

 
 3回目の挑戦となった松田美紀さん(49)は今回、10キロコース女子40歳以上59歳以下の部で1位を獲得。地元の力を見せた結果に「びっくり。でも、やっぱりうれしい」と笑顔を見せた。峠コースほどではないが、標高差は約160メートルあり「ラスト1キロがきつい」と苦笑。子育てをしながら大好きな走ることを継続中で、「いつか峠コースに挑戦してみたい」と思い描いた。
 
色づき始めた木々を背に走る10キロコースの参加者

色づき始めた木々を背に走る10キロコースの参加者

 
 6カ所に設けられた給水ポイントのうち、5カ所でバナナや菓子など食品も提供された。立ち寄ったランナーがエネルギーを補給した一品には、手土産として人気の「東京ラスク」も。釜石に製造工場があることから、製造販売のグランバー(本社・千葉県)はチームで参加した。
 
給水ポイントは交流の場。提供品の「東京ラスク」もしっかりPR

給水ポイントは交流の場。提供品の「東京ラスク」もしっかりPR

 
「東京ラスク」が力。完走を喜ぶグランバーチーム

「東京ラスク」が力。完走を喜ぶグランバーチーム

 
 その一人、神尾拓真さん(23)は社内のマラソンクラブに所属し、ゆかりのある地域の大会に出場しているランナー。アップダウンが激しいコースは初挑戦だった。「想像以上に大変だったけど、高いところから見下ろす景色はすごかった」と笑い話にした。沿道の応援があたたかく、「ラスク、おいしい」との声にはうれしくなった。地域に根差し、支えられている会社だと改めて感じたようで、「来てよかった」と満足げにうなずいた。
 
 釜石工場で働くファジャル アラムシャーさん(26)は10キロを走り終え、「めっちゃ楽しい」と満喫した。インドネシアから来日し、釜石生活2年目で初参加。「みんなと走れてよかった。今度は峠コースを。夢は大きい方がいい」と明るい笑い顔を残した。
 
給水ポイントでランナーを支えた甲子中の生徒有志。応援にも力が入る

給水ポイントでランナーを支えた甲子中の生徒有志。応援にも力が入る

 
 大会運営には例年、多くの市民ボランティアが協力する。地元甲子中の生徒有志の協力もその一つ。今年は1~3年生の男女12人が活動を希望し、仙人大橋付近の給水ポイント2カ所で選手のサポート、応援にあたった。1年の奥寺叶愛さんは大会を見るのも初めての経験。急坂を駆け上がる選手たちに大きな声で声援を送り、「あきらめずに一生懸命走っているのがすごい。自分も力をもらった」と目を輝かせた。学校では特設ラグビー部で活動。「走るのは好き。将来、仙人マラソンにも挑戦してみたい」と刺激を受けていた。
 
足元は…なんと“一本歯”のげた!!応援に訪れた甲子町住民と記念撮影

足元は…なんと“一本歯”のげた!!応援に訪れた甲子町住民と記念撮影

 
年齢に負けじ!必死の形相でゴールに駆け込むランナー

年齢に負けじ!必死の形相でゴールに駆け込むランナー

 
開会式で参加者にエールを送った菊池竹美さんは走りも元気

開会式で参加者にエールを送った菊池竹美さんは走りも元気

 
 第1回大会が行われたのは2010年で、当時は岩手県主体だった。他にはない特徴的なコースを発案したのが県職員の村上正さん(63)=紫波町。16回目の今大会に出走した。「こんな(大変な)コース考えなければよかった」と自嘲気味な笑みを浮かべつつ、「ゴール後の爽快感はやっぱり格別」と余韻に浸った。
 
仙人峠マラソン発案者の村上正さん(右)、ねぎらう大会関係者

仙人峠マラソン発案者の村上正さん(右)、ねぎらう大会関係者

 
村上さん(左)は峠コース男子60歳以上の部で3位に入賞

村上さん(左)は峠コース男子60歳以上の部で3位に入賞

 
 村上さんいわく、復興支援道路・釜石道の開通により交通量が減った国道283号仙人峠道路の活用と地域のにぎわい創出をもくろむイベントは時期もポイント。紅葉という景色を楽しみながら険しい道のりに挑む大会の継続を願う。

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明治日本の産業革命遺産8エリアのガイド 釜石で初研修 世界遺産登録10周年機に価値発信へ意欲

世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」のガイドによる研修会=10月23日、橋野鉄鉱山

世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」のガイドによる研修会=10月23日、橋野鉄鉱山

 
 世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」のガイド研修会が10月22、23の両日、釜石市で開かれた。8県11市にある23の資産で構成される同遺産は今年、世界遺産登録から10周年を迎えた。各地で遺産の価値、保全の重要性を伝える活動を担うガイドらが一堂に会する研修は、登録(2015年)の翌年にスタート。構成資産「橋野鉄鉱山」がある釜石市が会場となるのは今回が初めてで、座学や遺産の現地視察を行った。
 
 関係自治体で組織する世界遺産協議会が、ガイドの情報交換や資質向上、価値の共有を目的に開催。8エリアからガイドと自治体職員計66人が参加した。初日は大町の釜石PITで事例発表などが行われた。始めに協議会事務局の鹿児島県世界文化遺産室の加世田尊主査が、遺産価値やガイドに求めることを説明。同遺産は23構成資産全体で一つの価値を有する遺産であり、「全エリアで共通の説明を行うことが大事」と話した。伝えるべきポイントとして▽全体の遺産価値▽構成資産としての位置付け▽地域としての価値-を挙げた。
 
全国8エリアのガイドが集まり学びを深めた=10月22日、釜石PIT

全国8エリアのガイドが集まり学びを深めた=10月22日、釜石PIT

 
釜石の鉄の歴史について話す釜石市教委文化財課世界遺産室の森一欽室長

釜石の鉄の歴史について話す釜石市教委文化財課世界遺産室の森一欽室長

 
 事例発表では地元釜石市から2人が登壇した。同市教委世界遺産室の森一欽室長は磁鉄鉱を生んだ三陸の大地の成り立ち・地質、たたらから近代化に至る釜石の製鉄の歴史、他エリアとの関わりについて説明。参加者の質問にも答えた。
 
 橋野鉄鉱山をはじめ、同市のさまざまな分野のガイド活動を行う「釜石観光ガイド会」の菅原真子さんは、2002年の会発足からの活動経過を紹介した。東日本大震災(11年)以降、三陸海岸の日本ジオパーク認定(13年)、明治日本の産業革命遺産の世界遺産登録(15年)、ラグビーワールドカップ釜石開催(19年)と、ガイド活動に新たな要素が次々に加わった。釜石のジオサイトには橋野鉄鉱山や釜石鉱山も含まれる。「ジオの側面から鉄鉱石を解明していくのも魅力的」と菅原さん。活動の課題として人口減少や高齢化による人材不足を挙げた。鉄への共感の難しさはあるが、「橋野鉄鉱山の本当の歴史的価値を伝え続けることが私たちの大きな役割。『来て良かった。また来たい』と言ってもらえるようなガイドをしていきたい」と意欲を示した。
 
事例発表でこれまでの活動について話す釜石観光ガイド会の菅原真子さん

事例発表でこれまでの活動について話す釜石観光ガイド会の菅原真子さん

 
「明治日本の産業革命遺産」の他エリアのガイド活動などに理解を深める参加者

「明治日本の産業革命遺産」の他エリアのガイド活動などに理解を深める参加者

 
 この日夜には、走行する三陸鉄道車内を貸し切って交流会も開かれた。2日目はいよいよ、橋野鉄鉱山(橋野町青ノ木)の現地視察。釜石観光ガイド会の会員10人がアテンドした。市中心部から運行した送迎用大型バス2台にも会員が乗り込み、約30キロの道中ガイドも行った。現地では4グループに分かれ、会員の案内で一般公開されている高炉場跡の見学を行った。
 
構成資産の一つとなっている釜石市の「橋野鉄鉱山」。高炉場跡には3基の高炉の石組み、水路跡などが残る

構成資産の一つとなっている釜石市の「橋野鉄鉱山」。高炉場跡には3基の高炉の石組み、水路跡などが残る

 
種焼場跡にある石に磁石を近づけてみる参加者。鉄鉱石が今も残る

種焼場跡にある石に磁石を近づけてみる参加者。鉄鉱石が今も残る

 
 官営八幡製鉄所拡張に伴い、工業用水確保のために設置された「遠賀川水源地ポンプ室」が構成資産となっている長崎県中間市でガイド活動を行う下山要さん(84)は八幡製鉄所のOB。1901(明治34)年に記念すべき火入れが行われた東田第一高炉の第10次改修高炉(1962年から10年間稼働)で働いた経験を持つ。橋野鉄鉱山を初めて訪れ、「(八幡につながる)近代製鉄の基礎を作った大島高任さんの実績に触れることができ、感激です」と大喜び。各地のガイドとの意見交換も有意義だったようで、「皆さんの活動に刺激を受けた。ガイドを始めて12年になるが、若い人に語り継ぐ大切さを日々、感じている。できるだけ続けていければ」と思いを新たにした。
 
釜石観光ガイド会の会員らが橋野鉄鉱山について解説。ここで行われていた作業などを聞き、参加者も興味をそそられた

釜石観光ガイド会の会員らが橋野鉄鉱山について解説。ここで行われていた作業などを聞き、参加者も興味をそそられた

 
 長崎市の構成資産「端島炭鉱」(軍艦島)のデジタルミュージアム専属ガイド、政次斗志郎さん(71)は、端島の石炭が深く関わる製鉄の歴史に興味津々。田中製鉄所時代の釜石での“48回の失敗、49回目の成功”に触れ、「まさに失敗は成功のもと。最初はうまくいかなかった八幡製鉄所を釜石から招いた技術者が成功に導いたことも印象的」と話す。橋野鉄鉱山の高炉場跡を実際に歩いたことで、「鉄をつくるための天然の条件がすべてそろっていたのだと感じられた」。登録10周年にあたり、「多くの先人の失敗や犠牲に導かれ、今、私たちは文化的生活を送れている。歴史を知るとその大事さが分かる。これからもその伝道師として頑張っていきたい」と政次さん。
 
エリア内には山神社跡も。山の斜面には石碑が残る(右上)。案内したガイドは春に“石割桜”が花を咲かせる写真も見せた(右下)

エリア内には山神社跡も。山の斜面には石碑が残る(右上)。案内したガイドは春に“石割桜”が花を咲かせる写真も見せた(右下)

 
「また会いましょう!」世界遺産でつながるガイド仲間を見送る釜石観光ガイド会員ら

「また会いましょう!」世界遺産でつながるガイド仲間を見送る釜石観光ガイド会員ら

 
 釜石観光ガイド会の藤原信孝副会長は「登録10周年の年に全国のガイドの皆さんを釜石にお迎えできてうれしい。8エリアの一体感を感じた」と感慨深げ。一つの世界遺産ということを実感できると、「発信力も高まっていく。この世界遺産登録のおかげで、多くの人とのつながりもできた」と喜ぶ。この10年の間には、橋野鉄鉱山の台風被害、コロナ禍などガイド活動に影響を及ぼす事案も多々あった。「これからは蓄えてきたガイド力を存分に発揮する時期。若いガイドも育ってきているので、より活動を発展させていければ」と次の10年を見据える。

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伝統、世代、思いつなぐ「釜石まつり」 神輿・曳き船 勇壮、華やかに練る

2基の神輿が市街地を練り歩く釜石まつり=19日

2基の神輿が市街地を練り歩く釜石まつり=19日

 
 釜石市の尾崎神社(浜町)と日本製鉄北日本製鉄所釜石地区山神社(桜木町)合同の「釜石まつり」(同実行委主催)は17日から3日間にわたって行われ、秋の気配を感じるまちに華やかな色彩を加えた。18日は呼び物の「曳(ひ)き船まつり」が釜石湾内で繰り広げられ、最終19日は神輿(みこし)が市中心部を練り歩いた。沿道は多くの見物人でにぎわい、主催者によると、18、19の2日間で約1万3000人の人出があった。
 
多くの見物人でにぎわう曳き船まつり=18日

多くの見物人でにぎわう曳き船まつり=18日

 
 曳き船まつりは、尾崎神社の神輿が海上を渡御する伝統神事。尾崎半島青出浜の同神社奥宮で神輿にご神体を迎えた16隻の船団が港に戻ると、神楽や虎舞などの郷土芸能団体が威勢のいいかけ声、太鼓や笛の音を響かせ歓迎した。色鮮やかな大漁旗を掲げた船団は湾内を3周。海上安全や豊漁などを祈願した。
 
神輿をのせたお召し船を中心に十数隻が大漁旗をなびかせた

神輿をのせたお召し船を中心に十数隻が大漁旗をなびかせた

 
 釜石市出身でまつり見物のため里帰りした静岡県在住の德原まりのさん(31)は「おはやしを聞けば胸が高鳴る」と楽しむ。子どもの頃、南部藩壽松院年行司支配太神楽のメンバーとしてまつりに参加していたといい、「海から見ていた景色を初めて浜から見た。新鮮だった」とにっこり。夫正伸さん(34)や2人の子どもたちは初見で、「船が(海上を)練り歩くのに感動した」と、目を大きくした。
 
 昨年は悪天候で中止になったため2年ぶりの開催だった。今年は乗船する人数が限られ、芸能団体の演舞はおはやしが中心となり、「寂しいな」との声も。それでも、まつりは人が集まるきっかけにもなり、市内の野澤晴美さん(58)は「子や孫と3世代で楽しめた。また来年も」と願った。
 
秋めく街中を練り歩く尾崎神社の六角大神輿=19日

秋めく街中を練り歩く尾崎神社の六角大神輿=19日

 
 合同神輿渡御には郷土芸能15団体を含む約1500人が参加。鈴子町のシープラザ釜石西側駐車場で合同祭の神事を行った後、魚河岸までの目抜き通りを2基の神輿が練り歩いた。先導した各団体が、途中の「御旅所」や大町のお祭り広場で神楽や虎舞、鹿踊りなどを披露。沿道の見物客から盛んな拍手を受けた。
 
尾崎神社と日本製鉄山神社の神輿が並んで街を練る

尾崎神社と日本製鉄山神社の神輿が並んで街を練る

 
お祭り広場で鹿踊りなどの芸能が披露された

お祭り広場で鹿踊りなどの芸能が披露された

 
 大町から只越町の目抜き通りで、2基の神輿は並んでゆっくりと進んだ。出迎えた市民らはさい銭をあげて神輿に手を合わせ、地域の守り神に感謝。80代の女性はこれまで子どもの成長や地域の安寧などを願ってきたというが、今年は自身の思いを祈りに込めた。「来年も(守り神に)会えるよう、元気でいるから」。神輿を見送り、「歳をとると一年は貴重なの」と柔らかな笑顔を見せた。
 
さい銭で気持ちのやりとりをする親子と行列参加者

さい銭で気持ちのやりとりをする親子と行列参加者

 
通りを練り歩く神輿に手を合わせる釜石市民ら

通りを練り歩く神輿に手を合わせる釜石市民ら

 
 尾崎神社の神輿担ぎ手団体「輿衆(よしゅう)会」は、近隣の大槌町などからの助っ人と声を合わせ六角大神輿を担ぎ上げた。メンバーで岩手県職員の伊藤満さん(49)=大船渡市在住=は「重みが肩にずっしり。大変だけど、みんなで力を合わせられるのがいい」と笑みをこぼす。東日本大震災前に当時の会長から誘われ参加し、「何となく担いでいた」。その人は震災の津波で帰らぬ人に。まつり継続への思いを引き継ぎ、「地域振興につながるよう、できることを続ける」と熱を込めた。
 
目抜き通りを練り歩く日本製鉄山神社の神輿

目抜き通りを練り歩く日本製鉄山神社の神輿

 
小さな神輿は製鉄所に勤める社員らの子どもが担ぎ手に

小さな神輿は製鉄所に勤める社員らの子どもが担ぎ手に

 
 釜石製鉄所に勤務する村上陽平さん(27)は「歴史あるまつりを継承する一役を担う」と気持ちを込め、山神社の神輿を肩にのせた。釜石シーウェイブス(SW)RFCに所属するラグビー選手でもあり、チームメート7人とともに参加。3カ月前に合流したオーストラリア出身のルル・パエアさん(22)ら海外出身選手が「新鮮で、めっちゃおもしろい」と楽しむ様子を見つめ、「日本の伝統文化に触れ、地域になじんでもらえたら」と期待する。声を出しチームを盛り上げるスクラムハーフ(SH)の村上さん。「勝利へエナジー、パッションを与えていく」と顔を上げた。
 
 さい銭を首から下げ、まつり行列に参加した二村沙羅さん(22)は、神奈川県在住の大学生。「ありがとうございます」と言葉を交わし、見物人と交流した。釜石市のお試し移住制度を活用し滞在中で、地元とは違った文化に触れる機会を満喫。「若い人たちが声を出して盛り上げているのがいい。朝から活動ができ、健康的な生活ができる」と、街の印象を話した。
 
神楽や虎舞など各団体が伝統の舞いで魅せる

神楽や虎舞など各団体が伝統の舞いで魅せる

 
 行列が魚市場御旅所に到着すると、神楽、虎舞の6団体が最後の踊りを奉納。尾崎神社の神輿はご神体を奥宮にかえすため船にのせられ、各団体がはやし立てる中、岸壁を離れた。見送りは船が見えなくなるまで続いた。

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岩手3世界遺産(平泉・橋野鉄鉱山・御所野遺跡)を同時発信 登録10周年の釜石でまつり

3世界遺産応援団キャラクターと記念撮影!(左から)かまリン、ケロ平、ごしょどん

3世界遺産応援団キャラクターと記念撮影!(左から)かまリン、ケロ平、ごしょどん

 
 国内最多、鹿児島、奈良両県と並んで3つの世界遺産を有する岩手県。その価値を一堂に発信し、理解や誘客につなげようと、県主催の「いわて世界遺産まつり」が今年も開かれた。会場となったのは、登録から10周年を迎えた「橋野鉄鉱山」がある釜石市。11、12の両日、同市大町の市民ホールTETTOで開催され、来場者が講話やディスカッション、展示で遺産への理解を深めるとともに、民俗芸能や音楽ライブを楽しんだ。
 
 本県の世界遺産は2011年登録の「平泉(の文化遺産)」、15年登録の「橋野鉄鉱山」、21年登録の「御所野遺跡(一戸町)」の3つ。橋野鉄鉱山は「明治日本の産業革命遺産(8県11市23資産)」、御所野遺跡は「北海道・北東北の縄文遺跡群(4道県13市町17資産)」の構成資産として登録された。同まつりは22年から始まり4回目の開催。釜石が会場となるのは23年以来2回目となる。
 
本県の3世界遺産を紹介するパネル展示。子どもたちはブロックに目がくぎ付け

本県の3世界遺産を紹介するパネル展示。子どもたちはブロックに目がくぎ付け

 
 12日のイベントではオープンスクールとして、平泉と橋野鉄鉱山の概要などを学べる講話があった。平泉町世界遺産推進室長補佐の島原弘征さんは、奥州藤原氏が目指した仏国土(仏の教えによる平和な理想社会)について「(世界遺産になった)中尊寺金色堂や毛越寺の浄土庭園は平和の理念を当時の人々に分かりやすく伝えるためのもの。最先端の技術を使い、文化レベルの高さを示すことで、朝廷(京都)と対等な関係を築こうとした」と解説。池の形や道路の位置など当時の地形、風景が状態よく残っていたことも評価のポイントに挙げた。
 
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平泉の文化遺産について説明する島原弘征さん(右下)

 
 釜石市教委文化財課世界遺産室長の森一欽さんは、明治日本の産業革命遺産について「イギリス、フランスでは約200年かかった産業革命を、日本では60年ぐらいで成し遂げている」と、その価値を示した。同遺産は「製鉄・製鋼」「造船」「石炭」の3分野を基盤に急速な発展を遂げていく過程を3段階で示す。①試行錯誤の挑戦…萩や韮山の反射炉建設、大島高任が蘭学書を頼りに釜石で高炉を建設し、鉄鉱石からの鉄づくりに成功した時期。②西洋の科学技術の導入…外国人技術者の招へいによって西洋の科学技術導入が進み、長崎の造船、石炭産業が発展していく時期。③産業基盤の確立…釜石のコークス炉の技術を導入した官営八幡製鉄所が成功。長崎(端島)、三池の石炭産業が近代化され、日本が国際水準に達していく時期。森さんは釜石と他の遺産エリアとのつながりも紹介。製鉄では「近代製鉄発祥は釜石。達成は八幡」と覚えやすいフレーズを残した。
 
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釜石市の森一欽さんは明治日本の産業革命遺産について分かりやすく解説した

 
 会場では岩手の世界遺産に関係したものづくりのワークショップを開催。御所野は組紐、橋野は鋳造、平泉は絵付け体験などを実施。県内高校生による民俗芸能公演もあった。音楽ライブには奥州市出身の鶴田流薩摩琵琶演奏家千山ユキさん、大槌町出身の大久保正人さんを中心に結成する音楽集団「和美東(わびとう)」が出演した。千山さんは源氏物語をテーマにした「春の宴」、奥州藤原氏初代清衡の平和への願いを込めたオリジナル曲「修羅と浄土」を披露。和美東は、自然や神への思いを込めた「光る海」「涙の糸」など4曲を演奏。両者のコラボで「祇園精舎」、宮沢賢治作品「ポラーノ広場」の中の歌曲も披露した。
 
高校生の民俗芸能披露の場を提供するのも目的の一つ。写真は花巻農業高の鹿踊(ししおどり)

高校生の民俗芸能披露の場を提供するのも目的の一つ。写真は花巻農業高の鹿踊(ししおどり)

 
鶴田流薩摩琵琶演奏家の千山ユキさん。なかなか触れる機会のない弾き語りに来場者はじっくりと聞き入った

鶴田流薩摩琵琶演奏家の千山ユキさん。なかなか触れる機会のない弾き語りに来場者はじっくりと聞き入った

 
「和美東」は和と洋を融合させた独自の音楽で観客を魅了。千山さんの琵琶ともコラボした

「和美東」は和と洋を融合させた独自の音楽で観客を魅了。千山さんの琵琶ともコラボした

 
被災家屋のタイルや屋根瓦も楽器に…深みのある音色を作り出す

被災家屋のタイルや屋根瓦も楽器に…深みのある音色を作り出す

 
 母親と訪れた市内の小学生菊池芽生さん(10)は来場とともに体験コーナーへ。スズを溶かして鋳造するキーホルダーづくりを楽しんだ。干支の“羊”をかたどり、「(出来栄えは)まあ、いいほうかな」とにっこり。県内の世界遺産は「橋野と平泉は知っていた。3つもあるのはすごいと思う」。歴史が好きで大河ドラマも視聴。行ってみたい世界遺産を聞いてみると「清水寺(古都京都の文化財、1994年登録)」との答えが返ってきた。
 
釜石・鉄の歴史館でおなじみの鋳造体験。高温で溶かしたスズを流し入れてキーホルダーを作る

釜石・鉄の歴史館でおなじみの鋳造体験。高温で溶かしたスズを流し入れてキーホルダーを作る

 
 県文化スポーツ部文化振興課の和田英子総括課長は「世界遺産は価値の普及が大事。保存の必要性を知り、世界の宝としてみんなで守り、引き継いでいく姿勢が必要」と話す。3遺産は地理的距離があり、「県外の方は1回で回るのは難しいと思うので、先々でのさまざまな観光も楽しみに何回も足を運んでもらえれば」と期待する。

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太古の地球が生んだ絶景ビーチに感激 遊んで学んで自然の両側面知るワンデイキャンプ

12回目を迎えた「海あそびワンデイキャンプ」=8月24日、箱崎半島

12回目を迎えた「海あそびワンデイキャンプ」=8月24日、箱崎半島

 
 釜石市の箱崎半島入り江の海岸で8月24日、親子で海遊びを楽しむ日帰りキャンプが行われた。地元で海に関わる活動を行う団体や漁師らでつくる、海と子どもの未来プロジェクト実行委「さんりくBLUE ADVENTURE(ブルー・アドベンチャー)」が主催。しっかりとした安全管理のもとで海に親しみ、郷土の豊かな自然や危険から身を守るすべを知ってもらおうと始められ、今年で12年目を迎える。中学生以下の子どもと保護者が対象で、今回は市内外から42人が参加した。
 
 キャンプ地の海岸には、箱崎町の白浜漁港から地元漁師が操縦するサッパ船で“上陸”。通称「小白浜」という名で地元住民に古くから親しまれてきた隠れ家的ビーチは大槌湾に面し、美しい白砂、周辺の山林と太陽光で生み出される海面の色合いが目にも鮮やかな景色を見せている。
 
三陸ジオパーク内にある箱崎白浜の絶景ビーチ“小白浜”。手付かずの自然が残る

三陸ジオパーク内にある箱崎白浜の絶景ビーチ“小白浜”。手付かずの自然が残る

 
 ウエットスーツとライフジャケットを身に着けた参加者は、海遊びの前に安全に関する説明を受けた。地震津波発生時は海に流れ込む沢伝いの斜面を駆け上がり、高台のハイキング路に迅速避難すること、人の目の届かない危険な岩場には行かないことなどを確認した。万が一のクマ出没に備えた注意喚起や追い払いの方法の実演も。この日は同イベントを初回から支える釜石ライフセービングクラブのメンバーやダイビング関係者、漁師など“海の専門家”と、大槌高の生徒などボランティアスタッフ計42人が参加者をサポートした。
 
遊びの前に緊急時の避難路やライフセーバー(右上)の役割などを説明

遊びの前に緊急時の避難路やライフセーバー(右上)の役割などを説明

 
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シュノーケリング用の道具は主催者が貸し出し

 
インストラクターから装備やパドルのこぎ方を教わり、海遊びスタート!

インストラクターから装備やパドルのこぎ方を教わり、海遊びスタート!

 
 参加者はインストラクターの手ほどきを受けながら、シーカヤックやスタンドアップパドルボード(SUP=サップ)、シュノーケリングに挑戦。海面を進む爽快感を味わったり、水中の生き物を探したりと思い思いに楽しんだ。救助や監視に使う水上オートバイに乗せてもらえる体験も。浜辺と海上で海の魅力を存分に味わった。午後からは海中転落や溺れそうになった時に取る姿勢「浮いて待て(浮き身)」の方法を学ぶ講習も行われた。
 
ボードに乗って、いざ大海原へ。ワクワク感いっぱい

ボードに乗って、いざ大海原へ。ワクワク感いっぱい

 
さまざま遊びに笑顔を輝かせる子どもら。海の気持ち良さを満喫

さまざま遊びに笑顔を輝かせる子どもら。海の気持ち良さを満喫

 
 大船渡市の熊谷裕子さん(40)、唯さん(15)親子は初めて参加。過去に溺れかけた経験から「海は苦手」という唯さんに「少しでも克服してもらえれば」と、裕子さんが誘った。カヤックや水上オートバイに乗った唯さんは「思ったよりも楽しかった。水上バイクは普段行くことのない海域まで行って、いろいろな発見があった」。深い所に足を踏み入れるのは「まだ怖い」が、美しい景色に癒やされ、夏の思い出を一つ増やした。裕子さんは「海は身近な場所。豊かな自然に触れて感じたことを心にとどめながら成長していってくれれば」と願った。
 
 奥州市の内山輝一さん(6)は「泳ぐの、楽しかった。海の色がきれい」と大喜び。姉の優綾さん(9)は「ゴーグルをつけて泳ぐと魚が見えるので、プールより楽しい。フグとかフナみたいな形の魚がいた。帰ったらママに話したい」とにっこり。父晃太さん(32)がボランティアに誘われた縁で、子ども3人も参加。釣りが好きで、海にはよく来ているという一家だが、この海岸は初めて。「いい所ですね。(岩手にも)こういう場所があることを知れて良かった」と晃太さん。楽しそうな子どもたちの姿に目を細め、「自然に身を置く体験をさせたい。今はどうしてもゲームとか動画とかに夢中になりがちなので…」と野外活動で得られる効果を期待した。
 
海にはいろいろな生き物が… 採集した魚などを見て触って観察

海にはいろいろな生き物が… 採集した魚などを見て触って観察

 
ライフジャケットを着用しているので浮くのも楽々。手足を伸ばして水に体を委ねる

ライフジャケットを着用しているので浮くのも楽々。手足を伸ばして水に体を委ねる

 
 サポートスタッフの中には首都圏からの参加者も。ダイビング仲間の誘いで初めて釜石を訪れた東京都の鈴木洋平さん(48)は、複雑に入り組んだリアス海岸特有の地形や海中の透明度、白砂の美しさに感激。東日本大震災後に進んだ“海離れ”を食い止めようと活動する地元関係者の取り組みに共感し、「自然の厳しさと楽しさ、両面を知って海で遊ぶというのは大事なこと。子どものころの自然体験の思い出が強いほど、大人になった時に日常から自然にふらっと戻れるようになる。自然を大切にしていこうという気持ちも生まれると思う」と話した。
 
ライフセーバーは海上パトロールや水上オートバイ体験の操縦に大忙し

ライフセーバーは海上パトロールや水上オートバイ体験の操縦に大忙し

 
協力団体、企業のフラッグを掲げ、記念写真に収まる参加者とスタッフら

協力団体、企業のフラッグを掲げ、記念写真に収まる参加者とスタッフら

 
 主催する実行委は2013年の設立以降、同キャンプを継続。トライアスロン競技で釜石と縁の深いマイケル・トリーズさんが震災後に立ち上げた支援組織「Tri 4 Japan(トライ・フォー・ジャパン)」が、資金の提供などで活動を支えてきた。20年からは、釜石市のふるさと納税「団体指定寄付」の対象にもなっている。

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マルシェ、ラベンダー、音楽、史跡ガイド 祝10周年! 五感で楽しむ世界遺産「橋野鉄鉱山」 

「橋野鉄鉱山」世界遺産登録10周年を記念したイベント=13日、インフォメーションセンター駐車場

「橋野鉄鉱山」世界遺産登録10周年を記念したイベント=13日、インフォメーションセンター駐車場

 
 明治日本の産業革命遺産「橋野鉄鉱山」の世界遺産登録10周年を祝う現地イベントが13日、釜石市橋野町の同インフォメーションセンター周辺で開かれた。目にも鮮やかな青空と深緑が織りなす空間に飲食や手作り雑貨のマルシェが出現。隣接するフラワーガーデンではラベンダーが見頃を迎え、夏景色を広げた。市内外から約650人が来場。史跡見学とともに各種催しを楽しみ、歴史、文化、自然が融合する同所の魅力を堪能した。
 
 地元郷土芸能「橋野鹿踊り」がオープニングを飾った。“館褒め”から7演目を披露し、世界遺産10周年を盛大に祝った。 橋野鹿踊り・手踊り保存会の菊池郁夫会長は「コロナ禍前以来の久しぶりの披露」と喜びを重ね、「登録時から来訪客は減っているが、市にももっとアピールしてもらって集客につなげられれば。地元団体としても事あるごとに応援していきたい」と協力姿勢を見せた。
 
マルシェ開幕を彩った「橋野鹿踊り」。総勢24人が伝統の舞で盛り上げた

マルシェ開幕を彩った「橋野鹿踊り」。総勢24人が伝統の舞で盛り上げた

 
 センター駐車場のマルシェ会場には市内外のキッチンカー、農水産物業者、ハンドメイド作家など30店舗が軒を連ねた。来場者は店主らとの会話も楽しみながら、気に入った作品を購入したり、飲食を楽しんだりした。宮古市の藤田夏穂さん(22)は貝殻など天然素材の手作りアクセサリーを販売。他のイベントで知り合った出店者から情報を得て、初めて同所に足を運んだ。「空気がきれいで緑豊かな景色が素敵。終わったら高炉跡も見ていきたい」と見学も楽しみに…。世界遺産と絡めたイベントへの出店も初めてで、「インスタグラムとかで自分が出店情報を発信することで、遺産を知らない若い世代が知るきっかけになったらうれしい」と相乗効果にも期待した。
 
多彩な木工品に興味津々の来場者

多彩な木工品に興味津々の来場者

 
「CASIN」の屋号で手作りアクセサリーを販売した藤田さん。5月から始めたイベント出店は「お客さまとの交流が楽しい」という

「CASIN」の屋号で手作りアクセサリーを販売した藤田さん。5月から始めたイベント出店は「お客さまとの交流が楽しい」という

 
 四季折々の自然風景も魅力の橋野鉄鉱山。センター隣にあるフラワーガーデンの夏を彩るのがラベンダーの開花だ。例年この時期は、庭園を管理する橋野町振興協議会による観賞イベントが行われるが、今年は同10周年イベントと共催した。来場者は刈り取りやラベンダースティック作りを体験。さわやかな香りに身も心もリフレッシュしながら、心地よい時間を過ごした。宮古市と山田町から訪れた60代女性2人は「桜の時期に来たことはあるが、ラベンダー畑があるのは知らなかった」と再発見。「いい香りに癒やされました。今日は風もあって最高に気持ちいい。下界はもっと暑いだろうけど」とにっこり。ドライフラワーにするのを楽しみに会場を後にした。
 
橋野鉄鉱山フラワーガーデンでラベンダーの刈り取りを楽しむ親子。トンボもいい香りに誘われて…?

橋野鉄鉱山フラワーガーデンでラベンダーの刈り取りを楽しむ親子。トンボもいい香りに誘われて…?

 
リボンと編み込む「ラベンダースティック」の製作体験。インテリア小物にも

リボンと編み込む「ラベンダースティック」の製作体験。インテリア小物にも

 
園芸店の方から学ぶ寄せ植え体験もあった(写真左が完成品)。刈り取ったラベンダーは各自お持ち帰り。スタッフが活用法なども教えた

園芸店の方から学ぶ寄せ植え体験もあった(写真左が完成品)。刈り取ったラベンダーは各自お持ち帰り。スタッフが活用法なども教えた

 
 センターの建物内では「森の音楽会」と題したバイオリンのミニコンサートが開かれた。仙台フィルハーモニー管弦楽団第2バイオリン副首席奏者で、ハナミズキ音楽アカデミーを主宰する小川有紀子さんが教え子らと演奏。東日本大震災以降、釜石市で継続的に演奏を披露している小川さんが同世界遺産の節目に花を添えた。
 
小川有紀子さん(写真左)によるバイオリンミニコンサート。インフォメーションセンターが音楽堂に早変わり

小川有紀子さん(写真左)によるバイオリンミニコンサート。インフォメーションセンターが音楽堂に早変わり

 
橋野鉄鉱山高炉場跡をガイドが案内。手前が一番高炉、奥が二番高炉。当時の高さは約8メートル。今は花こう岩の石組みだけが残る

橋野鉄鉱山高炉場跡をガイドが案内。手前が一番高炉、奥が二番高炉。当時の高さは約8メートル。今は花こう岩の石組みだけが残る

 
 にぎわい創出と合わせ、もちろん史跡への理解を深める機会も。釜石観光ガイド会の千葉まき子、菊池弘充両ガイドの案内で高炉場跡を見学するツアーが午前と午後に行われた。高炉の石組みに使われた花こう岩や製鉄原料の鉄鉱石を産出した大地の成り立ち、鉄鉱石が発見された経緯、大島高任とその協力者がこの地に高炉を建設し操業に成功した理由、世界遺産としての価値などを説明。参加者は約160年前の製鉄風景を想像しながらガイドの話に聞き入った。
 
釜石観光ガイド会の2人が参加者の質問にも答えながら現地を案内

釜石観光ガイド会の2人が参加者の質問にも答えながら現地を案内

 
炉底塊に磁石が引きつけられる感覚を味わい、製鉄の証拠を確認(写真左)。参加者は高炉稼働時に想像を巡らせながらガイドの話に聞き入った

炉底塊に磁石が引きつけられる感覚を味わい、製鉄の証拠を確認(写真左)。参加者は高炉稼働時に想像を巡らせながらガイドの話に聞き入った

 
 東京都の藤野純一さん(53)は仕事で同市を訪問。駅で同イベントのチラシを見つけ、仕事仲間と足を運んだ。「オランダの技術を勉強したとはいえ、(見たこともない高炉を)ゼロから造り上げたというのは改めてすごいなと。残っていなかったかもしれない史跡がこうして残っているのも素晴らしい」と感心。「ガイドさんの説明も分かりやすく、来られてラッキーでした」と大喜びだった。
 
 この日は唐丹、平田両公民館が合同で企画したバスツアーで約30人が訪れた。両地区は震災の津波で被災。復興へ苦労の道のりを歩む中で、同世界遺産登録は被災住民にとっても希望の光となった。唐丹町の小濱勝子さん(83)は「もう10年になるんですねぇ」と感慨深げ。“鉄のまち”を象徴する遺産を「やっぱり大事にしていかないとね。人口は減ってくるが、釜石として自慢できるものをみんなで力を貸して守っていければ。10年経ったから終わりではなく、これから先の世代にもこの歴史を伝えていかなくては」と継承の大切さを訴えた。
 
幅広い世代が訪れた「橋野鉄鉱山マルシェ」。多くの人に同所を知ってもらう機会にもなった

幅広い世代が訪れた「橋野鉄鉱山マルシェ」。多くの人に同所を知ってもらう機会にもなった

 
 市教委文化財課世界遺産室の森一欽室長は「思ったより盛況で何より。これまで史跡の価値といった部分にPRが集中していたが、あまり堅苦しくなく周知できればとの思いもあり、このような催しを企画した。視点を変えた遺産の活用、人を呼び込む方策も今後、考えていければ」と話した。

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「橋野鉄鉱山」世界遺産登録10周年 価値をどう伝える? シンポジウムで“今後”を考える

世界遺産登録10周年記念シンポジウムでは歴史作家の河合敦さんが講演=12日、TETTO

世界遺産登録10周年記念シンポジウムでは歴史作家の河合敦さんが講演=12日、TETTO

 
 釜石市橋野町の橋野鉄鉱山を含む「明治日本の産業革命遺産」(8県11市23資産)はこの7月で、世界文化遺産登録から10周年を迎えた。同市では12日、記念式典とシンポジウムが大町の市民ホールTETTOで開かれ、約200人が基調講演やパネルトークに耳を傾けた。「釜石での鉄づくりの成功がなければ日本の近代化はなしえなかった―」。参加者は遺産が物語る価値を再認識しながら、今後の発信、活用の在り方を考えた。
 
 式典で達増拓也県知事は、釜石の地で国内初の鉄鉱石による連続出銑に成功した盛岡藩士・大島高任を「そのたゆまぬ努力と功績はわが国、世界の大きな至宝」と称賛。平泉、御所野遺跡(北海道・北東北の縄文遺跡群)と合わせ、「本県は3つの世界遺産を有する。奈良、鹿児島と並び日本最多」と誇りを示した。小野共釜石市長は世界遺産登録に関わる歩みが震災復興期間と重なったことで、「復興途上の沿岸自治体の希望をつなぎ、復興を押し進める力となった」と分析。活用には多くの課題があるが、「価値と魅力を市内外に伝える取り組みを継続していく」と誓った。
 
「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の世界遺産登録10周年にあたり、達増拓也県知事(写真左上)があいさつ

「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の世界遺産登録10周年にあたり、達増拓也県知事(写真左上)があいさつ

 
 日本製鉄北日本製鉄所釜石地区は、釜石製鉄所関連の所蔵資料1067点を同市に寄贈した。1985年の市立鉄の歴史館建設時に同市に寄託され、展示などに活用されてきたもので、高瀬賢二副所長(釜石地区代表)が小野市長に目録を手渡した。小野市長は同社に感謝状を贈って謝意を表した。
 
日本製鉄北日本製鉄所釜石地区が所蔵資料を釜石市に寄贈。右から高瀬賢二副所長、小野共市長

日本製鉄北日本製鉄所釜石地区が所蔵資料を釜石市に寄贈。右から高瀬賢二副所長、小野共市長

 
 基調講演の講師はテレビ出演でもその名を知られる、歴史作家で多摩大客員教授の河合敦さん。幕末からわずか50年の間に急激な産業化を成し遂げた日本の技術力やその背景について解説した。同世界遺産の大きな価値は「西洋の技術を単に模倣したのではなく、日本の伝統技術を使って近代化に成功しているところ」と河合さん。これは非西欧地域では初めてのことだ。
 
 江戸後期、鎖国下の日本で唯一オランダとの貿易が許されていた長崎では、英軍艦フェートン号の不法侵入事件を機に外国船の脅威が高まる。港の警備にあたる佐賀藩主・鍋島直正は、(後に大島高任も師事する)伊東玄朴に翻訳させた蘭書を基に洋式大砲の研究を重ね、1852年、反射炉を用いた鉄製大砲の鋳造に成功。58年に設置した三重津海軍所では、日本初の本格的な蒸気船を完成させた(同海軍所跡が世界遺産)。佐賀藩の反射炉技術は幕府、萩、薩摩藩に伝播。薩摩藩では石垣の技術を石組みに、薩摩焼の技術をれんがに応用した。
 
幕末から明治の産業革命について話す河合敦さん(右)。分かりやすい解説はテレビでもおなじみ

幕末から明治の産業革命について話す河合敦さん(右)。分かりやすい解説はテレビでもおなじみ

 
 では、なぜ藩主や武士のような知識階級だけでなく、職人などの庶民に高度なことができたのか? 河合さんは「江戸時代に教育施設が普及し、多くの人が寺子屋や私塾に通って、文字の読み書きや計算をできるようになっていたから」と推測する。統計はないが、「幕末の江戸中心部では住民の半数が読み書きできたのでは」と言われているという。実際、同時代にはさまざまな分野の本も出ていて、「高度な教育力や出版文化の広がりが(技術力に)大きく関係している」と話す。こうした背景により、山口県萩市に残る吉田松陰の「松下村塾」(塾舎)も世界遺産の構成資産となっている。
 
 「根底には日本の独立を守らねばという気持ちがあり、大島高任のような(学びを深める)人間が生まれてきたのだと思う。教育、文化水準が高いという素地があったからこそ、日本は短期間で近代国家に転身できたのだろう」と河合さん。橋野鉄鉱山の魅力発信の方策として、「VR(仮想現実)で実際の高炉建屋や鉄が流れ出る様子を体験できるようにすれば、もっと興味を持って足を運んでもらえるのでは」とのアイデアも示した。
 
世界遺産「橋野鉄鉱山」を含む釜石の鉄の歴史を今後、どう生かすか? 意見を交わしたパネルトーク

世界遺産「橋野鉄鉱山」を含む釜石の鉄の歴史を今後、どう生かすか? 意見を交わしたパネルトーク

 
 パネルトークは「釜石の鉄の歴史を活用する」というテーマで行われた。岩手大理工学部准教授で鉄の歴史館名誉館長の小野寺英輝さんがコーディネーターを務め、これまで橋野鉄鉱山に関わる活動を行ってきた3人から話を聞いた。
 
 教員時代、釜石市の2中学校で鉄の歴史を含む郷土学習に取り組んだ森本晋也さんは「古里を学ぶことで地域への愛着、誇りが生まれる」と実感。当時、生徒と「地域を学ぶ」のか「地域に学ぶ」のかが話題になったと明かし、「先人の生き方や歴史を通して、生徒は『自分はどう生きればいいのか』考える機会にもなった」と振り返った。現県立図書館長の立場から、「シビックプライド」の醸成にも言及。単なる郷土愛ではなく、積極的にまちづくりに関わる当事者意識、地域の一員としての自負心を育もうとするもので、「郷土資料と人々をつなぎ、まちを良くしたいという能動的な態度を育成していければ」と望んだ。
 
釜石二中、釜石東中赴任時に取り組んだ郷土学習について紹介する森本晋也さん。各種教育職を経て、2023年度から県立図書館長を務める

釜石二中、釜石東中赴任時に取り組んだ郷土学習について紹介する森本晋也さん。各種教育職を経て、2023年度から県立図書館長を務める

 
 釜石観光ガイド会に所属し、橋野鉄鉱山を含む地元製鉄の歴史、三陸ジオパークに関わる伝承活動を行う伊藤雅子さんは「いかに興味を持ってもらうか」に重点を置く。難しくなりがちな内容だけに、「聞く人の地元に関わる話を織り交ぜたり、興味を損なわないよう相手の様子を見ながら話すようにしている」という。パンフレットやWeb上の情報だけではなく、その奥に広がる事象を伝えられるのが現地ガイドの魅力。「分かりやすく楽しく」。お客さまの滞在時間に合わせ時間内に収めることも心がける。
 
釜石観光ガイド会の伊藤雅子さん(写真左上)、震災語り部としても活躍する橋野町の菊池のどかさん(同右上)は同市の歴史や魅力に目を向けてもらうための考えを述べた

釜石観光ガイド会の伊藤雅子さん(写真左上)、震災語り部としても活躍する橋野町の菊池のどかさん(同右上)は同市の歴史や魅力に目を向けてもらうための考えを述べた

 
 橋野鉄鉱山がある橋野町に暮らす菊池のどかさんは、小中学校の出前授業や体験学習で、同遺産への理解を深めていった。大学の卒業論文では同鉄鉱山を取り上げ、地元の魅力発信に関わる活動を続けている。歳月の経過は人々の興味、関心を風化させることにもなるが、「風化した後でも何かきっかけがあれば学びの機会は得られる。後の世代の人たちの気付きにつながるものを残していくことはできるのではないか」と今後の活動を見据えた。
 
 会場に足を運んだ橋野町出身、栗林町在住の女性(75)は「先祖が栗橋分工場で働いていた。地元の鉄の歴史は家族の歴史とも重なる。大学生の孫も興味を持ち始めた。貴重な歴史をしっかり後世に伝え、つないでいく必要がある」と語った。

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安心、楽しい登山を 釜石・橋野地区最高峰「片羽(葉)山」 住民ら、合目標識を新調

「迷わないように」と登山道に標識を設置する参加者

「迷わないように」と登山道に標識を設置する参加者

 
 釜石市橋野町の「片羽(かたば)山」(標高1313メートル)の登山道に設置されている合目標識が新しくなった。もともとあった標識は歳月を経て朽ちたりしていたことから、地元の橋野町振興協議会が新たに作製。釜石勤労者山岳会の協力で設置した。「いい山だよ」と住民が誇る里山。実は、“隠れた名峰”として地域外から登山客が訪れているといい、「安心して楽しんでほしい」との思いが込められている。
 
 7月6日に行われた作業には同協議会や同山岳会の会員、一般市民ら約15人が参加した。しっかりとした支柱が付いた標識や設置作業に使うハンマーなどの道具は程よい重さがあり、山岳会員が中心となり背負って歩行。5~9合目と、ルートを示す矢印の標識を計7カ所に設置した。
 
合目標識や穴を掘るための道具などを持ちながら山道を歩く

合目標識や穴を掘るための道具などを持ちながら山道を歩く

 
橋野町振興協議会と釜石勤労者山岳会の会員らが協力して設置

橋野町振興協議会と釜石勤労者山岳会の会員らが協力して設置

 
 標識を新調するきっかけは昨年秋、市の出先機関・栗橋地区生活応援センターが企画した住民向けの登山会。同センターの二本松由美子所長(59)らによると、ペンキやニスで塗装された木製の標識はクマなどがかじり壊されていたり、経年劣化で朽ちたりしていた。また、ルートが二手に分かれた箇所があり、山頂方面とは別の道を進んで戻るという経験もしたことから、「安心して登ってもらうために新しいものを」と同協議会と相談し、作製した。
 
もともとある4合目の木製標識。半分ほどが欠けている

もともとある4合目の木製標識。半分ほどが欠けている

 
迷いそうな場所には矢印の標識。標識の奥に道が続くも山頂とは別ルート

迷いそうな場所には矢印の標識。標識の奥に道が続くも山頂とは別ルート

 
 設置作業は5月に実施する計画だったが、雨天のため延期されていた。「念願かなった」と晴れやかな笑顔を見せたのは、地元の小笠原幸雄さん(70)。今回の最高齢参加者の一人で、「地区の最高峰にこの年で初めて登ることがきた」と喜びもひとしおの様子。力作業も率先し、「道に迷わないで楽しい登山を」と汗をぬぐった。
 
 同山岳会は、昨秋の登山会で先導役を担ったこともあり協力。標識を設置しながらの山行は初めての経験という中軽米一(はじめ)会長(55)は「安心な登山環境の整備に関わることができた。山に親しむ者にとって価値ある取り組みだ」と感慨深げ。不慣れな道で迷ったり、どこまで進んでいるのか分からなくなることもある登山。そんな時に目安となる標識を備えた山道に目を向け、「たくさんの人に登ってほしい」と望んだ。
 
 片羽山は、三角点のある雄岳と南の雌岳(1291メートル)の双子峰で、登山の対象となるのは雄岳。4合目まではダケカンバなどの林の中を進み、足元は柔らかで歩きやすい。その先は少し下ったかと思うと勾配が増し、7合目辺りからは急登に。倒れたまま手つかずの木、張り出た木の根、石が露出している場所もあり、足元には注意が必要になる。
 
道幅は広く、足元も柔らかく歩きやすいが、徐々に…

道幅は広く、足元も柔らかく歩きやすいが、徐々に…

 
傾斜のきつい道を進むとお立ち台のような岩が。山頂は目前

傾斜のきつい道を進むとお立ち台のような岩が。山頂は目前

 
 「きついな」と思いながら、木の幹や岩などの力を借りつつ足を踏み出していくと低木帯になり、気づくと登頂。山頂は360度のパノラマが広がり、五葉山や早池峰山、条件が良ければ鳥海山を臨むことができるというが、今回は霧で視界は遮られていた。
 
 地元の人が「結構きつい山だよ。登山初心者はやめた方がいい」というのも分かる。それでも、登り切った達成感は格別だ。同山岳会の会員たちが「ストレス解消、すがすがしい気持ちになる。つらさも楽しみ」「自然の中を歩くことで今まで気づかなかったことを発見したり、感動も多くなった」と話す“登山の魅力”に共感した。
 
山頂は霧に包まれるも、登頂者の表情は晴れやか

山頂は霧に包まれるも、登頂者の表情は晴れやか

 
 この山の面白さは名前にも。地図上には「片羽山」と表記され、三角点のそばにある看板にもうっすらだが「片羽山」と文字が見えた。が、登山口や登山道にある鳥居などには「片葉山」とつづられていた。そして、地元の人たちになじみ深いのは「葉」の方。遠野物語三十二話に登場する山の中には「片羽山」とある。一方で、地元には「片葉山」と刻まれた碑などが残っているという。
 
「片羽山」と「片葉山」が混在しているところが面白い⁉

「片羽山」と「片葉山」が混在しているところが面白い⁉

 
 そんな山に住民は親しみを持つ。町内にある産地直売所の橋野どんぐり広場の近くから「雄岳と雌岳がきれい見える」と教えてくれたのは、店頭に立つ女性。かつて登ったことを思い出しながら、「いい山だと思う」とほほ笑む。地域の人は高齢になって登る機会は少なくなったというが、「外の人たちが結構来ているみたい。帰りに(産直に)寄っていく」とうれしそうに話した。
 
奥に見える双子峰が「片羽(葉)山」で、右側が雄岳

奥に見える双子峰が「片羽(葉)山」で、右側が雄岳

 
 今回、下山時に二組の登山客とあいさつを交わした。そのうちの一組は「秋田から」と言っていた。新調した標識がさっそく役立ったと実感。二本松所長は「皆さんの協力で設置できたことを広く知らせたい。地元の山を歩く取り組みも続けられたら」と思いをめぐらせた。