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地域の伝統・刺し子…つなぐには 釜石商工高生8人、課題研究で挑戦 一針に込める「手作業の味」

刺し子の製品づくりに取り組む釜石商工高の生徒ら

刺し子の製品づくりに取り組む釜石商工高の生徒ら

 
 釜石商工高(今野晋校長)では機械、電気電子、総合情報科の3年生が各科の特徴を生かした課題研究に取り組む。産業や地域課題などのテーマを選んで5月にスタートさせた探究活動は終盤戦に突入。年内に予定する校内発表会に向け、まとめの作業が進む。このうち、総合情報科の8人は地域で受け継がれてきた伝統的な手芸「刺し子」に注目。担い手の育成について考える中で、技術の習得にも挑む。集大成として東京での販売会(12月)を計画。参加のめどが立ち、応援者への“返礼品”づくりに励む。11月20日、同校の一教室。8人の挑戦をのぞいてみた。
 
 刺し子は重ねた布を細かく縫いつける伝統技法。布の補強や保温のために東北地方で始まったと言われる。「運針」と呼ばれる針を刺し進める手法は波縫いが基本。縫い目の間隔にとらわれず、ちくちくと直線に縫っていく手軽さが魅力。幾何学模様などの図柄を縫い込む技法もあり、少しの手間で布をよみがえらせ日常に彩りを添える。
 
 地域の産業として事業化、ブランド化させ新しい魅力を吹き込んでいるのが「大槌刺し子」。東日本大震災で被災した女性たちの生きがいづくりに―と2011年に復興支援プロジェクトで発足し、京都市のNPO法人テラ・ルネッサンスが運営する。バッグや小物などを作ってきたが、近年は売り上げが停滞。最盛期に約200人いたという職人も高齢化など社会変化の影響を受け、現在は15人と大きく減った。
 
 そんな中、長く取引を続ける東京のアパレル会社MOONSHOT(ムーンショット)から提案があり、ブランド「SASHIKO GALS(サシコギャルズ)」を創設。靴や洋服などに古布を縫い当てて刺し子を施して作り直す、ひと手間を加えたものづくりを始めた。新たな感性を取り入れた動きに合わせ、技術の担い手を育成する取り組みも開始。今回の釜石商工高との連携につなげた。
 
釜石商工高総合情報科の教室で生徒らが刺し子づくりに励む

釜石商工高総合情報科の教室で生徒らが刺し子づくりに励む

 
 同校には、もともと別のテーマで講師役を担当した人から刺し子の話が持ち込まれた。課題研究テーマとして組み込まれ、8人が手を挙げ、週3時間、刺し子を学んでいる。講師は大槌刺し子事務所スタッフで職人の黒澤かおりさんと佐々木加奈子さん(ともに47)。針を持つのは小学校の家庭科の授業以来という生徒がほとんどで、持ち方や進め方から、「くぐり刺し」「かがり刺し」といった技法も丁寧に教えてきた。
 
 “若さ”が光り、すんなり身に付けた生徒たちだが、始めた当初は「刺し子をやるとは思っていなかった」という。研究は担い手を増やす方策を考えたり、ビジネスを学ぶ内容だと思っていたらしい。
 
 堀切好花(このか)さんもそんな一人。苦笑いしつつも、新たな試みに挑戦できると前向きに捉えて実践。ムーンショット代表の講話などでサシコギャルズが世界的に評価されていることも知り、「刺し子の可能性を広げる過程に協力したい」と強く思うようになった。作り手としての大変さ、やりがいも実感。「ネクタイとか日常的、実用的なもので、目にする機会を増やした方がいい」とアイデアも出てきた。慣れてきたことで作業中に弾ませるのはおしゃべり。「手を動かしながら団らん。そこも刺し子の魅力」と楽しそうに笑う。
 
布を持ち真剣な表情で一針一針と進める生徒たち

布を持ち真剣な表情で一針一針と進める生徒たち

 
大槌刺し子の職人に助言をもらいながら取り組む

大槌刺し子の職人に助言をもらいながら取り組む

 
生徒を見守る講師とおしゃべりも楽しむ

生徒を見守る講師とおしゃべりも楽しむ

 
 生徒らはこの研究プログラムに「Harito(はりと)」と名を付けた。“針と〇〇(まるまる)”という意味で、「結びつけるものは無限大」と可能性の広がりを期待してのもの。半年たった今、総仕上げとしてさらに熱心に針を進めている。作っているのは「HOME」との刺しゅう文字が入ったミニトートバッグと、古布を重ねつなぎ合わせたりカラフルな波縫いの線が交差するクッション。10月に実施したクラウドファンディング(CF)の返礼品だ。
 
 成果を発信すべく、東京での販売会に臨むため行ったCFでは60人余りから応援が寄せられた。大槌刺し子の職人らを含めて参加できることになり、支援者へ感謝を込めた一点物を製作中。「手作業の味が伝わるように」と一針一針に思いをのせている。
 
クラウドファンディングに向けて撮影した集合写真(提供:釜石商工高)

クラウドファンディングに向けて撮影した集合写真(提供:釜石商工高)

 
ちくちく…一針ごとに感謝の気持ちを込めて縫い進める

ちくちく…一針ごとに感謝の気持ちを込めて縫い進める

 
返礼品として生徒がすべて手作業で仕上げている刺し子

返礼品として生徒がすべて手作業で仕上げている刺し子

 
 CFは生徒らの学びの機会にもなった。販売内容に関わる計画やマーケティング、広報、チラシ作り、交通費の算出など、それぞれが得意分野を生かして取り組んでいたと同科の沼﨑麗(うらら)教諭。「学校外の人と関わることで視野が広がったと思う。担い手の課題はすぐに結果が出るものではないが、地域の伝統を知り、外に出た時に伝え広げられたら、成功という一つの形になるのかな」と目を細めた。
 
 生徒自身もそれぞれ成長を感じている様子。久保菜月さんは「思った意見を言えるようになった」とはにかむ。刺しゅうデザインなど提案、相談を重ね、採用されたり意見が通らなかったこともあったが、「あとで生かされる」と確信。地域との関わりや伝統を身近に感じられる機会にもなり、「後輩たちにつなぎ、残したい」と願いを抱いた。
 
 技術を紹介した大槌刺し子の2人にも発見があった。長く携わると型にはまってしまうが、まっさらな状態の高校生は「自由に思うまま」で、色合いや発想に驚かされることもしばしば。「参考になる」と刺激を受けた。
 
講師を務める大槌刺し子職人の佐々木加奈子さん(左)、黒澤かおりさん(右)

講師を務める大槌刺し子職人の佐々木加奈子さん(左)、黒澤かおりさん(右)

 
 佐々木さんは「古くなったものを新しい糸で生き返らせる。補修にデザイン性が加わっておしゃれによみがえる。刺し子のすてきなところ」と愛着をにじませ、黒澤さんも「手を加えるだけでオリジナルになる」とうなずく。地方でもファッション業界に関われる可能性、世界での評価という手応えを得る一方、すべて手作業で一つの製品に一週間以上かかることもあり、大変さも身に染みて思う2人。それでも「現代にあった刺し子を作り続けたい」と気持ちも重ねる。今回の授業は間もなく終わるが、形は変わったとしても継続させたい考えだ。
 
大槌刺し子の拠点でも販売会に向け職人たちが追い込み作業中

大槌刺し子の拠点でも販売会に向け職人たちが追い込み作業中

 
 販売会は12月14日、東京の伊勢丹新宿本店の本館で予定する。ムーンショットが手がけるファッションブランド「KUON(クオン)」の期間限定店に参加する形で展開。大槌刺し子の職人が手がけた帽子などを並べる。

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海中転落事故防止へ釜石海保など啓発パトロール 夜釣り楽しむ人へ「装備しっかりと」

釜石港で釣り人に注意を呼びかける釜石海上保安部の職員

釜石港で釣り人に注意を呼びかける釜石海上保安部の職員

 
 夜釣り中の事故を防止しようと、釜石海上保安部や釜石警察署などは22日夜、釜石市の釜石港と唐丹漁港で合同パトロールを行い、釣り人へ注意を呼びかけた。この時期は日暮れが早く、海水温も低下するため、転落すると発見の遅れや低体温症による危険性が高まるという。そのため、第2管区海上保安本部の管内では11月を「釣り海難防止活動期間」として注意喚起している。
 
 この日は、同保安部と同署、市、岩手県沿岸広域振興局の職員ら約10人が活動。夜間の寒さが増す冬季は気象条件が厳しい反面、漁港の街灯下にイカなどが寄ってくるため釣り人も少なくない。港内もそうした狙いを持った人たちの姿があり、釣り人一人ひとりに注意を促すチラシを手渡した。
 
海中転落事故の防止に向け、釣り人に声をかけながらチラシを配った

海中転落事故の防止に向け、釣り人に声をかけながらチラシを配った

 
 港近くで働く関渡さん(75)は、仕事終わりに釣りを楽しむのが日課。この日も顔なじみの釣り人らと岸壁から釣り糸を垂らしていた。ライフジャケットは着用していたが、事故防止の声がけに「海に落ちたら大変だからね。安全に楽しみたいし、気を付ける」と再確認。狙いのヤリイカは「久しぶりの大漁」だったようで、“いか”にして味わうか考えを巡らせた。
 
 同保安部交通課によると、県内では昨年までの5年間に釣り人の海中転落事故が18件発生。うち夜間に起きたのは12件で半数以上を占める。原因は岸壁などからの足の踏み外し、つまずきなど“不注意”が多いという。
 
 今年は既に3件発生。うち1件が夜釣り中の事案で、釜石市内で起こった。いずれの事故もライフジャケットは未着用だった。
 
多くの人が岸壁から釣り糸を垂らす。今夜の獲物はヤリイカ

多くの人が岸壁から釣り糸を垂らす。今夜の獲物はヤリイカ

 
「決まりを守って安全に夜釣りを楽しんで」と関係者ら

「決まりを守って安全に夜釣りを楽しんで」と関係者ら

 
 港内を巡った同課の美野重和課長は「救命胴衣を着けていない人が多かった。命に関わる事故に発展しかねないので、万一のために着用を心がけてほしい」と強調。加えて、▽気象や海象を確認し無理な行動はしない▽単独行動は控え複数人で行動する▽危険な場所には立ち入らない▽釣り場環境に応じた装備の選択を▽海の緊急通報は118番―といったポイントも呼びかける。

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ラグビーのまち釜石 裾野の拡大着々と 小学校タグR大会で16チームが熱戦 低学年も楕円球に笑顔

6回目を迎えた小学校対抗タグラグビー大会(釜石東ロータリーカップ)

6回目を迎えた小学校対抗タグラグビー大会(釜石東ロータリーカップ)

 
 第6回釜石市小学校対抗タグラグビー大会(釜石東ロータリーカップ2024)は17日、釜石鵜住居復興スタジアムで開かれた。県内外の有志で組織する釜石ラグビー応援団(中田義仁団長)が主催。小学4年生以上は試合を、3年生以下はボールを使った運動教室を楽しみ、約140人が紅葉に囲まれたグラウンドで心地良い汗を流した。ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会釜石開催から5年―。大会レガシー(遺産)を受け継ぐ子どもらの元気なプレーが「ラグビーのまち釜石」のさらなる発展を後押しする。
 
 開会式では双葉小6年の川村桔平さんが選手宣誓。同スタジアムが会場となったラグビーW杯で震災復興支援への感謝の気持ちを表した歌「ありがとうの手紙」を全員で合唱し、試合での健闘を誓い合った。
 
紅葉に囲まれたスタジアムで開会式。双葉小の川村桔平さんが元気に選手宣誓(写真左上)

紅葉に囲まれたスタジアムで開会式。双葉小の川村桔平さんが元気に選手宣誓(写真左上)

 
 今大会には市内6校と釜石シーウェイブス(SW)ジュニアから計16チームが参加。4ブロックで予選リーグを行った後、各ブロックの上位2チームが決勝トーナメントに挑んだ。1チームは4~6年の男女5人で編成。選手の入れ替えは自由で、登録選手全員に出場機会を与えた。試合時間は予選リーグが前後半なしの7分、決勝トーナメントは前後半5分ずつ。各ブロックの3、4位チームもフレンドリートーナメントで試合経験を重ねた。
 
4ブロックで総当たり戦が行われた予選リーグ

4ブロックで総当たり戦が行われた予選リーグ

 
対戦相手の腰にぶらさげたタグを取るのがタックル代わり

対戦相手の腰にぶらさげたタグを取るのがタックル代わり

 
タグを取りにくる相手を振り切りトライゾーンへまっしぐら

タグを取りにくる相手を振り切りトライゾーンへまっしぐら

 
 2チームを結成した双葉小はコロナ禍前以来の久しぶりの出場。参加希望メンバーを募り、大会に向けた放課後練習を重ねて本番に臨んだ。同大会初参加の金野優輝さん(5年)は「体育の授業も含めけっこう練習はしてきたが、(昨年優勝の)鵜住居のチームが強くてびっくりした」。同じチームで戦った鈴木慶大さん(同)も他校の強さを感じて闘志に火がついたようで、「来年も絶対出て、優勝を目指したい。僕たちの得意な部分は出せていたので、あとは気持ちの強さと緊張感があれば…」とリベンジを誓った。
 
双葉Jr.(赤ビブス)と平田ウォーリアーズの試合は接戦に…

双葉Jr.(赤ビブス)と平田ウォーリアーズの試合は接戦に…

 
 昨年、決勝で鵜住居のチームに敗れた小佐野バーバリアンズの鹿野遥斗さん(6年)は午前中の予選リーグを終え、「3試合とも点差をつけて勝てたので、いいスタート」と手応えを実感。今年は練習期間を長くとれたということで、「メンバーの仲も深まり、チームプレーの精度も上がった」という。プレー中は互いに声を掛け合い、コミュニケーションを意識。決勝トーナメントを前に「去年の優勝チームに一歩でも近づけるよう頑張りたい」と話していたが…。
 
 最終決戦は互いに切磋琢磨してきた同校の別チーム(小佐野バーバリアンズレッド)との対戦となり、6-3でバーバリアンズが頂点に輝いた。小佐野小は12月に行われるSMBCカップ全国小学生タグラグビー大会県予選などへの参加も予定。鹿野さんは「まだ時間があるので、強豪の日詰に食らいつけるようなチームになりたい」と意気込んだ。
 
予選は3戦全勝、決勝トーナメントに進んだ小佐野バーバリアンズ(赤ユニホーム)

予選は3戦全勝、決勝トーナメントに進んだ小佐野バーバリアンズ(赤ユニホーム)

 
優勝、準優勝を果たした小佐野小のチームは来月参加予定の県大会へ弾みをつけた

優勝、準優勝を果たした小佐野小のチームは来月参加予定の県大会へ弾みをつけた

 
 同大会は、釜石東ロータリークラブがラグビーW杯釜石開催の機運醸成を図ろうと、2年前の2017年に開始。初回は甲子町の市球技場で開かれ、第2回大会から新設された同スタジアムに会場を移した。W杯開催年の第3回大会には20チーム約190人が参加。その後、新型コロナウイルス感染症の影響で2年間の中止を余儀なくされた。仕切り直しの22年から釜石ラグビー応援団が主催を引き継ぎ、児童の健全育成、同市のスポーツ文化発展などを目的に大会を継続する。
 
 中田団長(56)は「学校側の大会に対する理解も深まり、子どもたちが参加しやすい環境ができている。大会経験者が中学生になり、県中総体ラグビーを制覇していることもうれしい限り。今後は他地域からの参加も促し、大会をより発展させていきたい」と思いを込めた。
 
ラグビー人口拡大への足掛かりにもなっている大会。将来、有名選手が出るかも?

ラグビー人口拡大への足掛かりにもなっている大会。将来、有名選手が出るかも?

 

低学年も集まれ~! SWアンバサダー向井陽さんら 楕円球との触れ合い、運動の楽しさ伝授

 
日本製鉄釜石SWアンバサダーの向井陽さん(中央)も指導に駆け付けた低学年対象の体験教室

日本製鉄釜石SWアンバサダーの向井陽さん(中央)も指導に駆け付けた低学年対象の体験教室

 
 同大会は地元クラブチームの日本製鉄釜石シーウェイブス(SW)、釜石市ラグビーフットボール協会が全面支援する。試合は小学4年生以上が対象だが、3年生以下の子どもたちにもラグビーを通じて体を動かす楽しさを味わってもらおうと体験教室を開いている。今年は同市地域おこし協力隊員(ラグビー普及コーディネーター)で、SW事務局員でもある竹中伸明さん(36)が中心となってプログラムを提供した。
 
教室はラグビーの普及活動に取り組む地域おこし協力隊員竹中伸明さん(左奥)が中心となり実施

教室はラグビーの普及活動に取り組む地域おこし協力隊員竹中伸明さん(左奥)が中心となり実施

 
SWの選手OBらも子どもたちの体験をサポート

SWの選手OBらも子どもたちの体験をサポート

 
 SWからは桜庭吉彦ゼネラルマネジャーや選手OBらがサポートした。強力な“助っ人”として千葉県から駆け付けたのは同OBで、現在はチームのアンバサダーを務める向井陽さん(47)。釜石では甲東幼稚園(現・同こども園)に勤務しながら、SH として7年間プレー。2008年に退団、現役引退後はスポーツ教育の会社を経て、千葉県松戸市で保育園の園長を務めている。日本ラグビーフットボール協会の普及コーチでもあり、全国各地で子どもたちの指導にあたっている。
 
遊びの要素を取り入れたプログラムで子どもたちを楽しませる向井さん

遊びの要素を取り入れたプログラムで子どもたちを楽しませる向井さん

 
 「初めてボールに触る子どもたちが楽しさを感じ、(ラグビーをやってみたいとか)次につながるようなきっかけづくりをしたくて…」と向井さん。日本協会でも今、未就学児や小学校低学年向けのトレーニングプログラム作りに取り組んでいるという。「ラグビーボールは使うが、遊びの要素を入れて、その年代の運動能力を伸ばすようなメニュー」と、子どもの発育、発達を促す活動に力を注ぐ。この日もそうした知識や経験を釜石の子どもたちに還元した。
 
子どもたちはボールやタグを使った運動メニューに笑顔満開!

子どもたちはボールやタグを使った運動メニューに笑顔満開!

 
向井さんら指導者は釜石の子どもたちの健やかな成長を願う

向井さんら指導者は釜石の子どもたちの健やかな成長を願う

 
 タグラグビー大会をはじめ、子ども向けの競技普及、関心喚起活動に積極的な釜石の取り組みを喜ぶ向井さん。「このスタジアムで体を動かした思い出が残り、またここでラグビーをしたい、見たい、行ってみたいと思うような場所になったらいい。ラグビーはそれぞれの良さ(持ち味)を生かせるスポーツ。自分や仲間の良さに気付き、力を合わせて物事を成し遂げる素晴らしさも感じてもらえたら」と話した。

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釜石の海、今を伝える「おさかなフェス」 岩手大生が初開催 触れ合い創出・水産資源の魅力発信

釜石で水揚げされた新鮮な魚介類を買い求める人でにぎわう

釜石で水揚げされた新鮮な魚介類を買い求める人でにぎわう

 
 釜石市平田の岩手大学釜石キャンパスで16日、地元の海や水産資源の魅力を発信するイベント「おさかなフェス」が初めて開かれた。同大農学部食料生産環境学科水産システム学コースの学生が企画した同キャンパス独自の学園祭的な催しで、海洋生物との触れ合い、鮮魚の格安販売、魚や海にまつわる知識を試す検定などの体験プログラムを用意。市内外から多くの家族連れらが訪れて思い思いに楽しみ、「釜石の海」に理解を深めた。
 
 子どもたちに人気だったのは、三陸の海でとれた10種類以上の生物を間近で観察できるタッチプール。タコ、ヒトデ、ヤドカリ、ホヤ、カレイ…多様な生き物に和田優広ちゃん(2)は夢中になり、あちこちから手を伸ばして触れていた。子どもに楽しんでもらおうと北上市から足を運んだ父・哲志さん(35)は「生き物や自然を大切にしようと気持ちを育んでもらえたらいい。岩手は漁港から見る海の景色、海のそばにある街並みがきれいなところが多い。そんな地域性も感じてもらえたら」と目を細めた。
 
海洋生物に触れながら学びを深める子どもたち

海洋生物に触れながら学びを深める子どもたち

 
多様な生き物に触れ合う機会に大人も子どもも夢中

多様な生き物に触れ合う機会に大人も子どもも夢中

 
 学生が考えた問いに挑戦する「釜石さかなと海の検定」もプログラムに加えて実施。3回目となった今回も小中学生は40問(制限時間30分)、一般(高校生以上)は70問(同60分)の出題で、4つの選択肢から正解を選ぶ方式で行った。魚介類の生態や地理、海洋変化、漁港に関することなど幅広い知識を試す内容。それぞれの部門に合わせて約20人が挑んだ。
 
 終了後、小学生の部では答え合わせがあった。ギネス登録されている釜石港の湾口防波堤の水深について、同系統の魚の見分け方など、子どもらが解答に悩んだ問題を伝えると、学生がホワイドボードに図を描いたりして解説。「へ~、そうなんだー」と知識を増やした。
 
検定を終えて学生の解説に耳を傾ける子どもたち

検定を終えて学生の解説に耳を傾ける子どもたち

 
 初挑戦の前川大悟さん(8)は“ゆるい感じ”と思っていたら、“本格的な試験”で「驚いて緊張した」というが、海や釣り、生き物が好きなこともあって「楽しかった」とうなずいた。父・仁さん(49)は「頼もしい」とうれしそうな笑顔を見せ、「いろんなものに興味を持って、どんどん挑戦していってほしい」と背中を押した。
 
 大人たちが関心を示したのは、市魚市場で水揚げされた魚介類の販売コーナー。学生が市内の水産会社を通して仕入れたブリやサンマ、ドンコ、カワハギ、ワラサなどが「ほぼ仕入れ値と同じ価格」で並んだ。「安い!」と品定めすると、来場者が次々と購入。なじみのある「マアジ」の隣に並んだ「メアジ」が気になった人が、学生に質問して交流する場面も見られた。
 
釜石の魚市場に揚がった魚介類が並び人気を集めた

釜石の魚市場に揚がった魚介類が並び人気を集めた

 
 朝5時に起きて、いち早く買い物を楽しんだ市内の70代女性は「知らなかったことだらけ。釜石の新鮮な魚を安く買えたし、(学生の)若いエネルギーももらえた」と喜んだ。
 
 高品質の水産資源、水産業の魅力を広く知ってほしい―。そんな願いを込めて催しを企画し、全体を統括した髙山琢磨さん(4年)は、予想を上回る来場や反響に手応えを感じた様子だった。
 
消費者となる買い物客に仕入れた魚種の説明をする髙山琢磨さん(中)

消費者となる買い物客に仕入れた魚種の説明をする髙山琢磨さん(中)

 
 釜石キャンパスでは現在、同コースの3、4年生22人が学ぶ。普段、授業や研究では「漁獲量を増やすには」といった視点で漁業者と関わることが多いが、消費者に届けるという流通面に携わる機会は少ないという。そこで今回、“実践”という経験を積む場として鮮魚販売を設定。メアジやシイラ、ムツなど“なじみがない”魚種も積極的に仕入れて、「今の釜石の海が分かる」よう準備を進めてきた。
 
 「消費者とも関わることができてうれしい」と話す髙山さんら学生たち。そばで見守った釜石キャンパス特任専門職員の齋藤孝信さん(63)は「初めてのチャレンジ、よく頑張ってたどり着いた。ゼロから考え企画して実践、清算、報告書作りという一連の流れを経験することは、社会人の準備に役立つだろう。糧として釜石から巣立ってほしい」と願った。

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「危機管理は災害イメージ、対処法準備、実践訓練から」 釜石市アドバイザー・越野修三さん講演

釜石市防災講演会=釜石PIT、16日

釜石市防災講演会=釜石PIT、16日

 
 地震津波、台風、集中豪雨などの自然災害により、全国各地で想定を超える被害がもたらされている昨今―。そうした中、釜石市は16日、自然災害への理解を深め、防災対策に役立ててもらうための市民向けの講演会を開いた。講師は同市の防災・危機管理アドバイザーを務める越野修三さん。「大災害から学ぶ危機管理」と題した講演で越野さんは、災害リスクを知り、具体的にイメージして対処法(戦略)を構築、実践訓練で検証する重要性を説いた。
 
 大町の釜石PITで開かれた講演会には自治会役員、消防団員、防災士を中心に約50人が参加した。講師の越野さんは陸上自衛隊出身。在任時に阪神・淡路大震災(1995年)の災害派遣を経験した。2006年に退官後、県の防災危機管理監に就任。08年の岩手・宮城内陸地震、11年の東日本大震災で県の災害対応を指揮した。釜石市では同震災検証委員会の委員長を務め、18年から防災・危機管理アドバイザーとして助言を行っている。
 
講師の越野修三さん(釜石市防災・危機管理アドバイザー)

講師の越野修三さん(釜石市防災・危機管理アドバイザー)

 
 越野さんは6000人以上が犠牲になった阪神・淡路大震災について、危機意識と事前準備が不十分で救助活動や行政対応が遅れたことを指摘。危機の認識には災害への関心や知識が必要で、「全く関心のない人にいくら情報を与えても行動は起こさない。避難を呼びかけても逃げないのも同じ。危機意識を持つか持たないかで行動は全く変わってくる」と話した。
 
 では、どうすれば危機(災害)対応がうまくいくのか。越野さんは危機管理には「事前対応」「応急対応」「事後対応」の3段階があり、危機に対し、いかに早く適切に対応できるかは事前対応(準備)にかかっていると教えた。一番大切なのは「危機をどれだけ具体的にイメージできるか」ということ。「ハザードマップなどで自分が住む地域の災害の可能性(リスク)を知り、それが起きたらどのような状況になるのかを考える」。これが危機管理の出発点だとした。
 
越野さんは「大災害から学ぶ危機管理」と題し講演した

越野さんは「大災害から学ぶ危機管理」と題し講演した

 
 越野さんが県の防災危機管理監に就任する際、「30年間に宮城県沖地震が発生する確率は99%」とされていたが、県職員の防災への問題意識は決して高くはなかったという。着手したのは、大地震、津波発生時に何が課題となり、どう対処すべきかを考えること(課題解決のための戦略の構築)。就任から1年後の07年には県総合防災訓練、08年には自衛隊と自治体の共同訓練(みちのくアラート)を行い、災害時の応急対策活動(人員・資器材の集結、情報共有、部隊配置、救出救助・医療、緊急物資輸送など)を検証した。災害対策本部機能の強化も図り、これらの取り組みは11年の東日本大震災の対応に生かされた。
 
 一方で東日本大震災では、本県で約6000人が津波の犠牲になった。なぜ、避難行動が遅れたのか。越野さんは震災後に釜石市で実施した住民アンケートから、激しい揺れを感じ津波の情報を得ていたにもかかわらず、約40%の人はすぐには避難していなかった実態を明かした。一因に「自分は大丈夫」「今まで被害がなかったから」「隣の人も逃げていない」など根拠のない理由を自分に言い聞かせ、逃げない自分を正当化しようとする、人間誰しもが持つ心理的作用があるという。
 
越野さんの話に耳を傾ける参加者。災害への関心、危機意識を持つ大切さを学んだ

越野さんの話に耳を傾ける参加者。災害への関心、危機意識を持つ大切さを学んだ

 
 近年増加する大雨、洪水、土砂災害のリスクについても説明。1時間に50ミリ以上の雨が降り続いた場合にどんなことが起こりうるかを過去の災害を例に説明した。2018年の西日本豪雨で51人が犠牲になった岡山県真備町では、合流する2河川が大雨で増水。支流の水が合流地点で流れにくくなり水位が急激に上昇、堤防が決壊し浸水する「バックウオーター現象」があった。本年9月の能登半島の大雨災害では、線状降水帯が発生するなどして1時間に100ミリ以上の降雨を記録。上流からの流木が橋でせき止められ、ダム化することで予想外の浸水被害を引き起こした。
 
全国で発生した大雨災害の事例も紹介。同様の被害は釜石市でも起こりうる

全国で発生した大雨災害の事例も紹介。同様の被害は釜石市でも起こりうる

 
 越野さんは「釜石市は平地が少なく、居住地の背後に険しい山をかかえる。大雨が降ると山から谷に流れ込むイメージ。甲子川にも支流があり、バックウオーター現象や流木による浸水被害が起こりうることをイメージする必要がある」と助言。津波同様、ハザードマップであらかじめリスクを確認しておくことが重要とした。
 
 また、土砂災害で死亡した人の90%は土砂災害警戒区域で亡くなっていること、線状降水帯は日本中どこでも発生する可能性があることも伝え、災害が起きそうな雨量の目安を知り、避難行動の基準(避難スイッチ)を決めておくよう促した。
 
「地震はいつどこでも起こりうる」。過去の地震災害の特徴も学んだ

「地震はいつどこでも起こりうる」。過去の地震災害の特徴も学んだ

 
講演の前には全員で「釜石市防災市民憲章」を唱和した

講演の前には全員で「釜石市防災市民憲章」を唱和した

 
 大規模災害では発災直後は公助(行政、警察、消防、自衛隊)の力を当てにできない。自分の命は自分で、地域は地域で守る必要がある(自助、共助、協働)。越野さんは「訓練でできなかったことは実際の危機(災害)時にできるわけがない。個人、地域、行政など、それぞれの立場で対処法を準備し実践的訓練を重ねる。最悪の場合を想定し行動することが大事」と呼び掛けた。
 
 防災士の資格を持つ鵜住居町の佐々和代さん(76)は近年増加する大雨災害を危惧。居住地前の長内川の形状や草の繁茂による大雨時の水位上昇を心配し、「氾濫や土砂災害の可能性もあることを考えておかないと。『ここは大丈夫』という意識は禁物。(講演で言われたように)日ごろから防災への意識を高めておくことが大切」とうなずいた。
 
今後の防災対策に必要なことを学んだ参加者

今後の防災対策に必要なことを学んだ参加者

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友達づくり楽しく!サッカー遊びで交流 釜石で初の試み、4つのこども園合同イベント

釜石市球技場でサッカー遊びを楽しむ子どもたち

釜石市球技場でサッカー遊びを楽しむ子どもたち

 
 釜石市内の4つの認定こども園合同イベント「交流サッカー遊び」が14日、同市甲子町の市球技場で開かれた。5歳児計80人が参加し、16の“ミックスチーム”を編成。初めは緊張気味だったものの、4ブロックに分かれてボールを追いかけているうちにたくさんの“にこにこ顔”が生まれた。市内でこうした活動が行われるのは初めて。「来春に小学生になる子どもたちの顔合わせになれば」と各園共通のあたたかい願いが込められた。
 
 参加したのは甲子町の正福寺幼稚園(松岡公浩園長、園児28人)、野田町の甲東こども園(野田摩理子園長、園児106人)、上中島町の市立上中島こども園(楢山知美園長、園児38人)、天神町のかまいしこども園(藤原けいと園長、園児88人)の4園。鬼ごっこをした後、ボールを使った陣取り遊びやサッカーのミニゲームを楽しんだ。
 
初顔合わせの友達と声を合わせて「エイエイオー」

初顔合わせの友達と声を合わせて「エイエイオー」

 
鬼ごっこが準備運動。思い切り走ってにこにこ顔

鬼ごっこが準備運動。思い切り走ってにこにこ顔

 
陣取りゲームでボールや仲間との触れ合いを楽しむ

陣取りゲームでボールや仲間との触れ合いを楽しむ

 
 子どもたちの遊びをサポートしたのはキッズサッカーの指導者でもある松岡園長(59)や、岩手県サッカー協会のキッズリーダー4人。一定のルールの中で伸び伸びさせつつ、ゴールを決めたり、諦めずボールを追ったり頑張った子はもちろん、転んだ仲間に優しく声をかけたり、ボールの片付けに積極的に取り組んだ園児らに「グリーンカード」を何度も提示してフェアプレー精神の大切さも伝えた。
 
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子どもたちのすてきな行動に「グリーンカード」を次々に提示

 
 ミニゲームの前後に園児らは元気にあいさつを交わした。開会のあいさつで松岡園長が呼びかけた「ゲームは敵、味方があるけど、敵という相手がいなければゲームはできない。相手はある意味、仲間。ゲームが終わったら『ありがとう』と握手しよう」を守った形。甲東こども園の福成昴君(6)は「シュートするのが楽しかった。(園が異なる子と)なかよくなれた。またやりたい」とチームメートと手をつないでいた。
 
ミニゲームでは真剣な表情で熱戦を繰り広げた

ミニゲームでは真剣な表情で熱戦を繰り広げた

 
試合後には握手して「ありがとう」と笑顔を交換

試合後には握手して「ありがとう」と笑顔を交換

 
サッカー遊びで思い出をつくって友情を結んだ園児たち

サッカー遊びで思い出をつくって友情を結んだ園児たち

 
 この初の試みは、4園長の集まりがきっかけ。各園の保育内容や遊びなど情報交換する中で、松岡園長が今年から始めた「サッカー遊び」の話題に他園から関心が集まった。少子化で園単独での活動に難しさを感じていたことが共通し、広い場所で思いっきり駆け回る体験を楽しんでもらおうと計画された行事に、3園が“便乗”。小学校入学で園とは学区が異なる子もいて、「あの時一緒にサッカーで遊んだよね」と入学前の交流にもつながるとの考えも一致した。
 
4園合同イベントを初開催した松岡公浩園長(後列左)ら

4園合同イベントを初開催した松岡公浩園長(後列左)ら

 
「ありがとう」。子どもたちの笑顔が大人にも伝わった

「ありがとう」。子どもたちの笑顔が大人にも伝わった

 
 大人たちの願いは子どもたちにも伝わった様子。正福寺幼稚園の常盤汐季ちゃん(5)は「たくさん友達になった。また会うのが楽しみ。小学生になったらもっといっぱい友達つくりたい。勉強、遊ぶのも楽しみ」と期待を膨らませた。「いろんなお友達、バイバーイ」。別れ際、駆け寄ってハイタッチしたり、手を振り合う光景が広がった。
 
 「ふっ飛んで走っていた」と満足そうに見つめる松岡園長。幼少期に始めたサッカーをシニア世代になっても続ける。競技のおかげで学校外のつながり、仲間を大事にすることを学んだといい、子どもたちにもそうした経験をしてもらうのが狙い。サッカーとなると不得手と感じる子もいると考え、行事名に“遊び”を加えた。各園とも好感触を得た様子で、「市内全体に広がれば」との声も。運動会的なことになればいいかも―大人たちも想像を膨らませる。

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16年ぶりの祭りに感涙 釜石・尾崎神社本宮(尾崎白浜) 震災、山火事、台風被害乗り越え…

曳き船(みこし海上渡御)などが行われた尾崎神社本宮式年大祭=釜石・尾崎白浜

曳き船(みこし海上渡御)などが行われた尾崎神社本宮式年大祭=釜石・尾崎白浜

 
 釜石市平田尾崎白浜地区にある尾崎神社本宮(佐々木裕基宮司)の式年大祭が10日、16年ぶりに行われた。東日本大震災(2011年)、尾崎半島林野火災(17年)、台風19号による豪雨災害(19年)と度重なる苦難に見舞われながら復旧・復興への道を歩み続けた地区住民にとって、祭りができる喜びはひとしお。地区を離れた元住民らも多数駆け付け、久しぶりの曳き船(みこし海上渡御)や地元の神楽奉納に目を潤ませながら見入った。
 
 3年に1度行われる同祭は、同神社の氏子総代らでつくる奉賛会(佐々木靖男会長)が中心となり復活させた。10日は、浜町の里宮から迎えたみこしに本宮のご神体を移す神事が行われた後、みこしが高台の神社から漁港までを渡御。岸壁から漁業者の船に乗せられた。大漁旗をはためかせる地元漁船が次々に出港。みこしを乗せたお召し船を先導し、防波堤の外に出ると全23隻の船が大漁や地域の平穏を祈願しながら海上を3周した。
 
高台の神社からご神体を乗せたみこしが出発

高台の神社からご神体を乗せたみこしが出発

 
尾崎白浜漁港に向かう祭り行列。漁港では多くの人が行列を出迎えた

尾崎白浜漁港に向かう祭り行列。漁港では多くの人が行列を出迎えた

 
色とりどりの大漁旗で飾られた漁船が次々に出港

色とりどりの大漁旗で飾られた漁船が次々に出港

 
防波堤外側の釜石湾を周回する漁船。紅葉の木々や青い海に大漁旗が映える

防波堤外側の釜石湾を周回する漁船。紅葉の木々や青い海に大漁旗が映える

 
 防波堤から曳き船を見守った地元の70代女性は、約50年にわたり夫婦で漁業を営んできた。「夫も70半ばになり(出船を)迷ったが、娘や孫に見せたいと参加を決めた。久しぶりの光景に感動で涙が出てくる」と胸がいっぱいの様子。地元産業の漁業は後継者不足が顕著だが、「行政などの支援も活用し、何とか継承していってほしい。若い担い手が育つことを期待する」と思いを込めた。
 
 父、兄、夫、息子と一族総出で祭りに参加した同地区出身の及川侑美さん(40、大船渡市)。自身も子どものころ、母と一緒に漁協女性部の手踊りに出ていた。「家族みんな祭りが大好きなので…。太鼓の音が聞こえると胸が高鳴る」と及川さん。今回、夫と次男はみこし担ぎで参加。前回の大祭時は高校生の次男はまだ生まれておらず、16年という時の流れを子どもらの成長と重ね合わせた。実家は漁業で、家族らは2隻の船に乗り込んだ。「祭りがなくなると寂しい。どうにかつないでいってほしい」と愛着を見せた。
 
見物客は防波堤などから船団を見守った。乗船者らが手を振って応える

見物客は防波堤などから船団を見守った。乗船者らが手を振って応える

 
 海上渡御を終えた船団が漁港に戻ると、みこしに向かって祝詞がささげられ、各団体の代表が神前に玉ぐしを供えた。地区唯一の郷土芸能、尾崎神社本宮神楽(佐々木雄大会長、10人)が踊りを奉納。継承する3演目の一つ「操作」は神前でのみ踊られるもので、今回の祭りのために復活させた。3年ほど前に同神楽会に入会した松本大輝さん(30)は初めて同演目を披露。「3人の踊りの輪を崩さないように必死に練習してきた。地区の皆さんに見せることができてうれしい」と声を弾ませた。「メンバーは練習を頑張り、(難しい)踊りも覚えてくれた。ありがたい」と佐々木会長(45)。「頼もしい後継者もいる」と語る視線の先には、紙で手作りした権現様(獅子頭)を手にする子どもの姿があり、将来の担い手として期待した。
 
漁港ではみこしを前に「尾崎神社本宮神楽」が踊りを奉納

漁港ではみこしを前に「尾崎神社本宮神楽」が踊りを奉納

 
16年ぶりに披露された演目「操作」。神前でのみ踊られる

16年ぶりに披露された演目「操作」。神前でのみ踊られる

 
3人の舞い手が息の合った踊りを見せる。見物客もなかなか見られない踊りに興味津々

3人の舞い手が息の合った踊りを見せる。見物客もなかなか見られない踊りに興味津々

 
神楽会は後継者の育成にも意欲。会場では手作りの権現様で踊りをまねる子どもも(写真左下)

神楽会は後継者の育成にも意欲。会場では手作りの権現様で踊りをまねる子どもも(写真左下)

 
 みこしの担ぎ手衆は地元在住、出身、縁故者らで、10代から60代までの約30人。初めてみこしを担いだ同地区の高校生堀内駿汰さん(17)は「ずっしりと重かった。(尾崎の神様に)この地域を見守っていてほしい」と願い、大役を担う責任も実感。祭りで地域が活気づくのも初めての経験で、「みんなでわいわいできるのが最高。自分たちが盛り上げて伝統の祭りを継承していければ」と未来を見据えた。担ぎ手衆をまとめる尾崎神社本宮奉賛会氏子総代の佐々木豊さん(59)は「地区を離れて暮らす若い人たちも祭りには帰ってくる。地元愛がうれしい」と喜び、「浜(漁業)も今、元気がないので、大漁祈願の祭りで少しでも上向けば」と願った。
 
みこし担ぎには高校生ら若手も協力。祭りを通して地域の良さを感じた

みこし担ぎには高校生ら若手も協力。祭りを通して地域の良さを感じた

 
海上渡御を終え、神社に戻るみこし。地域住民らが手を合わせて感謝した

海上渡御を終え、神社に戻るみこし。地域住民らが手を合わせて感謝した

 
地区を見下ろす高台にある尾崎神社本宮。尾崎半島のさらに先には奥宮と奥の院がある

地区を見下ろす高台にある尾崎神社本宮。尾崎半島のさらに先には奥宮と奥の院がある

 
 同神社の大祭は開催年だった2011年に震災でできなくなって以降、休止が続いていた。津波被害を受けた漁港施設の整備に時間を要し、尾崎半島林野火災、台風豪雨による土砂災害、新型コロナウイルス禍もあり、祭り復活の機を逸してきた。開催年の今年、地区内7カ所の砂防ダムの建設が完了したことも後押しし、「何としても今年こそは」と08年以来の実施を決めた。
 
 「感無量…。天候に恵まれたのが一番。海も穏やかで本当に神様のおかげだね」。16年ぶりの華やかな光景に感極まる尾崎白浜町内会の箱石忠男会長(69)。震災前、同地区では124世帯に340人が暮らしたが、今は100世帯を切っているという。人口減少や基幹産業の漁業の不振など課題はあるが、住民同士の助け合いやいざという時のまとまりの良さは今も変わらない。「祭りは町内の団結力も育む。住民の高齢化もあり、今後の形は未定だが、やっぱり(祭りは)必要だと思う」と話した。

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日本製鉄釜石SW新クラブハウス落成 広さ2倍 より良い環境で今季飛躍に期待

日本製鉄釜石SWの新クラブハウスに整備されたトレーニングルーム。広さは現施設の1.6倍=関係者向け内覧会

日本製鉄釜石SWの新クラブハウスに整備されたトレーニングルーム。広さは現施設の1.6倍=関係者向け内覧会

 
 NTTジャパンラグビーリーグワン2部の日本製鉄釜石シーウェイブス(SW)の新しいクラブハウスが完成し、8日、関係者向けの内覧会が開かれた。広さは現施設の約2倍。新たにミーティングルームや練習場を見渡せるラウンジが整備され、選手、スタッフのコミュニケーション、チーム力向上に寄与するものと期待される。トレーニング機器やロッカーなど必要な物品の搬入を進め、今月末からの利用開始を予定する。
 
 内覧会にはスポンサー、選手雇用先企業などから約30人が参加。見学の前に行われた式典で、桜庭吉彦ゼネラルマネジャー(GM)は「トレーニング効率、選手、スタッフのコミュニケーション、トレーニング後のリカバリーなどラグビーをする環境が大幅に向上する」と感謝。設計から携わった坂下功正総監督が施設の概要を説明した。スポンサーを代表し、日本製鉄北日本製鉄所の倉地三喜男副所長は「(施設建設は)チーム強化の一環。フル活用し、心と体を鍛えて必ず強いチームに」と期待を込めた。テープカットで施設落成を祝った。
 
内覧の前に行われた式典。桜庭吉彦GM(写真左上)、日本製鉄北日本製鉄所の倉地三喜男副所長(同右上)があいさつ

内覧の前に行われた式典。桜庭吉彦GM(写真左上)、日本製鉄北日本製鉄所の倉地三喜男副所長(同右上)があいさつ

 
テープカットで落成を祝う(左から)坂下功正総監督、桜庭GM、倉地副所長、河野良太クラブキャプテン

テープカットで落成を祝う(左から)坂下功正総監督、桜庭GM、倉地副所長、河野良太クラブキャプテン

 
現施設の隣に建設された日本製鉄釜石SWの新クラブハウス

現施設の隣に建設された日本製鉄釜石SWの新クラブハウス

 
 新クラブハウスは甲子町松倉の現施設の隣に建設。施主は日本製鉄(北日本製鉄所釜石地区)で、日鉄テックスエンジが昨年12月から工事を進めてきた。鉄骨造り2階建てで、延べ床面積は1092平方メートル(敷地面積1261同)。1階には選手のロッカールーム、浴室、トレーニングルームなどを設けた。ロッカールームは現施設の1.5倍の広さ。練習する市球技場に直接出入りできる。温水、冷水用の2浴槽を備えた浴室とは隣り合わせ。トレーニングルームは1.6倍の広さで、天井が高く、片側の壁一面が鏡張りになっている。
 
8日に開かれた内覧会。坂下総監督(右)が玄関ホールから順に案内した

8日に開かれた内覧会。坂下総監督(右)が玄関ホールから順に案内した

 
1階のロッカールーム(写真上)と浴室(同下)

1階のロッカールーム(写真上)と浴室(同下)

 
 2階には選手、スタッフが一堂に会せるミーティングルームを新設。壁面に大型スクリーンを設置予定で、研修会なども行える。球技場側にはラウンジも新設。簡易キッチンを備え、練習後の選手への補食提供も検討する。フルオープンの窓からバルコニーに出られ、練習の様子も見られる。この他、メディカルルーム、スタッフルーム、小会議室、総監督室も整備した。
 
新設されたミーティングルーム(2階)

新設されたミーティングルーム(2階)

 
市球技場に面したラウンジ(2階)も新設。バルコニーも備える

市球技場に面したラウンジ(2階)も新設。バルコニーも備える

 
バルコニーからは球技場を一望できる。ラウンジ内には簡易キッチンも

バルコニーからは球技場を一望できる。ラウンジ内には簡易キッチンも

 
 内覧会に出席した河野良太クラブキャプテンは「ロッカールームが広くて使いやすそう。これまでミーティングはジムルームで各自座れる所を見つけてやっていて、メモも取りにくかった。この素晴らしいクラブハウスを最大限有効活用して、しっかり結果を出していきたい」と意を強くし、施設支援へ感謝の気持ちを表した。坂下総監督は「選手の動線を一番に考えた造り。これまで以上にコミュニケーションが取れ、チームのまとまりができていくと思う。12月から始まるリーグ戦に向けて強化を進め、結果で恩返ししたい」と述べた。
 
 この日は新クラブハウスで、新たにスポンサーとなった岩泉町の岩泉ホールディングス(山下欽也代表取締役社長)との調印式も行われた。同社は看板商品の岩泉ヨーグルトの提供などで、選手の強い体づくりを支える。
 
ミーティングルームには会見用のバックボードも設置(写真左上) メディカルルームはラウンジから出入り可能(同左下) 素晴らしい施設に見学者も感心

ミーティングルームには会見用のバックボードも設置(写真左上) メディカルルームはラウンジから出入り可能(同左下) 素晴らしい施設に見学者も感心

 
 釜石SWのリーグ初戦は12月21日。福岡市のベスト電器スタジアムで九州電力キューデンヴォルテクスと対戦する。ホームの釜石鵜住居復興スタジアムでは1週間後の28日、第2節グリーンロケッツ東葛戦が行われる。

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釜石・浜千鳥が評価員特別賞 東北清酒鑑評会、純米酒の部 吟醸酒の部も優等賞

東北清酒鑑評会で評価員特別賞を獲得した浜千鳥の社員ら

東北清酒鑑評会で評価員特別賞を獲得した浜千鳥の社員ら

 
 仙台国税局による東北清酒鑑評会の結果が発表され、純米酒の部で釜石市小川町の酒造会社、浜千鳥(新里進社長)が最優秀賞に次ぐ「評価員特別賞」に選ばれた。吟醸酒の部でも優等賞を獲得。地域性を大事にした酒造りを続けており、新里社長は「岩手県の味わいが認められた」と喜ぶ。日本の「伝統的酒造り」が近く、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しで、「文化的な面で味わいも深めて楽しんでもらえたら」と期待を膨らませる。
 
 同鑑評会は東北6県で造られた日本酒の品質を評価する。今年は清酒製造場147場(県内は15場)が計274点(同29点)を出品。部門別では吟醸酒が122場136点(同10場10点)、純米酒は122場138点(同14場19点)だった。研究機関の職員や製造場の技術者、外国人の専門家らが10月上旬、香りや味などを総合的に審査した。
 
 その結果、優等賞に吟醸で47場52点、純米で43場46点を選び、その中から、最も評価が高かったものを最優秀賞、次点の2点を評価員特別賞とした。県内からは両部門で9場が選ばれ、浜千鳥を含む4場がダブル受賞。純米の評価員特別賞には浜千鳥とともに、わしの尾(八幡平市)も上位入賞を果たした。
 
 表彰式は11月7日にあり、浜千鳥の本社を訪れた仙台国税局課税第二部の田村英好部長が表彰状を伝達。新里社長、奥村康太郎杜氏(とうじ)・製造部長らが受け取り、社員らと喜びを分かち合った。インバウンド消費や輸出促進に役立ててもらうため、英語の賞状も授与された。
 
h評価員特別賞の表彰状を受け取る新里進社長(中央)ら

評価員特別賞の表彰状を受け取る新里進社長(中央)ら

 
吟醸酒の部の賞状は奥村康太郎杜氏(中央)らが受け取った

吟醸酒の部の賞状は奥村康太郎杜氏(中央)らが受け取った

 
 評価員特別賞を受けた「浜千鳥 純米大吟醸 結の香」は、本県最上級のオリジナル酒米「結の香」を原料に、岩手オリジナル酵母「ジョバンニの調べ」で醸造。軽やかに広がるフルーティーな香り、甘みと酸味の調和感、余韻の心地よさなどが評価された。吟醸の部優等賞の「浜千鳥 大吟醸」は酒米の王「山田錦」が原料。酵母は同じくジョバンニを使う。
 
 同社のダブル受賞は今年で5年連続7回目。全国トップクラスの技術を持つ杜氏や蔵人がひしめく東北鑑評会での入賞は「難しい」との声もある中、2部門での連続受賞に奥村杜氏は素直にうれしさを見せる。「全国に誇れる素材を生かし、浜千鳥らしい味をこれからも。品質も高めていく」。次の酒造りがすでに始まっているといい、「米、酵母、釜石の水…素材本来の味、特徴を見いだしたい」と眼光を鋭くする。
 
田村英好部長に代表銘柄「浜千鳥」を紹介する新里社長(右)

田村英好部長に代表銘柄「浜千鳥」を紹介する新里社長(右)

 
 新里社長は「ありがとう。これまで頑張ってきた成果」と社員への感謝を口にする。冬場に丹精込めて醸造し、夏場も細心の注意を払って管理、熟成させる伝統的な酒造りは変わらない。同じ材料で風合いを守りつつ品質を高めていく姿勢もしかり。「継続性を大切に」と望む中、無形遺産登録への流れを「日本酒の良さを知ってもらう好機」と捉える。「浜千鳥、そして岩手の清酒をどうぞ」。笑顔を添えてアピールした。

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1、2年生チーム 力試しの新人戦 釜石大槌地区中学校 7競技で熱戦 保護者の声援受け懸命プレー

各競技で熱戦を繰り広げた釜石大槌地区中学校新人大会=7日

各競技で熱戦を繰り広げた釜石大槌地区中学校新人大会=7日

 
 2024年度釜石大槌地区中学校新人大会(同地区中学校体育連盟主催)は7日、釜石、大槌両市町の学校体育館、公共スポーツ施設で7競技が行われた。3年生の部活動引退後、1、2年生による新チームを結成しての初の公式戦。本来であれば9競技が行われるが、2競技で対戦のための人数がそろわず、試合を断念した。上位チーム、選手が出場する県大会は10月(前期)と11月(後期)の2つの日程で行われる。
 
 少子化による生徒数の減少などで、単独校での大会出場が難しくなっている団体競技。3年生引退後の新人戦はさらに人数が減り、対戦カードを組めない競技も複数出ている。今大会、軟式野球は地区予選がかなわず、釜石、大平、甲子、大槌の4校合同チームが地区代表で県大会に出場する。バスケットボール女子も釜石、大平、大槌の3校合同チームで県大会へ。柔道は団体、個人とも地区予選ができず、各階級の男女選手が県大会個人戦に出場する。剣道は男子のみの参加で、団体戦は大槌が地区予選なしで県大会に進む。
 
 釜石中体育館で男子個人戦のみ行われた剣道競技には3校から9人が参加。予選リーグの後、6人による決勝トーナメントが行われた。会場では保護者らが試合を見守り、技が決まると拍手で選手をたたえた。個人戦は上位3人が県大会に進む。
 
釜石中体育館で行われた剣道競技の男子個人戦

釜石中体育館で行われた剣道競技の男子個人戦

 
保護者や釜石、大槌の剣道協会員らが見守る中、試合が行われた

保護者や釜石、大槌の剣道協会員らが見守る中、試合が行われた

 
 3位決定戦で勝利し、県大会出場権を獲得した高木壮嘉選手(釜石中1年)は小学4年から剣道に励む。同じく小学校からやっている2選手に「今日は勝ちたかったが、気持ちで負けてしまった部分がある」と反省。県大会に向け、メンタル強化を課題に挙げた。6月の中総体では団体戦ができたが、3年生の引退で今回は人数が足りず、対戦できなかった。「できなかったのはちょっと悲しい。来年の新1年生の入部に期待したい」と仲間が増えることを願った。
 
県大会出場を目指し試合に挑む釜石、大槌の選手

県大会出場を目指し試合に挑む釜石、大槌の選手

 
 甲子中体育館が会場となったバレーボール競技。男子は吉里吉里と釜石・甲子合同チームが対戦した。女子は大平と吉里吉里が合同チームを結成。釜石東、甲子、釜石とともに4校のトーナメント戦が行われた。2階ギャラリーでは保護者が熱い声援を送り、
選手のプレーを後押しした。
 
甲子中体育館で行われたバレーボール競技。女子1回戦 甲子-釜石

甲子中体育館で行われたバレーボール競技。女子1回戦 甲子-釜石

 
選手に声援を送る両チームの保護者ら

選手に声援を送る両チームの保護者ら

 
 甲子中女子の上小路琉月主将(2年)は1回戦で釜石中に勝利後、「声とかつなぎとか練習の成果は出せた。2セット目は最初、相手に取られてあせりもあったが、全員で抑え切れたと思う」と手応えを実感。一方で、「相手の波にのまれると負けてしまうので、自分たちのペースに持ち込めるように頑張りたい」と次戦への意欲を高めた。決勝では釜石東を破り、県大会出場を決めた。
 
甲子の攻撃を止めようと食らいつく釜石の選手(白ユニホーム)

甲子の攻撃を止めようと食らいつく釜石の選手(白ユニホーム)

 
同試合は甲子のリードで進み、2-0で勝利した

同試合は甲子のリードで進み、2-0で勝利した

 
 同地区では本年度の中総体から、サッカー競技に大槌サッカークラブ、バドミントン競技にKBFの2地域クラブが参戦。本大会にも出場し、大槌サッカークラブは釜石東を破り初優勝。KBFは女子団体戦で中総体に続く連覇を果たした。
 
 釜石大槌地区の代表が出場する競技の県大会は前期が10月19、20日(バスケットボール、サッカー、軟式野球、ソフトテニス)、後期が11月16、17日(バレーボール、卓球、バドミントン、柔道、剣道)に県内各会場で開催予定。同地区大会の結果は大会成績一覧表の通り。
 
2024年度釜石大槌地区中学校新人大会成績一覧表(PDF:164KB)

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「鉄のまち」支えた歴史を知る 釜石鉱山坑道見学 電動カートで冒険、鉱石探し

鉄鉱石の採掘跡などを巡る釜石鉱山の坑道見学会

鉄鉱石の採掘跡などを巡る釜石鉱山の坑道見学会

 
 「鉄のまち」の歴史を知ってもらおうと夏季に行われている釜石鉱山(釜石市甲子町大橋)の坑道見学が今年も企画され、7月31日から8月2日の3日間で市内外から計約40人が参加した。製鉄業繁栄を支えた鉄鉱山に残る鉱石採掘跡などを見て回って往時を想像したり、夏の日差しから逃れる冷涼な別世界での探検を楽しんだ。
 
 江戸時代に始まり、明治・大正・昭和と日本の製鉄の発展とともに歩んできた釜石鉱山。良質な鉄鉱石を産出し鉄のまち釜石を支えたが、1993(平成5)年に大規模な採掘は終了した。現在は地下水力発電所での発電や坑道から湧き出てくるナチュラルミネラルウォーター「仙人秘水」の製造販売を主力にする。
 
 8月1日に実施された見学には岩手県内の家族連れら13人が参加。同社総務課の千葉慎吾課長代理(41)の案内を受け、電動カートに乗り込んで標高550メートルの坑口から入った。最初の目的地は坑口から約3000メートル入った地点にある「仙人秘水」の採水地。移動時間は20分ほどで、その間、カートに取り付けられたモニターに映し出された鉱山の歴史を伝える動画で知識を深めた。
 
左上写真がスタート地点の坑口。(時計回りに)電動カートに乗って坑内へ

左上写真がスタート地点の坑口。(時計回りに)電動カートに乗って坑内へ

 
車載モニターに表示される動画を見て釜石鉱山の歴史に触れながら移動

車載モニターに表示される動画を見て釜石鉱山の歴史に触れながら移動

 
 採水地は大峰山(標高1147メートル)の地下約600メートルに位置する。参加者は源水を試飲したり、千葉さんから坑道の概要を聞いたりした。秘水は当初、坑道内にある工場で製造していたが、2009年からは送水管を使って地上で製品化する。
 
 「仙人秘水」の採水地で千葉慎吾さん(右)の解説を聞く参加者

「仙人秘水」の採水地で千葉慎吾さん(右)の解説を聞く参加者

 
長い期間じっくりと岩盤をつたってくる湧き水の味わいを確かめる

長い期間じっくりと岩盤をつたってくる湧き水の味わいを確かめる

 
 鉱石採掘場は、同社保安施設課の新田秀祐課長(52)が案内。当時使われていた削岩機や鉱石運搬車などを示しながら、トンネルの掘削や鉱石の採掘方法を説明した。坑道の総延長は1000キロに及ぶといい、「1回の発破で進めるのは1メートルほど。かなりの年月をかけて(採掘場所を)探ったと思う」と想像。多い時で約3000人が交代しながら作業に携わっており、先人たちの働きぶりに頭を下げた。
 
 鉄鉱石の採掘跡は新田秀祐さんが案内。鉱石を効率よく搬出するため鉱石を投下したタテ坑なども見て回った

鉄鉱石の採掘跡は新田秀祐さんが案内。鉱石を効率よく搬出するため鉱石を投下したタテ坑なども見て回った

 
鉄鉱石、石灰石、トルマリンなどが採掘されていたといい、鉱石探しも体験した

鉄鉱石、石灰石、トルマリンなどが採掘されていたといい、鉱石探しも体験した

 
 花こう岩でできた音響実験室「グラニットホール」を見学し、スタート地点に戻った。この日も気温25度を超える夏日だったが、坑内は気温約10度の別世界。参加者はいっときの涼を体感した。
 
 平泉町の千葉敏明さん(76)、ローズマリーさん(75)夫妻は地域の歴史に関心があり、奥州藤原氏の繁栄を支えた金(砂金)をきっかけに県内外の金山、鉱山などを訪ね歩くのが楽しみだという。今回は「坑内に入れるなんて…逃がせない」と来釜。アリの巣のように伸びた坑道での“冒険”を満喫した一方、「昔の人たちは暗くて、危ない環境の中で働いていた。すごく大変だったろう」と思いをはせた。そうした歴史を伝えるものが残され、保全されることで“観光”ができると感謝。これからも「歴史にちなんだ旅を続けよう」と笑顔を重ねた。
 
グラニットホールも見学。坑内の気温は10度で涼しさを感じる

グラニットホールも見学。坑内の気温は10度で涼しさを感じる

 
 坑道見学は、観光地域づくり会社かまいしDMCが展開する「Meetup Kamaishi 2024」のプログラム。海、鉄、山の切り口から地域の宝物、各分野の専門家“鉄人”と触れ合える釜石ならではの体験(漁業体験、漁船クルーズ、シュノーケリング、シーカヤックなど)を用意している。