釜石市防災講演会=釜石PIT、16日
地震津波、台風、集中豪雨などの自然災害により、全国各地で想定を超える被害がもたらされている昨今―。そうした中、釜石市は16日、自然災害への理解を深め、防災対策に役立ててもらうための市民向けの講演会を開いた。講師は同市の防災・危機管理アドバイザーを務める越野修三さん。「大災害から学ぶ危機管理」と題した講演で越野さんは、災害リスクを知り、具体的にイメージして対処法(戦略)を構築、実践訓練で検証する重要性を説いた。
大町の釜石PITで開かれた講演会には自治会役員、消防団員、防災士を中心に約50人が参加した。講師の越野さんは陸上自衛隊出身。在任時に阪神・淡路大震災(1995年)の災害派遣を経験した。2006年に退官後、県の防災危機管理監に就任。08年の岩手・宮城内陸地震、11年の東日本大震災で県の災害対応を指揮した。釜石市では同震災検証委員会の委員長を務め、18年から防災・危機管理アドバイザーとして助言を行っている。
講師の越野修三さん(釜石市防災・危機管理アドバイザー)
越野さんは6000人以上が犠牲になった阪神・淡路大震災について、危機意識と事前準備が不十分で救助活動や行政対応が遅れたことを指摘。危機の認識には災害への関心や知識が必要で、「全く関心のない人にいくら情報を与えても行動は起こさない。避難を呼びかけても逃げないのも同じ。危機意識を持つか持たないかで行動は全く変わってくる」と話した。
では、どうすれば危機(災害)対応がうまくいくのか。越野さんは危機管理には「事前対応」「応急対応」「事後対応」の3段階があり、危機に対し、いかに早く適切に対応できるかは事前対応(準備)にかかっていると教えた。一番大切なのは「危機をどれだけ具体的にイメージできるか」ということ。「ハザードマップなどで自分が住む地域の災害の可能性(リスク)を知り、それが起きたらどのような状況になるのかを考える」。これが危機管理の出発点だとした。
越野さんは「大災害から学ぶ危機管理」と題し講演した
越野さんが県の防災危機管理監に就任する際、「30年間に宮城県沖地震が発生する確率は99%」とされていたが、県職員の防災への問題意識は決して高くはなかったという。着手したのは、大地震、津波発生時に何が課題となり、どう対処すべきかを考えること(課題解決のための戦略の構築)。就任から1年後の07年には県総合防災訓練、08年には自衛隊と自治体の共同訓練(みちのくアラート)を行い、災害時の応急対策活動(人員・資器材の集結、情報共有、部隊配置、救出救助・医療、緊急物資輸送など)を検証した。災害対策本部機能の強化も図り、これらの取り組みは11年の東日本大震災の対応に生かされた。
一方で東日本大震災では、本県で約6000人が津波の犠牲になった。なぜ、避難行動が遅れたのか。越野さんは震災後に釜石市で実施した住民アンケートから、激しい揺れを感じ津波の情報を得ていたにもかかわらず、約40%の人はすぐには避難していなかった実態を明かした。一因に「自分は大丈夫」「今まで被害がなかったから」「隣の人も逃げていない」など根拠のない理由を自分に言い聞かせ、逃げない自分を正当化しようとする、人間誰しもが持つ心理的作用があるという。
越野さんの話に耳を傾ける参加者。災害への関心、危機意識を持つ大切さを学んだ
近年増加する大雨、洪水、土砂災害のリスクについても説明。1時間に50ミリ以上の雨が降り続いた場合にどんなことが起こりうるかを過去の災害を例に説明した。2018年の西日本豪雨で51人が犠牲になった岡山県真備町では、合流する2河川が大雨で増水。支流の水が合流地点で流れにくくなり水位が急激に上昇、堤防が決壊し浸水する「バックウオーター現象」があった。本年9月の能登半島の大雨災害では、線状降水帯が発生するなどして1時間に100ミリ以上の降雨を記録。上流からの流木が橋でせき止められ、ダム化することで予想外の浸水被害を引き起こした。
全国で発生した大雨災害の事例も紹介。同様の被害は釜石市でも起こりうる
越野さんは「釜石市は平地が少なく、居住地の背後に険しい山をかかえる。大雨が降ると山から谷に流れ込むイメージ。甲子川にも支流があり、バックウオーター現象や流木による浸水被害が起こりうることをイメージする必要がある」と助言。津波同様、ハザードマップであらかじめリスクを確認しておくことが重要とした。
また、土砂災害で死亡した人の90%は土砂災害警戒区域で亡くなっていること、線状降水帯は日本中どこでも発生する可能性があることも伝え、災害が起きそうな雨量の目安を知り、避難行動の基準(避難スイッチ)を決めておくよう促した。
「地震はいつどこでも起こりうる」。過去の地震災害の特徴も学んだ
講演の前には全員で「釜石市防災市民憲章」を唱和した
大規模災害では発災直後は公助(行政、警察、消防、自衛隊)の力を当てにできない。自分の命は自分で、地域は地域で守る必要がある(自助、共助、協働)。越野さんは「訓練でできなかったことは実際の危機(災害)時にできるわけがない。個人、地域、行政など、それぞれの立場で対処法を準備し実践的訓練を重ねる。最悪の場合を想定し行動することが大事」と呼び掛けた。
防災士の資格を持つ鵜住居町の佐々和代さん(76)は近年増加する大雨災害を危惧。居住地前の長内川の形状や草の繁茂による大雨時の水位上昇を心配し、「氾濫や土砂災害の可能性もあることを考えておかないと。『ここは大丈夫』という意識は禁物。(講演で言われたように)日ごろから防災への意識を高めておくことが大切」とうなずいた。
今後の防災対策に必要なことを学んだ参加者