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講義に聞き入り、震災を語り継ぐための工夫を学ぶ参加者

伝承者の意義を考える、ステップアップ研修〜広島原爆体験から学ぶ、世代を超えた語り継ぎへ

講義に聞き入り、震災を語り継ぐための工夫を学ぶ参加者

講義に聞き入り、震災を語り継ぐための工夫を学ぶ参加者

 

 釜石市の「大震災かまいしの伝承者」のステップアップ研修会は2月29日、鵜住居町の「いのちをつなぐ未来館」で開かれた。テーマは「時間や世代を超えた語り継ぎの可能性―被災者から未災者への記憶の継承」。広島で展開される原爆体験の伝承活動から工夫を学び、後世に伝える意義をかみしめた。

 

 東日本大震災を語り継ぐ人材育成のため市が昨年スタートさせた取り組みの一環。基礎研修を終えた54人のうち希望した22人が受講した。

 

 立教大社会学部の小倉康嗣准教授が「原爆体験の継承の現場から」と題し講義。原爆投下から75年を迎える広島では被爆者や戦争体験者が少なくなる中、「記憶の風化はもちろん、原爆体験が呼び起こす意味や警告の形骸化、陳腐化といった課題も浮き彫りになっている」と指摘した上で、解決の一つの工夫、事例として、広島県の高校生が取り組む活動「原爆の絵」を紹介した。

 

 高校生が被爆者と一対一で向き合い、何度もその経験を聴き取った上で、それぞれ一枚の絵に仕上げる。2007年に始まった取り組み。原爆の非体験者である高校生が、被爆者も驚くような絵を描くという。

 

 小倉准教授は、絵を描く前や制作過程、仕上げた後の生徒たちにインタビューを重ね、心の変化を調査。原爆のことを「分かっているつもり」でいた生徒らが被爆者との対話を重ねることで「全然分かっていなかった」と気付いたり、「戦争は分断された過去ではなく、今の自分につながっている出来事」として当時の悲惨な情景に理解を深めていく過程を、完成した絵と生徒自身の言葉を引用しながら説明した。

 

 大きな災禍を後世へ伝えられるのは経験者だけなのか―。小倉准教授は「継承とは単なる伝達ではなく、コミュニケーション。対話によって共同形成され積み重なっていくことで、記憶は希薄化するのではなく濃密化し、歴史の重さが増していく。体験の非共有性を乗り越えていくきっかけとなり得る」と強調した。

 

 参加者は講義を踏まえ、伝承の意味や価値について意見交換。研修終了後に市から修了証が交付された。

 

 釜石観光ガイド会の川崎孝生副会長(78)=栗林町=は「何を残し、どう伝えるか。伝承は難しい。だが、大事なこと。言葉だけでなく、広島の絵のように形として残すことも必要ではないか」と考えを深めていた。

 
 ステップアップ研修は3月15日にも実施予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため中止することとなった。

 

(復興釜石新聞 2020年3月7日発行 第873号より)

 

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子ども、家庭の交通安全を願いマンガ読本を学校に寄贈した釜石安協の菊地会長(右)

「マンガで学ぼう交通安全」〜釜石・大槌の小学校に読本贈る、釜石地区交通安全協会

子ども、家庭の交通安全を願いマンガ読本を学校に寄贈した釜石安協の菊地会長(右)

子ども、家庭の交通安全を願いマンガ読本を学校に寄贈した釜石安協の菊地会長(右)

 

 釜石地区交通安全協会(菊地次雄会長)は20日、釜石・大槌地域の小学校11校(釜石市9校、大槌町2校)にマンガ形式の交通安全読本を各2冊、計22冊を贈った。贈呈式は釜石市中妻町の釜石警察署で行われ、菊地会長と仲谷千春署長が市教育委員会の高橋康明教育部長、町教委の沼田義孝教育長に託した。

 

 菊地会長は「約50年に及ぶ交通安全活動で、子どもやお年寄りの事故を減らそうと取り組んできた。無事故への特効薬はない。16日には釜石市内で、お年寄りが交通事故で亡くなった。『雀百まで踊り忘れず』という。子どもたちがこの本に触れて事故防止を考え、安全に暮らすよう願う」と期待を述べた。

 

 仲谷署長も「夜間の外出時に白い服装や反射材を身に着けることは安全効果があり、巻き込まれ事故や、停止した車の急なドアの開閉による危険などにも触れている。震災では、津波防災を学んだ小学生の子どもが率先避難者として祖父母を救った実例がある。子どもの安全意識が高まり、家庭、お年寄りに波及するよう期待する」と願った。

 

 両教委は各学校の図書館に常備して読書に提供するとともに、児童の安全指導などに活用を図るという。

 

釜石地域の11小学校に贈られた読本

釜石地域の11小学校に贈られた読本

 

 この読本は、公益財団法人自転車駐車場整備センターが編集・発行した「自転車交通ルールを学ぼう」。2011年から同じタイトルで発行を続け、25刊目となる。約300ページには、交通安全の多様なテーマに対応したストーリーがマンガで描かれ、子どもが理解しやすい構成となっている。

 

 釜石署管内では昨年、子ども(中学生以下)の人身事故は2件で、歩行中の車との接触事故と、車に同乗中の赤ちゃんの負傷。いずれも軽傷だった。

 

(復興釜石新聞 2020年2月22日発行 第869号より)

 

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ポスターセッションでは来場者が興味深い研究に聞き入った

釜石の実践知を手がかりに、東大社研が報告会〜危機対応と希望との関係考える

釜石での調査研究について話すプロジェクトの参加者

釜石での調査研究について話すプロジェクトの参加者

 

 国立大学法人東京大学社会科学研究所が行った「危機対応学」釜石調査の成果報告会は15日、釜石市大町の釜石PITと市民ホールTETTOで開かれた。同研究所のプロジェクトに参加した各大学の教授らがポスターセッションで成果を発表。県内外からの来場者約110人が耳を傾け、地域の未来を創造するためのヒントを学んだ。

 
 東大社研が2016年度から取り組んできた危機対応学の成果は、全4冊の書籍として刊行。うち1冊が釜石市の研究で、「地域の危機・釜石の対応~多層化する構造」というタイトルで今春発売される。

 

 同著の編集を担当した玄田有史、中村尚史両教授は報告会で、釜石調査の狙いや研究活動の経過、本の内容などを説明。震災前の「希望学」釜石調査も踏まえた地域再生の多面的考察、震災をめぐる危機対応の検証を柱にした研究について紹介した。

 

 調査研究には東大社研のほか、首都圏や関西、岩手県の各大学から、法、政治、経済、歴史など社会科学諸分野の研究者総勢30人が参加。11の調査班が3回の大規模現地調査や、釜石から東京にゲストを招いての調査研究会(11回)などを実施。釜石ではシンポジウムや公開セミナー、トークイベントも開催した。

 

 調査の過程で注目したのは「危機の多層化」。▽突発的な危機(自然災害、戦災など)▽段階的に進む危機(産業構造の変化など)▽慢性的な危機(人口減少、高齢化など)―という複数の危機が、折り重なるように出現してきた釜石の歴史に着目。「時間軸の異なる危機に同時に対応するのはとても難しい。さまざまな危機をトータルに考える必要がある」とし、多くの危機に直面してきた釜石ならでは危機対応の研究意義を強調した。

 

 ポスターセッションでは8つの調査班が研究成果を公開。来場者との意見交換も行われた。総括討論では同著に論文を寄せた11人が登壇し、研究の視点や論文内容、今後必要な議論について語った。

 

ポスターセッションでは来場者が興味深い研究に聞き入った

ポスターセッションでは来場者が興味深い研究に聞き入った

 

 地方政治班の佐々木雄一氏(明治学院大)は震災前後の市の予算規模の変化に注目。平時に戻る中での予算縮小による影響などを考察し、「人口減少を考慮しつつも地域が縮小しないように行政はどうすべきか、研究者の立場から議論の必要性を書いた」と説明。

 

 地域防災班の佐藤慶一氏(専修大)は消防関係者らに話を聞き、「印象に残ったのは気持ちの問題。災害発生時に後悔しないよう、今できることをする。備えへの心構えが大事」と実感。

 

 地域漁業班の高橋五月氏(法政大)は「魚のまち釜石」を切り口に、自ら漁業体験しながら地元漁業者の思いを聞き取り。「(水産業の危機に向き合い)海と一緒に生きていく人々が今後、どのような魚のまちを作っていくのか、さらに研究を深めたい」と話した。

 

 玄田、中村両教授は同著のあとがきで「津波、艦砲射撃、鉄鋼不況―など多様な危機に直面してきた釜石には、危機への向き合い方とでもいうべきものが脈々と受け継がれている。危機が多層ならば、対応を総合化させていく。それが同時進行の危機への、いかにも釜石らしいダイナミックな実践知としての対応なのだ。釜石の実例から、危機対応のヒントを見出していただければ」と結んでいる。

 

(復興釜石新聞 2020年2月19日発行 第868号より)

 

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1年間の防災学習の集大成として命を守る取り組みを提案する児童

災害に強いまち提案 避難意識が命を守る、鵜住居小学習発表〜防災文化の広がりに期待、台風19号の教訓も生かす

1年間の防災学習の集大成として命を守る取り組みを提案する児童

1年間の防災学習の集大成として命を守る取り組みを提案する児童

 

 鵜住居小(中軽米利夫校長、児童158人)の6年生36人による防災学習発表会は1月31日、釜石市鵜住居町のいのちをつなぐ未来館で開かれた。「みんなの命を守ることができる町にしよう」をテーマに、1年間進めてきた学びの成果を披露。東日本大震災や台風19号の教訓を生かした、災害に強いまちづくりへの取り組みを提案した。

 

 僕たちの話を聞いてください。私たちの描いた未来の姿はこれです―。地域住民、市関係者ら約60人を前に訴える児童。▽災害からの避難▽気象災害▽防災意識の課題―の3つの視点について、7グループが他県の取り組み事例や学びから得た地域の課題と解決のためのアイデアを示した。

 

 「一人一人が避難訓練に『参加しよう』という意識があるまち」を思い描いたグループは、大阪府堺市で行われている大声コンテストや防災脱出ゲームを事例として紹介。「もし津波が来たら大きな声で『逃げろ!』と伝えられるようになる」「クイズやゲームをしながら身の守り方や非常時持ち出し品など防災知識を学ぶことができる」「子どもからお年寄りまで楽しみながら参加してもらえる」と利点を説明した。

 

 これを受け、避難訓練を行う際はポスターで呼び掛けるとともに、イベントの開催を提案。「避難訓練に参加する意識があれば命は守れる」と強調した。
 このほか、自由に持ち出せる土のうの保管場所の設置などの対策、会員制交流サイト(SNS)やアプリを通じた情報発信の強化など命を守るための取り組みといった提案もあった。

 

 この発表会は、6年生の国語「町の未来をえがこう」と総合的な学習「鵜住居の防災を広げよう」をまとめた学びの集大成。テーマについて子どもの視点で考え、発信することで、まちの未来を主体的に考える人材の育成につながると実践した。

 

 武田愛美さん、植田弥桜(みお)さんのグループは「避難所のプライベートを確保するためにテントを導入する」などと提案した。武田さんは「伝えたい気持ちで頑張った結果をしっかり届けることができた」と満足げ。将来、同館で働きたいと夢を思い描く植田さんは「釜石が大好き。ここで起こったことを知らない人に伝えられるよう、これからも防災を学び続けたい」と意欲を見せた。

 

 発表を聞いた住民らは「初めて聞く知識、知る取り組みがあった」「互いに学び合う姿勢を大切にしたい」などと子どもたちに刺激を受けた様子だった。

 

 児童の取り組みを見守った片山直人教諭は「子どもたちの活動に触れ、考えを理解し、発信を受け止め、大人はどうするか、考えるきっかけになれば。防災文化の広がり、定着につながる取り組みになれば」と期待した。

 

(復興釜石新聞 2020年2月5日発行 第864号より)

 

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釜石祈りのパークを視察するインドネシア・アチェ州の関係者ら

津波からの復興共有、インドネシア・アチェ関係者 釜石視察〜防災教育に理解深める

釜石祈りのパークを視察するインドネシア・アチェ州の関係者ら

釜石祈りのパークを視察するインドネシア・アチェ州の関係者ら

 

 インドネシア・スマトラ島最北端にあるアチェ州のバンダ・アチェ市にあるアチェ津波博物館の関係者らが7日、釜石市鵜住居町の「うのすまい・トモス」を視察した。アチェ市では来年度から、JICA(国際協力機構)の草の根技術協力事業を活用し、地域住民参加型津波防災活動の導入プロジェクトがスタート。この活動に一般社団法人根浜MIND(マインド)が協力し、釜石での研修が計画されていることから、事前訪問で復興まちづくりへの住民の関わりや防災教育の取り組みについて理解を深めた。

 

 同博物館のハフニダール館長(43)、同州観光文化局のズルキフリ・ダウ次官(48)ら6人は祈りのパーク、いのちをつなぐ未来館を見学。復興事業の着手までに約4年かかっているが、復興まちづくりに市民が関わり協議する場がいくつも設けられたことに関心を示した。

 

いのちをつなぐ未来館も見学した

いのちをつなぐ未来館も見学した

 

 同州は2004年12月のスマトラ沖大地震・インド洋津波で、死者・行方不明者が約24万人に上るなど甚大な被害を受けた。発災から15年を経て、地域住民の防災意識の低下が課題。09年に開館した同博物館も震災伝承や資料のデジタル化などに課題があるという。

 

 日本は地震や津波被害が多いが、同州ではスマトラ沖地震以前の災害は80年前。一部の地域に津波の教訓を盛り込んで歌い継がれている叙事詩「スモン(津波)」があるが、多くの住民は忘れているという。

 

 「だから同じ被害を繰り返す。だからこそ語り継ぐことが大事」。防災市民憲章に明記された「語り継ぐ」の文字の前で、6人は「これ、いいね」と口をそろえた。

 

 ハフニダール館長は「てんでんこ、スモン。短い言葉で人々が思い出し、素早い避難につながるという共通性を感じる。この事業を通じ、教訓伝承、防災を学ぶ場としての機能を充実させたい」と期待した。

 

 同プロジェクトで、同法人は最長3年間、教育現場の取り組みや伝承活動のノウハウを同州の防災関係者に伝える。ズルキフリ次官は「津波に対する意識がしっかりしている釜石と連携し、防災を指導する側への教育や伝承という弱い部分を補いたい。住民の普段の心がけ、防災意識の向上、主体的な取り組みについて学びを持ち帰りたい」と意欲を高めた。

 

(復興釜石新聞 2019年12月11日発行 第849号より)

 

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「てんでんこ」忘れない、復興きねんマラソン大会〜鵜住居小全校児童、スタジアム駆け抜ける

「てんでんこ」忘れない、復興きねんマラソン大会〜鵜住居小全校児童、スタジアム駆け抜ける

釜石鵜住居復興スタジアムで開かれた鵜小のマラソン大会

釜石鵜住居復興スタジアムで開かれた鵜小のマラソン大会

 

 鵜住居小(中軽米利夫校長、児童158人)は7日、全校児童による「復興きねん てんでんこマラソン大会」を開いた。東日本大震災前に同校があった場所に整備された釜石鵜住居復興スタジアムを会場にし、2回目の実施。児童らはスタジアム周辺を走り、青々とした芝が広がるメイングラウンドにゴールするコースを懸命に駆け抜けた。

 

 コースは同スタジアムを中心に設定。距離は低学年が1キロ、中学年1・5キロ、高学年は2キロ。低学年は同スタジアム西側駐車場入り口、中学年は成ケ沢橋、高学年は高齢者介護施設「ございしょの里」付近でそれぞれ折り返す。

 

 午前9時、暖かい日差しが感じられる空模様の下、まず中学年が先頭を切ってスタート。他の学年の児童や応援に駆け付けた保護者らの「頑張れ」「ラスト!前へ」などの声援を受けながらゴールを目指した。

 

 このあと約30分おきに低学年、高学年がスタート。全員が完走した。

 

 3年生男子の1位は澤本真維(まなと)君。「校庭を1日5周走る練習の成果が出た。うれしい。気持ちよく走れた。『てんでんこ』という言葉を忘れないようにしたい」と喜びをかみしめた。

 

 同大会は、基礎体力の強化・向上、互いの頑張りを認め合うのが目的。同スタジアムで行うことで防災、復興への意識を高める狙いもある。

 

 「懸命に頑張る、苦しいけど最後まで走り抜くことが大切。諦めず挑戦する気持ちを忘れないでほしい」と見守る中軽米校長。この大会が「中学生、地域住民、市民が参加するような行事になれば」と期待する。

 

(復興釜石新聞 2019年11月9日発行 第840号より)

 

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釜石初の女性地域防災対策官に、釜石海上保安任命〜星 晴日さん、新たな挑戦に意欲

釜石初の女性地域防災対策官に、釜石海上保安部任命〜星 晴日さん、新たな挑戦に意欲

地域防災対策官の職務に奮闘する星さん

地域防災対策官の職務に奮闘する星さん

 

 東日本大震災を契機に、海上保安庁が出先機関に順次配置を進めている「地域防災対策官」。釜石海上保安部(渡辺博史部長)はこのほど、管理課の星晴日(はるか)さん(22)を任命した。同海保では初の女性登用だ。星さんは「希望したポジション。先輩に学ぶ日々ですが、新たな挑戦」と意欲的に職務に取り組んでいる。

 

 星さんは宮城県登米市出身。迫桜高校を卒業し、専門学校を経て海上保安学校(兵庫県舞鶴市)に入学。2018年3月、航海コースを卒業した。初任は釜石海保巡視船「きたかみ」の航海士補。1年半の乗船勤務を経て、10月の異動で管理課、地域防災対策官の辞令を受けた。

 

 海上保安官を志したのは専門学校で。「中学1年の時に発生した大震災。母の実家が南三陸町志津川にあり、親族も亡くなりました。海保の仕事はまったく未知の分野でしたが、震災の記憶が影響したと思います。『挑戦』でした」

 

 海上保安学校の生活は「学ぶ内容、実技なども驚くことばかり。それも楽しかった」。小・中学校でバレーボール、高校は弓道に親しんだが、「体力不足を痛感し、時間を見つけては必死にランニングしました」

 

 着任した巡視船の現場は「想像とは大きく異なり、座学や頭で考えたことだけでは通用しない。船の派遣業務でも、いい経験を積むことができました」

 

 上司の鳥居敏治管理課長らは、「初めて知ることばかり」と戸惑いながらも「驚きは楽し」と新たな職務に挑戦する星さんの積極的な姿勢を見守り、厳しくバックアップする。

 

 地域防災対策官は管理課長の指示で職務に当たる。主に自治体の防災機関の会議や訓練への参加、臨海部の危険施設への安全防災指導などを通じ、海上保安庁の人的資源と巡視船艇、航空機などの災害対応機能も周知する。海上保安庁機関の力を地域の防災力向上、被害の軽減、救難や復旧の効率化に結び付ける期待がある。

 

 同対策官は12年10月以降、全国20カ所の出先機関に配置される。第2管区海上保安本部(東北地方)管内では震災の被災地域(太平洋岸)を管轄する釜石と八戸、宮城、福島の4海上保安部、宮古、気仙沼、石巻の3海上保安署の7カ所で活動する。

 

(復興釜石新聞 2019年11月2日発行 第838号より)

関連情報 by 縁とらんす
釜石海上保安部ホームページ
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釜石での研究成果を報告する中川さん

震災の教訓を他地域にも、地域おこし研究員 中川さん成果発表〜「日常の訓練が避難につながる」当時の児童の証言から探る

釜石での研究成果を報告する中川さん

釜石での研究成果を報告する中川さん

 

 釜石市に定住し地方創生の研究実践を行う地域おこし研究員、中川優芽(ゆめ)さん(25)=慶応義塾大大学院2年=による成果発表会は23日、市役所で開かれた。東日本大震災で児童全員が無事だった小学校の事例から子どもたちの避難行動を分析。震災前から行われていた下校時の避難訓練が児童の避難行動を促進する要因の一つとの認識を得て、「震災の教訓を他地域にも生かすべきだ」と強調した。

 

 地域おこし研究員は、釜石と同大が締結する地方創生に関する連携協力協定に基づく取り組み。総務省の地域おこし協力隊制度を活用する。任期は2年。

 

 中川さんは静岡県富士宮市出身。静岡県内の小学校で教師をしていたが退職し、同大大学院に入学。教師時代に防災教育の重要性を感じ、かつてボランティアで訪れた震災被災地の釜石で学び直したいと考えたためで、昨年6月に同研究員として着任した。

 

 津波災害の経験がない児童が震災当時にどのような意思決定、避難行動をとったのか―。釜石小児童の作文(避難行動について記述のある52人分)、インタビュー(高校生となった釜石小の元児童13人)から探った。

 

 分析してみると、防災教育によって▽自らの判断で行動する力▽学区内の避難場所の把握▽地震から身を守る方法―など10の概念が児童らに身に付いていることが分かった。避難できた理由として、下校時の訓練が避難につながったとの声が共通していることも把握した。

 

 その上で、南海トラフ地震が想定される静岡県で釜石の研究を生かした訓練を企画したことを紹介した。海からの距離や児童数など釜石小と似た条件の千浜小(掛川市)で今年7月、初めての下校時訓練を実施。掛川市の沿岸部に津波が到達するのは最短で4分と想定されており、訓練で共有した課題を踏まえ、11月には千浜地区の住民らも参加する訓練を行う予定と報告した。

 

 野田武則市長ら市職員約10人を前に発表した中川さんは「南海トラフ地震などで少しでも多くの命が救われるよう、釜石の防災教育、取り組みを他地域に広めていきたい」と力を込めた。

 

 中川さんは来年3月まで同研究員として活動。4月以降は静岡県で小学校教諭として復帰することになっている。

 

(復興釜石新聞 2019年10月26日発行 第836号より)

 

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震災の記憶や教訓を語る菊池のどかさん(左)ら

あの日の悲しみと教訓語り継ぐ〜震災伝承の3人トーク、ファンゾーン特別企画

震災の記憶や教訓を語る菊池のどかさん(左)ら

震災の記憶や教訓を語る菊池のどかさん(左)ら

 

 釜石市大町の市民ホールTETTOに開設されているラグビーワールドカップ(W杯)のファンゾーンでは6日、東日本大震災の記憶を伝える特別企画として、「あの日の悲しみと教訓を永遠に語り継ぐ」と題したスペシャルトークが行われた。震災伝承に携わる3人が招かれ、8年半の時間の経過で思うことや今後の伝承のあり方などについて意見を交わした。

 

 陸前高田市で津波到達点に桜を植樹する活動を行う認定NPO法人桜ライン311代表の岡本翔馬さん、震災犠牲者の遺体を復元し納棺するボランティアを続けた北上市の笹原留似子さん、釜石東中3年時に小・中学生580人で率先避難を実践し、津波から逃れた釜石市の菊池のどかさん(いのちをつなぐ未来館勤務)が出演。IBC岩手放送の江幡平三郎アナウンサーが話を聞いた。

 

 岡本さんは震災で同級生ら多くの身近な人を失った。防災士の資格を取り全国で講演するが、「時間がたっていることで、伝えやすくなっている部分もある」と実感。今の小学3年生以下は震災の記憶がほとんどない。「今後は(震災を)受け止めやすい環境を作ってあげることも大事」と、桜ラインの意義を示した。

 

 笹原さんは、300人以上の犠牲者とその遺族に向き合ってきた経験を基に、県内外の学校で「命の授業」を行う。子どもたちには「明日は当たり前に来るわけではない。2度と戻らない時間を意識して生きることで明日が輝き、私たちを迎えてくれる」と話している。遺族との交流は今も続く。「悲しみを共有することは、大切な人との思い出を宝物に変えることにもつながる」と話した。

 

 菊池さんは震災前から防災教育を受けてきたが、災害を自分事として捉えられていなかった。震災で死に直面し、人の命に向き合うことを考えるように。大学を卒業した今年4月から鵜住居町の同館で働き始めた。「当時の体験、事実とともに、津波災害の要因や避難方法を正しく伝えていきたい」と菊池さん。「地域の一員として子どもたちを助けられる人間になりたい。全員が知識を得て生き残れるように」と願う。

 

 3・11を「大切な人を想う日」に―と開催された同企画では、「釜石あの日あの時甚句」の披露や特別展示なども行われた。

 

(復興釜石新聞 2019年10月12日発行 第832号より)

 

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防潮堤の完成を祝い、感謝の銘板を除幕した関係者

釜石の防潮堤すべて完成〜片岸海岸で銘板除幕、県外からの応援職員に感謝

防潮堤の完成を祝い、感謝の銘板を除幕した関係者

防潮堤の完成を祝い、感謝の銘板を除幕した関係者

 

 東日本大震災の津波で壊れ、県が復旧工事を進めてきた釜石市と大槌町の防潮堤がすべて完成した。これを受けて9日、釜石市の片岸海岸で、整備事業に携わってきた県外からの応援職員に感謝する会が開かれた。これまでに東京都や静岡県、福岡県から防潮堤の復旧工事に加わった応援職員は延べ約160人。感謝の会は工事を発注した県が主催し、関係者約50人が出席。完成した防潮堤の上を歩きながら、被災地の復興完遂を願った。

 

 感謝の会では、沿岸広域振興局の石川義晃局長が「震災では経験したことのない膨大、困難な課題が発生した。われわれの手だけではなし得なかった大工事を完成に導いてくれた皆さまに厚く感謝申し上げる」と式辞。東京都建設局の奥山宏二道路監、静岡県交通基盤部の長縄知行理事が祝辞として被災地の復興を願う思いを述べた。

 

 沿岸振興局の高橋正博土木部長が工事経過を報告。東京都、静岡、福岡の各県代表者に感謝状が贈られた。最後に、完成した防潮堤に設置される銘板を除幕。秋空に風船が放たれ、拍手で防潮堤の完成を祝った。

 

 「未来へトライ」と刻まれた防潮堤を背に記念撮影

「未来へトライ」と刻まれた防潮堤を背に記念撮影

 

 県が釜石市と大槌町で復旧整備した防潮堤は、片岸海岸のほか、水海、釜石港、小白浜の4カ所。延長は約2・8キロにも及び、事業費約276億円が投入された。それぞれ設置される銘板には、支援した1都2県への感謝の思いが刻まれている。

 

 片岸海岸は当初、2015年度末の完成を予定していたが、基礎部分の工法を見直したことなどから、完成が3年半遅れた。完成した防潮堤は、高さ14・5メートル、長さ約820メートル。堤体には、釜石鵜住居復興スタジアムで開かれるラグビーワールドカップ(W杯)にちなみ、「未来へトライ」と描かれている。

 

(復興釜石新聞 2019年10月12日発行 第832号より)

 

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