タグ別アーカイブ: 防災・安全

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釜石市消防団消防演習 各種点検、放水訓練で機材操作再確認 防火、防災へ士気高める

震災後初の点検などで消防団活動への意欲を高める団員ら=8日、消防演習

震災後初の点検などで消防団活動への意欲を高める団員ら=8日、消防演習

 
 釜石市消防団(菊池録郎団長、団員513人)は8日、鈴子町の釜石消防庁舎駐車場など2会場で2025年度の消防演習を行った。東日本大震災以降、実施を見送っていた機械器具点検などの訓練が再開され、団員らは消防車両の基本操作や隊としての行動を再確認した。本年度は新たに男女10人が入団。先輩団員から各種技術や団精神を受け継ぎ、市民の生命、財産を守る活動にまい進していく。
 
 団員、消防署員、来賓ら474人、車両39台が参加。統監の小野共市長は、全国的に自然災害や火災が頻発している近年の情勢に触れ、地域防災体制強化の重要性を指摘。「消防団員は地域に根差した防災の要。より一層の火災予防啓発活動や日ごろの訓練に精励されるよう願う」と訓示した。
 
統監の小野共市長(写真右上)が訓示。日ごろの活動への感謝と激励の言葉を送った

統監の小野共市長(写真右上)が訓示。日ごろの活動への感謝と激励の言葉を送った

 
 災害現場や火災予防で任務遂行に尽力し、優秀な活動が他の模範となる団員や部をたたえる「釜石市長表彰」では、第3分団第1部の香川果代子班長ら団員15人を功績表彰。第1分団第1部など4つの部に「竿頭綬(かんとうじゅ)」を授与した。在職3年以上で職務精励、消防技能に優れた団員に贈られる「釜石市消防団長表彰」では、第6分団第3部の岡道雄斗団員ら7人を精勤表彰としてたたえた。
 
釜石市長表彰、釜石市消防団長表彰を受ける団員と部

釜石市長表彰、釜石市消防団長表彰を受ける団員と部

 
 本年度の新入団員10人を代表し、第3分団第1部の鈴木佑太郎さん(22)が菊池団長から辞令を受け、「良心に従って誠実に消防の義務を遂行する」と声高らかに宣誓。「地域のために役に立ちたい」と入団を決意した鈴木さんは「先輩たちの動きを見て一つ一つ丁寧に学び、消火活動などを行っていけたら」と気を引き締めた。
 
新入団員を代表し、宣誓する鈴木佑太郎さん(中央)

新入団員を代表し、宣誓する鈴木佑太郎さん(中央)

 
 統監、団長らによる観閲後、第1小隊(第7、8分団)が通常点検、第2小隊(第1~4分団)が機械器具点検に臨んだ。指揮者の号令のもと、隊列の移動、消防車両の点検など職務遂行に必要な行動を実践。消防本部の駒林博之消防長らが点検官として、隊の規律や動きを確認した。
 
 千鳥町の甲子川河川敷では放水訓練が行われた。各部のポンプ車が一列に並び、川の水を水利に一斉放水。団員らは訓練で身に付けた技能を発揮し、火災発生時の迅速な消火活動へ意識を高めた。会場周辺では一般市民も訓練の様子を見守り、地域を守る消防団へ理解を深めた
 
機械器具点検で基本行動を実践する団員ら

機械器具点検で基本行動を実践する団員ら

 
消防ポンプ車を使った放水訓練。各車両から水柱が上がる

消防ポンプ車を使った放水訓練。各車両から水柱が上がる

 
県の防災ヘリコプターによる救助救出訓練。消防団員らが見守る

県の防災ヘリコプターによる救助救出訓練。消防団員らが見守る

 
 この日は、県の防災ヘリコプターによる救助救出訓練も行われた。大雨や津波による浸水で建物屋上に要救助者がいるとの想定で、消防庁舎訓練棟上空から航空隊員がロープで降下し、要救助者をヘリに引き上げた。周辺では消防団員らが見守り、実際の災害現場をシミュレーションした。
 
 菊池団長(73)は「久しぶりの点検訓練に緊張する様子も見られたが、一生懸命取り組む姿勢を感じた」と評価。人口減、少子高齢化で団員数は右肩下がりだが、本年度は新たに10人が入団するという明るい話題も…。来年は遠野、釜石、大槌3地区の消防操法競技会が釜石市で開催される。「震災やコロナ禍でしばらく遠ざかっていた操法訓練にも精進し、若手への技能継承、組織の充実強化に団員一丸となって励んでいく」と菊池団長。
 
気を引き締めて演習に臨む菊池録郎団長(前列中央)以下、各分団員

気を引き締めて演習に臨む菊池録郎団長(前列中央)以下、各分団員

 
 釜石市では、4月に唐丹町で発生した建物火災で住人1人が亡くなった。今年1月からの火災発生はこの1件のみ。団では火災予防の警戒活動も行いながら、市民の安心安全のため、力を尽くしていきたいとしている。同市の昨年1年間の火災発生件数は7件だった。

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スマホ・ゲーム利用の約束、親子で考えよう 釜石・白山小で情報モラル教室

インターネット利用について学ぶ白山小の児童と保護者

インターネット利用について学ぶ白山小の児童と保護者

 
 釜石市嬉石町の白山小(鈴木慎校長、児童33人)で7日、インターネットを正しく安全に使うための情報モラル教室が開かれた。スマートフォンやオンラインゲームなどインターネットを介した情報のやりとりが増える中、利用の仕方を親子で考える機会にしてもらおうと、授業参観日に合わせて実施。全校児童と保護者ら約60人が参加した。
 
 教室は、釜石市とソフトバンク(東京)が2020年に締結した地方創生に関する連携協定の一環で、釜石公民館事業として行われた。これまで、市内の3つの小学校で実施してきたが、白山小では初開催。他校では高学年児童が対象だが、同校ではスマホ所有の有無や学年、年齢にかかわらず「みんな何かしら触れている」うえ、国が推進する「GIGAスクール構想」で、児童1人に学習用のタブレット端末が1台ずつ配られていることもあり、使い始めの1年生にも学んでもらおうと全校児童を対象にした。
 
 講師は、同社の北海道・東北地域CSR部の鈴木利昭参与(64)。「小学生では高学年になると半数がスマホを持っている。最近は6~7割と増加傾向」と全国的な動向を紹介したうえで、参加者にスマホやゲーム機の所有、利用の時間帯を聞いた。白山小ではスマホ所有は半数ほどだが、ゲーム機はほぼ全員が持っていると意思表示。深夜2時くらいまで使っている子もいた。
 
SNSのリスクなどを解説した鈴木利昭参事(右上の写真)

SNSのリスクなどを解説した鈴木利昭参事(右上の写真)

 
クイズや質問に意思表示しながらネット利用を学ぶ児童ら

クイズや質問に意思表示しながらネット利用を学ぶ児童ら

 
 ネットの世界で起こることすべてが自分のせきにん―。「交通ルールがあるようにネットにもルールがあり、守るから安全。ただ、ネットの言葉は難しいものが多いから、無理せず分かること、できることから始めて」と鈴木参与。「簡単で便利、そして無料。使う人が多いから、トラブルも多い」と話した上で、交流サイト(SNS)を取り上げて使い方や注意点を解説した。
 
 事例に挙げたのは「LINE(ライン)」でのやりとり。会話でよくないところを考えてもらい、▽急がず、きちんと伝える(文字だけで伝えようとすると誤解が生じることも。絵文字を使ったり工夫する)▽守ろう、時間!(長時間は迷惑になることも。相手がいることを忘れない)▽やめよう!人を傷つける発信(ネットに書き込んだ言葉は良いことも悪いことも一生消えないと思って。発信する前に読み返す。見る、受け取る相手の気持ちを考える)―との守ってほしいルールを伝えた。
 
児童も保護者も講師の話にしっかりと耳を傾ける

児童も保護者も講師の話にしっかりと耳を傾ける

 
 また、ネットにひそむ危険性も説明。手軽に世界とつながり便利な反面、顔が見えないことで怖い面もあるとし、他人が見ることを考えて写真の位置情報や、個人を特定できるような写真は投稿しないよう強調した。災害発生など非常時にデマが流れたり、うそや思い込みの話題も多いとし、見極めの大切さや大人への相談の必要性を指摘。より正しく楽しく使うため、「1日に○時間だけにするなど家族でルールを決めてほしい」と呼び掛けた。
 
 終わりに、親子で「スマホデビュー検定」に挑戦。オンラインゲーム中にしてはいけない行動や、「スマホ依存(スマホの使用がやめられなくなってしまう状態)」にならないよう気を付けることなど、使い方を振り返ったり、話し合いながら知識を深めた。
 
「スマホデビュー検定」に挑戦する親子

「スマホデビュー検定」に挑戦する親子

 
正しい?間違っている?問いに向ける視線は真剣

正しい?間違っている?問いに向ける視線は真剣

 
 小山琉世さん(6年)は「知らない人とつながってしまうのが怖いから、オンラインゲームはやっていない。スマホを持つようになったら気を付けて使いたい」と話し、妹の結凪さん(4年)もうなずいた。父親の純平さん(36)は「うちは厳しい方」と言うが、「中学生になったらスマホを」と思案中。「子どもたちを信頼しているけど」と母親の美紀子さん(36)と顔を合わせ、「親が口うるさく言うことを分かってもらえただろう」と、教室の開催を歓迎した。「ネットは自己責任」とは言え、子どものことはやはり親に責任があるとの考えで、「親も一緒に学んで理解して使えば、子どもも正しく安全に使ってくれるだろう」と話した。
 
 鈴木校長は「危険にあってから知るのでは遅い。今の利用の仕方を見直す機会に。ルールづくりに親子で取り組んでほしい」と求めた。
 
楽しそうに話し合いながら情報モラルについて学んだ

楽しそうに話し合いながら情報モラルについて学んだ

 
「水、くださーい」。力を合わせたプール掃除も楽しそう

「水、くださーい」。力を合わせたプール掃除も楽しそう

 
 親子で学習した後は、プール清掃でも協力。大変なことも「一緒に楽しく」取り組んで、子どもたちの成長を見守り、支えていく。

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「集落孤立、停電も」災害時を想定し訓練 釜石港で海保と電力会社、資機材の海上輸送

巡視船の搭載艇に乗って災害時の動きを確認する参加者

巡視船の搭載艇に乗って災害時の動きを確認する参加者

 
 釜石海上保安部(尾野村研吾部長)と送配電事業を担う東北電力ネットワーク釜石電力センター(似内勝之所長)は3日、災害復旧に携わる人員と必要な資機材を海上輸送する共同訓練を行った。地震で陸路が寸断されたうえ、孤立した集落で停電が起きたと想定。釜石港に係留する海保の巡視船「きたかみ」(650トン)の搭載艇を使い、荷物を積み込んだり、降ろしたりして対応を確認した。
 
 釜石海保が所属する第2管区海上保安本部(宮城県塩釜市)と、東北電力、東北電力ネットワークは2022年3月に「災害時における相互協力に関する協定」を結んでいる。訓練は協定に基づいたもので、有事の際の対応力向上や連携強化が目的。釜石での実施は昨年に続き2回目だが、実際に搭載艇を走らせての訓練は初めて。
 
釜石海上保安部と釜石電力センターによる共同訓練の参加者

釜石海上保安部と釜石電力センターによる共同訓練の参加者

 
 訓練には約40人が参加。「近年は自然災害の激甚化、頻発化が目に見えるような形で進んでおり、有事への備えがますます重要になってきた。実際の対応に即した手順、要領で連携方法を確認し、問題点あれば修正、改善を図りながら、協定の実効性を高めてほしい」などと、尾野村部長、似内所長が激励した。
 
 岩手県沿岸を震源とする地震が発生し、釜石市内では震度6弱の揺れを観測。津波の恐れはないものの、唐丹町花露辺地区と平田尾崎白浜地区を結ぶ県道249号が土砂崩れや道路の陥没などで不通となり、孤立した尾崎白浜地区で停電が起きたとの想定。電力センターでは復旧作業に向かうも、陸上からは困難な状況で、協定に基づき海路による搬送の協力を要請し、釜石海保が引き受け、作業員と資機材を巡視船で被災地まで運ぶという流れで訓練をした。
 
復旧作業に必要な資機材を巡視船に積み込む参加者

復旧作業に必要な資機材を巡視船に積み込む参加者

 
安全帯などが入ったリュックの重さは1つ約20キロ

安全帯などが入ったリュックの重さは1つ約20キロ

 
 電力センター配電課の4人は、巡視船の乗組員らと連携し、復旧作業に必要な電線や工具、高所作業時の安全帯など計約120キロの資機材を船に積み込んだ。その後、搭載艇(定員10人)に資機材を移し替え、乗り込んだ搭載艇で釜石湾内を走行して波による揺れなどを確認。岸壁に着くと荷物を積み降ろし、海から活動の現場に向かう手順を確かめた。
 
巡視船の搭載艇に資機材を移し替える参加者

巡視船の搭載艇に資機材を移し替える参加者

 
電力センターの作業員を乗せた搭載艇を降下

電力センターの作業員を乗せた搭載艇を降下

 
岸壁に着いて資機材を積み降ろす作業員ら

岸壁に着いて資機材を積み降ろす作業員ら

 
 搭載艇での移動を体験した電力センター配電主査の加賀谷聡さん(51)は「波は穏やかだったが、走行中に水しぶきが上がることがあった。波をかぶらないよう資機材を箱に入れたのは良かった」としながら、1箱20キロの資機材について「予想外に岸壁が高く、積み降ろすのが大変だった。小分けにしたり軽くして持ち上げやすくする必要がある」と改善点を見つけた。万一の時に海路を使って早く現場に行ける体制、情報を知る面でも有意義な訓練だったといい、「(災害は)なければ一番いいが、経験を社内で共有して動けるようにしたい」と見据えた。
 
手渡し、網の使用…重さのある資機材の陸揚げは工夫が必要

手渡し、網の使用…重さのある資機材の陸揚げは工夫が必要

 
訓練を終えて手応えや問題点を伝え合う参加者

訓練を終えて手応えや問題点を伝え合う参加者

 
 搭載艇を操舵(そうだ)した釜石海保航海士補の千葉彩湖(さこ)さん(21)は「普段より船の揺れが少なくなるよう気を付けた。こうした想定の訓練は初めてだったが、全体の流れが想像できたので、精度を上げ、実働時には安全に人員、資機材を届けられるようにしたい」と気を引き締めた。
 
 訓練の責任者として見守った釜石海保警備救難課の池田隆課長(51)は「搭載艇からの荷物の陸揚げ、受け入れる漁港などへの連絡方法など検討が必要だと感じたが、全体的には協力し合いながらスムーズにいった訓練」と評価。災害発生時にはいち早く救援、救助に向かうことから、こうした訓練を継続したい考えで、「場所や想定を変えながらレベルアップしていきたい」と話した。

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釜石市内でも目撃多数 クマに注意 被害に遭わないための対策を! 環境整備も重要

釜石市内で目撃されているツキノワグマ¬(資料写真:三浦勉さん撮影、以下同)

釜石市内で目撃されているツキノワグマ(資料写真:三浦勉さん撮影、以下同)

 
 釜石市内では連日、ツキノワグマの目撃情報が相次いでいる。市に寄せられた4月、5月の目撃件数は前年同期を上回り、住宅地近くに長時間とどまる事例も。市内の目撃のピークは例年6月で、引き続き注意が必要だ。人身、物的被害に遭わないよう、自宅周辺の環境整備、入山時の装備など意識的な対策が求められる。
 
 市水産農林課によると、今年に入り同市に寄せられたクマの目撃件数は3月2件(前年同月0件)、4月29件(同6件)。5月は28日現在53件で、前年同月1カ月間の26件をすでに上回っている。4月24日には小佐野町の民家敷地から小佐野保育園園庭に侵入する1頭が確認されたほか、26日には中妻町の商業施設裏に迷い込んだ1頭が麻酔で捕獲される事例があった。5月21日には小佐野橋付近で木に登る1頭が確認され、わなを設置したものの捕獲には至らなかった。今のところ、人身被害はない。
 
 「同じ個体が何回も目撃されているケースもあり、一概に(増えていると)は言えないが、目撃が多くなる時期としては今年は早い印象」と同課。今の時期は山に餌となる木の実などがなく、クマは餌を求めて活発に動き回るが、これまでの情報では民家周辺で何かを食い荒らされた様子はないという。ただ、これからの時期は子グマが親離れし、新たな生活場所を求めて行動範囲を広げるため、人里への出没が増える可能性もある。
 
今年4月21日に橋野町青ノ木で見られたクルミの木に登るクマ

今年4月21日に橋野町青ノ木で見られたクルミの木に登るクマ

 
クマは川沿いの移動が多い傾向に。これからの時期は親離れした子グマの移動が活発になるので要注意 

クマは川沿いの移動が多い傾向に。これからの時期は親離れした子グマの移動が活発になるので要注意

 
 2024年度、同市に寄せられたクマ目撃情報は164件。人身被害はなかったが、空き家被害が1件確認された。昨秋は山のドングリやクルミ、クリなどの堅果類が豊作だったことで、凶作だった23年度に比べると9~11月の目撃情報は少なく、冬眠前に見られるカキの食害もほぼなかったという。
 
 鳥獣被害対策の3原則は①環境整備(寄せ付けない環境づくり)、②防除(農地などを柵や網で囲って侵入防止)、③駆除(個体を捕獲)。第一段階として、やぶや空き家の放置をなくし、家の周りに(クマが隠れられるような)陰となる場所をつくらない、クマの誘引物(生ごみ、ペットフード、果実、米ぬか…など)を侵入される恐れのある場所に置かない―などの対策が重要だ。
 
背丈の高い草木は刈り取り、見通しを確保。農地などには侵入を防ぐ柵・網を設置する対策を

背丈の高い草木は刈り取り、見通しを確保。農地などには侵入を防ぐ柵・網を設置する対策を

 
山に餌がないと人里に下りてくる頻度も高まる。十分な警戒を!

山に餌がないと人里に下りてくる頻度も高まる。十分な警戒を!

 
 この他、キャンプや登山、山菜・キノコ採りなどで山に入る際には①クマ鈴、笛、ラジオなど音の出るもの、クマ撃退スプレーを携帯する、②複数人で行動する、③クマの目撃情報や痕跡(ふん、爪痕)のある場所は避ける―など、被害に遭わないための装備、行動が必要だ。

 市水産農林課の清藤剛課長補佐(兼林業振興係長)は「市全域が民家のすぐ裏手に山があるような地形のため、どこに出没してもおかしくない状況。クマは川沿いに移動する傾向もあり、散歩やジョギングコースにしている人は十分な注意が必要。クマの行動が活発になる朝、夕の時間帯は特にも警戒し、目撃情報があった時は周辺に立ち入らないようにしてほしい」と呼び掛ける。

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自主防結成後初 釜石東中が新年度スタートで防災オリエンテーション 校内の備えを確認

避難所開設時に使う段ボールベッドを組み立て、寝心地を確かめる=釜石東中防災オリエンテーション

避難所開設時に使う段ボールベッドを組み立て、寝心地を確かめる=釜石東中防災オリエンテーション

 
 釜石東中(高橋晃一校長、生徒86人)は4月30日、年度初め恒例の防災オリエンテーションを行った。2011年の東日本大震災で受けた同校の被害、復興の歩みを知り、防災力を高めるための活動。本年1月に県内初の中学生による自主防災組織(自主防)を立ち上げた同校。“結成元年”の取り組みを深化させるべく、生徒らは各種災害への備えを再確認するなどし、発災時の適切な行動を考えた。
 
 全学年を縦割りにした3つの組団ごとに6項目の活動を展開。2、3年生は初めて臨む新1年生(33人)にアドバイスしながら活動した。校内の災害への備えを確認する活動では、ウオークラリー形式で消火器・栓、担架、自動体外式除細動器(AED)が設置してある場所をチェック。校舎図に印を付けて全体の配置も頭に入れた。合わせて避難経路も確認した。
 
校舎内を歩き、消火器などがある場所を確認。いざという時、速やかに使えるように…

校舎内を歩き、消火器などがある場所を確認。いざという時、速やかに使えるように…

 
AEDや担架は普段の傷病者発生時にも必要。しっかり場所をチェック

AEDや担架は普段の傷病者発生時にも必要。しっかり場所をチェック

 
 2階の防災備蓄倉庫では在庫の種類と数を確認し、リストに書き込んだ。同校が鵜住居小と共用する校庭と体育館はそれぞれ、地震津波、火災、洪水・土砂災害時の緊急避難場所、拠点避難所に指定されている(市指定)。発災が生徒たちの在校時間帯の場合、自らの命を守り、安全が確認された後には、自主防として避難所開設にあたることを目指している。生徒らはこの日、毛布や飲料水、炊き出し釜、暖房器具など必要な備品が倉庫内のどこにどれだけあるかを把握。災害用の簡易トイレや段ボールベッドの組み立てを体験し、避難者名簿の作成の仕方も教わった。
 
「防災備蓄倉庫には何がある?」備蓄品の種類や数を確認

「防災備蓄倉庫には何がある?」備蓄品の種類や数を確認

 
災害時に避難所となる体育館で段ボールベッドの組み立てを体験

災害時に避難所となる体育館で段ボールベッドの組み立てを体験

 
簡易トイレの設置の仕方を学ぶ。座り心地も試した

簡易トイレの設置の仕方を学ぶ。座り心地も試した

 
 震災前から行われてきた同校の防災の取り組み、被災から復興までの歩みを知る活動も。2009年に当時の1年生が制作した津波防災の啓発DVD「てんでんこレンジャー」の視聴では、自分の命を守るために必要な、▽大きな地震がきたら高い所を目指してひたすら逃げる▽いつでも避難できるよう枕元に衣服や持ち物を置いておく▽避難場所や待ち合わせ場所を普段から家族で話し合っておく―ことを学んだ。
 
釜石東中オリジナル防災キャラクター「てんでんこレンジャー」が教える、津波から命を守る方法を心に刻む

釜石東中オリジナル防災キャラクター「てんでんこレンジャー」が教える、津波から命を守る方法を心に刻む

 
 同校には14年前の震災被害や世界中から受けた多くの支援を一堂に見ることができるメモリアルルームが開設されている。津波で全壊した校舎を含む鵜住居地域の甚大な被害、数えきれない支援に力をもらい地域とともに歩んだ復興への道のり…。生徒らは先輩方が経験してきたことを写真や支援品などから感じ取り、学校や地域のためにこれからできることを考えた。
 
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東日本大震災の被害や復興への歩みを知ることができるメモリアルルーム

 
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さまざまな展示品を見ながら気付いたことを書き留める生徒ら

 
 1年の川崎煌聖さんは「段ボールベッドの組み立てなど、避難してきた人たちへの対応の仕方が少し分かった。寝ている時とか、いつ災害があっても逃げられるよう準備していきたい」と知識を深めた様子。震災は生まれる前の出来事だが、親から話を聞き、幼稚園、小学校と避難訓練を重ねてきていて、「いざという時の行動は身に付いている」。中学生になったことで、「自分の命は自分で守ることはもちろん、周りに人がいる時は呼び掛けをしながら逃げたい」とステップアップを望んだ。
 
 同校の自主防は全校生徒と教職員で組織する。本年度は教職員19人を含め105人体制。会長を務める千葉心菜さん(3年、生徒会長)は結成後初の本格的な活動を終え、「みんな真剣に協力し合って取り組めていた」と一安心。組織の立ち上げに携わり、本年度が実質1年目となるが、「災害時に誰もが自分の立場を理解し、的確な判断と行動ができるよう学年を超えて学んでいけたら。全校参加の地域を巻き込んだ訓練もやりたい。活動を浸透させるために回数も増やせれば」と願う。
 
 同校が掲げる生徒像の一つが「助けられる人から助ける人へ―」。防災、命の学習に加え、各種地域貢献活動で「人を助ける」「誰かのために動く」ことができる人間を目指す。意欲的に取り組めるよう設けられているのが「EAST(イースト)レスキュー隊員」制度。各学習、地域活動への参加でポイントを集めると5~1級まで取得可能。普段から地域とのつながりを深めることで、災害時のスムーズな連携を図る狙いもある。オリエンテーションではその隊員証も配られた。
 
 復興・防災教育担当の佐々木伊織教諭(28)は「防災に関してはやれることをやりたいという生徒も多い。自身で必要なことを判断し、地域のために動けるようになってほしい。いかに楽しく学んで力をつけていくかが大事。新しいことにもどんどんチャレンジを」と期待を寄せる。

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気を付けて!山火事防止へ呼びかけ 釜石市婦人消防連絡協、道の駅などで広報活動

山火事防止の広報活動を行う婦人消防連絡協のメンバーら=4月30日

山火事防止の広報活動を行う婦人消防連絡協のメンバーら=4月30日

 
 釜石市婦人消防連絡協議会(久保久美子会長、3団体・87人)は4月30日~5月2日の3日間、市内で山火事防止広報活動を展開した。釜石消防署とタッグを組み、防災広報車両で地域を巡回。道の駅や産直施設周辺でチラシなどを配り、住民の防火意識啓発を図った。岩手県山火事防止運動月間(3月1日~5月31日)に合わせた活動。近隣の大船渡市で発生した大規模な林野火災の記憶が残る中、全国各地で山火事が相次いでいることを受け、「私たちも気を付けるし、皆さんも気を付けて」と思いを込める。
 
 「入林中、たばこの投げ捨てはやめましょう。防火に協力をお願いします」。初日の30日は、久保会長(71)が所属する両石婦人消防クラブが活動。久保洋子さん(70)とともに、釜石署予防係の佐藤直樹係長が運転する車両に乗り込み、山火事への注意を呼びかける音声を流しながら両石町から市内中心市街地、西部地区を走って回った。
 
防災広報車で地域を巡回しながら防火を呼びかけた

防災広報車で地域を巡回しながら防火を呼びかけた

 
 甲子町の道の駅「釜石仙人峠」では、山火事防止3原則(▽強風、乾燥時は野外で火を使わない▽森林の近くで野焼き、たき火をしない▽たばこの吸い殻は投げ捨てない)などを記したチラシを配った。「春先は非常に空気が乾燥し、風の吹く日が多く、火災が発生しやすい時期です。山でのたばこの投げ捨ては絶対にやめましょう。火の取り扱い、後始末には十分ご注意を。火の用心をお願いします」。ハンドマイクを手にした久保会長が、買い物客や施設利用者に呼びかけた。
 
道の駅「釜石仙人峠」で広報物を配って防火の意識高揚を図った

道の駅「釜石仙人峠」で広報物を配って防火の意識高揚を図った

 
地域外から訪れた人たちにも積極的に声がけをして広く周知した

地域外から訪れた人たちにも積極的に声がけをして広く周知した

 
「火の取り扱いには十分注意を」とマイクを手に呼びかけた

「火の取り扱いには十分注意を」とマイクを手に呼びかけた

 
 婦人消防連絡協は「地域の防火は家庭から」を合言葉に、火災予防思想の向上、初期消火と避難誘導、避難者支援など地域に根差した活動に取り組む。1984年の結成時は5団体あったが、これまでに2団体が解散。現在はメンバーが高齢になったり、活動できる人数は限定されるというが、釜石署と連携して春季・秋季火災予防運動、山火事防止運動期間中に広報活動を続けている。
 
 漁業をなりわいとする地区で組織された団体で、メンバーの多くは漁協女性部に加入していた。「男性が漁に出ている時、地域に残るのは私たち。何かあったら、いち早く対応しなければいけないから」と久保会長。10年以上前に両石地区で山林火災があった際には、炊き出しを行ったという。「火事は本当に怖い。火を起こしたら大変。隣近所に迷惑をかけることにもなるから、気を付けているし、気を付けてもらわないと」と切に願う。
 
「火災が起きないように」と願いながら活動した久保久美子会長(左)、久保洋子さん

「火災が起きないように」と願いながら活動した久保久美子会長(左)、久保洋子さん

 
 今年に入り、全国で山火事が頻発している。大船渡市で2月26日に発生した山林火災では、焼失面積が平成以降で国内最大の約2900ヘクタールに及んだ。愛媛県今治市と岡山市でも3月23日、山林火災が起きた。久保会長は「大船渡の火事は、あまりにも長かった。消防隊員も団員も大変だったろうし、心配した。山に入る時は気を付けてほしい」と、同じ言葉を何度も繰り返した。
 
 5月1日は尾崎白浜婦人消防協力隊(平田)が道の駅、2日は外山地区婦人消防クラブ(鵜住居町)が橋野どんぐり広場産地直売所(橋野町)で同様の活動を行った。
 
 釜石署によると、市内で林野火災は2019年に1件あったが、以降は発生していない。ただ、大船渡市の林野火災を受け、県内全域に「山火事警戒宣言」が発令中。佐藤係長は「山火事は、たばこ、たき火の不始末など人の不注意によるものが多い。『自分は大丈夫』とは思わず、風の状況など敏感になってほしい。たき火、野焼き、火入れをする時は消防署に届けてほしい。屋外での火の取り扱いは細心の注意を」と念を押す。

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災害再現VR 釜石で体験会 “その瞬間”どう動く?自らの判断力と対応力を試す

VRを使って地震や津波などの災害を疑似体験する中学生

VRを使って地震や津波などの災害を疑似体験する中学生

 
 災害時、必要な行動をとることができるか―。地震や津波を疑似体験しながら身を守る行動や防災スキルのレベルを確認できるVR(仮想現実)コンテンツの先行体験会が14日、釜石市鵜住居町の「いのちをつなぐ未来館」で開かれた。防災担当の自治体職員や教員、中学生ら約30人が参加。大きな揺れで物が落下したり、津波とともに車が押し寄せてきたりする架空の映像などから災害の怖さ、備えの重要性を認識し、防災意識を高めた。
 
いのちをつなぐ未来館で行われた災害VRの先行体験会

いのちをつなぐ未来館で行われた災害VRの先行体験会

 
 VR映像は、防災設備メーカーの能美防災(東京、岡村武士社長)が開発を進める「地震・津波臨場体験VR~命をつなぐ選択」。▽震度6強の前震▽震度7の本震▽火災▽大津波▽避難場所―という5つの場面が登場し、身を守るために必要になる行動の実践可否を問われながらストーリーが展開する。同社は岩手県を継続的に訪問していて、東日本大震災被災地の経験や教訓を織り交ぜている点が特徴の一つ。体験後には防災スキルのレベルが判定される仕掛けもある。
 
 街が地震や津波に襲われたら、そこにいる“ひとり”として、どう行動するか。選択できるか―。
 
 体験会で、参加者はダイジェスト版を視聴。大きな揺れによる落下物でけがをしたり意識がない人を手助け「できるか」、自宅や職場からの避難場所を「把握しているか」、避難を渋る人がいたとしても「率先して行動を起こせるか」、避難した先での食料や飲み水を「確保しているか」など、場面に応じて必要な動きを選択していった。
 
開発が進む「地震・津波臨場体験VR」の一場面

開発が進む「地震・津波臨場体験VR」の一場面

 
仮想空間に入り込む生徒。楽しみながら防災を学ぶ

仮想空間に入り込む生徒。楽しみながら防災を学ぶ

 
VRでは場面ごとに命を守る行動を選び、防災スキルも確認

VRでは場面ごとに命を守る行動を選び、防災スキルも確認

 
 グラフィックなど目から入る情報だけでなく、周囲の声や警報音など災害発生時の状況がVR上でリアルに再現され、参加者たちは体験空間に入り込んだ様子だった。「地震で物が落ちてくる。やばいよ」「あ、津波。なんかいっぱい流れてきた」などと思わず声を発したり、椅子に座って体験していたが勢いよく立ち上がったり。行動の選択を迫られることで、自分の防災知識や向き合い方を振り返る機会にした。
 
 釜石東中の生徒らも体験。2年生は震災当時1歳、1年生は生まれていない。記憶がない、知らない世代の生徒たちはゲーム感覚で楽しんだ。舘鼻大滋さん(2年)は「VRに入り込み、リアルな感じ。防災を学んでいるけど、書いて理解するよりイメージがわいた。実際に動けるか、考えられた」と話した。一方で、「映像がリアルで、気軽にやると小学生とかは怖い体験になるかも」と想像。「災害が起きて混乱しても早めに逃げて、自分もみんなの命も守れるよう声をかけたい」と表情を引き締めた。
 
生徒が視聴する映像が映し出されたモニターに見入る教員(左)

生徒が視聴する映像が映し出されたモニターに見入る教員(左)

 
 同校教諭の佐々木伊織さん(28)は釜石出身で、震災当時は中学2年生。今回、VRを体験した生徒たちと同じ年頃に津波を目の当たりにした。警報音、渦を巻く波…脳裏にこびりつく、忘れられない記憶。生徒らの様子をそばで見つめながら「(津波襲来の映像は)見せたくないという思いはあるが、この地で暮らす子どもたちには必要な学び。行動しないと、命がなくなってしまうことがあると感じてもらえたら。楽しく体験することで防災を知り、伝承を担う一人として学びを深めてほしい」と望んだ。
 
 同社は火災防災を主軸とした事業を展開する。VRコンテンツとして、2022年にオフィスでの火災を想定した「火災臨場体験VR」を公開。今回の地震・津波編は第2弾となる。近年は災害が頻発・激甚化しており、さまざまな災害への備えを事業に生かそうと、釜石や陸前高田市など震災被災地での社員研修を継続。視察や、語り部から聞いた当時の状況などもVRのストーリーに盛り込んだ。
 
「地震・津波臨場体験VR」の開発を進める佐々木聡文さん(左)

「地震・津波臨場体験VR」の開発を進める佐々木聡文さん(左)

 
 VRコンテンツを担当する同社特販事業部主査の佐々木聰文(あきふみ)さん(48)は釜石出身。「震災を経験していない子どもも増えており、伝え継ぐツールとして使ってほしい」と思いを込める。VRには「避難するか」「戻る、戻らせない」といった葛藤の場面がいくつもあり、古里で聞いた声を踏まえたという。釜石の経験、教訓を次の防災にと考えていて、「南海トラフ巨大地震などリスクの高い他地域にも展開したい。自身の防災スキルを振り返るツールとして活用を」と願う。
 
 地震・津波臨場体験VRは体験会での反応や意見を踏まえ、精度を高めて今春に公開する予定。自治体の防災イベントや企業の避難訓練などでの活用を見込んでいる。未来館など釜石での展開は未定。

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「まちを守る皆さんへ」 釜石中、消防援助隊へ寄せ書き横断幕 感謝の思い込め

感謝の寄せ書き横断幕を持つ緊急消防援助隊員と釜石中の生徒=釜石市民体育館

感謝の寄せ書き横断幕を持つ緊急消防援助隊員と釜石中の生徒=釜石市民体育館

 
 釜石中(佐々木一成校長、生徒294人)は7日、大船渡市の大規模山林火災に伴い、釜石市鵜住居町の市民体育館を拠点に消火活動に尽力する新潟、茨城、栃木各県の緊急消防援助隊に感謝や激励を込めた寄せ書きを記した横断幕を贈った。「まちを守ってくれてありがとう」「助かります」。慣れない地域での活動を日夜続ける隊員らを思って、文字をしたためた。
 
釜石中の全校生徒がメッセージを書き込んだ横断幕

釜石中の全校生徒がメッセージを書き込んだ横断幕

 
 「消火活動に来てくれた人たちに、中学生としてできることで感謝を伝えよう」と、同校の生徒会が横断幕の贈呈を提案。執行部の岡本あいるさん、久保伶奈さん、岩間心来さん(いずれも2年)、三浦碧人さん(1年)の4人が市民体育館を訪れ、隊員に手渡した。
 
 横断幕は3枚製作。それぞれ中央部分に「全国の消防隊の皆様に心から感謝します」「みなさんはわたしたちのヒーローです」「全国からのご支援ありがとうございます」と文字が記され、その周囲に「力を貸してくれてありがとう」「大船渡のために来てくれてありがとう。頑張ってください」などと全校生徒がメッセージを寄せた。
 
「大船渡がんばろう!」「まちを守る姿がかっこいい」などとメッセージ

「大船渡がんばろう!」「まちを守る姿がかっこいい」などとメッセージ

 
「力を貸してくれてありがとう」「遠くからありがとう」などと感謝をつづる

「力を貸してくれてありがとう」「遠くからありがとう」などと感謝をつづる

 
横断幕の贈呈を見守る3県の緊急消防援助隊員たち

横断幕の贈呈を見守る3県の緊急消防援助隊員たち

 
 4人は「全国から大変な思いをしながらも必死で消火活動に取り組んでいる方々に感謝の思いでいっぱいです。本当にありがとうございます。今回の山林火災を目の当たりにして釜石中としてもより一層防災への意識を高めていこうと改めて思いました。これから未来へつないでいきます」と思いを伝えた。
 
 新潟県の後方支援隊長を務める新潟市中央消防署の田中勝消防司令(55)は「地震や山林火災など自然災害が相次ぎ大変だが、お互いに助け合っていきたい」と気を引き締める。中学生から届けられた気持ちを受け止め、表情を緩める場面も。「樹木などに火種が残っていたり厳しい環境だが、頑張れる」と力にした。
 
生徒たちの思いが込められた横断幕が体育館に掲げられた

生徒たちの思いが込められた横断幕が体育館に掲げられた

 
 同校では、被災者を支えようと募金活動も展開。岡本さんは「山林火災が早く鎮火するよう、頑張ってもらいたい。親戚が大船渡に住んでいるので、早く元の生活に戻ってほしい」と願った。
 
 この日、釜石市も激励として飲料水(仙人秘水)を各隊に贈った。
 
 大船渡の山林火災は隊員らによる地道な活動などによって、延焼の恐れがなくなったことから、9日夕、大船渡市が鎮圧を宣言。それにより、釜石に拠点を置く3県の消防援助隊も活動を終える。

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東日本大震災の教訓、世代を超えて 釜石の語り部3人に復興庁から感謝状

感謝状を受けた藤原信孝さん(右)、佐々木智恵さん(中)と娘の智桜さん

感謝状を受けた藤原信孝さん(右)、佐々木智恵さん(中)と娘の智桜さん

 
 東日本大震災の語り部として活動する釜石市の藤原信孝さん(76)=釜石ガイド会、佐々木智恵さん(42)=かまいしDMC=と長女で小学生の智桜(ちさ)さん(10)の3人にこのほど、復興庁から感謝状が贈られた。震災伝承、防災への備えを伝えようと取り組む姿が評価。震災から13年と時が経過する中、3人は「3世代で受賞できたのがうれしい。こんな風に世代をつなげて伝えていきたい」と継続へ気持ちを重ねた。
 
 震災以降、各被災地では多くの語り部が活動。自らの被災体験や地域の被害状況、復旧・復興の取り組みを発信することで、防災の知識の普及に貢献してきた。復興庁では、そうした取り組みに謝意を示し、活動の充実を期待するとともに、記憶と教訓を次代へ伝えて防災・減災対策に生かすため担い手の確保にもつなげようと、感謝状を贈呈。今回、岩手、宮城、福島各県の伝承団体や市町村からの推薦を受け、計52人を選んだ。受賞者は昨年12月に公表され、それぞれに感謝状を伝達。岩手では釜石の3人のほか、宮古、陸前高田、山田の3市町で活動する計4人にも贈られた。
 
 藤原さんは釜石ガイド会に所属して長年、地域の魅力を伝えてきた。震災の津波で被害が大きかった鵜住居町の隣にある栗林町に住み、発災直後は避難者の受け入れなどに取り組んだ。「実体験をしていない」と震災の語り部活動に悩んだこともあったというが、「体験した人がいなくなってからでは遅い。被害状況を目の当たりにした一人として伝えていくことは自分の義務だ」と感じ、活動を重ねている。
 
鵜住居町を訪れた外国人らに震災の被災状況を説明する藤原信孝さん(手前右)=2014年6月

鵜住居町を訪れた外国人らに震災の被災状況を説明する藤原信孝さん(手前右)=2014年6月

 
 震災を知らない世代が増える中、語り部活動で必ず話すことは避難訓練の大切さ。大人でも知らないことや勘違いしていることがあると感じていて、「普段の訓練が生かされれば、生きられる。体験、やってみるという備え、心構えを持ってほしい」と強調する。
 
 「伝承は、次の世代につないでいくことが大事」。気持ちを切り替えて活動してきたことが評価され、「地域を代表していただいた」と喜ぶ。そして今回、「おじいさんの私、お母さんの智恵さん、孫のような智桜さんと、3世代で評価されたのはよいことだ」と目じりを下げた。
 
 智恵さんは、鵜住居町の震災伝承施設「いのちをつなぐ未来館」に勤務。来場者への伝承活動は3年目となる。修学旅行などで訪れる児童生徒や、学生らに話す機会が多く、「防災」という言葉に身構える様子が感じられるという。「難しいことではないんだよ。自分の持ち物に何か一つ加えてみよう」などと、身近で取り組みやすい視点をヒントとして残すよう伝え方に工夫。そうした活動が評価され、「励みになる。地震、津波だけでなく、災害全般の防災について伝えていきたい」と気を引き締めた。
 
いのちをつなぐ未来館で絵本の読み聞かせをする佐々木智恵さん(右)=2023年3月

いのちをつなぐ未来館で絵本の読み聞かせをする佐々木智恵さん(右)=2023年3月

 
 鵜住居小5年の智桜さんは、感謝状をもらって「うれしいです」と素直に喜ぶ。震災からちょうど3年後の2014年3月11日生まれ。誕生日でもあるその日は、祖母と伯母が津波の犠牲になった日でもあり、家族や学校で日々教えられている「命の大切さを伝えたい」と、智恵さんと共に市主催の研修を受講。「大震災かまいしの伝承者」として2年前の春から活動し、未来館でガイドしたり、企業研修などで語り部をしたりする。
 
いのちをつなぐ未来館で企業研修の語り部を務めた佐々木さん親子(右)=2023年10月

いのちをつなぐ未来館で企業研修の語り部を務めた佐々木さん親子(右)=2023年10月

 
防災士に必要な救命技能を生かした活動も行う佐々木智桜さん=2024年9月

防災士に必要な救命技能を生かした活動も行う佐々木智桜さん=2024年9月

 
 昨年秋には民間資格の防災士を県内最年少で取得するなど防災学習も深めている。「学んだことをしっかり引き継ぎたい」と気持ちは前向き。語り部は緊張するが、話しているとほぐれてくるといい、「聞き取りやすい語り」を心がける。将来の夢を聞くと、「未来館で働きたい」と即答。英語も勉強中で、たくさんの人に自分の言葉で伝えていくつもりだ。
 
市役所を訪れた3人。小野共市長らに受賞を報告した

市役所を訪れた3人。小野共市長らに受賞を報告した

 
 藤原さん、佐々木さん親子は2月20日、釜石市役所を訪れ、小野共市長に受賞を報告した。小野市長は「震災時に何があったのか、学んだことを後世に伝え、つなげていくことが重要。語り部の皆さんが発信することで、災害に備え、考えるきっかけになれば。これからも全国に伝えてほしい」と期待した。

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「助けられる人から助ける人へ」 釜石東中が自主防災組織結成 災害発生時、生徒自ら初動対応

自主防災組織結成を市に届け出た釜石東中生徒会の役員ら=17日、釜石市役所市長室

自主防災組織結成を市に届け出た釜石東中生徒会の役員ら=17日、釜石市役所市長室

 
 釜石市鵜住居町の釜石東中(佃拓生校長、生徒84人)生徒会が、災害発生時の初動対応を行う自主防災組織(自主防)を立ち上げた。防災学習や訓練で得た知識、技能を生かし、生徒が主体的に災害時の避難所開設や避難者誘導を行おうとするもの。1月の生徒会総会で決議し、2月17日、千葉心菜生徒会長(2年)ら役員5人が市に設置届を提出した。学校単位での自主防登録は県内初。同市では48番目の結成となった。
 
 同校は2011年の東日本大震災津波で校舎が全壊。仮設校舎を経て17年、町中心部に整備された高台造成地に、鵜住居小と併設する形で移転再建された。小中が利用する校庭、体育館は市により、地震津波や洪水、土砂災害時の緊急避難場所、拠点避難所に指定されている。
 
 同震災前から防災教育が盛んだった同校。震災では生徒らが隣接する同小児童の手を引いて高台を目指し、迫り来る津波から命を守った。その教育理念は震災後も受け継がれ、下校時津波避難訓練や総合防災訓練を小中合同で毎年実施。総合防災訓練では、校内にいる時の地震、津波発生を想定したシェイクアウト、より高い場所への避難のほか、体育館での避難所開設、避難者誘導、校庭での炊き出し訓練などを行っている。積み重ねてきた防災の取り組みをより深化させ、「地域の支えになりたい」と結成したのが、生徒会による自主防。全校生徒と教職員で組織し、生徒会長が自主防の会長を務める。
 
釜石東中、鵜住居小合同で行われる総合防災訓練。(左上から時計回りに)高台避難、避難者誘導、仮設トイレ組み立て、炊き出し=資料写真(2021年撮影)

釜石東中、鵜住居小合同で行われる総合防災訓練。(左上から時計回りに)高台避難、避難者誘導、仮設トイレ組み立て、炊き出し=資料写真(2021年撮影)

 
生徒会役員らは小野市長に同校の防災の取り組みなどを説明した

生徒会役員らは小野市長に同校の防災の取り組みなどを説明した

 
自主防災組織結成への思い、今後の活動に対する決意を述べる千葉心菜生徒会長

自主防災組織結成への思い、今後の活動に対する決意を述べる千葉心菜生徒会長

 
 17日、小野共市長に設置届を手渡した千葉生徒会長(自主防同)は「身が引き締まる思い。地域の方々にアドバイスをもらいながら少しずつ成長し、地域の自主防災組織と肩を並べられるように強い意志、覚悟を持って活動していきたい」と決意を述べた。小野市長は「自分たちの地域は自分たちで守るという気概がとてもうれしい。皆さんの活動は市の大きな助けになっている。今後も被害を少なくできるようご協力を」と願った。
 
 東日本大震災発生から間もなく14年―。「防災活動の発展」を重点目標に掲げた生徒会に自主防結成を提案した佃校長は「中学生も震災を知らない世代になってきて、防災学習にも難しい側面が出てきている。自主防結成が新たな決意で防災に取り組むきっかけになれば」と期待。地元住民組織、鵜住居地域会議の古川幹敏議長は今後、高い確率で発生が懸念される日本海溝・千島海溝沿い地震を見据え、「地域としても心強い。生徒の皆さんの気持ちを生かし、一緒に命を守る活動を展開していきたい」と意を強くする。
 
鵜住居地域会議の古川幹敏議長(右)も地元中学生の取り組みを歓迎。若い力を得て地域の防災力アップを願う

鵜住居地域会議の古川幹敏議長(右)も地元中学生の取り組みを歓迎。若い力を得て地域の防災力アップを願う

 
髙橋勝教育長らの励ましを受け、自主防としての活動へ意欲を高める生徒ら

髙橋勝教育長らの励ましを受け、自主防としての活動へ意欲を高める生徒ら

 
 大規模災害発生時は、市職員がすぐに各避難所に駆け付けることが困難になる状況も予想され、地域住民による初動対応は必要不可欠。特にも学校が避難所の場合、校内をよく知り、普段から訓練を重ねている生徒が率先して行動できれば、地域にとって非常に大きな力となる。
 
「助けられる人から助ける人へ―」。災害に対する危機意識の醸成、各種訓練の充実、発災時の主体的行動などに意欲を見せる釜石東中生徒会。震災後に生まれた佐々木一真副会長(1年)は「小学生のころから親や先生に震災のことを教わり、当時の映像も見ている。自然災害はとても怖く、犠牲者をなくすために訓練していかねばと思う。上級生から学んできたことを下の学年にも伝えていきたい」と話した。
 
 釜石東中生徒会は3月2日に市が実施する地震・津波避難訓練にも参加。高台避難のほか、避難所開設を想定した段ボールベッドや仮設トイレの設置などに取り組む予定。

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震災命日まで1カ月― 犠牲者追悼、防災の願い込め、根浜津波避難階段に竹灯籠点灯開始

根浜の津波避難階段で始まった竹灯籠の点灯=11日、鵜住居町

根浜の津波避難階段で始まった竹灯籠の点灯=11日、鵜住居町

 
 東日本大震災からまもなく14年―。津波で大きな被害を受けた釜石市鵜住居町根浜地区に、今年も震災犠牲者を追悼する竹灯籠が設置された。温かな明かりで浮かび上がるのは震災後に設けられた津波避難階段。“命を守る道”の周知も目的とした取り組みは今年で4年目を迎える。震災命日まで1カ月となった11日、点灯式が行われ、集まった人たちが同震災の記憶の継承、教訓の実践に思いを新たにした。
 
 灯籠作りから点灯までを手掛けるのは、キャンプ場などの観光施設を管理する、かまいしDMC。1月25、26の両日、根浜レストハウスで製作体験会を開き、市民にも協力してもらった。30日には今回初の試みとして、地元の放課後子ども教室でも製作。鵜住居小の児童9人が電動ドリルで竹に穴を開ける作業に挑戦した。1年の小笠原彩夏さんは「力が要って大変だったけど、物を作るのが好きなので楽しかった。飾るのも見てみたい」と期待を膨らませた。
 
放課後子ども教室で行われた竹灯籠作り=1月30日、長内集会所

放課後子ども教室で行われた竹灯籠作り=1月30日、長内集会所

 
型紙の模様に合わせて電動ドリルで竹に穴を開ける児童

型紙の模様に合わせて電動ドリルで竹に穴を開ける児童

 
 みんなで手作りした竹灯籠は約60本。避難階段の手すりや地区の高台避難場所を示す標識の足元に取り付けられた。点灯式には灯籠作りに参加した市民など約20人が集まった。設置目的などが説明された後、カウントダウンで点灯。夕闇に美しい光の階段が浮かび上がると、キャンプ場から海抜20メートルの市道につながる111段を上った。
 
竹灯籠の明かりで照らされた避難階段を上ってみる。津波発生時はここから高台へ

竹灯籠の明かりで照らされた避難階段を上ってみる。津波発生時はここから高台へ

 
放課後子ども教室で作った竹灯籠は津波避難場所の標識の足元に設置

放課後子ども教室で作った竹灯籠は津波避難場所の標識の足元に設置

 
 同市の新谷詩乃さん(37)は長男拓己君(6)と灯籠を作った。「釜石にいるからには、子どもに震災や防災の話もしていきたいと思って参加した。作業は大変だったが貴重な経験ができた」と振り返る。拓己君はこども園で毎月、高台避難の訓練もしている。「津波という言葉とかは身近に感じているだろうが、実際見たことはないので(どこまで理解しているか)。家では、地震があれば自分から机の下に隠れたりしている。こういうイベントも機に、少しずつ(身を守る方法を)覚えていってもらえれば」と期待する。
 
 津波避難階段は2021年に完成。竹灯籠の点灯は根浜を訪れる人に階段の場所を知ってもらい、いざという時の迅速避難を促す狙いもある。かまいしDMC地域創生事業部の佐藤奏子さんは「避難路は実際に歩く機会があまりなかったりする。こうして1回歩くことで皆さんの記憶に残り、災害時の避難に役立てば」と話した。
 
 竹灯籠はLED豆電球で明かりをともす。電力は家庭から出る廃食油を精製したバイオディーゼル燃料で発電。竹は地域の間伐材を用い、脱炭素や資源循環を意識した取り組みとなっている。
 
LED電球の明かりでさまざまな模様が浮かび上がる。避難誘導の言葉と矢印を配した灯籠も(写真左)

LED電球の明かりでさまざまな模様が浮かび上がる。避難誘導の言葉と矢印を配した灯籠も(写真左)

 
この日は月明かりともコラボ。真っ暗になると幻想的な光景が広がった

この日は月明かりともコラボ。真っ暗になると幻想的な光景が広がった

 
 竹灯籠は3月まで土日祝日の午後5時から同7時まで点灯。震災命日の3月11日も同様に点灯し、追悼の祈りの場とする。

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「津波だ、逃げろ!」高台避難の教訓 震災知らない世代にも 新春韋駄天競走111人が坂道駆ける

韋駄天競走は親子の部からスタート。「走れ、逃げろ」と子どもに声掛けする親も

韋駄天競走は親子の部からスタート。「走れ、逃げろ」と子どもに声掛けする親も

 
 「津波から命を守る行動を―」。津波発生時の迅速な高台避難を促すことを目的とした「新春韋駄天競走」が2日、釜石市で行われた。東日本大震災の教訓を後世につなぐ節分行事で、同市大只越町の日蓮宗仙寿院(芝﨑恵応住職)、釜石仏教会が主催。12回目の今年は、コロナ禍以降では最多の111人が参加した。同震災を経験していない子どもたちの姿も多く、いざという時の避難の大切さを体で覚える貴重な機会となった。
 
 参加者は津波浸水域の只越町、消防屯所付近から最も近い津波避難場所、仙寿院境内までを駆け上がる。距離にして286メートル、高低差は約26メートルで、途中に急カーブやきつい勾配がある難コースだ。1~80歳の参加者は6部門に分かれてスタート。小学生以下の子どもと保護者が対象の親子の部は、幼児が父母と手をつないだり、おんぶや抱っこをしてもらいながら、高台の境内を目指した。小中高生や一般の男女は、それぞれのペースで坂を駆け上がり、津波避難意識を高めた。
 
小学生も懸命に急坂を駆け上がる。沿道の声援を力に変えて…

小学生も懸命に急坂を駆け上がる。沿道の声援を力に変えて…

 
日ごろのスポーツ活動で脚力を鍛える中高生らはさすがのスピード

日ごろのスポーツ活動で脚力を鍛える中高生らはさすがのスピード

 
毎年参加の中学生硬式野球チーム「釜石ボーイズ」。この表情は「きつーい」「余裕」さあどっち?

毎年参加の中学生硬式野球チーム「釜石ボーイズ」。この表情は「きつーい」「余裕」さあどっち?

 
男性35歳以上の2位争いはデッドヒート!ラストスパートにかける

男性35歳以上の2位争いはデッドヒート!ラストスパートにかける

 
 釜石市国際外語大学校で昨秋から日本語を学ぶネパール人留学生5人は初めての参加。学校で同行事の目的を教えてもらい、17~20歳の男女が手を挙げた。一度練習して本番に挑んだカトワル・スザンさん(17)は「釜石に津波がきたこと、津波の時は逃げることを勉強しました。ちょっと疲れましたが、楽しかったです。来年、またチャレンジして1番欲しいです」と日本語で感想。日本の文化に触れるため、応援に駆け付けた留学生仲間と一緒に、午後から行われた節分の祈祷(きとう)、豆まきにも参加した。
 
国際外語大学校のネパール人留学生も力走。初めての津波避難模擬体験

国際外語大学校のネパール人留学生も力走。初めての津波避難模擬体験

 
楽しみながら、いざという時の避難行動を学んだ釜石在住のネパール人学生ら

楽しみながら、いざという時の避難行動を学んだ釜石在住のネパール人学生ら

 
 同市の小学校教諭川村悠平さん(33)は釜石赴任を機に家族で初参加。「(高台避難は)こんなにきついんだなと。それでも実際に(津波に)あったら自分の命を守らないといけない。子どもたちにも津波がきたら逃げること、日ごろの備えの大切さを教えていきたい」と身に染みた様子。次女(1)をおんぶ、長女(2)の手を引いて坂を上がった妻紀子さん(32)は「この子(長女)が上まで行けるか不安だったが、最後まで上り切れた。自分が逃げられるのは当たり前だが、一番守りたい命(子ども)を守れるよう常に考えていきたい」と経験を心に刻んだ。
 
親子4人で参加した川村さん家族。「子どもたちが成長したら震災のことも教えたい」と父悠平さん

親子4人で参加した川村さん家族。「子どもたちが成長したら震災のことも教えたい」と父悠平さん

 
 各部門の1位には「福男」「福女」などの認定書が芝﨑住職から贈られた。小学生の時に父と「福親子」3連覇を成し遂げた花巻市の後藤尚希さん(17)は高校2年になった今年、中高生の部で2回目の1位に。兄妹で「福男」「福女」となった八幡平市の山本雄太郎さん(30)は男性34歳以下の部で4回目、妹恵里さん(28、盛岡市)は女性の部で3回目の1位。2年ぶり3回目の“ダブル福”を手にした。
 
写真上:各部門で1位になり、感想を述べる参加者ら 同下:最後は海の方角に向かい震災犠牲者へ黙とうをささげた

写真上:各部門で1位になり、感想を述べる参加者ら 同下:最後は海の方角に向かい震災犠牲者へ黙とうをささげた

 
 男性35歳以上の部1位は山田町の漁業、渡邊強輝さん(37)。これまでに2位を3回経験し、初の「福男」となった。13年前の震災では自宅が全壊。別宅に暮らしていた祖母が津波の犠牲になった。「時間がたっていくと自分自身、避難意識が低くなっているような気がして」と同行事への参加を継続。「あの時、逃げていれば…(助かった)という人がたくさんいた」と悔やまれる思いを口にする。高校2年の長男は当時の記憶はなく、中学1年の長女は震災の3カ月後に生まれた。「知らない世代に自分の行動を示し、とにかく伝え続けることが大事」と教訓伝承に思いを込めた。
 
写真左:初の「福男」となった渡邊強輝さん 同右上:釜石陸上のレジェンド長岡直人さん(80)も元気にゴール

写真左:初の「福男」となった渡邊強輝さん 同右上:釜石陸上のレジェンド長岡直人さん(80)も元気にゴール

 
ゴールまであと少し。力を振り絞り前に進む女性参加者

ゴールまであと少し。力を振り絞り前に進む女性参加者

 
手を取り合い、最後まで頑張る女性参加者に沿道から温かい拍手が送られた

手を取り合い、最後まで頑張る女性参加者に沿道から温かい拍手が送られた

 
 同行事は兵庫県西宮市、西宮神社の新年開門神事「福男選び」をヒントに2014年から始まった。同神社開門神事講社講長の平尾亮さん(48)が足を運び、運営に協力。コロナ禍などでしばらく来られなかったが、今年5年ぶりに訪問が実現した。平尾さんは事故による後遺症で右足が不自由ながら、毎回、参加者と一緒に釜石のコースに挑む。今回も松葉づえをついて、急坂を懸命に駆け上がった。
 
参加者に交じり、5年ぶりに韋駄天のコースを駆け上がった平尾亮さん(写真右)。西宮神社開門神事講の赤いはんてんとジャージー、「ガッツくん」トレーナーは釜石でもおなじみとなったスタイル

参加者に交じり、5年ぶりに韋駄天のコースを駆け上がった平尾亮さん(写真右)。西宮神社開門神事講の赤いはんてんとジャージー、「ガッツくん」トレーナーは釜石でもおなじみとなったスタイル

 
 「走る前に『競走ではあるが、津波避難の教訓を後世に残すことが大きな目的』と、繰り返し伝えているのが印象的。福男選びも本来、1年の初めにえびすさんに福をもらいにいくという初詣に似た意味合いがあるが、あまりにも競う部分がクローズアップされすぎて…。釜石は理想の形」と平尾さん。
 
 今年は阪神・淡路大震災(1995年)から30年―。「震災の記憶、教訓をどう継承していくかは被災地共通の課題。大切な命を守るために私たちができることをしっかりやっていきたい」。遠く離れた両市に思いを寄せ、末永い交流を願った。西宮神社からは今回、同震災復興支援のシンボルキャラクター「ガッツくん」がデザインされたタオルが釜石の参加者に贈られた。