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においで探し出す 5頭を警察犬に 釜石署嘱託 震災不明者の捜索にも活躍

嘱託警察犬、指導手と田中洋二署長(左から3人目)

嘱託警察犬、指導手と田中洋二署長(左から3人目)

 
 釜石警察署管内で2024年の岩手県警本部嘱託警察犬に選定された5頭の嘱託書交付式が1月25日、釜石市中妻町の釜石署で行われた。田中洋二署長が指導手3人に高水紀美彦県警本部長の嘱託書を交付。5頭と指導手は警察署の出動要請を受け、今年1年、犯罪捜査や行方不明者などの捜索活動に協力する。
 
 民間で飼育、訓練し、事件捜査で活躍するのが「嘱託警察犬」。今回嘱託を受けたのは、釜石市箱崎町の自営業金野伸明(のぶはる)さん(73)が所有するエミー・フォン・ノルトリッヒト号(シェパード、雌4歳)、大槌町大槌の自営業中村光高さん(44)所有のイカルス・フォン・ミナト・ツネイシ号(同、雄8歳)、大槌町桜木町の自営業佐々木光義(みつぎ)さん(55)が所有するマリア・フォン・ゴオード・アイランド号(ゴールデンレトリバー、雌2歳)、フルマー・フォン・ヨコハマ・シゲリ・ジェイピー号(同、同10歳)、アビアトリックス・オブ・ファースト・リレーション・ジェイピー号(ホワイトスイスシェパード、同9歳)。
 
 いずれも昨年秋の県警本部審査会の実技で指導手の技量、犬の能力が認められた。機能別4部門があり、エミー号とイカルス号は足跡追及部門。佐々木さん所有の3頭は捜索部門で、フルマー号とアビアトリックス号は災害救助犬の認定も受けている。
 
釜石警察署で行われた警察犬嘱託書交付式

釜石警察署で行われた警察犬嘱託書交付式

 
嘱託書を持つ(左から)佐々木光義さん、中村光高さん、金野伸明さん

嘱託書を持つ(左から)佐々木光義さん、中村光高さん、金野伸明さん

 
 金野さんは昨年、3件の捜査・捜索活動に出動したほか、釜石署が震災の月命日となる11日前後に行う行方不明者の集中捜索にも相棒とともに参加している。警察犬の育成を続け半世紀。要請があればいつでも出動できるよう準備を整えている。「現場でビタッと探し出し、力を発揮できるよう、日々訓練を欠かさない。積み重ねが大事だ」と気を引き締めた。
  
 今回初めて嘱託を受けたマリア号は遺体捜索犬としても活躍すべく、訓練を始めた。元日に発生した能登半島地震でも救助犬が活動したが、佐々木さんは東日本大震災の経験から「生きた人を探すことで終わりではなく、そこから先がある」と改めて痛感。「レベルを維持しながら技術を上げたい」と力を込める。中村さんもやはり訓練は怠らず、「少しでも手助けできれば」とうなずいた。
 
式を終え、釜石署前で記念撮影をする警察犬と指導手ら

式を終え、釜石署前で記念撮影をする警察犬と指導手ら

 
 指導手に嘱託書を手渡した田中署長は能登地震の被害を踏まえ、「いつ何時ということがある。引き続き、協力を」と期待を寄せた。
 

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東日本大震災追悼、防災啓発 市民手作り竹灯籠 今年も根浜避難階段に 2/11~点灯へ準備着々

竹灯籠づくりを行った体験会の参加者=20日、根浜シーサイド・レストハウス

竹灯籠づくりを行った体験会の参加者=20日、根浜シーサイド・レストハウス

 
 東北太平洋沿岸に甚大な津波被害をもたらした「東日本大震災」から間もなく13年-。被災した釜石市鵜住居町根浜地区では、犠牲者を追悼する竹灯籠の製作が始まっている。2021年に完成した地区内の津波避難階段に設置するもので、3年目の取り組み。今年は、今月1日に発生した能登半島地震の犠牲者鎮魂、早期復興への祈りも込める。20、27の両日は一般向けの製作体験会が開かれた。市民の思いが詰まった竹灯籠は2月11日から点灯を開始する。
 
 市が整備した観光施設「根浜シーサイド」の指定管理者かまいしDMC(河東英宜代表取締役)が、震災犠牲者の追悼、避難意識の啓発などを目的に実施する。同施設内のキャンプ場と高台の市道箱崎半島線をつなぐ避難階段(111段)に竹灯籠55本を設置予定。同地区を訪れる人に階段の場所を知ってもらうのにも役立てる。
 
キャンプ場から高台の市道に上がれる津波避難階段(左)。昨年の竹灯籠の点灯(右)

キャンプ場から高台の市道に上がれる津波避難階段(左)。昨年の竹灯籠の点灯(右)

 
 20日、レストハウスで行われた午前の体験会には、市内の家族連れのほかJICA海外協力隊の派遣前訓練で同市に滞在中の隊員計13人が参加した。根浜の間伐竹材を長さ1メートル弱に切り分けたものに、明かりが漏れるよう穴を開ける作業を行った。参加者は模様が描かれた型紙を竹に貼り、電動ドリルで大小の穴を開けた。
 
竹灯籠づくりに挑戦する参加者。電動ドリルを使って作業

竹灯籠づくりに挑戦する参加者。電動ドリルを使って作業

 
模様が描かれた型紙を竹に貼り、ドリルの刃を替えながら大小の穴を開けた

模様が描かれた型紙を竹に貼り、ドリルの刃を替えながら大小の穴を開けた

 
 栗林町の竹山凜乙ちゃん(4)は「かわいい模様になった。出来栄えは100点。海の近くの階段に飾る」とにっこり。13年前に被災した凜乙ちゃんの母親(34)は震災後に生まれた2人の子どもに日ごろから防災の話をしており、「(関連行事への参加で)津波の怖さ、人は(誰かに)助けられて生きていることを感じてもらえれば。他で起きている災害も決して人ごととは思ってほしくない」と話した。
 
 昨年3月から震災伝承活動を始めた同市最年少語り部の佐々木智桜さん(9、鵜住居町)は2回目の参加。同避難階段について「ここが道しるべ。(高台の)避難場所に続く道ということを知ってほしい」と願う。自身は“伝える”ことの大切さを実感。「大人になったら防災士の資格を取る。英語で伝えられるように英会話の勉強も始めた」と明かした。
 
同市最年少語り部の佐々木智桜さん(右)も熱心に作業

同市最年少語り部の佐々木智桜さん(右)も熱心に作業

 
完成した竹灯籠に明かりを入れると美しい模様が浮かび上がった。母智恵さん(右)と笑顔を見せる智桜さん

完成した竹灯籠に明かりを入れると美しい模様が浮かび上がった。母智恵さん(右)と笑顔を見せる智桜さん

 
 かまいしDMCで11日から研修を始めたJICA海外協力隊の川口泰広さん(61、山口県出身)は、地域住民から話を聞くなど同震災について勉強中。「学校の命を守る教育、住民の合意形成による地域復興など釜石ならではの取り組みに感心する」。8月から派遣されるラオスでは、これまでの知見を生かし、飲料水の水質改善に携わる予定。「東南アジアも津波被害がある地域。釜石での学びを何らかの形で生かせれば」と願い、今回のような地域貢献活動の経験も糧とする。
 
 竹灯籠は2月11日午後5時に点灯式を行った後、3月まで土日祝日に明かりをともす予定(3月11日も)。竹の中のLED電球は、廃食油を精製したバイオディーゼル燃料による発電で点灯する。同DMC地域創生事業部の佐藤奏子さんは3年目の活動に「追悼の気持ちを共にしながら、震災の記憶をつないでいく機会となっている。各地で災害が多発しており、有事の際はすぐ逃げられるような意識づくりが必要。今年は能登半島地震被災地への思いも皆さんで同じくしたい」と話す。
 
竹灯籠は2月11日から点灯開始。3月まで土日祝日の午後5時~同7時点灯。震災命日の3月11日(月)も同様

竹灯籠は2月11日から点灯開始。3月まで土日祝日の午後5時~同7時点灯。震災命日の3月11日(月)も同様

白バイの乗車体験は家族連れに人気。写真撮影を楽しんだ

適切な通報呼びかけ 釜石警察署「110番の日」 地域守る交番、周知・啓発に一役

「110番の日」にちなんだ釜石警察署の広報活動

「110番の日」にちなんだ釜石警察署の広報活動

 

 1月10日は警察の緊急通報110番の正しい利用を促進する「110番の日」。釜石警察署は釜石市、大槌町でさまざまな広報活動を展開した。市内では商業施設で白バイを展示して写真撮影を楽しんでもらったり、「安全安心な街の風景」をテーマにしたペーパークラフトを作って保育施設に贈ったり。地域を守る活動拠点の交番が中心となって企画を実行し、住民らと触れ合いながら適切な通報、交通安全への協力を呼びかけた。

 

正しく使おう110番!釜石駅前交番

 

 広報イベントは7日に港町のイオンタウン釜石であった。鈴子町の釜石駅前交番(藤村りえ所長)が中心となり、唐丹駐在所や釜石署交通課の警察官も加わり8人体制で活動。買い物客らに110番通報のかけ方をまとめたチラシなどを配った。会場には白バイが展示され、引き付けられた家族連れらが次々に来場。車体に触れたり写真を撮ったりした。

 

白バイの乗車体験は家族連れに人気。写真撮影を楽しんだ

白バイの乗車体験は家族連れに人気。写真撮影を楽しんだ

 

憧れの白バイにまたがって子どもも大人も110番を意識づけ

憧れの白バイにまたがって子どもも大人も110番を意識づけ

 

 岩手県警通信指令課によると、2023年中にあった110番通報は6万918件で、1日当たり167件。そのうち、1万5437件(25.3%)が誤発信や無応答、いたずら電話だった。

 

 警察庁によって1985(昭和60)年に定められた110番の日。3桁の番号と数字はかけ間違いが少なく、当時のダイヤル式電話ですぐに通報できるよう考えられた。現在はボタン式やスマートフォンなどタッチパネルなどが主流で操作速度が上がる一方、画面への偶然の接触や電源ボタンの長押し・連続押しで誤って通報するケースが急増しているという。

 

釜石駅前交番の警察官らが110番の適切な利用を呼びかけ

釜石駅前交番の警察官らが110番の適切な利用を呼びかけ

 

 来場者に現状を説明した藤村所長(36)は「110番は警察官が迅速に対応するための大切な窓口。事件、事故の場合はためらわずに通報をしてほしい」とした上で、「急を要しない通報が全体の4分の1もあり、適切に対応ができなくなっている。間違って通報した場合は『間違いです』と伝えてほしい」と強調。緊急でない相談は「#9110」(警察相談専用電話)、または最寄りの警察署や交番を利用するよう理解を促す。

 

「地域の安心、守ります」小佐野駅交番

 

 小佐野町の小佐野交番(川野正行所長)は、子どもたちに110番や交通安全を呼びかけようと、釜石の街並みを表現したペーパークラフトを制作。10日、管内の保育施設4カ所に贈った。上中島町の上中島こども園(楢山知美園長、園児48人)では触れ合いの時間も。「110番、知ってる?」との警察官の質問に、園児から「消防」などと答えが返ってきて苦笑いする場面もあったが、「警察につながることを覚えていてね」と優しく伝えた。

 

110番の日に広報活動を行った小佐野交番の警察官

110番の日に広報活動を行った小佐野交番の警察官

 

ペーパークラフトに見入る上中島こども園の園児たち

ペーパークラフトに見入る上中島こども園の園児たち

 

 警察官に憧れているという青山柚樹君(6)は「かっこいい」とすてきなプレゼントを食い入るように見つめた。高橋真奈華巡査(23)はこうした交流で、「何かあった時のために警察、交番の存在を意識してもらえたら。距離が近く、親しみやすいイメージを持ってほしい」と期待する。

 

「けいれーい!」。ポーズを決めて写真をパチリ

「けいれーい!」。ポーズを決めて写真をパチリ

 

 四つ切り画用紙にパトカーのペーパークラフト、警察官のモチーフ、交差点、交通安全や防犯のメッセージなどを配置。虎舞や三陸鉄道など釜石らしい風景も入れた。「模型で子どもたちの意識づけに」と川野所長(54)が発案。交番の警察官3人と昨年12月から1カ月ほどかけて手作りした。「パトカーで地域を回っていると、子どもたちが手を振ってくれる」。その笑顔を思い浮かべながら、感謝を込めて手を動かしたという。

 

釜石の街並みを表したペーパークラフト。4人の個性が出る!?

釜石の街並みを表したペーパークラフト。4人の個性が出る!?

 

ハイタッチで「安全安心な街の風景」を守る関係づくり

ハイタッチで「安全安心な街の風景」を守る関係づくり

 

 川野所長は子どもたちの喜ぶ様子に頬を緩めつつ、「事件、事故のない地域が一番だが、何かあれば私たちが守る。交番に優しいお巡りさんがいることを覚えていてほしい」と背筋を伸ばした。

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「助けたい…」能登半島地震被災者思い、釜石で募金活動 13年前の経験重ね、突き動かされる市民

イオンタウン釜石で行われた「能登半島地震災害義援金」募金活動=8日

イオンタウン釜石で行われた「能登半島地震災害義援金」募金活動=8日

 
 1日夕に発生した能登半島地震は日を追うにつれ、甚大な被害が明らかになっている。2011年に東日本大震災を経験した釜石市では、当時の記憶を重ねる市民らが被災者の心情を思い、支援活動に乗り出している。釜石市赤十字奉仕団(中川カヨ子団長、15人)は7日から市内で募金活動を開始。「少しでも力になりたい」と、息の長い活動に取り組む構えだ。
 
 同団は7日、「はたちのつどい」が行われた市民ホールTETTO(大町)で、8日は市内最大の商業施設・イオンタウン釜石(港町)で、被災地支援の募金を呼び掛けた。7日は団員10人で活動。8日は東日本大震災の伝承、防災啓発に取り組む釜石高生徒のグループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」、釜石市社会福祉協議会も協力し、15人で活動した。団員らの呼び掛けに施設利用者や買い物客が応え、「何らかの助けになれば」と義援金を投じた。
 
釜石市赤十字奉仕団と釜石高の生徒らが募金を呼び掛けた

釜石市赤十字奉仕団と釜石高の生徒らが募金を呼び掛けた

 
ためていた硬貨を箱ごと手渡す人も…

ためていた硬貨を箱ごと手渡す人も…

 
呼び掛けに応え、多くの人たちが募金に協力した

呼び掛けに応え、多くの人たちが募金に協力した

 
 夢団のメンバーとして活動する釜石高1年の政屋璃緒さん(16)は、連日の報道で被災地の惨状を目の当たりにし、「少しでも何かお手伝いになれたら」と募金活動に参加。赤十字奉仕団の団員と一緒に「ご協力お願いします」と声をあげた。13年前の東日本大震災では居住する宮古市田老地区も大きな被害を受けた。能登半島地震の被災者に「今は大変だけど、助けてくれる人たちが必ずいる。周りを頼って何とか頑張ってほしい」と寄り添った。
 
夢団で活動する政屋璃緒さん(左)。昨年、東日本大震災の経験を伝える語り部としてもデビュー

夢団で活動する政屋璃緒さん(左)。昨年、東日本大震災の経験を伝える語り部としてもデビュー

 
 「一夜明けたら本当に居たたまれなくて…」。建物の倒壊、火災、道路の寸断…。壊滅的な被害状況が明らかになるにつれ、心を痛めてきた同奉仕団の中川団長(76)。13年前の大震災では、夫婦で営んでいた飲食店から避難する途中、津波にのまれた。商店街のアーケード上に引き上げられ、何とか命をつないだものの、一緒に逃げていた夫は帰らぬ人となった。被災の苦しみ、悲しみを知るだけに、今回の地震、津波災害でも「何かしなければ」という強い思いに突き動かされた。他の団員も「すぐにでも活動したい」と同じ思いだった。
 
 「今すぐ駆け付けたい気持ちだが、現地は混乱している。自分たちができる場所で、できることを」と義援金を募る活動に着手した。中川団長は「私たちもたくさんの支援を受け、ここまでくることができた。復旧復興、被災者の生活再建には時間がかかる。今後も募金を継続し、息の長い支援活動をしていきたい」と意を強くする。
 
 2日間の活動で寄せられた義援金は41万7659円。日本赤十字社を通じて、被災地の人たちの生活支援に役立ててもらう。

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防災まちづくり推進!釜石市 アグープと覚書締結、人流データ活用 避難行動の検証へ実証実験

覚書を取り交わす小野共市長(左)と柴山和久社長

覚書を取り交わす小野共市長(左)と柴山和久社長

 
 釜石市は19日、ソフトバンク子会社で位置情報を活用したビッグデータ事業を手掛けるAgoop(アグープ、東京都渋谷区、柴山和久代表取締役社長兼CEO)と防災まちづくりの推進に関する覚書を結んだ。スマートフォンなど携帯端末の位置情報を活用し、災害時の避難行動のあり方を検証するため実証実験を行うのが主な目的。来年3月に市全域で実施する避難訓練などで人流データを収集・分析し、防災計画などの政策に反映する。
 
 同社は同意を得た利用者のスマホアプリから移動の速度や方向などのデータを匿名化して収集している。活用するのはスマホの衛星利用測位システム(GPS)で、独自開発の歩数計測アプリをダウンロードしてもらう。アプリは通信事業者を問わず使うことができるという。
  
避難行動分析イメージ。釜石市中心部の津波浸水想定にスマホの位置情報を重ねた(Agoop提供)

避難行動分析イメージ。釜石市中心部の津波浸水想定にスマホの位置情報を重ねた(Agoop提供)

  
 実証実験は来年3月3日の釜石市地震・津波避難訓練で行う予定。「津波到達前に避難できているか」「浸水域を通っていないか」など避難速度や経路を確認する。避難場所の人数もリアルタイムで計測。救助、物資供給など即時支援につなげる態勢の構築を目指す。
 
 釜石市役所であった締結式で、小野共市長と柴山社長が覚書に署名した。柴山社長は「人流データを人の命を救うために役立てることができる。避難行動を見直し、考えてもらえるのでは」と意義を強調。小野市長は「データを基に釜石の防災を確かなものにしたい」と期待を込めた。
 
覚書に署名する小野市長(手前左)と柴山社長(同右)

覚書に署名する小野市長(手前左)と柴山社長(同右)

 
 締結のきっかけは、東日本大震災。市によると、発災時、市指定ではない避難場所に逃げる人もいて安否確認や避難者情報の把握に時間を要した。「どこに、どれくらいの人が避難しているか。どう探し出すか」。方策に頭を悩ませていた頃、同社が新型コロナウイルスの感染拡大に関連して人流データを公開しているのを知り、「課題解決につながるのでは」と市側が話を持ちかけた。
 
 同社はコロナ禍の人流解析に使ったこの技術とデータを防災面でも生かしている。20年7月の熊本豪雨では熊本赤十字病院が避難所に支援スタッフを派遣する際に活用。日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震で津波被害が懸念される北海道根室市の花咲漁港で行われた防災訓練でも利用した実績がある。災害対策に特化し覚書を締結するのは釜石市が初めてだという。
 
技術の概要を説明する柴山社長らアグープ関係者

技術の概要を説明する柴山社長らアグープ関係者

 
 避難行動の分析を実証するためには「データ量が鍵」になる。市では防災訓練実施の周知を図るほか、市教育委員会や学校を通じて小中学生や高校生、その保護者らにアプリの導入を働きかける考え。佐々木道弘危機管理監は「津波の避難対象は約1万2000人で、その15~20%に当たる市民の協力をお願いしたい」と呼びかける。
 
 震災時の経験を踏まえ、「どこに、どんな人が避難しているか把握した上で必要な対策、優先度を見いだしていくことが大事」と佐々木危機管理監。県の津波浸水想定は震災時より広範囲に被害が及ぶとされ、「これまでと同じ避難のし方ではいけない。幾重にもある避難方法…さまざま考えておいても足りることはない。セーフティーネットの一つとして防災、災害対策に生かし、計画づくりを進めていく」と力を込めた。

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サバイバルマスター 1DAYチャレンジ!フード編

サバイバルマスター®️1DAYチャレンジ!フード編
 

12月24日(日) フード編
 
/// 人の手助けができるサバイバルマスター®️に ///
 
全国の子どもたちにお願いです。
災害時は、大人たちだけでは対応できないことが次々に起こります。
そんな時のために一緒に学び続けよう。

8つのサバイバルプログラム

講習を受けると修了証、実技・筆記試験に合格するとワッペンがもらえます。
スキルが身についているか?学んだことを理解しているか?が合格の基準。
8つのプログラムすべてのワッペンがそろうと「サバイバルマスター®️」として認定されます。
 
サバイバルマスター®️1DAYチャレンジ!フード編チラシ(PDF/14.9MB)

スケジュール

10:00 受付開始
 
10:30 講習開始
このスキルを身に着けたら、どういった場面で役にたつか、学びながら練習しよう!
 
12:00 昼食
非常食を食べてみよう!
 
13:30 筆記試験
知識がしっかり身についているかテスト!
 
13:50 ふりかえり
 
14:00 解散

インストラクター

伊藤 聡
さんつな 代表
釜石高等学校 探求学習講師「防災ゼミ」
72時間サバイバル教育協会 認定ディレクター
 
釜石生まれ釜石育ち。
東日本大震災で自身も被災したものの、生まれ育ったまちを取り戻すため、ボランティアコーディネートを中心とした活動からスタート。
 
自然と災害という二つの要素を織り交ぜながら、子どもたちの生きる力を高めるために、様々な体験機会のコーディネートを行っています。
 
<<主な資格>>
防災士、防災検定2級、JVCAボランティアコーディネーション力検定2級、MFAメディック・ファーストエイド チャイルドケアプラス

お申し込み

予約フォームよりお申し込みお願いします!
https://reserva.be/santsuna
 
日程:2023年12月24日(日)
定員:15名(先着順)
※最小催行:3名
料金(税込):各回3,000円/一人あたり
※プログラム費、検定費、保険代など含みます
※助成金により、通常の参加費(5、500円)より割安になっています
対象:小学3年生以上
※子ども向けの内容ですが大人も参加大歓迎です
集合時間:10時受付開始
会場:根浜レストハウス キャンプ場
(釜石市鵜住居町第21地割23番地1外)
持ち物・注意事項:
●参加費は当日受付でお支払いお願いします(現金、PayPay、かまいしエール券)
●保護者や、対象年齢以外のご家族の付き添い(見学のみ)可能です

主催・お問い合わせ

さんつな(三陸ひとつなぎ自然学校)
LINE https://lin.ee/RvMUVBk
TEL 0193-55-4630 / 090-1065-9976
mail hitotsunagi.main@gmail.com

主催

さんつな

協力

72時間サバイバル教育協会
Tri4JAPAN

さんつな

さんつな

自然と災害という二つの要素を織り交ぜながら、若者の生きる力を高めるための体験機会を提供しています。

問い合わせ:0193-55-4630 〒026-0301 岩手県釜石市鵜住居町29-17-20
メール / LINE / 公式サイト / Facebook

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夜釣り…楽しむために 装備や心構え「しっかりと」 釜石海保など海中転落事故防止パトロール

釜石港で夜釣りを楽しむ人たちに注意を呼びかけ

釜石港で夜釣りを楽しむ人たちに注意を呼びかけ

 
 釜石海上保安部などは11月22日夜、海中への転落事故を防ごうと、釜石市の釜石港で合同パトロールを行った。釣り中の事故の約半数は夜間に発生しているといい、日没が早くなり気象条件も厳しくなる冬季に啓発を強化。イカ、ドンコ、サバ…岸壁で夜釣りを楽しむ人たちに事前の装備や心構えの必要性を伝えた。
 
 釜石海保と釜石警察署、釜石市、県沿岸広域振興局の11人が港内を巡り、釣り人に啓発グッズを配布。▽ライフジャケットの着用▽複数人で行動▽気象・海象の確認▽危険な場所には立ち入らない―と気をつけてほしいことをまとめたチラシも添えながら、「足元が暗いので気をつけてください。十分な明るさの照明器具も準備して安全確保をお願いします」などと注意を促した。
 
海中転落事故を防ぐための注意事項をまとめたチラシ

海中転落事故を防ぐための注意事項をまとめたチラシ

 
 釣り中の事故で多いのが海中転落。原因は岸壁などからの足の踏み外しや照明器具の不使用、磯場など滑りやすい場所での転倒、気象悪化が予想される中での活動など自己の過失によるものが多い。また、単独ではなく複数人で行動することで、生存率が2倍以上高まるといい、「仲間や家族と一緒に楽しんで」と呼びかける。
 
釣り人に声がけする釜石海上保安部の職員ら

釣り人に声がけする釜石海上保安部の職員ら

 
 岩手県内では昨年までの5年間に釣り人の海中転落事故が15件発生し、うち8件が夜間に起きている。冬季は海水温も低下するため、転落すると低体温症の危険性が高まり、命に関わる事故につながる恐れも。周囲が暗いため、発見が遅れる場合もある。こうしたことを踏まえ、第二管区海上保安本部の管内では11月を「釣り海難防止活動期間」として重点的に啓発活動を展開。釜石での活動もその一環で行った。
 
 釜石海保交通課によると、今年県内で夜釣り中に発生した海への転落事故は3件で、うち2件が釜石での事案。6月10日(箱崎町・仮宿漁港)と11月13日(釜石港)に県内陸部の男性2人(40代と70代)が事故に遭った。どちらもライフジャケットは未着用だった。17日に久慈市で発生した事故では70代の男性が亡くなった。
 
休み前日の夜は釜石港にも釣り人の姿や車がずらり

休み前日の夜は釜石港にも釣り人の姿や車がずらり

 
夜釣りを楽しむために安全確保もしっかりと

夜釣りを楽しむために安全確保もしっかりと

 
 この日は唐丹漁港も巡回。同課の佐藤辰也課長は「救命胴衣を着ていない人が多かった。『自分は大丈夫』ではなく、死に直結する事故になることもあるので、着用を心がけてほしい」と求めた。万一に備え、海の緊急通報用電話番号「118番」を覚えておき、「適正に利用してほしい」と加える。

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雪道へ早めの備えを! 釜石自動車道管理者ら冬タイヤ装着、安全運転などを呼び掛け

車両の冬への備えを呼び掛ける広報活動=16日

車両の冬への備えを呼び掛ける広報活動=16日

 
 高速道路の釜石自動車道(釜石―花巻間)を管理する国土交通省東北地方整備局南三陸沿岸国道事務所は、本格的な降雪シーズンを迎えるのを前に、冬タイヤ装着など早めの対策をドライバーに呼び掛ける。16日には、釜石市甲子町の「道の駅釜石仙人峠」駐車場で広報活動を行い、冬道への備えと事故防止への意識啓発を図った。
 
 県警高速道路交通警察隊釜石分駐隊が協力し、両機関の職員6人で活動。早めの冬タイヤ装着、積雪時のタイヤチェーン装着などを呼び掛けるチラシと、県内高速道路の冬の事故発生状況や走行時の注意点を記したチラシ(県警作成)をドライバーに配り、凍結や積雪対策、安全運転意識のさらなる高揚を促した。
 
広報活動は道の駅釜石仙人峠駐車場で行われた(一部画像処理)

広報活動は道の駅釜石仙人峠駐車場で行われた(一部画像処理)

 
 「タイヤ交換はお済みですか?」装着タイヤを確認する職員

「タイヤ交換はお済みですか?」装着タイヤを確認する職員

 
ドライバーにチラシを手渡し、早めの冬タイヤ装着、安全運転などを呼び掛けた

ドライバーにチラシを手渡し、早めの冬タイヤ装着、安全運転などを呼び掛けた

 
 チラシには県内の主な峠道で過去5年に最も早く初雪が観測された日を記載。釜石―花巻間では、釜石道花巻付近で11月19日、国道283号仙人峠では11月24日に観測されている。他にも、雪道での立ち往生対策としてスコップや携帯トイレ、毛布などの装備、大雪予想時は出控えや予定変更で危険を回避することも呼び掛けている。
 
 釜石道の冬季の事故は釜石仙人峠インターチェンジ(IC)―滝観洞IC間で多発。凍結路面でのスリップ(滑走)事故が多いという。同区間にはトンネルや橋が複数あり、日陰が多いため、路面が凍結すると解けにくい状況がある。特にも注意を促すのが洞泉橋。高い橋の下を風が通り抜け、路面が冷えるため、凍った状態が長く続くという。釜石分駐隊の菅原聖人隊長は「気温が低いと融雪剤も効きにくい。冬タイヤだからと過信せず、“ふんわりアクセル、ブレーキ”で安全運転を心がけてほしい」と話す。
 
雪道運転の注意点なども説明。お茶とティッシュも配った

雪道運転の注意点なども説明。お茶とティッシュも配った

 
 昨季(2022年11月~23年3月)の釜石道での交通事故は49件発生(釜石分駐隊調べ)。いずれも物損事故で負傷者はいなかったが、直近では22年2月に、樺トンネル(花巻市)内で滑走による死亡事故があり、1人が亡くなっている。
 
 同事務所によると、釜石道では昨季、仙人峠で最大29センチの積雪を観測。定められた基準に基づき除雪は行われるが、山間部では短時間で多量の降雪に見舞われる場合もあり、事前の道路情報の入手や十分に注意した走行が必要。また、同隊によると、釜石道では季節を問わず宮守IC―東和IC間での事故が多く、ドライバーにこまめな休憩も呼び掛けている。
 
「万全な冬道対策で交通事故回避を!」安全走行を呼び掛ける国、警察職員ら

「万全な冬道対策で交通事故回避を!」安全走行を呼び掛ける国、警察職員ら

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釜石市の震災記録誌「撓まず屈せず」完成 復興の過程、教訓「未来の指針に」

復興の道のりをまとめた釜石市震災誌「撓まず屈せず」

復興の道のりをまとめた釜石市震災誌「撓まず屈せず」

 
 釜石市は、東日本大震災を後世に伝える震災誌「撓(たわ)まず屈せず」を発刊した。野田武則市長、編さん委員会委員長の齋藤徳美岩手大名誉教授(地域防災学)が10日、市役所で完成を報告。被害状況、復旧・復興の施策や事業、課題をまとめた震災誌を手に、「未来の子どもたちへのメッセージであり、これから災禍に遭うかもしれない地域への教訓。災害の備え、応急・復旧対応の指針として大いに生かしてほしい」と望む。
 
 震災誌はA4判カラーで332ページ。▽いのちをつなぐ▽まちづくり▽くらし▽なりわい▽安心と安全―などの9部構成で、発災当日からの市民らの行動や復旧・復興の過程を記す。さらに、「災害対策本部の初動対応」「復興まちづくり基本計画の策定」「心のケア」といった61の項目ごとに事実、市に求められた役割、具体的な活動と結果、教訓を記述。有識者のメッセージやトピックス、市民の声も盛り込み、より理解が深まるよう工夫した。
 
市民の証言も教訓として添えられている

市民の証言も教訓として添えられている

 
 編さん委員会は2021年11月に発足し、市の震災検証に関わった大学教授や被災地域の住民、発災時から対応にあたってきた元市職員らで構成。市の庁内検証委員会が年度ごとにまとめてきた記録誌を基にまとめ、22年度内の完成を目指していた。発災から復旧、復興の歩みを体系的に記録し、得られた教訓を今後に生かしてもらうべく内容を精査。会合での協議、各種作業に時間を要し発刊時期が遅れていたが、今年10月にようやく完成した。
 
 第9部「未来のいのちを守るために」には、市内で1000人を超える犠牲者を出した検証、震災前から続く小中学校の防災教育の結果・検証などを記載。「災禍を繰り返さないために検証が不可欠。減災と復興の在り方に議論を続けて進化を」と教訓を示す。野田市長は「事実関係に加え、教訓もしっかり精査されている。ただ、教訓に関してはまだまだ議論の余地がある。読んだ人が考え、得られるものをつけ足していってもらいたい」と委ねる。
 
完成を報告する野田市長(右)と齋藤委員長

完成を報告する野田市長(右)と齋藤委員長

 
 「12年という一つの区切りにまとめができたのは非常に価値があった」と齋藤委員長。「自然災害は必ず発生する。災禍を繰り返さないためには、とにかく逃げる」と訴え続ける。震災では避難という基本に対する認識に個人差があったのか、大きな被害につながったとも指摘。「普段から、非常時の体制づくりを」と求める。そして、この震災誌に願いを込める。「未来への指針としてほしい」。巻末資料に索引がついており、市民の振り返りだけでなく、他市町村も参考にしやすい形を取り入れた。
 
 300部を発行し、市内の学校や図書館、国や岩手県の関係機関、復興応援を受けた自治体などに配布する。市役所(震災検証室)や市の出先機関(釜石地区を除いた生活応援センター)で販売(1部2000円、税込み)も。市ホームページでも無料で公開する。

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「悼む・忘れない・伝える」釜石・片岸町に震災大津波記念碑 待望の完成 教訓を確実に後世へ

片岸町に建立され、4日に除幕された「東日本大震災大津波記念碑」

片岸町に建立され、4日に除幕された「東日本大震災大津波記念碑」

 
 東日本大震災の津波で町内の8割が被災、33人が犠牲になった釜石市片岸町に、住民の思いが詰まった大津波記念碑が建立された。犠牲者を悼み、教訓を伝え、未来の命を守ろうと、片岸町内会(鈴木匠会長、121世帯)が建立実行委(委員長=鈴木町内会長)を組織し、実現に向け取り組んできた。津波で破壊された神社の鳥居、石橋を石材として活用。「人」の形に組んで地域の支え合いを表現するなど、デザインにもこだわった。住民だけでなく多くの人に立ち寄ってもらい、津波の教訓を感じ取ってもらうことを期待する。
 
 4日、記念碑の除幕式が現地で行われ、住民や関係者約80人が出席した。海に向かって黙とうをささげたあと、実行委の鈴木委員長(71)があいさつ。かさ上げを含む土地区画整理事業の長期化、新型コロナウイルス禍の影響で、これまで建立がかなわなかった経緯を説明した上で、「亡くなった人にみんなで手を合わせ、思い出す場が欲しかった。復興の象徴にもしたかった。未来につながる防災の決意をここで示していきたい」と碑に込めた思いを明かし、協力者に深く感謝した。町内の子どもらが除幕。完成した記念碑が姿を現した。
 
式の冒頭、海の方角に向かって震災犠牲者に黙とうをささげる出席者

式の冒頭、海の方角に向かって震災犠牲者に黙とうをささげる出席者

 
片岸町内の子どもたちの手によって記念碑の除幕

片岸町内の子どもたちの手によって記念碑の除幕

 
 同記念碑は片岸稲荷神社への上り口付近の私有地(永年貸与)に建立。横幅6.5メートル、奥行き2.5メートルの台座に据えられた。正面向かって左側に、津波で倒壊した同神社鳥居の笠木部分を組んだ「人」という字のモニュメント(高さ2.5メートル、花こう岩)を設置。中央の2本の石柱は鳥居の柱部分を使ったもので、1本は「東日本大震災大津波記念碑」と刻字、もう1本には町内の中高生6人が考えた未来に伝えたい教訓を名前と共に四方に刻んだ。右側の町民から寄付された石には、被害の概要と記念碑に込めた思いが文章で刻まれた。台座には神社の石橋だったものが使われた。
 
中央の石柱のうち1本には、中高生が考えた未来に伝えたい言葉が刻まれた(写真両端)

中央の石柱のうち1本には、中高生が考えた未来に伝えたい言葉が刻まれた(写真両端)

 
台座の右側に設置された碑文。石材は町民が寄付

台座の右側に設置された碑文。石材は町民が寄付

 
 建立された記念碑の近くには山裾に並ぶ形で、被災後に再設置された明治、昭和の三陸大津波の記念碑、江戸時代の神社関連の石碑群などもある。目の前には市が整備した片岸稲荷公園が広がり、同所は国道45号からも見通せる。
 
 式の中で町内に暮らす藤原菜穂華さん(大槌高1年)は震災の記憶がない、経験していない中高生が考えた言葉について「感慨深い。ぜひ見ていただきたい」と話し、「なぜここに記念碑ができたのか、一人一人が考えてくれたら」と思いを込めた。
 
上段:今回設置した記念碑の近くには昭和と明治の三陸大津波記念碑が並ぶ(右側)下段:記念碑は国道45号からも見える場所にある

上段:今回設置した記念碑の近くには昭和と明治の三陸大津波記念碑が並ぶ(右側)下段:記念碑は国道45号からも見える場所にある

 
左:遺族代表であいさつする山﨑長也さん(前片岸町内会長)右:中高生の言葉について思いを述べる藤原菜穂華さん

左:遺族代表であいさつする山﨑長也さん(前片岸町内会長)右:中高生の言葉について思いを述べる藤原菜穂華さん

 
 片岸町は市の北部に位置し、大槌町に隣接する。同震災で当時の住民662人のうち33人が犠牲になり、家屋252軒中199軒が被災した。前町内会長の山﨑長也さん(87)は妻トシさん(当時73)が行方不明のまま。式で遺族を代表してあいさつし、「(犠牲になった家族を)思い起こすたび心が定まらないが、碑ができたことで亡くなられた方、遺族の方々も幾分、心安らかになるのではないか。通りがかった方々も手を合わせていただければ」と願った。
 
 「間もなく(震災から)13年。これまでみんなでやってきたことがこれに凝縮されたような気持ち。一つのけじめができたと思う」と鈴木委員長。今回、町内5カ所の津波到達地点には「これより高台に逃げろ」と刻んだ石柱も設置した。総事業費は約200万円で、資金は住民や町内の団体からの寄付金で賄われた。
 
記念碑について出席者に説明する鈴木匠実行委員長(右)

記念碑について出席者に説明する鈴木匠実行委員長(右)

 
完成した記念碑に献花する出席者

完成した記念碑に献花する出席者

 
震災犠牲者の冥福を願い、祈りがささげられた

震災犠牲者の冥福を願い、祈りがささげられた

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お願い!火の用心 ちびっこ消防隊パレード 釜石・甲東こども園 予防運動に合わせ

「火の用心」を呼びかける甲東こども園の防火パレード

「火の用心」を呼びかける甲東こども園の防火パレード

 
 秋の火災予防運動が9日、全国一斉に始まった。暖房器具を使い始めたり、空気が乾燥したりするなど火災が発生しやすい時期を迎えたことから、15日までの期間中、釜石市内では消防署員や消防団など関係者が被害防止に向けた啓発活動に取り組む。開始を前にした2日には、野田町の甲東こども園(野田摩理子園長、園児120人)が「ちびっこ消防隊防火街頭パレード」を展開。園周辺の約1・5キロを回って「火の用心」を呼びかけた。
 
ちびっこ消防隊の行進を地域住民が見守った

ちびっこ消防隊の行進を地域住民が見守った

 
 防火パレードは今年で39回目。同園を運営する学校法人野田学園の佐藤猛夫理事長が「命を大切にするには、安全安心な生活が一番。心を込め、みんなで歩こう」と激励し、3~5歳児89人に職員や保護者を加えた約120人で元気に園を出発した。
 
 指揮者を先頭に、ポンポン隊、拍子木隊、防火の要点をプリントした手作りの「ちょうちんのお守り」を地域住民にプレゼントするちびっこ隊員が続いた。園児は、火の用心の歌に合わせて「戸締まりよーじん!火のよーじん!」と大きな声でアピール。消防署の広報車、消防団のポンプ車も隊列に加わって火災予防の意識啓発を図った。
 
役割分担しながら火災予防を呼びかける子どもたち

役割分担しながら火災予防を呼びかける子どもたち

 
住民らにお守りを手渡して「火の用心をお願いします」

住民らにお守りを手渡して「火の用心をお願いします」

 
 園に戻って「防火の集い」。園児代表が「火遊びはしません。みんなで気をつけます」と誓い、「マッチ一本、火遊び危ない 火事のもと」と消防標語に声を合わせた。釜石消防署の小林太副署長は「立派なパレード。火の用心という大切な心が地域の人たちに伝わったと思う。誓いを守って命を守れる大人になってほしい」と協力に感謝した。
 
地域を回って呼びかけした後は園庭で防火の集い

地域を回って呼びかけした後は園庭で防火の集い

 
火災予防の約束事を確認したり鼓隊演奏を披露したりした

火災予防の約束事を確認したり鼓隊演奏を披露したりした

 
 今回の火災予防運動では「火を消して 不安を消して つなぐ未来」を統一標語に掲げる。重点目標は▽住宅防火対策の推進▽乾燥時や強風時の火災防止▽放火対策の推進▽大勢が集まる催しの火災予防指導-など6項目。釜石署管内では新型コロナウイルス感染症の影響で戸別の防火訪問指導は中止するが、市消防団による防火広報活動や、年間を通して行う保育施設での防災教室、事業所の立ち入り火防点検・消防訓練は継続する。
  
 釜石署によると、市内で今年発生した火災はこれまで8件。前年同時期と比較すると多くなっているという。暖房器具の出番が増えるこの時期は全国的にも火災の発生が多い傾向にあり、「住宅用火災警報器の点検や更新(10年)の確認を。防火に努めてほしい」と注意を促す。

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届け!震災の教訓 釜石の小学生伝承者 活動着々 「もっと多くの人に」向上心ふつふつ

「津波てんでんこ」の大切さを伝える歌を披露する佐々木智桜さん

「津波てんでんこ」の大切さを伝える歌を披露する佐々木智桜さん

  
 東日本大震災の体験や教訓を語り継ぐ「大震災かまいしの伝承者」の佐々木智桜(ちさ)さん(鵜住居小4年)は19日、釜石市鵜住居町の津波伝承施設「いのちをつなぐ未来館」で伝承活動を行った。3月にデビューし、今回が4回目の活動。企業向け研修での活動は初めてで、少し緊張しながらも津波避難で気をつけることや備えの大切さを訴えた。
  
 「東日本大震災は自分が生まれる前に起きたことですが、震災で何があったか、どうして命が助かることができたのか、たくさんの人にわかりやすく伝えたいです」。智桜さんがはっきりとした口調で思いを語った。
   
 耳を傾けたのは、防災設備メーカー能美防災(東京都)の社員ら約20人。企業研修の一環で、釜石市や陸前高田市などを巡って行政・民間による防災、復興まちづくりの取り組みに理解を深めている。今回、語り部には智桜さんを指名。学校の防災教育、小学生伝承者としての活動の思いに触れる機会にした。
  
企業研修で伝承活動を行う智桜さん

企業研修で伝承活動を行う智桜さん

  
 智桜さんは同館スタッフの母智恵さん(41)らの質問に答える形で、用意した原稿を読み上げながら伝承者になった理由や活動内容などを紹介した。「震災の3年後、2014年3月11日に生まれました」。その日は祖母と伯母の命日でもあり、2人のことを考えながら語り部活動を行っていると明かした。
  
 学校の防災教育について聞かれ、「毎月11日には命を大切にする日というのがあって…」と答えた智桜さん。そこでの活動として、「津波てんでんこ」の大切さを伝える歌を披露した。そして、締めくくりに強調したのは、父からの教え。「命が一番大事だということ。逃げるのが遅くなると命をなくしてしまうかもしれないから、災害が起きた時や起きそうな時は早く行動してほしい。地震が起きた時は何も持たなくていいから、とにかく逃げて。命さえあればいいんだよ」
  
歌で「てんでんこ」の大切さを伝えた

歌で「てんでんこ」の大切さを伝えた

  
 研修の参加者は、智桜さんのはきはきとした語りに引き込まれた様子で、「伝承者として勉強はどうしているか」「語り部は大変ではないか」などと熱心に質問。今後の活動や目標を聞くと、智桜さんは「英語でも伝えられるようになり、別の国の人に津波のことを教えたい」「防災士の資格も取って、もっといろいろ伝えられるようになりたい」と意欲を見せた。
  
 同社人事課の大野聖華さん(26)は、てんでんこの歌の「100回逃げても空振りばかり それでも今度も逃げるんだ」との歌詞が印象に残った。生活の中で「これくらいなら避難しなくてもいいかな」と思う時もあったと反省し、考えを改める機会に。「目で見て、話を聞き、体験しなければ分からないことが多いと感じた。約2000人の社員がいるが、個々の力の底上げにつながると思うので、学びの輪を広げられるようにしたい」と考えを巡らせた。
  
能美防災の社員らは熱心に耳を傾ける

能美防災の社員らは熱心に耳を傾ける

  
 釜石での研修は3年目。火災防災を主軸とした事業を展開しているが、近年は災害の要因が多様化、激甚化し、さまざまな災害への備えを事業に生かそうと続ける。防災士の資格を取った社員が臨んでいて、これまでの参加者は50人弱。新規事業のアイデアにもつながっているという。事務局を担った同社総合企画室の佐々木聰文(あきふみ)さん(47)は釜石出身。古里の教訓が次の防災に生かされると歓迎する。研修期間は5日間。「密な時間を共に過ごすことで、共通の物事を話せる仲間が増えている。この機運を高めていきたい」と継続を見据えた。
  
はにかみながら名刺を受け渡す智桜さん(右)

はにかみながら名刺を受け渡す智桜さん(右)

  
 智桜さんは3月以降、同館の展示案内などを行いながら伝承者として学びを伝えている。これまでは少人数のグループに対応していて、今回のようにずらりと座り込む大人十数人を前に語るのは、「緊張した」と目を大きくした。それでも「覚えてほしいことは伝えられた」と満足げ。名刺も作製し、伝承活動をさらにパワーアップさせる構えだ。