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体験でもっと身近に!消火・救助活動 釜石市少年消防クラブ 学び高める防災意識

釜石消防署員と一緒に放水を体験する小学生

釜石消防署員と一緒に放水を体験する小学生

 
 小中学生の防災意識を育てようと、釜石市少年消防クラブ(会長・小林太釜石消防署長、10校)の消防体験学習が7月26日、同市鈴子町の釜石消防署で開かれた。5回目の今回は児童15人が参加。消火や救助活動を体験しながら身の回りの防災や有事の際の対応について理解を深めた。
 
 同クラブは、防火・防災思想の普及を図ることを目的に全国各地で結成されている防災組織。釜石では火災予防や防災に関する知識、身を守る技術の習得と合わせ、将来の地域防災の担い手の育成を狙いに、2017年に取り組みが始まった。
 
 釜石署管内の学校単位で組織され、発足時は6校(小学校5校、中学校1校)だったが、18年に4校(全て小学校)が加わった。25年4月1日現在、計10校の児童生徒約1300人が所属。火災予防ポスターの作成、着衣泳など水の事故防止を学ぶ水上安全訓練、救急救命講習など消防署や関係機関の力を借り、各校で取り組んでいる。
 
釜石消防署で行われた体験学習の参加者。ビシッと敬礼

釜石消防署で行われた体験学習の参加者。ビシッと敬礼

 
 この日の消防士体験のスタートは格好から。実際に火災現場で装着する重い防火服、特殊ヘルメットを身に着けたり、敬礼を教わったりした。空気呼吸器の装着体験も。消防署員が手を離すと、子どもたちはよろめき、10キロほどの重さを肩や背に感じていた。
 
防火服を着て空気呼吸器を背負って重さを体感

防火服を着て空気呼吸器を背負って重さを体感

 
 消防車両や釜石署の訓練棟を利用し初期消火、煙体験、はしご車の試乗などを実施。ヘルメット着用した小学生を消防士、救急救命士ら署員約10人がサポートした。
 
 ポンプ車による消火体験では、消防ホースでの放水に挑戦。署員に支えられながら放水ノズルを操り、勢いよく水が飛び出すと子どもたちは笑顔を見せた。山火事の時などに使用する背負い式水のう「ジェットシューター」を使った放水も体験。今春に大船渡市で発生した大規模山林火災の現場でも活躍したとの説明を真剣な表情で聞いた。
 
消火体験はホースを伸ばし、ノズルを装着したり準備が必要

消火体験はホースを伸ばし、ノズルを装着したり準備が必要

 
消防署員のサポートを受けながら放水を体験する子どもたち

消防署員のサポートを受けながら放水を体験する子どもたち

 
背負い式の消火水のう「ジェットシューター」の操作体験

背負い式の消火水のう「ジェットシューター」の操作体験

 
 高さが35メートルまで伸びるはしご車は、市内のほとんどの建物の消火、救助活動に対応できる。児童らは先端のバスケットに署員と2人ずつ乗り込み、高さ15メートルまで上昇。余裕の子どもたちは地上で見守る友達や家族に自慢げに手を振った。
 
消火や救助の現場で活躍するはしご車の搭乗体験

消火や救助の現場で活躍するはしご車の搭乗体験

 
はしご車の試乗や写真撮影を楽しむ参加者

はしご車の試乗や写真撮影を楽しむ参加者

 
 釜石署に配備されている救急車3台のうち2台に電動ストレッチャーが装備されている。指1本によるボタン操作で、自動での上げ下ろしができる仕様。男性署員が3人がかりで対応していたようなケースも「女性署員でも持ち上げられる」という。2年連続で参加した女子児童は消防士を将来の仕事として視野に入れていて、黙々と体験をこなしているようだったが、感想を聞くと「楽しい」とはにかみながらうなずいた。
 
救急車の装備を見たり消防車両に乗って走行体験もした

救急車の装備を見たり消防車両に乗って走行体験もした

 
訓練棟での煙体験。しゃがんで煙の濃さを確かめた

訓練棟での煙体験。しゃがんで煙の濃さを確かめた

 
 参加者の中には家族が釜石署で働いているという子も。小学1年の佐々木晴太郎さん(6)もそんな一人で、「お父さんの仕事を見たかった」。一緒に放水を体験したりし、「(お父さんは)かっこよかった。大変そうだと思ったけど楽しかった」とうれしそうに話した。
 
 釜石署予防係の佐藤直樹係長は「体験を通じて消防の仕事や防災について興味を持ってほしい。クラブでの経験を生かして将来、一緒に働いてもらえたら」と、子どもたちに呼びかけた。
 
少年消防クラブの児童が作成した防火ポスター

少年消防クラブの児童が作成した防火ポスター

 
 同クラブの取り組みとして防火ポスターコンクールの参加があり、市内の児童が寄せた約100点の作品をイオンタウン釜石(同市港町)で展示している。夏は、花火やバーベキューなど屋外で火を取り扱う機会が多くなることから、市内では夏季火災予防特別警戒を実施中。その期間に合わせ8月20日まで作品を見ることができる。

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カムチャツカ半島付近地震津波 釜石でも最大50センチ観測 警報で1531人が避難

高台の市道から潮位の変化を見つめる住民ら=30日午前10時50分ごろ、鵜住居町根浜

高台の市道から潮位の変化を見つめる住民ら=30日午前10時50分ごろ、鵜住居町根浜

 
 7月30日午前8時25分ごろ発生したロシア・カムチャツカ半島付近を震源とする巨大地震で、日本の太平洋沿岸などに出された津波警報と注意報。本県では午後8時45分に警報から注意報に切り替わり警戒が続いていたが、31日午後4時30分に注意報は解除された。釜石港でこれまでに観測された津波の最大は、30日午後2時13分の50センチ。津波の影響による潮位の変化はしばらく続く可能性があり、引き続き注意が必要だ。
 
 マグニチュード8.7と推定される今回の地震。釜石市では揺れを感じない状態で突如、鳴り響いた防災行政無線のサイレンに緊張が走った。同市では気象庁が午前8時37分に発表した津波注意報を受け、浸水想定区域に避難指示を発令。午前9時40分に注意報から警報に警戒レベルが引き上げられると、対象範囲を拡大した(6362世帯、1万1382人)。市内の小中学校など6カ所に避難所が開設され、最大で計1531人が避難した。
 
 市の緊急避難場所、拠点避難所に指定されている鵜住居町の鵜住居小・釜石東中には注意報の発表後、地域住民や地区内で働く人などが続々と避難してきた。同地区生活応援センターと学校が連携し避難所を開設。通常は体育館が避難所となるが、厳しい暑さのため、エアコンが設置されている各種教室などを開放し、避難者を受け入れた。同所には最大で373人が避難した。
 
避難所が開設された釜石東中校内。子どもから高齢者まで多くの人が避難した

避難所が開設された釜石東中校内。子どもから高齢者まで多くの人が避難した

 
避難者は警報の早期解除を願いながらエアコンのある部屋で待機

避難者は警報の早期解除を願いながらエアコンのある部屋で待機

 
 川沿いにある双日食料水産は、ベトナム人技能実習生18人を含む70人が同校に避難。注意報発表時は始業時間と重なり、点呼などを経て午前10時前には避難を開始した。東梅拓也工場長は「年1回、避難訓練を実施しており、みんな落ち着いて行動できた。従業員は東日本大震災の津波経験者が多いので防災意識は高い」と話した。学校近くの復興住宅に暮らす70代と80代の女性は「全然揺れないで、急にサイレンが鳴ったのでびっくり。暑い時の避難は大変。長い階段を休み休み上がってきた」と涼しい部屋でしばし休憩。「何もなく、早く(警報が)解除されれば」と願った。
 
 鵜住居町根浜地区では旅館や観光施設の従業員らが客を帰した後、津波到達予想時刻の午前10時半前に高台避難を完了。震災後に造成された海抜20メートルの復興団地内の集会所に身を寄せた。岸壁で作業中だった漁業者も即座に高台へ。地区住民らは自宅待機し、テレビなどで情報収集した。
 
震災後に整備された根浜復興団地内の集会所に避難した人たち。テレビやスマホで情報収集

震災後に整備された根浜復興団地内の集会所に避難した人たち。テレビやスマホで情報収集

 
 同地区では7月28日から国内外の中高生ら13人がリーダー育成プログラムのキャンプ中だった。14年前の震災の教訓を学ぶのも目的の一つ。津波注意報発表時は、海辺でのライフセービング体験に向かう直前だった。岡﨑律さん(高3、東京都)は「津波について学んでいる最中だったので、より恐怖を感じ、他人事ではないと思った。避難の不安もあったので、実際の災害を想定して家の備蓄品や持ち出し品を確認しなければ」と気を引き締めた。佐々夏希さん(高1、同)は「初めての経験でちょっとパニックになり、右往左往するところがあった。想定外のことにも一旦冷静になり、対処することが大切。日頃から訓練しておきたい」と学びをさらに深めた。4泊5日のプログラムは一連の影響で変更を余儀なくされた。
 
グローバルリーダーシッププログラムのキャンプで釜石を訪れた中高生らは根浜MINDの佐々木雄治さんから東日本大震災の被災状況なども学んだ

グローバルリーダーシッププログラムのキャンプで釜石を訪れた中高生らは根浜MINDの佐々木雄治さんから東日本大震災の被災状況なども学んだ

 
津波警報の発表で国道45号は通行車両も激減。午後からは通行止めの区間も。市内の商業施設は警報解除まで営業を見合わせた

津波警報の発表で国道45号は通行車両も激減。午後からは通行止めの区間も。市内の商業施設は警報解除まで営業を見合わせた

 

避難所開設に大きな力 自主防結成の釜石東中生 率先して避難者をサポート

 
避難者に非常食の缶パンを配る釜石東中の生徒=30日午前

避難者に非常食の缶パンを配る釜石東中の生徒=30日午前

 
 鵜住居小・釜石東中の避難所開設で今回、大きな力を発揮したのは、釜石東中(高橋晃一校長、生徒86人)の生徒36人。夏休みの部活で登校していた1、2年生らが、避難者の案内や食料の配布、困りごとの聞き取りなど精力的に活動し、長丁場となった避難所運営を支えた。今年1月に生徒会が中心となって自主防災組織(自主防)を立ち上げた同校。日頃の学びや訓練の成果が生かされた。
 
 7月30日、生徒らは午前8時半ごろから、部活の活動場所となっていた学校近くの市民体育館で準備を進めていた。ほどなくして津波注意報のサイレンが…。生徒らはすぐさま、高台の学校へ避難。避難者が増える中、避難所開設の必要性が高まり、教職員の指示のもと受け入れを開始した。エアコンがある図書室や音楽室など4室を開放。入り口で受付を済ませた避難者を生徒らが各部屋に案内した。
 
 昼前には、校内に設置されている市の防災備蓄倉庫から飲料水と非常食の缶パンなどを運び出し、避難者に配布。トイレットペーパーの補充、段ボールベッドの組み立てなども行い、校内を回りながら避難者の困りごとを聞いた。熱中症対策や感染症予防を呼びかける校内放送も生徒が担当。地元製パン業者が差し入れたパン、夕食用に市から配送された非常食カレーなどの配布も手伝った。
 
生徒らは鵜住居小の教室にも飲料水や非常食を届けた

生徒らは鵜住居小の教室にも飲料水や非常食を届けた

 
避難者の案内、御用聞きも行い、運営をサポート。写真右上は校内放送の呼びかけ文の一部

避難者の案内、御用聞きも行い、運営をサポート。写真右上は校内放送の呼びかけ文の一部

 
 現1、2年生は実際の避難所開設、運営にあたるのは初めての経験。2年の板澤莉琉さん、旦尾歩暖さんは「最初は落ち着かなかった。みんなそわそわして…。でも『避難所、やらなきゃないのでは』との声も多かった」と、注意報から警報への時間帯の仲間の様子を振り返った。1年の新屋碧さん、小國怜義さんは「困っている人には積極的に話しかけ、要望などを聞いている。少し不安もあるが、互いに声をかけ合って頑張っている」とし、「また同じようなことがあったら、今回の経験を生かしたい」と意を強くした。
 
学生に教えながら段ボールベッドも組み立てた

小学生に教えながら段ボールベッドも組み立てた

 
差し入れのパンの種類と数を記録する手伝いも

差し入れのパンの種類と数を記録する手伝いも

 
 同校では4月に防災オリエンテーションを実施。その後も小中合同の下校時津波避難訓練のほか、朝活動での防災意識向上を図る取り組みを続けている。高橋校長は「日常的に防災に特化した活動をやっているので、生徒たちはスムーズに動けたのではないか。これまでの学びがしっかり身に付いている」と活動の成果を実感。また、「市の対応にはなるが、防災備蓄倉庫の物品の補充、更新など定期的な点検も必要と感じた」と今後の課題も示した。この日は警報から注意報になった時点で、市教委から生徒の保護者への引き渡しの指示があり、午後10時ごろまでに学校にいた全生徒が帰宅に向かった。

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「地域」のため「できること」 地震の被災地高校生・能登×釜石 つながる、共に考える

防災意識を高めるゲームを体験する釜石と能登の高校生

防災意識を高めるゲームを体験する釜石と能登の高校生

 
 東日本大震災と能登半島地震―。その被災地、岩手県釜石市と石川県能登町の高校生が災害復興や防災をテーマにした学びを通じ、それぞれの地域への思いを深めている。釜石高の生徒有志グループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」は20日、復興のプロセスを学ぶ東北研修で来釜した能登高の生徒らと交流。震災の教訓を伝える活動を紹介しながら、「地域のためにできること」を共に考えた。
 
 「これ以上、大切な人を失いたくない。だから今のうちから備えて、災害が来たらどうしたらいいか、家族と話してください。…『津波てんでんこ』、自分、そして大切な人を信じてください」。夢団代表の加藤祢音さん(3年)の語りに能登高の生徒らはじっと耳を傾けた。
 
語り部活動を紹介する夢団代表の加藤祢音さん

語り部活動を紹介する夢団代表の加藤祢音さん

 
 釜石情報交流センター(大町)であった交流会の一場面。加藤さんは、地元のラグビーチーム日本製鉄釜石シーウェイブスのホーム戦に合わせて行っている語り部活動を見せた。震災の津波で祖母ら親族3人を亡くしたが、当時3歳で記憶はほとんどなく、両親から聞いたことを語っている。「顔も名前も、存在すら知らなかった。それがつらい」。そんな思いを込め、備えの大切さを訴える。「自分と大切な人を信じ、それぞれが自分の身を守る行動をとることが多くの命を救う一つの道」と。
 
 能登高生は、語り部の練習などを質問。「もとから災害や防災に興味を持っていたのか」と聞かれると、加藤さんは「中学で勉強し、興味はあった。夢団に入ったのは友達がいたからだったけど、活動を通して防災に関心が深まった。どう行動するかは自分」と答えた。
 
 カードゲーム形式で防災意識の向上を図る「釜石版クロスロード」や、防災すごろくなど夢団オリジナルのゲームも紹介。「高校生ができること」について意見を交わす時間も設け、能登高の生徒たちは「能登版」の取り組みへ生かすヒントを探っていた。
 
「防災・坊主めくり」に挑戦。災害の教訓を学ぶ

「防災・坊主めくり」に挑戦。災害の教訓を学ぶ

 
 能登高の東北研修は18~21日に実施。生徒ら8人、教員ら3人は宮城県の石巻市や女川町の復興の様子を視察し、官民連携のまちづくりについて話を聞いた後、19日に釜石入りした。20日には夢団の8人との交流のほか、うのすまい・トモス(鵜住居町)で、釜石東中2年生の時に震災を経験した川崎杏樹さん(いのちをつなぐ未来館スタッフ)や、夢団の活動を支える伊藤聡さん(「さんつな」代表)から復興まちづくりの過程について説明を受けた。能登町小木地区と復興姉妹都市として交流する大槌町安渡地区も見学した。
 
釜石の復興についての講話を聞く能登高、釜石高の生徒ら

釜石の復興についての講話を聞く能登高、釜石高の生徒ら

 
講師の川崎杏樹さん(写真左)、伊藤聡さん

講師の川崎杏樹さん(写真左)、伊藤聡さん

 
釜石の市街地を歩きながら復興の過程を学んだ高校生ら

釜石の市街地を歩きながら復興の過程を学んだ高校生ら

 
 東北研修のきっかけは、今年3月に夢団の生徒有志が能登地域を訪れたこと。被災地域の現状視察やボランティア活動、小木地区の中学校で進められていた防災教育について学んだりした。能登高の生徒との同世代交流の機会も。今回、夢団の活動に刺激を受けた能登高の生徒が自主的に企画し、学校や町が後押しして実現した。
 
 能登高の三田晴也さん(3年)は、仲良くなった釜石高の三浦大和さん(同)ら夢団メンバーに会うのを楽しみにやってきた。高校生ができる活動のアドバイスをもらい、ノートにメモ書き。今なお崩れたままの建物が残る古里を思い浮かべ、「まちづくりに役立てるようになりたい」と思いを強めた。
 
地域のことを伝え合う生徒たち。「できること」を書き出した

地域のことを伝え合う生徒たち。「できること」を書き出した

 
 三田さんは地震で自宅が半壊した。岩手、宮城の震災被災地を訪ね、急激な人口減や未利用の土地が目立っている現状は「今の能登に当てはまる」と認識。安渡地区の漁師が「仕事がしづらい」と漏らした巨大な防潮堤について、「めっちゃ高い。あれを能登につくられたら能登じゃなくなる」とつぶやいた。
 
 人が優しく、食べ物がおいしい。静かで落ち着く。そして、能登は楽しい―。古里に愛着を持つ女子生徒(同)は、地元で保育士として働き、子どもたちに災害の記憶や教訓、防災を伝えたいと将来を思い描く。東北の被災地をめぐり、「復興していてもいろいろな課題が見えてくる。どう解決していけばいいのか探ることができれば、能登で生かせるかもしれない」と、地元住民の声を熱心に聞いた。
 
学びを共有した生徒。カメラに向けるサインも共通

学びを共有した生徒。カメラに向けるサインも共通

 
 夢団メンバーにとっても実りある交流になった。三浦さんは「能登で暮らす人たちの強さ」を改めて実感し、自分が育った地域のことを見つめ直す機会にした。加藤さんも「物心がついた時には復興した風景だったから、釜石の復興の足跡を改めて教えてもらえてよかった。次代を担う世代が地域を結びつけることでまちの形が見えてくると思うから、他地域の人たちと学び合う時間を刺激に、できる活動を続けたい」と見据えた。
 
笑顔で記念写真。友好を深めた能登と釜石の高校生

笑顔で記念写真。友好を深めた能登と釜石の高校生

 
 今回の東北研修をコーディネートした伊藤さんは、近い将来、まちづくりの担い手として期待される若者たちの交流をうれしそうに見つめる。昨年2月から能登と釜石を行き来しながら応援を続ける中で、小木地区の防災教育に岩手、釜石の復興教育が生かされていると知った。さらに独自に発展させていたことから、「夢団メンバーの学びの深化に」と能登訪問を企画。それから、つながった相互訪問に、「災害からの復興はひとくくりにはできず、長くかかる。是が非でも若者たちが関わっていくことであって、受け継がれていくべき。一過性で終わるのではなく、続けて交流することで切磋琢磨(せっさたくま)しながら、それぞれの地域を盛り上げてほしい」と期待した。

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不審者発見、適切な通報…夫婦で協力、窃盗犯逮捕に貢献 釜石警察署が感謝状

松本一夫署長から感謝状を受けた洞口忠さん(右)

松本一夫署長から感謝状を受けた洞口忠さん(右)

 
 夫婦の連携プレーが窃盗事件の容疑者逮捕につながったとして、釜石警察署(松本一夫署長)は6月25日、釜石市浜町の自営業・洞口忠さん(56)、陽子さん(50)夫妻に感謝状を贈った。贈呈式は同市中妻町の釜石署であり、松本署長から感謝状を受け取った洞口さんは「犯人が捕まって良かった。これからも協力して見守っていければ」と、淡々と話した。
 
「夫婦で協力し適切な通報で被疑者逮捕に貢献した」と謝意を伝える

「夫婦で協力し適切な通報で被疑者逮捕に貢献した」と謝意を伝える

 
 窃盗事件は5月21日深夜に発生した。洞口さんは同日午前0時頃、暑さから自宅2階の窓を開けた際に、道路向かいの工事現場事務所付近に人影を発見。「こんな時間帯に歩くなんて、不思議な人がいるな」と目を凝らすと高齢の男性のようで「徘徊(はいかい)」とも思ったが、同じところを行ったり来たりする不審な動きに「おかしい…迷い込んだのではない。怪しい」と感じた。
 
 そんな様子を陽子さんに伝えると、自発的に「近所に不審者がいる」と署に通報した。その間も洞口さんは男性を目で追い、10分ほど経った頃、男性が移動し始めたため、「見失わないように」と家の外に出て追跡。その約5分後に駆け付けた署員が、通報の際に伝えられた服装などの情報をもとに容疑者を見つけて緊急逮捕した。
 
 釜石署によると、男性(80代)は窓ガラスを割って事務所に侵入し、ノートパソコンなど数点(計十数万円相当)を盗んだ、建造物侵入と窃盗の疑いで逮捕された。
 
状況を振り返る洞口さん。「地域で協力し見守りを」との思いを強くする

状況を振り返る洞口さん。「地域で協力し見守りを」との思いを強くする

 
 発見後に追跡という行動もとった洞口さんは「怖さは感じず、『何とかなるさ』と体が動いた」と振り返った。全国的に「治安が悪くなってきている」と感じる事件を耳にすることもあり、「地域には高齢者や子どももいるので、今まで通り、地域のみんなで協力しながら見守っていきたい」と背筋を伸ばした。
 
 今回の窃盗事件の早期解決に対して松本署長は「見て、気づいて通報。夫妻の素晴らしい連携があったからこそ」と強調し、「通報がなければ、被害が拡大する恐れもあった」とあらためて感謝の言葉を伝えた。そして、「今回は泥棒だったが、徘徊する高齢者などの場合もある。怪しい人、気になる人を見かけたら迷わず通報してほしい」と呼びかける。

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「生き続ける震災遺構」 坂口奈央氏(岩手大准教授)が出版 釜石でトークイベント

トークイベントで著書に込めた思いを語る坂口奈央さん(左)

トークイベントで著書に込めた思いを語る坂口奈央さん(左)

 
 釜石市大町の桑畑書店で14日、「生き続ける震災遺構―三陸の人びとの生活史より」(ナカニシヤ出版)を著した岩手大学准教授の坂口奈央さん(50)のトークイベントが開かれた。元民放アナウンサー兼記者として東日本大震災を取材し、その後に災害社会学者に転身した坂口さん。研究者として調査を続け、そこに住まう人々の思いを見つめ考察した一冊を手に、「三陸の方たちへの感謝を込めた。今だから向き合えることもあると思うので、大切な人を思い浮かべながら懐かしんだり、いろいろな思いをはせてもらえたら」と願った。
 
 著書「生き続ける震災遺構」(3月11日発刊、税抜き3600円)は▽「いま、ここ」を動的に捉える▽「震災遺構」めぐる動き▽船―漁業に翻弄された生活と生産▽公的機関を遺す難しさ▽「おらほの遺構」―回復する自然地物▽震災遺構論の新たな地平を拓く-の6章構成。大槌町赤浜や、大船渡市越喜来、宮城県気仙沼市鹿折地区などを取り上げ、遺構を通して「その土地で生きる意味」を見いだそうとする人々の姿を浮き彫りにする。
 
本「生き続ける震災遺構」を出版した坂口さん

本「生き続ける震災遺構」を出版した坂口さん

 
 イベントは、坂口さんの取材活動などに協力する大槌町・安渡町内会長の佐々木慶一さん(63)との対談形式で行い、ライターとして活動する釜石在住の手塚さや香さん(46)が進行。書籍の表紙に掲載された写真などを提供した釜石在住の写真家小澤はなさん(72)=活動名・hana=も加わり、著書で多く取り上げる大槌町の住民とのエピソードなどを話題にした。
 
写真などを紹介しながらトークを繰り広げた

写真などを紹介しながらトークを繰り広げた

 
 震災の津波で被災した建物などの「遺構」をめぐり、被災地では保存か解体かで葛藤。大槌町でも、民宿の上に乗り上げた釜石の観光船「はまゆり」や、当時の町長を含む職員ら多数が犠牲になった旧役場庁舎をめぐって町が二分された。アナウンサー時代にさまざまな思いに触れたことをきっかけに坂口さんは「震災復興とは…。防災や減災には限りがある。災害にどう対処し、悩み苦しみながらも新たに生き直すのが復興ではないか」と自問自答。「災害復興学を確立したい」と一念発起し、研究者として道を進む。
 
 「たとえ隣り合った地域でも考え方は違う。歴史的な背景、なりわい、生活、地域を運営するリーダーによっても捉え方は変わる」と坂口さん。大槌町では防潮堤の高さをめぐっても住民たちの思いは揺れた。佐々木さんが暮らす安渡地区は水産業の拠点が集積し、防潮堤は高さ14.5メートルで整備。震災前は6.4メートルだったことから倍以上の高さとなった。一方で隣り合う赤浜地区は、震災前と同じという選択をした。著書でも記した地域性をあらためて佐々木さんとひもといた。
 
記憶をつなぎ合わせながら話す坂口さん(左)と佐々木慶一さん

記憶をつなぎ合わせながら話す坂口さん(左)と佐々木慶一さん

 
 坂口さんの視点について、「今までにない切り口で遺構を反映させている」と表した佐々木さん。見る人や角度、考える時間によっても変化しうるため結論を出すのが難しかった問題を「過去を含めその土地に生きる人、その生き方や経験、気持ちのあり方という目で見ているのが新鮮」だったという。
 
 「船がかわいそう」「恥の場」…そう住民が捉えた船や庁舎は残らなかったが、安渡地区には旧防潮堤が一部残った。「震災の出来事を伝える遺構なのかもしれない」と佐々木さん。「ダイレクトに教訓を与えるものだけでなく、震災を考えるきっかけ、忘れない1つのツールになりうるのが遺構だ」と、新たな「価値」を見いだしていた。
 
 坂口さんはそうした被災地の声を丁寧にじっくりと聞きながら、本という形にまとめた。「この14年、いろいろな思いを紡がせてもらった。100人以上の方に人生を語ってもらい、生活者の視点にこだわって書いた。あの時を振り返り、新たな人生や思いが生まれる今だからこそ、誰かの背中を押すことができる一冊になればいいな」と望んだ。
 
本にサインを書いたりして聴講者と交流した坂口さん

本にサインを書いたりして聴講者と交流した坂口さん

 
 耳を傾けた大渡町の竹中伸明さん(37)は「地域や暮らす人の背景を知ったうえで、色濃く伝えられている」と感想。自信も「伝える」活動を始めていて、「たくさんの人の話を聞いて、いろんなことに込められた思いを発信していきたい」と刺激を受けていた。
 
hanaさん(左・手前)の写真作品を囲む坂口さん(右)、手塚さや香さん

hanaさん(左・手前)の写真作品を囲む坂口さん(右)、手塚さや香さん

 
桑畑書店にはhanaさんが撮影した震災関連の写真が展示されている

桑畑書店にはhanaさんが撮影した震災関連の写真が展示されている

 
 イベントに関連し桑畑書店では、hanaさんの震災写真展を6月いっぱい開催中。被災直後の大槌、釜石のまちを写した記録が15点ほど並ぶ。

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釜石市消防団消防演習 各種点検、放水訓練で機材操作再確認 防火、防災へ士気高める

震災後初の点検などで消防団活動への意欲を高める団員ら=8日、消防演習

震災後初の点検などで消防団活動への意欲を高める団員ら=8日、消防演習

 
 釜石市消防団(菊池録郎団長、団員513人)は8日、鈴子町の釜石消防庁舎駐車場など2会場で2025年度の消防演習を行った。東日本大震災以降、実施を見送っていた機械器具点検などの訓練が再開され、団員らは消防車両の基本操作や隊としての行動を再確認した。本年度は新たに男女10人が入団。先輩団員から各種技術や団精神を受け継ぎ、市民の生命、財産を守る活動にまい進していく。
 
 団員、消防署員、来賓ら474人、車両39台が参加。統監の小野共市長は、全国的に自然災害や火災が頻発している近年の情勢に触れ、地域防災体制強化の重要性を指摘。「消防団員は地域に根差した防災の要。より一層の火災予防啓発活動や日ごろの訓練に精励されるよう願う」と訓示した。
 
統監の小野共市長(写真右上)が訓示。日ごろの活動への感謝と激励の言葉を送った

統監の小野共市長(写真右上)が訓示。日ごろの活動への感謝と激励の言葉を送った

 
 災害現場や火災予防で任務遂行に尽力し、優秀な活動が他の模範となる団員や部をたたえる「釜石市長表彰」では、第3分団第1部の香川果代子班長ら団員15人を功績表彰。第1分団第1部など4つの部に「竿頭綬(かんとうじゅ)」を授与した。在職3年以上で職務精励、消防技能に優れた団員に贈られる「釜石市消防団長表彰」では、第6分団第3部の岡道雄斗団員ら7人を精勤表彰としてたたえた。
 
釜石市長表彰、釜石市消防団長表彰を受ける団員と部

釜石市長表彰、釜石市消防団長表彰を受ける団員と部

 
 本年度の新入団員10人を代表し、第3分団第1部の鈴木佑太郎さん(22)が菊池団長から辞令を受け、「良心に従って誠実に消防の義務を遂行する」と声高らかに宣誓。「地域のために役に立ちたい」と入団を決意した鈴木さんは「先輩たちの動きを見て一つ一つ丁寧に学び、消火活動などを行っていけたら」と気を引き締めた。
 
新入団員を代表し、宣誓する鈴木佑太郎さん(中央)

新入団員を代表し、宣誓する鈴木佑太郎さん(中央)

 
 統監、団長らによる観閲後、第1小隊(第7、8分団)が通常点検、第2小隊(第1~4分団)が機械器具点検に臨んだ。指揮者の号令のもと、隊列の移動、消防車両の点検など職務遂行に必要な行動を実践。消防本部の駒林博之消防長らが点検官として、隊の規律や動きを確認した。
 
 千鳥町の甲子川河川敷では放水訓練が行われた。各部のポンプ車が一列に並び、川の水を水利に一斉放水。団員らは訓練で身に付けた技能を発揮し、火災発生時の迅速な消火活動へ意識を高めた。会場周辺では一般市民も訓練の様子を見守り、地域を守る消防団へ理解を深めた
 
機械器具点検で基本行動を実践する団員ら

機械器具点検で基本行動を実践する団員ら

 
消防ポンプ車を使った放水訓練。各車両から水柱が上がる

消防ポンプ車を使った放水訓練。各車両から水柱が上がる

 
県の防災ヘリコプターによる救助救出訓練。消防団員らが見守る

県の防災ヘリコプターによる救助救出訓練。消防団員らが見守る

 
 この日は、県の防災ヘリコプターによる救助救出訓練も行われた。大雨や津波による浸水で建物屋上に要救助者がいるとの想定で、消防庁舎訓練棟上空から航空隊員がロープで降下し、要救助者をヘリに引き上げた。周辺では消防団員らが見守り、実際の災害現場をシミュレーションした。
 
 菊池団長(73)は「久しぶりの点検訓練に緊張する様子も見られたが、一生懸命取り組む姿勢を感じた」と評価。人口減、少子高齢化で団員数は右肩下がりだが、本年度は新たに10人が入団するという明るい話題も…。来年は遠野、釜石、大槌3地区の消防操法競技会が釜石市で開催される。「震災やコロナ禍でしばらく遠ざかっていた操法訓練にも精進し、若手への技能継承、組織の充実強化に団員一丸となって励んでいく」と菊池団長。
 
気を引き締めて演習に臨む菊池録郎団長(前列中央)以下、各分団員

気を引き締めて演習に臨む菊池録郎団長(前列中央)以下、各分団員

 
 釜石市では、4月に唐丹町で発生した建物火災で住人1人が亡くなった。今年1月からの火災発生はこの1件のみ。団では火災予防の警戒活動も行いながら、市民の安心安全のため、力を尽くしていきたいとしている。同市の昨年1年間の火災発生件数は7件だった。

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スマホ・ゲーム利用の約束、親子で考えよう 釜石・白山小で情報モラル教室

インターネット利用について学ぶ白山小の児童と保護者

インターネット利用について学ぶ白山小の児童と保護者

 
 釜石市嬉石町の白山小(鈴木慎校長、児童33人)で7日、インターネットを正しく安全に使うための情報モラル教室が開かれた。スマートフォンやオンラインゲームなどインターネットを介した情報のやりとりが増える中、利用の仕方を親子で考える機会にしてもらおうと、授業参観日に合わせて実施。全校児童と保護者ら約60人が参加した。
 
 教室は、釜石市とソフトバンク(東京)が2020年に締結した地方創生に関する連携協定の一環で、釜石公民館事業として行われた。これまで、市内の3つの小学校で実施してきたが、白山小では初開催。他校では高学年児童が対象だが、同校ではスマホ所有の有無や学年、年齢にかかわらず「みんな何かしら触れている」うえ、国が推進する「GIGAスクール構想」で、児童1人に学習用のタブレット端末が1台ずつ配られていることもあり、使い始めの1年生にも学んでもらおうと全校児童を対象にした。
 
 講師は、同社の北海道・東北地域CSR部の鈴木利昭参与(64)。「小学生では高学年になると半数がスマホを持っている。最近は6~7割と増加傾向」と全国的な動向を紹介したうえで、参加者にスマホやゲーム機の所有、利用の時間帯を聞いた。白山小ではスマホ所有は半数ほどだが、ゲーム機はほぼ全員が持っていると意思表示。深夜2時くらいまで使っている子もいた。
 
SNSのリスクなどを解説した鈴木利昭参事(右上の写真)

SNSのリスクなどを解説した鈴木利昭参事(右上の写真)

 
クイズや質問に意思表示しながらネット利用を学ぶ児童ら

クイズや質問に意思表示しながらネット利用を学ぶ児童ら

 
 ネットの世界で起こることすべてが自分のせきにん―。「交通ルールがあるようにネットにもルールがあり、守るから安全。ただ、ネットの言葉は難しいものが多いから、無理せず分かること、できることから始めて」と鈴木参与。「簡単で便利、そして無料。使う人が多いから、トラブルも多い」と話した上で、交流サイト(SNS)を取り上げて使い方や注意点を解説した。
 
 事例に挙げたのは「LINE(ライン)」でのやりとり。会話でよくないところを考えてもらい、▽急がず、きちんと伝える(文字だけで伝えようとすると誤解が生じることも。絵文字を使ったり工夫する)▽守ろう、時間!(長時間は迷惑になることも。相手がいることを忘れない)▽やめよう!人を傷つける発信(ネットに書き込んだ言葉は良いことも悪いことも一生消えないと思って。発信する前に読み返す。見る、受け取る相手の気持ちを考える)―との守ってほしいルールを伝えた。
 
児童も保護者も講師の話にしっかりと耳を傾ける

児童も保護者も講師の話にしっかりと耳を傾ける

 
 また、ネットにひそむ危険性も説明。手軽に世界とつながり便利な反面、顔が見えないことで怖い面もあるとし、他人が見ることを考えて写真の位置情報や、個人を特定できるような写真は投稿しないよう強調した。災害発生など非常時にデマが流れたり、うそや思い込みの話題も多いとし、見極めの大切さや大人への相談の必要性を指摘。より正しく楽しく使うため、「1日に○時間だけにするなど家族でルールを決めてほしい」と呼び掛けた。
 
 終わりに、親子で「スマホデビュー検定」に挑戦。オンラインゲーム中にしてはいけない行動や、「スマホ依存(スマホの使用がやめられなくなってしまう状態)」にならないよう気を付けることなど、使い方を振り返ったり、話し合いながら知識を深めた。
 
「スマホデビュー検定」に挑戦する親子

「スマホデビュー検定」に挑戦する親子

 
正しい?間違っている?問いに向ける視線は真剣

正しい?間違っている?問いに向ける視線は真剣

 
 小山琉世さん(6年)は「知らない人とつながってしまうのが怖いから、オンラインゲームはやっていない。スマホを持つようになったら気を付けて使いたい」と話し、妹の結凪さん(4年)もうなずいた。父親の純平さん(36)は「うちは厳しい方」と言うが、「中学生になったらスマホを」と思案中。「子どもたちを信頼しているけど」と母親の美紀子さん(36)と顔を合わせ、「親が口うるさく言うことを分かってもらえただろう」と、教室の開催を歓迎した。「ネットは自己責任」とは言え、子どものことはやはり親に責任があるとの考えで、「親も一緒に学んで理解して使えば、子どもも正しく安全に使ってくれるだろう」と話した。
 
 鈴木校長は「危険にあってから知るのでは遅い。今の利用の仕方を見直す機会に。ルールづくりに親子で取り組んでほしい」と求めた。
 
楽しそうに話し合いながら情報モラルについて学んだ

楽しそうに話し合いながら情報モラルについて学んだ

 
「水、くださーい」。力を合わせたプール掃除も楽しそう

「水、くださーい」。力を合わせたプール掃除も楽しそう

 
 親子で学習した後は、プール清掃でも協力。大変なことも「一緒に楽しく」取り組んで、子どもたちの成長を見守り、支えていく。

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「集落孤立、停電も」災害時を想定し訓練 釜石港で海保と電力会社、資機材の海上輸送

巡視船の搭載艇に乗って災害時の動きを確認する参加者

巡視船の搭載艇に乗って災害時の動きを確認する参加者

 
 釜石海上保安部(尾野村研吾部長)と送配電事業を担う東北電力ネットワーク釜石電力センター(似内勝之所長)は3日、災害復旧に携わる人員と必要な資機材を海上輸送する共同訓練を行った。地震で陸路が寸断されたうえ、孤立した集落で停電が起きたと想定。釜石港に係留する海保の巡視船「きたかみ」(650トン)の搭載艇を使い、荷物を積み込んだり、降ろしたりして対応を確認した。
 
 釜石海保が所属する第2管区海上保安本部(宮城県塩釜市)と、東北電力、東北電力ネットワークは2022年3月に「災害時における相互協力に関する協定」を結んでいる。訓練は協定に基づいたもので、有事の際の対応力向上や連携強化が目的。釜石での実施は昨年に続き2回目だが、実際に搭載艇を走らせての訓練は初めて。
 
釜石海上保安部と釜石電力センターによる共同訓練の参加者

釜石海上保安部と釜石電力センターによる共同訓練の参加者

 
 訓練には約40人が参加。「近年は自然災害の激甚化、頻発化が目に見えるような形で進んでおり、有事への備えがますます重要になってきた。実際の対応に即した手順、要領で連携方法を確認し、問題点あれば修正、改善を図りながら、協定の実効性を高めてほしい」などと、尾野村部長、似内所長が激励した。
 
 岩手県沿岸を震源とする地震が発生し、釜石市内では震度6弱の揺れを観測。津波の恐れはないものの、唐丹町花露辺地区と平田尾崎白浜地区を結ぶ県道249号が土砂崩れや道路の陥没などで不通となり、孤立した尾崎白浜地区で停電が起きたとの想定。電力センターでは復旧作業に向かうも、陸上からは困難な状況で、協定に基づき海路による搬送の協力を要請し、釜石海保が引き受け、作業員と資機材を巡視船で被災地まで運ぶという流れで訓練をした。
 
復旧作業に必要な資機材を巡視船に積み込む参加者

復旧作業に必要な資機材を巡視船に積み込む参加者

 
安全帯などが入ったリュックの重さは1つ約20キロ

安全帯などが入ったリュックの重さは1つ約20キロ

 
 電力センター配電課の4人は、巡視船の乗組員らと連携し、復旧作業に必要な電線や工具、高所作業時の安全帯など計約120キロの資機材を船に積み込んだ。その後、搭載艇(定員10人)に資機材を移し替え、乗り込んだ搭載艇で釜石湾内を走行して波による揺れなどを確認。岸壁に着くと荷物を積み降ろし、海から活動の現場に向かう手順を確かめた。
 
巡視船の搭載艇に資機材を移し替える参加者

巡視船の搭載艇に資機材を移し替える参加者

 
電力センターの作業員を乗せた搭載艇を降下

電力センターの作業員を乗せた搭載艇を降下

 
岸壁に着いて資機材を積み降ろす作業員ら

岸壁に着いて資機材を積み降ろす作業員ら

 
 搭載艇での移動を体験した電力センター配電主査の加賀谷聡さん(51)は「波は穏やかだったが、走行中に水しぶきが上がることがあった。波をかぶらないよう資機材を箱に入れたのは良かった」としながら、1箱20キロの資機材について「予想外に岸壁が高く、積み降ろすのが大変だった。小分けにしたり軽くして持ち上げやすくする必要がある」と改善点を見つけた。万一の時に海路を使って早く現場に行ける体制、情報を知る面でも有意義な訓練だったといい、「(災害は)なければ一番いいが、経験を社内で共有して動けるようにしたい」と見据えた。
 
手渡し、網の使用…重さのある資機材の陸揚げは工夫が必要

手渡し、網の使用…重さのある資機材の陸揚げは工夫が必要

 
訓練を終えて手応えや問題点を伝え合う参加者

訓練を終えて手応えや問題点を伝え合う参加者

 
 搭載艇を操舵(そうだ)した釜石海保航海士補の千葉彩湖(さこ)さん(21)は「普段より船の揺れが少なくなるよう気を付けた。こうした想定の訓練は初めてだったが、全体の流れが想像できたので、精度を上げ、実働時には安全に人員、資機材を届けられるようにしたい」と気を引き締めた。
 
 訓練の責任者として見守った釜石海保警備救難課の池田隆課長(51)は「搭載艇からの荷物の陸揚げ、受け入れる漁港などへの連絡方法など検討が必要だと感じたが、全体的には協力し合いながらスムーズにいった訓練」と評価。災害発生時にはいち早く救援、救助に向かうことから、こうした訓練を継続したい考えで、「場所や想定を変えながらレベルアップしていきたい」と話した。

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釜石市内でも目撃多数 クマに注意 被害に遭わないための対策を! 環境整備も重要

釜石市内で目撃されているツキノワグマ¬(資料写真:三浦勉さん撮影、以下同)

釜石市内で目撃されているツキノワグマ(資料写真:三浦勉さん撮影、以下同)

 
 釜石市内では連日、ツキノワグマの目撃情報が相次いでいる。市に寄せられた4月、5月の目撃件数は前年同期を上回り、住宅地近くに長時間とどまる事例も。市内の目撃のピークは例年6月で、引き続き注意が必要だ。人身、物的被害に遭わないよう、自宅周辺の環境整備、入山時の装備など意識的な対策が求められる。
 
 市水産農林課によると、今年に入り同市に寄せられたクマの目撃件数は3月2件(前年同月0件)、4月29件(同6件)。5月は28日現在53件で、前年同月1カ月間の26件をすでに上回っている。4月24日には小佐野町の民家敷地から小佐野保育園園庭に侵入する1頭が確認されたほか、26日には中妻町の商業施設裏に迷い込んだ1頭が麻酔で捕獲される事例があった。5月21日には小佐野橋付近で木に登る1頭が確認され、わなを設置したものの捕獲には至らなかった。今のところ、人身被害はない。
 
 「同じ個体が何回も目撃されているケースもあり、一概に(増えていると)は言えないが、目撃が多くなる時期としては今年は早い印象」と同課。今の時期は山に餌となる木の実などがなく、クマは餌を求めて活発に動き回るが、これまでの情報では民家周辺で何かを食い荒らされた様子はないという。ただ、これからの時期は子グマが親離れし、新たな生活場所を求めて行動範囲を広げるため、人里への出没が増える可能性もある。
 
今年4月21日に橋野町青ノ木で見られたクルミの木に登るクマ

今年4月21日に橋野町青ノ木で見られたクルミの木に登るクマ

 
クマは川沿いの移動が多い傾向に。これからの時期は親離れした子グマの移動が活発になるので要注意 

クマは川沿いの移動が多い傾向に。これからの時期は親離れした子グマの移動が活発になるので要注意

 
 2024年度、同市に寄せられたクマ目撃情報は164件。人身被害はなかったが、空き家被害が1件確認された。昨秋は山のドングリやクルミ、クリなどの堅果類が豊作だったことで、凶作だった23年度に比べると9~11月の目撃情報は少なく、冬眠前に見られるカキの食害もほぼなかったという。
 
 鳥獣被害対策の3原則は①環境整備(寄せ付けない環境づくり)、②防除(農地などを柵や網で囲って侵入防止)、③駆除(個体を捕獲)。第一段階として、やぶや空き家の放置をなくし、家の周りに(クマが隠れられるような)陰となる場所をつくらない、クマの誘引物(生ごみ、ペットフード、果実、米ぬか…など)を侵入される恐れのある場所に置かない―などの対策が重要だ。
 
背丈の高い草木は刈り取り、見通しを確保。農地などには侵入を防ぐ柵・網を設置する対策を

背丈の高い草木は刈り取り、見通しを確保。農地などには侵入を防ぐ柵・網を設置する対策を

 
山に餌がないと人里に下りてくる頻度も高まる。十分な警戒を!

山に餌がないと人里に下りてくる頻度も高まる。十分な警戒を!

 
 この他、キャンプや登山、山菜・キノコ採りなどで山に入る際には①クマ鈴、笛、ラジオなど音の出るもの、クマ撃退スプレーを携帯する、②複数人で行動する、③クマの目撃情報や痕跡(ふん、爪痕)のある場所は避ける―など、被害に遭わないための装備、行動が必要だ。

 市水産農林課の清藤剛課長補佐(兼林業振興係長)は「市全域が民家のすぐ裏手に山があるような地形のため、どこに出没してもおかしくない状況。クマは川沿いに移動する傾向もあり、散歩やジョギングコースにしている人は十分な注意が必要。クマの行動が活発になる朝、夕の時間帯は特にも警戒し、目撃情報があった時は周辺に立ち入らないようにしてほしい」と呼び掛ける。

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自主防結成後初 釜石東中が新年度スタートで防災オリエンテーション 校内の備えを確認

避難所開設時に使う段ボールベッドを組み立て、寝心地を確かめる=釜石東中防災オリエンテーション

避難所開設時に使う段ボールベッドを組み立て、寝心地を確かめる=釜石東中防災オリエンテーション

 
 釜石東中(高橋晃一校長、生徒86人)は4月30日、年度初め恒例の防災オリエンテーションを行った。2011年の東日本大震災で受けた同校の被害、復興の歩みを知り、防災力を高めるための活動。本年1月に県内初の中学生による自主防災組織(自主防)を立ち上げた同校。“結成元年”の取り組みを深化させるべく、生徒らは各種災害への備えを再確認するなどし、発災時の適切な行動を考えた。
 
 全学年を縦割りにした3つの組団ごとに6項目の活動を展開。2、3年生は初めて臨む新1年生(33人)にアドバイスしながら活動した。校内の災害への備えを確認する活動では、ウオークラリー形式で消火器・栓、担架、自動体外式除細動器(AED)が設置してある場所をチェック。校舎図に印を付けて全体の配置も頭に入れた。合わせて避難経路も確認した。
 
校舎内を歩き、消火器などがある場所を確認。いざという時、速やかに使えるように…

校舎内を歩き、消火器などがある場所を確認。いざという時、速やかに使えるように…

 
AEDや担架は普段の傷病者発生時にも必要。しっかり場所をチェック

AEDや担架は普段の傷病者発生時にも必要。しっかり場所をチェック

 
 2階の防災備蓄倉庫では在庫の種類と数を確認し、リストに書き込んだ。同校が鵜住居小と共用する校庭と体育館はそれぞれ、地震津波、火災、洪水・土砂災害時の緊急避難場所、拠点避難所に指定されている(市指定)。発災が生徒たちの在校時間帯の場合、自らの命を守り、安全が確認された後には、自主防として避難所開設にあたることを目指している。生徒らはこの日、毛布や飲料水、炊き出し釜、暖房器具など必要な備品が倉庫内のどこにどれだけあるかを把握。災害用の簡易トイレや段ボールベッドの組み立てを体験し、避難者名簿の作成の仕方も教わった。
 
「防災備蓄倉庫には何がある?」備蓄品の種類や数を確認

「防災備蓄倉庫には何がある?」備蓄品の種類や数を確認

 
災害時に避難所となる体育館で段ボールベッドの組み立てを体験

災害時に避難所となる体育館で段ボールベッドの組み立てを体験

 
簡易トイレの設置の仕方を学ぶ。座り心地も試した

簡易トイレの設置の仕方を学ぶ。座り心地も試した

 
 震災前から行われてきた同校の防災の取り組み、被災から復興までの歩みを知る活動も。2009年に当時の1年生が制作した津波防災の啓発DVD「てんでんこレンジャー」の視聴では、自分の命を守るために必要な、▽大きな地震がきたら高い所を目指してひたすら逃げる▽いつでも避難できるよう枕元に衣服や持ち物を置いておく▽避難場所や待ち合わせ場所を普段から家族で話し合っておく―ことを学んだ。
 
釜石東中オリジナル防災キャラクター「てんでんこレンジャー」が教える、津波から命を守る方法を心に刻む

釜石東中オリジナル防災キャラクター「てんでんこレンジャー」が教える、津波から命を守る方法を心に刻む

 
 同校には14年前の震災被害や世界中から受けた多くの支援を一堂に見ることができるメモリアルルームが開設されている。津波で全壊した校舎を含む鵜住居地域の甚大な被害、数えきれない支援に力をもらい地域とともに歩んだ復興への道のり…。生徒らは先輩方が経験してきたことを写真や支援品などから感じ取り、学校や地域のためにこれからできることを考えた。
 
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東日本大震災の被害や復興への歩みを知ることができるメモリアルルーム

 
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さまざまな展示品を見ながら気付いたことを書き留める生徒ら

 
 1年の川崎煌聖さんは「段ボールベッドの組み立てなど、避難してきた人たちへの対応の仕方が少し分かった。寝ている時とか、いつ災害があっても逃げられるよう準備していきたい」と知識を深めた様子。震災は生まれる前の出来事だが、親から話を聞き、幼稚園、小学校と避難訓練を重ねてきていて、「いざという時の行動は身に付いている」。中学生になったことで、「自分の命は自分で守ることはもちろん、周りに人がいる時は呼び掛けをしながら逃げたい」とステップアップを望んだ。
 
 同校の自主防は全校生徒と教職員で組織する。本年度は教職員19人を含め105人体制。会長を務める千葉心菜さん(3年、生徒会長)は結成後初の本格的な活動を終え、「みんな真剣に協力し合って取り組めていた」と一安心。組織の立ち上げに携わり、本年度が実質1年目となるが、「災害時に誰もが自分の立場を理解し、的確な判断と行動ができるよう学年を超えて学んでいけたら。全校参加の地域を巻き込んだ訓練もやりたい。活動を浸透させるために回数も増やせれば」と願う。
 
 同校が掲げる生徒像の一つが「助けられる人から助ける人へ―」。防災、命の学習に加え、各種地域貢献活動で「人を助ける」「誰かのために動く」ことができる人間を目指す。意欲的に取り組めるよう設けられているのが「EAST(イースト)レスキュー隊員」制度。各学習、地域活動への参加でポイントを集めると5~1級まで取得可能。普段から地域とのつながりを深めることで、災害時のスムーズな連携を図る狙いもある。オリエンテーションではその隊員証も配られた。
 
 復興・防災教育担当の佐々木伊織教諭(28)は「防災に関してはやれることをやりたいという生徒も多い。自身で必要なことを判断し、地域のために動けるようになってほしい。いかに楽しく学んで力をつけていくかが大事。新しいことにもどんどんチャレンジを」と期待を寄せる。

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気を付けて!山火事防止へ呼びかけ 釜石市婦人消防連絡協、道の駅などで広報活動

山火事防止の広報活動を行う婦人消防連絡協のメンバーら=4月30日

山火事防止の広報活動を行う婦人消防連絡協のメンバーら=4月30日

 
 釜石市婦人消防連絡協議会(久保久美子会長、3団体・87人)は4月30日~5月2日の3日間、市内で山火事防止広報活動を展開した。釜石消防署とタッグを組み、防災広報車両で地域を巡回。道の駅や産直施設周辺でチラシなどを配り、住民の防火意識啓発を図った。岩手県山火事防止運動月間(3月1日~5月31日)に合わせた活動。近隣の大船渡市で発生した大規模な林野火災の記憶が残る中、全国各地で山火事が相次いでいることを受け、「私たちも気を付けるし、皆さんも気を付けて」と思いを込める。
 
 「入林中、たばこの投げ捨てはやめましょう。防火に協力をお願いします」。初日の30日は、久保会長(71)が所属する両石婦人消防クラブが活動。久保洋子さん(70)とともに、釜石署予防係の佐藤直樹係長が運転する車両に乗り込み、山火事への注意を呼びかける音声を流しながら両石町から市内中心市街地、西部地区を走って回った。
 
防災広報車で地域を巡回しながら防火を呼びかけた

防災広報車で地域を巡回しながら防火を呼びかけた

 
 甲子町の道の駅「釜石仙人峠」では、山火事防止3原則(▽強風、乾燥時は野外で火を使わない▽森林の近くで野焼き、たき火をしない▽たばこの吸い殻は投げ捨てない)などを記したチラシを配った。「春先は非常に空気が乾燥し、風の吹く日が多く、火災が発生しやすい時期です。山でのたばこの投げ捨ては絶対にやめましょう。火の取り扱い、後始末には十分ご注意を。火の用心をお願いします」。ハンドマイクを手にした久保会長が、買い物客や施設利用者に呼びかけた。
 
道の駅「釜石仙人峠」で広報物を配って防火の意識高揚を図った

道の駅「釜石仙人峠」で広報物を配って防火の意識高揚を図った

 
地域外から訪れた人たちにも積極的に声がけをして広く周知した

地域外から訪れた人たちにも積極的に声がけをして広く周知した

 
「火の取り扱いには十分注意を」とマイクを手に呼びかけた

「火の取り扱いには十分注意を」とマイクを手に呼びかけた

 
 婦人消防連絡協は「地域の防火は家庭から」を合言葉に、火災予防思想の向上、初期消火と避難誘導、避難者支援など地域に根差した活動に取り組む。1984年の結成時は5団体あったが、これまでに2団体が解散。現在はメンバーが高齢になったり、活動できる人数は限定されるというが、釜石署と連携して春季・秋季火災予防運動、山火事防止運動期間中に広報活動を続けている。
 
 漁業をなりわいとする地区で組織された団体で、メンバーの多くは漁協女性部に加入していた。「男性が漁に出ている時、地域に残るのは私たち。何かあったら、いち早く対応しなければいけないから」と久保会長。10年以上前に両石地区で山林火災があった際には、炊き出しを行ったという。「火事は本当に怖い。火を起こしたら大変。隣近所に迷惑をかけることにもなるから、気を付けているし、気を付けてもらわないと」と切に願う。
 
「火災が起きないように」と願いながら活動した久保久美子会長(左)、久保洋子さん

「火災が起きないように」と願いながら活動した久保久美子会長(左)、久保洋子さん

 
 今年に入り、全国で山火事が頻発している。大船渡市で2月26日に発生した山林火災では、焼失面積が平成以降で国内最大の約2900ヘクタールに及んだ。愛媛県今治市と岡山市でも3月23日、山林火災が起きた。久保会長は「大船渡の火事は、あまりにも長かった。消防隊員も団員も大変だったろうし、心配した。山に入る時は気を付けてほしい」と、同じ言葉を何度も繰り返した。
 
 5月1日は尾崎白浜婦人消防協力隊(平田)が道の駅、2日は外山地区婦人消防クラブ(鵜住居町)が橋野どんぐり広場産地直売所(橋野町)で同様の活動を行った。
 
 釜石署によると、市内で林野火災は2019年に1件あったが、以降は発生していない。ただ、大船渡市の林野火災を受け、県内全域に「山火事警戒宣言」が発令中。佐藤係長は「山火事は、たばこ、たき火の不始末など人の不注意によるものが多い。『自分は大丈夫』とは思わず、風の状況など敏感になってほしい。たき火、野焼き、火入れをする時は消防署に届けてほしい。屋外での火の取り扱いは細心の注意を」と念を押す。

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災害再現VR 釜石で体験会 “その瞬間”どう動く?自らの判断力と対応力を試す

VRを使って地震や津波などの災害を疑似体験する中学生

VRを使って地震や津波などの災害を疑似体験する中学生

 
 災害時、必要な行動をとることができるか―。地震や津波を疑似体験しながら身を守る行動や防災スキルのレベルを確認できるVR(仮想現実)コンテンツの先行体験会が14日、釜石市鵜住居町の「いのちをつなぐ未来館」で開かれた。防災担当の自治体職員や教員、中学生ら約30人が参加。大きな揺れで物が落下したり、津波とともに車が押し寄せてきたりする架空の映像などから災害の怖さ、備えの重要性を認識し、防災意識を高めた。
 
いのちをつなぐ未来館で行われた災害VRの先行体験会

いのちをつなぐ未来館で行われた災害VRの先行体験会

 
 VR映像は、防災設備メーカーの能美防災(東京、岡村武士社長)が開発を進める「地震・津波臨場体験VR~命をつなぐ選択」。▽震度6強の前震▽震度7の本震▽火災▽大津波▽避難場所―という5つの場面が登場し、身を守るために必要になる行動の実践可否を問われながらストーリーが展開する。同社は岩手県を継続的に訪問していて、東日本大震災被災地の経験や教訓を織り交ぜている点が特徴の一つ。体験後には防災スキルのレベルが判定される仕掛けもある。
 
 街が地震や津波に襲われたら、そこにいる“ひとり”として、どう行動するか。選択できるか―。
 
 体験会で、参加者はダイジェスト版を視聴。大きな揺れによる落下物でけがをしたり意識がない人を手助け「できるか」、自宅や職場からの避難場所を「把握しているか」、避難を渋る人がいたとしても「率先して行動を起こせるか」、避難した先での食料や飲み水を「確保しているか」など、場面に応じて必要な動きを選択していった。
 
開発が進む「地震・津波臨場体験VR」の一場面

開発が進む「地震・津波臨場体験VR」の一場面

 
仮想空間に入り込む生徒。楽しみながら防災を学ぶ

仮想空間に入り込む生徒。楽しみながら防災を学ぶ

 
VRでは場面ごとに命を守る行動を選び、防災スキルも確認

VRでは場面ごとに命を守る行動を選び、防災スキルも確認

 
 グラフィックなど目から入る情報だけでなく、周囲の声や警報音など災害発生時の状況がVR上でリアルに再現され、参加者たちは体験空間に入り込んだ様子だった。「地震で物が落ちてくる。やばいよ」「あ、津波。なんかいっぱい流れてきた」などと思わず声を発したり、椅子に座って体験していたが勢いよく立ち上がったり。行動の選択を迫られることで、自分の防災知識や向き合い方を振り返る機会にした。
 
 釜石東中の生徒らも体験。2年生は震災当時1歳、1年生は生まれていない。記憶がない、知らない世代の生徒たちはゲーム感覚で楽しんだ。舘鼻大滋さん(2年)は「VRに入り込み、リアルな感じ。防災を学んでいるけど、書いて理解するよりイメージがわいた。実際に動けるか、考えられた」と話した。一方で、「映像がリアルで、気軽にやると小学生とかは怖い体験になるかも」と想像。「災害が起きて混乱しても早めに逃げて、自分もみんなの命も守れるよう声をかけたい」と表情を引き締めた。
 
生徒が視聴する映像が映し出されたモニターに見入る教員(左)

生徒が視聴する映像が映し出されたモニターに見入る教員(左)

 
 同校教諭の佐々木伊織さん(28)は釜石出身で、震災当時は中学2年生。今回、VRを体験した生徒たちと同じ年頃に津波を目の当たりにした。警報音、渦を巻く波…脳裏にこびりつく、忘れられない記憶。生徒らの様子をそばで見つめながら「(津波襲来の映像は)見せたくないという思いはあるが、この地で暮らす子どもたちには必要な学び。行動しないと、命がなくなってしまうことがあると感じてもらえたら。楽しく体験することで防災を知り、伝承を担う一人として学びを深めてほしい」と望んだ。
 
 同社は火災防災を主軸とした事業を展開する。VRコンテンツとして、2022年にオフィスでの火災を想定した「火災臨場体験VR」を公開。今回の地震・津波編は第2弾となる。近年は災害が頻発・激甚化しており、さまざまな災害への備えを事業に生かそうと、釜石や陸前高田市など震災被災地での社員研修を継続。視察や、語り部から聞いた当時の状況などもVRのストーリーに盛り込んだ。
 
「地震・津波臨場体験VR」の開発を進める佐々木聡文さん(左)

「地震・津波臨場体験VR」の開発を進める佐々木聡文さん(左)

 
 VRコンテンツを担当する同社特販事業部主査の佐々木聰文(あきふみ)さん(48)は釜石出身。「震災を経験していない子どもも増えており、伝え継ぐツールとして使ってほしい」と思いを込める。VRには「避難するか」「戻る、戻らせない」といった葛藤の場面がいくつもあり、古里で聞いた声を踏まえたという。釜石の経験、教訓を次の防災にと考えていて、「南海トラフ巨大地震などリスクの高い他地域にも展開したい。自身の防災スキルを振り返るツールとして活用を」と願う。
 
 地震・津波臨場体験VRは体験会での反応や意見を踏まえ、精度を高めて今春に公開する予定。自治体の防災イベントや企業の避難訓練などでの活用を見込んでいる。未来館など釜石での展開は未定。