避難訓練への参加を呼びかけるチラシを届けた双葉小児童ら
3月3日は釜石市地震・津波避難訓練の日。みんな参加しよう-。巨大地震による津波想定(国・県公表)で浸水域となった中妻地区に居住する小学生が通う双葉小(及川美香子校長、児童132人)で、6年生29人が中心となって近隣住民に呼びかけている。避難を促す言葉やイラストを描いたポスターを公共施設や地区内の掲示板に張り出してもらったり、避難場所などを知らせる手紙風のチラシを配ったり。この活動に子どもたちが込めるのは「やってみなきゃ、分からない。備えや訓練の大切さを地域の人に伝えたい」という思いだ。
「災害はいつ起こるか分かりません。日頃の訓練が命を救います」。2月26日、そう書かれたチラシを手に同校6年の佐藤士竜君と飯島華恋さんは上中島町の復興住宅で暮らす高橋一見さん(66)のもとを訪ねた。「学校で備えの大切さを学びました。訓練をしていれば、実際に災害が起こった時に焦らないで避難できると思う。ぜひ参加してみてください」。2人は気持ちを伝えて、チラシを手渡した。
訓練に参加してもらおうと復興住宅入居者(左)を訪ねた子どもたち
避難場所や注意点、とってほしい行動をまとめたチラシ
同じ敷地には4棟の復興住宅があって156世帯が暮らし、市の出先機関・中妻地区生活応援センターも入る。津波想定では1メートル超の浸水があるとされ、訓練や災害発生時は1~2階の入居者が3階へ垂直避難することになっている。高橋さんはより上層に住むため、地震の揺れから身を守る行動(シェイクアウト訓練)を確認する考え。子どもたちの呼びかけは住民が津波避難について考え、意識を高める機会になると感じ、ほかの入居者に参加の声かけをするつもりだ。
同センター入り口には手作りポスターも掲示してもらった。6年生がこの取り組みを始めたのは、昨年12月にここで行われた防災交流会がきっかけ。同地区では秋に津波避難訓練を行っているが、3回目となった昨年の参加者は前年より90人も減少。地域住民や市防災危機管理課職員らの間で「参加者をいかに増やすか」が課題になっていることを知った。
訓練参加を促す取り組みを実践した双葉小6年生
総合防災学習の中で「自分たちにできること」を話し合い、テーマを「避難訓練の大切さを伝えよう」に設定。▽ポスター▽チラシ▽横断幕▽津波避難マップ-による周知活動を実践することにした。4班に分かれて取り組み、横断幕や通学路の危険な場所を示したマップは全校児童が意識するよう校内に掲示。避難を呼びかける絵に訓練で行ってほしい行動の説明を加えたポスターは20枚ほど作った。避難時の注意点なども添えたチラシは300枚作成。全児童が持ち帰り、隣近所に配布してもらうことで参加者の裾野を広げる。
通学路の危険な場所や避難場所などを記した手作りマップ
6年生が示した同地区の避難場所は、拠点避難所となる同校体育館やセンターが入る復興住宅を含めて6カ所。昨年の訓練で、同校へ避難した人は10人に満たなかった。市では、職場や家庭、外出先など日常的なさまざまな場所で一斉に避難行動を取るシェイクアウトという訓練スタイルで参加を呼びかけていることもあり、人数の把握は難しい。それでも、子どもたちは6カ所合わせた避難者数を「100人」とする目標を掲げる。
活動を支える同センターの菊池拓朗所長は「地域の課題を敏感に感じ取って率先して動いてくれた。子どもから保護者、祖父母世代にも響くと思う。頼もしい」と目を細める。子どもたちを見守る及川校長は「学校外での交流や大人の考えを知る大切さを実感。子どもたち自身が考え、伝え、行動を広げる機会になった。子どもでもできることがあり、地域の一員として『動かなきゃ』という意識が芽生えたらいい。地域と学校を結びつける大きな力になる」と手応えと期待を感じている。
備えること、避難訓練の大切さを伝える手書きのポスター
「自分の命を自分で守るために みんなで参加しよう」。全市民を対象にした津波避難訓練は3月3日午前8時半から。「大地震が発生し、大津波警報が発表された」との想定。模擬の全国瞬時警報システム(Jアラート)を合図にシェイクアウト、緊急避難場所などへ逃げるなど命を守る行動をとる。市はスマートフォンの位置情報を活用し、参加者の行動を分析する実証実験も計画。歩数計測アプリ「アルコイン」の導入を呼びかける。当日、同校体育館では学校関係者らが避難所運営訓練を予定する。