タグ別アーカイブ: 防災・安全

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能登応援、相次ぐ義援金 釜石の児童生徒、浜の女性たち動く 震災の「恩返し」込め

能登半島地震の義援金を小野市長に託す「かまいし絆会議」の中学生ら

能登半島地震の義援金を小野市長に託す「かまいし絆会議」の中学生ら

 
 能登半島地震の被災地支援に役立ててもらおうと、日本赤十字社(日赤)岩手県支部釜石市地区に多くの義援金が寄せられている。市内14小中学校の児童生徒で組織する「かまいし絆会議」は各校で募金活動を展開し、釜石湾漁業協同組合平田女性部はバザー開催などでそれぞれ善意を集めた。両者の取り組みに込められているのは、東日本大震災で受けた支援への恩返し、一日も早い現地復興の願い。そして、「できることを続けたい」との思いも共通する。同地区長の小野共市長は「震災を経験した釜石の住民として皆さんの行動、心意気が誇らしい。能登のために大切に使ってもらう」と感謝する。
 
 絆会議は小学校9校、中学校5校でつくる。現在、計1700人を超える児童生徒が在籍する、市内で一番大きな団体。募金活動は冬休み明け後の1週間、各校で行った。釜石中は学区内にある商業施設イオンタウン釜石で市民にも協力を呼びかけ。そうした活動で集まったのは56万4690円に上る。
 
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生徒たちは募金活動に込めた思いを市職員らに伝えた

 
 中学校の代表5人(2年)が6日、市役所を訪問。釜石中生徒会長の山陰宗真さんが「ニュースの映像を見て、つらさを感じて心が痛んだ。釜石も全国の支援で復興に向かうことができた。集まった思いが能登の人たちが希望を持って暮らせる糧になれば」と経緯を報告した。活動で使った募金箱を持参し、大平中の生徒会副会長の佐々木栞奈さんが小野市長に詰まった思いを託した。
 
学校や地域が協力して活動に取り組んだことを報告する生徒

学校や地域が協力して活動に取り組んだことを報告する生徒

 
 釜石東中では、学区内の鵜住居小、栗林小と連携して発行する「絆通信」を使い、目的を共有して活動。東中生徒会長の小笠原早紀さんは「復興が少しでも早くなれば」と話した。唐丹中生徒会長の津田紗良さんは震災支援のお返しになるよう、能登の中学生に応援メッセージを送ったり、石川県の特産品を調べたことを紹介。甲子中生徒会長の米澤心優さんは「役に立ちたい気持ちで活動した。募金によって、復興という希望を届けられたら」と気にかけた。
 
バザーの収益などを義援金として届けた釜石湾漁協平田女性部メンバー

バザーの収益などを義援金として届けた釜石湾漁協平田女性部メンバー

 
 平田女性部は12日に届けた。市役所を訪ねたのは、高澤友子部長と中谷地万惠子副部長(ともに71)。2月11日に平田集会所で実施した「浜のかぁちゃんバザー」の益金と、会場内に設置した募金箱に寄せられた義援金を合わせた5万325円の目録を小野市長に手渡した。
 
 バザーは例年、海難遺児のための募金活動として行っていたが、今回は能登支援を目的に協力を呼びかけた。部員(29人)やその知人らが日用品、衣類、食器、エコクラフトのかごなど手作り品、ワカメなど海産物を安価で並べ、いつも以上に多い住民ら50人余りが品定めを楽しみながら「何か手助けに」との思いを寄せた。
 
「能登の皆さんに届けてほしい」と小野市長に思いを託した

「能登の皆さんに届けてほしい」と小野市長に思いを託した

 
女性部の活動を紹介する高澤部長(左)と中谷地副部長

女性部の活動を紹介する高澤部長(左)と中谷地副部長

 
 震災で自宅を失い、避難所生活をした経験がある部員もいて、中谷地副部長は「自分たちも同じ思いをしたから気持ちが分かる」と気づかう。高澤部長は女性や子どもたちのために役立ててほしいと希望。震災後、「浜の活力再生に女性の力を」と魚食普及活動にも取り組んできた。2人は部の活性化に向け、協力的に動ける体制づくりを思案中。「元気な姿を見せていければ」と顔を見合わせた。

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教訓胸に 備え、命守る 釜石で地震・津波避難訓練 位置情報の活用で行動確認も

高台の避難場所に向かって階段を上る鵜住居地区の住民ら

高台の避難場所に向かって階段を上る鵜住居地区の住民ら

 
 「あの日も寒かった」。3月の第1日曜日、釜石市全域で行われた地震・津波避難訓練で参加者がつぶやいた言葉。13年前の東日本大震災で難を逃れた行動を思い起した様子のその人は続けた。「心配でも、戻ったらいけない」と。訓練のあった3日は、昭和三陸地震津波(1933年)から91年となった日でもある。度重なる災害の教訓をつなぎ、備えるべく、約1500人(速報値)が命を守る行動を積み重ねた。市は、デジタル技術を活用した避難行動分析の実証実験も試行。発災時の迅速な安否把握や情報収集に向け有効性を確かめた。
 
 訓練は、午前8時半に東北地方太平洋沖を震源とするマグニチュード(M)9.0の地震が発生して市内で震度6弱の揺れを観測、3分後に大津波警報が出されたとの想定。震災の津波で大きな被害を受けた鵜住居地区では、町内会ごとに市が指定する緊急避難場所などに向かった。
 
三陸鉄道鵜住居駅周辺から高台を目指して長い階段を駆け上がる

三陸鉄道鵜住居駅周辺から高台を目指して長い階段を駆け上がる

 
 三陸鉄道鵜住居駅周辺で暮らす住民ら約100人は高台の鵜住居小・釜石東中の校庭に避難した。そばの復興住宅で生活する70代男性は震災時、避難が遅れ、がれきの上で一夜を過ごした。津波で兄夫婦は帰らぬ人に。兄嫁はいったん高台に避難したものの、夫の姿が見えないと戻ってしまった。遠くを見つめてポツリ、「絶対、戻ってはいけない」。多くの支えで今があると感謝し、「助かった命、楽しく生きなければ」と前を向く。だからこそ、「やっておくことが大事」と訓練は欠かさない。この日は、数日前に降った雪がとけずに凍っていて、途中で滑って転んだという。「こういうこともある」とうなずき、ふと空を見上げた。「そういえば、あの時も寒かった。雪もちらついていたな」
 
震災の津波の高さを示すオレンジのラインより高い場所を目指して避難

震災の津波の高さを示すオレンジのラインより高い場所を目指して避難

 
より高く。緊急避難場所の校庭から拠点避難所の体育館へ移動

より高く。緊急避難場所の校庭から拠点避難所の体育館へ移動

 
 釜石東中(佃拓生校長)はこの日に合わせ部活動を行い、1、2年生の約30人が参加。体育館が拠点避難所になっていることから、鵜住居町内会(古川愛明会長、約120世帯)が実施した避難所開設訓練に協力した。千葉心菜さん(1年)は「想定にとらわれないで逃げる」のは身についているが、避難所運営は初めてで「みんなについていくのがやっと」だった。けど、段ボールベッドの作り方を覚えたのが収穫。「次は、知らない人に教えたり、率先して行動したい」と背筋をピンとした。
 
避難所設営訓練で段ボールベッドを組み立てる参加者

避難所設営訓練で段ボールベッドを組み立てる参加者

 
 近くの新川原地区内には緊急避難場所が2カ所あり、国道45号以西の住民は「本行寺奥三陸道」(三陸沿岸道路)に向かうルートを確認。支援が必要な高齢者をリヤカーに乗せて避難する訓練も行った。震災の津波で自宅が被災した八幡亘さん(47)は「1月に能登半島地震もあり、改めて人ごとではないと実感する。訓練を重ね、震災の教訓を忘れないよう意識していきたい」と気を引き締めた。この日は「かまいしワーク・ステーション広場」への避難者と合わせ、約90人が訓練に参加した。
 
新川原地区の津波緊急避難場所「本行寺奥三陸道」に向かう住民ら

新川原地区の津波緊急避難場所「本行寺奥三陸道」に向かう住民ら

 
リヤカーでの避難訓練も実施(写真上段)。この日は積雪による道路凍結(同左下)で転倒の危険があるため、三陸道上り口までの避難とした。防災備蓄倉庫は今後、三陸道脇に移転させる予定

リヤカーでの避難訓練も実施(写真上段)。この日は積雪による道路凍結(同左下)で転倒の危険があるため、三陸道上り口までの避難とした。防災備蓄倉庫は今後、三陸道脇に移転させる予定

 
 同地区は震災の津波で全世帯の約7割が被災。住民28人が犠牲になった。2022年に県が公表した最大クラスの津波浸水想定では、さらなる浸水域の拡大が予想される。新川原町内会(147世帯)の古川幹敏会長は「高齢者ら避難弱者をどう助けるかが課題。徒歩避難が原則だが、屋外で1~2晩過ごさなければならない場合も考えると、駐車スペースを確保できる場所への車避難も検討の余地があるのではないか。鵜住居全体で課題を共有し、対策を講じる必要がある」と述べた。
 
 市は今回、スマートフォンの位置情報アプリを利用して市民の避難行動を分析する実証実験を初めて行った。半島部など発災直後に人員の配置が難しい地域の安否把握や情報収集手段の構築、浸水域を避けて移動するといった安全な行動の検証などが目的。大津波警報発表時に災害対策本部となる小佐野町の市立図書館にモニターを設置し、参加者の移動状況を確認した。
 
災害対策本部に設置されたモニターには市民の避難行動が映し出された

災害対策本部に設置されたモニターには市民の避難行動が映し出された

 
 ソフトバンク子会社Agoop(アグープ、東京都)と連携し、同社が提供する歩数計測アプリをインストールした約200人の位置情報を画面に表示。県が示した津波浸水想定のシミュレーションを重ね合わせ、動きを見守った。市の佐々木道弘危機管理監はリアルタイムな動きを可視化、分析するツールとして可能性、有効性に手応え。「全市民を守るためいろんな手法を積み重ね、事前防災につなげたい」と強調した。
  
 このほか、緊急避難場所(84カ所)や拠点避難場所(18カ所)に配置した職員から避難者数をオンラインで連絡する情報伝達訓練も実施。要支援者の避難方法を検討するため箱崎町白浜地区で車両を使った避難訓練や、浸水域外の中小川町内会は後方支援としての炊き出し訓練を行った。

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参加しよう!3月3日は…避難訓練 釜石・双葉小児童、呼びかけ「命守る行動で備えて」

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避難訓練への参加を呼びかけるチラシを届けた双葉小児童ら

 
 3月3日は釜石市地震・津波避難訓練の日。みんな参加しよう-。巨大地震による津波想定(国・県公表)で浸水域となった中妻地区に居住する小学生が通う双葉小(及川美香子校長、児童132人)で、6年生29人が中心となって近隣住民に呼びかけている。避難を促す言葉やイラストを描いたポスターを公共施設や地区内の掲示板に張り出してもらったり、避難場所などを知らせる手紙風のチラシを配ったり。この活動に子どもたちが込めるのは「やってみなきゃ、分からない。備えや訓練の大切さを地域の人に伝えたい」という思いだ。
 
 「災害はいつ起こるか分かりません。日頃の訓練が命を救います」。2月26日、そう書かれたチラシを手に同校6年の佐藤士竜君と飯島華恋さんは上中島町の復興住宅で暮らす高橋一見さん(66)のもとを訪ねた。「学校で備えの大切さを学びました。訓練をしていれば、実際に災害が起こった時に焦らないで避難できると思う。ぜひ参加してみてください」。2人は気持ちを伝えて、チラシを手渡した。
 
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訓練に参加してもらおうと復興住宅入居者(左)を訪ねた子どもたち

 
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避難場所や注意点、とってほしい行動をまとめたチラシ

 
 同じ敷地には4棟の復興住宅があって156世帯が暮らし、市の出先機関・中妻地区生活応援センターも入る。津波想定では1メートル超の浸水があるとされ、訓練や災害発生時は1~2階の入居者が3階へ垂直避難することになっている。高橋さんはより上層に住むため、地震の揺れから身を守る行動(シェイクアウト訓練)を確認する考え。子どもたちの呼びかけは住民が津波避難について考え、意識を高める機会になると感じ、ほかの入居者に参加の声かけをするつもりだ。
 
 同センター入り口には手作りポスターも掲示してもらった。6年生がこの取り組みを始めたのは、昨年12月にここで行われた防災交流会がきっかけ。同地区では秋に津波避難訓練を行っているが、3回目となった昨年の参加者は前年より90人も減少。地域住民や市防災危機管理課職員らの間で「参加者をいかに増やすか」が課題になっていることを知った。
 
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訓練参加を促す取り組みを実践した双葉小6年生

 
 総合防災学習の中で「自分たちにできること」を話し合い、テーマを「避難訓練の大切さを伝えよう」に設定。▽ポスター▽チラシ▽横断幕▽津波避難マップ-による周知活動を実践することにした。4班に分かれて取り組み、横断幕や通学路の危険な場所を示したマップは全校児童が意識するよう校内に掲示。避難を呼びかける絵に訓練で行ってほしい行動の説明を加えたポスターは20枚ほど作った。避難時の注意点なども添えたチラシは300枚作成。全児童が持ち帰り、隣近所に配布してもらうことで参加者の裾野を広げる。
 
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通学路の危険な場所や避難場所などを記した手作りマップ

 
 6年生が示した同地区の避難場所は、拠点避難所となる同校体育館やセンターが入る復興住宅を含めて6カ所。昨年の訓練で、同校へ避難した人は10人に満たなかった。市では、職場や家庭、外出先など日常的なさまざまな場所で一斉に避難行動を取るシェイクアウトという訓練スタイルで参加を呼びかけていることもあり、人数の把握は難しい。それでも、子どもたちは6カ所合わせた避難者数を「100人」とする目標を掲げる。
 
 活動を支える同センターの菊池拓朗所長は「地域の課題を敏感に感じ取って率先して動いてくれた。子どもから保護者、祖父母世代にも響くと思う。頼もしい」と目を細める。子どもたちを見守る及川校長は「学校外での交流や大人の考えを知る大切さを実感。子どもたち自身が考え、伝え、行動を広げる機会になった。子どもでもできることがあり、地域の一員として『動かなきゃ』という意識が芽生えたらいい。地域と学校を結びつける大きな力になる」と手応えと期待を感じている。
 
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備えること、避難訓練の大切さを伝える手書きのポスター

 
 「自分の命を自分で守るために みんなで参加しよう」。全市民を対象にした津波避難訓練は3月3日午前8時半から。「大地震が発生し、大津波警報が発表された」との想定。模擬の全国瞬時警報システム(Jアラート)を合図にシェイクアウト、緊急避難場所などへ逃げるなど命を守る行動をとる。市はスマートフォンの位置情報を活用し、参加者の行動を分析する実証実験も計画。歩数計測アプリ「アルコイン」の導入を呼びかける。当日、同校体育館では学校関係者らが避難所運営訓練を予定する。

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「楽しく防災、未来につなぐ震災」で顕彰 釜石高・夢団 喜び力に、うのスタで語り部へトライ

「活動が評価されました」とうれしそうに受賞を報告

「活動が評価されました」とうれしそうに受賞を報告

 
 東日本大震災の伝承や防災活動に取り組む釜石高(釜石市甲子町)の生徒有志グループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」はこのほど、復興庁主催の「『新しい東北』復興・創生の星顕彰」に選ばれた。若い世代による地域に根差した活動は未来につながるものであり、他地域のモデルになると評価。メンバーらは喜びを力に、「楽しく学ぶ防災」を発信し続ける。3月にはそんな思いを具現化する語り部活動を釜石鵜住居復興スタジアム(うのスタ、鵜住居町)で予定。地元のラグビーチーム日本製鉄釜石シーウェイブス(SW)のホーム戦に合わせ観客らに伝えるべく、学びを深めている。
 

「新しい東北」復興・創生の星 受賞を報告

 
 夢団は2019年のラグビーワールドカップ開催を機に結成。現在は1~3年生約60人が所属する。被災体験の語り部、防災食の研究、防災ゲームの開発、動画による発信などの活動を展開。県内外のイベントに参加し、同世代との交流も広げる。
 
 同顕彰は、震災被災地で進む魅力あふれる「新しい東北」の創造に向けた取り組みを発信するのが目的。今年度は全国から123件の応募があり、夢団など10団体が選ばれた。県内では、ウニの再生養殖事業などを展開する洋野町の会社も受賞。顕彰式は2月11日に仙台市で行われた。
  
青木校長(右)に喜びを伝えた夢団メンバーら

青木校長(右)に喜びを伝えた夢団メンバーら

  
 同校の青木裕信校長への報告は15日。夢団代表の佐々有寿(ありす)さん(2年)は喜びをにじませつつ、「活動を世界に広げることを期待されていると感じた」と背筋を伸ばした。双子の妹で副代表の安寿(あんじゅ)さん(同)は「高校生が活動することで地域が元気になる」「ゲームが面白くて勉強になる」といった声が励みだと紹介。同じく副代表の赤石澤一会(いちえ)さん(同)は「若い世代にとって、防災はどうしても重いというイメージがある。だからこそ、楽しく伝えるという視点で活動してハードルを下げられたらいい」とうなずいた。
 
 夢団の取り組みを支える「さんつな」代表の伊藤聡さんも同席。青木校長は「学校内外でワクワクするいい経験をし、成長しているのがうれしい。釜高生としてプライドを持って行動してほしい」と期待した。
 

「体験者の思い、どう伝える」伝承研修で考える

 
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語り部活動につなげようと研修に臨む釜高生

 
 うのスタでの語り部に向け、震災経験者から話を聞く研修や伝えたい内容をまとめた台本作りを進める。17日は鵜の郷交流館(鵜住居町)で、生徒6人が活動。震災の津波で妻を失った栗林町の木村正明さん(68)の思いに耳を傾けた。
 
 鵜住居小事務職員だった妻タカ子さん(当時53)は一人、校舎に残って津波に襲われ行方不明になったとみられる。「なぜ、一人だけ残ったのか」。木村さんは真相を知るため、震災後4年間、学校や市、教育関係者らと話し合いを重ねた。そこから得た教訓が学校の地震・津波防災マニュアルに盛り込まれ、▽避難時には児童生徒、そして全職員が命を守る行動をとる▽訓練も全職員が臨む―などの対策につながったことを紹介。そうしたやりとりで見えた事実、真実を語る本も自費出版した。
 
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震災の体験や伝承の取り組みを伝える木村正明さん

 
 さらに鎮魂と教訓を伝えるため、地域の人たちと協力し、うのスタに祈念碑を建立した。刻む言葉は「あなたも逃げて」。木村さんは「自然にはかなわない。万一の時は考えるより、まず逃げて。安全なところにまで逃げてから、次のことを考えればいい」と考えを示した。さらに、「あなたの命は、あなただけのものではありません」と強調。「忘れないで。あなたが逃げたことで誰か助かる人がいることを」と切望した。
 
 この碑の前で生徒たちは思いを発信する。その活動に対して思うことはと質問された木村さんは「若い人たちがどんどん交代して伝えていかないと教訓というのはつながらないから、頼もしい」と頬を緩めた。
 
生徒たちは真剣なまなざしで木村さんの語りに聞き入った

生徒たちは真剣なまなざしで木村さんの語りに聞き入った

 
 語り部デビューを目指す森美惠さん(1年)は、看護師の母親から聞いた医療現場の様子や驚いた自身の気持ちも織り交ぜて伝えるつもりだ。政屋璃緒さん(同)は居住する宮古市田老地区の被害や人々の思いも踏まえた台本を作成中。「震災では失ったものも多いが、学んだこともあって、次に起こる災害に備えることはできる。準備しておこうと、前向きな気持ちになってもらえたらいい」と思いを巡らせる。
 
伝えたいことを整理しようとメモを取る生徒ら

伝えたいことを整理しようとメモを取る生徒ら

 
どんな思いを、どう伝えるか。言葉をノートにつづる

どんな思いを、どう伝えるか。言葉をノートにつづる

 
 夢団は22日にも市外の若手語り部3人の活動に触れる研修を実施。伝承活動の本番となるSWホーム戦は3月3日と10日に予定される。

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追悼、防災の祈り込める竹灯籠 釜石・根浜の津波避難階段で点灯開始 「1.1」被災の能登半島にも心寄せ

竹灯籠が設置された津波避難階段を上ってみる点灯式参加者=11日

竹灯籠が設置された津波避難階段を上ってみる点灯式参加者=11日

 
 東日本大震災命日の「3.11」まで1カ月となった11日、釜石市鵜住居町根浜地区の津波避難階段に竹灯籠が設置された。13年前の同震災で全域が津波にのまれ、甚大な被害を受けた同地区。竹灯籠の明かりで震災犠牲者を追悼し、防災意識を高める取り組みは今年で3年目となる。3月31日まで土日祝日の午後5時から同7時まで点灯。今年は1月1日に発生した能登半島地震の犠牲者を弔い、現地の早期復興を願う気持ちも込める。
 
 11日午後5時から行われた点灯式には、灯籠製作に協力した市民や階段近くのキャンプ場の滞在客など約50人が集まった。取り組みを行う根浜海岸観光施設「根浜シーサイド」の佐藤奏子さん(かまいしDMC地域創生事業部根浜・箱白地域マネジャー)が趣旨を説明。地元町内会「根浜親交会」の佐々木三男会長(62)が発電機の点灯スイッチを入れると、灯籠に照らされた階段が浮かび上がった。点灯を見守った人たちはさっそく階段を上り下り。美しい光景を目に焼き付けるとともに、津波災害時、いち早く高台に逃れられる階段と周辺の様子を脳裏に刻んだ。
 
竹灯籠は111段の階段の手すり沿いに設置。温かな明かりが「命を守る道」を照らす

竹灯籠は111段の階段の手すり沿いに設置。温かな明かりが「命を守る道」を照らす

 
階段頂上部には4本まとめた灯籠も。美しい模様が目を引く

階段頂上部には4本まとめた灯籠も。美しい模様が目を引く

 
キャンプ場利用者も迅速避難が可能な階段。この日も冬キャンプを楽しむ人たちが多く訪れていた(写真左上がオートサイト)

キャンプ場利用者も迅速避難が可能な階段。この日も冬キャンプを楽しむ人たちが多く訪れていた(写真左上がオートサイト)

 
 この階段は、キャンプ場から高台の市道箱崎半島線(海抜20メートル)に最短で駆け上がれるルートで、2021年春に完成。施設ではキャンプ場利用客には必ず周知しているほか、避難訓練などで災害時のシミュレーションなどを行っている。竹灯籠の点灯は階段の場所を知ってもらい、いざという時の避難行動のあり方を考えてもらうことも狙いの一つ。
 
 家族4人で灯籠製作にも参加した同市の櫻井真衣さん(12)は「自分で作ったものが飾られてうれしい。(明かりがつくと)とてもきれい」と感激。生まれる7カ月前に起こった大震災。学校の授業で当時のことを学び、根浜地区の人からも話を聞いた。能登半島地震の被災状況もテレビなどで目にし、「東日本大震災と似ていると思った」という。地震や津波の怖さを知り、「(もし遭遇したら)冷静に判断して、高台や避難場所にしっかりと逃げたい。この階段を使うことで多くの人の命が救われれば」と願う。
 
自分たちで作った竹灯籠を眺める親子

自分たちで作った竹灯籠を眺める親子

 
チョウやトンボのデザインも(写真左側)。大小の穴からもれる光で辺りは幻想的な空間に…

チョウやトンボのデザインも(写真左側)。大小の穴からもれる光で辺りは幻想的な空間に…

 
 灯籠は地元の山林から切り出した間伐竹を利用。1月に製作体験会を2日間開き、市内の親子らの協力で53本を完成させた。竹の中のLED電球をともす電力は、地域から出る廃食油を精製したバイオディーゼル燃料で発電。地域資源を活用し、環境にも配慮した活動で、持続可能な地域づくりへの一助とする。
 
 同所から近い市指定の緊急津波避難場所は、震災後に盛り土整備された復興団地の山側にある「東の沢奥根浜墓地」。同団地は2017年に完成。同階段を上った先の市道を箱崎方面に少し進んだ所にある。
 
 「のと」の文字を刻んだ灯籠も(中央)。能登半島地震被災地への祈りも込め、3月まで土日祝日の午後5~7時点灯

「のと」の文字を刻んだ灯籠も(中央)。能登半島地震被災地への祈りも込め、3月まで土日祝日の午後5~7時点灯

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「逃げろ!高台へ」津波避難の基本を体感 釜石・新春韋駄天競走11年目に 震災の教訓脈々と

津波避難場所の仙寿院境内を目指し、急坂を駆け上がる中学生ら=新春韋駄天競走

津波避難場所の仙寿院境内を目指し、急坂を駆け上がる中学生ら=新春韋駄天競走

 
 「津波発生時は迷わず、近くの高台へ―」。釜石市の津波避難啓発行事「新春韋駄天競走」が4日、大只越町の日蓮宗仙寿院(芝﨑恵応住職)周辺で行われた。同寺、釜石仏教会が主催し11回目の開催。市内外の2~63歳まで89人が参加し、地域の津波避難場所となっている高台の寺までの急坂を必死に駆け上がった。東日本大震災から間もなく13年となる沿岸被災地。今年は能登半島地震もあり、災害への心構えの大切さをより意識する日々が続く。参加者は震災の教訓を心に刻み、命を守る行動を体で覚えた。
 
 同行事は兵庫県西宮神社の新年開門神事「福男選び」をヒントに、“競走”という楽しみを盛り込みながら津波避難を体験してもらう節分行事。只越町の津波浸水域から震災時、1000人余りが避難した寺まで286メートル(高低差約26メートル)を駆け上がる。途中には急カーブや傾斜がきつい坂も。幼い子どもたちは父母に手を引かれながら、小学生以上は日ごろのスポーツ活動で鍛えた脚力も発揮しながら、それぞれにゴールを目指した。
 
午前11時、「親子の部」からスタート

午前11時、「親子の部」からスタート

 
父親に背中を押され、懸命に坂を上る子ども(左)。沿道では見物客が温かい拍手で応援(右)

父親に背中を押され、懸命に坂を上る子ども(左)。沿道では見物客が温かい拍手で応援(右)

 
只越町の消防屯所(集会所)前をスタート。高台の仙寿院までは高低差約26メートル

只越町の消防屯所(集会所)前をスタート。高台の仙寿院までは高低差約26メートル

 
女子、女性陣もありったけの力を振り絞り前へ進む

女子、女性陣もありったけの力を振り絞り前へ進む

 
 6部門を設け、それぞれの1位に「福○○」の称号を授与。芝﨑住職から認定書を受け取った人たちは、午後から行われた豆まきにも参加した。閉会式の最後には参加者や応援に集まった見物客全員で、海の方角に向かって黙とう。震災や能登半島地震の犠牲者の冥福を祈るとともに、同地震被災地の早期復興を願った。会場では能登支援の募金も呼び掛けた。
 
各部門で1位になった人たち。「福○○」のたすきをかけて感想を述べる

各部門で1位になった人たち。「福○○」のたすきをかけて感想を述べる

 
東日本大震災、能登半島地震の犠牲者を思い、黙とうをささげた

東日本大震災、能登半島地震の犠牲者を思い、黙とうをささげた

 
 例年、お囃子の太鼓で参加者を鼓舞している「只越虎舞」は、閉会式準備の間、踊りも披露。今年はメンバー3人がはんてん姿で競走にも参加した。応援側から初めて走る側になった菊池幸紘さん(31)は「きつかったですねー。ゴール直前の坂はかなりこたえた」と息を切らした。自身は震災時、浜町の自宅にいて津波にのまれ、がれきの山に流れついて一命をとりとめた。「早く逃げていれば…という思いは今でもある。『大丈夫だろう』という過信は絶対禁物。やっぱり、すぐに逃げるのが一番」と、教訓を深く心にとどめる。
 
今年初めて競走にも参加した「只越虎舞」のメンバーら

今年初めて競走にも参加した「只越虎舞」のメンバーら

 
ゴールまであと少し!沿道の声援を受けひたすら前へ…

ゴールまであと少し!沿道の声援を受けひたすら前へ…

 
 男性35歳以上の部で「福男」になったのは、一戸町の健康運動指導士西舘敦さん(44)。陸上競技に励む娘の朱里さん(18)と「思い出づくり、力試しに」と初参加。朱里さんも女性の部で「福女」になり、見事“親子福”で新春を飾った。
 
 なかなかの難コースに「気持ちで進まないとゴールにたどりつけない。後続の人を津波と思って、『逃げろ』という一心で駆け上がった」と敦さん。災害時は「誰かの手を引いたり、声を掛けながら一緒に逃げることも考えられる。自分の身は守って当たり前。訓練を重ねることで他の人も助けられる力をつけたい」と話す。親子で2カ月間練習を積んで、この日を迎えた。朱里さんは「いろいろな坂を見つけては走ってきた。今日のコースは本当にきつかったが、最後の最後まで競って福女になれたのは良かった」と喜びの表情。13年前の震災では「大きな揺れに怖い思いをした」記憶が残る。「津波はいつ起きてもおかしくないと聞く。沿岸部にいたら、すぐに逃げることを心がけたい」と気を引き締めた。
 
 「福女」の西舘朱里さん(写真左側奥)は僅差で1位に。父親の敦さん(写真右)は後続を寄せ付けず断トツの1位で「福男」に

「福女」の西舘朱里さん(写真左側奥)は僅差で1位に。父親の敦さん(写真右)は後続を寄せ付けず断トツの1位で「福男」に

 
福男、福女の認定書を手に笑顔を見せる西舘さん親子。母と一緒に記念の一枚!

福男、福女の認定書を手に笑顔を見せる西舘さん親子。母と一緒に記念の一枚!

 
 こうした防災の取り組みに父敦さんは「釜石市は震災伝承や避難の啓蒙活動がすごく盛んな印象。私たちも教訓とさせてもらっている」と刺激を受け、朱里さんも「この行事を周りに広め、避難の大切さを知ってもらいたい」と意識を高めた。
 
 芝﨑住職は「(震災を経験していない)子どもたちの参加が増えているのはありがたい。『大きな地震があったら必ず津波が来ると思って高台に避難をする』。この行事で学んだことを多くの方々に教えていただきたい」と望んだ。
 
震災後に生まれた子どもたちも父母と一緒に参加。津波避難を体で覚える

震災後に生まれた子どもたちも父母と一緒に参加。津波避難を体で覚える

 
ゴール前では芝﨑住職ら釜石仏教会のメンバーが参加者の頑張りをたたえた

ゴール前では芝﨑住職ら釜石仏教会のメンバーが参加者の頑張りをたたえた

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つなぐ記憶と教訓 発信に一役!?「大震災かまいしの伝承者」に挑戦 記者体験レポート

「大震災かまいしの伝承者」の基礎研修会

「大震災かまいしの伝承者」の基礎研修会

 
 東日本大震災の体験や教訓を後世に語り継ぐ「大震災かまいしの伝承者」。身近な人や市外から訪れる人たちに事実を伝えて記憶の風化を防ぎ、防災意識の向上につなげようと釜石市が養成する。震災から間もなく13年。経験をしていない世代が増える中、記憶を伝え続ける重みは増す。「どう受け継ぎ、残すか」。伝承者の基礎研修会に記者が参加してみた。
 
 この制度は2019年にスタート。地震のメカニズムと津波被害の特質、市が震災後に定めた防災市民憲章などに理解を深める基礎研修を終えると伝承者に認定される。第3期まで実施していて、累計で98人が修了。認定期間はおおむね2年間で、現在は59人が認定されている。伝承手法などを学べるステップアップ研修(任意)もある。
 
 今回、記者が臨んだのは4期目となる基礎研修会。1月28日に鵜住居町の鵜住居公民館で行われ、中学生から50歳代までの12人が参加した。これまで座学とグループワークを組み合わせ“一日がかり”だったが、今期はグループ活動を行わず、半日で終える内容に変更。代わりに、「釜石の震災」に重点を置く形にし、市の伝承施設「いのちをつなぐ未来館」の見学を組み込んだ。
 
基礎研修で配付されたテキスト

基礎研修で配付されたテキスト

 
メモを取りながら熱心に耳を傾ける参加者

メモを取りながら熱心に耳を傾ける参加者

 
 座学の講師は、岩手大学地域防災研究センターの山本英和准教授(地域防災工学)、小笠原敏記教授(海岸工学)、福留邦洋教授(都市防災・都市計画・復興まちづくり)の3人。合わせると90分ほどの講義は駆け足で進んだ印象。振り返りが必要だ。
 
講師を務めた岩手大学地域防災研究センターの教授ら

講師を務めた岩手大学地域防災研究センターの教授ら

 
 講師陣に共通する指摘は「災害は繰り返し発生し、どこにいても災禍に見舞われる可能性があること」。近年はさまざまな自然災害が各地で多発。講義で示された防災科学技術研究所「地震ハザードステーション」によると、今後30年間に岩手県沿岸地域が大きな揺れに見舞われる確率は約3%だという。が、空き巣や火災、ひったくり被害に遭うのと同程度の確率と聞けば、「低くない。あるかも」と感じた。
 
 「いつかはくる」と予想できても、「予知はできない」と講師ら。だからこそ、「備えを」と繰り返した。過去の災害の経験を後世に伝え、次の災害に備えることは大切である―。記憶の橋渡し、伝承者に期待される役割だと背筋が伸びる気がした。
 
いのちをつなぐ未来館を見学する参加者

いのちをつなぐ未来館を見学する参加者

 
語り部の川崎杏樹さん。経験を織り交ぜ教訓を伝える

語り部の川崎杏樹さん。経験を織り交ぜ教訓を伝える

 
 未来館を案内したのは、施設職員で語り部の川崎杏樹(あき)さん(27)。当時の小中学生が命を守り抜くことができた背景にある実践的な防災教育を紹介し、「この教訓を私たちと同じように発信してほしい」と望んだ。
 
 一方、避難した大勢が亡くなった鵜住居地区防災センターの事実を伝えるコーナーで強調したのは「避難場所」(災害から身を守るため一時的に逃げ込む先)と「避難所」(避難者が一定期間滞在し生活環境を確保できる場所)の違い。「2つの言葉の違いを覚えておく。こういう最低限の知識を身に付けていればいいと思う。小さい防災力が集まれば、大きな防災力になる」と訴えた。
 
研修を終えた参加者に伝承者証が手渡された

研修を終えた参加者に伝承者証が手渡された

 
 こうして研修は無事終了。12人に伝承者証と名札が交付された。これで認定者は71人に。震災の津波で祖父母を亡くした菊池音乃(のんの)さん(釜石高2年)は「当時は何もできなかったけど、これからは語り継ぐことで、災害で悲しむ人を少しでも減らしたい」と意欲を見せた。一緒に伝承者となった妹の音羽さん(甲子中1年)は地域を知る大切さを感じた様子だった。
 
伝承者証を手にする菊池音乃さん(左)と音羽さん姉妹

伝承者証を手にする菊池音乃さん(左)と音羽さん姉妹

 
 国土交通省東北地方整備局職員の沼﨑健(たける)さん(27)は、当時釜石東中2年生。独自に語り部として活動していたが、「独りよがりにならないよう共通認識を」と、古里が勤務地になったのを機に研修を受けた。高校入学時に地域を離れたこともあり、「その間の動きに触れることができ、有意義だった」と感想。同級生の川崎さんが熱心に伝える姿に刺激を受け、そして仲間も得て「語り続ける」気持ちを強めた。
 
 市震災検証室の正木浩二室長は「震災の体験、聞いたこと、学んだこと、防災市民憲章の理念を身近なところで、大切な人に、機会があるごとに語り継いでほしい」と求める。震災から時がたつこともあってか、研修への参加希望者は減少。それでも「未来の命を守るためにも伝え続けなければいけない」と、研修の内容など模索を続ける。
 
伝承者に仲間入りした12人と講師陣

伝承者に仲間入りした12人と講師陣

 
 「覚えてほしい」。講師や語り部たちが時折こぼした言葉。それを誰かに話す―それも伝承になるのではないか。体験者ではなくても、教訓を受け継ぎ、伝えることはできる。その行動が災害に備え、防災意識を高めることにつながるはず。あの日、津波にのまれるまちを「何だろう」とただ眺めていた…気がする。記者となったのは震災後。「自分の記憶も振り返ってみよう」。研修を終え、そんな気持ちになった。その気づきを生かし、まちの動き、市民の思いを伝え続けられるように。

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においで探し出す 5頭を警察犬に 釜石署嘱託 震災不明者の捜索にも活躍

嘱託警察犬、指導手と田中洋二署長(左から3人目)

嘱託警察犬、指導手と田中洋二署長(左から3人目)

 
 釜石警察署管内で2024年の岩手県警本部嘱託警察犬に選定された5頭の嘱託書交付式が1月25日、釜石市中妻町の釜石署で行われた。田中洋二署長が指導手3人に高水紀美彦県警本部長の嘱託書を交付。5頭と指導手は警察署の出動要請を受け、今年1年、犯罪捜査や行方不明者などの捜索活動に協力する。
 
 民間で飼育、訓練し、事件捜査で活躍するのが「嘱託警察犬」。今回嘱託を受けたのは、釜石市箱崎町の自営業金野伸明(のぶはる)さん(73)が所有するエミー・フォン・ノルトリッヒト号(シェパード、雌4歳)、大槌町大槌の自営業中村光高さん(44)所有のイカルス・フォン・ミナト・ツネイシ号(同、雄8歳)、大槌町桜木町の自営業佐々木光義(みつぎ)さん(55)が所有するマリア・フォン・ゴオード・アイランド号(ゴールデンレトリバー、雌2歳)、フルマー・フォン・ヨコハマ・シゲリ・ジェイピー号(同、同10歳)、アビアトリックス・オブ・ファースト・リレーション・ジェイピー号(ホワイトスイスシェパード、同9歳)。
 
 いずれも昨年秋の県警本部審査会の実技で指導手の技量、犬の能力が認められた。機能別4部門があり、エミー号とイカルス号は足跡追及部門。佐々木さん所有の3頭は捜索部門で、フルマー号とアビアトリックス号は災害救助犬の認定も受けている。
 
釜石警察署で行われた警察犬嘱託書交付式

釜石警察署で行われた警察犬嘱託書交付式

 
嘱託書を持つ(左から)佐々木光義さん、中村光高さん、金野伸明さん

嘱託書を持つ(左から)佐々木光義さん、中村光高さん、金野伸明さん

 
 金野さんは昨年、3件の捜査・捜索活動に出動したほか、釜石署が震災の月命日となる11日前後に行う行方不明者の集中捜索にも相棒とともに参加している。警察犬の育成を続け半世紀。要請があればいつでも出動できるよう準備を整えている。「現場でビタッと探し出し、力を発揮できるよう、日々訓練を欠かさない。積み重ねが大事だ」と気を引き締めた。
  
 今回初めて嘱託を受けたマリア号は遺体捜索犬としても活躍すべく、訓練を始めた。元日に発生した能登半島地震でも救助犬が活動したが、佐々木さんは東日本大震災の経験から「生きた人を探すことで終わりではなく、そこから先がある」と改めて痛感。「レベルを維持しながら技術を上げたい」と力を込める。中村さんもやはり訓練は怠らず、「少しでも手助けできれば」とうなずいた。
 
式を終え、釜石署前で記念撮影をする警察犬と指導手ら

式を終え、釜石署前で記念撮影をする警察犬と指導手ら

 
 指導手に嘱託書を手渡した田中署長は能登地震の被害を踏まえ、「いつ何時ということがある。引き続き、協力を」と期待を寄せた。
 

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東日本大震災追悼、防災啓発 市民手作り竹灯籠 今年も根浜避難階段に 2/11~点灯へ準備着々

竹灯籠づくりを行った体験会の参加者=20日、根浜シーサイド・レストハウス

竹灯籠づくりを行った体験会の参加者=20日、根浜シーサイド・レストハウス

 
 東北太平洋沿岸に甚大な津波被害をもたらした「東日本大震災」から間もなく13年-。被災した釜石市鵜住居町根浜地区では、犠牲者を追悼する竹灯籠の製作が始まっている。2021年に完成した地区内の津波避難階段に設置するもので、3年目の取り組み。今年は、今月1日に発生した能登半島地震の犠牲者鎮魂、早期復興への祈りも込める。20、27の両日は一般向けの製作体験会が開かれた。市民の思いが詰まった竹灯籠は2月11日から点灯を開始する。
 
 市が整備した観光施設「根浜シーサイド」の指定管理者かまいしDMC(河東英宜代表取締役)が、震災犠牲者の追悼、避難意識の啓発などを目的に実施する。同施設内のキャンプ場と高台の市道箱崎半島線をつなぐ避難階段(111段)に竹灯籠55本を設置予定。同地区を訪れる人に階段の場所を知ってもらうのにも役立てる。
 
キャンプ場から高台の市道に上がれる津波避難階段(左)。昨年の竹灯籠の点灯(右)

キャンプ場から高台の市道に上がれる津波避難階段(左)。昨年の竹灯籠の点灯(右)

 
 20日、レストハウスで行われた午前の体験会には、市内の家族連れのほかJICA海外協力隊の派遣前訓練で同市に滞在中の隊員計13人が参加した。根浜の間伐竹材を長さ1メートル弱に切り分けたものに、明かりが漏れるよう穴を開ける作業を行った。参加者は模様が描かれた型紙を竹に貼り、電動ドリルで大小の穴を開けた。
 
竹灯籠づくりに挑戦する参加者。電動ドリルを使って作業

竹灯籠づくりに挑戦する参加者。電動ドリルを使って作業

 
模様が描かれた型紙を竹に貼り、ドリルの刃を替えながら大小の穴を開けた

模様が描かれた型紙を竹に貼り、ドリルの刃を替えながら大小の穴を開けた

 
 栗林町の竹山凜乙ちゃん(4)は「かわいい模様になった。出来栄えは100点。海の近くの階段に飾る」とにっこり。13年前に被災した凜乙ちゃんの母親(34)は震災後に生まれた2人の子どもに日ごろから防災の話をしており、「(関連行事への参加で)津波の怖さ、人は(誰かに)助けられて生きていることを感じてもらえれば。他で起きている災害も決して人ごととは思ってほしくない」と話した。
 
 昨年3月から震災伝承活動を始めた同市最年少語り部の佐々木智桜さん(9、鵜住居町)は2回目の参加。同避難階段について「ここが道しるべ。(高台の)避難場所に続く道ということを知ってほしい」と願う。自身は“伝える”ことの大切さを実感。「大人になったら防災士の資格を取る。英語で伝えられるように英会話の勉強も始めた」と明かした。
 
同市最年少語り部の佐々木智桜さん(右)も熱心に作業

同市最年少語り部の佐々木智桜さん(右)も熱心に作業

 
完成した竹灯籠に明かりを入れると美しい模様が浮かび上がった。母智恵さん(右)と笑顔を見せる智桜さん

完成した竹灯籠に明かりを入れると美しい模様が浮かび上がった。母智恵さん(右)と笑顔を見せる智桜さん

 
 かまいしDMCで11日から研修を始めたJICA海外協力隊の川口泰広さん(61、山口県出身)は、地域住民から話を聞くなど同震災について勉強中。「学校の命を守る教育、住民の合意形成による地域復興など釜石ならではの取り組みに感心する」。8月から派遣されるラオスでは、これまでの知見を生かし、飲料水の水質改善に携わる予定。「東南アジアも津波被害がある地域。釜石での学びを何らかの形で生かせれば」と願い、今回のような地域貢献活動の経験も糧とする。
 
 竹灯籠は2月11日午後5時に点灯式を行った後、3月まで土日祝日に明かりをともす予定(3月11日も)。竹の中のLED電球は、廃食油を精製したバイオディーゼル燃料による発電で点灯する。同DMC地域創生事業部の佐藤奏子さんは3年目の活動に「追悼の気持ちを共にしながら、震災の記憶をつないでいく機会となっている。各地で災害が多発しており、有事の際はすぐ逃げられるような意識づくりが必要。今年は能登半島地震被災地への思いも皆さんで同じくしたい」と話す。
 
竹灯籠は2月11日から点灯開始。3月まで土日祝日の午後5時~同7時点灯。震災命日の3月11日(月)も同様

竹灯籠は2月11日から点灯開始。3月まで土日祝日の午後5時~同7時点灯。震災命日の3月11日(月)も同様

白バイの乗車体験は家族連れに人気。写真撮影を楽しんだ

適切な通報呼びかけ 釜石警察署「110番の日」 地域守る交番、周知・啓発に一役

「110番の日」にちなんだ釜石警察署の広報活動

「110番の日」にちなんだ釜石警察署の広報活動

 

 1月10日は警察の緊急通報110番の正しい利用を促進する「110番の日」。釜石警察署は釜石市、大槌町でさまざまな広報活動を展開した。市内では商業施設で白バイを展示して写真撮影を楽しんでもらったり、「安全安心な街の風景」をテーマにしたペーパークラフトを作って保育施設に贈ったり。地域を守る活動拠点の交番が中心となって企画を実行し、住民らと触れ合いながら適切な通報、交通安全への協力を呼びかけた。

 

正しく使おう110番!釜石駅前交番

 

 広報イベントは7日に港町のイオンタウン釜石であった。鈴子町の釜石駅前交番(藤村りえ所長)が中心となり、唐丹駐在所や釜石署交通課の警察官も加わり8人体制で活動。買い物客らに110番通報のかけ方をまとめたチラシなどを配った。会場には白バイが展示され、引き付けられた家族連れらが次々に来場。車体に触れたり写真を撮ったりした。

 

白バイの乗車体験は家族連れに人気。写真撮影を楽しんだ

白バイの乗車体験は家族連れに人気。写真撮影を楽しんだ

 

憧れの白バイにまたがって子どもも大人も110番を意識づけ

憧れの白バイにまたがって子どもも大人も110番を意識づけ

 

 岩手県警通信指令課によると、2023年中にあった110番通報は6万918件で、1日当たり167件。そのうち、1万5437件(25.3%)が誤発信や無応答、いたずら電話だった。

 

 警察庁によって1985(昭和60)年に定められた110番の日。3桁の番号と数字はかけ間違いが少なく、当時のダイヤル式電話ですぐに通報できるよう考えられた。現在はボタン式やスマートフォンなどタッチパネルなどが主流で操作速度が上がる一方、画面への偶然の接触や電源ボタンの長押し・連続押しで誤って通報するケースが急増しているという。

 

釜石駅前交番の警察官らが110番の適切な利用を呼びかけ

釜石駅前交番の警察官らが110番の適切な利用を呼びかけ

 

 来場者に現状を説明した藤村所長(36)は「110番は警察官が迅速に対応するための大切な窓口。事件、事故の場合はためらわずに通報をしてほしい」とした上で、「急を要しない通報が全体の4分の1もあり、適切に対応ができなくなっている。間違って通報した場合は『間違いです』と伝えてほしい」と強調。緊急でない相談は「#9110」(警察相談専用電話)、または最寄りの警察署や交番を利用するよう理解を促す。

 

「地域の安心、守ります」小佐野駅交番

 

 小佐野町の小佐野交番(川野正行所長)は、子どもたちに110番や交通安全を呼びかけようと、釜石の街並みを表現したペーパークラフトを制作。10日、管内の保育施設4カ所に贈った。上中島町の上中島こども園(楢山知美園長、園児48人)では触れ合いの時間も。「110番、知ってる?」との警察官の質問に、園児から「消防」などと答えが返ってきて苦笑いする場面もあったが、「警察につながることを覚えていてね」と優しく伝えた。

 

110番の日に広報活動を行った小佐野交番の警察官

110番の日に広報活動を行った小佐野交番の警察官

 

ペーパークラフトに見入る上中島こども園の園児たち

ペーパークラフトに見入る上中島こども園の園児たち

 

 警察官に憧れているという青山柚樹君(6)は「かっこいい」とすてきなプレゼントを食い入るように見つめた。高橋真奈華巡査(23)はこうした交流で、「何かあった時のために警察、交番の存在を意識してもらえたら。距離が近く、親しみやすいイメージを持ってほしい」と期待する。

 

「けいれーい!」。ポーズを決めて写真をパチリ

「けいれーい!」。ポーズを決めて写真をパチリ

 

 四つ切り画用紙にパトカーのペーパークラフト、警察官のモチーフ、交差点、交通安全や防犯のメッセージなどを配置。虎舞や三陸鉄道など釜石らしい風景も入れた。「模型で子どもたちの意識づけに」と川野所長(54)が発案。交番の警察官3人と昨年12月から1カ月ほどかけて手作りした。「パトカーで地域を回っていると、子どもたちが手を振ってくれる」。その笑顔を思い浮かべながら、感謝を込めて手を動かしたという。

 

釜石の街並みを表したペーパークラフト。4人の個性が出る!?

釜石の街並みを表したペーパークラフト。4人の個性が出る!?

 

ハイタッチで「安全安心な街の風景」を守る関係づくり

ハイタッチで「安全安心な街の風景」を守る関係づくり

 

 川野所長は子どもたちの喜ぶ様子に頬を緩めつつ、「事件、事故のない地域が一番だが、何かあれば私たちが守る。交番に優しいお巡りさんがいることを覚えていてほしい」と背筋を伸ばした。

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「助けたい…」能登半島地震被災者思い、釜石で募金活動 13年前の経験重ね、突き動かされる市民

イオンタウン釜石で行われた「能登半島地震災害義援金」募金活動=8日

イオンタウン釜石で行われた「能登半島地震災害義援金」募金活動=8日

 
 1日夕に発生した能登半島地震は日を追うにつれ、甚大な被害が明らかになっている。2011年に東日本大震災を経験した釜石市では、当時の記憶を重ねる市民らが被災者の心情を思い、支援活動に乗り出している。釜石市赤十字奉仕団(中川カヨ子団長、15人)は7日から市内で募金活動を開始。「少しでも力になりたい」と、息の長い活動に取り組む構えだ。
 
 同団は7日、「はたちのつどい」が行われた市民ホールTETTO(大町)で、8日は市内最大の商業施設・イオンタウン釜石(港町)で、被災地支援の募金を呼び掛けた。7日は団員10人で活動。8日は東日本大震災の伝承、防災啓発に取り組む釜石高生徒のグループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」、釜石市社会福祉協議会も協力し、15人で活動した。団員らの呼び掛けに施設利用者や買い物客が応え、「何らかの助けになれば」と義援金を投じた。
 
釜石市赤十字奉仕団と釜石高の生徒らが募金を呼び掛けた

釜石市赤十字奉仕団と釜石高の生徒らが募金を呼び掛けた

 
ためていた硬貨を箱ごと手渡す人も…

ためていた硬貨を箱ごと手渡す人も…

 
呼び掛けに応え、多くの人たちが募金に協力した

呼び掛けに応え、多くの人たちが募金に協力した

 
 夢団のメンバーとして活動する釜石高1年の政屋璃緒さん(16)は、連日の報道で被災地の惨状を目の当たりにし、「少しでも何かお手伝いになれたら」と募金活動に参加。赤十字奉仕団の団員と一緒に「ご協力お願いします」と声をあげた。13年前の東日本大震災では居住する宮古市田老地区も大きな被害を受けた。能登半島地震の被災者に「今は大変だけど、助けてくれる人たちが必ずいる。周りを頼って何とか頑張ってほしい」と寄り添った。
 
夢団で活動する政屋璃緒さん(左)。昨年、東日本大震災の経験を伝える語り部としてもデビュー

夢団で活動する政屋璃緒さん(左)。昨年、東日本大震災の経験を伝える語り部としてもデビュー

 
 「一夜明けたら本当に居たたまれなくて…」。建物の倒壊、火災、道路の寸断…。壊滅的な被害状況が明らかになるにつれ、心を痛めてきた同奉仕団の中川団長(76)。13年前の大震災では、夫婦で営んでいた飲食店から避難する途中、津波にのまれた。商店街のアーケード上に引き上げられ、何とか命をつないだものの、一緒に逃げていた夫は帰らぬ人となった。被災の苦しみ、悲しみを知るだけに、今回の地震、津波災害でも「何かしなければ」という強い思いに突き動かされた。他の団員も「すぐにでも活動したい」と同じ思いだった。
 
 「今すぐ駆け付けたい気持ちだが、現地は混乱している。自分たちができる場所で、できることを」と義援金を募る活動に着手した。中川団長は「私たちもたくさんの支援を受け、ここまでくることができた。復旧復興、被災者の生活再建には時間がかかる。今後も募金を継続し、息の長い支援活動をしていきたい」と意を強くする。
 
 2日間の活動で寄せられた義援金は41万7659円。日本赤十字社を通じて、被災地の人たちの生活支援に役立ててもらう。

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防災まちづくり推進!釜石市 アグープと覚書締結、人流データ活用 避難行動の検証へ実証実験

覚書を取り交わす小野共市長(左)と柴山和久社長

覚書を取り交わす小野共市長(左)と柴山和久社長

 
 釜石市は19日、ソフトバンク子会社で位置情報を活用したビッグデータ事業を手掛けるAgoop(アグープ、東京都渋谷区、柴山和久代表取締役社長兼CEO)と防災まちづくりの推進に関する覚書を結んだ。スマートフォンなど携帯端末の位置情報を活用し、災害時の避難行動のあり方を検証するため実証実験を行うのが主な目的。来年3月に市全域で実施する避難訓練などで人流データを収集・分析し、防災計画などの政策に反映する。
 
 同社は同意を得た利用者のスマホアプリから移動の速度や方向などのデータを匿名化して収集している。活用するのはスマホの衛星利用測位システム(GPS)で、独自開発の歩数計測アプリをダウンロードしてもらう。アプリは通信事業者を問わず使うことができるという。
  
避難行動分析イメージ。釜石市中心部の津波浸水想定にスマホの位置情報を重ねた(Agoop提供)

避難行動分析イメージ。釜石市中心部の津波浸水想定にスマホの位置情報を重ねた(Agoop提供)

  
 実証実験は来年3月3日の釜石市地震・津波避難訓練で行う予定。「津波到達前に避難できているか」「浸水域を通っていないか」など避難速度や経路を確認する。避難場所の人数もリアルタイムで計測。救助、物資供給など即時支援につなげる態勢の構築を目指す。
 
 釜石市役所であった締結式で、小野共市長と柴山社長が覚書に署名した。柴山社長は「人流データを人の命を救うために役立てることができる。避難行動を見直し、考えてもらえるのでは」と意義を強調。小野市長は「データを基に釜石の防災を確かなものにしたい」と期待を込めた。
 
覚書に署名する小野市長(手前左)と柴山社長(同右)

覚書に署名する小野市長(手前左)と柴山社長(同右)

 
 締結のきっかけは、東日本大震災。市によると、発災時、市指定ではない避難場所に逃げる人もいて安否確認や避難者情報の把握に時間を要した。「どこに、どれくらいの人が避難しているか。どう探し出すか」。方策に頭を悩ませていた頃、同社が新型コロナウイルスの感染拡大に関連して人流データを公開しているのを知り、「課題解決につながるのでは」と市側が話を持ちかけた。
 
 同社はコロナ禍の人流解析に使ったこの技術とデータを防災面でも生かしている。20年7月の熊本豪雨では熊本赤十字病院が避難所に支援スタッフを派遣する際に活用。日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震で津波被害が懸念される北海道根室市の花咲漁港で行われた防災訓練でも利用した実績がある。災害対策に特化し覚書を締結するのは釜石市が初めてだという。
 
技術の概要を説明する柴山社長らアグープ関係者

技術の概要を説明する柴山社長らアグープ関係者

 
 避難行動の分析を実証するためには「データ量が鍵」になる。市では防災訓練実施の周知を図るほか、市教育委員会や学校を通じて小中学生や高校生、その保護者らにアプリの導入を働きかける考え。佐々木道弘危機管理監は「津波の避難対象は約1万2000人で、その15~20%に当たる市民の協力をお願いしたい」と呼びかける。
 
 震災時の経験を踏まえ、「どこに、どんな人が避難しているか把握した上で必要な対策、優先度を見いだしていくことが大事」と佐々木危機管理監。県の津波浸水想定は震災時より広範囲に被害が及ぶとされ、「これまでと同じ避難のし方ではいけない。幾重にもある避難方法…さまざま考えておいても足りることはない。セーフティーネットの一つとして防災、災害対策に生かし、計画づくりを進めていく」と力を込めた。