「負けるもんか!」大地震、豪雨被害の石川・珠洲で奮闘 重量挙げ指導で夢追う浅田久美さん 古里釜石で講演
宝樹寺で開かれた浅田(旧姓・長谷場)久美さんの講演会。釜石での講演は2010年10月以来
釜石市出身で石川県珠洲市在住の重量挙げ女子日本代表元監督、浅田(旧姓・長谷場)久美さん(61)が19日、古里釜石市で講演した。本年1月の能登半島地震、9月の石川県北部豪雨と2度の大災害に見舞われる中、指導する子どもたちの競技環境の立て直しに奔走。「珠洲から世界へ」と“年中夢求”の挑戦を続ける浅田さんは、能登の復旧の現状と逆境に負けず競技に励む子どもたちの姿を映像で見せながら、「(東日本大震災から復興してきた)釜石を見習って、決してあきらめずに頑張っていきたい」と力を込めた。講演会は天神町の宝樹寺(野嶋諭住職)が主催し、約40人が集まった。
重量挙げ女子日本代表監督を務め、現在は石川県珠洲市で子どもたちを指導する浅田久美さん
講師の浅田さんは5歳で釜石を離れ、移住した茨城県水戸市で高校までを過ごした。体育大学に進み、陸上の砲丸投げ選手として活躍していたが、卒業後に体育教諭として赴任した埼玉栄高で重量挙げ競技の関係者の目に留まり転向。1987年、24歳で女子競技の初めての世界選手権に出場した。以降、国内第一人者となり、全日本選手権12連覇。91~93年まで3年連続で世界選手権銀メダルを獲得した。五輪種目になることを願い競技を続けたが、採用された2000年は37歳となり、けがの影響もあって出場はかなわなかった。
現役引退後は指導者の道へ。日本オリンピック委員会(JOC)専任コーチ、女子日本代表監督を歴任後、結婚を機に夫の出身地珠洲市に移住。2012年、子どもたちの重量挙げチーム「スズドリームクラブ」を立ち上げ、現在に至る。
浅田さんは1月の能登半島地震の被災状況を映像を見せながら伝えた
浅田さんは始めに1月1日に発生した能登半島地震について話した。地震発生時は、帰省先の釜石から自宅に戻る途中だった。夫の両親の無事は確認できたものの、半島につながる主要道は全てストップ。金沢市までたどり着き、珠洲市に向かうことができたのは4日の昼。車中から目にしたのは「言葉にならない風景」だった。建物は上から押しつぶされたような状態。道路はひび割れ、陥没箇所も。津波から逃れる高台への避難道路までもが建物の倒壊などで寸断されたという。
未曽有の被害から9カ月半―。被災地は仮設住宅が建ち、ようやく倒壊家屋などの解体工事が始まった。そうした中で襲った9月21日の豪雨災害。浅田さんは復興の勢いが停滞している現状を示し、「奥能登は高齢化率が50%を超え、独居世帯も多い。経済的に自宅再建をあきらめざるをえない人も。まちがさら地だらけになるのではと心配」と復興への課題を口にした。
講演のタイトルは「負けるもんか! 珠洲から世界を目指す~年中夢求~」
大地震の発生は、重量挙げ競技に励む子どもたちの練習環境にも大きな打撃を与えた。練習場は地震による倒壊は免れたものの、災害復旧支援者の待機場所となり、しばらく使えない状況が続いた。今年はクラブ立ち上げ時に最年少だった子どもたちが高校3年生となる年で、インターハイでの団体優勝を目標に掲げていた。主力選手6人は避難先にある金沢学院大と津幡高に分かれ、2月に練習を再開。全員一緒に練習できる場も必要なため、クラウドファンディングで支援を募り、近県で週末の合宿を行った。協力したのは本県北上市のガス製造販売業、北良(笠井健代表取締役)。練習場は3月に入り使用可能となった。
各方面の支援で練習を継続できた高校生らは、3月の高校選抜大会、4月の全日本大会で自己新記録や日本新記録を出すなど培った力を発揮。インターハイでは男子団体で準優勝したほか、各階級の個人で優勝を果たした。浅田さんはクラブ立ち上げからの軌跡を、映像を見せながら紹介。子どもたちの頑張りに会場からは拍手が湧き起こった。
珠洲市で重量挙げ競技に励む子どもたちの活躍を映像で紹介
浅田さんは東日本大震災の教訓や復興に向かう釜石の状況を事あるごとに珠洲市民に伝え続けており、「釜石から学ばせていただくことはたくさんある。これからも釜石をお手本にして、少しでも幸せな日常が戻ってくるように日々、頑張っていきたい」と講演を締めくくった。
市内の70代女性は「貴重な話を聞けた。釜石もそうだったが、復興への道のりは長い。能登もまだまだ大変だろうが、これから皆さんで復興を成し遂げてほしい。一生懸命頑張っている子どもたちも応援したい」と思いを寄せた。
浅田さんの講演に聞き入る来場者。東日本大震災の経験と重ね、能登の被災者を思いやった
講演後の取材に浅田さんは「今の能登の現状を知っていただきたかった。皆さんが真剣に聞いてくださりうれしい。帰ったら今の釜石の状況も伝え、珠洲もくじけずにやれば何とかなると思ってもらいたい」と話した。重量挙げ指導者としての大きな目標は「五輪選手を育てる」こと。「珠洲から出る第1号の五輪選手に」と意気込む子どもたちと今後も夢を追い続ける。
釜石新聞NewS
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