海×鉄は…“釜石っぽい”脱炭素社会の実現!? 製鉄会社と漁協タッグ、藻場再生へ

脱炭素、藻場再生の取り組みに活用される鉄鋼スラグ製品
環境省の「脱炭素先行地域」に選定されている釜石市では、再生可能エネルギーの導入や脱炭素をテーマにした企業研修受け入れなど、産学官29の共同提案者による各種事業が展開されている。その中で、「釜石ならでは」として挙げられる事業の一つが「鉄鋼スラグ」を使った「藻場再生」。地域資源を活用し、水産資源を守ろうとする取り組みだ。日本製鉄(東京)が釜石東部、唐丹町の両漁業協同組合と連携し、昨年から挑戦を継続。11月14日に市や同社担当者らによる事業の説明があった。
釜石市新浜町の岸壁の一角。鋼製のかごの中に石などが詰め込まれた2つの物体が並んでいた。重さは1つ約9.5トン。鉄鋼スラグと腐植土を配合し人工的に鉄分を供給する施肥材「ビバリーユニット」と、スラグの微粉末などを練り混ぜたもので藻類など生物が着生する基質材となる「ビバリーロック」がぎっしり入っている。

鉄鋼スラグが含まれた石がぎっしり。袋に入った施肥材が下部に敷き詰められている
藻場再生に役立てようと、同社が開発した鉄鋼スラグ製品だ。昨年、両漁協の意向を聞きながらそれぞれの藻場再生希望地に計約50トンを設置。同社によると、その一部で海藻の再生を確認しているという。

釜石海域の様子。日本製鉄では一部で海藻の再生を確認する
海と鉄?…近年、漁業関係者を悩ませる磯焼けの原因の一つとされるのが、鉄をはじめとする栄養分の不足。そこで同社は海藻類の鉄分不足解消に向け、鉄鋼スラグを混ぜた施肥材を製品化した。自然にもどせる生分解性の袋に入れることで、スラグ中の鉄分が溶け出し海藻類の成長を促すという流れ。これまで森から川を通じて海へと届けられてきた鉄分を人工的に生成するもので、磯焼け地域に設置して藻場の再生につなげる「海の森づくり」として2004年から全国各地で展開する。
20年以上続く取り組みが、今、鉄の町釜石で進む。鉄は鉄鉱石を主原料に、石炭や石灰石を加えて生産されるが、その過程で副産物として生成されるのが鉄鋼スラグ。鉄1トンあたり300キログラムほどの鉄鋼スラグが生成されるのだという。
鉄鋼スラグは道路やダム、トンネルなどのコンクリート用骨材、護岸工事、軟弱地盤の改良などの用途で使用される。同社北日本製鉄所で生成されるスラグは東日本大震災の津波で破壊された釜石湾口防波堤などの復旧・復興工事や、がれき(災害廃棄物と津波堆積物)を再生資材に変える改質材として利用されたりした。そして今、海を育む事業へと活用の幅を広げている。

鉄鋼スラグ製品を説明する日本製鉄の小野本憲人さん
同社スラグ事業・資源化推進部スラグ営業室の小野本憲人さんは「釜石は鉄づくりが始まった地。産業としてだけでなく、環境面でも地域に貢献できる取り組みだ」と意義を強調する。また、「鉄の会社と海はあまり関係がないように思えるかもしれないが…」と前置きしつつ、「海がないと仕事ができない。製品を輸送するため海を使うから」と加えた。
今年度、釜石海域への設置は昨年度と同規模になる見込み。小野本さんは一定の効果を感じながらも、「波があったりする中で、『一年やったからすぐに』と結果がつながるものでもない。継続していくことが重要になる。漁業者のみなさんの声を聞きながら、われわれの持つ資材を生かす形で取り組み、製品をアップデートさせていきたい」と先を見据える。

唐丹漁港の様子。藻場再生の取り組みははるか沖合で進む
取り組みに協力する唐丹町漁協の柏直樹総務課長は「資源回復に期待」と見守る。ウニやアワビなどの魚介類が豊富に採れていた釜石海域では近年、「餌となる海藻が生えていない。魚介類を育む藻場が失われる状態の磯焼けが深刻だ」との認識。現在進められているのは試験的ものと考えており、「費用対効果がどれほどか」「スポット的でもいいのか」と手探りだが、「何か手立ては必要。続ける価値はあると思う」と表情を引き締めた。
脱炭素先行地域の事業期間は29年度まで。鉄鋼スラグを使った藻場再生の取り組みでは、ブルーカーボンクレジット(海洋植物の二酸化炭素吸収量を数値化し取引する仕組み)の創出につなげるほか、ウニ食害対策モデルの可能性も探る。
太陽光発電の導入拡大に向けた取り組みなども進行中。市企業立地港湾課ゼロカーボンシティ推進室の担当者は、市が掲げる50年度の「温室効果ガス排出量実質ゼロ(ゼロカーボンシティ)」の目標達成に向け「各種事業を着実に進めていきたい」とした。

釜石新聞NewS
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