釜石高生の放課後の居場所「774プロジェクト」=8月25日>
釜石市甲子町の釜石高(青木裕信校長)の校内に週2回開設されるフリースペース「774(ナナシ)プロジェクト」。勉強や探究、おしゃべりなど放課後に高校生たちが自由な活動をして過ごす。地域の大人と日常的に関わることができる、家庭でも教室でもない、「第3の居場所」をつくろうと官民学が連携し運営。生徒の相談に耳を傾け、やりたいことを支援する場所にもなっていて、高校生にさまざまな刺激を与えている。8月23日には、海外留学などに関心を持つ生徒向けにオンライン国際交流イベントを開催。首都圏の大学に通う留学生らから話を聞き、国際的視野や将来への選択肢を広げた。
「海外留学」をテーマにオンライン国際交流
留学をテーマに将来について考えるオンライン国際交流イベント=8月23日
国際交流イベントは、独立行政法人国際協力機構(JICA)海外協力隊の派遣前研修で釜石に滞在中の候補生阿部璃音さん(福島出身)が企画。今年3月に日本体育大(東京)を卒業したばかりで、同大の留学経験のある学生、ドイツや台湾からの留学生をオンラインでつないで体験談を高校生に伝えてもらった。
参加した釜石高生は8人。パソコンの画面越しに、留学を決めた理由や得たことなどを聞いた。新型コロナウイルス禍の留学にためらいを持つ生徒が助言を求めると、1年間スウェーデンに留学した経験を持つ学生は「やりたいと思った時が始めるタイミング。いつかではなく、一歩踏み出す勇気を持って。留学先で何がしたいのか、目的を固めるのも大事。やることが明確になり、収穫も大きい」などと答えた。
画面越しでも積極的なやりとりを楽しんだ¬=8月23日
チェコ共和国での留学経験を紹介した阿部さんも、言語や生活文化が違うことを認識した上での事前準備の必要性を強調。「言語は情報を得るためのツール。現地で使う言葉を勉強することで、交流の幅が広がる」とアドバイスした。留学生らは日本の歴史、文化に関心があって留学を決めたものの、日本語でのやり取りは難しく、寂しさを感じることがあると本音をポロリ。それでも「好きなことを仕事にする」という目標のため、日々勇気を出して学び、人間関係づくりをしていると前向きな姿勢を見せた。
海外留学への思いを強めた生徒たち=8月23日
釜石高の藤原和海(なごみ)さん(1年)は将来、海外の人と関わる仕事をと思い描く。留学も考えているが、「先延ばし中」と苦笑。学生らの助言に背中を押され、「今できることをやる。語学力、コミュニケーション力を磨きたい」と意識を高めた。中学時代に市の海外派遣事業でオーストラリアを訪問する予定だったが、コロナの影響で中止。悔しさを希望につなげる一歩にしようとしていた。
大人が話を聞いてくれる居場所「774」
地域の大人たちとおしゃべりを楽しむ生徒=8月25日
774プロジェクトは同校敷地内のセミナーハウスを活用し、2020年8月に開設された。地域の大人との日常的な関りから学びを深めてもらうのを狙いにした官民学連携事業。市教育魅力化コーディネーターや子どもたちの地域参画を後押しする活動を行う大人たちが運営し、毎週火曜日と木曜日の放課後の生徒たちに、▽気楽に立ち寄ることができる場▽興味関心に合わせたイベントの企画など地域資源との接続▽やりたいこと支援-などを提供する。
8月25日の放課後、利用した生徒らは探究活動で使うグッズをつくったり、まちづくりをテーマにした催しの打ち合わせをしたり、思い思いに放課後の時間を過ごした。イベントの企画運営を得意とする大人に、防災に関するプロジェクトの企画案についてアドバイスを受ける女子生徒も。雑談を楽しむグループもあった。
企画する催しの打ち合わせをするグループ=8月25日
帰りの公共交通を待つ時間つぶしに利用する里見天(そら)さん(2年)は、同コーディネーターの恒屋梢海さんと“恋バナ”で盛り上がっていた。「お菓子を食べに来て」と誘われ利用してみると、居心地の良さで常連に。「何でも話を聞いてくれる大人がいる場所。友達と話しているみたいで、気楽に過ごせる」と目を細めた。
「ナナシ」との呼び名は、あえて場所の名を示さない「名無し」という意味もある。そう教えてくれたのは、運営をサポートする釜石まちづくり会社の常陸奈緒子さん(38)。高校生と大人が力を合わせ、自分たちが使いたくなる場所をデザインしていこう―。そんな思いが込められているという。
探究活動で使う道具作りに取り組む生徒たちを見守る八木橋さん(右)=8月25日
同コーディネーターの八木橋朋広さん(27)によると、これまでに利用した生徒は延べ約2000人。月100人程度が足を運ぶ。「学校が地域連携に積極的。大人と接し、話し合いながら、やってみたいことや目標という自己実現の種を見いだす場になっている」と手応えを実感する。一方で、地域おこし協力隊制度を活用した市非常勤職員でもある同コーディネーターには任期があり、連携の在り方が課題と指摘。「民間の力の活用、後継者の発掘・育成に取り組み、継続させてほしい」と願う。