震災被災地の「心の復興」に貢献 チームスマイル活動終了 釜石で布袋寅泰さんライブ&感謝の会


2022/12/03
釜石新聞NewS #文化・教育

多くのファンを魅了した布袋寅泰さんのスペシャルライブ(撮影:西条佳泰 / Grafica Inc.)

多くのファンを魅了した布袋寅泰さんのスペシャルライブ(撮影:西条佳泰 / Grafica Inc.)

 
 東日本大震災の被災地で著名文化人やアーティストによる復興支援イベントを手掛けてきた一般社団法人チームスマイル(東京都、矢内廣代表理事=ぴあ社長)は、年内で活動を終了する。東北3県の拠点の一つ「釜石PIT」がある釜石市では11月20日に、これまでの感謝を込め、ギタリスト布袋寅泰さんのスペシャルライブを開催。同法人の活動に協力し、釜石に思いを寄せ続けてきた布袋さんの熱いステージに約720人が酔いしれた。
 
 ライブは釜石PITに隣接する市民ホールTETTOで開かれた。抽選でチケットを手にした観客は、開演前から期待で心を躍らせた。映画「キル・ビル」のテーマ曲で布袋さんが登場すると観客は総立ちに。こぶしを突き上げ、体を揺らした。ソロの代表曲「バンビーナ」「さらば青春の光」「POISON」、バンド、ユニットで魅了した「マリオネット」「BE MY BABY」など、布袋さんが生み出してきた数々の名曲で会場の熱気は最高潮に達した。
 
 布袋さんの同市でのライブは2016年8月以来2回目。前回は同年1月にオープンした釜石PITで行われ、同法人が企画したトークショーにも出演している。布袋さんと同市との縁は少年時代にさかのぼる。当時、親戚が暮らしており、「毎年夏休みに釜石に来るのが楽しみだった」という。16年のトークでは、釜石のいとこに聞かせてもらったビートルズに衝撃を受け、ギターを始めたことも明かしている。
 
 今回のライブでも「豊かな自然、釜石の人たちの屈託のない笑顔、温かさ…。自分にとっても、この地で出会った父と母にとっても思い出のまち」と語った。ライブ前には、19年にラグビーワールドカップ(W杯)会場となった釜石鵜住居復興スタジアムにも足を運んだ。台風の影響でW杯2試合のうち1試合が中止となったが、ロンドンでそのニュースを聞いた布袋さんはすぐさま矢内代表に連絡を取り、落ち込む同市のためにスタジアムでのコンサートを提案したという。その後のコロナ禍で実現はできなかったが、この日のライブで「いつかやりたい」と思いを口にした。
 
 昨年、アーティスト活動40周年を迎えた布袋さん。アニバーサリー曲として制作した「10年前の今日のこと」などアコースティックナンバーも聞かせた。観客は全13曲の演奏と布袋さんの言葉に感激しながら、かけがえのない時間を味わった。
 
 最前列で迫力のステージを堪能した釜石市の水野吾一さん(52)は「布袋さんの音楽は自分の青春そのもの。釜石のことをずっと思ってくれてありがたい。明日からまた頑張れそう」と大喜び。滝沢市の小野寺美奈子さん(52)も高校生のころからの大ファン。「憧れ続けてきた人生の先輩。いつ見てもかっこいい。被災地を盛り上げてくれるのも県民としてうれしい」と胸を熱くした。久慈市の40代男性4人は「めちゃくちゃ楽しかった」と口をそろえ、余韻に浸った。「布袋さんのやさしさに目頭が熱くなった」「ずっと見守ってくれている気がする」―次々にあふれる言葉。震災から10年が経ち風化が色濃くなりつつある中、「見えない部分の復興の力になるのでは」と話した。
 
一般社団法人チームスマイル「釜石PIT」感謝の会=11月20日

一般社団法人チームスマイル「釜石PIT」感謝の会=11月20日

 
 チームスマイルは震災直後、ぴあ社員らによるボランティア活動からスタート。2012年には一般社団法人を立ち上げ、「エンターテインメントによる心の復興支援」を掲げて活動を発展させてきた。活動拠点として14年に豊洲PIT(東京都江東区)を開業。東北では福島県いわき市(15年)、岩手県釜石市(16年)、宮城県仙台市(同)に拠点を設け、同法人主催のイベントのほか地元企画の事業などを行い、復興を後押ししてきた。
 
2016年1月、釜石市大町にオープンした「釜石PIT」

2016年1月、釜石市大町にオープンした「釜石PIT」

 
 16年からは被災地の子どもや若者の支援企画「“わたしの夢”応援プロジェクト」を展開。「東北PIT応援団」に名を連ねた各界の著名人らを3市に派遣し、講演会やトークショー、舞台実演、技術指導などを行ってきた。釜石市では布袋寅泰さんのトークショーを皮切りに20年までに計8回の企画が実現。音楽、美術、古典芸能、スポーツなどの各分野で活躍する14人が訪れ、夢や希望を育んだ。
 
 布袋さんのライブ後、釜石PITでは同活動を支援してきた地元関係者らを招いた感謝の会が開かれた。矢内代表はこれまでの経過を説明し、「10年を目標に活動を続けてきた。心の復興の面では多少なりともお役に立てたのではないか。社団法人としての活動は終わるが、4つのPITは名前を残して継続する」とし、今回のライブチケットの売り上げ全額を同市と釜石まちづくり会社に寄付した。
 
寄付金を贈った矢内廣代表(中)、野田武則釜石市長(右)、釜石まちづくり会社・谷澤栄一社長

寄付金を贈った矢内廣代表(中)、野田武則釜石市長(右)、釜石まちづくり会社・谷澤栄一社長

 
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 野田武則市長は「心が折れそうな時、皆さんが届けてくれる励ましや元気に地域の方々がどれほど勇気づけられたことか。感謝してもしきれない。矢内社長らの精神は釜石PITの名称とともにこの場所で脈々と生き続ける。しっかり守っていきたい」と決意を示した。
 
 釜石PITは同市が建設した釜石情報交流センターの多目的集会室に併設する形でオープン。ライブや映画上映会、パブリックビューイングなど多彩な催しが行われ、住民活動の場としても親しまれてきた。今後も引き続き、同センター指定管理者のまちづくり会社が運営を担い、活用が図られる。

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