タグ別アーカイブ: 文化・教育

親子は珍しさを満喫、高齢者は懐かしさと共に田植え

世代間交流促す田植え体験、唐丹・平田・釜石公民館が合同で〜豊作に期待ふくらませ、子どもら60人参加

親子は珍しさを満喫、高齢者は懐かしさと共に田植え

親子は珍しさを満喫、高齢者は懐かしさと共に田植え

 

 唐丹、平田、釜石の釜石市内3公民館合同の田植え体験会は27日、唐丹町川目の水田で行われた。地元住民や市内の子どもら60人が参加。初夏を思わせる、さわやかな好天の下、素足の子どもらが家族とともに田植えを楽しんだ。

 

 地域の農家が広さ約450平方メートルの休耕田を体験のために提供。世代間交流を狙いとする唐丹公民館の「とうに寺子屋教室」に2公民館が応援、広域的な事業とした。JAいわて花巻釜石支店も農業をアピールするとともに、若手職員の農業体験、地域との交流を図る機会として参加させ、苗(いわてっこ)や昼食を提供。唐丹町の営農組合、農家組合は田の整備、土づくりなどの準備、当日の実技指導で協力した。

 

 片岸川沿いの田んぼに約30人が横一列に並び、目印の付いたロープを追う形で苗を植えた。素足の子どもは微妙な泥の感触に笑顔を弾けさせ、大人やお年寄りは長靴の“抜き差し”に四苦八苦した。

 

 去年の体験会にも参加したという川原悠翔君(唐丹小5年)は「うまく植えられたと思う。イネがしっかり育つといい。刈り取りもしたい。田んぼの中はムニョムニョして変な感じだったけど、楽しかった」と満足そう。

 

 地元で生まれた木村ヨミ子さん(78)は「田植えは60年ぶりですが、体が覚えていた。昔は田植えすると、田の神様の祝いだといって、アズキ入りの大きな大きなおにぎりを持たされた。秋には、植えた米の味見をしたい」と語った。

 

 この日の「田の神様の祝い」はノリおにぎり、お茶と、地元の農協女性部員らが作り慣れた豚汁。参加者は水田周辺の草地や川の土手に腰を下ろし、“遠足気分”で昼食を味わった。

 

 今後、公民館職員や地元農家が水田を管理し、子どもは水田と周辺の生物観察、稲刈りを行う。唐丹公民館は秋に、参加者による収穫祭も計画する。農協職員は「このブランド米は早生、耐冷、多収穫種。もし豊作なら、社会福祉活動に分けてもらえるかもしれない」と期待する。

 

(復興釜石新聞 2018年5月30日発行 第693号より)

 

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やさしい笑みの村田選手を囲んで「はい、チーズ」。子どもたちは笑顔を広げた

ミドル級王者 世界の村田選手、約束の再訪〜鵜住居小児童と交流、ベルト披露 挑戦する大切さを伝える

やさしい笑みの村田選手を囲んで「はい、チーズ」。子どもたちは笑顔を広げた

やさしい笑みの村田選手を囲んで「はい、チーズ」。子どもたちは笑顔を広げた

 

 初防衛を果たしたばかりの世界ボクシング協会(WBA)ミドル級王者で2012年ロンドン五輪金メダルの村田諒太選手(32)=帝拳=が23日、鵜住居小(中軽米利夫校長、児童138人)を訪れ、運動会の練習をしていた児童と交流。光り輝くチャンピオンベルトを披露し、子どもたちに諦めずに挑戦する大切さを伝えた。

 

 村田選手は奈良市出身。中学生でボクシングに出会い、高校、大学と国内トップの座を占めた。東洋大在学中の04年に全日本選手権で初優勝。08年に同大に就職し、選手活動を継続。全日本選手権で09年から3連覇を達成。円熟ぶりはロンドン五輪の金メダルで証明された。

 

 13年にプロに転向し、17年10月に世界王座を獲得。五輪金メダルとプロの世界王座獲得という、国内史上初の快挙を果たした。今年4月、初防衛に成功。日本選手が同級の世界王座防御を果たすのも初めてだという。

 

 村田選手が釜石を訪れるのは今回で3回目となる。1回目は後援会岩手会員の菊池紫登美さん(58)=橋野町=の手紙がきっかけで、12年12月に仮設校舎だった同校を訪問。金メダルを披露し、被災地を元気づけた。2回目は14年6月で、「また来るね」と約束したことを守るため来釜。栗林小で市内の小中学生らと交流した。

 

村田選手(右)のチャンピオンベルトを手に笑顔を見せる児童

村田選手(右)のチャンピオンベルトを手に笑顔を見せる児童

 

 「世界チャンピオンになってまたベルトを見せに来るから」。ミドル級王者となり、ベルトを守った村田選手。子どもたちとの約束を果たすため、再び釜石にやって来た。

 

 この日、全校児童が校庭で運動会の総練習をしているところに村田選手が登場。「子どものころを思い出し、元気になる」と、児童らに交じって玉入れなどを楽しんだ。

 

 昼食後は教室で児童と交流した。ベルトやメダルを手にした児童はその重みや輝きを体感。写真を撮ったり握手したり、爽やかな笑顔が光る世界チャンピオンとの触れ合いに、金野琥珀君(2年)は「かっこいい。僕も大人になったヒーローになる」と目を輝かせた。

 

 児童から「どうしたら強くなれるの?」と聞かれた村田選手は「教えてくれる人(先生)の言うことをよく聞くことが大切」と強調。毎日の練習も大事で、「強くなりたかったら練習しないといけない。みんなが勉強するのと一緒。やれることを一生懸命やれば強くなるし、道も開ける」と力を込めた。

 

 夢をかなえる方法について、スポーツ界で活躍している人たちに共通するのは「負けず嫌い」と指摘した。「苦しい時も諦めなかったから今の自分がいる。しんどい中にも何か楽しみがあり、楽しくなると好きになる。それがチャンス。チャレンジしたら最後まで諦めない気持ちを持って」と助言。人との競争は重要でなく、「大事なのは自分の成長。懸命に取り組めることを見つけ、自分として成長できるよう頑張ってほしい」とエールを送った。

 

 川﨑拓真君(5年)は「テレビで見ている人が来てくれてうれしい」と感激。走ることなどが苦手だというが、「悔しくても諦めず頑張りたい。いろんなことを勉強して知って、自分だけの夢を選んでいけたら」とパワーをもらった様子だった。

 

 菊池さんによると、今回の訪問を前に村田選手から復興の進み具合についての問い合わせがあった。被災地に寄せる思い、子どもたちとのつながりを大切にする気持ちを感じ、「(村田選手は)優しさにあふれている。熱い信念を持った人だからこそチャンピオンなんだと実感。来てもらって、まちも楽しくなる」と感謝した。

 

 村田選手は今秋に2回目の防衛戦を予定している。「勝って」。今度は児童らが鵜住居からパワーを送ることを約束した。

 

(復興釜石新聞 2018年5月23日発行 第691号より)

 

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威厳を漂わせ、古来の所作で歩む侍役

さくら祭り、唐丹に春〜大名行列 華やかに、時代絵巻 勇壮に

威厳を漂わせ、古来の所作で歩む侍役

威厳を漂わせ、古来の所作で歩む侍役

 

 釜石市唐丹町で3年に一度行われる天照御祖神社(河東直江宮司)式年大祭「釜石さくら祭り」(川原清文大祭執行委員長、木村嘉人実行委員長)は4月29日、好天の下で華やかに繰り広げられた。すでに桜は散ってしまったものの、沿道には主催者発表で約1万6千人が詰めかけ、大名行列の時代絵巻と勇壮華麗な郷土芸能を楽しんだ。

 

 大名行列には7地域の住民ら約650人が参加。「金紋先箱」、ひげ奴(やっこ)の先導で悠然と進み、郷土芸能は太鼓や笛、衣装もあでやかに演じた。

 

 最高気温28・2度と真夏並みの暑さの中、観客は熱演する多くの子どもに拍手を送った。美声自慢のひげの先箱は「あれはどこへとなー」「唐丹いいとこなー」の決まり文句を唱えながら行進。本郷の並木では「葉桜もいいもんだなー」「あれは美人だなー」とアドリブを加え、沿道の観衆を沸かせた。

 

美声と言葉で行列の進行を周囲に知らせる「奴さん」も花形

美声と言葉で行列の進行を周囲に知らせる「奴さん」も花形

 

 折り返し点の「御旅所」は、新しい唐丹漁港(本郷)の広場に設けられた。岸壁には満艦飾の漁船が並び、華やぎを加えた。用意した弁当を広げ、久しぶりに会う知人とコップを傾ける家族もあった。

 

 津波で唐丹町荒川の家が流され、片岸に新築した小川原テルさん(91)は「きょうは子や孫の家族12人が集まった。秋田(県)から嫁に来て、宵宮で踊ったこともある。昔から比べると人は少ないが、子どもたちも一生懸命でかわいい」と目を細めた。

 

 荒川の熊野権現御神楽で小頭を振って喝采を浴びたのは盛岡市の黄川田宗幸ちゃん(4)。祖父雲南幹夫さん(66)、父泰幸さん(40)もあきれるほどの熱中ぶりだった。宗幸ちゃんは「神楽が大好き。楽しかった。また出たい」と、やる気満々だ。

 

3基のみこしは、時に猛然と駆け出した

3基のみこしは、時に猛然と駆け出した

 

 震災以降、初めてさくら祭りに登場した小白浜の伊勢太神楽と虎舞。太神楽のおかめ(女形)を“サブ”で演じた唐丹中1年の佐々木悠斗君(12)は「中腰での踊りは疲れた。着物は乱れるし、うまくいかない。でも、続けたい」と意欲を見せた。

 

 片岸の常龍山御神楽で子鶏を担った唐丹小6年の大坂凜さん(11)は「踊りは覚えていたけど、暑く、歩く距離も伸びたので疲れました。でもがんばりました」と汗をぬぐった。

 

子ども、若手のがんばりが祭りを支えた

子ども、若手のがんばりが祭りを支えた

 

 唐丹小、唐丹中の教職員も行列に加わった。中学校で理科を担当する鈴木健久教諭(46)は「朝4時半に起き、駆け付けた。生徒の表情も新鮮だ」と満足そうだった。

 

 行列とともに歩いた野田武則市長は「子どもたちのエネルギーを感じた。郷土芸能を伝承し、唐丹を元気にしてほしい」と激励した。

 

(復興釜石新聞 2018年5月2日発行 第686号より)

 

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金メダルに触って笑顔を見せる児童

金メダリスト 三ケ田さんとスポーツ交流〜ストリートラグビーを楽しく、栗林小の児童とパス交換

ラグビー教室に参加した三ケ田礼一さん(右)。パス回しなどで児童と交流した

ラグビー教室に参加した三ケ田礼一さん(右)。パス回しなどで児童と交流した

 

 栗林小(佐藤勉校長、児童43人)で23日、来年に迫ったラグビーワールドカップ(W杯)釜石開催にちなんだストリートラグビー教室と、アルベールビル冬季五輪のノルディック複合団体で金メダルを獲得した三ケ田礼一さん(51)=県スポーツ振興課=による講演会が開かれた。スポーツを通じた子どもたちの健全育成、ラグビーへの理解を深めW杯への機運を高めるのを目的に、地元の任意団体「エンジョイライフ」(中島俊介代表)と釜石青年会議所(佐々木雅広理事長)が主催した。

 

エンジョイライフ、釜石青年会議所主催

 

 ストリートラグビーは誰でも気軽に体験できるよう、ルールを簡単にした競技。タックルではなく体にタッチして止めるなど、子どもをはじめ幅広い世代が競技の特性を感じつつ、安全に楽しめる。教室は校庭で開かれ、3~6年生約30人が参加。新日鉄釜石ラグビー部OBで釜石シーウェイブス(SW)RFCでもプレーした篠原洋介さん(40)と吉田一行さん(41)が指導した。

 

 児童らはパス回しなどで楕円(だえん)のボールに親しんだ。小笠原暖人(はると)君(6年)は「みんなで一緒にやるのが楽しい」とにっこり。体を動かすのが大好きな小笠原早紀さん(3年)は「試合を見に行きたい」と地元開催のW杯に期待を膨らませた。

 

 篠原さんは「W杯に関わるイベントが増えてくると思うので、顔を出しボールに触れて楽しさを体感してほしい」と期待。仲間の動きをしっかり見ること、声を出して伝え合うことなど、普段の生活にも生かせるラグビーのポイントをアドバイスした。

 

「夢に向かって」三ケ田さん講演 挑戦、努力重ねオリンピック出場

 

 「夢に向かって」と題した三ケ田さんの講演には全校児童が耳を傾けた。幼いころからスキーに親しんでいた三ケ田さんは小学5年生の時にあこがれの金メダリストと出会ったことで、夢は「オリンピック選手」になったという。中学時代はいい結果を残せなかったが、高校に進学し、「スクワットを毎日1千回」と自分の意思で設定した練習をやり続け、高校2年のインターハイで優勝。「あきらめず続けたことが精神的な強さ、いい結果につながった」と振り返った。

 

金メダルに触って笑顔を見せる児童

金メダルに触って笑顔を見せる児童

 

 アルベール五輪への4枚の切符を5人で争うことになった時、「4番目に入ればいい」との気持ちの切り替えが夢の実現につながった。「夢は挑戦と努力という事前準備によってかなえられる。かなえるためには何かしなければいけない」と三ケ田さん。特別なことをするのでなく、普段の生活習慣をしっかり行って誰よりも「なりたい」と強い気持ちを持ち続け、普段の練習を一生懸命やり続けることの大切さを強調した。

 

 三ケ田さんの夢の実現には15年かかった。「みんなにも金メダルを取るチャンスはある。自分なりの目標とする金メダルをもらえるよう頑張れ」とエール。世界で活躍するスポーツ選手に共通するのは「笑顔」と指摘し、「笑顔は自分に力を与えてくれるものであり、周りに元気を与えるもの。みんなも笑顔を忘れず生きてほしい」と願った。

 

 児童会長の佐々木健心君(6年)は「笑顔を忘れず夢に向かって進んでいきたい」と感謝。今年は水泳を頑張って市内1番を目指し、将来は医療・福祉関係の仕事をしたいと夢を膨らませていた。

 

(復興釜石新聞 2018年4月28日発行 第685号より)

 

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男子生徒と軽やかに跳ね上がるTETSUYAさん(右)

EXILE サプライズ ダンス指導、釜石東中生と「ライジング・サン」〜8月新スタジアムで披露、ラグビーW杯へ

EXILEの2人を囲んで「東中イエーイ」と笑顔を広げる生徒たち

EXILEの2人を囲んで「東中イエーイ」と笑顔を広げる生徒たち

 

 来年のラグビーワールドカップ(W杯)に向け釜石市鵜住居町で整備が進む「釜石鵜住居復興スタジアム」(仮称)で8月に行われるオープニングイベントを盛り上げるプロジェクトが24日、釜石東中(佐々木賢治校長、生徒117人)で始動した。元気なダンスでW杯を盛り上げる――。そんな生徒たちをサポートしようと、人気ダンス・ボーカルグループEXILE(エグザイル)のUSA(ウサ)さんとTETSUYA(テツヤ)さんが同校をサプライズ訪問。大喜びの生徒らにダンスを指導した。生徒はこれから約3カ月間、インストラクターの訪問指導や体育の授業で練習に取り組み、8月のイベントで踊る。

 

 EXILEメンバーが東日本大震災被災地を回り、子どもたちに元気と夢を届ける「ダンスで日本を元気に!夢の課外授業」の一環。新スタジアムのこけら落としとなる8月19日のイベントで同校生徒たちと一緒にパフォーマンスを披露する。

 

 24日、体育祭に向けて「東中ソーラン」の練習を終えた全校生徒の前に、EXILEの2人がサプライズで登場した。驚きの声を上げる生徒たちに、佐々木校長が種明かし。「みんな、新しいスタジアムでライジング・サンを踊れー!踊るぞー!」と気勢を上げた。

 

 復興支援曲として制作されたEXILEの「Rising Sun」に合わせたダンスパフォーマンス。2人は生徒たちの間に入って振り付けを指導。EXILEのメンバーでも難しいというステップに苦戦する生徒たちに、踊って見せながらアドバイスをした。

 

 ダンスレッスンの後には、2人を囲んでトークセッションも行われた。

 

男子生徒と軽やかに跳ね上がるTETSUYAさん(右)

男子生徒と軽やかに跳ね上がるTETSUYAさん(右)

 

 三浦花音(かのん)さん(1年)は「テレビでしか見たことのない人が突然来てびっくり。本物は迫力があってかっこいい。ダンスはすごく難しいし不安だけど頑張りたい」、小笠原羽美佳(うみか)さん(3年)は「努力しないとできない踊り。練習に励む」と気合十分。中澤天馬君(2年)は「新しくできるスタジアムは地域の誇りになると思う。本番は集まった人が喜ぶような踊りにしたい」、高清水享妥(きょうた)君(3年)は「夢のような時間を過ごせた。本番で全国の人に釜石が元気だと伝えられるよう特訓したい」と声を弾ませた。

 

 「スタジアムで一緒に踊るのを楽しみにしている」と生徒たちに呼び掛けたUSAさん。「振り付けを覚えるのは難しいが、できた時の気持ち良さ、一つの曲で全員とつながれた時の感動はすごい。みんなで踊れるよう頑張ろう」と励ました。

 

 TETSUYAさんは「ダンスと向き合い練習してもらえれば絶対できる。大事なのは途中であきらめないこと」と強調。「震災でつらい思い、いろんな経験をしたまちには葛藤が混在していると思う。そこに復興のシンボル的存在になるスタジアムができる。世界中の人たちに日本はこんなに元気になったんだということを伝えなければ。まちを盛り上げるべく、気持ちを込めて一緒に頑張りたい」と力を込めた。

 

 同プロジェクトは、人材育成に関連した事業を展開する二十一世紀倶楽部(東京)と、EXILEが所属する芸能事務所LDH JAPANなどによる震災の復興支援事業。EXILEメンバーが学校を訪問してダンスを指導し、イベントなどで発表している。12年に始まり、釜石市の大平中など、これまでに3千人超が参加している。

 

野田市長(左)に意気込みを伝えたEXILEメンバーら

野田市長(左)に意気込みを伝えたEXILEメンバーら

 

 USAさん、TETSUYAさん、主催する二十一世紀倶楽部の一木広治事務局長らは同校訪問を前に、釜石市役所の野田武則市長を訪ね、「たくさんの笑顔が生まれるようにみんなと一緒に作り上げていきたい」などと同プロジェクトへの思いを伝えた。

 

 野田市長は「子どもたちがたくましく人生を頑張れるような励ましになる」と力添えに感謝。「W杯開催が決まり、ラグビーのまち釜石のレガシーを次の世代につなげる、大切で大きな機会をもらった。子どもたちと一緒になって元気な釜石を発信してほしい」と期待した。

 

(復興釜石新聞 2018年4月28日発行 第685号より)

 

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悲惨な思い出をしぼり出すように語る佐野さん

佐野さん、悲惨な艦砲被災語り継ぐ〜「翳った太陽を歌う会」体験を聞く

悲惨な思い出をしぼり出すように語る佐野さん

悲惨な思い出をしぼり出すように語る佐野さん(左)

 

 釜石市の合唱グループ「翳(かげ)った太陽を歌う会」(種市誓子会長、会員12人)は20日、「戦争体験者のお話を聞く会」を小川町の働く婦人の家で開き、米英軍による2度の釜石艦砲射撃(1945年)を経験した大町の佐野健司さん(86)が語る戦争の悲惨さに耳を傾けた。

 

 旧制釜石中学2年だった14歳の時に艦砲射撃を体験した佐野さん。2011年の東日本大震災でも、大町で経営していた酒店が津波で流失。仮設商店街での営業を経て15年に店舗を再建している。

 

 佐野さんは戦時中、父が営んでいた酒店で運送用に飼っていた馬を軍に供出したり、防空壕(ごう)を子どもたちが造らされたり、食料や物品が乏しく苦しい生活の様子を紹介した。空襲警報が頻繁に鳴るようになると、体が弱かった父親は一足早く甲子町松倉に疎開。7月14日の1回目の艦砲射撃や機銃掃射では、母親と酒店で働いていた少女と血まみれになりながら山側の薬師公園に避難した。「助かった。生きていた」。再会した時の父親の姿が忘れられないと言葉をかみしめた。

 

 「苦しい。助けて」。8月9日の2回目の艦砲射撃で、避難した防空壕ごと射撃されて犠牲になった人たちのうめき声。「もうやめて」。火葬の際でも灯火管制で水をかけて中断せざるを得なかった状況で聞かれた犠牲者遺族らの悲痛。「2回目は地獄だった」と声を詰まらせながら語り、平和を引き継ぐことの大切さを訴えた。

 

 同グループは2005年に活動を始め、今年で14年目。市戦没者追悼式での献歌、小学校でのコンサートなどを行ってきた。その中で歌い継いできた合唱組曲「翳った太陽」は、市内の戦争体験者2人の短歌や絵手紙を元に創作されたもの。会員のほとんどが戦争を体験していない世代で、曲への理解を深めようと同様の会をこれまで5回行い、体験者の心に触れながら戦争について学んできた。

 

 震災で一時活動が中断。戦争の愚かさ、平和の尊さを訴えるこの組曲も、戦災の生々しい惨状が震災直後の情景と重なり、歌えなくなった時期もあったという。

 

 計6曲の組曲は全17分。今年の市戦没者追悼式で釜石中生徒有志と組曲を合同合唱する予定で、練習を重ねている。

 

 佐野さんの話は、遺体を火葬した場面などが組曲と重なったという。定内町の佐野順子さん(65)は「言葉にならないつらさ、詞に込められた思いへの理解を深められた」、種市会長(70)は「今は何が起こるか分からない時代。若い人に伝えていかなければ」。同グループ講師で作曲者の最知節子さん(75)は「人間の尊厳を無視するように、青春に土足で踏み込んでくる戦争の悲惨さを多くの釜石の子どもたちに語り継いでいきたい」と思いを強めていた。

 

(復興釜石新聞 2018年4月25日発行 第684号より)

 

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インフォメーションセンターが開館し、見学者が訪れている世界遺産「橋野鉄鉱山」高炉場跡

世界遺産「橋野鉄鉱山」公開再開〜見学環境の充実図る 台風被災の県道開通を追い風に、旧釜石鉱山事務所も再開

インフォメーションセンターが開館し、見学者が訪れている世界遺産「橋野鉄鉱山」高炉場跡

インフォメーションセンターが開館し、見学者が訪れている世界遺産「橋野鉄鉱山」高炉場跡

 

 釜石市橋野町青ノ木の「橋野鉄鉱山インフォメーションセンター」は冬期休館を終え、4月1日から見学者の受け入れを再開した。世界遺産登録から4年目を迎える「橋野鉄鉱山」。市世界遺産課は、一昨年8月の台風10号による豪雨被害からの復旧を継続するとともに、デジタルコンテンツの制作など見学環境充実を図り、さらなる誘客につなげたいとしている。

 

 橋野鉄鉱山の一般公開エリア「高炉場跡」は、台風被害を受けた見学路の仮復旧などを終え、歩行環境が改善。隣接する二又沢川の護岸復旧工事のため、三番高炉北側の種焼場周辺は立ち入り禁止区域が設定されているが、通常見学にはほぼ支障がない状態となっている。

 

 センターの開館に合わせ、1日からさっそく見学者が訪問。寒さもあり、来訪者はまだ少なめだが、台風被害で全面通行止めが続いていた県道釜石遠野線笛吹峠が昨年12月に開通したことで、同道路を利用して訪れる人も見られる。

 

 7日に訪れた遠野市青笹町の菊池信也さん(49)、久美子さん(50)夫妻は「笛吹峠も開通したので、一度は来てみたいと思って」と初めて見学。高炉の石組みを眺め、「すごいよね。人の手で造られたんだもんね」と感心。「世界遺産になったことで遠野も釜石も(観光客増加など)互いに良い効果が生まれれば」と願った。

 

 同センターの昨年(4月1日~12月8日)の入館者数は9865人。前年に比べ約7300人減少しており、内陸からのアクセス路となる笛吹峠の通行止めが大きく影響したものと見られる。今年は峠開通による見学者数の回復に期待が寄せられる。

 

 同課によると本年度は、護岸工事のほか見学路の本格復旧を進める。遺跡関連では二番高炉周辺の試掘調査、同高炉の絵巻を基にした上部構造を含むAR(拡張現実)映像の制作などを計画する。映像は来年公開予定で、スマートフォンやタブレットで見ることができる。釜石で開かれるラグビーワールドカップ(W杯)を見据え、外国人観光客に対応する英語版パンフレットも作成する。

 

 同センターの今年の開館は12月9日まで(午前9時半~午後4時半)。期間中は無休で、入館料は無料。

 

 また、同じく冬期休館していた甲子町大橋の「旧釜石鉱山事務所」も1日から開館した。鉱山関連の資料に、今年は東北最古の地質図とされる「ナウマンの地質図」が常設展示に加わった。開館期間は12月9日まで(午前9時半~午後4時半、最終入館は午後4時)。火・水曜日は休館。入館料は大人300円、小・中学生100円。

 

(復興釜石新聞 2018年4月11日発行 第680号より)

 

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新生活に期待を膨らませる上中島こども園の新入園児ら

上中島こども園で開園・入園式〜多様な子育てバックアップ、72人が新しい環境で第一歩

新生活に期待を膨らませる上中島こども園の新入園児ら

新生活に期待を膨らませる上中島こども園の新入園児ら

 

 本年度から釜石市がスタートさせる上中島町の市立上中島こども園(藤原安園長)で7日、開園・入園式が行われた。老朽化により保育環境の改善が課題となっていた市立上中島保育所を移転整備したもので、この春、幼稚園と保育所機能を併せ持つ認定こども園に移行。新入園の14人を含む園児72人が新たな環境での第一歩を踏み出した。併設する障害児通所支援事業所「すくすく親子教室」や、同じ敷地に整備された上中島児童館と合わせ、利便性に富んだ包括的な保育環境の創出、多様な子育てニーズに応える施設として役割を発揮する。

 

幼保連携型認定こども園としてスタートした上中島こども園

幼保連携型認定こども園としてスタートした上中島こども園

 

 式には園児と保護者、市関係者ら約100人が出席。あいさつに立った野田武則市長は「市が運営し、地域の拠点として活用しようと設置。就学前教育、子育て支援の場として保護者ニーズに沿った運営をし、地域の重要で大切な拠点として活躍してほしい」と期待を述べた。

 

 藤原園長は「子どもたちの健やかな成長を見守る施設運営を目指す」と意欲を示し、子どもたちには「早寝、早起き、朝ごはんという約束事を守って通ってほしい」と呼び掛けた。

 

 新入園児は名前を呼ばれると、0~3歳児は父母の膝の上で、4歳児は手を挙げて「はーい」と返事した。在園児を代表して式に参加した年長児11人は新入園児に手作りの首飾りをプレゼント。園歌などを披露し、新しいお友達を歓迎した。

 

 進級した寄松廉君(5)は「友達がいっぱいになってうれしい。いっぱい遊ぶ」と笑顔を見せた。妹の未来ちゃん(1)、結ちゃん(生後2カ月)は新入園。父親の隆広さん(38)は「共働きなので3人一緒に預けることができ、安心感がある。明るく元気に育ってほしい」と見守った。

 

 同園の前身、上中島保育所は1975年に開所。施設の老朽化など保育環境の改善が課題となっており、市は就学前教育の拡充、子育て環境の充実を目的に、こども園や児童館などを備えた保育・幼児教育エリアの整備を決めた。上中島地区の仮設住宅や復興住宅などが隣接する場所で施設整備が進められ、今年1月に完成し、保育所として運営を開始。本年度から幼保連携型認定こども園に移行した。

 

(復興釜石新聞 2018年4月11日発行 第680号より)

 

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「ずっと釜石を応援する」と宣言した佐渡裕さん

指揮者の佐渡裕さん「ずっと釜石を応援する」〜スーパーキッズオーケストラ、被災地へエールの“熱奏”

釜石市民吹奏楽団と合同で演奏するスーパーキッズ・オーケストラ

釜石市民吹奏楽団と合同で演奏するスーパーキッズ・オーケストラ

 

 指揮者として世界で活躍する佐渡裕さんが率いるスーパーキッズ・オーケストラの演奏会が1日、釜石市民ホールのグランドオープンを記念し、同ホールで開かれた。東日本大震災の年から同オーケストラの活動を通して被災地に心を寄せ続けている佐渡さん。子どもたちのエネルギッシュな演奏に重ねて「これからもずっと釜石の姿を見続けたい」と言葉を贈り、ほぼ満席となった市民を感激させた。

 

 同オーケストラは、兵庫県立芸術文化センターの芸術監督を務める佐渡さんが2003年に立ち上げ、小学生から高校生までオーディションで選ばれた精鋭で編成する。2011年からは震災被災地を毎年訪問。釜石では鵜住居町の根浜海岸で犠牲者を慰霊する演奏を続けている。

 

「ずっと釜石を応援する」と宣言した佐渡裕さん

「ずっと釜石を応援する」と宣言した佐渡裕さん

 

 今回の演奏会は、サントリーホールディングスなどが支援する「こころのビタミンプロジェクト」の一環。2年前に大きな地震災害のあった熊本県内を巡ったあと、仙台市、大槌町に続いて釜石に足を運んだ。

 

 歌劇「メリーウイドウ」、映画「ニューシネマパラダイス」のテーマ曲などを力強く演奏。釜石市民吹奏楽団の約40人を加えて復興支援ソング「花は咲く」や「ふるさと」も奏で、客席の市民も声を重ねた。最後は復興への祈りを込め、バッハの「シャコンヌ」で締めた。

 

 「阪神淡路大震災から立ち上がった兵庫県立芸術文化センターには年間50万人が訪れる。スーパーキッズを次の世代につなげていくことが大きな意味を持つ」と佐渡さん。演奏の合間を縫う形で被災地に寄せる思いも語った。「長く支援し続けることが大事。ずっと釜石を応援していく」と宣言すると、客席から大きな拍手が沸き起こった。

 

 浜町で被災し、今なお天神町の仮設住宅で暮らす赤崎成子さん(60)は「佐渡さんの力強い言葉が胸に響いた。温かな人間性が感じられた」と感激していた。

 

(復興釜石新聞 2018年4月7日発行 第679号より)

 

復興釜石新聞

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唐丹中3年生に囲まれ、閉講を迎えた佐々木さん(前列中央)

唐丹中学校「学びの部屋」〜講師に感謝の色紙

唐丹中3年生に囲まれ、閉講を迎えた佐々木さん(前列中央)

唐丹中3年生に囲まれ、閉講を迎えた佐々木さん(前列中央)

 

 唐丹中(千葉伸一校長、生徒35人)の3年生10人を対象とする学習支援教室「学びの部屋」が6日、本年度の講座を終えた。生徒らは、学習支援相談員佐々木初太郎さん(70)に寄せ書きの色紙を贈って感謝した。生徒は全員が市内、県内の高校への進学を目指す。

 

 学びの部屋は、東日本大震災で被災した地域の学習支援活動を続ける一般社団法人子どものエンパワメントいわて(盛岡市、山本克彦代表理事)が主催する。元教員の佐々木さんは、昨年7月から唐丹中を担当した。

 

 同教室は毎週4日間、放課後に開設。3年生は任意で多目的ホールに集まった。受験を目前にした6日、最終講座の後、閉講式が行われた。

 

 千葉校長が感謝を述べ、生徒らは「教えてもらったことを今後に生かす」「温かく、すばらしい言葉を忘れず、高校生活もがんばる」と笑顔で話した。

 

 佐々木さんは戦後生まれて間もなく、旧満州(中国東北部)から父親の故郷大槌町金沢に引き揚げた。東京都で教べんをとり退職。震災に衝撃を受け、翌年帰郷。若者の生業支援を目指す活動を続ける。

 

 佐々木さんは「この生徒たちは小学校低学年で震災を体験し、苦労もしてきたはずだが、学校の先生や地域の人に見守られてすくすく育った。温かく接し、受け入れてくれた生徒に、私の方が感謝したい」と語った。

 

(復興釜石新聞 2018年3月10日発行 第671号より)

 

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出展業者からさまざまなアドバイスを受ける来場者。一般の人が祭礼で使う道具を知る機会にもなった

伝統芸能の復興後押し〜国立民俗学博物館、道具や衣装の補修を助言

出展業者からさまざまなアドバイスを受ける来場者。一般の人が祭礼で使う道具を知る機会にもなった

出展業者からさまざまなアドバイスを受ける来場者。一般の人が祭礼で使う道具を知る機会にもなった

 

 東日本大震災で経験した郷土芸能団体の活動存続危機を教訓に、災害対策や助成情報などを共有する「郷土芸能復興支援メッセin釜石」が24、25の両日、釜石市大町の市民ホール「TETTO」で開かれた。震災後、被災団体の実態調査や活動再開へのサポートを行ってきた国立民族学博物館(吉田憲司館長)が実行委を組織し、同ホールで行われた市郷土芸能祭に合わせて開催した。

 

 同ホールのロビーとギャラリーを会場に、10団体が出展。震災で被災した無形文化遺産(民俗芸能、祭礼など)の復興・支援情報の記録公開、各種助成制度とその申請手続きの案内・相談が行われたほか、芸能団体の道具や衣装製作を手がける業者が修理、日ごろの手入れ方法などについて相談に応じた。出展業者は浅野太鼓楽器店(石川県)、宮本卯之助商店(東京都)、伊藤染工場(花巻市)、京屋染物店(一関市)の老舗4社。太鼓や笛、衣装、関連する小道具などを展示しながら、来場者に情報提供した。

 

 宮本卯之助商店は津波で流失した虎舞の頭や太鼓の製作など市内十数団体の復興に尽力。両石や片岸に代表される木彫りの虎頭の復元では、写真や団体メンバーの記憶を頼りに何度も調整を重ね、伝統の形を作り上げていったという。同社営業部の岡部達也課長は「道具に込められた神様への思いを強く感じ、私たちも勉強させてもらった」と貴重な経験を振り返り、今後の防災対策の一環として、使用中の道具類をデータ化し後世につないでいくことを薦めた。会場では無償で太鼓の締め直しも請け負った。

 

 芸能祭出演後、締め太鼓の調整を依頼した平田青虎会の佐々木一永会長(36)は「プロにお願いしないとできない部分なので非常にありがたい。業者さんからアドバイスももらえて良かった」と喜んだ。同会は津波で道具や衣装、屋台を流失。新調した屋台の金具関係で同社の世話になったという。

 

 市内沿岸部の郷土芸能団体は、震災の津波で多くの道具類を失い、活動再開に至るまで大変な苦労を伴った。県内外の支援団体の協力で現在は、被災団体の多くが最低限の道具をそろえ、地域の祭りや市内外の復興支援公演などで活躍。市民の心の支え、被災地の現状発信に大きな力を発揮している。

 

 同博物館大規模災害復興支援委員会外部調査員で、本イベントの実行委員長を務めた笹山政幸さん(釜石市)は「芸能団体が災害時にいち早く立ち上がるには、平常時からの助成金に関する知識や関係業者とのつながりが必要。この機会が継承課題解決や次世代の不安解消の一助となり、モデルとして他の被災地でも生かされれば」と願った。

 

(復興釜石新聞 2018年2月28日発行 第668号より)

 

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埋蔵文化財展では、大昔の人々の暮らしを垣間見ることができるさまざまな遺物が展示された

埋蔵文化財が一同に、釜石・大槌の出土遺物を中心に〜「文化・芸術が集うとき in 釜石」県立博物館も合同展示

 埋蔵文化財展では、大昔の人々の暮らしを垣間見ることができるさまざまな遺物が展示された

埋蔵文化財展では、大昔の人々の暮らしを垣間見ることができるさまざまな遺物が展示された

 

 公益財団法人岩手県文化振興事業団(県民会館、埋蔵文化財センター、博物館、美術館)主催のイベント「文化・芸術が集うときin釜石市」は、16日から18日まで大町の市民ホール「TETTO」で行われた。本県の自然や文化、歴史などを身近に感じ理解を深めてもらおうと、2012年度から各市町村で開かれ、釜石市は6カ所目の開催。復興事業に伴い発掘された埋蔵文化財や県立博物館収蔵資料の展示、同美術館長講座、釜石出身の音楽家らによる演奏会などがあった。会場には幅広い年代の人が足を運び、さまざまな文化・芸術に触れて楽しみ、理解を深めた。

 

 第38回埋蔵文化財展・17年度県立博物館移動展の合同展示は、ホールBで3日間開催され、最終日の18日は、展示解説会も開かれた。

 

 埋蔵文化財展では、震災後の復興事業(道路建設など)に伴って沿岸部で実施された緊急発掘調査のうち、釜石・大槌地区の成果を中心に公開。各遺跡の出土遺物や遺跡の現場写真など約300点が並んだ。

 

小白浜遺跡(唐丹町)では竪穴住居13棟が見つかり、土器や石皿などが出土した

小白浜遺跡(唐丹町)では竪穴住居13棟が見つかり、土器や石皿などが出土した

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 県立埋蔵文化財センターが同地区で行った復興発掘調査では、縄文時代早期(約8千年前)から室町時代(約500年前)までの遺跡を発見。縄文時代の竪穴住居や貯蔵穴、土器や石器、土偶、平安~室町時代の鉄作りを物語る炉や木炭窯、鉄滓(てっさい)、鉄製の鏃(やじり)など、各年代の暮らしや産業を裏付ける遺構や遺物が多数出土した。

 

 釜石市内では今年1月現在、318の遺跡が確認されており、12~17年度までに市教委や同センターなどが行った復興発掘調査は20件。片岸、箱崎、鵜住居、平田、唐丹地区で、竪穴住居などの集落跡が見つかっている。

 

 この中で最も古いのは唐丹湾に面した屋形遺跡で、縄文中期末から後期初頭(約4千~3500年前)の貝塚から、シカの角で作った釣り針やイノシシの牙で作った垂飾品(首飾りなど)が出土。同展では、この貝塚の地層貼り取り標本も展示された。今後は国指定史跡を目指し調査を実施するという。

 

 年代が新しいのは、平安終期から鎌倉時代の川原遺跡(鵜住居町)。12世紀後半から13世紀代の中国産磁器(青磁・白磁)、東海地方産の陶器(常滑・古瀬戸など)、かわらけが出土しており、平泉文化の影響が考えられるという。

 

 同センターの職員は「沿岸部は元々、開発が多くなかったので、遺跡が丸ごと残っている状態の所が多い。復興関連の発掘で今まで知られていなかったことがたくさん分かってきた」と話した。

 

 博物館移動展では、地質、歴史、民俗、生物の4部門から約90点の収蔵資料を展示した。釜石市関係で目を引いたのは、栗林町砂子畑地区に広がる古生代デボン紀(約3億7200万~3億5900万年前)の地層「千丈ヶ滝層」から見つかった植物(リンボク)の化石。国内最古の植物化石の一つだという。また、近代製鉄発祥の地ならではの豊富な鉱石も。中生代白亜紀(約1億4500万~6600万年前)に上昇したマグマが石灰岩と化学反応してできた「スカルン鉱床」から鉄鉱石や銅鉱石が産出され、後の製鉄業発展につながっていった歴史的価値が紹介された。

 

釜石の鳥瞰図の説明を聞く来場者。1枚は市制施行記念で発行

釜石の鳥瞰図の説明を聞く来場者。1枚は市制施行記念で発行

 

 このほか、京都出身の吉田初三郎が描いた昭和初期の釜石の鳥瞰(ちょうかん)図2種(1934、37年)、盛岡藩士・田鎖鶴立斎の絵を版画にした江戸時代の「釜石・尾崎白浜之図」、三貫島の植物(タブノキ、ベニシダなど)標本、震災の津波で失われた片岸町ミノスケ沼で採集された野鳥(アオジ、オオジュリン)の剥製も公開された。

 

 来場者は学芸員らの説明を聞きながら、岩手が誇る貴重な資料を興味深そうに見入っていた。

 

(復興釜石新聞 2018年2月21日発行 第666号より)

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