震災後の古里の風景描く、甲子町洞泉「こすもす」で油彩展〜「海が好き」「釜石が好き」定年退職 Uターンの藤枝新悦さん


2018/07/20
復興釜石新聞アーカイブ #文化・教育

古里で初めての個展を実現した藤枝新悦さん

古里で初めての個展を実現した藤枝新悦さん

 

 釜石市甲子町砂子で「アトリエ陽炎(かげろう)」を主宰する画家、藤枝新悦さん(66)の油彩展が甲子町洞泉の「創作農家こすもす」で開かれている。神奈川県から古里にUターンして4カ月。地元では初めての個展で、震災後に描いた釜石港周辺の油彩画を中心に11点が展示されている。

 

 藤枝さんは大町出身。もともと絵を描くのが好きだったが、高校時代に出会ったゴッホの作品に衝撃を受け、独学で油彩を始めた。画家を目指し美術大学を受けたものの入り口は狭く、親の反対もあったことから就職を選択。神奈川県川崎市の大手電機メーカーで材料開発に携わった。

 

 絵を描くことを諦め切れず、川崎の美術協会に所属。どんなに仕事が忙しくても毎日協会のアトリエに通い、描き続けた。20代前半に仲間とともに絵画グループ「陽炎会」を結成。神奈川県内でグループ展や個展などを毎年開催するなど精力的に活動した。

 

 定年退職後、化学製品の製造販売会社に再就職したが、2年前、妻の介護に専念するため退職。以前から「釜石にアトリエを作り、古里の自然を描きたい」との思いがあり、昨年3月に妻を亡くすと、そうした思いが一層強まった。今年3月に地元釜石へ。当初、実家のあった大町周辺での暮らしを考えていたが断念し、現在の場所で中古物件をリフォーム、自宅兼アトリエを構えた。

 

 実家が海に近いこともあり、「海を描いた絵が多い」と藤枝さん。今回の展示も、新浜町の魚市場や浜町の高台、港町、嬉石町などから眺める海の風景画が中心だ。ほとんどが震災後に描かれたもので、現場に行って感動した風景をキャンバスに残している。

 

 藤枝さんは10年ほど前から毎年里帰りした際、古里の風景を描いてきたが、震災で実家が被災。保管していた10点を超える作品も失った。「それでもやっぱり海が好き。釜石が好き。生まれたところだから」。見慣れた風景が変わってしまったことに寂しさを感じつつ、海に足を運び続ける。

 

 古里に戻り、一つの夢をかなえた藤枝さん。次なる目標は「甲子地区の冬の風景を描くこと」。現在の住まい周辺でも知り合いが増え、「記録として人物画も描きたい。自分なりに表現し、残したいもの、やりたいことはいっぱいある」と意欲は衰えない。

 

 藤枝さんにとって、絵は「表現するための手段で、生きがい」。今回の展示は8月上旬までを予定している。その後も作品を変えながら継続したい考え。「釜石の自然の良さを見て感じてもらえたら」と来場を呼び掛ける。

 

 創作農家こすもすの営業時間は午前11時から午後4時。火・水曜日は定休日。

 

(復興釜石新聞 2018年7月14日発行 第706号より)

 

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