約2100人の観衆が見守る中、行われた釜石シーウェイブスとコベルコ神戸の記念試合
ラグビーワールドカップ(W杯)2019日本大会から2年。会場の1つとなった釜石市の釜石鵜住居復興スタジアムで14日、記念試合が行われ、地元の釜石シーウェイブス(SW)RFCと神戸製鋼からチーム名を替えたコベルコ神戸スティーラーズが対戦した。SWは格上の神戸相手に善戦。25-40(前半11-19)で敗れはしたが、闘志あふれるプレーにスタンドは大いに盛り上がり、W杯の熱気をほうふつとさせた。
来年1月に開幕するリーグワン(3部構成)で1部の神戸と2部の釜石。強豪神戸に挑む釜石は終始追う展開ながら、強化してきたFWを中心に成長した姿を見せた。前半、神戸の2本のトライで14点のリードを許した釜石は17分、ゴール正面のPGをFB中村良真が確実に決め3-14。23分にはマイボールラインアウトからモールに持ち込み、HO芳野寛が右隅にトライ。8-14と点差を縮めた。ロスタイムの40分すぎ、釜石は何度も神戸ゴールライン付近まで切り込むも攻め切れず、終了間際にCTBヘルダス・ファンデルヴォルトが決めたPGで、前半を11-19で折り返した。
モールを抜け出し、インゴール目がけて突進する芳野寛選手(写真:西条佳泰 Grafica Inc.)
前半23分、待望のトライを決める釜石SW。8―14と点差を縮める
後半、神戸のトライで11-26とされた釜石は7分、敵陣5メートル付近のラインアウトからのモールで一気に押し込み、FL木村優太がトライ。ゴールも決まり、18-26と押し戻した。神戸もすかさず反撃。3分後にトライ(ゴール成功)を奪い、15点差に突き放した。釜石は26分にもモールで攻め、途中出場のNo8王野尚希がゴール下にトライ(ゴール成功)。25-33と追い上げるも、試合終了2分前に神戸にトライを決められ、25-40で敗れた。
後半7分、釜石2本目のトライで喜びに沸き立つ
試合後の記者会見で、釜石SWの須田康夫ヘッドコーチは「FWのモールスコアなど神戸に対して通用する部分も多く、自分たちの武器を確信できた。足りない部分を修正し、リーグ開幕までにクオリティーを高めていく」と気を引き締めた。CTB小野航大主将は「自分たちが目指す形にはまだ遠い。しっかり勝ち切りたい」とし、東北唯一のリーグワン参戦チームとして「多くの人が応援したいと思う強いチームになれるよう頑張っていく」と意気込みを示した。
善戦した釜石SWの選手ら。試合終了後、観戦客にあいさつに向かった
両チームの健闘をたたえる観戦客。揺れる赤いフラッグが2年前のW杯を思い起こさせる
同スタジアムでのSWの試合は、3月のトップチャレンジリーグ近鉄戦以来8カ月ぶり。桜庭吉彦ゼネラルマネジャーは「このスタジアムに多くの人が集まってラグビーを通じて1つになることが、地元チームとしての活動意義。地域との距離が近い強みも生かし、リーグワンの集客につなげていきたい」と話した。
コベルコ神戸の選手、スタッフらは前日に、陸前高田市の津波復興祈念公園なども訪問。福本正幸チームディレクターは阪神・淡路大震災の被災経験と重ね合わせ、「釜石SWが市民と一緒に震災復興を成し遂げてきたことを聞き、大きな学びを得ることができた。チームの力にし、神戸の皆さんにも還元していきたい」と感謝した。
記念試合を盛り上げるイベントも多彩に 幅広い世代が笑顔で満喫
桜舞太鼓と鵜住居幼稚園児の虎舞で作る花道を進む釜石、神戸の選手ら
今回の記念試合は、W杯釜石開催のレガシー継承などを目指し、県や市で組織するいわて・かまいしラグビーメモリアルイベント実行委が主催した。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、観戦者を県内在住者に限定。約2100人が来場した。
紫波町のラグビースクールで活動する藤尾陽成君(赤石小2年)は「プロの試合を間近で見られてうれしい。試合から学んだことを生かして頑張りたい」と力をもらった。盛岡市の森敬司さん(71)は19年のW杯開催時、釜石ファンゾーンで運営ボランティアとして活動。今回は純粋に試合観戦を楽しもうと駆け付け、「ここで作られたレガシー、ラグビー熱を体感。スポーツはいい。元気をもらった」と喜んだ。
試合前には、歌手の平原綾香さんが県内のダンススクールの子どもたちと共演。市内の小中学生はハーフタイムに、世界への感謝を伝える「ありがとうの手紙」を合唱した。菅原優作君(甲子中3年)は「W杯とは規模が違うが、たくさんの方に見てもらう機会で、みんなで力を合わせて歌った。感謝の気持ちをしっかり伝えられた」と胸を張った。
試合前、感動の歌声を響かせた平原綾香さん。18年のスタジアム完成時にも招かれている
合唱で震災復興への感謝を伝える市内の小中学生
同スタジアムではW杯のフィジー対ウルグアイ戦が行われた。ナミビア対カナダ戦は台風の影響で中止され、県や市は昨年から両国を招いての記念試合を模索する。野田武則市長は「コロナで延びているが、引き続き努力していく。これが実現しない限り、19年のW杯は終わらない」と思いを述べた。
スタジアムで試合ができなかったナミビア、カナダの国旗を掲げ、両国への思いを発信
敷地内には大画面で試合を楽しめるファンゾーンも設けられ、約360人が来場した。試合後のスペシャルトークショーには、対戦カードの釜石、神戸両チームに在籍した元日本代表FWの伊藤剛臣さんが登場。「釜石はチャレンジャー精神で神戸にぶつかり、試合は大いに盛り上がった。夢、希望、元気、勇気が釜石のレガシー。これからも一緒に盛り上げていきたい」などと話し、会場を沸かせた。
トークショーで盛り上げた伊藤剛臣さん(右)
八幡平市の藤原シゲ子さん(60)は記念試合のチケットを取ることはできなかったが、久しぶりの大きなイベントを楽しみたいと足を運んだ。W杯釜石開催を振り返る展示や飲食ブースを回り、催された抽選会で記念グッズをゲット。「来たかいがあった」と満足そうだった。
飲食ブースには県内の業者やキッチンカーが出店。ホタテの浜焼き400食を提供したNPO法人おはこざき市民会議の佐藤啓太理事長(39)は「人が集まる景色は久々。新鮮な海産物をPRし、地域を盛り上げたい」と腕を振るった。