津波の歴史を後世に 唐丹「海嘯遭難記念之碑」レプリカ 市郷土資料館に展示


2021/11/26
釜石新聞NewS #防災・安全

「海嘯遭難記念之碑」レプリカの搬入作業=釜石市郷土資料館=15日

「海嘯遭難記念之碑」レプリカの搬入作業=釜石市郷土資料館=15日

 

 東日本大震災の津波で損傷した釜石市唐丹町本郷の明治三陸大津波の碑「海嘯(かいしょう)遭難記念之碑」の原寸大レプリカが、鈴子町の市郷土資料館にお目見えした。本年3月に同碑の修復作業を行った大阪府吹田市の国立民族学博物館が寄贈。資料館の津波展示コーナーに据えられ、過去の津波被害の歴史と教訓を後世に伝える。

 

 15日、修復作業を主導した博物館の日髙真吾教授(50)=保存科学専攻=ら職員5人が資料館にレプリカを搬入。市文化振興課から藤井充彦課長(郷土資料館長)らが立ち会い、寄贈に感謝した。

 

大阪からトラックで運ばれてきたレプリカを降ろす国立民族学博物館の職員

大阪からトラックで運ばれてきたレプリカを降ろす国立民族学博物館の職員

 

碑の修復にあたった日髙真吾教授(右)、市文化振興課の藤井充彦課長(左)ら

碑の修復にあたった日髙真吾教授(右)、市文化振興課の藤井充彦課長(左)ら

 

 同碑は1896(明治29)年6月15日に発生した三陸大津波から33回忌にあたる1928(昭和3)年、地元住民の発案で建立された。碑文には流失家屋300戸、犠牲者800人、生存者20人という壊滅的な被災状況とともに未来への伝承を願う強い思いが刻まれていた。

 

 レプリカは修復方針を立てるためのサンプルとして制作され、同博物館が3月に開いた震災10年を振り返る特別展「復興を支える地域の文化」の中で一般公開された。原寸大で高さ250センチ、幅160センチ。自然石の碑を再現するために用いた素材はFRP(繊維強化プラスチック)で、同加工を得意とするアーティストが造形、吹き付け塗装して仕上げた。

 

 実物の碑は、アスファルト状素材の基盤に浮き彫り、刻字した題字と碑文をくりぬいた石にはめ込んでいたが、震災の津波で碑文の半分が欠損した。修復は「震災遺構」としての意義を重視し、残存部分を補強、接着し直す作業にとどめている。レプリカの文字板は石こう製。3D機器を駆使し、実物そっくりに作られた。

 

実物の質感、色味が忠実に再現された文字部分

実物の質感、色味が忠実に再現された文字部分

 

東日本大震災の津波で欠損した碑文。衝撃の強さを物語る

東日本大震災の津波で欠損した碑文。衝撃の強さを物語る

 

 日髙教授は「原寸大サンプルで検証するのは珍しい。レプリカは出来栄えも上々。釜石の皆さんが震災の記憶をつなぐための一助として活用してもらえれば」と寄贈の理由を明かした。

 

 教授の研究グループは同震災の検証を進める中で、三陸沿岸に過去の津波碑が多く残されている点に注目。現存する場所を地図上に示し、データベース化している。「各地に残る碑に刻まれた大事な教訓が忘れ去られている部分があった。今回の震災であれだけの被害を出してしまったのは大きな反省点。今度こそ、しっかりと記憶を継承していく必要がある」と日髙教授。

 

 市文化振興課の手塚新太課長補佐(文化財係長)はレプリカを目にし、「インパクトがある。ここまで正確に作られているとは驚き。館にとっても貴重な資料となる」と喜んだ。明治、昭和の三陸大津波、東日本大震災と、市内には被害状況や教訓を伝える津波碑が数多く存在する。「石でできたものは残るので強み。末代まで続く伝承ツールとして大きな意味がある」とし、さらなる情報発信に意欲を示した。

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