タグ別アーカイブ: 防災・安全

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発信!「十分な備えあり」 釜石港でテロ対策訓練 関係機関が連携確認

船上で行われたテロ対策訓練で、テロリスト役(右)と対峙する海上保安官

船上で行われたテロ対策訓練で、テロリスト役(右)と対峙する海上保安官

 
 テロの脅威に備える保安訓練は10月19日、釜石市の釜石港公共ふ頭周辺で行われた。岩手県警釜石署や釜石海上保安部など19機関の約90人が参加。情報共有、海陸での制圧、負傷者救助などの訓練を行い、有事の際の連携や水際対策の手順を確認した。
 
 訓練の想定は「釜石港にテロリストが潜伏している情報が届いた」。警戒措置を取り、ふ頭など制限区域にいる人を避難させた。岸壁では停泊中の船舶に潜伏したテロリストが車を奪って逃走。パトカーが追跡、包囲して身柄を確保した。船内に残る不審者の身柄を海上保安官が確保。負傷した船員を釜石消防署の救急隊員が処置し、病院に搬送した。港内では小型ボートで逃走する3人のテロリストを発見し、海上保安部の巡視艇「きじかぜ」が追跡。銃撃を受けながら警告射撃をし、容疑者を制圧した。
  
ナイフを持ったテロリスト役(左)に向かう釜石警察署員

ナイフを持ったテロリスト役(左)に向かう釜石警察署員

  
テロリスト役(前から2人目)を制圧した海上保安官

テロリスト役(前から2人目)を制圧した海上保安官

  
洋上で逃げるテロリストの小型ボート(手前)を追跡する釜石海上保安部の巡視艇

洋上で逃げるテロリストの小型ボート(手前)を追跡する釜石海上保安部の巡視艇

  
 この訓練は、「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安確保等に関する法律」に基づき、釜石港保安委員会(委員長・白旗牧人沿岸広域振興局土木部長)が毎年行う。白旗部長は「釜石港はガントリークレーンの供用開始以来、外航定期航路の開設、三陸沿岸道路などの開通と合わせ、コンテナ取扱量が増加傾向にあり、物流拠点としての需要が大きくなっている。国際交易が盛んになるほどテロリスクの高まりが懸念され、関係機関の連携を密にし保安体制に万全を期したい。『われわれには十分な備えがある』と外部に発信する機会にもなる」と意義を強調した。
  
コンテナ定期航路の開設により保安体制の強化が求められる釜石港

コンテナ定期航路の開設により保安体制の強化が求められる釜石港

  
 釜石港の危機管理担当者、釜石海上保安部の虻川浩介部長は「世界的に不安定な情勢が続く中、社会の混乱に乗じたテロの可能性も懸念される。日頃から地道に水際の対策を講じていくことが重要だ。今後も関係機関で連携し関連情報の収集、テロ警戒対象施設の警戒監視の強化を図り、港湾の保安向上に努めていく」と力を込めた。

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防災意識の地域格差を埋めたい! 釜石高生有志「クロスロード」作成 災害時に迫られる選択を追体験

「釜石版クロスロード」を作成した釜石高生

「釜石版クロスロード」を作成した釜石高生

  
 災害時にどのような行動を取るべきかをいくつかの選択肢から選ぶ防災ゲーム「クロスロード」。釜石高の生徒有志で結成する防災・震災伝承グループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」のメンバー4人がこのほど、釜石版を作成した。「イオンタウン釜石で買い物中に大地震が起こったら、あなたならイオン内で垂直避難する?より高台の避難場所の薬師公園に逃げる?」。東日本大震災時に釜石市民が置かれた状況や実際の避難行動、実在する場所を盛り込んで選択を迫る。18日、三陸探究実習で釜石市を訪れた盛岡三高1年生40人に体験してもらった。
  
 体験会は鵜住居町の鵜住居公民館で開催。盛岡三高生は5、6人のグループに分かれ、釜石高生の進行に従ってクロスロードに挑んだ。用意された問いは、「避難しないと言い張る祖父母を置いて逃げるか、説得するか、一緒に逃げるか」「車いすの人を自分一人で助けに行ったが、15分たってしまった。諦めて逃げるか、ほかの案を考えるか」「ペットを連れて避難所に入るか」など六つ。「Yes(はい)」「No(いいえ)」の2択、あるいは想定される行動などの3択から「自分ならどうするか」を考えた。
  
クロスロードに挑戦する盛岡三高の生徒。いざという時の判断を考えた

クロスロードに挑戦する盛岡三高の生徒。いざという時の判断を考えた

  
 「海で遊んでいると大地震が発生。『これほど大きな揺れでは避難先の宝来館も危険』と言われ、宝来館の裏山まで逃げた。このことを知らない多くの人が宝来館に集まっている。波が見えるほど迫っていることを知らせに行くか」との問題は、「Yes」「No」で判断。「たくさんの命を助けられる」「走れば間に合う」という理由で「Yes」を選ぶ生徒もいれば、「叫べばいい。戻ってはいけない」と「No」を強調する声もあった。どの問題にも正解はなく、ほかの人の意見を聞きながら多様な視点を共有した。
  
選んだ答えとその理由を発表する盛岡三高生

選んだ答えとその理由を発表する盛岡三高生

  
 命を左右する選択が続き、盛岡三高の奥玉悠花さんは「判断が難しい。もっとたくさんの選択肢があると感じたが、沿岸で暮らしたことがなく、その時にならないと分からないことが多い。沿岸で暮らす人の声をもっと聞いてみたら、よりよい選択ができ、考えが深まる。自分の地域の災害に当てはめて考えてみるのもいい」とうなずいた。
  
ほかのグループの活動を見て回り、多様な考えに触れた

ほかのグループの活動を見て回り、多様な考えに触れた

  
 釜石版は、出身中学校によって防災意識の差があることに着目し、その差を埋めようと作成された。発案者は、震災時に津波から避難した経験のある中居林優心(こころ)さん(2年)。1年生の探究活動で、津波に関する防災意識や避難訓練参加の有無などを同級生らから聞き取ったところ、市内の内陸部と沿岸部の学校では格差があることを発見した。同じまちに暮らす全員が同じレベルの防災意識を持ってほしい―。津波からの避難を経験した小笠原桜さんや佐々木太一君、大瀧沙來(さら)さん(ともに2年)とチームを組んで、実在する場所での実体験を交えた設問を考えた。
 
「防災意識が頭の中に長く残るように」。発案者の中居林さん(画面左上)は期待する 

「防災意識が頭の中に長く残るように」。発案者の中居林さん(画面左上)は期待する

  
 盛岡三高生が真剣に取り組む姿に、「想像以上にちゃんと考え、話し合ってくれた。自分の選択とは異なる人の意見を聞くことができて新鮮だった」と4人。「その人」の考えに共感も反対もできる時間、互いの意見が見える機会に手応えを感じ、「市内の小中学校でも活用できたら」と思いを巡らせる。中居林さんは「防災の意識が少しでも長く頭の中に残っていれば。自分の命を守るのは自分しかいない」と言葉に力を込めた。

 

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金融機関の強盗事件想定 釜石郵便局で模擬訓練 関係者も見学し対応学ぶ

釜石郵便局で行われた強盗対応模擬訓練=18日

釜石郵便局で行われた強盗対応模擬訓練=18日

 
 釜石地区金融機関防犯協会(会長:佐藤清文岩手銀行釜石支店長、30機関)は18日、強盗を想定した模擬訓練を釜石市只越町の釜石郵便局(伴幸治局長)で行った。釜石警察署(前川剛署長)の協力を得て実施。参加した窓口営業部の9人は通報、犯人とのやりとり、現場の状況把握など、いざという時の対応の仕方を経験し、課題を確認した。
 
 訓練は同協会会員機関から14人が見学する中で行われた。釜石署員2人が扮(ふん)した強盗が拳銃を持って押し入り、女性客(署員)1人を人質に取って、持ってきたかばんに現金を入れるよう要求。犯人は大声で局員を脅し続けた。窓口の責任者が金庫から出した金を差し出すが、犯人は再度要求。金を奪うと発砲して威嚇し、車で逃走した。
 
 男性局員2人が「強盗だー」と声を上げながら犯人を追いかけ、走り去る逃走車両にカラーボール(訓練用)を投げつけた。局内ではけがをした人質の客を保護し応急手当て。犯人が行き来した場所をテープで仕切り、現場保存(証拠保全)に努めた。通報で署員が駆けつけるまでの間、犯人の体格、服装、凶器などを確認し合い情報を集約した。到着した署員は犯人の特徴や逃走手段を聞き取り、現場の状況とともに本署に無線連絡。防犯カメラ映像に映る犯人の特徴などを撮影し伝送した。
 
犯人が脅し続ける中、責任者は現金の入ったかばんを差し出す(左下写真)

犯人が脅し続ける中、責任者は現金の入ったかばんを差し出す(左下写真) 

 
カラーボールを手に逃走した犯人を追う男性局員

カラーボールを手に逃走した犯人を追う男性局員

 
テープを張って現場保存。犯人の足跡や指紋検出につながる

テープを張って現場保存。犯人の足跡や指紋検出につながる

 
 訓練後、釜石署生活安全課の小田島徹課長は「犯人逃走後にやるべきことを責任者が明確に指示できるといい。犯人の迅速手配につなげるため、防犯カメラ映像の再生に日ごろから慣れておくことも大切」と助言。犯人役の署員からは「追跡する際は犯人が持っている凶器を考慮し、より安全な方法で。拳銃は発砲の危険があるので、離れた所から犯人の特徴を見るのも一つの手」との話も。110番非常通報装置の普及活動などを行う日本防災通信協会岩手県支部の山田剛支部長は、警察からの逆信電話の対応について説明。犯人とのやりとりについて「1人が交渉役になることで、犯人の目や意識が他の人に向かなくなる」とした。
 
記憶した犯人の特徴を出し合い、情報をまとめる

記憶した犯人の特徴を出し合い、情報をまとめる

 
現場に到着した署員に、人質になった客のけがの状況を伝える

現場に到着した署員に、人質になった客のけがの状況を伝える

 
警察の聞き取りに応じる窓口業務の責任者(右)

警察の聞き取りに応じる窓口業務の責任者(右)

 
 初めて訓練に臨んだ入社1年目の新屋遥香さん(21)は「犯人の特徴を見る役割だったが、怖くてなかなか目を向けられなかった。訓練で実際の場面を少しイメージできた。落ち着いて見ることを心がけ、少しでも記憶に残るようにしたい」。窓口営業部の佐々木健部長(53)は、責任者として名乗り出て犯人役と対峙(たいじ)した。「ある程度、自分の中で想定して臨んだが、半分出せたかどうか」。実際の場面での対応の難しさを実感し、「これがスタート。訓練で良かった点、悪かった点を再度洗い出し、防犯体制強化に努めていきたい」と気を引き締めた。
 
訓練後、釜石署員から改善点などのアドバイスがあった

訓練後、釜石署員から改善点などのアドバイスがあった

 
 同協会では地区内の金融機関での強盗訓練を毎年実施。新型コロナウイルス感染症の影響で2年間は実施を見送ったが、本年から再開した。

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宇宙を旅した復興横断幕 いのちをつなぐ未来館(釜石・鵜住居町)で展示公開

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いのちをつなぐ未来館で展示中の「東北復興宇宙ミッション2021」横断幕

  
 東日本大震災発生から10年の節目に被災地の復興を発信する「東北復興宇宙ミッション2021」で、国際宇宙ステーション(ISS)から帰還した横断幕が、釜石市鵜住居町の「いのちをつなぐ未来館」で展示公開されている。同館を指定管理する「かまいしDMC」の社員有志でつくる天文部が市内各所で撮った星空の写真も紹介。「宇宙を身近に感じながら震災を考え、知るきっかけに」と期待する。11月4日までを予定する。
 
 宇宙ミッションは震災の記憶と教訓、復興支援への感謝を伝えるメッセージや写真、植物の種などを宇宙に送り、被災地の現状を発信するもの。一般財団法人ワンアース(茨城県龍ケ崎市)が企画し、東北被災3県の約50自治体が参加した。
 
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被災自治体が復興の姿や支援への感謝を伝える画像とメッセージを寄せた

 
 横断幕は2021年3月11日にISSで感謝のメッセージを読み上げた野口聡一宇宙飛行士のバックに掲示されていたもの。福島県川俣町特産の川俣シルクで制作され、ミッションに参画した各自治体が復興への思いなどを画像とともに記している。縦1・2メートル、横7メートル。同年2月20日にロケットで打ち上げられ、4カ月余り宇宙を〝旅〟し、7月10日に地球に帰還した。参加した各自治体で巡回展示されている。
 
 釜石が発信した画像は、市内小中学生が中心となって世界中に感謝を伝える活動「#Thank You From KAMAISHI 」を紹介。2019年に地元で開催されたラグビーワールドカップ(W杯)を盛り上げるための準備や試合会場での応援の様子、復活した三陸鉄道などを散りばめている。この横断幕のほか、市の花ハマユリの種もISSに〝滞在〟し、無事帰還した。
 
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釜石の子どもたちの笑顔で感謝を伝える。「ありがとう」

 
 同館職員の佐々学さん(43)は「宇宙を旅した特別な旗を見に来てほしい。震災を知らない子どもたちが増えているので、次世代への伝承にもつながれば」と期待する。
 
 天文部の活動で、市内の星空を収めた写真約20点も掲示。昨年の冬から今年の夏にかけて世界遺産・橋野鉄鉱山、根浜海岸などで見られたオリオン座や「天の川」を写した。「星」をテーマに、三陸ジオパークの箱崎半島を紹介するパンフレットも作成、同館で配布する。「釜石は星がきれい。そんな星空を楽しむことができる素晴らしい環境がある。宇宙を身近に感じることで地元の魅力を知ってほしい」と佐々さん。きらめく夜空を楽しみ続けるため環境を守っていこうと思いを強めている。
  
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宇宙ミッションのメッセージ集と星空ガイドブックを紹介する佐々さん

 
 

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特殊詐欺被害を未然防止 釜石警察署、ローソン釜石大町二丁目店に感謝状

詐欺被害防止の功労で感謝状を受けた廣澤店長(右)

詐欺被害防止の功労で感謝状を受けた廣澤店長(右)

  
 釜石警察署(前川剛署長)は10月12日、特殊詐欺被害を未然に防止した釜石市大町のコンビニ、ローソン釜石大町二丁目店(廣澤祐太店長)に署長感謝状を贈った。電子マネーギフト券の購入金額が高額だったことから、「詐欺だ」と確信したという。
   
 贈呈式は中妻町の同署であり、廣澤店長に感謝状を手渡した前川署長は「適切な声掛けと親身な対応が間一髪、水際の被害防止につながった。地域の安全安心のため連携は不可欠。より一層の協力を」と期待した。
   
前川署長(中)から感謝状を受け取る廣澤店長(右)

前川署長(中)から感謝状を受け取る廣澤店長(右)

   
 同署によると、9月27日に市内在住の50代男性が来店し、総額20万円分の電子マネーを購入しようとした。応対した店員は購入金額が高額だったことから不審に思い、詐欺を疑って通報。同店に急行した署員が男性から購入理由などを聞き出し、捜査する中でサイト利用名目の架空請求と判断した。男性も納得して購入をやめ、被害を免れた。
  
 応対した店員は「一度に購入するには、なかなかない金額で、変だと思った。(男性は)会話をしたことがある人で、スムーズに声がけができた。未然に防ぐことができてよかった」と話す。廣澤店長は「釜石署から詐欺防止のチェックシートが配布され、スタッフ全員で注意している。防犯意識が伝わっていたと実感した。声がけの大切さを改めて認識。普段からお客様とのコミュニケーションを大事にしていきたい」と気持ちを新たにした。今回の声がけ対応や通報の流れを店内で共有する考えだ。
  
 釜石署管内では今年、特殊詐欺被害は確認されていない。県内の特殊詐欺認知件数は9月末現在で29件(前年同期比6件増)、被害額は8376万円(同比4823万円増)。架空料金請求、還付金詐欺が増えているという。詐欺の手口は巧妙化し、被害が潜在化している恐れがあり、同署は「心配な時は警察に相談を」と呼び掛けている。

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地域の防災力UP!高齢者の避難を疑似体験 釜石・尾崎白浜地区で防災訓練

動きを制限する装具や重りを着けて坂道を歩く参加者

動きを制限する装具や重りを着けて坂道を歩く参加者

 
 釜石市平田の尾崎白浜地区で2日、釜石湾漁業協同組合白浜浦女性部(佐々木淳子部長、部員74人)の防災訓練(平田地域会議共催)があり、消防署員や市民活動を支援するNPO法人の職員らから消火器の使い方、無駄にしない備蓄について指導を受けた。高齢化する地域の現状を踏まえ、災害時に高齢者が避難する際の課題を探ろうと高齢者の疑似体験も実施。動きや視界を制限する器具などを着け、高齢者が抱える不便さや不自由な思いに理解を深めた。
 
 同女性部は自主防災組織、尾崎白浜婦人消防協力隊として災害時に地域を守る活動も担う。同協力隊の活動は1989年に始まり、36年目。漁業をなりわいとする地区で男性が海に出ている間、地域に残る女性たちが万一の時にいち早く対応するために組織され、現在も引き継がれている。
 
 訓練は地域防災力の向上や防災活動の円滑化を目的に毎年行い、避難・誘導、消火、炊き出し、自動体外式除細動器(AED)を使った救命処置法などを学んできた。コロナ禍で昨年は中止したが、今年は感染対策をとって屋外で活動する形で実施。尾崎白浜漁港の屋根のある広場(荷さばき場)に尾崎白浜、佐須の両地区から計16人が参集した。
 
特殊なゴーグルやヘッドホンを装着し高齢者の体を疑似体験

特殊なゴーグルやヘッドホンを装着し高齢者の体を疑似体験

 
段差の上り下りは慎重に。高齢者の動きを体感した

段差の上り下りは慎重に。高齢者の動きを体感した

 
 高齢者疑似体験は市社会福祉協議会の職員を講師に、参加者は視野を狭めて白内障のように見えるゴーグルや音を遮るヘッドホンを身に着けて新聞紙面やチラシなどの文字を見たり、段差を上ったり。足の動きを制限する装具や重りを着用して高台の避難場所につながる坂道を歩いた人たちは「足が重い」「動きにくい」と、高齢者の身になって避難の大変さを実感した。
 
 佐々木吹美子さん(51)は、人を乗せた車いすを押しながら坂道を上る体験で発見があったという。左右にゆっくりと蛇行するように進むと、介助に必要な力が軽減された。家族に避難が困難な人はおらず、「今の自分では感じ得ないことを体験し、高齢者の気持ちが分かった。小さな集落で隣近所との関わりは多く、役立つことを学ぶことで防災意識が高まる。何かあった時にできることを考える機会になった」と受け止めた。
 
車いすで坂道を上る時は「蛇行運転」がポイントに

車いすで坂道を上る時は「蛇行運転」がポイントに

 
 消火器の使い方も学び、実際に水消火器で初期消火の訓練をした。ピンを抜く、ノズルを持つ、距離をとる、押すという一連の動作を確認しながら、火元に見立てた的に向かって水を噴射させた。備蓄食に関する講話では、いつもの食べ物を少し多めに保管し、消費した分を買い足していく「ローリングストック」が紹介された。
 
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訓練用の水消火器で火元に見立てた的に放水する参加者

 
 2011年の東日本大震災では同地区も大きな被害を受けた。17年には同地区で大規模林野火災が発生。19年は台風19号による豪雨災害があり、同協力隊は避難所での炊き出しなどで尽力した。自然災害が常襲化する中、震災後の人口減、高齢化が活動に直結し、メンバーが減ってしまうのが課題だ。そこで重要となるのが、地域と個々の防災力の向上。佐々木部長(67)は「何度も繰り返さないと身に付かない。少しずつ訓練を重ね、危機への対応力をつないでいきたい」と気を引き締めた。
 

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津波防災の意識向上へ 釜石市・中妻地区 浸水想定拡大踏まえ避難訓練

八雲神社の階段を駆け上がる小学生

八雲神社の階段を駆け上がる小学生

 
 釜石市中妻地区で9月29日、巨大地震に伴う津波を想定した住民らによる避難訓練が行われた。中妻地区地域会議(佐藤力議長)が主催。構成する町内会や学校などから住民、児童生徒ら約830人が参加した。同地区は東日本大震災の津波では浸水しなかったが、国や岩手県が公表した最大クラスの津波想定では防潮堤が壊れた場合に浸水すると示されたため、昨年に続いて実施。今回は、高台など危険を回避できる避難先を複数設けて各自の判断で避難する形にし、住民一人一人の防災意識の向上を図った。 
 
 同地区は、2020年に内閣府が公表した日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震による津波想定で浸水域となった。今年3月に県が発表した新想定ではより浸水域が拡大。昨年は緊急避難場所の八雲神社への避難を呼びかけたが、今回は災害公営住宅(復興住宅)や商業施設の上層階、高台にある変電所そばの空き地など、地区ごとに浸水域をなるべく通らないような避難場所を設定して実施した。
 
中妻地区周辺の浸水区域図面(県公表の津波想定)

中妻地区周辺の浸水区域図面(県公表の津波想定)

 
 29日午後2時40分ごろ。中妻地区の防災行政無線が地震と大津波を知らせる警報を発した。日本海溝沿いを震源とするマグニチュード(M)9・1の地震が発生して釜石で震度6弱の揺れを観測、3分後に気象庁が大津波警報を発令したとの想定。住民らは防災無線の呼びかけに応じて地震から身を守る行動をとった後、自宅や職場、学校などから近い高台や危険を回避できる場所に向かった。
 
このうち、中妻町内の多くの人は高台の八雲神社境内を目指した。児童らは参道の階段を急ぎ足で上り、中学生はさらに高台の大天場公園に避難。高齢者やカートに乗った幼児などは経路を変え、緩やかな坂道を進んだ先にある運動公園に逃げた。中妻子供の家保育園の園児は「本当の津波が来たらどうしよう」とドキドキした様子。手押し車を使う女性(88)は初参加で、「津波は大丈夫だと思っていたので驚いた。平らなようで緩やかな坂道が続いて、避難が大変だった。参加しないと分からなかった」と受け止めた。
 
高台を目指し職場から駆け出す従業員(写真左)、階段を上る子どもたち(写真右)

高台を目指し職場から駆け出す従業員(写真左)、階段を上る子どもたち(写真右)

 
中学生はさらに高台を目指し避難を急いだ

中学生はさらに高台を目指し避難を急いだ

 
 同会議事務局の中妻地区生活応援センターによると、海側に近い千鳥町の住民ら20人余りは変電所そばに避難。県想定で浸水域に含まれた上中島町では同センターが入る復興住宅などに住民や下校途中の小学生ら約90人が垂直避難したほか、商業施設の2階にも25人ほどが駆け込んだ。
 
 佐藤議長(73)は「自発的な行動を目指し、実践してもらった。訓練を重ね、住民の防災意識は徐々に高まっている」と実感する。一方で、八雲神社は階段が多く、高齢者は上るのを諦めたり、避難経路の歩道に障害物があって車いす利用者らは移動しにくいといった課題がある。働く若い世代の参加が少ないのも気になり、「休日に訓練するなど工夫も必要。さまざまなケースを考えながら取り組みを続け、一人も津波で犠牲にならないようにしたい」と話した。
 
県公表の新想定で浸水域となった上中島地区の一部

県公表の新想定で浸水域となった上中島地区の一部

津波防災対策の特別強化地域に指定

 
 政府の中央防災会議は9月30日、日本・千島海溝沿いで巨大地震が発生した場合、津波の危険が特に大きいとして、釜石市を含む本県沿岸12市町村を防災対策の特別強化地域に指定した。指定自治体は避難タワーや避難路の整備、高台移転などを盛り込んだ「津波避難対策緊急事業計画」をまとめる。計画が認められると、避難施設などの整備費の国庫負担割合が2分の1から3分の2に引き上げられる。
 
 これを受け、市は自主防災組織や町内会などと協議しながら地域の避難計画の作成、見直しを進める方針。浸水区域の拡大に対応するハード整備、避難訓練などソフト事業を組み合わせた緊急事業計画の策定も進める。野田武則市長は「財政的には厳しい状況にあり、市町村負担のさらなる軽減を求める。国、県と連携しながら、誰一人として犠牲にならない津波防災対策を講じていく」とコメントしている。
 
 同日、市は県の新想定を受け変更したWeb版ハザードマップを公開した。緊急避難場所や避難所を見直し、変更・新設したものを反映。県指定の「土砂災害警戒区域」も更新した。

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災害時にボランティアセンター 釜石市と市社協が協定 設置や運営を円滑に

防災ボランティアセンターの設置・運営の協定を結んだ野田武則市長(左)と丸木久忠会長

防災ボランティアセンターの設置・運営の協定を結んだ野田武則市長(左)と丸木久忠会長

 
 釜石市と市社会福祉協議会(丸木久忠会長)は9月28日、大規模災害が発生した際に被災者支援に取り組む「防災ボランティアセンター」の設置や運営などに関する協定を締結した。ボランティア活動を円滑に進められるよう役割分担や協力事項などを決め、事前準備や対応を強化。全国からボランティアが集まる同センターの効果的な運営を目指す。
 
 市内で大規模災害が発生した際に同センターを設置。市と連携しながら、市社協が主体となり運営する。災害情報を両者で共有、発災後のボランティア活動の調整を市社協が担い、市はそれを支援する。また、熊本県を中心に日本各地で発生した「2020年7月豪雨」以降、センターの設置運営に係る人件費や旅費の一部は公費負担となっており、市と市社協は今後、必要に応じ委託契約を結ぶ。
 
野田市長(左)と丸木会長(中)が協定書に署名した

野田市長(左)と丸木会長(中)が協定書に署名した

 
 締結式は市役所で行われ、野田武則市長と丸木会長が協定書に署名した。野田市長は、災害救助法の見直しが協定締結につながったことに触れ、「経費負担などを事前に定め、体制を構築することは意義があり、支援活動の強化につながる。いざという時の対応について研さんを積み、連携を深めたい」と期待を込めた。
 
締結後の懇談で連携強化へ思いを共有した

締結後の懇談で連携強化へ思いを共有した

 
 市社協では市内でのボランティア活動を推進するため、ボランティア登録や育成、訓練などを実施。東日本大震災の際はセンターの設置、運営を担った経験、実績もある。震災の復旧、復興ボランティアはこれまでに延べ8万人が活動していて、支援は今も継続。協定によりさらに態勢を整える構えだ。
 
 丸木会長は「国や県から新たな津波災害の予測が発表されている。互いに連携し対応を詰め、市民の命を守る活動や、災害からの復興へ早めの手当てができるよう励みたい」と力を込めた。
 
 

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釜石と青森の中学生、相互訪問 学び・友情を深め合う 平和と防災学習をテーマに

交流を楽しむ釜石市と青森市の中学生=9日、鵜住居町・うのすまいトモス

交流を楽しむ釜石市と青森市の中学生=9日、鵜住居町・うのすまいトモス

 
 夏休み期間を利用し、釜石市と青森市の中学生が相互訪問する交流事業が行われた。太平洋戦争末期に艦砲射撃や空襲で市街地が壊滅的な被害を受けた両市。それぞれ市内5校の1年生10人を派遣して「平和と防災学習」をテーマに学びを深め合った。
 
 終戦間近の1945(昭和20)年、釜石市は7月14日と8月9日の2度にわたって米英連合軍による艦砲射撃を受け、市街地は焼け野原になり、市民ら780人以上が犠牲になった。青森市は7月28日夜、米軍のB29爆撃機の空襲を受け、市中心部は焦土化し、死者は1000人を超えた。
 

青森での活動を報告

 
野田市長に青森市での活動を報告した釜石の中学生ら=3日、只越町・釜石市役所

野田市長に青森市での活動を報告した釜石の中学生ら=3日、只越町・釜石市役所

 
 釜石の生徒たちは7月27~29日の日程で青森を訪れ、現地の中学生と交流。三内地区の防災訓練や平和祈念式典に参加したり、戦災遺構をめぐって歴史に触れた。現地での活動を報告するため、8月3日に釜石市役所の野田武則市長を訪ねた。
 
 大平中の小野鳳(ふう)君は「痛々しい戦争の遺構を見た。平和の大切さだけでなく、戦争の愚かさも伝えなければ」と意識を高めた。釜石中の菊池恋捺(れな)さんは、新型コロナウイルスの感染防止を踏まえた避難所運営訓練が印象に残った。防護服を着用した状態での作業の大変さを体感。妊婦の居場所をつくるなど避難者が快適に過ごせるよう工夫していることに感心し、「避難後の生活も考えた訓練は参考になる。学んだことを各校で共有したい」と話した。世界文化遺産の三内丸山遺跡を見学したワクワク感を伝える生徒もいた。
 
 野田市長は「さまざまな経験をし、成長を感じる。他のまちを見ることで学び得たことを周りの人に伝えてほしい」と期待した。
 

戦争の歴史と防災の取り組みを次代に

  
戦争体験者の秋元厚子さん(左)に質問を投げかける青森市の中学生=9日、只越町・釜石市役所

戦争体験者の秋元厚子さん(左)に質問を投げかける青森市の中学生=9日、只越町・釜石市役所

  
 青森の中学生らは8月8~10日の3日間釜石に滞在。9日、青森に派遣された生徒たちと再会し、さまざまな交流活動で友好を深めた。鵜住居町の「いのちをつなぐ未来館」では震災当時の被災状況や児童生徒らの避難行動についてガイドから話を聞いた。戦没者追悼式に参加した後、市郷土資料館を見学。市役所では、釜石ユネスコ協会顧問などを務める唐丹町の秋元厚子さん(87)の戦争体験に耳を傾けた。
 
 浪打中の木村華乃さんは、唐丹村立国民小学校5年生の時に艦砲射撃を経験した秋元さんが紹介したユネスコ憲章前文にある「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」との言葉が強く印象に残った。世界では紛争や内戦が続く国や地域が絶えず、平和を保つ重要性を再認識。「人は個性豊か。個性を認め合うこと、思いやりを持つことが大切だ」とかみしめた。
 
震災の被害状況や児童生徒の避難行動を学ぶ青森の中学生ら=9日、鵜住居町・いのちをつなぐ未来館

震災の被害状況や児童生徒の避難行動を学ぶ青森の中学生ら=9日、鵜住居町・いのちをつなぐ未来館

 
 防災に関しては、備えの大切さを実感した人が多く、浪岡中の齊藤航平君も「自然災害はいつか起きてしまう。いつ起きても対応できるようにし、被害を少なくしたい。学んだことをどう次に伝えるか、どんな行動につなげるか、みんなで考えたい」と前を向いた。
  
未来館の見学で感じたことを伝え合い、交流を深めた

未来館の見学で感じたことを伝え合い、交流を深めた

  
 青森市では2018年から平和・防災学習事業として釜石に中学生を派遣。戦没者追悼式への参加や同年代の生徒と交流しながら、平和の尊さや防災について学んできた。コロナ禍で20、21年は実施を見送った。一方の釜石側も貴重な学びの機会になると、今年初めて子どもたちを派遣。今後隔年で青森を訪問する予定だ。
 

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「届け!ぼうさいのたね」全児童津波逃れた釜石小・卒業生ら 命守る教育、後輩へつなぐ

篠原優斗さん(手前右)と避難先ルートを歩く児童たち

篠原優斗さん(手前右)と避難先ルートを歩く児童たち

 
 東日本大震災時、学校管理下になかったものの、184人の児童全員が無事だった釜石小の事例から、生きることや命を守るために必要な力について考える小学生対象の学習会が3日、釜石市内で行われた。大津波を生き抜いた同校の卒業生と当時の教職員有志でつくる「2011team(チーム)釜石小ぼうさい」が主催。同校の防災教育や元児童の証言などをまとめた伝承本「このたねとばそ」も製作・配布し、震災後に生まれた子どもたちの心に新たな種をまいた。
 
 学習会には市内の小学5、6年生10人や教育関係者らが参加。同校卒業生で只越町の地方公務員篠原優斗さん(24)の案内で、震災当時の避難経路をたどる体験からスタートした。「もしも今、大地震が起きたらどう行動しますか」。篠原さんはそんな問い掛けをし、復興住宅や雨水ポンプ場が近くにある同町地内を歩き始めた。
  
あの日の避難行動を説明。緩やかな坂道の先に旧釜石小跡地がある

あの日の避難行動を説明。緩やかな坂道の先に旧釜石小跡地がある

  
 6年生だった篠原さんはあの日、同級生やその弟ら十数人と友達の家で遊んでいた。地震後に大津波警報が発令されると、すぐに避難することにしたが、避難先に迷った。距離は近いが海側に向かう「避難道路」か、より海から離れるが緩やかな坂道が続く「旧釜石小跡地」(天神町)か。みんなで話し合い、坂道に向かって走り出した―。
 
 信号機が止まり混乱するまちの様子や選択時の気持ちなどを伝えた篠原さん。上り坂に差し掛かったところで、「走ってみよう」と提案。あの日の避難行動を再現した。旧釜石小跡地に着くと、「走るだけでも大変だよね。でもね…」と一呼吸。低学年の児童を先に走らせ、遅れそうな子はおんぶしたりして高学年の子が手助けしたことを紹介し、「いざという時にも役立つ人とのつながりを大切にしてほしい」と呼び掛けた。
 
青葉ビルで行われたパネルディスカッション。中央が内金崎愛海さん

青葉ビルで行われたパネルディスカッション。中央が内金崎愛海さん

 
 大町の青葉ビルに移動し、パネルディスカッション。パネラーに、岩手医大医学部2年の内金崎愛海(あみ)さん(20)=盛岡市=が加わった。震災当時は釜石小3年生。自宅に一緒にいた祖父母は過去の経験から逃げようとせず、泣きながら必死に避難を促した。結果、自分の命を守り、家族の命も救った。「弱虫で泣き虫だったけれど、説得できたのはきっと学校での防災教育があったから。経験はなくても『50センチの波でも人は流される』ことを知っていたし、映像で見た津波の恐ろしさも頭にあった」と振り返った。
  
災害への備えや生きることについて話し合う子どもたち

災害への備えや生きることについて話し合う子どもたち

  
 先輩2人の経験を聞いた後、児童たちはグループワークに取り組んだ。避難の判断ができた理由や必要な力、自分たちにできることを話し合った。「普段の生活や行動の積み重ねが、いざという時に力になる」「避難訓練は本気でやる」など備えの大切さを再認識した。
 
 釜石小6年の井上柊真(とうま)君は1年ほど前に八幡平市から転校してきたばかりで、釜石の歴史や防災の取り組みを知りたいと参加。「家にいる時でも即時に対応し、避難ができてすごい。相手を信頼する大切さを知ることができた。避難の方法は災害の種類や地域によって違いがあるみたい。もっと勉強したい」と刺激を受けた。双葉小5年の川上仁愛(にちか)さんは「大人を説得する勇気に感動した。命は自分で守らなきゃいけない。学んだことを整理して、友達や家族に伝えたい」と背筋を伸ばした。
 

防災教育伝承本「このたねとばそ」 証言や職員対応まとめる

 
伝承本「このたねとばそ」を紹介する加藤孔子さん

伝承本「このたねとばそ」を紹介する加藤孔子さん

  
 チーム釜石小の代表を務めるのは、震災発生時に釜石小校長だった加藤孔子(こうこ)さん(64)=盛岡市、岩手大学教職大学院特命教授。11年余りの時を経て人々の記憶から薄れ始め、学校では経験をしていない世代が増える中、風化を防ぎ、教訓を伝えようと学習会を企画した。
  
 本は同校の防災教育を未来へ、全国へ発信しようと製作した。7月28日に発刊。A4判、83ページで、▽津波防災安全マップ作りや下校時避難訓練など防災教育の実践▽あの日、自己判断で避難した児童の証言▽震災後の学校再開に奔走した教職員の対応-などの詳細を記録する。学習会で経験を伝えた篠原さん、内金崎さんも執筆。加藤さんが名誉館長を務める鵜住居町の「いのちをつなぐ未来館」で50冊を無料配布している。
  
 学習会の様子を見守った加藤さんは「震災を体験した先輩たちの声という種を飛ばすことができた」と目を細める。学校の管理下になかった子どもたちが自分たちで判断、行動し、全員が各自で命を守った同校の防災教育は、他県の教育関係者からも注目を集めるが、「まねるだけでは形骸化してしまう」との懸念も。「地域、子どもたちに合わせたものをつくらなければいけない。釜小の実践や提言、あの時の思いを種として改めて届けたい。各地で新たな防災教育の芽が出て花を咲かせてほしい」と願う。
  
いつどこでどんな災害が起こっても、自分なりの避難行動をとって―と願いを込め、体験を発信する

いつどこでどんな災害が起こっても、自分なりの避難行動をとって―と願いを込め、体験を発信する

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架空料金振り込み詐欺被害を間一髪阻止 宮古信金大渡支店に釜石署が感謝状

感謝状を受けた宮古信用金庫大渡支店の三上学支店長(中)と高橋智恵子次長(右)

感謝状を受けた宮古信用金庫大渡支店の三上学支店長(中)と高橋智恵子次長(右)

 
 釜石警察署(前川剛署長)は15日、架空料金請求の詐欺被害を未然に防いだ釜石市大渡町の宮古信用金庫大渡支店(三上学支店長)に感謝状を贈った。言葉巧みに誘導し、金をだまし取る悪質な特殊詐欺は後を絶たない。支店職員のいち早い気付きと警察への通報が1人の高齢男性の被害を食い止めた。
 
 中妻町の同署で感謝状贈呈式が行われ、三上支店長(54)、高橋智恵子次長(55)が出席。三上支店長に感謝状を手渡した前川署長は「まさに間一髪、水際で被害を防いでいただいた。(詐欺被害防止には)金融など関係機関との連携は必要不可欠。今後とも一層のご協力を」と願った。
 
特殊詐欺被害防止の功労で宮古信金大渡支店へ釜石警察署長感謝状を贈呈

特殊詐欺被害防止の功労で宮古信金大渡支店へ釜石警察署長感謝状を贈呈

 
 詐欺が疑われる事案は6月29日に発生。同支店内で携帯電話で話しながらATMを操作する市内の70代男性を見かけた高橋次長は、不審に思い、男性に声をかけた。「NTTから未払いの10万円を振り込むように言われた」と話す男性。手にしていたメモには個人名と口座番号のみが書かれていた。
 
 詐欺を疑い、電話を代わった高橋次長が内容を尋ねると、相手は「(男性が)払いたいというから内容を確認している。それ以上は個人情報なので教えられない。電話を代わってくれ」と繰り返した。男性に通話を切らせても、すぐにかかってくる電話。三上支店長が「警察に通報する」と言って切った後も着信が続き、男性は動揺。通報を受けた釜石署の署員が到着し、詐欺にあう寸前だったことを理解した男性は「声をかけてもらわなければ気付けなかった」と大変感謝していたという。
 
 特殊詐欺に関する金融機関などへの注意喚起では、「携帯電話で話しながらのATM操作」に目を配るよう促す。高橋次長は「声をかけるのに若干ためらいもあったが、被害を防ぐことにつながって良かった。男性も何かおかしいと思いながらも言われるがままに誘導されてしまったようで、詐欺の怖さを感じた」と話す。
 
 支店が警察へ通報する間も相手の電話に出てしまい、「一度、車に戻れ」という指示にも従ってしまった男性。当事者の不安をあおる巧妙な手口に三上支店長は「その場で納得したように見えても、後日振り込んでしまうケースもあると聞く。今回は(警察への通報を含め)冷静に対応できた。全職員でさらに気を付け、お客さまの大切なお金を守っていければ」と意を強くする。
 
 釜石署によると、本年1~6月末までの特殊詐欺被害の県内認知件数は15件(前年同期比5件減)で、被害額は6771万円(同5080万円増)。釜石署管内の認知件数はゼロだが、詐欺とは思わず振り込んでしまったり、後で被害に気付いても警察に届け出ないケースも考えられることから、決して油断はできない。被害防止には一人一人の防犯意識とともに地域の見守りの目が重要となる。

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夏が来た!釜石・根浜海岸海水浴場、海開き―気をつけよう!水難事故 唐丹中生が救助体験

救命艇の乗船体験を楽しむ子どもたち=6日

救命艇の乗船体験を楽しむ子どもたち=6日

  
 釜石市にも夏がやって来た。16日に海開きした鵜住居町の根浜海岸海水浴場では家族連れらが思い思いにマリンレジャーを楽しんでいる。身近にあって、暑い日に「涼」を感じられる海だが、気を付けなければいけないのが水難事故。唐丹町の唐丹中(八木稔和校長、生徒20人)は6日に同海岸で救助体験学習を行い、いざという時に身を守るすべを確認した。海水浴場の開設は8月14日まで(午前10時~午後4時)。事前の備えをしつつ、水遊びを思い切り楽しんでたくさんの思い出をつくろう。
  

中学生、身近な海で起こりうる危険への対処法学ぶ

   
転落者に見立てた人形をすくい上げる唐丹中の生徒=6日

転落者に見立てた人形をすくい上げる唐丹中の生徒=6日

   
 唐丹中の水難救助体験学習は6日、同海岸で行われ、全生徒が参加。講師は地元の一般社団法人「根浜MIND(マインド)」のメンバーが務めた。同法人では、東日本大震災の復興支援で根浜地区を訪れた英国の団体から2016年に贈られた救命艇を使い、夏場を中心に子どもを対象にした海の安全教室や同海岸海水浴場の開設期間中の監視活動などを行っている。
  
岩崎理事長(右)の話に耳を傾ける生徒たち=6日

岩崎理事長(右)の話に耳を傾ける生徒たち=6日

  
 同法人の岩崎昭子理事長(66)から救命艇が贈られた経緯などの説明を受けた後、生徒たちは救命艇に順番に乗船。転落者に見立てた人形を発見したら、▽目を離さず指差し▽ゆっくり近づいてすくい上げる―という救助の流れを体験した。
  
 岩澤優真君(3年)は「船が揺れる中、溺れている人を見逃さないよう、目を離さないようにしなければいけないのが難しい」と実感。英国では民間による水難救助活動(ボランティア)が活発に行われていることを知り、「将来、携われたらいいな」と夢を膨らませた。
  
救助用のロープを投げる練習も=6日

救助用のロープを投げる練習も=6日

  
 もしもの時を想定した浮き身の方法を体験する「浮いて待て」では、生徒数人が服を着た状態で海に入り、全身の力を抜いて手足を広げてあおむけに浮く背浮きに挑戦。岸壁にいる他の生徒たちは、助けを待つ友達に救助用のロープを投げて救い出した。
  
 救助される役となった高橋愛里さん(3年)は「今回はライフジャケットを着用していたから楽に浮くことができた。何もないときは焦ってしまうと思うが、体験することで、いざという時に思い出せる」と知識を深めた。
  
救助体験を通じ交流した唐丹中の生徒と根浜マインドのメンバーら=6日

救助体験を通じ交流した唐丹中の生徒と根浜マインドのメンバーら=6日

  
 釜石版復興教育「いのちの教育」の一環。同校では保健体育の中で、AED(自動体外式除細動器)や応急手当、水の事故対応について学んでいる。今回は救命艇に体験乗船することで海の怖さや楽しさ、水難救助の大切さを知ってもらうのが目的。最後に海岸のごみ拾いを行い、廃棄プラスチックによる海洋汚染の実態を確認する機会にもした。
  
海開き前に砂浜でごみ拾いし環境保全に協力=6日

海開き前に砂浜でごみ拾いし環境保全に協力=6日

  

砂浜再生 2年目の海開き

   
 根浜海岸の海水浴場は16日に海開き。悪天候のため、シーズン中の安全を祈願する神事は中止、海遊びイベントは延期。岩崎理事長は「ワクワクする根浜を楽しんでもらえるよう、地域で盛り上げていきたい」と笑顔を見せる。
  
 東日本大震災の津波で失われた砂浜の再生工事を終え全面開放となって2年目の夏。同法人事務局長の佐々木雄治さん(66)は「砂浜あっての根浜海岸。松林も特徴で、長年親しんだ風景が戻ってうれしい。震災後、『海が怖い』という人もいるが、正しい知識と安全マナーを守れば、安心安全で楽しい場所。多くの人に楽しんでもらえたら」と夏場の客足に期待を込めた。