津波の教訓 変わらず後世へ 3年ぶり通常開催「新春韋駄天競走」で高台避難啓発


2023/02/10
釜石新聞NewS #防災・安全

高台の仙寿院を目指し、急坂を駆け上がる「第10回新春韋駄天競走」

高台の仙寿院を目指し、急坂を駆け上がる「第10回新春韋駄天競走」

 
 「津波発生時はとにかく高台へ―」。東日本大震災の教訓を末永く未来につなぐ避難啓発行事「新春韋駄天(いだてん)競走」が5日、釜石市大只越町の日蓮宗仙寿院(芝﨑恵応住職)周辺で行われた。同寺の節分行事の一環で、通算10回目の開催。市内外から参加した41人が命を守る行動を身をもって体験した。震災発生から間もなく12年。参加者らは行事を通じて津波避難の心構えを再確認し、次世代への教訓継承へ思いを強くした。
 
 4歳から62歳までが参加。年代などで分けた6部門での実施とし、4つのグループで順に発走した。コースは只越町の消防屯所付近を出発し、津波避難場所となっている高台(標高約30メートル)の仙寿院をゴールとするもの。距離は286メートル、高低差約26メートル。途中に急カーブや傾斜のきつい坂道がある。幼児は親に手を引かれて走り、個人参加者はそれぞれのペースで必死に難坂を駆け上がった。
 
震災津波で浸水した只越町からスタート。6組12人が参加した「親子の部」

震災津波で浸水した只越町からスタート。6組12人が参加した「親子の部」

 
 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、2021年は市内在住(通勤、通学)者に限定、22年は競走をしない任意参加の避難訓練としたため、通常方式での開催は3年ぶり。感染症の影響はまだあるため、参加者数はコロナ禍前の100人以上には及ばないものの、コース沿道に応援の家族や地域住民らが並ぶ久しぶりの光景が見られた。
 
最後の力を振り絞ってゴールに向かう参加者を盛んな拍手で応援

最後の力を振り絞ってゴールに向かう参加者を盛んな拍手で応援

 
2020年に続き、1位でゴールした山本雄太郎さん(手前)=男性34歳以下の部

2020年に続き、1位でゴールした山本雄太郎さん(手前)=男性34歳以下の部

 
もうすぐゴール!最後まで懸命に走る男性参加者

もうすぐゴール!最後まで懸命に走る男性参加者

 
 各部門の1位を「福男」「副女」などとして認定。芝﨑住職が認定書を手渡し、たすきをかけた。最後は参加者全員で海の方角を向き、震災犠牲者に黙とうをささげた。
 
 「福親子」となったのは釜石市の津田康太さん(44)と長男琉希君(7)。初参加の琉希君は「1位を取れてうれしい。来年も走る」とにっこり。昨年まで4年連続、康太さんと親子の部に参加していた姉の紗良さん(13)は中学生になり、初の単独参加。見事「福少女」に輝いた。震災時は1歳。保育園の避難で津波の難を逃れた。「津波を知らない人もいるし、経験者の記憶も薄れてきている。この行事で教訓を伝えていければ」と願う。「家の近くにも坂があり、いざという時は駆け上がって逃げれば助かると常々教えている」という父康太さん。災害の恐ろしさを伝える難しさを感じ、「機会あるごとに」と同行事へも家族参加を続ける。
 
各部門の1位「福親子」「福少女」「福少年」「福男」「福女」が勢ぞろい

各部門の1位「福親子」「福少女」「福少年」「福男」「福女」が勢ぞろい

 
 男性35歳以上の「福男」は盛岡市から初参加の太田陽之さん(36)。「最後は若干足がもつれた」と言いつつも、趣味のマラソンで鍛えた脚力で一番乗り。貴重な体験を胸に刻み、「健康で走れることに感謝。大会でもいい成績を残せれば」と幸先のいい新年に期待する。震災時、沿岸部に暮らす両親は海の近くで働いていたが、逃げて無事だった。ゴールした境内からまちを見下ろし、「津波時はとにかく高い所に逃げることが大事だとあらためて感じた」。復興関係の仕事に携わったこともあり、「震災時の経験は土砂災害など他の災害でも役立つはず」と継承の一翼を誓う。
 
 兵庫県西宮市、西宮神社の新年開門神事「福男選び」をヒントにした同行事は、釜石出身者らでつくる「釜石応援団ARAMAGI Heart(あらまぎはーと)」が発案。趣旨に賛同し、主催統括する仙寿院の芝﨑住職は「津波避難の実践練習の場。長く続け、理解が深まればありがたい。震災の風化が進む。参加した皆さまの言葉で、多くの人に避難の大切さを強く伝えてほしい」と呼び掛けた。
 
津波時の迅速な避難を呼び掛ける仙寿院の芝﨑住職(右)。参加者がその言葉を心にとどめた

津波時の迅速な避難を呼び掛ける仙寿院の芝﨑住職(右)。参加者がその言葉を心にとどめた

 
境内から海に向かって震災犠牲者に黙とう。約1カ月後には12年目の命日を迎える

境内から海に向かって震災犠牲者に黙とう。約1カ月後には12年目の命日を迎える

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