タグ別アーカイブ: 防災・安全

suinankyujo1

夏が来た!釜石・根浜海岸海水浴場、海開き―気をつけよう!水難事故 唐丹中生が救助体験

救命艇の乗船体験を楽しむ子どもたち=6日

救命艇の乗船体験を楽しむ子どもたち=6日

  
 釜石市にも夏がやって来た。16日に海開きした鵜住居町の根浜海岸海水浴場では家族連れらが思い思いにマリンレジャーを楽しんでいる。身近にあって、暑い日に「涼」を感じられる海だが、気を付けなければいけないのが水難事故。唐丹町の唐丹中(八木稔和校長、生徒20人)は6日に同海岸で救助体験学習を行い、いざという時に身を守るすべを確認した。海水浴場の開設は8月14日まで(午前10時~午後4時)。事前の備えをしつつ、水遊びを思い切り楽しんでたくさんの思い出をつくろう。
  

中学生、身近な海で起こりうる危険への対処法学ぶ

   
転落者に見立てた人形をすくい上げる唐丹中の生徒=6日

転落者に見立てた人形をすくい上げる唐丹中の生徒=6日

   
 唐丹中の水難救助体験学習は6日、同海岸で行われ、全生徒が参加。講師は地元の一般社団法人「根浜MIND(マインド)」のメンバーが務めた。同法人では、東日本大震災の復興支援で根浜地区を訪れた英国の団体から2016年に贈られた救命艇を使い、夏場を中心に子どもを対象にした海の安全教室や同海岸海水浴場の開設期間中の監視活動などを行っている。
  
岩崎理事長(右)の話に耳を傾ける生徒たち=6日

岩崎理事長(右)の話に耳を傾ける生徒たち=6日

  
 同法人の岩崎昭子理事長(66)から救命艇が贈られた経緯などの説明を受けた後、生徒たちは救命艇に順番に乗船。転落者に見立てた人形を発見したら、▽目を離さず指差し▽ゆっくり近づいてすくい上げる―という救助の流れを体験した。
  
 岩澤優真君(3年)は「船が揺れる中、溺れている人を見逃さないよう、目を離さないようにしなければいけないのが難しい」と実感。英国では民間による水難救助活動(ボランティア)が活発に行われていることを知り、「将来、携われたらいいな」と夢を膨らませた。
  
救助用のロープを投げる練習も=6日

救助用のロープを投げる練習も=6日

  
 もしもの時を想定した浮き身の方法を体験する「浮いて待て」では、生徒数人が服を着た状態で海に入り、全身の力を抜いて手足を広げてあおむけに浮く背浮きに挑戦。岸壁にいる他の生徒たちは、助けを待つ友達に救助用のロープを投げて救い出した。
  
 救助される役となった高橋愛里さん(3年)は「今回はライフジャケットを着用していたから楽に浮くことができた。何もないときは焦ってしまうと思うが、体験することで、いざという時に思い出せる」と知識を深めた。
  
救助体験を通じ交流した唐丹中の生徒と根浜マインドのメンバーら=6日

救助体験を通じ交流した唐丹中の生徒と根浜マインドのメンバーら=6日

  
 釜石版復興教育「いのちの教育」の一環。同校では保健体育の中で、AED(自動体外式除細動器)や応急手当、水の事故対応について学んでいる。今回は救命艇に体験乗船することで海の怖さや楽しさ、水難救助の大切さを知ってもらうのが目的。最後に海岸のごみ拾いを行い、廃棄プラスチックによる海洋汚染の実態を確認する機会にもした。
  
海開き前に砂浜でごみ拾いし環境保全に協力=6日

海開き前に砂浜でごみ拾いし環境保全に協力=6日

  

砂浜再生 2年目の海開き

   
 根浜海岸の海水浴場は16日に海開き。悪天候のため、シーズン中の安全を祈願する神事は中止、海遊びイベントは延期。岩崎理事長は「ワクワクする根浜を楽しんでもらえるよう、地域で盛り上げていきたい」と笑顔を見せる。
  
 東日本大震災の津波で失われた砂浜の再生工事を終え全面開放となって2年目の夏。同法人事務局長の佐々木雄治さん(66)は「砂浜あっての根浜海岸。松林も特徴で、長年親しんだ風景が戻ってうれしい。震災後、『海が怖い』という人もいるが、正しい知識と安全マナーを守れば、安心安全で楽しい場所。多くの人に楽しんでもらえたら」と夏場の客足に期待を込めた。
 

fukkomiraijyuku5650

震災から11年 伝承・発信の今を知る 釜石市で「いわて復興未来塾」開催

震災後、新設された片岸町の防潮堤を見学する「いわて復興未来塾」の参加者

震災後、新設された片岸町の防潮堤を見学する「いわて復興未来塾」の参加者

 
 2022年度第1回いわて復興未来塾(いわて未来づくり機構主催)は2、3の両日、東日本大震災の被災地・釜石市で開かれた。各分野で本県の復興に携わってきた人らが講演や座談会でこれまでの歩みを振り返り、伝承や発信、自治体間連携などについて意見を交わした。津波で被災した現場を訪れる体験プログラムもあり、参加者は11年前を思いながら、防災への心構えを新たにした。
 
 2日、大町の釜石PITでは基調講演や事例報告、座談会が行われ、県内外から約70人が参加。IBC岩手放送メディア戦略部シニアマネジャーの相原優一さんは、自社が取り組んできた震災復興の情報発信、記憶の伝承について講演した。
 
デジタル技術を活用した震災伝承について話すIBC岩手放送・相原優一さんの基調講演

デジタル技術を活用した震災伝承について話すIBC岩手放送・相原優一さんの基調講演

 
 同社はVR(仮想現実)映像で津波石碑や震災遺構を記録し月命日にWEB上で公開したほか、学校でのVR体験授業、放送と新聞の融合による情報発信など、画期的なデジタルコンテンツを展開してきた。相原さんは、メディア環境の変化で「伝えているつもりでもなかなか届かない」状況を指摘。既存報道に加え、SNSやVR、AR(拡張現実)などデジタル技術を用いた伝達手法の必要性を示し、「これからは情報をデザインして、いかに分かりやすく伝えるかが大事。震災を知らない子どもたちでも理解できるようなコンテンツが求められる」と話した。
 
遠野市消防本部の千田一志さんは後方支援拠点となった同市の取り組み事例を紹介した

遠野市消防本部の千田一志さんは後方支援拠点となった同市の取り組み事例を紹介した

 
 遠野市消防本部消防長の千田一志さんは、沿岸被災地の後方支援拠点となった同市の経験を紹介した。震災前の2007年に三陸地域の地震災害を見据えた後方支援拠点として名乗りを上げ、対応する防災訓練を重ねてきた同市。発災直後から救援部隊の受け入れ準備を開始し、炊き出しなど官民一体の活動で沿岸被災地を支え続けた。
 
 千田さんは自治体間の横の連携「水平連携」の有効性にも着目。震災では被災自治体の要請を待たずして自ら情報収集し、適切な支援策を展開したが、これは超法規的対応でもあったため、「今後は横の連携を支える責任、権限、財源を踏まえた新しい仕組みの構築が必要」と訴えた。
 
応援職員OBによる座談会。赴任時を振り返った

応援職員OBによる座談会。赴任時を振り返った

 
 震災後、本県被災地に派遣され、復興業務を担った東京、大阪、長野、愛知4都府県の自治体職員らが座談会。赴任時に手掛けた仕事の思い出や各自治体に戻って生かされていることを語り合った。
 
 長野県職員(土木技師)の坂田健剛さんは県沿岸広域振興局宮古土木センターで防潮堤の避難階段設置工事などを担当。「仕事に取り組む姿勢、地域住民への丁寧な対応と、見習うべき点が多かった。『津波てんでんこ』のような地域の教訓が生かされていることも素晴らしい」と振り返った。
 
 東京都職員の鍵本拓哉さんは県復興局での勤務を通じ、現地を見て生の声を聞く重要性を痛感。「発言の裏の背景、込められた気持ちをしっかり汲みとって住民の要望に応えることが大事。都の仕事にも生かしていきたい」と思いを強くした。
 
会場参加者から登壇者への質問も。震災の記憶を未来につなぐヒントを得た

会場参加者から登壇者への質問も。震災の記憶を未来につなぐヒントを得た

 
 3日は、震災の津波で大きな被害を受けた鵜住居町で現場体験プログラムが行われた。約30人が参加。震災伝承施設「いのちをつなぐ未来館」で市内の被災状況、当時の避難行動を学んだ後、地元小中学生がたどった避難コースを追体験。案内したのは当時、釜石東中の2年生で、同避難を体験した川崎杏樹さん(現いのちをつなぐ未来館スタッフ)。日ごろの防災学習の大切さを挙げ、「災害は必ず起きるととらえ、命を守るための備えを家族と一緒に考えてほしい」と呼び掛けた。
 
いのちをつなぐ未来館(鵜住居町)で釜石市の被災状況を学ぶ

いのちをつなぐ未来館(鵜住居町)で釜石市の被災状況を学ぶ

 
地震発生後、津波から逃れるため小中学生がより高い場所へと駆け上がったルートを追体験

地震発生後、津波から逃れるため小中学生がより高い場所へと駆け上がったルートを追体験

 
 新設された鵜住居川水門と一体的に整備された片岸町の防潮堤も見学。震災の教訓を生かしたハード、ソフト両面の復興を知る機会になった。
 
 4月に名古屋市から陸前高田市へ派遣された応援職員、早川佳孝さん(28)は「当時のことを知る人から話を聞くのはためになる。水門の機能も興味深かった。次の災害に備え、もう一段階進めた復興が大事」。名古屋市は南海トラフ地震の被災想定エリアに入っているが、住民の防災意識、備えへの実際の行動はまだ伴ってこない実態があるといい、「自分が勉強して教訓を名古屋に持ち帰り、住民に伝えたい」と意気込んだ。
 
鵜住居川水門のゲートをのぞき込む参加者。津波発生時は衛星回線でゲートを自動的に閉鎖する

鵜住居川水門のゲートをのぞき込む参加者。津波発生時は衛星回線でゲートを自動的に閉鎖する

 
 同塾は、県内の産学官で構成する同機構が2015年に開始。年2~3回、盛岡市や沿岸市町村で開催する。今回は新型コロナウイルス感染拡大防止も視野に、会場の模様をインターネット番組で生配信した。

kansya5187

市民の安全・安心に貢献 警察業務協力で釜石署が3団体8個人に感謝状贈呈

警察業務協力者への感謝状贈呈式=釜石署、1日

警察業務協力者への感謝状贈呈式=釜石署、1日

 
 地域の治安活動などで長年にわたり警察業務に協力してきた団体や個人への感謝状贈呈式が1日、釜石市中妻町の釜石警察署(前川剛署長)で行われた。防犯や交通安全、青少年の健全育成などに尽力したとして、3人に県警察本部長感謝状、3団体5個人に釜石警察署長感謝状が贈られた。
 
 感謝状を受けたのは、少年補導員や同署の交通安全活動推進委員、地域団体で防犯や交通安全に取り組んできた人など。団体では、被留置人の散髪に協力してきた理容店などが対象となった。前川署長が賞状を手渡し、感謝の気持ちを表した。
 
交通安全活動への協力で県警察本部長感謝状を受ける佐々木暁美さん(左)

交通安全活動への協力で県警察本部長感謝状を受ける佐々木暁美さん(左)

 
自転車安全利用モデル校として模範行動を示す釜石高には釜石警察署長感謝状が贈られた

自転車安全利用モデル校として模範行動を示す釜石高には釜石警察署長感謝状が贈られた

 
 贈呈後、前川署長は管内の治安状況を説明。交通関係では昨年に比べ、人身事故が増加傾向にあり、本年は既に2件の死亡事故が発生していることを伝え、「引き続き、地域の安全・安心の取り組みのため力添えを」と願った。
 
 県警察本部長感謝状を受けた千鳥町の永澤光雄さん(74)は20年間、少年補導員を務め、市防犯協会隊員としても活躍。現在は中妻地区を担当し、子どもたちの登校時間帯の見守りのほか、高齢者の安全確保も含めた見回り活動に力を注ぐ。「最初は声掛け事案も多少あったが、最近は少なくなっている。できることを続け、(市民の安全・安心に)少しでも役に立てれば」と永澤さん。感謝状を励みに、活動へのさらなる意欲を見せた。
 
kansya5128

地域安全への尽力で感謝状を受ける永澤光雄さん

 
 警察業務協力者への感謝状贈呈は、1954年7月1日に現行の警察制度が施行され、都道府県警察が発足したことにちなみ、毎年実施されている。
 
 今回、感謝状を受けた個人、団体は次の通り。(かっこ内は協力分野と管轄交番、駐在所)
【県警察本部長感謝状】
永澤光雄(地域安全、釜石駅前)、佐々木暁美(交通安全、平田)、菊池重人(同)
【釜石警察署長感謝状】
▽団体 県立釜石高(交通安全、甲子)、洞関町内会(地域・交通安全、甲子)、カットサロンくまがい(警務、平田)
▽個人 山本理悦子(地域・交通安全、釜石駅前)、多田慶三(同、小佐野)、伊藤福明(地域安全、釜石駅前)、上野慶壽(地域・交通安全、唐丹)、久保信(同、平田)

koekakekunren1

ちょっと待って! 詐欺被害防止、客へ声かけ訓練 釜石署とコンビニ連携

コンビニ店で行われた特殊詐欺被害を防ぐ声かけ訓練

コンビニ店で行われた特殊詐欺被害を防ぐ声かけ訓練

 
 医療費や保険金の還付金があるなどとしてコンビニエンスストアのATM(現金自動預払機)から現金を振り込ませる還付金詐欺、有料サイトの利用料金未納分の支払いを求めるメールやハガキを送ってコンビニで電子マネーギフト券などを購入させて番号を聞き出す架空料金請求詐欺など、コンビニを使った特殊詐欺の被害が全国的に多発している。釜石警察署(前川剛署長)は22日、釜石市松原町の「セブンイレブン釜石松原店」で高額の電子マネーを購入させる特殊詐欺被害を防ぐ声かけ訓練を行った。
 
 署員が客(被害者)役を務め、同店の女性店員が注意喚起役を担当した。客は携帯電話で話しながら入店し、電話口の相手から指示を受けながらATMを操作。現金をおろした後、電子マネーの棚から10万円分の同ギフト券を取り、レジへ向かった。店員は詐欺被害への注意を促すチェックシートを示しながら「高額で心配。確認させてください」と声を掛け、購入理由や不審点などを聞き取り、警察に通報。駆け付けた署員が詳しい事情を聴いて、被害を防いでいた。
 
電話をしながら電子マネーを購入しようとする客に目を向ける店員(奥)

電話をしながら電子マネーを購入しようとする客に目を向ける店員(奥)

 
レジ前では女性店員(左)が被害者役の署員を粘り強く説得した

レジ前では女性店員(左)が被害者役の署員を粘り強く説得した

 
 訓練で対応にあたった店員の井戸麻美さん(28)は「被害者役の人は焦っていて強引。信じ込んでしまっているようだった」と振り返った。「息子から頼まれた」「でも電話してきたのは別人」「30万円の支払いが今なら10万円でいいと言っている」「10万円がだめなら、5万円だったらいいのか」など、おかしな言動が気になり、粘り強く説得した。
 
 客は納得がいかない様子だったが、署員の姿を確認すると、「言いにくいが、実は…ある画像を見てしまって」と打ち明けた。井戸さんは「(客が)本当のことを言っているのか、分からない。詐欺だと認めてもらい、警察を呼べるか、判断が難しい。とにかく、おかしいなと思えることが大事。電子マネーに関わらず、電話でお金の話をしていたら、近づいて様子を見るようにした方がいい」と認識した。
 
対応した店員は駆け付けた警察官に状況を伝えた

対応した店員は駆け付けた警察官に状況を伝えた

 
 チェックシートは県警と県コンビニエンスストア等防犯対策協議会連合会が作成し、県内のコンビニなどに配布。そこには「ちょっと待って!」「訴訟を起こすというハガキが送られてきた」「電子ギフト券を買うよう指示された」「それは詐欺!」などと書かれ、注意を喚起している。井戸さんは「言葉だけで伝えるより、シートを見せることでお客様に考える時間を持ってもらえる」と実感した。
 
 同署生活安全課の小田島徹課長は「実際のところ、声を掛けるというのは難しいと思う。訓練という形で声掛けを体験することでハードルを下げ、気になる客に勇気を持って声を掛けてほしい。シンプルにまとめたチェックシートがその手助けになれば。いつか被害防止につながる」と期待する。
 
コンビニなどに配布されている特殊詐欺被害防止チェックシート

コンビニなどに配布されている特殊詐欺被害防止チェックシート

 
 県内で今年5月末までの特殊詐欺認知件数は11件(前年同期比6件減)で、被害額は5791万円(同比4399万円増)。架空料金請求詐欺、キャッシュカードを別のカード類とすり替えて盗む「キャッシュカード詐欺盗」が各4件、還付金詐欺が3件で、被害額の約9割が架空料金請求によるものとなっている。
 
 釜石署管内では今年、被害は確認されていない。特殊詐欺の手口は巧妙化し、複数の方法を組み合わせて複雑化しており、「詐欺に気づく力が必要。昨年は1件、数百万円の被害があった。本人だけでなく、家族に高齢者がいれば、身近で起こるかもしれない。家族間の話題として話し合ってほしい」と小田島課長。新型コロナウイルス禍で控えていたスーパーなどでのチラシ配布による啓発活動を再開する予定で、「広報媒体を通じ意識付けし、被害を食い止めていきたい」と力を込めた。

jyumin2

避難所見直しへ、釜石市 最大クラス津波想定 県公表を受け説明会

津波浸水想定について質問や意見が相次いだ住民説明会

津波浸水想定について質問や意見が相次いだ住民説明会

 
 釜石市で18日、県が今年3月に公表した最大クラスの津波浸水想定に関する住民説明会が始まった。同日は新町の双葉小体育館で開かれ、甲子・小佐野・中妻地区の住民約40人が参加。東日本大震災時に浸水しなかった地域に被害が及ぶ可能性が示され、避難のあり方をあらためて考えた。説明会は地区別に計4回開催。参加者から上がった意見を緊急避難場所などの見直しに反映させる。
 
 市防災危機管理課の川﨑浩二課長が、県がシミュレーションに使用した条件などを解説。満潮時に震災や日本海溝など最大クラスの津波が発生し、地盤沈下が起きて防潮堤が破壊された場合の地区ごとの浸水深などを伝えた。
 
参加者は資料を確認しながら説明にじっと耳を傾けた

参加者は資料を確認しながら説明にじっと耳を傾けた

 
中妻地区は海まで2キロ強あり、震災の津波では浸水しなかった。2020年9月に内閣府が公表した最大級の津波浸水想定で、海に近い千鳥町や中妻町が新たに浸水区域に入っていた。今回の県想定では、上中島町の一部まで浸水の範囲が広がり、地区の拠点避難所となる公共施設も最大で5~10メートルの浸水の可能性があると示された。
 
 「そういう想定を示されても、逃げない人は逃げない。大丈夫だと思っている人が多い」と口を開いたのは千鳥町の男性。住民間の温度差を感じている様子で、危機感や避難の必要性を認識させるような情報伝達の在り方を考えてほしいと要望した。中妻町の男性も「浸水範囲や深さを色分けした図面で示されてもピンとこない」と指摘。鵜住居町の学校にある高台避難を促す目印ラインを例に、「ハザードマップを見える化するのはどうか。いつも意識できるようになる」と提案した。
 
中妻町や上中島町など釜石地区(西部)の防潮堤が破堤した場合の県津波浸水想定

中妻町や上中島町など釜石地区(西部)の防潮堤が破堤した場合の県津波浸水想定

 
 鈴子町の佐々木眞さん(69)は、津波緊急避難場所とされている最寄りの市教育センターが6・0メートル浸水するとの想定に不安を感じた様子。「避難場所を定める際の最低必要条件や津波到達時間の目安など、われわれが取るべき行動の指標をはっきりしてほしい」と求めた。
 
 市内陸部の野田町に暮らす小菅幸江さん(41)は職場が海に近い松原町にあり、新たな津波想定が気になり参加。震災時に避難した松原公園が、今回の想定では1・0メートル浸水すると分かった。従業員の命を守る取り組みを考える立場にあるといい、「想定を社内で共有し、避難訓練のあり方も考え直さなければ」と気を引き締めた。震災後に生まれた子どもにも当時の様子を伝えるようにしていて、「自分の命を守れるように」と願っている。
 
説明会で上がった住民の声を避難方法の見直しに役立てる

説明会で上がった住民の声を避難方法の見直しに役立てる

 
 市は、県の公表を受けて、津波浸水想定の分析や津波緊急避難場所(市内84カ所)の浸水状況調査、拠点避難所(同19カ所)の確認を進めている。今回の説明会のほか、開催中の各地域会議や復興まちづくり協議会でも説明を重ね、市民の声を聞きながら避難場所や避難経路などを見直す方針。9月をめどにウェブ版の市ハザードマップを更新、見直し結果を市広報紙で周知する。
 
 住民説明会は各回午前10時から1時間を予定。日にちと場所は次の通り(かっこ内は対象地区)。
■6月25日 釜石東中体育館(鵜住居、栗橋)
■7月9日 市民ホール(本庁、平田)
■7月23日 唐丹中体育館(唐丹)

kansya1821

行方不明の高齢女性を保護 危険回避した2女性に釜石警察署長が感謝状

釜石警察署署長感謝状を受けた阿部静子さん(中左)と前川陽美さん(中右)

釜石警察署署長感謝状を受けた阿部静子さん(中左)と前川陽美さん(中右)

 
 釜石警察署(前川剛署長)は9日、行方不明になっていた釜石市甲子町の女性(82)を保護し、迅速な通報で命の危険を回避したとして、大槌町小鎚の保健師・阿部静子さん(40)と釜石市鵜住居町の看護師・前川陽美さん(22)に署長感謝状を贈った。保護された女性は認知症の症状があり、2人の的確な判断と処置がなければ生命に関わる事案となっていた可能性も。女性が無事に家族のもとに帰れたことに、2人は「安心しました。本当に良かった」と口をそろえた。
 
 同署署長室で贈呈式が行われ、前川署長が阿部さん、前川さんに感謝状を手渡した。前川署長は「お2人のやさしさ、親切心が高齢女性を救った。ご家族も大変感謝しておられた。高齢者が犯罪被害や交通事故に巻き込まれる事案が増えている。これからも地域の安全、安心のためにご協力を」と願った。
 
行方不明高齢者保護の功労で前川剛署長が感謝状を贈呈

行方不明高齢者保護の功労で前川剛署長が感謝状を贈呈

 
 釜石市内に職場がある2人は5月11日午後7時すぎ、車で帰宅途中、鵜住居町の国道45号恋の峠付近で、ガードレールにつかまりながら上り坂をとぼとぼ歩く高齢女性を目撃。阿部さんは近くの店舗駐車場からUターン。前川さんは一度自宅に戻ったものの、気になって父親と一緒に現場に引き返した。
 
 2人が声を掛けると、女性は「家に帰ろうとしている」というようなことを口にしたが、「目がとろんとして、少し疲れている様子だった」(前川さん)という。「声を掛けたらすぐに近寄ってきた。不安も大きかったのでは」と阿部さん。その後、阿部さんの車に女性を乗せて毛布やカイロで体を温めるなど介抱。前川さんが110番通報し、警察官が到着するまでの間、手掛かりを求めて2人で女性の話を聞いていた。
 
 女性が家にいないことに家族が気付いたのは午後6時ごろ。付近を捜したが見つからず、釜石署に届け出た。前川さんらと家族からの通報が重なり、早い段階での身元判明につながった。発見時、外傷などは見受けられなかったが、翌日の受診で軽度の足首の捻挫が判明した。
 
大きな事故につながらず、女性が家族のもとに戻れたことを喜ぶ阿部さん(右)と前川さん

大きな事故につながらず、女性が家族のもとに戻れたことを喜ぶ阿部さん(右)と前川さん

 
 5年前、福祉施設から抜け出した高齢男性を保護した経験がある阿部さんは、今回の発見場所から「もしかしたら…」と同様のケースを考え、すぐに行動を起こした。「まずは無事だったことが何より。(高齢化が進み)これから似たようなことが増えるだろう。この地域に住む人間として、気になる人がいたら積極的に声を掛けたい」。
 
 発見現場は街灯がなく、当時は薄暗かった。周辺では過去にクマの目撃例もある。地元住民でもある前川さんは「あの時間帯に散歩する人を見かけることはほぼ無い。後悔しない選択ができて良かった」。思いがけない感謝状を受け、「自分にとっても誇りになる」と話し、初めての経験を胸に刻んだ。

hinankunren01

急げ!近くの避難場所へ 鵜住居小と釜石東中、下校時に合同訓練

大地震を告げる放送を聞き、近くの避難場所に向かう児童生徒ら

大地震を告げる放送を聞き、近くの避難場所に向かう児童生徒ら

  
 釜石市鵜住居町の鵜住居小(佐藤一成校長、児童140人)と釜石東中(佃拓生校長、生徒102人)は6月1日、下校時に地震と津波発生を想定した合同避難訓練を行った。「今いるところから一番近い避難場所は!」「とにかく高台に避難する」。学校での学びを生かし、東日本大震災時に生徒が児童の手を引き高台に避難した両校では、脈々とつないできた防災意識の深化に向け、自ら主体的に考え判断し行動する力を身に付けようと取り組みを進めている。
  
 三陸沖を震源とする震度6強の地震が発生し、高さ10メートル以上の津波が襲来するとの想定。帰宅途中に防災行政無線から大地震を告げる放送が流れると、児童生徒はその場にしゃがみ込み、持っていたかばんなどで頭を守った。「早く高台へ」「逃げろー、急げー」。揺れが落ち着いたことを確認し、近くの指定避難場所などに向かった。
   
警報が流れると、その場でしゃがみ込み荷物で頭を覆って身を守った

警報が流れると、その場でしゃがみ込み荷物で頭を覆って身を守った

  
最寄りの避難場所を目指し坂道を駆け上がる子どもたち

最寄りの避難場所を目指し坂道を駆け上がる子どもたち

  
 このうち日向・新川原地区を歩いていた子どもたちは、高さ19メートルの三陸沿岸道路釜石山田道路につながる「津波避難階段」に向かった。長内集会所に近い、鵜住居第2高架橋南側たもとにある階段は、上りきると鵜住居トンネル電気室前の広場に出る。そこを目指して約80段の階段を急ぎ足で上った。「気を付けて」。中学生や小学校高学年の児童は振り返って他の子に気を配って避難。より早く逃げられるよう、低学年児童の荷物を背負って逃げる生徒の姿も見られた。
  
hinankunren04

小学生のランドセルも背負って避難する中学生の姿があった

  
 主体的に行動することを目標に訓練に臨んだ高清水麻凜さん(釜石東中3年)は「普段は自分のことだけでいいが、今回は後輩のことを考えながら行動した。大きい声を出して誘導できた」と自己評価。川﨑拓真君(同)は「いざという時に備えて、防災に関する学びにしっかりと緊張感を持って取り組んでいく」と意識を高めた。
  
 震災から11年が経過。現在の小学生は当時0歳か1歳で、ほとんどは生まれていない。実際の記憶はなく、授業や教科書で「あの日」の出来事を学ぶ。岩鼻樹里さん(鵜住居小6年)は「サイレンが怖くてドキドキした。みんなと一緒にいて素早く行動できたけど、落ち着いて逃げることができなかった」と、ちょっと残念そうな表情を浮かべた。「知識はあっても、実感のない話」にしないよう真剣に参加していて、「本当の時は落ち着いて行動したい。自分の命を守ったら、低学年の子の命も守れるようになりたい」と上を向いた。
  
 鵜小・東中学区内の指定避難場所(津波災害緊急避難場所)は、両校の校庭を含め36カ所ある。今回の訓練で小学校は集団下校としたが、普段の下校時間はばらばら。登下校中に地震に遭遇したり、警報が鳴った時に周囲に頼ることのできる人がいない場合でも逃げられるよう各自が避難先を把握するのが訓練の目的。さらに、それぞれの状況に応じて考え、判断し、行動する力を鍛えてもらうのも狙いにする。
   
訓練終了後の反省会で、主体的に行動しようと思いを共有した

訓練終了後の反省会で、主体的に行動しようと思いを共有した

   
 訓練終了後、広場で反省会。地区住民20人ほども参加していて、新川原町内会の古川幹敏会長(69)が震災の経験談を交えながら、「大きな地震の時、みんなで一緒に行動できるとは限らない。大事なことは、どこにいても一人でも逃げることと、避難場所を考えておくこと。備えが必要。命を大切にする取り組みを一緒にやっていこう」と呼び掛けた。
  
 訓練の様子を見守った両校の教諭らは「中学生に頼らなくても逃げられる心構えを。どんな時でも自分の力で逃げられるよう努力してほしい」「訓練だからではなく、普段から本気で自分で考えて行動することが大事。夜中だったら…、自分ひとりかもしれない。いろんなパターンがあり、自主的に行動する姿勢を小学生につなげてほしい」と求めた。

syobou01

防火、防災の士気高め 釜石市消防団演習 3年ぶり開催

3年ぶりに行われた釜石市消防団の消防演習

3年ぶりに行われた釜石市消防団の消防演習

  
 釜石市消防団(川﨑喜久治団長、団員551人)の2022年度消防演習は5月29日、鈴子町の釜石消防庁舎駐車場を会場に行われた。新型コロナウイルスの影響で20、21年が中止となり、3年ぶりの開催。今回もコロナ感染拡大防止のため分列行進や放水訓練は行わず、表彰式主体で規模を縮小して行われた。
  
姿勢を正し敬礼。職務遂行へ士気を高めた

姿勢を正し敬礼。職務遂行へ士気を高めた

   
 式典には団員221人、車両40台が参加。統監の野田武則市長が「有事の際に安全、迅速に対応できるよう訓練に励んでほしい。地域防災のリーダーとして既成にとらわれることのなく、活発な活動を」と訓示した。
   
 優良消防団や団員をたたえる市長表彰では竿頭綬(かんとうじゅ)に5団体、功績章は11人が受賞。市消防団長表彰の精勤証は9人に贈られた。新規入団者3人が辞令を受け、第7分団3部(橋野町中村)所属の佐々木一真さんが「良心に従って誠実に消防の義務を遂行する」と宣誓した。
  
先輩団員に見守られ辞令を受けた新入団者

先輩団員に見守られ辞令を受けた新入団者

   
 各分団や所属ごとに整列した団員らは姿勢を正し、野田市長らの観閲を受け、防火・防災と安全・安心のまちづくりに向けた任務遂行へ気を引き締めた。
 

セラピー犬との触れ合いイベントで記念撮影を楽しむ子ども=TETTO

人間と動物の共生社会実現へ セラピー犬と触れ合い&ペット防災学ぶ

セラピー犬との触れ合いイベントで記念撮影を楽しむ子ども=TETTO

セラピー犬との触れ合いイベントで記念撮影を楽しむ子ども=TETTO

 
 セラピー犬との触れ合いを通して、犬の適正飼養やペット防災について学ぶ催しが22日、釜石市大町の市民ホールTETTOで開かれた。釜石市を拠点に活動する動物愛護団体「人と動物の絆momo太郎」(鈴子真佐美代表)が主催。認定NPO法人日本レスキュー協会(兵庫県)のセラピー犬が訪れ、来場者と交流。災害時、ペットとの避難を円滑に行うための日ごろの備えを教える講話も行われた。
 
 病院や福祉施設、災害被災地などで人の心と体のケアを補助するセラピー犬。この日は同協会で特別な訓練を受け各地で活動実績のある、にこり(ゴールデンドゥードル11歳、雌)、はっぴー(ラブラドール・レトリーバー6歳、雌)、りょうま(雑種8歳、雄)の3頭が来釜。来場者はしつけの行き届いた犬たちに感心しながら、体をなでたり記念撮影を楽しんだりし、心身ともに癒やされた。
 
モフモフの「にこり」に大人も子どももメロメロ

モフモフの「にこり」に大人も子どももメロメロ

 
“お手”も上手に。愛くるしい「はっぴー」の姿にみんな笑顔!

“お手”も上手に。愛くるしい「はっぴー」の姿にみんな笑顔!

 
赤ちゃんに優しいまなざしを向ける「りょうま」

赤ちゃんに優しいまなざしを向ける「りょうま」

 
 同協会員によるペット防災の講話では、災害時に飼い主とペットが安全安心に避難するための備えについて説明があった。ポイントは4つ。▽所有明示(鑑札、狂犬病予防注射済票、マイクロチップなどの装着)▽健康管理(ワクチン接種、寄生虫や感染症予防、シャンプー・ブラッシングケア)▽しつけとコミュニケーション▽持ち出し品の用意・備蓄。
 
 環境省のガイドラインでは、災害時に置き去りにされたペットの徘徊や野生化を防ぐため、飼い主との「同行避難」が推奨される。避難先ではケージでの飼養が必要となる場合が多く、普段から慣れさせておくことが重要。「ケージ=自分だけのスペース」と認識しリラックスできると、慣れない場所でも大きなストレスを感じずに過ごせるようになるという。また、日常的にさまざまな環境、人、音などに慣れておくことで、災害による急な環境変化にも順応できるようになる。
 
長い時間、ケージに入っていても落ち着きをみせるりょうま。普段から安心できる場所として慣れさせてあげることが大事

長い時間、ケージに入っていても落ち着きをみせるりょうま。普段から安心できる場所として慣れさせてあげることが大事

 
災害に備え用意しておくと安心なペット用品を展示。ペット用非常持ち出し袋のプレゼントも

災害に備え用意しておくと安心なペット用品を展示。ペット用非常持ち出し袋のプレゼントも

 
 ペット用支援物資は届くまでに時間がかかる場合があるため、最低5日分の食料と水、薬、ペットシーツなど必要な物をまとめて持ち出せるよう準備しておくことも必要。会場では、非常持ち出し品の展示も行われ、スタッフが来場者にアドバイスを行った。
 
 ペット同伴可能な避難所は全国で増えつつあるが、現状では屋内に持ち込めないケースが多い。飼い主は事前に、地域の避難所の受け入れ可否の確認、一時的な預け先の確保をしておくと安心。
 
 東日本大震災時、愛犬との避難を経験した平田の60代女性は避難所には入れず、親戚の家で世話になった。「災害があるたびに飼い主が苦労している姿を目にする。人と一緒に避難できる場所が少しでも増えるといい」と願う。当時は非常時の持ち出し品も準備しておらず、他の飼い主からペットフードを分けてもらった。「ペットの命を守るのは飼い主の責任。これを機に再度見直したい」と気を引き締めた。
 
 以前、犬を飼っていた上中島町の70代女性は、多頭飼育や虐待などペットを取り巻く問題にも心を痛め、「小さいころから絵本や動物との触れ合いを通して命の尊さを教えることで、大人になっても家族の一員として大切にできる気持ちが育つのでは。今回のような催しがもっとあれば」と期待を寄せる。
 
子どもたちはセラピー犬との触れ合いに大喜び!

子どもたちはセラピー犬との触れ合いに大喜び!

 
はっぴーとのジャンケン対決も楽しんだ来場者

はっぴーとのジャンケン対決も楽しんだ来場者

 
 主催団体の鈴子代表は「海外では公共施設などに犬と一緒に入れたり、人間と動物の共生への理解が進む。日本ではまだまだだが、今回、この会場で動物イベントができたことは大きな一歩」と喜ぶ。ペット同伴が社会的に認められるようになるには、飼い主のきちんとしたしつけが絶対条件。「いろいろな場所に行っても無駄吠えをしない、犬同士でけんかをしない―など、犬の社会化ができていないと実現は不可能。こういうイベントなどで飼い主が日ごろのトレーニングの重要性に気付き、積極的に取り組むきっかけにもなれば」と話した。

「オリジナル安否札」を手渡しながら防災を呼び掛けた「夢団」の活動

届け!「防災」の願い 釜高生 うのスタ震災伝承活動で「オリジナル安否札」配布

「オリジナル安否札」を手渡しながら防災を呼び掛けた「夢団」の活動

「オリジナル安否札」を手渡しながら防災を呼び掛けた「夢団」の活動

 
 釜石高の生徒有志で結成する防災・震災伝承グループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」(30人)は8日、釜石市の釜石鵜住居復興スタジアムで防災啓発活動を行った。ジャパンラグビーリーグワン2部、釜石シーウェイブス(SW)RFCのホーム戦に合わせて実施。観戦客に東日本大震災の経験を伝え、新たに作成した「オリジナル安否札」の配布などで災害への備えの大切さを呼び掛けた。
 
 スタジアムでの試合開催時に伝承活動を続けている夢団。今季4回目の活動となったこの日は、12人が参加した。施設内に建つ震災の教訓を伝える祈念碑の前では、矢内舞さん、戸澤琉羽さん(ともに3年)が「語り部」活動。鵜住居で起こった当時の出来事などを伝え、命を守る行動、日ごろの備えの重要性を訴えた。
 
スタジアム内の祈念碑の前で行った震災伝承の「語り部」活動

スタジアム内の祈念碑の前で行った震災伝承の「語り部」活動

 
震災時、スタジアムの場所にあった鵜住居小、釜石東中の児童生徒の避難行動などを説明する戸澤琉羽さん。背後には高台移転した現校舎が見える

震災時、スタジアムの場所にあった鵜住居小、釜石東中の児童生徒の避難行動などを説明する戸澤琉羽さん。背後には高台移転した現校舎が見える

 
 メンバーの発案で作成したオリジナルデザインの安否札は、この日が初お披露目。災害避難時に玄関に掲示し、すでに避難したことを知らせる安否札は、家族や地域の犠牲を減らすことにつながる。B5判サイズで、表面には避難場所、裏面には連絡先や伝言を書き込める欄を設け、活用の仕方も記載した。メンバーは観戦客らに直接手渡し、防災意識を高めるのに一役買った。
 
安否札の使い方を説明する夢団メンバー(右)

安否札の使い方を説明する夢団メンバー(右)

 
 安否札を配った佐々木結咲さん(2年)は「初めて知った人もいるよう。今日は県外から来ている人も多く、震災の経験を伝えるにはいい機会。教訓を広め、防災を身近にしてもらい、これからの被害を少しでも小さくできたらいい」と願った。
 
 「夢団」は2019年12月に結成。同スタジアムが会場となったラグビーワールドカップ(W杯)開催時に、震災の教訓と復興支援への感謝を伝えようと活動した生徒らが、継続的な活動をしたいと団体を立ち上げた。生徒のアイデアで作成し、W杯来場者に配った「津波伝承うちわ」は団に受け継がれ、今も伝承活動で生かされる。これまでに6千枚を配り切り、今回の安否札作成に合わせて1千枚を増刷。2種のツールでさらなる防災力向上を促す。
 
この日は増刷した「津波伝承うちわ」も配られた

この日は増刷した「津波伝承うちわ」も配られた

 
 語り部を担当した矢内さんは震災時6歳。唐丹町の自宅が津波で全壊し、仮設住宅で7年間を過ごした。自身の経験も盛り込み、感じたことを伝える中で口にしたのは、多くの支援に対する感謝と助け合いの精神。「災害時は近隣はもちろん、見ず知らずの人でも助け合いや声掛けが重要」とし、「話を聞いた人が家庭や地域で広めてくれて、多くの人が防災知識を身に付けるきっかけになれば」と期待した。
 
自身の被災体験を交え、震災の教訓を伝えた矢内舞さん(右)

自身の被災体験を交え、震災の教訓を伝えた矢内舞さん(右)

 
 東京都の平木香織さん(38)は「当時、幼かった子たちが怖い思いをしながら逃げたこと。今、こうして自分たちの経験を次につなげようとする姿。話を聞いていると涙が出そうになった」と思いを共有。平木さんの母博美さん(65)=兵庫県神戸市在住=は、阪神・淡路大震災で実家が半壊した経験を持つ。「釜石の『津波てんでんこ』は有名。多くの子どもたちが助かったのは、家庭や地域で受け継がれてきたからなのだろう。率先して逃げられるのは(避難が)体に染みついている証拠」と地域の力を実感。全国で大規模災害が多発する現状に「重要なのは防災と減災。自然は止められないが、どう対処できるかを知っていることで被害を減らせることは確か」と話した。

春の交通安全運動が始まり、街頭で安全運転を呼び掛ける関係者

事故抑止、防犯意識高揚へ一丸 春の安全運動 ボランティアら街頭で呼び掛け

春の交通安全運動が始まり、街頭で安全運転を呼び掛ける関係者

春の交通安全運動が始まり、街頭で安全運転を呼び掛ける関係者

 
 新学期を迎え、子どもや地域の安全、犯罪被害防止を呼び掛ける学校、職場、ボランティアの活動が活発化している。春の全国交通安全運動、春の地域安全運動は6日から15日まで10日にわたって展開。釜石市では初日の6日、両運動を啓発する街頭活動を行い、釜石警察署(前川剛署長)と釜石地区の交通・防犯関係団体から関係者約165人が参加した。
  
交通・防犯関係団体が連携し子どもや地域の安全を守る活動を推進する

交通・防犯関係団体が連携し子どもや地域の安全を守る活動を推進する

 
 中妻町の同署で開会式を行い、市交通安全対策協議会会長の野田武則市長が「外出する機会が増える季節となり、地域ぐるみでの取り組みが必要だ」とあいさつ。釜石地区防犯協会連合会の岩渕善吉会長は「地域の安全は地域で守るという自主防犯意識の高揚を図り、安全で安心して暮らせる街の実現に向けた活動を盛り上げていく」と決意を述べた。
 
 前川署長は管内の交通事故や治安状況を説明。2021年の交通事故発生件数は35件(前年比4件減)で、交通死亡事故の発生はなかった。一方、今年の2月には大町で道路横断中の歩行者が自動車にはねられる重傷事故が発生。発生件数も昨年より増加しており、「憂慮すべき状況だ」と指摘した。刑法犯認知件数は71件(同比18件減)だったが、女性や子どもに対する声掛けなどは断続的に発生。「ボランティアと連携し犯罪抑止の活動を進め、より多くの方の安全意識の高揚が図られることを期待する」と激励した。
  
安全指導に出動する白バイやパトカーを関係者が見送った

安全指導に出動する白バイやパトカーを関係者が見送った

 
 参加者は安全指導に出動する警察の白バイやパトカー、ボランティアが乗った青色防犯パトカーを見送り、国道283号沿い、まるまつ前交差点周辺で街頭広報活動。「スピード注意」「飲酒運転根絶」「携帯電話運転禁止」などと呼び掛ける手持ちの看板を掲げてアピール。歩行者や信号で止まったドライバーにはチラシや反射材を配った。
 
「交通事故に合わないよう気を付けて」と呼び掛ける女性ボランティアら

「交通事故に合わないよう気を付けて」と呼び掛ける女性ボランティアら

 
 春の交通安全運動は「通学路 速度落とす 思いやり」をスローガンに掲げる。▽子どもなど歩行者の安全確保▽飲酒運転根絶など安全運転意識の向上▽自転車の交通ルール順守の徹底と安全確保-が重点。街頭指導のほか、新入学児童への交通安全記念品の贈呈、「ドーナツ運動」、小中学校などでの交通安全教室などを行う。
 
 地域安全運動のスローガンは「なくそう犯罪 ふやそう笑顔 みんな大好き岩手県」。▽子ども・女性・高齢者の犯罪被害防止▽鍵かけの励行-を重点とし、防犯標語「いかのおすし」や特殊詐欺被害防止の対応確認、見守り活動や防犯パトロールの実施、「子ども110番の店」活動の確認、鍵かけの徹底の呼び掛けなど、家庭や地域・学校、事業所、行政、関係団体が連携して取り組む。

釜石スタディツアーで訪れた北海道厚真町の小中学生=3月27日、釜石PITでの交流会

地震被害を受けた北海道厚真町の小中学生 子ども目線の防災 釜石から学ぶ

釜石スタディツアーで訪れた北海道厚真町の小中学生=3月27日、釜石PITでの交流会

釜石スタディツアーで訪れた北海道厚真町の小中学生=3月27日、釜石PITでの交流会

 

 2018年9月の北海道胆振東部地震で道内最大の被害を受けた厚真町の小中学生6人が、3月26日から3日間、東日本大震災の被災地・釜石市を訪問。同市の子どもたちと大規模災害の経験を共有しながら、教訓を学び合った。厚真の小中学生は、震災後、率先して防災活動に取り組む釜石の中高校生の姿にも刺激を受け、未来の命を守るために自分たちができることを考えた。

 

 釜石訪問は、同町の放課後子ども教室事業を担う「オフィスあっぷ・ろーど」(上道和恵代表)が主催した防災学習プログラムの一環。1月から3回の講座で、地震発生のメカニズムや同町の災害ボランティア活動などについて学んできた小学4年~中学1年の児童生徒が参加した。

 

 初日は震災で甚大な被害を受けた鵜住居町を訪問。震災伝承施設「いのちをつなぐ未来館」、同市の犠牲者の芳名を刻んだ慰霊碑がある「釜石祈りのパーク」、被災した小中学校跡地に建設され、ラグビーワールドカップの会場となった「釜石鵜住居復興スタジアム」などを見学。当時の被災状況、住民の避難行動、復興への歩みについてガイドから話を聞いた。2日目は三陸鉄道で釜石―盛(大船渡市)間を往復。沿線の津波被害や復興状況を車窓からの景色を見て学んだ。

 

いのちをつなぐ未来館で東日本大震災について学ぶ=3月26日(関係者撮影)

いのちをつなぐ未来館で東日本大震災について学ぶ=3月26日(関係者撮影)

 

 釜石PITでの交流会には、地元の小中高生22人が参加。釜石高の震災伝承、防災活動グループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」は、自作の“防災すごろく”を初お披露目し、厚真、釜石の小中学生に体験してもらった。すごろくのマスには、地震発生時の避難行動で重要なポイントがちりばめられ、子どもたちは楽しみながら防災の知識を身に付けた。制作したゲーム班の山崎楓さん(2年)は「メンバーの実体験を組み込んだ。震災を知らない子どもたちに教訓や防災を教える手段として活用できれば」と望んだ。防災食班は、日常的に非常食を消費し、常に新しいものを備蓄しておく「ローリングストック法」を紹介。賞味期限切れでの廃棄を防ぎ、おいしく食べるレシピの一例として、パンの缶詰を使ったラスク作りを実演した。

 

「防災すごろく」を体験する厚真と釜石の子ども

「防災すごろく」を体験する厚真と釜石の子ども

 

釜石高生によるパンの缶詰を使ったラスク作りの実演。子どもたちも興味津々

釜石高生によるパンの缶詰を使ったラスク作りの実演。子どもたちも興味津々

 

 18年9月6日午前3時7分に発生した大地震で、厚真町は北海道観測史上初の震度7を記録。大規模な土砂災害などで建物や農地が被害を受け、37人(関連死含む)が犠牲になった。家業が神社という中村心陽(こはる)さん(厚真中央小4年)は「大きな揺れで飛び起きた。外に出たら神社の建物の土台がずれ、鳥居も倒れていた。すごく怖かった」と当時を振り返る。

 

 「地震のことをもっと知りたくて参加した」釜石ツアー。「多くの人が亡くなった場所にも行き、悲しい気持ちになった。先に地震を経験した釜石の子は、私たちの気持ちを分かって励ましてくれたり、自分の身を守る方法を教えてくれたりした」と中村さん。被災経験を生かし、防災活動に積極的に取り組む釜石の中高校生の姿を目にし、「私も誰かを助けられる人になりたい。厚真の地震で怖い思いをした高齢者とかにアドバイスしてあげて、みんなが安全に逃げられるようにしたい」と思いを語った。

 

防災すごろくで地震発生時の避難行動を疑似体験する中村心陽さん(左)

防災すごろくで地震発生時の避難行動を疑似体験する中村心陽さん(左)

 

互いに自己紹介し合う厚真と釜石の子どもたち

互いに自己紹介し合う厚真と釜石の子どもたち

 

 両市町を結ぶきっかけを作ったのは、震災の津波で自宅を失い、避難生活を経験した釜石東中2年の藤原菜穂華さん。北海道で同地震があった当時、小学6年生だった藤原さんは「震災でお世話になった北海道の人たちのために何かしたい」と支援活動に乗り出し、サポートする市内団体メンバーと一緒に19年3月、厚真町を訪問。被災した子どもたちに絵本の読み聞かせをしたり、森で一緒に遊んだりし、元気を取り戻すお手伝いをした。

 

 中学生になってからは、市が募集した「大震災かまいしの伝承者」に応募。研修を経て伝承者の認定を受け、語り部活動も始めた。今回、厚真の小中学生を迎えるにあたり、未来館でのガイドを担当。交流会では釜石の魅力を紹介し、双方のまちの子どもたちが交流を深める企画を自らプロデュースした。

 

独自の視点で釜石のまちの魅力を紹介する藤原菜穂華さん

独自の視点で釜石のまちの魅力を紹介する藤原菜穂華さん

 

災害の教訓を学び、互いのまちの良さも共有した交流会

災害の教訓を学び、互いのまちの良さも共有した交流会

 

 「3年前に訪れた時のことを厚真の子たちが覚えていてくれてうれしかった。同じ地震災害でも厚真は土砂災害、釜石は津波。今回の訪問でその違いを感じ、新たに気付かされたこともあったのでは」と藤原さん。今後は「災害を経験した子どもたち同士の交流が経験のない世代や地域にも広がり、防災について一緒に考えられるようになれば」と願う。

 

注)本文中の学年は取材日(3月27日)時点