タグ別アーカイブ: 防災・安全

碑の修復にあたった日髙真吾教授(右)、市文化振興課の藤井充彦課長(左)ら

津波の歴史を後世に 唐丹「海嘯遭難記念之碑」レプリカ 市郷土資料館に展示

「海嘯遭難記念之碑」レプリカの搬入作業=釜石市郷土資料館=15日

「海嘯遭難記念之碑」レプリカの搬入作業=釜石市郷土資料館=15日

 

 東日本大震災の津波で損傷した釜石市唐丹町本郷の明治三陸大津波の碑「海嘯(かいしょう)遭難記念之碑」の原寸大レプリカが、鈴子町の市郷土資料館にお目見えした。本年3月に同碑の修復作業を行った大阪府吹田市の国立民族学博物館が寄贈。資料館の津波展示コーナーに据えられ、過去の津波被害の歴史と教訓を後世に伝える。

 

 15日、修復作業を主導した博物館の日髙真吾教授(50)=保存科学専攻=ら職員5人が資料館にレプリカを搬入。市文化振興課から藤井充彦課長(郷土資料館長)らが立ち会い、寄贈に感謝した。

 

大阪からトラックで運ばれてきたレプリカを降ろす国立民族学博物館の職員

大阪からトラックで運ばれてきたレプリカを降ろす国立民族学博物館の職員

 

碑の修復にあたった日髙真吾教授(右)、市文化振興課の藤井充彦課長(左)ら

碑の修復にあたった日髙真吾教授(右)、市文化振興課の藤井充彦課長(左)ら

 

 同碑は1896(明治29)年6月15日に発生した三陸大津波から33回忌にあたる1928(昭和3)年、地元住民の発案で建立された。碑文には流失家屋300戸、犠牲者800人、生存者20人という壊滅的な被災状況とともに未来への伝承を願う強い思いが刻まれていた。

 

 レプリカは修復方針を立てるためのサンプルとして制作され、同博物館が3月に開いた震災10年を振り返る特別展「復興を支える地域の文化」の中で一般公開された。原寸大で高さ250センチ、幅160センチ。自然石の碑を再現するために用いた素材はFRP(繊維強化プラスチック)で、同加工を得意とするアーティストが造形、吹き付け塗装して仕上げた。

 

 実物の碑は、アスファルト状素材の基盤に浮き彫り、刻字した題字と碑文をくりぬいた石にはめ込んでいたが、震災の津波で碑文の半分が欠損した。修復は「震災遺構」としての意義を重視し、残存部分を補強、接着し直す作業にとどめている。レプリカの文字板は石こう製。3D機器を駆使し、実物そっくりに作られた。

 

実物の質感、色味が忠実に再現された文字部分

実物の質感、色味が忠実に再現された文字部分

 

東日本大震災の津波で欠損した碑文。衝撃の強さを物語る

東日本大震災の津波で欠損した碑文。衝撃の強さを物語る

 

 日髙教授は「原寸大サンプルで検証するのは珍しい。レプリカは出来栄えも上々。釜石の皆さんが震災の記憶をつなぐための一助として活用してもらえれば」と寄贈の理由を明かした。

 

 教授の研究グループは同震災の検証を進める中で、三陸沿岸に過去の津波碑が多く残されている点に注目。現存する場所を地図上に示し、データベース化している。「各地に残る碑に刻まれた大事な教訓が忘れ去られている部分があった。今回の震災であれだけの被害を出してしまったのは大きな反省点。今度こそ、しっかりと記憶を継承していく必要がある」と日髙教授。

 

 市文化振興課の手塚新太課長補佐(文化財係長)はレプリカを目にし、「インパクトがある。ここまで正確に作られているとは驚き。館にとっても貴重な資料となる」と喜んだ。明治、昭和の三陸大津波、東日本大震災と、市内には被害状況や教訓を伝える津波碑が数多く存在する。「石でできたものは残るので強み。末代まで続く伝承ツールとして大きな意味がある」とし、さらなる情報発信に意欲を示した。

震災ガイドで伝えるべき基本事項を受講者に解説する瀬戸元さん(左から2人目)

釜石来訪者のおもてなし強化へ 観光ガイド会新人6人が養成講座修了

釜石観光ガイド養成講座の現地研修=13日

釜石観光ガイド養成講座の現地研修=13日

 

 釜石市の釜石観光ガイド会(三浦達夫会長、27人)は14日、10月から開いてきたガイド養成講座の全日程を終えた。公募で集まった40~60代の男女6人が受講。今後、先輩ガイドの補助を受けながら実習を重ね、独り立ちを目指す。同会には世界遺産「橋野鉄鉱山」や東日本大震災、まちなかガイドなど多様な依頼が寄せられる。会では新人6人の活動に期待し、釜石のさらなる魅力発信に取り組んでいく考えだ。

 

 同会のガイド会員確保のための養成講座は、ほぼ隔年で行われる。10期目となる今回は10月2日から11月14日まで全7回の日程で実施。現会員が講師となり、ガイドの心構え、同市の歴史、観光名所に加え、釜石を発展させた製鉄業の歴史、東日本大震災の被災・復興状況、三陸ジオパークなどについて座学と現地研修を行った。

 

両石町の震災慰霊碑(18年建立)前での研修

両石町の震災慰霊碑(18年建立)前での研修

 

現会員を含む10人が参加し、知識を深めた

現会員を含む10人が参加し、知識を深めた

 

 現地研修最終日の13日は、甲子町の旧釜石鉱山事務所など製鉄業の関連遺産を巡った後、震災研修として両石町の慰霊碑、鵜住居町の祈りのパーク、いのちをつなぐ未来館などを訪問。受講者の八幡恵史さん(48、橋野町)、小笠原明彦さん(65、同)、岩間ゆかりさん(59、中妻町)が、会員からガイドをする際に伝えるべきポイントや分かりやすい説明の仕方を学んだ。

 

 震災研修で講師を務めた瀬戸元さん(76)は各地の被災状況とともに、明治、昭和の三陸大津波の歴史も紹介。先人が伝えてきた津波の教訓“命てんでんこ”や沿岸部に残る津波石碑の重要性を改めて説き、「先人の教訓を生かし切れなかったのが今回の震災。話を聞く人が確実な避難行動をとれるように導くのもガイドの役割」と教えた。

 

鵜住居町の祈りのパークでは、震災犠牲者に手を合わせてから説明を始めることを教えた

鵜住居町の祈りのパークでは、震災犠牲者に手を合わせてから説明を始めることを教えた

 

震災ガイドで伝えるべき基本事項を受講者に解説する瀬戸元さん(左から2人目)

震災ガイドで伝えるべき基本事項を受講者に解説する瀬戸元さん(左から2人目)

 

 受講者の岩間さんは「震災を経験し、微力ながら自分も伝承という部分で釜石のために役立つことができれば」と応募。一連の講座を終え、「すごく勉強になった。まだ不安のほうが大きくイメージは湧かないが、会員として長く活動できるように頑張りたい」と意欲を示した。

 

 同会のガイド分野は、2011年の東日本大震災、13年の「三陸ジオパーク」認定、15年の「橋野鉄鉱山」世界遺産登録により、この10年で大幅に拡大。依頼者の増加、ニーズの多様化に対応するには、会員の能力向上と人員確保が求められる。会員の瀬戸さんは「新人の加入はありがたい。会員の高齢化もあり、引き継いでいく人材が必要。何回も数をこなすことで自信も生まれてくると思うので、ぜひ戦力になり第一線で活躍してほしい。個性を生かしながら活動してもらえれば」と願った。

 

 14日は修了式が行われ、受講者に修了証を交付。活動時に着用するユニフォームが貸与された。

基本方針を確認し、委員の意見を聞いた初会合

~未来の命を守るために~発災から10年 釜石市が震災誌作成へ

第1回釜石市震災誌編さん委員会=8日、市役所

第1回釜石市震災誌編さん委員会=8日、市役所

 

 釜石市は東日本大震災の事実と教訓を後世に伝える市震災誌(仮称)の作成に着手する。震災発生から復旧、復興に至る10年の対応状況などを体系的に記録するほか、避難の検証、防災対策の課題など今後の安全安心なまちづくりにつながる要素を盛り込む。8日、市が委嘱した編さん委員による初会合が開かれ、作成の基本的考え方、今後の作業手順について確認した。2022年度内の完成を目指す。

 

 編さん委員会のメンバーは、同市の震災検証、復興に関わってきた大学教授や被災地域の住民、元市職員ら15人。初会合には市の担当職員を含め19人が出席した。委員長に岩手大の齋藤徳美名誉教授、副委員長に元副市長の山崎秀樹さんを選出した。

 

 震災誌は庁内検証委員会が年度ごとにまとめてきた記録誌を基に作成。9つの項目を柱に58のテーマで、①事実・背景②指示(方針)③対応・結果④教訓―を記す。発災当日、1週間、1カ月の動きから、暮らしや産業などの復興に向けた取り組み、避難行動の検証と防災力強化の課題など、あらゆる視点で未来に生かされる内容を目指す。A4版(カラー)、400ページ程度で構成する予定。

 

 本年度は庁内検証委が素案を作成。編さん委内に作業部会を設け、素案の調整、修正などを行う。同部会では必要に応じて外部関係者の協力、助言を得る。

 

 編さん委の初会合ではこれらの方針を確認。委員からは「なぜ千人を超える犠牲者がでたのか。私たちがやるべきだったのにできなかったことをしっかり検証し、伝えていく必要がある」「震災誌を作ることで何を伝えたいのか。各項目の中で分かりやすく表現できれば」「つらい部分も、あえて掘り下げて次にどうつなげられるか。震災誌の真価が問われるところ」「津波からどう生き延びてきたのかも重要。10年を経た今の段階で震災誌を作る意義がある」などの声が上がった。

 

基本方針を確認し、委員の意見を聞いた初会合

基本方針を確認し、委員の意見を聞いた初会合

 

 齋藤委員長は「災禍を繰り返さないために何をすべきか。一歩踏み込んだ震災誌でなければ未来に発信できない。“防災先進地”釜石として新たな検証とともに、未来に残せるものを作りたい」と意を強くする。

 

 市はこれまでに、6編の震災検証報告書(津波避難行動、災害対策本部、避難所運営など)を作成。これらをもとに市民向けの「教訓集」「証言・記録集」を作成している。また、大勢の犠牲者が出た鵜住居地区防災センターにおける市の対応について、学識者や遺族、弁護士などによる調査委員会が被災調査報告書をまとめている。        

「火の用心」と声を合わせ、地域住民に呼びかける甲東こども園の防火パレード

暖房器具が出番迎える中、まちに響く「火の用心」 甲東こども園防火パレード

「火の用心」と声を合わせ、地域住民に呼びかける甲東こども園の防火パレード

「火の用心」と声を合わせ、地域住民に呼びかける甲東こども園の防火パレード

 

 暖房器具など火気の使用が増える季節を迎えたこの頃。空気も乾燥しており、火事に気を付けたい時期でもある。火災のない安全な地域になることを願い、釜石市野田町の甲東こども園(野田摩理子園長、園児143人)が11日、防火パレードを実施。3歳以上の園児に保護者らを加えた約140人が元気な声で「火の用心」を呼び掛けた。

 

 同園の防火パレードは今年で37回目。そろいの消防はんてんを着た園児は、拍子木や太鼓の音に合わせて「戸締まりよーじん!火のよーじん!」と声を上げながら約1・5キロを行進した。隊列には消防署の広報車、消防団のポンプ車も加わり、呼び掛けをサポート。住民らは家の前に出て、笑顔で見守った。

 

元気な声で「火の用心」を呼び掛ける拍子木隊

元気な声で「火の用心」を呼び掛ける拍子木隊

 

園児たちは火災のない安全な地域になることを願って住宅街を行進した

園児たちは火災のない安全な地域になることを願って住宅街を行進した

 

 近隣を巡った後、園庭で「防火の集い」。園児代表が「火遊びはしません。よい子になります」などと誓い、「マッチ一本、タバコの投げ捨て、子どもの火遊び 火事のもと」と消防標語に声を合わせた。釜石消防署の駒林博之署長は「元気のいいパレードだった。みんなの言葉は住民の多くに届いた。地域の火災ゼロにつながればいい」と協力に感謝した。

 

防火の集いで「気を付けて」とメッセージを送る園児たち

防火の集いで「気を付けて」とメッセージを送る園児たち

 

 全国一斉に展開された秋の全国火災予防運動(11月9-15日)の一環。「おうち時間 家族で点検 火の始末」を統一標語に、重点目標には▽住宅火災防止▽乾燥時や強風時の火災防止▽放火対策の推進▽大規模施設の防火対策の徹底-などを掲げた。釜石署管内では新型コロナウイルス感染症の影響で、例年実施している市消防団による防火広報パレード、戸別の防火訪問指導を中止。年間を通して行う保育施設での防災教室、事業所の立ち入り火防点検や消防訓練は継続し、市民の防火意識向上へ啓発活動に努める。

 

 釜石市内では今年、3件の火災があり、前年同期比6件減となっている。昨年12月には3件の火災が発生しており、釜石も含め全国的に電気や配線器具が関係する出火が多い傾向にある。駒林署長は住宅用火災警報器の点検や更新(10年)の必要性、設置の効果(死者、焼損面積は約半分、損害額は4割減)を強調。普及につながる取り組みを進めつつ、「防火に努めてほしい」と求めている。

伝承施設の取り組みなどを紹介し、今後の役割などへ意見を交わしたディスカッション

東日本大震災の教訓を国の防災力向上に 被災地釜石で“ぼうさいこくたい”

防災推進国民大会(ぼうさいこくたい)2021

防災推進国民大会(ぼうさいこくたい)2021

 

 防災推進国民大会(ぼうさいこくたい)2021=同実行委主催=は6、7の両日、東日本大震災の被災地・釜石市で開かれた。国内最大級の防災イベントで、6回目の今年のテーマは「~震災から10年~つながりが創る復興と防災力」。開催地の野田武則釜石市長は「震災の経験や未来の命を守る教訓を伝えることが責務。ここに『防災教育のまち釜石』を宣言し、全国に当市の取り組みを発信していく」と述べた。2日間で約5800人が来場。各種プログラムを通じて防災意識を高めた。

 

 6日、市民ホールTETTOで行われた開幕のあいさつで、二之湯智・内閣府特命担当大臣(防災)は「災害の被害を最小限に抑えるには、国民1人1人が防災の正しい知識を身に付け実践することが重要。大会を機に我が国の防災力が一層強化されるよう願う」と述べた。同所では2つのディスカッションが行われた。

 

伝承施設の取り組みなどを紹介し、今後の役割などへ意見を交わしたディスカッション

伝承施設の取り組みなどを紹介し、今後の役割などへ意見を交わしたディスカッション

 

 震災伝承に関する議論には5人が参加。地元釜石からは「いのちをつなぐ未来館」スタッフの川崎杏樹さんが登壇。震災時、釜石東中の2年生で、隣接する鵜住居小児童らと全校避難し、津波から逃れた川崎さんは、市内の多くの小中学生が助かった要因に防災教育を挙げた。「当時の小中学生が震災時、『いつも通り行動した』と話すのは、楽しみながら興味を持たせる防災学習があったから」。防災を身近に感じ、自然に命を守る行動につながったことを示した。自らの経験は同館が提供する防災学習プログラムにも生かされる。

 


 

 10年の経験と未来ビジョンを語るセッションには9人が参加した。一般社団法人おらが大槌夢広場の神谷未生代表理事は提供するプログラムで「あなただったら?」という問いを重ね、震災を自分ごととして考えてもらうことを重要視。釜石市の地方創生アドバイザーも務めてきた国連人口基金駐日事務所の佐藤摩利子所長は、釜石の子どもたちの避難行動に着目し、「日本からの発信が世界の子どもたちの命を守ることになる」と今後の発信力に期待した。野田市長は災害に対する危機意識を地域全体で共有する必要性を指摘。防災教育を受けた子どもたちが将来、地域の中核として住民を守る側になることを願った。

 

震災経験者や復興関係者が参加し、これまでとこれからを語ったディスカッション

震災経験者や復興関係者が参加し、これまでとこれからを語ったディスカッション

 

 TETTO内には全国の企業や教育機関、団体などが出展したプレゼンブースが設けられ、防災に役立つ情報を公開した。周辺施設も会場となり、セッション、ワークショップ、屋外展示を合わせ171団体が参加した。福島県郡山市の八田康之さん(52)は自社の出展に合わせ、初めて大会に来場。「出展者の熱意が感じられ、来場者も意識が高い。震災を風化させないためにもいいイベント」と東北開催を歓迎した。

 

TETTO内に設けられたプレゼンブース。防災に関するさまざまな情報を提供した

TETTO内に設けられたプレゼンブース。防災に関するさまざまな情報を提供した

 

来場者の興味を引いた「足紋採取体験」

来場者の興味を引いた「足紋採取体験」

 

 屋外展示会場では親子連れの姿が目立ち、各種体験が人気を集めた。非常持ち出し用リュックに必要物品を詰め、重さなどを確かめる体験、VR機材を使って地震の揺れや津波の速さを映像と音で体感するブース、自衛隊車両の乗車体験など、子どもが防災を意識しやすいコンテンツも用意された。

 

過去の地震の揺れを再現した岩手県の地震体験車

過去の地震の揺れを再現した岩手県の地震体験車

 

非常持ち出し用リュックに何を入れるかを考えた

非常持ち出し用リュックに何を入れるかを考えた

 

自衛隊車両の運転席に乗り興味津々の子どもたち

自衛隊車両の運転席に乗り興味津々の子どもたち

 

 釜石市の三浦幸治さん(41)は、過去の大地震の揺れを再現した車両を家族で体験。「思ったより揺れてびっくり。震災時は釜石で仕事中だったが、忘れかけている部分もある。震災を知らない息子にも当時のことを教え、防災面も見直したい」と気を引き締めた。花巻市の福司姉津佳さん(44)は9歳、6歳の子どもと来場。「子どもがいての防災を意識するようになったのがこの10年の変化。別々にいる時の避難の待ち合わせ、連絡法など考えねば。体験を機に子どもにも防災への関心が生まれれば」と話した。

 

 大会に合わせ、県や市などが企画した「いわて・かまいし防災復興フェスタ」も同時開催。震災の教訓、復興支援への感謝を伝えるパネル展示や語り部動画の上映、三陸鉄道の震災学習列車と伝承施設見学を組み合わせたツアーを行った。大会前日の5日は「津波防災の日」「世界津波の日」にあたり、今後の津波防災を考える講演や意見交換が行われた。

 

釜石市は「復興支援感謝のつどい」で貢献者26人に感謝状贈呈

 

 

 釜石市は7日、市内のホテルで「東日本大震災復興支援感謝のつどい」を開き、同市の復興に力を貸した26人に感謝状を贈った。出席した13人に野田武則市長が感謝状を手渡した後、10年の歩みを振り返り、今後のまちづくりへの意見・助言をもらった。つどいの模様はユーチューブチャンネル「ラグビーのまち釜石」でライブ配信され、収録動画が15日から来年3月31日まで配信される。

 

 
 

釜石市の復興を支えてきた26人に感謝状を贈呈

釜石市の復興を支えてきた26人に感謝状を贈呈

 

釜石復興の歩みを映像で振り返るつどい出席者

釜石復興の歩みを映像で振り返るつどい出席者

 

感謝状授与者は次の通り。
 
【釜石市復興まちづくりアドバイザー】
濱田武士(北海学園大教授)大西隆(東京大名誉教授)橘川武郎(国際大副学長)辻哲夫(東京大客員研究員)片田敏孝(東京大大学院特任教授)
【エンターテインメントを通じたこころの復興支援】
矢内廣(チームスマイル代表理事)
【飲食業の自立再建支援】
田辺恵一郎(プラットフォームサービス相談役)
【東北未来創造イニシアティブ】
米谷春夫(マイヤ代表取締役会長)高橋真裕(岩手銀行取締役会長)大滝精一(大学院大至善館副学長兼学術院長)大山健太郎(アイリスオーヤマ代表取締役会長)野田智義(アイ・エス・エルファウンダー)
【釜石市復興ディレクター】
小野田泰明(東北大大学院教授)遠藤新(工学院大教授)長濱伸貴(神戸芸術工科大大学院教授)
【地方創生アドバイザー】
小安美和(Will Lab代表取締役)枝見太朗(富士福祉事業団理事長)藤沢烈(RCF代表理事)横田浩一(横田アソシエイツ代表取締役)佐藤摩利子(国連人口基金駐日事務所所長)吉野英岐(岩手県立大教授)堀久美子(UBS証券社会貢献CSRアジア太平洋地域統括)大久保和孝(大久保アソシエイツ代表取締役社長)鈴木寛(東京大教授)玄田有史(東京大教授)川久保俊(法政大教授)

横断歩道を渡る児童を見守る釜石SWの選手ら

釜石SW、登校する児童の見守り開始~「おはよう」でエネルギー交換

通学路の安全、がっちり!「横断中」の旗を手に児童の登校を見守るモーガン・ミッチェル選手

通学路の安全、がっちり!「横断中」の旗を手に児童の登校を見守るモーガン・ミッチェル選手

 

 釜石市を本拠地にするラグビーチーム「釜石シーウェイブス(SW)RFC」が、甲子町松倉地区の小学生たちの通学路に立ち、交通事故などに巻き込まれないよう見守る活動を始めた。来年1月に開幕する新リーグ「リーグワン」への参戦に向けた「地域密着」型の新たな取り組みで、チームをより身近に感じてもらう初の試みだという。

 

 チームは学校でのタグラグビー教室や運動会など行事参加で児童らと交流し、地域に愛されるチームづくりを進めてきた。地域貢献・連携活動の一環として、チームの練習グラウンド(市球技場)があり、選手やスタッフが多く暮らす甲子地区の甲子小児童が安心、安全に登校できるよう見守り活動を行うことにした。

 

横断歩道を渡る児童を見守る釜石SWの選手ら

横断歩道を渡る児童を見守る釜石SWの選手ら

 

 活動は基本的に週4日、朝の登校時間に合わせて30分間、市球技場付近の通学路で実施する。初回の1日朝は、7時から自動車販売店そばの2カ所の横断歩道に山田龍之介選手(30)とモーガン・ミッチェル選手(28)、牛窪心希(しんき)選手(25)らが立ち、児童らに「おはよう」などと呼びかけながら登校を見守った。

 

 見慣れない体の大きな選手らに「ちょっと怖い」と思った子もいたようだが、「横断中」と書かれた旗を掲げながら体を張って車を止める姿に、和泉心寧(ここね)さん(甲子小4年)は「守ってくれそう。うれしい」と頼もしさを感じていた。普段から選手らが練習する様子を見ていた子もいて、「また会いたい」と楽しみも増やした。

 

朝のあいさつで交流を深める甲子小児童と釜石SW選手

朝のあいさつで交流を深める甲子小児童と釜石SW選手

 

 牛窪選手は「地域の子どもたちに、こういう形で少しでもチームを知ってもらえたら。出勤時間と重なり、思ったより車が走っていた。運転手には通学路だということを認識してもらい、気を付けて走ってほしい」と求めた。

 

 桜庭吉彦ゼネラルマネジャーは「おはよう―という言葉のキャッチボールが子どもと選手の双方にいい効果をもたらすはず。エネルギーを交換し、1日頑張るぞと思ってもらえたら」と期待。誇りを持ってもらえるチームづくりは地域にとって身近な存在になることが大事だと強調し、「ラグビーのまち釜石」の実現に向け地域と結束した取り組みを続ける構えだ。

津波を想定した初めての避難訓練。中妻町、千鳥町の住民らは八雲神社を目指した

新たな津波浸水想定 釜石市内陸部・中妻地区で初めての避難訓練

津波を想定した初めての避難訓練。中妻町、千鳥町の住民らは八雲神社を目指した

津波を想定した初めての避難訓練。中妻町、千鳥町の住民らは八雲神社を目指した

 

 日本海溝・千島海溝沿いで起こる巨大地震の想定で新たに津波の浸水域に含まれた釜石市中妻地区で14日、住民主体による初めての津波避難訓練が行われた。中妻地区地域会議(佐藤力議長)が主催し、構成する町内会や学校などから住民、児童生徒ら約700人が参加。近くの避難場所と経路、避難開始までの手順などを確認し、いつか起こりうる津波災害への認識を深めた。

 

釜石市ハザードマップ(中妻地区)

釜石市ハザードマップ(中妻地区)

 

 中妻地区は海まで約3キロあり、東日本大震災の津波では浸水しなかった。内閣府が公表した日本海溝(三陸・日高沖)モデルなどを受け、市が昨年10月に行った中妻地区住民対象の説明会では、津波で防潮堤が破壊された場合、最大で5~10メートル、広い範囲で2~5メートルの浸水の可能性があると示された。

 

 浸水想定エリアとなった町内会などから、▽自主防災組織の結成・再編▽避難時要支援者の把握▽防災マップづくり―といった「備える」取り組みを求める声が上がり、同会議などで協議、検討を重ねてきた。地域でできる取り組みの手始めとして避難訓練の実施を決めた。

 

警報が流れると、下校時の児童はその場にしゃがみ込み、ランドセルで頭を覆って身を守った

警報が流れると、下校時の児童はその場にしゃがみ込み、ランドセルで頭を覆って身を守った

 

 日本海溝沿いでマグニチュード(M)9・1の巨大地震が発生して釜石で震度6弱の揺れを観測、気象庁から大津波警報が発表されたとの想定。住民らは防災無線の呼びかけに応じて身を守る行動をとった後、自宅や職場、学校などから近くの避難所や高台、危険を回避できる場所に向かった。

 

 このうち、浸水が想定される中妻町、千鳥町の住民らは津波災害の緊急避難場所となる高台の八雲神社を目指した。参道の階段を急ぎ足で上る児童や、支えられながら一歩ずつ進む高齢者の姿も。中学生はさらに高台の大天場公園に向かい、車いす利用者やカートに乗った乳幼児などは経路を変えて、緩やかな坂道を進んだ先にある運動公園に避難した。

 

八雲神社境内に続く参道の階段を上る参加者

八雲神社境内に続く参道の階段を上る参加者

 

 近くに川があるという中妻町の阿部秀次さん(81)は徒歩に少し不安があり、自転車で避難。震災時に日用品の購入が大変だったことを思い出し、飲食料品や常備薬、数日の下着などを詰め込んだリュックも持参した。徒歩の妻とは「てんでんこ」に避難したが、あらかじめ決めていた場所で落ち合った。「いつどんな災害が起こるか分からないから、本気になって参加。体験することで大変さが分かった」と認識を深めた。

 

 約1キロある神社までの避難を10分ほどで完了した千鳥町の70~80代の女性たちは「これまで津波は関係ない地域だと思っていたので、今回の想定はびっくり。逃げ道、逃げ場を把握できて良かった」と意見が一致。菊池道子さん(80)は「いざという時に走れるよう、足腰を鍛えよう」と心がける。

 

高台から望む中妻町地区。日本海溝沿いで起こる巨大地震の想定では新たに津波の浸水域に含まれた

高台から望む中妻町地区。日本海溝沿いで起こる巨大地震の想定では新たに津波の浸水域に含まれた

 

 同地区では近年、大雨による水害や土砂災害が続き、住民らの防災に対する意識は低くはない。ただ、津波に関しては「まだ他人事の人が多い」と佐藤議長(72)。訓練を機に、備える取り組みに本腰を入れる考えで、「自主防災に関する今までの組織を見直し、実態に合ったものにしたい」と先を見据えた。

協定書を交わした大塚製薬の迫上智博仙台支店長(右)と野田武則釜石市長

市民の健康づくりへタッグ 釜石市と大塚製薬が包括連携協定締結

協定書を交わした大塚製薬の迫上智博仙台支店長(右)と野田武則釜石市長

協定書を交わした大塚製薬の迫上智博仙台支店長(右)と野田武則釜石市長

 

 釜石市と大塚製薬(東京都千代田区、井上眞社長)は12日、市民の健康づくりやスポーツの推進、災害対応に協力して取り組むことを目的とした包括連携協定を結んだ。高齢化が進む同市の課題解決に同社の知見を生かし、健康長寿の実現を後押しする。

 

 市役所で行われた締結式には、大塚製薬から迫上智博仙台支店長、竹内寛治盛岡出張所長ら4人が出席。迫上支店長と野田武則市長が署名した協定書を取り交わし、連携する7項目を確認した。

 

締結式で両者が協定書に署名し、連携項目を確認

締結式で両者が協定書に署名し、連携項目を確認

 

 連携項目は、健康長寿を目指した健康づくり、生活習慣病予防、スポーツや食育の推進、熱中症や災害時の対策など。子どもから高齢者まで幅広い年代の健康課題解決へ取り組む。高齢者が要介護状態にならないためのフレイル(加齢に伴う心身の衰え)対策、食育アプリなどを活用した子どもへの栄養指導、運動習慣の促進支援、災害対策では避難生活の栄養の偏りを改善する健康補助食品の提供などを想定する。

 

 市は本年度からの新たな市総合計画の重点施策に「健康寿命日本一へのトライ」を掲げ、市民の健康づくりや介護予防に力を入れる。三大疾病で亡くなる人、早世する人も多い現状から、野田市長は「健康で長生きが一番の課題。(大塚製薬の)全国の自治体との連携事例など先進的な取り組みに関する知見もいただき、課題解決に努めたい」とし、協定締結を喜んだ。

 

野田市長ら市幹部を前に迫上支店長があいさつ

野田市長ら市幹部を前に迫上支店長があいさつ

 

 迫上支店長は「当社は人々の健康への貢献をテーマに事業活動を行う。釜石市の高齢化に伴う課題のほか、コロナ禍明けの外出機会の創出なども見据えた取り組みができれば。市の関係部署と相談しながら、市民の皆さまの健康に少しでも貢献できるような活動を進めていきたい」と意気込んだ。

 

 同社の自治体との連携協定締結は、東北6県では釜石市が42市目、県内では5市目となる。これまでに全47都道府県とも協定を結んでいる。

釜石市の箱崎白浜地区に建立された石碑。佐々木委員長(右)と野田市長が除幕した

教訓伝える石碑 釜石・箱崎白浜地区「語りつなごう」思い刻む

釜石市の箱崎白浜地区に建立された石碑。佐々木委員長(右)と野田市長が除幕した

釜石市の箱崎白浜地区に建立された石碑。佐々木委員長(右)と野田市長が除幕した

 

 大地震が来たら一刻も早く高台に―。釜石市の箱崎白浜地区の住民らが東日本大震災の犠牲者を追悼する「津波記念碑」を建立し、8日、落成開眼式を行った。石碑の裏面には住民らの思いを込めた「語りつなごう」との文字を刻み、避難の教訓を後世に発信し続ける。

 

 落成式には地域住民ら関係者約50人が出席した。建立実行委の佐々木英治委員長(82)が経緯を説明し、「震災から10年が経過し、悲惨な状況を後世に語り継ごうと建立。震災で亡くなった方を悼み、地域の復興の象徴として守っていきたい」とあいさつ。野田武則市長と共に記念碑を除幕した。常楽寺(鵜住居町)の藤原育夫住職により開眼供養が行われ、出席者が焼香して手を合わせた。

 

津波記念碑の落成開眼式で犠牲者を悼み、手を合わせる箱崎白浜地区住民ら

津波記念碑の落成開眼式で犠牲者を悼み、手を合わせる箱崎白浜地区住民ら

 

 黒御影石の記念碑は高さ1メートル40センチ、幅1メートル。表面に刻まれた「平成の大津波記念碑」の文字は野田市長が揮毫(きごう)し、裏面には「語りつなごう」に続き、震災の発生日時、当時の総世帯数・人口、被災戸数、死者・行方不明者数などが刻まれた。建立場所は震災後、整備された高さ14・5メートルの防潮堤そばにつくられた海を望む広場。

 

震災の被災状況、「語りつなごう」の文字を刻んだ津波記念碑

震災の被災状況、「語りつなごう」の文字を刻んだ津波記念碑

 

 白浜町内会(箱崎町1~3地割)で防潮堤建設や防災集団移転事業が終了したことから記念碑建立の声が上がり、今春に実行委を組織。事業費約150万円は現住民と被災して他地区に移転した元住民からの寄付金を主財源とし、地元企業の協力も得て建立にこぎ着けた。

 

 同地区には震災時、134世帯390人が暮らしていたが、津波で84世帯が被災。地区内で40人が犠牲になり、地区外の住民2人も亡くなった。佐々木委員長は被災体験を振り返り、「思い出すと胸がつまる。地震が発生したら一刻も早く高台に避難しなければならない。石碑があることで、後世に残して語り継ぐことができる」と言葉をかみしめた。

 

 復興が進んだ同地区では戸建て復興住宅(9戸)を含め、現在は約90世帯約230人が居住する。同町内会の佐々木孝郎会長(73)は「住民が減り、高齢化も進むが一致団結することが大事。言葉だけでなく形があれば、見て、頑張ろうと思い出す。記念碑がまちづくりの礎となり、希望あふれる地域の証しになるよう、つないでいきたい」と思いを新たにした。

けが人役の小学生を背負い、避難所の体育館に向かう中学生=鵜小・東中合同防災訓練

災害時は主体的な行動で命を守る 釜石東中・鵜住居小合同総合防災訓練

けが人役の小学生を背負い、避難所の体育館に向かう中学生=鵜小・東中合同防災訓練

けが人役の小学生を背負い、避難所の体育館に向かう中学生=鵜小・東中合同防災訓練

 

 釜石東中(米慎司校長、生徒97人)と鵜住居小(堀村克利校長、児童146人)の合同総合防災訓練は9月29日、両校の施設などで行われた。昨年は新型コロナウイルスの影響で中止されたため、2年ぶりの開催。在校時に地震、津波が発生した場合の避難行動、校内に地域の避難所が開設された際の自主的行動力を身に付けようと、児童・生徒らが真剣に取り組んだ。

 

 訓練は三陸沖を震源とする震度6強の地震が発生、高さ10メートル以上の津波が襲来するという想定で行われた。大地震発生の校内放送が流れると、児童・生徒はそれぞれの場所で安全に身を守る行動を取った。校舎内では机の下、外では建物から離れ、体を低くして頭を守った。揺れがおさまったら放送の指示で避難を開始。より高い場所への避難を意識づけた。

 

校庭から階段を駆け上がり、より高い広場への避難を始める中学生

校庭から階段を駆け上がり、より高い広場への避難を始める中学生

 

1次避難で校庭に集まる小学生。この後、4階の中学校昇降口前へ向かった

1次避難で校庭に集まる小学生。この後、4階の中学校昇降口前へ向かった

 

 両校の体育館は大規模災害発生時、地域の避難者を受け入れる市の拠点避難所に指定されている。この日の訓練では、生徒自ら避難所を開設し、さまざまな立場の避難者を受け入れる体験もした。中学3年生は体育館内に畳やマット、パーテーションを運び入れ、避難者の導線を確保。同2年生は校庭に避難してきた人を体育館まで誘導。けが人、視覚、聴覚障害者、妊婦、高齢者、外国人など多様な避難者役を小学5年生が務めた。

 

避難者が休めるよう、畳を運び入れる中学生

避難者が休めるよう、畳を運び入れる中学生

 

受付では避難者から氏名、年齢、持病の有無などを聞いた

受付では避難者から氏名、年齢、持病の有無などを聞いた

 

体の不自由な避難者は介助しながら誘導

体の不自由な避難者は介助しながら誘導

 

 受付では避難者名簿を作成。誘導する生徒は避難者に声を掛けたり、介助しながら体育館に入り、各避難者に対応したスペースに案内した。感染症対策として、避難者を体育館から各教室に分散移動させる訓練もあり、小学6年生が誘導した。

 

 駒林強矢君(小6)は避難行動について「何回も訓練を重ね、スムーズにできるようになってきた。今日は時間をうまく使えないところもあったので、もっと自分たちでできることを考えたい」、青木希実さん(同)は「避難が大変な人もいるので、声掛けやサポートをして一緒に行動してあげたい。災害の時は臨機応変に動いて、自助だけでなく共助もやりたい」と意識を高めた。

 

 避難訓練に先立ち、中学1年生は備蓄倉庫にあるかまどを使っての米の炊き出し、仮設トイレの組み立ても体験した。地震、津波災害時のあらゆる場面を想定した訓練は、自他の命を守るとともに自ら考え冷静に行動できる力を養う狙いがある。

 

まきをくべたかまどを使って米を炊く訓練

まきをくべたかまどを使って米を炊く訓練

 

説明書を見ながら仮設トイレの設営に挑戦

説明書を見ながら仮設トイレの設営に挑戦

 

 避難者の受付を担当した髙橋燕さん(中3)は「いろいろな人が集まってくるので、混乱しないようきちんと把握する必要がある。避難所運営では周りの状況を見ながら行動することが大切」、避難誘導に当たった伊藤楓太君(中2)は「体の不自由な人の避難では体験してみて初めて分かることも。いつ災害がきても対応できるように、訓練などを通じて日ごろから準備しておきたい」と気を引き締めた。

 

中学生の行動は小学生に「将来、自分たちも」と思わせる模範

中学生の行動は小学生に「将来、自分たちも」と思わせる模範

 

 釜石東中の米慎司校長は「生徒たちは真剣そのもので、避難のあり方、防災に対する考え方が育ってきているのを感じる。本校の目標に掲げる主体性がこの場面でも発揮されていた」と評価。両校は東日本大震災の経験を基に系統的な防災教育に取り組み、小学校で身に付けた知識は中学校での実践力育成に生かされている。「防災は、自然と共に生きる私たちが知恵を持って生き抜いていくための備え。身近なものとして捉えてほしい」と米校長。

甲子川河口で行われた水難救助訓練=15日

釜石大槌の消防隊員 県防災ヘリと連携確認 震災後初の合同水難救助訓練

甲子川河口で行われた水難救助訓練=15日

甲子川河口で行われた水難救助訓練=15日

 

 釜石大槌地区行政事務組合消防本部は15日、県防災航空隊との合同水難救助訓練を釜石市の釜石港公共ふ頭南側甲子川河口で行った。同訓練は東日本大震災後、初めて実施。船舶同士の衝突事故で海上に投げ出された人を救助する想定で行われ、地上部隊と防災ヘリコプターとの連携を確認。迅速で安全な救助活動の修練度を高めた。

 

 両機関から隊員約40人が参加。訓練は釜石沖で小型船舶同士の衝突事故が発生。1隻が転覆、もう1隻が沈没し、転覆した船にしがみついている1人と、船と一緒に沈んだとみられる1人を救助するという想定で行われた。

 

防災ヘリから降下した隊員(右)の救助活動

防災ヘリから降下した隊員(右)の救助活動

 

要救助者と隊員をつり上げ、機内に収容した

要救助者と隊員をつり上げ、機内に収容した

 

 始めに、ゴム製ボートにしがみついている要救助者を防災ヘリから降下した隊員が救助、機内に収容した。沈没を想定した訓練では、無線で上空からの捜索を要請された防災ヘリが沈没場所を示すマリンマーカ(信号発煙照明筒)を投下。指揮隊の指示で消防ボート隊と潜水隊が現場に向かい、潜水隊員5人が水中を潜行捜索。要救助者を発見し、ヘリの降下隊員に引き渡した。要救助者をつり上げたままヘリが移動し、岸壁で待機していた救急隊員に引き継いだ。

 

水中捜索の装備をする釜石大槌消防本部の隊員

水中捜索の装備をする釜石大槌消防本部の隊員

 

潜水隊員が沈没地点で要救助者の捜索を開始

潜水隊員が沈没地点で要救助者の捜索を開始

 

隊員が意識のない要救助者を抱えたまま、ヘリが岸壁上まで移動。救急隊員に引き継いだ

隊員が意識のない要救助者を抱えたまま、ヘリが岸壁上まで移動。救急隊員に引き継いだ

 

 潜水隊は「環状検索」(水底で円を描くようにして検索する方法)で要救助者を捜索。発見後、バルーンを上げて要救助者と一緒に浮上する訓練を行った。潜水隊員の菊池悟さん(39)は「航空隊との活動では、水上部隊がヘリから吹き下ろされる風や音の影響を受ける。今日の経験を生かし、同様の事案があった際にはうまく連携できるようにしたい」と気を引き締めた。同消防本部には潜水士の有資格者が27人いる。

 

 同航空隊は県の機関で、1996年から活動。県内各地の消防機関から隊員10人の派遣を受けて編成する。隊員は防災ヘリ「ひめかみ」に乗り込み、山岳遭難や水難事故の捜索・救助、林野火災の空中消火、災害時の救援物資・人員搬送など多岐にわたる活動を行う。釜石大槌地区消防本部からも交代で隊員が派遣されている。

 

県防災航空隊が運航する防災ヘリ「ひめかみ」

県防災航空隊が運航する防災ヘリ「ひめかみ」

 

公共ふ頭岸壁で救助訓練の指示を出す指揮隊

公共ふ頭岸壁で救助訓練の指示を出す指揮隊

 

 訓練後、同消防本部の大丸広美消防長は「自然災害なども含め、私たち地上班だけでは対応できない事案が多々あり、航空隊との連携は不可欠。海上保安部など関係機関とも協力し合い、緊急時の対応に努めたい」と話した。

三陸鉄道鵜住居駅前の公共施設職員による避難訓練。高台の鵜住居小を目指す

コロナ下、できる備えを… 地震・津波避難訓練週間 自主的実施で「命を守る」行動確認

避難先の鵜住居小に続く階段を駆け上がる未来館の職員=3日

避難先の鵜住居小に続く階段を駆け上がる訓練参加者=3日

 

 「防災の日」の9月1日~7日は、地震・津波避難訓練週間-。新型コロナウイルスの影響で人が集まる避難訓練が難しい中、釜石市が設定し、自主的な訓練実施を市民に呼び掛けた。例年、1日に実施する避難訓練は感染症予防のため、昨年に続いて中止とした。

 

 市民と市内勤務者が対象。日本海溝沿いでマグニチュード(M)9・1の巨大地震が発生して釜石で震度6弱の揺れを観測、気象庁から大津波警報が発表されたとの想定。内閣府が公表した日本海溝(三陸・日高沖)モデルなどを踏まえ、津波到達予想は東日本大震災時より早い地震発生の15分後と設定した。

 

うのすまい・トモスで避難訓練 周辺施設と連携確認

 

三陸鉄道鵜住居駅前の公共施設職員による避難訓練。高台の鵜住居小を目指す

三陸鉄道鵜住居駅前の公共施設職員による避難訓練。高台の鵜住居小を目指す

 

 三陸鉄道鵜住居駅前の公共施設「うのすまい・トモス」の職員らは3日、市の想定を踏まえた避難訓練を行った。震災伝承施設「いのちをつなぐ未来館」が主導し、隣接する観光交流拠点「鵜の郷交流館」、周辺にある市民体育館、地区生活応援センターと合同で初めて実施した。各施設から職員計約20人が参加。非常時の情報共有や避難開始までの手順、経路などを確認した。

 

 未来館では机の下に潜って身を守った後、施設内を点検。入り口に「避難しました」「あなたも逃げて」などと記した「安否札」を張り出し、緊急避難場所の鵜住居小に向かった。

 

避難したことを伝える「安否札」を施設入り口に掲示した=3日

避難したことを伝える「安否札」を施設入り口に掲示した=3日

 

 鵜小の校舎に続く階段の一部にオレンジ色の線が引かれていて、参加者はその線より上の地点を目指し、階段を駆け上がった。“オレンジライン”は震災の津波高約11メートルを示すもので、参加した全員が約10分で避難を完了した。

 

約10分で避難完了。安全確認を行って訓練を終えた=3日

約10分で避難完了。安全確認を行って訓練を終えた=3日

 

 未来館職員らは「二度と悲劇を繰り返してはいけない。コロナ禍で思うような伝承活動ができない状況だが、災害はいつ起こるかわからず、備えるためにも周囲を巻き込み定期的に訓練していきたい」と意識を高める。今回の訓練には一般の利用者らの参加はなかったが、施設の見学中や買い物中に地震が起きることもあり得ることから、避難誘導などの課題を洗い出し、周辺施設と情報共有していく考えだ。

 

水門の自動閉鎖訓練も 操作を確認

 

 県沿岸広域振興局は7日、釜石市内の水門、堤防の切れ目に設置された「陸閘(りっこう)」を閉める訓練を行った。震災の際、水門を閉めに行った多くの消防団員が犠牲になった教訓から、県は津波注意報、警報の発令時、遠隔操作によって自動で水門などを閉鎖するシステムの導入を進めている。

 

鵜住居川河口に整備された水門は遠隔操作で約4分で閉じた=7日

鵜住居川河口に整備された水門は遠隔操作で約4分で閉じた=7日

 

 この日は市役所内にある制御機材から遠隔操作で、稼働している15カ所の一斉閉鎖訓練を実施。鵜住居川河口に整備された鵜住居川水門では、上部にある機械室の回転灯が点灯し、警告音がなる中、ゲートが約4分で閉まった。県の担当職員が現場に張り付き、自動閉鎖システムが正常に稼働し、解除の手動操作にも間違いなく動くかを確認した。

 

 水門が閉まる様子を見守った地元の男性(73)は「震災で被災した。水門ができたことで安心感はある。津波はまたいつか来るかもしれない。いざという時に逃げる場所を家族で確認している」と備えの必要性を感じていた。

 

水門の閉鎖訓練を見守った住民は防災意識を高める機会にした=7日

水門の閉鎖訓練を見守った住民は防災意識を高める機会にした=7日

 

 災害時に安全、迅速、確実に水門などを閉める目的で自動閉鎖システムを導入する沿岸振興局では、関係機関と連携し同様の訓練を定期的に実施する考えだ。