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協定書を手にする野田釜石市長(右)と本田遠野市長

「災害時は釜石から遠野へ」 広域避難の可能性に備え、両市が施設利用協定

協定書を手にする野田釜石市長(右)と本田遠野市長

協定書を手にする野田釜石市長(右)と本田遠野市長

 

 大雨洪水による災害発生に備え、釜石市は1日、遠野市と「災害時における施設等の利用に関する協定」を結んだ。甲子川や鵜住居川、小川川で大雨洪水による災害が発生した場合、遠野市青笹町の遠野運動公園を釜石市民の避難場所として利用できるもので、駐車場350台とトイレを確保。市域を超えた広域避難に関する初の試みで、市民の安心安全の向上を図りながら防災対策を推進する。

 

遠野運動公園の案内図。災害時には赤線で囲んだ350台収容の駐車場、7番と12番のトイレが開放される

遠野運動公園の案内図。災害時には赤線で囲んだ350台収容の駐車場、7番と12番のトイレが開放される

 

 協定の内容は、釜石市内に高齢者等避難、避難指示を発令した場合、釜石市が同公園駐車場の利用を依頼し、遠野市が開放。現地には釜石市職員を配置し、避難者への対応や施設の保安、関係機関との連絡調整を行う。避難対象者と想定されるのは自家用車で移動できる人で、食料や飲料などを持参し状況に応じて車中泊をする。現地は東北横断道釜石秋田線の釜石道を使うと、市中心部から約40分で来ることができる距離にある。

 

災害時の避難場所として釜石市民に開放される遠野運動公園内の駐車場。奥に見える建物は消防署が入る総合防災センター

災害時の避難場所として釜石市民に開放される遠野運動公園内の駐車場。奥に見える建物は消防署が入る総合防災センター

 

 釜石市は2019~20年に、市内を流れる3河川についてハザードマップを更新。大雨で洪水が発生した場合、流域に暮らす計約1万3300世帯(約2万5800人)が浸水想定区域に含まれると予想している。

 

 一方、市指定の洪水・土砂災害緊急避難場所は36カ所で定員は約8000人。コロナ下では感染症対策として避難者間の距離を十分に取る必要があり、2000人程度しか収容できず、避難先の確保が課題となっていた。

 

 市では安全な場所にある親族や知人宅、ホテルへの宿泊など「分散避難」を呼び掛けているが、広域避難の必要性も視野に入れ、遠野市に施設利用を働き掛けたという。今回の協定締結で自動車避難(車中泊)を選択肢の一つにしてもらう考えだ。

 

 協定締結式は同公園に隣接する遠野市総合防災センターであり、釜石市の野田武則市長と遠野市の本田敏秋市長がそれぞれ協定書に署名し取り交わした。野田市長は「津波も洪水も新しい想定が出ていて、避難場所や経路の見直しが必要になった。道路網の整備で広域避難が視野に入り、研究・調査をしてきた」と経緯を説明。式の前に現地を視察しており、「素晴らしい場所を提供いただいた。避難者自身が安全な場所を考え、選択し、行動するきっかけになれば」と期待した。

 

現場を視察する両市の関係者ら。背後に建つ陸上競技場管理棟内のトイレも開放される

現場を視察する両市の関係者ら。背後に建つ陸上競技場管理棟内のトイレも開放される

 

 同公園には東日本大震災直後から自衛隊や警察、消防の各部隊が全国から集結。甚大な被害を受けた沿岸部での救援活動の後方支援拠点となった。本田市長は「9月1日は防災の日であり、新たな絆を確認する日にもなった。互いの足りない部分を補い合い、地域の特性を生かし、命を守る連携を深めていきたい」と話した。

釜石市 交通事故死ゼロ1年6カ月達成 県警から賞賛状

釜石市 交通事故死ゼロ1年6カ月達成 県警から賞賛状

釜石市 交通事故死ゼロ1年6カ月達成 県警から賞賛状

「交通事故死ゼロ」継続へ気持ちを高める関係者ら

 

 釜石市は8月16日で交通死亡事故1年6カ月間ゼロを達成した。市に対する賞賛状の伝達式が18日、市役所で行われ、野田武則市長や交通安全関係者がさらなる記録の伸長を誓った。

 

 釜石署の前川剛署長、松舘茂雄交通課長らが市役所を訪問。菊池重人釜石地区交通安全協会長、佐藤鉄太郎市交通指導隊長らが同席した。前川署長から県警本部長の賞賛状を受け取った野田市長は「警察、関係機関の支援と協力のおかげ。さらに気を引き締めて交通事故ゼロ作戦に取り組んでいきたい」と思いを語った。

 

 前川署長は「市民一丸となって見事に更新し、交通安全に寄与してもらっている。今後も交通安全活動を推進し、安全安心なまちとして発展してほしい」と願った。

 

 同署によると、市内では2020年2月16日に新町地内の市道で横断中の歩行者に車両が衝突し、高齢の女性が犠牲となる事故があって以来、死亡事故が発生していない。人身事故件数、負傷者数ともに減少傾向にあるが、まもなく訪れる秋の夕暮れ時はあっという間に暗くなり、歩行者の事故が多くなるという。

 

 今後は、▽シグナルストップ広報活動(信号で停止した車両のドライバーに対し、チラシなどを配布しながら交通安全を呼び掛け・毎週水曜日実施)▽パトロールを目立たせる「見せる警戒」活動▽「速度を落とせ」「早め点灯」などパネルを掲げる街頭活動-などに力を入れて事故抑止を図る考えだ。

いのちをつなぐ未来館で震災学習プログラムを体験する参加者

教育旅行誘致へ策探る~南いわて連携連絡会議、鵜住居で視察・研修

いのちをつなぐ未来館で震災学習プログラムを体験する参加者

いのちをつなぐ未来館で震災学習プログラムを体験する参加者

 

 教育旅行誘致を図る「南いわて連携型教育旅行推進連絡会議」の視察・研修は8日、釜石市鵜住居町内で行われた。津波伝承施設「いのちをつなぐ未来館」で学習プログラムを体験したほか、修学旅行の受け入れ状況など情報を交換。広域連携で効果的な教育旅行の提案につなげる考えだ。

 

 同会議は、北上市を除く県南広域振興局管内7市町と、大槌町以南の沿岸5市町の行政機関、観光協会など関係28団体によって2019年度に立ち上げられた。県南振興局経営企画部が事務局となり、沿岸部の震災学習と平泉の世界遺産を柱にした教育旅行推進体制の構築や修学旅行の受け入れなどを進め、地域観光の魅力創出について認識を深めている。

 

 約30人が参加。未来館では、東日本大震災の被災状況や釜石の子どもたちの避難行動などに関する施設スタッフの説明に耳を傾けながら展示物を見て回った。実際に児童生徒が体験する学習プログラムに触れ、施設に理解を深めた。

 

 会議は鵜住居公民館に会場を移して開催。県の観光統計によると、20年度の教育旅行客の入り込みは学校数が延べ4243校(19年度比30・8%増)、児童生徒数は22万5480人回(同5・5%増)で、震災前の10年度以降では最多となっている。

 

鵜住居公民館では修学旅行の受け入れ状況などをもとに意見交換した

鵜住居公民館では修学旅行の受け入れ状況などをもとに意見交換した

 

 新型コロナウイルス感染症の影響で行き先を近場に変更する傾向があり、県内や東北地方からの入り込みが増加。各市町や団体による受け入れ状況の報告でも、その傾向を実感する声が多かった。現状を「特需」で終わらせないため、震災・防災学習のほか、「SDGs(持続可能な開発目標)をキーワードにした学びを売りにすべき」といった意見も出た。

 

 県南振興局観光商業・食産業課の荒濱清一課長は「市町の単独では対応できないこともある。近隣市町や、沿岸、内陸という広域で連携を進め、より良い旅行プランづくりにつながっていけば」と期待した。

初会合を開いた甲子川水系流域治水協議会

甲子川流域 連携し治水対策~協議会設立 プロジェクトを策定・公表へ

初会合を開いた甲子川水系流域治水協議会

初会合を開いた甲子川水系流域治水協議会

 

 気候変動で激甚化・頻発化する水害リスクに備え、2級河川の甲子川の治水や減災対策を広域的に考える「甲子川水系流域治水協議会」の初会合が8日、釜石市新町の釜石地区合同庁舎で開かれた。釜石市、県沿岸広域振興局、林野庁東北森林管理局などが参加。各機関が計画している治水対策を取りまとめ、8月末に「流域治水プロジェクト」を策定する方針だ。

 

 国は相次ぐ豪雨災害を教訓に、河川の治水を河川管理者だけでなく、あらゆる関係者が流域全体で減災に取り組む「流域治水」という考え方に転換。県も2016年の台風10号、19年の台風19号をはじめ、近年の激甚な水害、気候変動による今後の水害の顕著化、頻発化に備え、流域全体で減災に向けた治水対策を計画的に進めることしている。こうした動きを受け、甲子川でも流域が抱える水害リスクの共有、流域の一体的な事前防災体制の構築を目的に、関係機関による協議会を設立させた。

 

関係機関が進める治水対策について情報を共有した

関係機関が進める治水対策について情報を共有した

 

 流域治水プロジェクトには、市、県、国が進めている治水対策を網羅する方針。地域特性を踏まえた中下流部の河川改修、降雨に伴う土壌流出を抑制するための間伐など森林整備、ごみや土砂による水路の閉そく対策としての「スクリーン」の設置、洪水・土砂災害に関するハザードマップの作成、小型気象計や危機管理型水位計などの設置・活用による河川情報の充実などが盛り込まれる見込みだ。

 

 初会合では各機関の取り組みを確認し、プロジェクト案をおおむね了承。今後、事務局が最終案をまとめ、8月末までに県の流域治水プロジェクトのホームページ上で公表する。沿岸振興局土木部の佐野孝部長は「関係機関の連携が大切。顔の見える関係となり、さまざまな情報共有を行いながら事業を進め、地域の人の命や財産、通常の生活を守っていきたい」と締めくくった。

警報が流れると、児童生徒はその場でしゃがみ込んだり、カバンで頭を覆ったりして身を守った

命を守る行動確認 鵜住居小と釜石東中、下校時に合同避難訓練

津波避難階段を上って避難する鵜住居小と釜石東中の児童生徒

津波避難階段を上って避難する鵜住居小と釜石東中の児童生徒

 

 釜石市鵜住居町の鵜住居小(堀村克利校長、児童146人)と釜石東中(米慎司校長、生徒97人)は6月24日、地震と津波を想定した下校時合同避難訓練を実施した。東日本大震災時に中学生が小学生の手を引き、率先して高台に避難した両校。いつかまた起こりうる津波に備え、自分の命を守るための適切な行動を確認した。

 

 日本海溝沿いを震源とするマグニチュード(M)9・1の地震が発生したとの想定。スクールバスや自転車、徒歩で下校途中に防災行政無線から地震と大津波を知らせる警報が流れると、児童生徒はしゃがんで低い体勢を取ったり、持っていたカバンなどで頭を守った後、近くの指定避難場所などに向かった。

 

警報が流れると、児童生徒はその場でしゃがみ込んだり、カバンで頭を覆ったりして身を守った

警報が流れると、児童生徒はその場でしゃがみ込んだり、カバンで頭を覆ったりして身を守った

 

 このうち日向・新川原地区の子どもたちは、長内集会所近くにある高さ19メートルの三陸道管理施設に続く80段超の階段を急ぎ足で上った。「もう少しだよ」などと中学生や小学校高学年の児童が他の子に声を掛ける姿も見られた。

 

高台を目指し階段を駆け上がる子どもたち。命を守る行動を体験しながら確認した

高台を目指し階段を駆け上がる子どもたち。命を守る行動を体験しながら確認した

 

 鈴木龍雅君(鵜住居小1年)は「サイレンも階段も怖かった。体験してみて、どう行動すればいいか、分かった。少し安心できた」とうなずいた。

 

 鵜住居周辺地域の指定避難場所(津波災害緊急避難場所)は、両校の校庭を含め36カ所ある。訓練は登下校中に地震に遭遇したり、警報が鳴ったとしても逃げられるように各自が避難先を把握すること、それぞれの状況に応じて「どう行動すれば、より早く、安全に、近くにある高台に避難できるか」を考えてもらうのが狙い。子どもたちは数ある選択肢から判断する力を鍛える機会にもした。

 

菅原悠汰君(釜石東中1年)は「もし本当に災害が起こったらパニックになると思うけど、今日みたいに落ち着いて判断し、行動したい」と意識を高めた。

大槌湾に注ぐ鵜住居川河口部に設置された水門。総工費は約190億円。県や市の庁舎から遠隔操作もできる

インフラツアーで津波防災意識向上を~修学旅行生が鵜住居川水門を見学

修学旅行で鵜住居川水門を訪れた鶴岡第四中の3年生

修学旅行で鵜住居川水門を訪れた鶴岡第四中の3年生

 

 東日本大震災から10年が経過し、水門や防潮堤など津波防災インフラの整備が完了する中、現地見学を通じて防災意識を高めてもらうツアーの受け入れが釜石市で始まった。県沿岸広域振興局土木部と県立大総合政策学部が昨年度から行ってきた、津波防災施設の利活用に関する地域協働研究の一環。3月に完成したばかりの「鵜住居川水門」には5月27日、山形県の鶴岡市立鶴岡第四中(遠田良弘校長、生徒340人)の3年生122人が修学旅行で訪れ、津波の脅威や震災の教訓を生かした施設整備、いざという時の避難行動を学んだ。

 

 県職員の案内で水門(長さ180メートル、高さ14・5メートル)の各種設備を見学。津波を防ぐ5ゲート(門)は自動閉鎖システムが導入され、注意報、警報発表時に人工衛星を介して閉鎖の指令が送られること、動き出してから4分で閉まることなど、説明を受けた。職員が定期点検の際に入る機械室では生徒の代表が手動によるゲートの上げ下げを体験。外では他の生徒が動きを見守った。津波体験者の話を聞く時間も設けられた。

 

青いゲートは5つ(1門:幅32メートル、高さ5・17メートル)あり、自動閉鎖システムが導入される

青いゲートは5つ(1門:幅32メートル、高さ5・17メートル)あり、自動閉鎖システムが導入される

 

点検時に入る機械室も見学。職員からは「津波は想定を超える場合も。防御施設を過信せず、注意報が出たら速やかに高台へ」との呼び掛けも

点検時に入る機械室も見学。職員からは「津波は想定を超える場合も。防御施設を過信せず、注意報が出たら速やかに高台へ」との呼び掛けも

 

大槌湾に注ぐ鵜住居川河口部に設置された水門。総工費は約190億円。県や市の庁舎から遠隔操作もできる

大槌湾に注ぐ鵜住居川河口部に設置された水門。総工費は約190億円。県や市の庁舎から遠隔操作もできる

 

 佐藤巧都君は「津波は想像を超えることを判断できないと、自分も周りの人の命も救えない」、五十嵐琉月(るるな)さんは「今日の経験をこれからの人生に生かしていきたい」、阿部千尋君は「復興の様子を家族や知人に伝える。地元でも最近、地震があったので、岩手の人たちの対策を学びたい」と話した。

 

 同校の修学旅行は戦地・沖縄県への訪問を計画していたが、新型コロナウイルス感染拡大で行き先を岩手、秋田両県に変更。これまで続けてきた命の学習を生かす形で、震災被災地・釜石市を訪れた。生徒らは、震災前に小・中学校があった釜石鵜住居復興スタジアムも訪れ、当時の児童生徒がとった避難行動も学んだ。遠田校長(59)は「身近に危険が迫った時、すぐ行動できる人になってほしい。いかに日常的に意識し備えておけるか。若者の率先した行動は地域の命を守ることにつながる」と生徒に期待した。

 

水門と連結する「片岸海岸防潮堤」の広場からゲートの動きを確認する生徒

水門と連結する「片岸海岸防潮堤」の広場からゲートの動きを確認する生徒

 

 県と同大は震災の復旧復興事業で整備された津波防災施設の活用策として、防災意識の普及につながる「インフラツーリズム」に着目。観光事業を手がけるかまいしDMCの協力を得て、修学旅行生の受け入れから開始した。今後、生徒らのアンケートも参考にしながら持続的実施に向けたプログラム化を図る。

 

 同大の三好純矢講師(32)は「インフラ見学の魅力を明確に打ち出し、地域住民や一般旅行者にも足を運んでもらえるよう体制を整えたい。震災の風化は避けられないが、実際に現地に来て肌で感じてもらうことで、防災意識の向上にもつながっていくと思う」と今後の展開を見据えた。

「自転車安全利用モデル校」の指定書を手にする釜石高の立花さん(中)、鈴木校長(左)

釜石高を自転車安全利用モデル校に 釜石署が指定

「自転車安全利用モデル校」の指定書を手にする釜石高の立花さん(中)、鈴木校長(左)

「自転車安全利用モデル校」の指定書を手にする釜石高の立花さん(中)、鈴木校長(左)

 

 釜石地区「自転車安全利用モデル校」に釜石高(鈴木広樹校長、全日制467人、定時制26人)が指定された。5月18日、釜石市甲子町の同校を釜石警察署交通課の松舘茂雄課長が訪れ、生徒会交通安全委員長の立花珠希さん(3年)に指定書を伝達。立花さんは「地域の皆さんの手本となり、安心して暮らせるよう全校生徒で貢献したい」と決意を述べた。

 

 指定書は釜石市交通安全対策協議会(会長・野田武則市長)、釜石地区交通安全協会(菊池重人会長)、釜石警察署(前川剛署長)の3者連名による。基本的な交通ルールを正しく理解し、地域の模範となる行動や学校での自主的な交通安全活動の促進を目的にする。

 

 鈴木校長によると、生徒約50人が通学に自転車を利用する。学校への通学路は国道283号や市道を通り、国道は上下3車線の変則的な形状に注意が必要という。

 

 昨年、県内では自転車利用者の人身事故が187件で、全体の11%を占め、死者は4人。年代別では高齢者51件に次いで高校生47件が続き、中学生14件、小学生3件に比べ多い。事故の発生時間帯は登下校時に集中。事故の形態と原因別では出会い頭の衝突、不十分な安全確認が目立つ。

 

 松舘課長は「自転車事故の多くは重症化し、加害者にもなりうる。安全確認の徹底、歩行者保護の意識を持ってほしい」と求めた。

 

 同モデル校には大槌町立大槌学園7~9年生も町交通安全対策協議会(会長・平野公三町長)など3者の指定を受けた。釜石高とともに3年連続の指定となる。

クマ出没注意!~市が呼び掛け「農作業、入山時は十分な対策を」

クマ出没注意!~市が呼び掛け「農作業、入山時は十分な対策を」

クマ出没注意!~市が呼び掛け「農作業、入山時は十分な対策を」

 

 春を迎え、釜石市内でもクマ(ツキノワグマ)の目撃情報が増え始めている。不意の遭遇などで人身被害も予想されることから、十分な注意が必要。県や市は入山時、農作業中の予防行動、家屋にクマを寄せ付けないことなど被害防止を呼び掛ける。

 

 釜石市によると、4月1日~29日までに市に寄せられたクマの目撃情報は23件。目撃場所は甲子、定内、大平、平田、両石、橋野と市内一円にわたり、防災行政無線で注意を呼び掛けた。例年この時期は、冬眠明けのクマが活発に動き出し、えさを求めて人里に近づくケースが見られる。

 

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橋野町青ノ木で4月に目撃されたクマ

 

 市内では昨年、鵜住居、栗林、甲子で3件の人身事故が発生。農作業や散歩中などに被害にあい、負傷者が出た。市水産農林課林業振興係の佐々木徳明係長は「一人でもくもくと農作業をしているところにクマが鉢合わせし、驚いたクマが襲ってくるケースが多いよう。ラジオの音とかで人がいることをクマに知らせることが大事」と話す。

 

 農作業時には他に、①クマの行動が活発になる早朝、夕方は特に気を付ける②農地周辺の刈り払いを行う③できるだけ単独での作業は避ける―といった対策が必要。農地や民家にクマを引き寄せないために、①生ごみや廃棄野菜・果実の適切処理②収穫後の放置果実の適切除去③収穫物収納庫の施錠―なども呼び掛ける。

 

えさを探して歩き回る?

えさを探して歩き回る?

 

 これからの季節は山菜採り、登山、渓流釣りなどで山に入る人も増える。突然出会ってしまう危険性が一層高くなるため、対策を組み合わせて自身の安全を確保することが重要。複数で音(鈴、ラジオ)を出しながらの行動、周囲に気を配る、食べ残しは放置しない―など人里と同様の対策に加え、①周りの音が消される強風時や沢沿いは特に注意する②夜間、明け方、夕方の入山回避③クマ撃退グッズ(忌避スプレー、鉈など)の携行④地域のクマ情報の事前確認―を促す。

 

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畑の外の防護柵の木によじ登る姿も

 

 もし出会ってしまったら、「走って逃げない。背中を見せない。持ち物(リュックなど)を置いて注意をそらす。静かにゆっくり後退」が基本。クマを驚かせないように、落ち着いてその場を離れることが大切だという。山に入ることはクマの生活場所に入ること。何よりも出会わない工夫をすることが身を守ることにつながる。

 

資料写真提供/三浦勉さん

新しい消防ポンプ車が配備された消防団第6分団第4部の団員ら

釜石市消防団・第6分団第4部に新型消防ポンプ車を導入

新しい消防ポンプ車が配備された消防団第6分団第4部の団員ら

新しい消防ポンプ車が配備された消防団第6分団第4部の団員ら

 

 釜石市消防団・第6分団第4部=片岸町中心部(柏﨑成好部長、7人)に3月26日、新しい消防ポンプ車が引き渡され、部員が新たな機能と性能を確認した。2020年度の消防団関係の消防設備整備事業はほかに、小型ポンプ・積載車2台が更新され、3月末に第6分団第5部(鵜住居町川目地区)の消防屯所が移転・新築を完了した。

 

 新車両の操作説明会は鈴子町の釜石大槌地区行政事務組合消防本部庁舎で行われ、柏﨑部長ら4人が参加。車両の運転特性と、消防車独自の無線やアナウンスなど付帯装置の説明を受けた。甲子川の対岸、千鳥町の河川敷に移動し、ポンプ操作、メンテナンスを重点に説明を受け、実際に放水能力を確認した。

 

甲子川河川敷で新車両の放水能力を確認

甲子川河川敷で新車両の放水能力を確認

 

 新車両はディーゼルエンジン(3000㏄)を搭載、4WD、5速オートマチックミッションで、ダブルキャブ、乗車定員5人。最新の照明、電子サイレン、カーナビとバックモニター連動装置、ドライブレコーダーも装備した。ポンプは放水手順の迅速化が図られ、無給油式真空ポンプは吸水、放水能力(規格放水量毎分2㌧)とも同タイプの最高レベルだ。

 

 年度末の退団を控えた柏﨑部長(69)は「新しいポンプ車は最高だ。操作に早く習熟するよう訓練する必要がある。若い団員が加入してくれれば」と期待を語った。

 

 新ポンプ車の整備事業費は税込みで2612万5千円。旧車両は1998年度に配備され、22年が経過した。

唐丹町本郷 津波記念碑が震災遺構に〜国立民俗学博物館主導で補修

唐丹町本郷 津波記念碑が震災遺構に〜国立民俗学博物館主導で補修

津波記念碑を大震災遺構とする修復作業

津波記念碑を大震災遺構とする修復作業

 

 東日本大震災で損傷した釜石市唐丹町本郷地区の明治三陸大津波記念碑「海嘯遭難記念之碑」の保存事業は、16日に完了した。大津波の波力や漂流物の衝突で欠損、失われた碑文の一部をそのままに、残った板面を補強、接着し直す作業により、市内では珍しい石碑の「東日本大震災遺構」となり、後世に大災害を伝承する。

 

 この津波記念碑は1896(明治29)年6月15日に発生した三陸大津波の被災から三十三回忌に当たる1928(昭和3)年、地元住民の発案で建立された。一部はコンクリート基礎に埋め込まれた石碑の地上高は270センチ、幅160センチ、厚さ155センチのくさび形の自然石。上部に標板(横70センチ、縦35センチ)、碑文は縦1メートル、横75センチ。

 

 全文263文字の碑文は、大津波の発生(旧暦5月5日の端午の節句)、流失家屋300戸、犠牲者800人で、生存者20人の壊滅的な被害のほか、未来に伝え続けるよう強い思いを刻んだ。

 

 本来の建立地は南に約110メートルの地点だが、2008年に道路改良工事に伴い現在地に移転。1933(昭和8)年の三陸大津波、10年前の震災を伝える「伝えつなぐ大津波」と並ぶ。浮き彫りの銘板、刻字した碑文の基盤はアスファルト状の素材という珍しい形式だ。

 

 震災の津波で、碑文が欠損。残存部分は接着面の劣化で浮き上がり、多数の亀裂もあった。保存事業は、それらを修復し、半永久的に残す目的で行われた。全面的な「復元」ではなく、損傷したまま残す「震災遺構」とした。

 

 事業主体は「伝承碑修復事業実行委員会」で、本郷町内会の小池直太郎会長を会長に、市、唐丹地域会議(佐々木啓二議長)、釜石観光物産協会などで構成。公益財団法人東日本鉄道文化財団も参加し、事業費約100万円の半額を助成した。

 

 修復は国立民族学博物館(大阪府吹田市)の日高真吾教授(文化財保存科学専攻)が主導し、京都府の専門業者文化創造巧芸(和高智美代表)が参加。剥離、回収した断片を持ち帰り塩抜き。パーツを炭素繊維で固定し、本郷に持ち込んだ。16日まで3日間かけて元の位置に接着、前面の亀裂にパテを埋めて完了した。

 

 日高教授(49)は「記念碑には建立当時の人々の『伝え、残したい』という強い思いが込められており、感動した。三十三回忌まで建立の時間がかかったことに復興の苦難を感じる」と語った。小池会長(74)は「記念碑が震災の遺構となることは大事だ」と意義を強調した。

 

 同博物館では「復興を支える地域文化~3・11から10年」展を今月4日から5月18日まで開催中で、同記念碑の原寸大レプリカと、同博物館が復興を支援した釜石市の南部藩寿松院年行司支配太神楽、大槌町の大槌虎舞など6団体の衣装が展示されている。

防災学習に活用してもらおうとワークブックや顔出しパネルを製作した関係者

教訓伝承「てんでんこレンジャー」〜いのちをつなぐ未来館、顔出しパネルでアピール

防災学習に活用してもらおうとワークブックや顔出しパネルを製作した関係者

防災学習に活用してもらおうとワークブックや顔出しパネルを製作した関係者

 

 釜石市鵜住居町の津波伝承施設「いのちをつなぐ未来館」の名誉館長加藤孔子(こうこ)さん(63)=盛岡市、岩手大教員養成支援センター特命教授=や釜石出身の岩手大生らが、同館での防災学習に活用するワークブックを製作した。子どもに津波や防災をより身近に感じてもらおうと、災害から身を守るすべを分かりやすく伝える「てんでんこレンジャー」の顔出しパネルも設置。東日本大震災を経験していない世代が増える中、未来の命を守るための学習、教訓の伝承に力を注ぐ。

 

 ワークブックは3部構成で、「ステップ1」は釜石の歴史、過去の地震や津波被害を解説する。「2」は震災や釜石の防災学習などを紹介し、未来館ガイドの説明や展示物の内容を補足。「3」は学びを振り返るクイズなどを載せている。

  

 同大地域創生モデル構築活動によって作成。震災を経験した学生や大学院生が執筆者として加わり、災害時に生かされた学習活動を伝えている。

 

 同大大学院2年の岡道一平さん(24)は、母校釜石東中の防災学習を紹介する項目を担当。「次世代に伝えられる形として防災教育の一助になれば。津波、歴史に興味を持ち、学ぶ入り口にしてほしい」と願う。

 

 箱崎町出身で、思い出が多く詰まった自宅を津波で失った。考えると心が重くなる震災だが、進む道を見つけるきっかけになったのも「あの日」。この春、社会人となり、まちづくりやインフラ整備に関わる仕事で貢献したいと気持ちを引き締めた。

  

 顔出しパネルは見学後、振り返りの一助に役立ててもらうのが狙い。「自分だったら」と見学者それぞれに地域、周囲で起こり得る災害や備え、教えを考えてもらう。

 

 製作に合わせて館内の展示も充実。震災時の釜石小の子どもたちの避難経路を詳しく示し、手記も紹介する。

 

 加藤さんは「経験者の言葉はリアルで説得力がある。防災の力を子どもたちに伝え続け、未来の命を救っていきたい」と力を込めた。

「3.11」を目指し、ワークブックを作成する岩手大の学生ら

命を守るワークブック作成進む、鵜住居「いのちをつなぐ未来館」〜岩手大教員養成支援センター「生き抜く子どもを」教訓つなぐ

「3.11」を目指し、ワークブックを作成する岩手大の学生ら

「3.11」を目指し、ワークブックを作成する岩手大の学生ら

 

 釜石市鵜住居町の津波伝承施設「いのちをつなぐ未来館」の名誉館長加藤孔子(こうこ)さん(63)=盛岡市、岩手大教員養成支援センター特命教授=らは、同館を訪れる小中学生の学習を手助けするワークブックづくりを進めている。東日本大震災から10年。人々の記憶から徐々に薄れ始め、学校では記憶のない世代が増えている。「あの日を知り、命を大切に未来へ生き抜く子どもを」。震災を経験した釜石出身の学生らが記憶と教訓を伝えようと取り組みを支える。

 

 この取り組みは岩手大の地域創生モデル構築活動を活用する。釜石の防災教育、震災を実体験した学生、院生ら7人が災害時に生かされた学習活動を伝える形で参加。加藤さんが中心となってまとめ、同大地域防災研究センターの福留邦洋教授が助言する。

 

 作成中のワークブック(津波てんでんこVer.1)は3章からなり、ステップ1で釜石を発信する「○○のまち」を解説し、見学前に地域を知ることから始まる。震災や防災を学ぶのがステップ2。館内でガイドが実際に説明するルートをたどりながら展示物の補足をする形にし、学習を効果的に進められるよう工夫。ステップ3では感想を書き込んだり、クイズで振り返りができるようにした。

  

 鵜住居小5年生の時に震災を経験した八幡桃子さん(教育学部3年)は、発災当日の避難行動などをまとめた。その過程で当時の怖い体験がよみがえる。「生きるのに必死だった。頑張って生きていると感じた」。子どもたちに伝えたいことは、命を守る大切さ。「自分事として捉え、できることを考えるきっかけに」と願う。

 

 震災をきっかけに教員を目指す佐々木伊織君(大学院総合科学研究科地域創生専攻修士1年)は大平中出身。被災していない自分が参加していいか迷いがあったというが、防災教育の一端を担う取り組みに「やりたいことを実現できた」と充実感をにじませる。

 

 高校時代に伝承活動に取り組んでいた野呂文香さん(教育学部1年)は、コロナ禍で思い描いていた生活が一変。限られた活動に割り切れない心情を抱えていた。そんな中で参加した伝える活動は、自身の学びへの意欲を呼び戻す力になった。「このワークブックはもっとレベルアップできる。未来館で実際に使われている様子を見学し、改善できたらいい」と新たな展開を見いだした。

 

 震災当時釜石東中教諭だった佐々木良一さん(教職大学院修士1年、現下橋中教諭)は、震災を記憶していない子どもたちの災害に対する反応が「他人事のようだ」と感じることがあり、「伝えることは、これからより必要な活動だ」と指摘する。

  

 釜石市から同大に派遣されている共同研究員の佐々木千里さんも、伝え続ける必要性を確信。釜石東中出身の岡道一平君(大学院総合科学研究科理工学専攻修士2年)は会合には不参加だったが、ワークブックの中に登場する「てんでんこレンジャー」の活動を紹介している。

 

 未来館職員で語り部の川崎杏樹さん(24)はリモートで参加。「来館者の多くは滞在時間が限られている。形として残るワークブックが伝えきれないことを補い、見学後にどこにいても防災を振り返るものに。知識のアンテナを広げる手段になるのでは」と期待を込める。

 

 加藤さんは震災当時に釜石小校長を務め、防災教育に力を注いでいた。その時に実体験した学生らが生の声、思いを込めて精力的に関わる活動に手応えを実感。「みんなに背中を押されて実を結んだ。私たちの役目は伝えること。自分の命を守る人が増えてほしい」と切に望む。

 

 ワークブックはA4サイズ、約30ページとなる予定。来年度から活用できるよう調整する。