震災伝承を未来につなぐ 語り部活動する若者ら 現状と課題を発信
シンポジウム冒頭で、活動紹介する釜石高「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」
東日本大震災の伝承、防災・減災活動に地域や世代を超えて取り組む「3.11メモリアルネットワーク」(宮城県石巻市、代表・武田真一宮城教育大特任教授)は19日、釜石市の市民ホールTETTOで、震災伝承の今後を考えるシンポジウムを開いた。伝承の未来を担う若い語り部らが集まり意見交換。震災の記憶と教訓を伝え続けるための課題を探った。
岩手、宮城、福島の3県などで震災伝承に関わる活動を行う高校生、大学生、若手社会人ら9人がパネリスト。震災当時は保育園児~中学生、被災経験も異なる若者たちが、活動を始めたきっかけ、これまでの活動で見えてきたこと、続けるための課題などを話し合った。
3.11メモリアルネットワーク 第4回東日本大震災伝承シンポジウム
震災で祖父母を亡くした宮城県東松島市の志野ほのかさん(23)は、高校2年時から語り部活動を始めた。社会人1年目。仕事との両立に難しさを感じながらも、職場の理解を得て自分のペースで活動を続ける。「語り部や防災活動が命を守るために大切な活動であると社会的に認められ理解が進めば、長く続けられるのでは」と提言した。
釜石高生徒有志で結成する震災伝承、防災活動団体「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」の川原凜乃さん、矢内舞さん(ともに2年)は、卒業後の活動継続に意欲を見せつつも、進学で地元を離れた際の関わり方に不安をのぞかせる。川原さんは「防災活動をしたい人たちが集まれる機会、仲間を紹介してくれる仕組みがあれば」と何らかのサポートを望んだ。
活動継続への考えなどを話す釜石高の矢内舞さん(左)、川原凜乃さん
福島県富岡町の大学生佐藤勇樹さん(22)は小学5年時に被災、原発避難を経験した。昨夏から語り部活動を始めたが、一歩踏み出すハードルの高さも感じている。迷っている人が「語り部を知り、体験できるような機会があれば参入しやすい。他地域で長く活動している人のノウハウ的なことを知る場もあれば」と話した。
自身の体験を交えて話すことが多い語り部活動。被災の度合いや身内の犠牲者の有無などを理由に「自分が語っていいのか」とためらう人がいるのも事実。今回のパネリストも同様の葛藤の経験を明かしたが、それぞれに信念を持って活動を続ける。「被災状況で線引きすべきではない。話したいと思う人が話せる場が必要」。「被害の大きさではなく、『伝えたい』という気持ちが大事」。今後、震災を経験していない世代が増えていく中で、意欲ある伝承人材は不可欠との認識を示した。
震災から11年が経過した今、語り部の需要はどうなっているのか。釜石市鵜住居町の伝承施設「いのちをつなぐ未来館」で働く川崎杏樹さん(25)は「減っている実感はない」とし、求められる内容の変化を挙げた。震災直後は、被害の詳細や当時の避難行動が注目されたが、今は「震災前の活動が発災時、どう生きたのか。次の災害にどう備えていけばいいのか」といった事前対策への関心が高いという。
パネリストからは、11年たったからこその(語り部の)必要性を指摘する声も。「やっと現地に来られた」「話せるようになった」など、聞く側、話す側双方の気持ちの変化も見て取れるといい、対応可能な体制づくりも今後の課題に挙げた。
若い世代の語り部活動への参画を呼び掛ける川崎杏樹さん(右)
未来館の川崎さんは同年代の若者に向け、「伝えたい、発信したいと思ったことを素直に伝えれば、その気持ちは必ず聞き手に伝わる。ぜひ、挑戦してほしい」と伝承活動の広がりに期待。宮城県石巻市出身で、愛知県で学生生活を送る岩倉侑さん(名古屋大1年)は「外の世界、特にも今まで災害がない、少なかった地域にこそ、積極的に発信していくことが大事。『誰かを助けたい』という思いを持ち続けていれば、困難も乗り越えられる。誰でも気軽に関われるような活動になれば」と願う。
東北大・佐藤翔輔准教授が基調講演 震災伝承を長く続けるために
東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授による基調講演
パネルディスカッションに先立ち行われた基調講演では、東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授が、持続的な伝承活動のヒントとなる事例を紹介した。
新潟県関川村では、1967年8月28日に起こった羽越水害を、地域の大蛇伝説と絡めた祭りで伝え続ける。伝承の媒体で祭りのシンボルの大蛇は、水害発生日にちなみ、長さ82・8メートル。竹とわらでできた胴体は村内54集落が分担して制作し、数年に一度の頻度で更新している。担ぎ手には地域の中学生や外部団体が協力する。
佐藤准教授は「更新による技術継承=対話の機会」が無理のない伝承につながり、幅広い年代の住民、他地域からの参加で継続性や広がりを生んでいる点に注目。災害から50年以上たっても、村民の70%が災害のあった日付を記憶していることを明かした。
広島県の原爆伝承の人材養成研修(広島市主催)も紹介した。同研修は「被爆体験伝承者(3年)」と「同証言者(2年)」の2コースを設ける。被爆者の高齢化が進み、直接語り継げる人が減っていく中、被爆体験や平和への思いを次世代に確実に伝える狙いがある。
伝承者は証言を受け継ぎたい人を3人まで指名できるが、その理由や熱意を読んだ証言者が「この人なら任せられる」と判断(マッチング)しなければ、次の段階に進めない。約1年かけて証言者と伝承者(1人の証言者につき2~10数人)がグループミーティングを重ね、伝承者は1人立ちを迎える。
佐藤准教授は「優れた伝承から学ぶことも大切。伝承者になった後のフォローアップ、交流の場があれば、自己研さん、切磋琢磨(せっさたくま)する機会も得られる」とアドバイスした。
ライブ配信の映像はこちらからご覧になれます。
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