震災11年、亡き人へ祈り 釜石市内各地で追悼-癒えぬ悲しみ、それでも前へ


2022/03/15
釜石新聞NewS #地域 #防災・安全

市追悼式では合唱協会メンバーが鎮魂と復興の願いを込め献唱=午後3時27分

市追悼式では合唱協会メンバーが鎮魂と復興の願いを込め献唱=午後3時27分

 

 2011年3月11日、東日本大震災が発生。釜石市を襲った巨大津波は、関連死を含めて912人の命を奪い、152人の行方が分かっていない。暮らし、営み、日常が一瞬で奪われたあの日から11年となった11日、市内各地で追悼行事が行われた。「(あの人が)いないなんて、実感がない」「今年も帰ってこなかった」「平穏に暮らせるよう見守っていて」。それぞれの祈りをささげた人々は、悲しみや苦しみを残しながらも前向きに歩み続けていく。

 

釜石市追悼式 遺族「前向きに生きていく」

 

 市主催の追悼式は大町の市民ホールTETTOで開かれた。遺族ら約170人が参列し、震災が発生した午後2時46分に黙とう。野田武則市長は最終段階を迎えた復興状況、社会変化によって新たに見えた課題への対応が必要となった現状を踏まえ、「市民の協力、地域のつながりがより重要になる。真に復興を実感するまで寄り添い、夢と希望を持って生き生きと暮らせる持続可能なまちづくりに取り組んでいく」と誓った。

 

追悼の言葉を述べた沖健太郎さん=午後3時18分

追悼の言葉を述べた沖健太郎さん=午後3時18分

 

 津波で鵜住居町の自宅、次男英憲さん(当時22)を失った元市職員の沖健太郎さん(69)=中妻町=が遺族を代表して追悼の言葉。「町全体が一瞬にして何もかもなくなってしまいました。すべてが今もなお夢のようです」と心情を明かし、「1人で家にいて相談する相手もなく、どんなに心細かったか。津波が襲ってきた時はあまりにも突然で、おそらくビックリする暇もなかっただろう」と天に向かって語り掛けた。

 

 犠牲者に対する哀悼の念とともに込めたのは、震災当時の英憲さんの様子を知らせてくれた地域の人や見つけ出してくれた人たちへの感謝の気持ち。式を終えた沖さんは「一人の青年が生きていたこと、たくさんの命が奪われたことを忘れないでほしい。悔しさはいつまでも残る。それでも前向きに生きていく」と上を向いた。

 

亡き人に思いをはせ、手を合わせる遺族ら=午後3時50分

亡き人に思いをはせ、手を合わせる遺族ら=午後3時50分

 

 市合唱協会のメンバー15人が2曲を献唱。生田流正派箏成会が奏でる琴の音が響く中、参列者が次々と献花台に白菊を手向けた。

 

刻まれた名に手を伸ばし 祈りのパーク「あの人を思う」

 

芳名板にそっと手を伸ばす澤田實さん、陽子さん夫妻=午前10時28分

芳名板にそっと手を伸ばす澤田實さん、陽子さん夫妻=午前10時28分

 

 市内全域の震災犠牲者1064人のうち、1001人の芳名が掲げられる鵜住居町の追悼施設「釜石祈りのパーク」には朝から、さまざまな思いを込めた祈りが続いた。

 

 訪れた遺族や縁故者らは献花台に花を手向け、静かに手を合わせた。定内町の澤田陽子さん(70)は、津波で実妹木下典子さん(当時56)=鵜住居町根浜=ら親族4人を亡くした。「(妹は)いない。でも実感が湧かない」というが、「11年は長いようで、あっという間」と思いを巡らすと涙が頬をつたった。1年半前に夫實さん(72)と古里にUターン。「平穏に暮らせれば。見守ってほしい」と願った。

 

遺族らは犠牲になった人の名前に触れ、手を合わせた=午前10時35分

遺族らは犠牲になった人の名前に触れ、手を合わせた=午前10時35分

 

 刻まれた名にそっと手を伸ばし、「何でそんなところにいるんだよ」とつぶやいたのは栗林町の栗澤茂子さん(79)。長男健(たけし)さん(当時44)が勤務先の大渡町で津波の犠牲になった。双子で次男康(やすし)さん(55)=北上市=と訪れ、「健康で病気もなかったのに…。天国で安らかに暮らしているか。家族思いだから、向こうで案じているだろう。あと何年、来れるかな。康がずっと会いに来るから」と言葉を掛けた。

 

身元不明者を供養 物故者納骨堂「忘れない」

 

納骨堂の前で手を合わせる参列者=午前9時38分

納骨堂の前で手を合わせる参列者=午前9時38分

 

 身元不明遺骨を安置する平田の大平墓地公園内の大震災物故者納骨堂では、釜石仏教会(大萱生修明会長、14カ寺)による法要が営まれた。現在、全身遺骨5柱、部分骨4柱を安置。僧侶4人が読経し、参列者が焼香、手を合わせた。

 

 導師を務めた大只越町の仙寿院、芝崎惠應住職は「被災者らの本当の心、苦しい思いを理解し、未来の教訓となるよう伝え続けなければならない」と呼び掛けた。

 

 大平町の菅原美代子さん(68)、大船渡市立根町の藤原ツキ子さん(61)姉妹は行方不明の母浦島ミエ子さん(当時80)=箱崎町白浜=を思い、納骨堂が完成した18年以降、毎年訪れている。「わすれない」と記された銘板を見上げた2人は「面白い母ちゃんだった。11年になるけど、今年も帰ってこなかった」と寂しさをにじませた。

 

殉職消防団員を慰霊 鈴子広場「活動継承を誓う」

 

献花し仲間をしのぶ消防団員=午前11時43分

献花し仲間をしのぶ消防団員=午前11時43分

 

 震災で職務遂行中に命を落とした消防団員8人を慰霊する献花式は、鈴子町の鈴子広場にある「殉職消防団員顕彰碑」で営まれた。遺族、消防団員ら約30人が出席。市民の命と財産を守るために尽力した魂に「二度と犠牲者を出さない安全安心なまちづくり」を誓った。

 

 野田市長は「傷跡を残すような消防団活動を繰り返してはならない。風化させることなく伝えることが責務だ」と式辞。川﨑喜久治団長は「近年、災害は複雑化、多様化、大規模化し、避難行動の見直しが急務。団員の安全を確保しながら市民の生活を守る活動に力を尽くす。その思いは変わらない」と8人の霊前に誓った。

 

涙をこらえきれず手で顔を覆う遺族ら=午前11時41分

涙をこらえきれず手で顔を覆う遺族ら=午前11時41分

 

 殉職した当時の副団長福永勝雄さん(享年66)、第6分団本部長の佐々木金一郎さん(享年64)の遺族が参列。碑に刻まれた亡き夫の名を目にすると、押し隠していた思いがあふれ出し、手で顔を覆った。心の痛みは、今なお癒えず―。

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