タグ別アーカイブ: 防災・安全

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津波防災の意識向上へ 釜石市・中妻地区 浸水想定拡大踏まえ避難訓練

八雲神社の階段を駆け上がる小学生

八雲神社の階段を駆け上がる小学生

 
 釜石市中妻地区で9月29日、巨大地震に伴う津波を想定した住民らによる避難訓練が行われた。中妻地区地域会議(佐藤力議長)が主催。構成する町内会や学校などから住民、児童生徒ら約830人が参加した。同地区は東日本大震災の津波では浸水しなかったが、国や岩手県が公表した最大クラスの津波想定では防潮堤が壊れた場合に浸水すると示されたため、昨年に続いて実施。今回は、高台など危険を回避できる避難先を複数設けて各自の判断で避難する形にし、住民一人一人の防災意識の向上を図った。 
 
 同地区は、2020年に内閣府が公表した日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震による津波想定で浸水域となった。今年3月に県が発表した新想定ではより浸水域が拡大。昨年は緊急避難場所の八雲神社への避難を呼びかけたが、今回は災害公営住宅(復興住宅)や商業施設の上層階、高台にある変電所そばの空き地など、地区ごとに浸水域をなるべく通らないような避難場所を設定して実施した。
 
中妻地区周辺の浸水区域図面(県公表の津波想定)

中妻地区周辺の浸水区域図面(県公表の津波想定)

 
 29日午後2時40分ごろ。中妻地区の防災行政無線が地震と大津波を知らせる警報を発した。日本海溝沿いを震源とするマグニチュード(M)9・1の地震が発生して釜石で震度6弱の揺れを観測、3分後に気象庁が大津波警報を発令したとの想定。住民らは防災無線の呼びかけに応じて地震から身を守る行動をとった後、自宅や職場、学校などから近い高台や危険を回避できる場所に向かった。
 
このうち、中妻町内の多くの人は高台の八雲神社境内を目指した。児童らは参道の階段を急ぎ足で上り、中学生はさらに高台の大天場公園に避難。高齢者やカートに乗った幼児などは経路を変え、緩やかな坂道を進んだ先にある運動公園に逃げた。中妻子供の家保育園の園児は「本当の津波が来たらどうしよう」とドキドキした様子。手押し車を使う女性(88)は初参加で、「津波は大丈夫だと思っていたので驚いた。平らなようで緩やかな坂道が続いて、避難が大変だった。参加しないと分からなかった」と受け止めた。
 
高台を目指し職場から駆け出す従業員(写真左)、階段を上る子どもたち(写真右)

高台を目指し職場から駆け出す従業員(写真左)、階段を上る子どもたち(写真右)

 
中学生はさらに高台を目指し避難を急いだ

中学生はさらに高台を目指し避難を急いだ

 
 同会議事務局の中妻地区生活応援センターによると、海側に近い千鳥町の住民ら20人余りは変電所そばに避難。県想定で浸水域に含まれた上中島町では同センターが入る復興住宅などに住民や下校途中の小学生ら約90人が垂直避難したほか、商業施設の2階にも25人ほどが駆け込んだ。
 
 佐藤議長(73)は「自発的な行動を目指し、実践してもらった。訓練を重ね、住民の防災意識は徐々に高まっている」と実感する。一方で、八雲神社は階段が多く、高齢者は上るのを諦めたり、避難経路の歩道に障害物があって車いす利用者らは移動しにくいといった課題がある。働く若い世代の参加が少ないのも気になり、「休日に訓練するなど工夫も必要。さまざまなケースを考えながら取り組みを続け、一人も津波で犠牲にならないようにしたい」と話した。
 
県公表の新想定で浸水域となった上中島地区の一部

県公表の新想定で浸水域となった上中島地区の一部

津波防災対策の特別強化地域に指定

 
 政府の中央防災会議は9月30日、日本・千島海溝沿いで巨大地震が発生した場合、津波の危険が特に大きいとして、釜石市を含む本県沿岸12市町村を防災対策の特別強化地域に指定した。指定自治体は避難タワーや避難路の整備、高台移転などを盛り込んだ「津波避難対策緊急事業計画」をまとめる。計画が認められると、避難施設などの整備費の国庫負担割合が2分の1から3分の2に引き上げられる。
 
 これを受け、市は自主防災組織や町内会などと協議しながら地域の避難計画の作成、見直しを進める方針。浸水区域の拡大に対応するハード整備、避難訓練などソフト事業を組み合わせた緊急事業計画の策定も進める。野田武則市長は「財政的には厳しい状況にあり、市町村負担のさらなる軽減を求める。国、県と連携しながら、誰一人として犠牲にならない津波防災対策を講じていく」とコメントしている。
 
 同日、市は県の新想定を受け変更したWeb版ハザードマップを公開した。緊急避難場所や避難所を見直し、変更・新設したものを反映。県指定の「土砂災害警戒区域」も更新した。

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災害時にボランティアセンター 釜石市と市社協が協定 設置や運営を円滑に

防災ボランティアセンターの設置・運営の協定を結んだ野田武則市長(左)と丸木久忠会長

防災ボランティアセンターの設置・運営の協定を結んだ野田武則市長(左)と丸木久忠会長

 
 釜石市と市社会福祉協議会(丸木久忠会長)は9月28日、大規模災害が発生した際に被災者支援に取り組む「防災ボランティアセンター」の設置や運営などに関する協定を締結した。ボランティア活動を円滑に進められるよう役割分担や協力事項などを決め、事前準備や対応を強化。全国からボランティアが集まる同センターの効果的な運営を目指す。
 
 市内で大規模災害が発生した際に同センターを設置。市と連携しながら、市社協が主体となり運営する。災害情報を両者で共有、発災後のボランティア活動の調整を市社協が担い、市はそれを支援する。また、熊本県を中心に日本各地で発生した「2020年7月豪雨」以降、センターの設置運営に係る人件費や旅費の一部は公費負担となっており、市と市社協は今後、必要に応じ委託契約を結ぶ。
 
野田市長(左)と丸木会長(中)が協定書に署名した

野田市長(左)と丸木会長(中)が協定書に署名した

 
 締結式は市役所で行われ、野田武則市長と丸木会長が協定書に署名した。野田市長は、災害救助法の見直しが協定締結につながったことに触れ、「経費負担などを事前に定め、体制を構築することは意義があり、支援活動の強化につながる。いざという時の対応について研さんを積み、連携を深めたい」と期待を込めた。
 
締結後の懇談で連携強化へ思いを共有した

締結後の懇談で連携強化へ思いを共有した

 
 市社協では市内でのボランティア活動を推進するため、ボランティア登録や育成、訓練などを実施。東日本大震災の際はセンターの設置、運営を担った経験、実績もある。震災の復旧、復興ボランティアはこれまでに延べ8万人が活動していて、支援は今も継続。協定によりさらに態勢を整える構えだ。
 
 丸木会長は「国や県から新たな津波災害の予測が発表されている。互いに連携し対応を詰め、市民の命を守る活動や、災害からの復興へ早めの手当てができるよう励みたい」と力を込めた。
 
 

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釜石と青森の中学生、相互訪問 学び・友情を深め合う 平和と防災学習をテーマに

交流を楽しむ釜石市と青森市の中学生=9日、鵜住居町・うのすまいトモス

交流を楽しむ釜石市と青森市の中学生=9日、鵜住居町・うのすまいトモス

 
 夏休み期間を利用し、釜石市と青森市の中学生が相互訪問する交流事業が行われた。太平洋戦争末期に艦砲射撃や空襲で市街地が壊滅的な被害を受けた両市。それぞれ市内5校の1年生10人を派遣して「平和と防災学習」をテーマに学びを深め合った。
 
 終戦間近の1945(昭和20)年、釜石市は7月14日と8月9日の2度にわたって米英連合軍による艦砲射撃を受け、市街地は焼け野原になり、市民ら780人以上が犠牲になった。青森市は7月28日夜、米軍のB29爆撃機の空襲を受け、市中心部は焦土化し、死者は1000人を超えた。
 

青森での活動を報告

 
野田市長に青森市での活動を報告した釜石の中学生ら=3日、只越町・釜石市役所

野田市長に青森市での活動を報告した釜石の中学生ら=3日、只越町・釜石市役所

 
 釜石の生徒たちは7月27~29日の日程で青森を訪れ、現地の中学生と交流。三内地区の防災訓練や平和祈念式典に参加したり、戦災遺構をめぐって歴史に触れた。現地での活動を報告するため、8月3日に釜石市役所の野田武則市長を訪ねた。
 
 大平中の小野鳳(ふう)君は「痛々しい戦争の遺構を見た。平和の大切さだけでなく、戦争の愚かさも伝えなければ」と意識を高めた。釜石中の菊池恋捺(れな)さんは、新型コロナウイルスの感染防止を踏まえた避難所運営訓練が印象に残った。防護服を着用した状態での作業の大変さを体感。妊婦の居場所をつくるなど避難者が快適に過ごせるよう工夫していることに感心し、「避難後の生活も考えた訓練は参考になる。学んだことを各校で共有したい」と話した。世界文化遺産の三内丸山遺跡を見学したワクワク感を伝える生徒もいた。
 
 野田市長は「さまざまな経験をし、成長を感じる。他のまちを見ることで学び得たことを周りの人に伝えてほしい」と期待した。
 

戦争の歴史と防災の取り組みを次代に

  
戦争体験者の秋元厚子さん(左)に質問を投げかける青森市の中学生=9日、只越町・釜石市役所

戦争体験者の秋元厚子さん(左)に質問を投げかける青森市の中学生=9日、只越町・釜石市役所

  
 青森の中学生らは8月8~10日の3日間釜石に滞在。9日、青森に派遣された生徒たちと再会し、さまざまな交流活動で友好を深めた。鵜住居町の「いのちをつなぐ未来館」では震災当時の被災状況や児童生徒らの避難行動についてガイドから話を聞いた。戦没者追悼式に参加した後、市郷土資料館を見学。市役所では、釜石ユネスコ協会顧問などを務める唐丹町の秋元厚子さん(87)の戦争体験に耳を傾けた。
 
 浪打中の木村華乃さんは、唐丹村立国民小学校5年生の時に艦砲射撃を経験した秋元さんが紹介したユネスコ憲章前文にある「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」との言葉が強く印象に残った。世界では紛争や内戦が続く国や地域が絶えず、平和を保つ重要性を再認識。「人は個性豊か。個性を認め合うこと、思いやりを持つことが大切だ」とかみしめた。
 
震災の被害状況や児童生徒の避難行動を学ぶ青森の中学生ら=9日、鵜住居町・いのちをつなぐ未来館

震災の被害状況や児童生徒の避難行動を学ぶ青森の中学生ら=9日、鵜住居町・いのちをつなぐ未来館

 
 防災に関しては、備えの大切さを実感した人が多く、浪岡中の齊藤航平君も「自然災害はいつか起きてしまう。いつ起きても対応できるようにし、被害を少なくしたい。学んだことをどう次に伝えるか、どんな行動につなげるか、みんなで考えたい」と前を向いた。
  
未来館の見学で感じたことを伝え合い、交流を深めた

未来館の見学で感じたことを伝え合い、交流を深めた

  
 青森市では2018年から平和・防災学習事業として釜石に中学生を派遣。戦没者追悼式への参加や同年代の生徒と交流しながら、平和の尊さや防災について学んできた。コロナ禍で20、21年は実施を見送った。一方の釜石側も貴重な学びの機会になると、今年初めて子どもたちを派遣。今後隔年で青森を訪問する予定だ。
 

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「届け!ぼうさいのたね」全児童津波逃れた釜石小・卒業生ら 命守る教育、後輩へつなぐ

篠原優斗さん(手前右)と避難先ルートを歩く児童たち

篠原優斗さん(手前右)と避難先ルートを歩く児童たち

 
 東日本大震災時、学校管理下になかったものの、184人の児童全員が無事だった釜石小の事例から、生きることや命を守るために必要な力について考える小学生対象の学習会が3日、釜石市内で行われた。大津波を生き抜いた同校の卒業生と当時の教職員有志でつくる「2011team(チーム)釜石小ぼうさい」が主催。同校の防災教育や元児童の証言などをまとめた伝承本「このたねとばそ」も製作・配布し、震災後に生まれた子どもたちの心に新たな種をまいた。
 
 学習会には市内の小学5、6年生10人や教育関係者らが参加。同校卒業生で只越町の地方公務員篠原優斗さん(24)の案内で、震災当時の避難経路をたどる体験からスタートした。「もしも今、大地震が起きたらどう行動しますか」。篠原さんはそんな問い掛けをし、復興住宅や雨水ポンプ場が近くにある同町地内を歩き始めた。
  
あの日の避難行動を説明。緩やかな坂道の先に旧釜石小跡地がある

あの日の避難行動を説明。緩やかな坂道の先に旧釜石小跡地がある

  
 6年生だった篠原さんはあの日、同級生やその弟ら十数人と友達の家で遊んでいた。地震後に大津波警報が発令されると、すぐに避難することにしたが、避難先に迷った。距離は近いが海側に向かう「避難道路」か、より海から離れるが緩やかな坂道が続く「旧釜石小跡地」(天神町)か。みんなで話し合い、坂道に向かって走り出した―。
 
 信号機が止まり混乱するまちの様子や選択時の気持ちなどを伝えた篠原さん。上り坂に差し掛かったところで、「走ってみよう」と提案。あの日の避難行動を再現した。旧釜石小跡地に着くと、「走るだけでも大変だよね。でもね…」と一呼吸。低学年の児童を先に走らせ、遅れそうな子はおんぶしたりして高学年の子が手助けしたことを紹介し、「いざという時にも役立つ人とのつながりを大切にしてほしい」と呼び掛けた。
 
青葉ビルで行われたパネルディスカッション。中央が内金崎愛海さん

青葉ビルで行われたパネルディスカッション。中央が内金崎愛海さん

 
 大町の青葉ビルに移動し、パネルディスカッション。パネラーに、岩手医大医学部2年の内金崎愛海(あみ)さん(20)=盛岡市=が加わった。震災当時は釜石小3年生。自宅に一緒にいた祖父母は過去の経験から逃げようとせず、泣きながら必死に避難を促した。結果、自分の命を守り、家族の命も救った。「弱虫で泣き虫だったけれど、説得できたのはきっと学校での防災教育があったから。経験はなくても『50センチの波でも人は流される』ことを知っていたし、映像で見た津波の恐ろしさも頭にあった」と振り返った。
  
災害への備えや生きることについて話し合う子どもたち

災害への備えや生きることについて話し合う子どもたち

  
 先輩2人の経験を聞いた後、児童たちはグループワークに取り組んだ。避難の判断ができた理由や必要な力、自分たちにできることを話し合った。「普段の生活や行動の積み重ねが、いざという時に力になる」「避難訓練は本気でやる」など備えの大切さを再認識した。
 
 釜石小6年の井上柊真(とうま)君は1年ほど前に八幡平市から転校してきたばかりで、釜石の歴史や防災の取り組みを知りたいと参加。「家にいる時でも即時に対応し、避難ができてすごい。相手を信頼する大切さを知ることができた。避難の方法は災害の種類や地域によって違いがあるみたい。もっと勉強したい」と刺激を受けた。双葉小5年の川上仁愛(にちか)さんは「大人を説得する勇気に感動した。命は自分で守らなきゃいけない。学んだことを整理して、友達や家族に伝えたい」と背筋を伸ばした。
 

防災教育伝承本「このたねとばそ」 証言や職員対応まとめる

 
伝承本「このたねとばそ」を紹介する加藤孔子さん

伝承本「このたねとばそ」を紹介する加藤孔子さん

  
 チーム釜石小の代表を務めるのは、震災発生時に釜石小校長だった加藤孔子(こうこ)さん(64)=盛岡市、岩手大学教職大学院特命教授。11年余りの時を経て人々の記憶から薄れ始め、学校では経験をしていない世代が増える中、風化を防ぎ、教訓を伝えようと学習会を企画した。
  
 本は同校の防災教育を未来へ、全国へ発信しようと製作した。7月28日に発刊。A4判、83ページで、▽津波防災安全マップ作りや下校時避難訓練など防災教育の実践▽あの日、自己判断で避難した児童の証言▽震災後の学校再開に奔走した教職員の対応-などの詳細を記録する。学習会で経験を伝えた篠原さん、内金崎さんも執筆。加藤さんが名誉館長を務める鵜住居町の「いのちをつなぐ未来館」で50冊を無料配布している。
  
 学習会の様子を見守った加藤さんは「震災を体験した先輩たちの声という種を飛ばすことができた」と目を細める。学校の管理下になかった子どもたちが自分たちで判断、行動し、全員が各自で命を守った同校の防災教育は、他県の教育関係者からも注目を集めるが、「まねるだけでは形骸化してしまう」との懸念も。「地域、子どもたちに合わせたものをつくらなければいけない。釜小の実践や提言、あの時の思いを種として改めて届けたい。各地で新たな防災教育の芽が出て花を咲かせてほしい」と願う。
  
いつどこでどんな災害が起こっても、自分なりの避難行動をとって―と願いを込め、体験を発信する

いつどこでどんな災害が起こっても、自分なりの避難行動をとって―と願いを込め、体験を発信する

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架空料金振り込み詐欺被害を間一髪阻止 宮古信金大渡支店に釜石署が感謝状

感謝状を受けた宮古信用金庫大渡支店の三上学支店長(中)と高橋智恵子次長(右)

感謝状を受けた宮古信用金庫大渡支店の三上学支店長(中)と高橋智恵子次長(右)

 
 釜石警察署(前川剛署長)は15日、架空料金請求の詐欺被害を未然に防いだ釜石市大渡町の宮古信用金庫大渡支店(三上学支店長)に感謝状を贈った。言葉巧みに誘導し、金をだまし取る悪質な特殊詐欺は後を絶たない。支店職員のいち早い気付きと警察への通報が1人の高齢男性の被害を食い止めた。
 
 中妻町の同署で感謝状贈呈式が行われ、三上支店長(54)、高橋智恵子次長(55)が出席。三上支店長に感謝状を手渡した前川署長は「まさに間一髪、水際で被害を防いでいただいた。(詐欺被害防止には)金融など関係機関との連携は必要不可欠。今後とも一層のご協力を」と願った。
 
特殊詐欺被害防止の功労で宮古信金大渡支店へ釜石警察署長感謝状を贈呈

特殊詐欺被害防止の功労で宮古信金大渡支店へ釜石警察署長感謝状を贈呈

 
 詐欺が疑われる事案は6月29日に発生。同支店内で携帯電話で話しながらATMを操作する市内の70代男性を見かけた高橋次長は、不審に思い、男性に声をかけた。「NTTから未払いの10万円を振り込むように言われた」と話す男性。手にしていたメモには個人名と口座番号のみが書かれていた。
 
 詐欺を疑い、電話を代わった高橋次長が内容を尋ねると、相手は「(男性が)払いたいというから内容を確認している。それ以上は個人情報なので教えられない。電話を代わってくれ」と繰り返した。男性に通話を切らせても、すぐにかかってくる電話。三上支店長が「警察に通報する」と言って切った後も着信が続き、男性は動揺。通報を受けた釜石署の署員が到着し、詐欺にあう寸前だったことを理解した男性は「声をかけてもらわなければ気付けなかった」と大変感謝していたという。
 
 特殊詐欺に関する金融機関などへの注意喚起では、「携帯電話で話しながらのATM操作」に目を配るよう促す。高橋次長は「声をかけるのに若干ためらいもあったが、被害を防ぐことにつながって良かった。男性も何かおかしいと思いながらも言われるがままに誘導されてしまったようで、詐欺の怖さを感じた」と話す。
 
 支店が警察へ通報する間も相手の電話に出てしまい、「一度、車に戻れ」という指示にも従ってしまった男性。当事者の不安をあおる巧妙な手口に三上支店長は「その場で納得したように見えても、後日振り込んでしまうケースもあると聞く。今回は(警察への通報を含め)冷静に対応できた。全職員でさらに気を付け、お客さまの大切なお金を守っていければ」と意を強くする。
 
 釜石署によると、本年1~6月末までの特殊詐欺被害の県内認知件数は15件(前年同期比5件減)で、被害額は6771万円(同5080万円増)。釜石署管内の認知件数はゼロだが、詐欺とは思わず振り込んでしまったり、後で被害に気付いても警察に届け出ないケースも考えられることから、決して油断はできない。被害防止には一人一人の防犯意識とともに地域の見守りの目が重要となる。

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夏が来た!釜石・根浜海岸海水浴場、海開き―気をつけよう!水難事故 唐丹中生が救助体験

救命艇の乗船体験を楽しむ子どもたち=6日

救命艇の乗船体験を楽しむ子どもたち=6日

  
 釜石市にも夏がやって来た。16日に海開きした鵜住居町の根浜海岸海水浴場では家族連れらが思い思いにマリンレジャーを楽しんでいる。身近にあって、暑い日に「涼」を感じられる海だが、気を付けなければいけないのが水難事故。唐丹町の唐丹中(八木稔和校長、生徒20人)は6日に同海岸で救助体験学習を行い、いざという時に身を守るすべを確認した。海水浴場の開設は8月14日まで(午前10時~午後4時)。事前の備えをしつつ、水遊びを思い切り楽しんでたくさんの思い出をつくろう。
  

中学生、身近な海で起こりうる危険への対処法学ぶ

   
転落者に見立てた人形をすくい上げる唐丹中の生徒=6日

転落者に見立てた人形をすくい上げる唐丹中の生徒=6日

   
 唐丹中の水難救助体験学習は6日、同海岸で行われ、全生徒が参加。講師は地元の一般社団法人「根浜MIND(マインド)」のメンバーが務めた。同法人では、東日本大震災の復興支援で根浜地区を訪れた英国の団体から2016年に贈られた救命艇を使い、夏場を中心に子どもを対象にした海の安全教室や同海岸海水浴場の開設期間中の監視活動などを行っている。
  
岩崎理事長(右)の話に耳を傾ける生徒たち=6日

岩崎理事長(右)の話に耳を傾ける生徒たち=6日

  
 同法人の岩崎昭子理事長(66)から救命艇が贈られた経緯などの説明を受けた後、生徒たちは救命艇に順番に乗船。転落者に見立てた人形を発見したら、▽目を離さず指差し▽ゆっくり近づいてすくい上げる―という救助の流れを体験した。
  
 岩澤優真君(3年)は「船が揺れる中、溺れている人を見逃さないよう、目を離さないようにしなければいけないのが難しい」と実感。英国では民間による水難救助活動(ボランティア)が活発に行われていることを知り、「将来、携われたらいいな」と夢を膨らませた。
  
救助用のロープを投げる練習も=6日

救助用のロープを投げる練習も=6日

  
 もしもの時を想定した浮き身の方法を体験する「浮いて待て」では、生徒数人が服を着た状態で海に入り、全身の力を抜いて手足を広げてあおむけに浮く背浮きに挑戦。岸壁にいる他の生徒たちは、助けを待つ友達に救助用のロープを投げて救い出した。
  
 救助される役となった高橋愛里さん(3年)は「今回はライフジャケットを着用していたから楽に浮くことができた。何もないときは焦ってしまうと思うが、体験することで、いざという時に思い出せる」と知識を深めた。
  
救助体験を通じ交流した唐丹中の生徒と根浜マインドのメンバーら=6日

救助体験を通じ交流した唐丹中の生徒と根浜マインドのメンバーら=6日

  
 釜石版復興教育「いのちの教育」の一環。同校では保健体育の中で、AED(自動体外式除細動器)や応急手当、水の事故対応について学んでいる。今回は救命艇に体験乗船することで海の怖さや楽しさ、水難救助の大切さを知ってもらうのが目的。最後に海岸のごみ拾いを行い、廃棄プラスチックによる海洋汚染の実態を確認する機会にもした。
  
海開き前に砂浜でごみ拾いし環境保全に協力=6日

海開き前に砂浜でごみ拾いし環境保全に協力=6日

  

砂浜再生 2年目の海開き

   
 根浜海岸の海水浴場は16日に海開き。悪天候のため、シーズン中の安全を祈願する神事は中止、海遊びイベントは延期。岩崎理事長は「ワクワクする根浜を楽しんでもらえるよう、地域で盛り上げていきたい」と笑顔を見せる。
  
 東日本大震災の津波で失われた砂浜の再生工事を終え全面開放となって2年目の夏。同法人事務局長の佐々木雄治さん(66)は「砂浜あっての根浜海岸。松林も特徴で、長年親しんだ風景が戻ってうれしい。震災後、『海が怖い』という人もいるが、正しい知識と安全マナーを守れば、安心安全で楽しい場所。多くの人に楽しんでもらえたら」と夏場の客足に期待を込めた。
 

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震災から11年 伝承・発信の今を知る 釜石市で「いわて復興未来塾」開催

震災後、新設された片岸町の防潮堤を見学する「いわて復興未来塾」の参加者

震災後、新設された片岸町の防潮堤を見学する「いわて復興未来塾」の参加者

 
 2022年度第1回いわて復興未来塾(いわて未来づくり機構主催)は2、3の両日、東日本大震災の被災地・釜石市で開かれた。各分野で本県の復興に携わってきた人らが講演や座談会でこれまでの歩みを振り返り、伝承や発信、自治体間連携などについて意見を交わした。津波で被災した現場を訪れる体験プログラムもあり、参加者は11年前を思いながら、防災への心構えを新たにした。
 
 2日、大町の釜石PITでは基調講演や事例報告、座談会が行われ、県内外から約70人が参加。IBC岩手放送メディア戦略部シニアマネジャーの相原優一さんは、自社が取り組んできた震災復興の情報発信、記憶の伝承について講演した。
 
デジタル技術を活用した震災伝承について話すIBC岩手放送・相原優一さんの基調講演

デジタル技術を活用した震災伝承について話すIBC岩手放送・相原優一さんの基調講演

 
 同社はVR(仮想現実)映像で津波石碑や震災遺構を記録し月命日にWEB上で公開したほか、学校でのVR体験授業、放送と新聞の融合による情報発信など、画期的なデジタルコンテンツを展開してきた。相原さんは、メディア環境の変化で「伝えているつもりでもなかなか届かない」状況を指摘。既存報道に加え、SNSやVR、AR(拡張現実)などデジタル技術を用いた伝達手法の必要性を示し、「これからは情報をデザインして、いかに分かりやすく伝えるかが大事。震災を知らない子どもたちでも理解できるようなコンテンツが求められる」と話した。
 
遠野市消防本部の千田一志さんは後方支援拠点となった同市の取り組み事例を紹介した

遠野市消防本部の千田一志さんは後方支援拠点となった同市の取り組み事例を紹介した

 
 遠野市消防本部消防長の千田一志さんは、沿岸被災地の後方支援拠点となった同市の経験を紹介した。震災前の2007年に三陸地域の地震災害を見据えた後方支援拠点として名乗りを上げ、対応する防災訓練を重ねてきた同市。発災直後から救援部隊の受け入れ準備を開始し、炊き出しなど官民一体の活動で沿岸被災地を支え続けた。
 
 千田さんは自治体間の横の連携「水平連携」の有効性にも着目。震災では被災自治体の要請を待たずして自ら情報収集し、適切な支援策を展開したが、これは超法規的対応でもあったため、「今後は横の連携を支える責任、権限、財源を踏まえた新しい仕組みの構築が必要」と訴えた。
 
応援職員OBによる座談会。赴任時を振り返った

応援職員OBによる座談会。赴任時を振り返った

 
 震災後、本県被災地に派遣され、復興業務を担った東京、大阪、長野、愛知4都府県の自治体職員らが座談会。赴任時に手掛けた仕事の思い出や各自治体に戻って生かされていることを語り合った。
 
 長野県職員(土木技師)の坂田健剛さんは県沿岸広域振興局宮古土木センターで防潮堤の避難階段設置工事などを担当。「仕事に取り組む姿勢、地域住民への丁寧な対応と、見習うべき点が多かった。『津波てんでんこ』のような地域の教訓が生かされていることも素晴らしい」と振り返った。
 
 東京都職員の鍵本拓哉さんは県復興局での勤務を通じ、現地を見て生の声を聞く重要性を痛感。「発言の裏の背景、込められた気持ちをしっかり汲みとって住民の要望に応えることが大事。都の仕事にも生かしていきたい」と思いを強くした。
 
会場参加者から登壇者への質問も。震災の記憶を未来につなぐヒントを得た

会場参加者から登壇者への質問も。震災の記憶を未来につなぐヒントを得た

 
 3日は、震災の津波で大きな被害を受けた鵜住居町で現場体験プログラムが行われた。約30人が参加。震災伝承施設「いのちをつなぐ未来館」で市内の被災状況、当時の避難行動を学んだ後、地元小中学生がたどった避難コースを追体験。案内したのは当時、釜石東中の2年生で、同避難を体験した川崎杏樹さん(現いのちをつなぐ未来館スタッフ)。日ごろの防災学習の大切さを挙げ、「災害は必ず起きるととらえ、命を守るための備えを家族と一緒に考えてほしい」と呼び掛けた。
 
いのちをつなぐ未来館(鵜住居町)で釜石市の被災状況を学ぶ

いのちをつなぐ未来館(鵜住居町)で釜石市の被災状況を学ぶ

 
地震発生後、津波から逃れるため小中学生がより高い場所へと駆け上がったルートを追体験

地震発生後、津波から逃れるため小中学生がより高い場所へと駆け上がったルートを追体験

 
 新設された鵜住居川水門と一体的に整備された片岸町の防潮堤も見学。震災の教訓を生かしたハード、ソフト両面の復興を知る機会になった。
 
 4月に名古屋市から陸前高田市へ派遣された応援職員、早川佳孝さん(28)は「当時のことを知る人から話を聞くのはためになる。水門の機能も興味深かった。次の災害に備え、もう一段階進めた復興が大事」。名古屋市は南海トラフ地震の被災想定エリアに入っているが、住民の防災意識、備えへの実際の行動はまだ伴ってこない実態があるといい、「自分が勉強して教訓を名古屋に持ち帰り、住民に伝えたい」と意気込んだ。
 
鵜住居川水門のゲートをのぞき込む参加者。津波発生時は衛星回線でゲートを自動的に閉鎖する

鵜住居川水門のゲートをのぞき込む参加者。津波発生時は衛星回線でゲートを自動的に閉鎖する

 
 同塾は、県内の産学官で構成する同機構が2015年に開始。年2~3回、盛岡市や沿岸市町村で開催する。今回は新型コロナウイルス感染拡大防止も視野に、会場の模様をインターネット番組で生配信した。

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市民の安全・安心に貢献 警察業務協力で釜石署が3団体8個人に感謝状贈呈

警察業務協力者への感謝状贈呈式=釜石署、1日

警察業務協力者への感謝状贈呈式=釜石署、1日

 
 地域の治安活動などで長年にわたり警察業務に協力してきた団体や個人への感謝状贈呈式が1日、釜石市中妻町の釜石警察署(前川剛署長)で行われた。防犯や交通安全、青少年の健全育成などに尽力したとして、3人に県警察本部長感謝状、3団体5個人に釜石警察署長感謝状が贈られた。
 
 感謝状を受けたのは、少年補導員や同署の交通安全活動推進委員、地域団体で防犯や交通安全に取り組んできた人など。団体では、被留置人の散髪に協力してきた理容店などが対象となった。前川署長が賞状を手渡し、感謝の気持ちを表した。
 
交通安全活動への協力で県警察本部長感謝状を受ける佐々木暁美さん(左)

交通安全活動への協力で県警察本部長感謝状を受ける佐々木暁美さん(左)

 
自転車安全利用モデル校として模範行動を示す釜石高には釜石警察署長感謝状が贈られた

自転車安全利用モデル校として模範行動を示す釜石高には釜石警察署長感謝状が贈られた

 
 贈呈後、前川署長は管内の治安状況を説明。交通関係では昨年に比べ、人身事故が増加傾向にあり、本年は既に2件の死亡事故が発生していることを伝え、「引き続き、地域の安全・安心の取り組みのため力添えを」と願った。
 
 県警察本部長感謝状を受けた千鳥町の永澤光雄さん(74)は20年間、少年補導員を務め、市防犯協会隊員としても活躍。現在は中妻地区を担当し、子どもたちの登校時間帯の見守りのほか、高齢者の安全確保も含めた見回り活動に力を注ぐ。「最初は声掛け事案も多少あったが、最近は少なくなっている。できることを続け、(市民の安全・安心に)少しでも役に立てれば」と永澤さん。感謝状を励みに、活動へのさらなる意欲を見せた。
 
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地域安全への尽力で感謝状を受ける永澤光雄さん

 
 警察業務協力者への感謝状贈呈は、1954年7月1日に現行の警察制度が施行され、都道府県警察が発足したことにちなみ、毎年実施されている。
 
 今回、感謝状を受けた個人、団体は次の通り。(かっこ内は協力分野と管轄交番、駐在所)
【県警察本部長感謝状】
永澤光雄(地域安全、釜石駅前)、佐々木暁美(交通安全、平田)、菊池重人(同)
【釜石警察署長感謝状】
▽団体 県立釜石高(交通安全、甲子)、洞関町内会(地域・交通安全、甲子)、カットサロンくまがい(警務、平田)
▽個人 山本理悦子(地域・交通安全、釜石駅前)、多田慶三(同、小佐野)、伊藤福明(地域安全、釜石駅前)、上野慶壽(地域・交通安全、唐丹)、久保信(同、平田)

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ちょっと待って! 詐欺被害防止、客へ声かけ訓練 釜石署とコンビニ連携

コンビニ店で行われた特殊詐欺被害を防ぐ声かけ訓練

コンビニ店で行われた特殊詐欺被害を防ぐ声かけ訓練

 
 医療費や保険金の還付金があるなどとしてコンビニエンスストアのATM(現金自動預払機)から現金を振り込ませる還付金詐欺、有料サイトの利用料金未納分の支払いを求めるメールやハガキを送ってコンビニで電子マネーギフト券などを購入させて番号を聞き出す架空料金請求詐欺など、コンビニを使った特殊詐欺の被害が全国的に多発している。釜石警察署(前川剛署長)は22日、釜石市松原町の「セブンイレブン釜石松原店」で高額の電子マネーを購入させる特殊詐欺被害を防ぐ声かけ訓練を行った。
 
 署員が客(被害者)役を務め、同店の女性店員が注意喚起役を担当した。客は携帯電話で話しながら入店し、電話口の相手から指示を受けながらATMを操作。現金をおろした後、電子マネーの棚から10万円分の同ギフト券を取り、レジへ向かった。店員は詐欺被害への注意を促すチェックシートを示しながら「高額で心配。確認させてください」と声を掛け、購入理由や不審点などを聞き取り、警察に通報。駆け付けた署員が詳しい事情を聴いて、被害を防いでいた。
 
電話をしながら電子マネーを購入しようとする客に目を向ける店員(奥)

電話をしながら電子マネーを購入しようとする客に目を向ける店員(奥)

 
レジ前では女性店員(左)が被害者役の署員を粘り強く説得した

レジ前では女性店員(左)が被害者役の署員を粘り強く説得した

 
 訓練で対応にあたった店員の井戸麻美さん(28)は「被害者役の人は焦っていて強引。信じ込んでしまっているようだった」と振り返った。「息子から頼まれた」「でも電話してきたのは別人」「30万円の支払いが今なら10万円でいいと言っている」「10万円がだめなら、5万円だったらいいのか」など、おかしな言動が気になり、粘り強く説得した。
 
 客は納得がいかない様子だったが、署員の姿を確認すると、「言いにくいが、実は…ある画像を見てしまって」と打ち明けた。井戸さんは「(客が)本当のことを言っているのか、分からない。詐欺だと認めてもらい、警察を呼べるか、判断が難しい。とにかく、おかしいなと思えることが大事。電子マネーに関わらず、電話でお金の話をしていたら、近づいて様子を見るようにした方がいい」と認識した。
 
対応した店員は駆け付けた警察官に状況を伝えた

対応した店員は駆け付けた警察官に状況を伝えた

 
 チェックシートは県警と県コンビニエンスストア等防犯対策協議会連合会が作成し、県内のコンビニなどに配布。そこには「ちょっと待って!」「訴訟を起こすというハガキが送られてきた」「電子ギフト券を買うよう指示された」「それは詐欺!」などと書かれ、注意を喚起している。井戸さんは「言葉だけで伝えるより、シートを見せることでお客様に考える時間を持ってもらえる」と実感した。
 
 同署生活安全課の小田島徹課長は「実際のところ、声を掛けるというのは難しいと思う。訓練という形で声掛けを体験することでハードルを下げ、気になる客に勇気を持って声を掛けてほしい。シンプルにまとめたチェックシートがその手助けになれば。いつか被害防止につながる」と期待する。
 
コンビニなどに配布されている特殊詐欺被害防止チェックシート

コンビニなどに配布されている特殊詐欺被害防止チェックシート

 
 県内で今年5月末までの特殊詐欺認知件数は11件(前年同期比6件減)で、被害額は5791万円(同比4399万円増)。架空料金請求詐欺、キャッシュカードを別のカード類とすり替えて盗む「キャッシュカード詐欺盗」が各4件、還付金詐欺が3件で、被害額の約9割が架空料金請求によるものとなっている。
 
 釜石署管内では今年、被害は確認されていない。特殊詐欺の手口は巧妙化し、複数の方法を組み合わせて複雑化しており、「詐欺に気づく力が必要。昨年は1件、数百万円の被害があった。本人だけでなく、家族に高齢者がいれば、身近で起こるかもしれない。家族間の話題として話し合ってほしい」と小田島課長。新型コロナウイルス禍で控えていたスーパーなどでのチラシ配布による啓発活動を再開する予定で、「広報媒体を通じ意識付けし、被害を食い止めていきたい」と力を込めた。

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避難所見直しへ、釜石市 最大クラス津波想定 県公表を受け説明会

津波浸水想定について質問や意見が相次いだ住民説明会

津波浸水想定について質問や意見が相次いだ住民説明会

 
 釜石市で18日、県が今年3月に公表した最大クラスの津波浸水想定に関する住民説明会が始まった。同日は新町の双葉小体育館で開かれ、甲子・小佐野・中妻地区の住民約40人が参加。東日本大震災時に浸水しなかった地域に被害が及ぶ可能性が示され、避難のあり方をあらためて考えた。説明会は地区別に計4回開催。参加者から上がった意見を緊急避難場所などの見直しに反映させる。
 
 市防災危機管理課の川﨑浩二課長が、県がシミュレーションに使用した条件などを解説。満潮時に震災や日本海溝など最大クラスの津波が発生し、地盤沈下が起きて防潮堤が破壊された場合の地区ごとの浸水深などを伝えた。
 
参加者は資料を確認しながら説明にじっと耳を傾けた

参加者は資料を確認しながら説明にじっと耳を傾けた

 
中妻地区は海まで2キロ強あり、震災の津波では浸水しなかった。2020年9月に内閣府が公表した最大級の津波浸水想定で、海に近い千鳥町や中妻町が新たに浸水区域に入っていた。今回の県想定では、上中島町の一部まで浸水の範囲が広がり、地区の拠点避難所となる公共施設も最大で5~10メートルの浸水の可能性があると示された。
 
 「そういう想定を示されても、逃げない人は逃げない。大丈夫だと思っている人が多い」と口を開いたのは千鳥町の男性。住民間の温度差を感じている様子で、危機感や避難の必要性を認識させるような情報伝達の在り方を考えてほしいと要望した。中妻町の男性も「浸水範囲や深さを色分けした図面で示されてもピンとこない」と指摘。鵜住居町の学校にある高台避難を促す目印ラインを例に、「ハザードマップを見える化するのはどうか。いつも意識できるようになる」と提案した。
 
中妻町や上中島町など釜石地区(西部)の防潮堤が破堤した場合の県津波浸水想定

中妻町や上中島町など釜石地区(西部)の防潮堤が破堤した場合の県津波浸水想定

 
 鈴子町の佐々木眞さん(69)は、津波緊急避難場所とされている最寄りの市教育センターが6・0メートル浸水するとの想定に不安を感じた様子。「避難場所を定める際の最低必要条件や津波到達時間の目安など、われわれが取るべき行動の指標をはっきりしてほしい」と求めた。
 
 市内陸部の野田町に暮らす小菅幸江さん(41)は職場が海に近い松原町にあり、新たな津波想定が気になり参加。震災時に避難した松原公園が、今回の想定では1・0メートル浸水すると分かった。従業員の命を守る取り組みを考える立場にあるといい、「想定を社内で共有し、避難訓練のあり方も考え直さなければ」と気を引き締めた。震災後に生まれた子どもにも当時の様子を伝えるようにしていて、「自分の命を守れるように」と願っている。
 
説明会で上がった住民の声を避難方法の見直しに役立てる

説明会で上がった住民の声を避難方法の見直しに役立てる

 
 市は、県の公表を受けて、津波浸水想定の分析や津波緊急避難場所(市内84カ所)の浸水状況調査、拠点避難所(同19カ所)の確認を進めている。今回の説明会のほか、開催中の各地域会議や復興まちづくり協議会でも説明を重ね、市民の声を聞きながら避難場所や避難経路などを見直す方針。9月をめどにウェブ版の市ハザードマップを更新、見直し結果を市広報紙で周知する。
 
 住民説明会は各回午前10時から1時間を予定。日にちと場所は次の通り(かっこ内は対象地区)。
■6月25日 釜石東中体育館(鵜住居、栗橋)
■7月9日 市民ホール(本庁、平田)
■7月23日 唐丹中体育館(唐丹)

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行方不明の高齢女性を保護 危険回避した2女性に釜石警察署長が感謝状

釜石警察署署長感謝状を受けた阿部静子さん(中左)と前川陽美さん(中右)

釜石警察署署長感謝状を受けた阿部静子さん(中左)と前川陽美さん(中右)

 
 釜石警察署(前川剛署長)は9日、行方不明になっていた釜石市甲子町の女性(82)を保護し、迅速な通報で命の危険を回避したとして、大槌町小鎚の保健師・阿部静子さん(40)と釜石市鵜住居町の看護師・前川陽美さん(22)に署長感謝状を贈った。保護された女性は認知症の症状があり、2人の的確な判断と処置がなければ生命に関わる事案となっていた可能性も。女性が無事に家族のもとに帰れたことに、2人は「安心しました。本当に良かった」と口をそろえた。
 
 同署署長室で贈呈式が行われ、前川署長が阿部さん、前川さんに感謝状を手渡した。前川署長は「お2人のやさしさ、親切心が高齢女性を救った。ご家族も大変感謝しておられた。高齢者が犯罪被害や交通事故に巻き込まれる事案が増えている。これからも地域の安全、安心のためにご協力を」と願った。
 
行方不明高齢者保護の功労で前川剛署長が感謝状を贈呈

行方不明高齢者保護の功労で前川剛署長が感謝状を贈呈

 
 釜石市内に職場がある2人は5月11日午後7時すぎ、車で帰宅途中、鵜住居町の国道45号恋の峠付近で、ガードレールにつかまりながら上り坂をとぼとぼ歩く高齢女性を目撃。阿部さんは近くの店舗駐車場からUターン。前川さんは一度自宅に戻ったものの、気になって父親と一緒に現場に引き返した。
 
 2人が声を掛けると、女性は「家に帰ろうとしている」というようなことを口にしたが、「目がとろんとして、少し疲れている様子だった」(前川さん)という。「声を掛けたらすぐに近寄ってきた。不安も大きかったのでは」と阿部さん。その後、阿部さんの車に女性を乗せて毛布やカイロで体を温めるなど介抱。前川さんが110番通報し、警察官が到着するまでの間、手掛かりを求めて2人で女性の話を聞いていた。
 
 女性が家にいないことに家族が気付いたのは午後6時ごろ。付近を捜したが見つからず、釜石署に届け出た。前川さんらと家族からの通報が重なり、早い段階での身元判明につながった。発見時、外傷などは見受けられなかったが、翌日の受診で軽度の足首の捻挫が判明した。
 
大きな事故につながらず、女性が家族のもとに戻れたことを喜ぶ阿部さん(右)と前川さん

大きな事故につながらず、女性が家族のもとに戻れたことを喜ぶ阿部さん(右)と前川さん

 
 5年前、福祉施設から抜け出した高齢男性を保護した経験がある阿部さんは、今回の発見場所から「もしかしたら…」と同様のケースを考え、すぐに行動を起こした。「まずは無事だったことが何より。(高齢化が進み)これから似たようなことが増えるだろう。この地域に住む人間として、気になる人がいたら積極的に声を掛けたい」。
 
 発見現場は街灯がなく、当時は薄暗かった。周辺では過去にクマの目撃例もある。地元住民でもある前川さんは「あの時間帯に散歩する人を見かけることはほぼ無い。後悔しない選択ができて良かった」。思いがけない感謝状を受け、「自分にとっても誇りになる」と話し、初めての経験を胸に刻んだ。

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急げ!近くの避難場所へ 鵜住居小と釜石東中、下校時に合同訓練

大地震を告げる放送を聞き、近くの避難場所に向かう児童生徒ら

大地震を告げる放送を聞き、近くの避難場所に向かう児童生徒ら

  
 釜石市鵜住居町の鵜住居小(佐藤一成校長、児童140人)と釜石東中(佃拓生校長、生徒102人)は6月1日、下校時に地震と津波発生を想定した合同避難訓練を行った。「今いるところから一番近い避難場所は!」「とにかく高台に避難する」。学校での学びを生かし、東日本大震災時に生徒が児童の手を引き高台に避難した両校では、脈々とつないできた防災意識の深化に向け、自ら主体的に考え判断し行動する力を身に付けようと取り組みを進めている。
  
 三陸沖を震源とする震度6強の地震が発生し、高さ10メートル以上の津波が襲来するとの想定。帰宅途中に防災行政無線から大地震を告げる放送が流れると、児童生徒はその場にしゃがみ込み、持っていたかばんなどで頭を守った。「早く高台へ」「逃げろー、急げー」。揺れが落ち着いたことを確認し、近くの指定避難場所などに向かった。
   
警報が流れると、その場でしゃがみ込み荷物で頭を覆って身を守った

警報が流れると、その場でしゃがみ込み荷物で頭を覆って身を守った

  
最寄りの避難場所を目指し坂道を駆け上がる子どもたち

最寄りの避難場所を目指し坂道を駆け上がる子どもたち

  
 このうち日向・新川原地区を歩いていた子どもたちは、高さ19メートルの三陸沿岸道路釜石山田道路につながる「津波避難階段」に向かった。長内集会所に近い、鵜住居第2高架橋南側たもとにある階段は、上りきると鵜住居トンネル電気室前の広場に出る。そこを目指して約80段の階段を急ぎ足で上った。「気を付けて」。中学生や小学校高学年の児童は振り返って他の子に気を配って避難。より早く逃げられるよう、低学年児童の荷物を背負って逃げる生徒の姿も見られた。
  
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小学生のランドセルも背負って避難する中学生の姿があった

  
 主体的に行動することを目標に訓練に臨んだ高清水麻凜さん(釜石東中3年)は「普段は自分のことだけでいいが、今回は後輩のことを考えながら行動した。大きい声を出して誘導できた」と自己評価。川﨑拓真君(同)は「いざという時に備えて、防災に関する学びにしっかりと緊張感を持って取り組んでいく」と意識を高めた。
  
 震災から11年が経過。現在の小学生は当時0歳か1歳で、ほとんどは生まれていない。実際の記憶はなく、授業や教科書で「あの日」の出来事を学ぶ。岩鼻樹里さん(鵜住居小6年)は「サイレンが怖くてドキドキした。みんなと一緒にいて素早く行動できたけど、落ち着いて逃げることができなかった」と、ちょっと残念そうな表情を浮かべた。「知識はあっても、実感のない話」にしないよう真剣に参加していて、「本当の時は落ち着いて行動したい。自分の命を守ったら、低学年の子の命も守れるようになりたい」と上を向いた。
  
 鵜小・東中学区内の指定避難場所(津波災害緊急避難場所)は、両校の校庭を含め36カ所ある。今回の訓練で小学校は集団下校としたが、普段の下校時間はばらばら。登下校中に地震に遭遇したり、警報が鳴った時に周囲に頼ることのできる人がいない場合でも逃げられるよう各自が避難先を把握するのが訓練の目的。さらに、それぞれの状況に応じて考え、判断し、行動する力を鍛えてもらうのも狙いにする。
   
訓練終了後の反省会で、主体的に行動しようと思いを共有した

訓練終了後の反省会で、主体的に行動しようと思いを共有した

   
 訓練終了後、広場で反省会。地区住民20人ほども参加していて、新川原町内会の古川幹敏会長(69)が震災の経験談を交えながら、「大きな地震の時、みんなで一緒に行動できるとは限らない。大事なことは、どこにいても一人でも逃げることと、避難場所を考えておくこと。備えが必要。命を大切にする取り組みを一緒にやっていこう」と呼び掛けた。
  
 訓練の様子を見守った両校の教諭らは「中学生に頼らなくても逃げられる心構えを。どんな時でも自分の力で逃げられるよう努力してほしい」「訓練だからではなく、普段から本気で自分で考えて行動することが大事。夜中だったら…、自分ひとりかもしれない。いろんなパターンがあり、自主的に行動する姿勢を小学生につなげてほしい」と求めた。