新型コロナウイルス感染症の収束が見えぬまま迎えた2023年―。新規感染者数は依然高止まり傾向が続くものの、行動制限がない年末年始で人の動きは活発化。釜石市内の初詣スポット、初売りを行った商業施設の正月の人出は昨年より増加した。各所で帰省した若者グループや家族連れ、市外からの来訪者も多く見られ、本格的な“withコロナ”時代の到来を感じさせる新年のスタートとなった。
厳寒緩む年越し 尾崎神社に地元住民ら初詣 神楽、虎舞4団体が初舞奉納
年越しの時間帯に参拝する初詣客=尾崎神社
厳しい冷え込みもなく、穏やかな年越しとなった釜石市内。浜町の尾崎神社(佐々木裕基宮司)には、元日午前0時を前に初詣客が続々と集まった。新年を迎えたことを告げる本殿の太鼓が打ち鳴らされると、訪れた家族連れや友人グループがさい銭を投げ入れ、鈴を鳴らしてかしわ手を打った。佐々木宮司は新年初祈祷を行った。
浜町の佐々木ヨシ子さん(81)は息子家族らと連れ立って親子3世代で参拝。一番乗りで神前に手を合わせ、家族の健康を祈った。東日本大震災の津波で同町の店舗兼自宅を失い、土地のかさ上げを待って2020年に再建。やっと暮らしが落ち着きつつある今、願うのは「コロナの収束、津波がこないこと、老いないこと」。生かされた命に感謝し、「体を弱らせずに今の状態を保つことが一番の願い。津波がきてもすぐに逃げられるよう準備もしている。子どもたちのためにも元気でいないと」と健康長寿を誓った。
神社には地元の郷土芸能、神楽と虎舞の4団体が初舞の奉納に訪れた。各団体の代表が神前に玉串をささげ、昨年の加護に感謝。メンバー全員で参詣し、順に舞を披露した。新年の幕開けにふさわしい威勢のいい掛け声と勇壮な舞を初詣客らが見守った。
初舞の奉納に訪れた郷土芸能団体のメンバーら
神社本殿で伝統の舞を披露する「東前太神楽」
新年に期待を込め、威勢よく踊る「錦町虎舞」
昨年は、コロナ禍で中止が続いていた同神社と日本製鉄釜石山神社の合同祭「釜石まつり」が3年ぶりに復活。郷土芸能団体も久しぶりの舞の披露で躍動した。錦町虎舞の熊谷勇哉会長(32)は「祭りができたことは大きな喜び。みんな気合いが入り、気持ち的にも盛り上がった」と回顧。祭りやイベントの中止は次世代への芸能伝承活動にも影響を及ぼす。「子どもたちが踊りを目にする機会は絶対必要。祭りなどで興味を持ち、『やってみたい』と入ってきてくれる子が増えれば、踊りの継承にもつながっていく」と熊谷会長。今年も無事に祭りができるよう願った。
神々しい陽光に感動! 「初日の出」目当てに釜石の海岸部に見物客集まる
両石漁港から望む2023年の初日の出。神々しい光が海面を照らす
元日朝のお楽しみといえば「初日の出」。釜石市内の海岸部には、2023年最初の朝日を拝もうと市内外から見物客が集まった。同市の日の出時刻は午前6時52分ごろ。水平線上を覆う雲に赤みが広がると、見物客は今か今かと太陽が顔を出すのを待ちわびた。雲の上部や半島部の稜線から光が差し込み始めると手を合わせ、スマートフォンのカメラなどを向けて美しい光景を写真や動画に収めた。
奥州市から訪れた女性3人はまばゆい朝日に感動
県内外の進学先から帰省した奥州市の小野寺夏来さん(20)、阿部仁美さん(19)、菊池恵梨夏さん(20)は高校時代の同級生。年越しの時間帯に地元の神社を参拝後、海で日の出を見たいと沿岸部に車を走らせ、釜石にたどり着いた。地元旅館スタッフの好意で両石漁港に案内してもらい、無事、初日の出を見ることができた。「海から上がる朝日はめっちゃきれい。日光で海面が輝くのは初めて見る光景」と大感激。入学以来、コロナの影響を受けながらの学生生活が続くが、「今年こそ旅行に出かけられたらいいな。関東、関西方面に行ってみたい」と夢を描いた。
市内最大の初詣スポット「釜石大観音」 正月3が日のにぎわい回復傾向に
釜石大観音を訪れた初詣客。「新年のスタートに願うことは?」
大平町の釜石大観音は大みそか午後10時に開館。例年多くの初詣客でにぎわう元日、日の出の時間帯(午前7時前後)の人出は昨年より約300~400人増加。昨年までは県外からの帰省は自粛ムードで、小家族での参拝が多かったが、今年は若者グループの姿が目に見えて増えたという。人の流れは日中も途切れることなく続いた。正月3が日の人出は約8千人(昨年比約1500人増)。
同所の初詣のピークは元日午前10時~午後2時ごろ。訪れた人たちはそれぞれの願いを胸に観音様に手を合わせ、参拝を終えると、お守りやお札を買い求めたりおみくじを引いたりしながら、新年への期待を高めた。観音像胎内の七福神巡りをしながら展望台に上がり、眼下に広がる釜石湾の雄大な景色を堪能する人たちも。各所で記念撮影を楽しむ姿も見られた。
引いたおみくじを笑顔で見つめる家族連れ
遠野市の佐々木達也さん(38)は、家族と県内外から帰省中の親族計12人で訪れた。同所への初詣は毎年恒例。昨年は「大きな病気もなく平穏だった」と感謝し、「今年も家族みんな無事に過ごせますように」と祈った。長女優希さん(9)は小学校入学と同時にコロナ禍に。この3年、各種制限の中で学校生活を送ってきた。母智美さん(38)は「学校行事が減ってしまい残念だが、少しずつ家族が見に行ける人数も増えたりしている」と変化を歓迎。長男陽麻君(6)、次男健麻君(2)と3人の子どもの健やかな成長を願い、「子どもたちが元気でいることが一番」と目を細めた。
青空に映える白亜の観音像。同市を代表する観光スポット
釜石大観音はコロナ禍への対応策として、週末3日間のみの営業を続けてきたが、昨年3月から通常営業を再開。国や県の旅行割引などもあり、団体ツアー客の来訪も少しずつ戻ってきている。小野寺俊雄係長は「関東方面からの来訪はまだ少ないが、東北エリア内ではだいぶ動きが出てきている。感染対策の関係で小規模ツアーが主流だが、今年こそ収束の方向に向かい、客足回復につながっていくことを願う」と話した。
初売りの人出も回復基調に イオンタウン釜石 正月3が日に約3万5千人が来店
福袋販売などが好調だったイオンタウン釜石の初売り=元日
釜石市内の初売りは元日スタート。港町の大型商業施設「イオンタウン釜石」は通常より1時間早い午前8時に開店し、買い物客を迎えた。開店前には約350人が行列。開店と同時にお目当ての売り場に急ぎ、福袋など正月ならではのお得な商品を買い求めた。3が日の来店者は約3万5千人(昨年比約5千人増)。コロナ禍前には及ばないものの、着実な回復基調は新たな年への明るい材料となった。
2014年3月にオープンしたイオン釜石の初売りは今年で9年目。元日初売りは地元民や近隣市町民らにもすっかり定着した。初売りのお楽しみ「福袋」は、今年もコロナ感染拡大防止策の一環で年末から販売開始。分散来店で客の密集を避けられるよう配慮した。約20の専門店が合わせて約1800個の福袋を用意。各店とも金額以上の商品を詰め、お得感を打ち出した。売れ行きも好調で3日までにほぼ完売した。
元日はイオンタウンアプリの新規登録やクーポン提示で菓子の福袋がもらえる初めての企画(先着60人)も。2日は新春イベントとして唐丹町の桜舞太鼓が迫力の演奏を披露し、初売りを盛り上げた。元日の来店のピークは昼から午後4時ごろにかけて。駐車場は一時、満車状態となった。
イオンタウンアプリを活用した菓子の福袋プレゼントには長蛇の列ができた
買い物客でにぎわう店内=元日昼ごろ
新型コロナの影響で大きな打撃を受けてきた商業界。イオン釜石もオープン以来、右肩上がりだった来店客数、売り上げが一時、落ち込んだが、昨年から徐々に回復傾向にある。片岡克也モールマネジャーは「コロナ禍前の19年の水準まではまだ戻っていないが、イベントなども増やしながら集客力アップを図れれば。地域との連携、空所活用も模索し、お客様に足を運んでもらえる施設を目指したい」と新しい年への意気込みを示した。