箱崎半島を散策した「ゆったりウオーキング」の参加者ら
釜石市甲子町の甲子公民館(佐々木利光館長)が行う健康づくり事業「ゆったりウオーキング」が10月21日、同市北東部の箱崎半島で行われた。東北自然歩道「新・奥の細道」コースにもなっている散策路を50~80代の10人が歩き、太古の地球活動から生まれた大自然を堪能。健康で歩ける喜び、郷土が誇る景観の素晴らしさを体感し、思い出を心に刻んだ。
同館が年6回シリーズで開催するウオーキング企画の本年度5回目。箱崎半島のコースは今回が初めての選定となった。箱崎町白浜地区集落を経て、スタート地点の大沢遺跡駐車場までは車両で移動。講師を務める蓮見純子さん(健康運動実践指導者)の案内で、午前9時55分、入り口の赤鳥居をくぐって出発した。目的地の半島突端、御箱崎灯台までは片道約3.9キロ。散策路はアップダウンが続く険しいコース。一行は樹木が生い茂る森の景色も楽しみながら、無理のない速度で歩みを進めた。
大沢遺跡駐車場から半島先端部を目指して出発
緑に囲まれた散策路をゆっくりと進む
勾配のきつい坂道はトレッキングポールを利用して体への負担を軽減
半島の先端が近づいてくると、木々の間から右手に釜石湾、左手に大槌湾が見え隠れ。普段、見ることのない角度からの三陸の景色に参加者は感激の声を上げた。スタートから約1時間20分で、東屋とトイレがあるポイントに到着。休憩後、最終目的地を目指した。灯台までの道のりには、地元住民が漁業繁栄や家内安全を祈願する御箱崎神社があり、古い石碑群や複数の赤鳥居が地域信仰の奥深さを感じさせた。一行は鐘を鳴らして参拝した。
半島の北側は大槌湾から山田湾を眺望できる
複数の赤い鳥居が目を引く御箱崎神社。参加者はほこらの前で参拝(左下写真)
箱崎白浜出身の佐々木利光館長(左)からは地元住民ならではの話も聞けた
灯台に到着すると、目の前には太平洋の絶景が広がった。リアス海岸の地形で陸地側に深く入り込んだ湾風景を見慣れている釜石市民にとって、視界いっぱいに広がる長大な水平線は新鮮な光景。沖を航行する船舶も見られ、参加者は盛んにスマホカメラのシャッターを切った。
半島の突端にそびえる御箱崎灯台。目の前には外洋の壮大な景色が広がる(左上写真)
水平線をバックに記念撮影。灯台までの完歩に参加者は充実の笑顔!
半島先端部南側には断崖を下った先に、同市が誇る景勝地「千畳敷」が広がる。約1億2千万年前、地中から上昇したマグマが冷え固まって花こう岩を形成。長い年月をかけて波の浸食を受け、現在のような荒々しい岩場が生み出されたとされる。同所は三陸ジオパークのジオサイトの一つにもなっている。散策路からは崖伝いに急峻、極狭の遊歩道があるが、下りるには十分な注意が必要。今回は参加者の安全を考慮して、上から眺める形にした。
巨大な岩、荒々しい岩肌が独特の景色を生み出している「千畳敷」
長年の波の浸食で奇妙な形状に削られた花こう岩
天候によってさまざまな色合いを見せる千畳敷周辺の海
千畳敷から南東方向には、国の天然記念物に指定されている無人島「三貫島」が見える。市の鳥「オオミズナギドリ」の繁殖地で、市の木「タブノキ」に覆われる同市を象徴する島。参加者は見どころ満載の自然景観を存分に満喫し、昼食をはさんで往復約7.8キロを歩き抜いた。
千畳敷から望む「三貫島」(写真赤丸部分)
「誰かの力を借りないと来られない場所。すごく興味があり、一度来てみたかった」と谷藤敦子さん(79)。目の前に広がる大パノラマに、「おおらかな気持ちになり、思い切り空気を吸いたくなる。今日はばっちり見える眼鏡もかけてきた」と満面の笑み。土を踏みしめて歩くという街中ではできない体験も喜び、「これも健康だからできること。今、こうして歩けていることが一番の幸せ」とありがたさをかみしめた。
今回の参加者の中で最高齢は永須由美子さん(83)。初めて訪れた箱崎半島に、「今まで歩いた中でもきついコース。距離も長いし。でも頑張って歩いた」と充実の表情。会話し、景色を見ながら歩くのが何よりの楽しみといい、同ウオーキング企画への参加を続ける。10年ほど前から意識的に歩くようになり、普段は自宅周辺を1時間ほど歩くのが日課。この日の帰路では他の参加者より一足早くゴールし、仲間を驚かせた。
講師の蓮見さんは市内3公民館で健康づくりのための体操指導などを行い、ウオーキングにも力を入れる。「歩かないと歩けなくなる。動かないと動けなくなる」をモットーに、認知症予防にもつながるウオーキングを高齢者らを中心に勧める。「箱崎半島にはいつかみんなを連れてきたいと思っていた。念願がかないうれしい。見どころいっぱいのコースはまだまだたくさんある。時には遠出しながら歩く楽しみ、脚を動かす大切さを伝えていければ」と話した。