「夢叶う」その理由は…将棋・小山怜央四段(釜石出身) 答えは初の著書に 古里で出版イベント
小山怜央四段の著書出版を記念し釜石で開かれたイベント
「夢破れ、夢破れ、夢叶(かな)う」。11月下旬に釜石市内の書店に並んだ本のタイトルだ。著者は、地元出身で岩手県初の将棋プロ棋士となった小山怜央四段(30)。棋士養成機関「奨励会」を経ずに棋士になるという特異な道のりをたどる自伝で、「アマチュア棋士がプロに勝ち、プロになった話」をつづる。刊行を記念し、桑畑書店(釜石・大町)が12月9日にトークイベントを開催。小山四段は、応援する市民や将棋ファンら約30人を前に「自分を信じて挑み続ける」と尽きせぬ情熱を伝えた。
イベントは、幼少期の小山四段を指導した日本将棋連盟釜石支部長の土橋吉孝さん(68)との対談形式で進んだ。土橋さんいわく、「集中力があるが、夢中になると周りのことが耳に入らなくなる子」だったという小山四段。そうした面が対局中に現れ注意されたことが著書で触れられていて、土橋さんは「あとで読んで」と濁したが、小山四段は「細かく書けなかった」と当時の癖を自ら明かしたり、ほほ笑ましい2人のやりとりに会場からくすっと笑いが起こった。
終始楽しげにトークを展開する小山四段と土橋吉孝さん
小山四段の強みは、最後まで諦めない姿勢や失敗を引きずらない切り替えの良さが挙げられるが、「大学生活や社会人経験も強みになる」と自己分析。棋力向上には「AIをガッツリ使っている。反省会と称した研究会があって、奨励会員や棋士と対局しながら腕を磨いている」と近況を伝えた。プロになってからの成績は3勝6敗。来場者から「逆境をどう乗り越えるか」などと質問されると、「スタイルは変えない。自分の読みを信じる」と芯の強さをのぞかせた。
ファンに思いを伝える小山四段「嫌になることはあっても、やめたいと思ったことはない。将棋だけは」
トークの後はサイン会。「信念」と力強く記した本を小山四段から受け取った井戸大靖さん(関西大法学部4年)が見せたのは満面の笑み。自身も将棋を楽しんでいて、奨励会未経験、岩手初という偉業に「すごい」と尊敬のまなざしを向ける。「働きながら学び続けるのも大変なのに、仕事を辞めて挑む。情熱ですよね。そういうものを自分も見つけられたら」と感化された。
市民やファンが列を作ったサイン会。「信念」と言葉を残す
小山四段(右)の気さくな人柄に触れてみんな笑顔に
自伝は、▽将棋との出会い~奨励会に挑戦▽高校入学~東日本大震災▽大学入学~二度目の奨励会挑戦▽サラリーマン生活~プロ編入試験の受験資格獲得▽プロへの挑戦-の5章構成。奨励会に入ることはできず、災禍に見舞われたとしても、「棋士になる」という夢を大事に育て、運を味方にしたら諦めず突き進んでつかみ取る、そんな半生をしたためている。
「二度にわたって夢破れ、その末にかなった夢」。プロ棋士となった今、「二つの新たな夢ができた」と著書で明かす。そのほか、土橋さん、プロ編入試験直前に対局した遠山雄亮六段、師匠の北島忠雄七段のインタビューや、棋士編入試験5番勝負全局の棋譜も収録する。
信じた道を歩み続ける小山四段の著書「夢破れ、夢破れ、夢叶う」
小山四段の活躍と書籍の売れ行きを期待する編集者ら
時事通信社刊。四六判152ページ、税抜き1500円。小山四段のドラマチックな歩みはさまざまな報道で知る人も多く、市民、県民に喜びや感動、勇気を与えた。この書籍はその道のり、経験、思いを「当事者の目線」で記しているのが注目点。イベントには編集を担当した時事通信出版局の永田一周さん(編集委員)も参加し、「縁があり出版にこぎつけた。小山さんには活躍してもらい、皆さんは本を買って応援をお願いします」と売り込んでいた。
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