戦地からふるさとへ 出征兵士がつづったはがき 釜石・郷土資料館で公開 9/3まで戦災企画展


2023/08/09
釜石新聞NewS #地域 #防災・安全

戦地から届いたはがきの拡大パネルなどを展示する企画展=釜石市郷土資料館

戦地から届いたはがきの拡大パネルなどを展示する企画展=釜石市郷土資料館

 
 今日8月9日は太平洋戦争で釜石市が2度目の艦砲射撃を受けた日。市内では戦没者を追悼し、平和を祈念する式典が開かれた。市民らが寄贈した戦争関連の資料を収蔵する市郷土資料館(佐々木豊館長)では今、戦災企画展を開催中。今年は軍事郵便にスポットをあて、出征兵士が家族や近親者に送ったとみられるはがきを中心に公開。戦地と内地をつなぐ郵便が果たした役割を伝える。
 
 同館企画展示室で、新たに寄贈された資料を含め119点を公開。戦地から送られた軍事郵便30点は一部を拡大パネルにして展示する。はがき表面の宛先には当時の上閉伊郡鵜住居村、同栗橋村、東浜町(現東前町)などとあり、各地から出征したとみられる兵士が所属部隊名とともに名前を記している。意外にも裏面はカラーの絵はがきになっているものが複数。文面から家族や近親者に宛てたものと分かる。
 
 表面に検閲印が見られるように、兵士が書いたはがきや手紙は所属する中隊ごとに検閲を受けなければならず、戦争を否定する文言や弱音はご法度。文面は「元気でご奉公している。安心してください」といった、家族らを心配させまいとする内容が多く、逆にふるさとで働く家族らの体を気遣う言葉がつづられる。
 
「検閲」の印が押された軍事郵便。文面は厳しくチェックされた

「検閲」の印が押された軍事郵便。文面は厳しくチェックされた

 
出征した兵士がふるさとに残る家族らを気遣う様子が文面から読み取れる

出征した兵士がふるさとに残る家族らを気遣う様子が文面から読み取れる

 
漫画のような絵が描かれたカラーのはがきも…

漫画のような絵が描かれたカラーのはがきも…

 
 軍事郵便は1894(明治27)年に軍事郵便取扱細則で定められたもので、戦地ではその取りまとめを行う野戦郵便局が各地に開設された。戦地から送る場合は無料。その費用を賄うため、有料だった内地からの手紙の送付が奨励された。戦時下で同郵便は戦地と内地をつなぐ唯一の手段で、生存確認の意味も持っていた。2度の艦砲射撃を受けた釜石は多くの軍事郵便も失われており、展示品は同市にとっても非常に貴重な資料となっている。
 
 戦地の兵士を励ますために内地からは「慰問袋」が送られた。家族のほか国防婦人会が衛生用品や薬品、たばこ、食料品などを袋詰めし、兵士を鼓舞、慰労する「慰問文」を添えて発送。企画展では送られた物品の一例などが紹介される。「私は慰問袋がなかったら生まれていませんでした」。同館を訪れた人が発した言葉―。その方の両親は慰問袋が縁で知り合い、結ばれたという。
 
戦地に送られた慰問袋と慰問文について解説する展示

戦地に送られた慰問袋と慰問文について解説する展示

 
 釜石が受けた2度の艦砲射撃では782人が犠牲になった(2023年度市調べ)。砲撃があったことは新聞やラジオで全国に報じられ、当時の小野寺有一市長の元には1回目の被災後、見舞いや激励のはがきが相次いだ。後に内閣総理大臣に就任する鳩山一郎氏(東京都)、本県出身の外交官・政治家の出淵勝次氏からのはがきもある。展示ではこれらのはがきに加え、戦後の復興にまい進した小野寺市長の日誌も公開される。
 
1回目の艦砲射撃の後、当時の釜石市長に届いたはがき。鳩山一郎氏からのはがきも(左上)

1回目の艦砲射撃の後、当時の釜石市長に届いたはがき。鳩山一郎氏からのはがきも(左上)

 
戦後の市民生活の安泰に力を尽くした小野寺有一市長についても紹介

戦後の市民生活の安泰に力を尽くした小野寺有一市長についても紹介

 
 同館職員の川畑郁美さんは「毎回テーマを替えて開催するが、いつも思うのは、どれだけ戦争が残酷で悲惨なものだったかということ。戦争を体験していなくても、私たちは後世に伝えていかねばならない。残された資料は未来につなぐ一助になるはず」と企画展開催の意義を示した。
 
出征兵士の無事を願う日章旗と千人針が施された衣類

出征兵士の無事を願う日章旗と千人針が施された衣類

 
 郷土資料館企画展「戦時下の便り-釜石(ふるさと)想う軍事郵便-」は9月3日まで開催。開館時間は午前9時半から午後4時半まで(最終入館:午後4時)。火曜休館(8月15日は臨時開館)。

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