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打って、泳いで、走って栄誉つかむ スポーツで活躍!釜石市民 努力、健闘たたえる

釜石市民体育賞の受賞者、市体育協会関係者ら

釜石市民体育賞の受賞者、市体育協会関係者ら

 
 スポーツ界で活躍した人をたたえる釜石市体育協会(小泉嘉明会長)の2023年度市民体育賞表彰状授与式は23日、大町のホテルクラウンヒルズ釜石で開かれた。岩手県や東北大会の優勝者ら17人、3団体に「奨励賞」を贈呈。長年にわたり競技の普及、発展に貢献してきた2人には「功労賞」が贈られた。そして、釜石高ボクシング部で3年間部活動に励んだ3年生部員に贈られる「小泉賞」。市ボクシング協会(小泉会長)主催の贈呈式が26日に中妻町の昭和園クラブハウスであり、選手7人、マネジャー1人の計8人が努力の証しとなるトロフィーを手にした。
 

若手もベテランも輝く 市民体育賞

 
 今年度の体育賞受賞者は小学1年生~75歳までと幅広い顔ぶれ。あいさつに立った小泉会長は「小さい頃から本気になり、互いに鍛え合いながら目標に進む人たちのいい顔を見られてうれしい。元気に頑張れば、次の扉が開くはず。スポーツで前向きなまち釜石をつくっていこう」と期待した。
 
市民体育賞の表彰式。受賞者はさらなる飛躍を誓う

市民体育賞の表彰式。受賞者はさらなる飛躍を誓う

 
 奨励賞は空手道の活躍が目立つ。個人では藤原凪さん(鵜住居小3年)、川崎煌聖君(同5年)、木村元軌君(平田小1年)、照井陽己君(同)、三浦陽翔君(同)、阿部琉芯君(白山小4年)、佐野葵泰君(釜石中2年)、佐野泰盛君(甲子中3年)、小川結暖さん(同)、坂本嘉之さん(釜石高3年)。団体で釜石高の男子空手道部(松田郷佑主将)、女子空手道部(佐々木來愛主将)が受賞していて、層の厚さを感じさせた。
 
 水泳からは白岩優一朗君(甲子中3年)、ボクシングでは佐々木夏さんと菊池麗さん(いずれも釜石高3年)、陸上競技は小澤詩乃さん(釜石中2年)、未瑚さん(同1年)姉妹がそれぞれ選ばれた。若手が健闘を見せる中、ベテランで実力を発揮したのはバウンドテニスの田村彬紘さん(38)と阿部なみ子さん(75)。小泉会長は受賞者一人一人に声をかけながら賞状とトロフィーなどを贈った。
 
受賞者を代表して謝辞を述べる藤井豊さん

受賞者を代表して謝辞を述べる藤井豊さん

 
 陸上競技協会役員、駅伝部で選手兼監督として20年以上競技に打ち込む藤井豊さん(75)は功労賞を受賞。代表して謝辞に立ち、「自らの競技力の向上、選手の育成など仲間と取り組んできたことが評価された。今後も健康で丈夫な体と精神を鍛え、スポーツに親しみたい」と情熱は衰えない。同じく表彰された澤修一さん(66)は水泳協会理事として各種大会運営、若手育成などに40年近く携わり、競技の普及に尽力する。
 
 注目は、奨励賞を受けた釜石中特設ラグビーフットボール部。普段、別々のスポーツに取り組んでいる生徒有志23人が集まり、約4カ月という短期集中で練習に励み、県中総体で優勝した。主将の八幡玲翔君(3年)は陸上部で短距離を頑張ってきたが、実は地元ラグビーチーム日本製鉄釜石シーウェイブス(SW)が小中学生を育成するアカデミーにも所属。団体競技の楽しさ、仲間を信じる大切さを教えてくれるラグビーに魅力を感じ、仙台市の高校へ進学後も続ける。夢は「SWで活躍すること」。スポーツで地域に恩返しする気持ちを強めていた。
 
奨励賞を受けた釜石中特設ラグビーフットボール部

奨励賞を受けた釜石中特設ラグビーフットボール部

 
 5年間、指導にあたった同校の梅津孝昭教諭は初優勝に感慨深げ。自身も高校、大学とラグビーに親しんだが、SWや地域の人の支えがあって成し遂げられたと感謝も忘れない。体協関係者も「ラグビーのまち釜石から素晴らしい成績が出た」と沸いた。
 
 今年度は各競技団体や学校から推薦された26件を審査。理事会の承認を得て受賞者を決定した。全国レベルの大会で優勝(または優勝に準ずる成績)した個人、団体に贈られる「栄光賞」は該当がなかった。式では、県体育協会功労賞を受けた市剣道協会の細川親雄会長に表彰の伝達もあった。
 

勉強も部活もやり切った高校生へ 小泉賞

 
 今年度、小泉賞を受けたのは8人。選手として活躍した平野優羽さん、今野拓翔さん、茂木大希さん、立花素生さん、東舘耀大さん、市民体育賞も受けた佐々木さん、菊池さんの7人と、マネジャーの藤井まどかさん。近年では仲間が多い学年で、「釜石に大きな波を起こそう」と鍛錬し合った。結果はそれぞれだったが楽しみながら、そして真剣に向き合って「悔いはない」と、多くの生徒が晴れやかな表情を見せた。
 
3年間努力し続けた釜石高ボクシング部の3年生、小泉会長(前列中)

3年間努力し続けた釜石高ボクシング部の3年生、小泉会長(前列中)

 
 県内外への進学が決まっている生徒たちに、小泉会長は「コロナというハードパンチをよけながら3年間頑張った。競技を通じて学んだことを思い出し、価値を高めながら生き、社会に出て活躍してほしい」とエールを送った。
 
学校生活の振り返りと進学先での抱負を伝える佐々木夏さん

学校生活の振り返りと進学先での抱負を伝える佐々木夏さん

 
 県、東北、全国大会で健闘した佐々木さんは、父でコーチの彰さん(50)と同じ専修大に進み、ボクシングを続ける。「学生日本一になる」。同様の目標を掲げる菊池さんは日本体育大に進学。彰さんとともにコーチを務めていた亡父・拓さん(享年49)が成し遂げられなかった夢をつかむために。父と同じ高校生チャンピオンになるという目標は達成できなかったが、「もっと強くなり、(父を)超えたい」と高みを目指す。
 
菊池麗さん(中列右から2人目)は仲間や後輩と記念にパチリ

菊池麗さん(中列右から2人目)は仲間や後輩と記念にパチリ

 
すがすがしい笑顔を見せる高校生、ボクシング協会関係者

すがすがしい笑顔を見せる高校生、ボクシング協会関係者

 
 同校ボクシング部は3年生が卒業した今春、部員9人(選手6、マネジャー3)でスタート。部員獲得に力を入れつつ、「先輩たちのかっこいい姿を追いかける」「練習につき合ってくれた成果を高総体で発揮したい」と伝統を受け継ぐ構えだ。

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漢字のでき方に「へぇ~、ほぉ~」 釜石初「漢字成り立ち講座」鵜住居公民館で開催

鵜住居公民館で開かれた「漢字成り立ち講座」。講師は漢字教育士の川﨑悠嗣さん(右)

鵜住居公民館で開かれた「漢字成り立ち講座」。講師は漢字教育士の川﨑悠嗣さん(右)

 
 釜石市の鵜住居公民館(松下隆一館長)で22日、漢字の成り立ちを学ぶ講座が開かれた。同館のコミュニティー支援事業・ひまわり会(月2回実施)が、市の生涯学習まちづくり出前講座の新メニューを活用して初開催。参加者は漢字の基となった象形文字などについて学び、造字の面白さを味わった。問題にも答え、脳を活性化させながら楽しい学びの時間を過ごした。
 
 地域住民ら13人が参加した。講師を務めたのは市職員で、漢字教育士(立命館大白川静記念東洋文字文化研究所認定)、漢字教育サポーター(公益財団法人日本漢字能力検定協会)の資格を持つ川﨑悠嗣さん(37)。本年度、同出前講座に登録されてから、自身にとっても初めての講座となった。
 
 川﨑さんは、漢字の起源が約3300年前の中国・殷王朝後期(紀元前1300~同1000年ごろ)の遺跡から出土した甲骨文字(亀甲や獣骨に刻まれた文字)であることを紹介。最古の本格的漢字字典は西暦100年(後漢)に作られた「説文解字」で、字の成り立ちや意味が解説されているという。日本では江戸時代に出土した「漢委奴国王」と刻まれた金印が最古の漢字資料。後に日本語を漢字で表したとみられるものも見つかり、5世紀ごろには漢字で日本語を書き表す習慣ができていたと考えられているという。
 
市の出前講座としても初開催。参加者は熱心に話を聞いた

市の出前講座としても初開催。参加者は熱心に話を聞いた

 
 川﨑さんは漢字の造られ方として、象形文字(物の形をかたどって造られた文字)、形声文字(形=意味や領域、声=発音を表す要素を組み合わせた文字)、仮借(かしゃ=ある物事を表す適当な漢字がない場合、関係のない同音の他字を借りてあてたもの)など6つの方法を説明。金文や篆書(てんしょ)、隷書(れいしょ)など書体の変化についても触れた。
 
 講座では事前に申し込んだ参加者の名前の漢字について、古代の文字と由来を記した資料で解説した。例えば「石」という字は、厂(山の崖の形)と口(神への祈りの文書を入れる箱=サイの形)を組み合わせたもの。大きな石は神が宿るとされ、サイを供えて祈りをささげるという意味があり、会意文字(2つ以上の漢字を組み合わせ、意味を複合して別の意味、発音を持たせた文字)にあたる。口(サイ)は他の漢字でも同様の意味で使われ、「吉」の字は士(神聖なまさかりの刃を下に向けた形)をサイの上に置くことで祈りの効果を守ることを示しているという。
 
象形文字などについて解説。漢字の成り立ちに参加者も興味津々

象形文字などについて解説。漢字の成り立ちに参加者も興味津々 

 
 「母」の象形文字は、ひざをついて座っている女性の姿を表していて、2つの「丶(点)」を取ると「女」という字になる。点は乳房を表すという。「二」「三」は数を数える時に使う算木を2本、3本と重ねた形。「四」も元々は「亖(し)」だったが、仮借(かしゃ)で今の「四」になった。
 
 参加者は、象形文字が表す漢字を選ぶ問題や9つの漢字から三字熟語を作る問題にも挑戦。楽しみながら漢字にまつわる知識を得た。柏崎美佐子さん(85)は「はんこに使われている篆刻(てんこく)や書道の隷書などを見ていて、興味があって参加した。自分の名前の漢字の成り立ちも分かり、ありがたい。面白いので講座をシリーズ化してほしい」と期待した。
 
象形文字が表す漢字を選ぶ問題に挑戦。じっくりと見比べて… 

象形文字が表す漢字を選ぶ問題に挑戦。じっくりと見比べて…

 
「あめかんむり」の漢字を書いてみよう!

「あめかんむり」の漢字を書いてみよう!

 
 講師の川﨑さんは鵜住居町出身。東日本大震災で被災し、移住した遠野市で図書館に通っていた時、たまたま手にとったのが漢字の本。興味をそそられて勉強を始め、検定にも挑戦した。今は準1級の腕前で、最高位の1級取得を目指して奮闘中。初の出前講座に「緊張したが、喜んでもらえたようでうれしかった」と一安心。講座で使ったイラストなどの教材は自身の手作りで、「もっと分かりやすく教えられるように内容を考えたい」と次の機会を見据える。「漢字は奥深い。成り立ちが分かると覚えやすかったり、楽しく学べる。子どもたち向けに学校での出前講座もできれば」と望んだ。
 
手製のイラスト教材で漢字の成り立ちを説明する川﨑さん

手製のイラスト教材で漢字の成り立ちを説明する川﨑さん

 
鵜住居公民館の「ひまわり会」では座学や健康づくりなど多彩な活動で住民交流、孤立防止などに努める

鵜住居公民館の「ひまわり会」では座学や健康づくりなど多彩な活動で住民交流、孤立防止などに努める

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釜石市の新庁舎建設 3月、いよいよ着工へ 住民説明会「積極的に…けど心配」

着工間近となった釜石市役所新庁舎建設の住民説明会

着工間近となった釜石市役所新庁舎建設の住民説明会

 
 巨大地震による津波想定(国・県公表)を受けた計画の見直し、建築工事落札事業者の辞退による再入札などで着工が遅れていた釜石市新庁舎の建設が3月、いよいよ本格化する。新たな工事業者が決定し、着工間近となった2月17日、市は大町の市民ホールTETTOで住民説明会を開催。建設予定地の天神町やその周辺地区の住民を中心にした市民約30人に庁舎建設の概要、スケジュール、工事の安全対策などを伝えた。
 
 小野共市長が新庁舎建設の検討経過などを紹介した後、市新庁舎建設推進室の洞博室長が建設計画の概要を説明。新庁舎は鉄骨鉄筋コンクリート造り4階建てで、車庫棟なども含めた延べ床面積は計約8800平方メートル。敷地を1~2メートル程度かさ上げするが、県の想定では浸水域とされ、ピロティ方式を採用し、1階フロアには機材や書類などの配置を最小限する。一時避難場所として活用を想定し非常用発電設備、受水槽などの防災機能も備える。
 
新庁舎の建物外観イメージ図。市は26年春の開庁を目指す

新庁舎の建物外観イメージ図。市は26年春の開庁を目指す

 
 現庁舎からの移転費用などを含む総事業費は約82億円。うち、建設費は7億5500万円増え、76億6300万円になる見通しだ。財源は庁舎建設基金、市債発行など。防災・減災事業を対象とする国庫補助の活用も見込む。
 
 施工者の戸田・山﨑特定建設工事共同企業体(JV)の現場代理人堀川俊永さんが工事に伴う交通規制、騒音や振動など安全対策について話した。工期は3月1日から25年12月下旬までの約24カ月間。周辺にこども園や復興住宅などがあることから、昼休憩の時間をずらしたり、高性能防音壁などを設置し、「安全確保を最優先する。周辺への影響の少ない方策を講じる」と強調した。
 
新しい釜石市役所の建設予定地

新しい釜石市役所の建設予定地

 
 参加者から、「積極的に進めてほしい」との声があったほか、「かさ上げした土地が災害時に沈下することはないのか」「建物が高くなることで日当たりが悪くなるのでは」といった不安をのぞかせる人もいた。防災機能についての質問も上がった。質疑の後も、生活環境の変化を心配する声は残り、市関係者は「長く使ってもらえるような庁舎をつくるため、引き続き意見を寄せてほしい」と求めた。
 
説明会後、個別により詳しい解説を聞く住民もいた

説明会後、個別により詳しい解説を聞く住民もいた

 
老朽化が進む釜石市役所の現庁舎(築70年)

老朽化が進む釜石市役所の現庁舎(築70年)

 
 只越町にある現庁舎は老朽化が著しく、行政機能が分散していることや耐震性の問題もあって、1986年に新庁舎建設の検討がスタート。2011年の東日本大震災を受け、復興まちづくり基本計画のフロントプロジェクト2に位置づけ、都市機能の融合や拠点性の向上などを視点に議論を深めてきた。19年に新市庁舎の建設基本計画の策定や基本設計業務が完了。津波新想定の公表によって計画の見直しなどの対応が幾たびか必要となった。見直しを重ね、いざ発注手続の段階になると、社会情勢の変化に伴う資材の高騰の影響もあって予定より時間を要する結果に。再入札の結果、昨年12月に請負業者を決定し、やっと本格的な着工にたどり着いた。

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温かさ上乗せ!釜石の思い、能登へ 1杯のコーヒーに添えるメッセージ キッチンカーでお届け

能登を応援するメッセージを書く客を見守る岩鼻伸介さん

能登を応援するメッセージを書く客を見守る岩鼻伸介さん

 
 あの日のお礼です―。釜石市を中心にキッチンカーで営業するコミュニティーカフェ「HAPPIECE COFFEE(ハピスコーヒー)」店主の岩鼻伸介さん(46)は、能登半島地震の被災地へ温かい飲み物を届けている。東日本大震災で大きな被害を受けた釜石・鵜住居町出身で、支援の恩返しのため。そして、懸命に前を向こうとしている人たちに“ホッと”ひと息つける時間をつくってほしいからだ。同じように思いを寄せる市民は多く、その気持ちも届けようと「寄せ書き」集めを開始。託された応援メッセージをコーヒーに添えて能登の人たちに手渡す。
 
1月に訪れた石川県七尾市の避難所での様子(岩鼻さん提供)

1月に訪れた石川県七尾市の避難所での様子(岩鼻さん提供)

 
 「コーヒーを無料で提供中。岩手県釜石市より、あの日のお礼です。2011.3.11→2024.1.1」。1月中旬に約1週間かけて石川県七尾市の避難所3カ所を回り、延べ約900人に無料で振る舞った。「ひと息つけるタイミングなかったね、そういえば…」「こんなおいしいコーヒー、初めて飲んだ」。手渡された一杯のあたたかさに緊張がほぐれたのか、涙する人もいた。「あの時の自分たちにコーヒーを入れている感じだった」と岩鼻さん。
 
 あの日の僕たちがいた―。震災当時、東京でIT関係の経営コンサルタントとして働いていた岩鼻さん。発災から1週間後に釜石入りすると、実家は全壊していた。片付けのため週末に地元に戻る生活をしながら、古里に恩返しできることを思案。もともとコーヒーを介したボランティア活動に取り組んでいて、2011年秋から移動図書館を運営する団体に同行する形で沿岸の仮設住宅などを回ってコーヒーを提供した。キッチンカーでの活動は12年春から。その時に受けた言葉や人々の姿が、能登の今に重なった。
 
キッチンカーの窓越しに撮影した被災地(岩鼻さん提供)

キッチンカーの窓越しに撮影した被災地(岩鼻さん提供)

 
 震災の時は意識していなかったけど、被災して、人や応援のありがたみが分かった―。七尾市での活動時に多かった言葉。喜んでもらっていると感じた岩鼻さんは、活動の継続を決めた。何度も来てくれる支援者の存在に「忘れられていない」と実感できた自身の経験もあるから。交流サイト(SNS)で活動の様子や思いを発信すると、市民や客から「現地に行けないけど、何か協力したい」と声が寄せられた。
 
店先でメッセージを書く人も。岩鼻さんの活動を後押しする

店先でメッセージを書く人も。岩鼻さんの活動を後押しする

 
 「いわて・釜石から想っています」「あせらず一歩」。大町のTETTO周辺で営業する水曜日、店先で客が思いをつづる。1杯に相当する1口500円のカンパを募り、協力した客が紙製カバー「スリーブ」にメッセージを書き込むという支援の仕組みを用意した。寄せ書きには「頑張れ」と書かないのがルール。「頑張れって言うけど、今もすごい頑張っている。これ以上どう頑張れば…」。被災地のつぶやきは「分かりすぎるくらい分かる」からだ。
 
 無理しないで―。大町で石材店を営む清水麻美絵さん(47)は、13年前の津波で被災しつらかった時期に言われてうれしかった言葉を記した。それと、大量の菓子も差し入れ。「コーヒーと甘いもので一服してもらえたら」と願う。
 
釜石高生の協力に笑顔を見せる岩鼻さん(左から2人目)

釜石高生の協力に笑顔を見せる岩鼻さん(左から2人目)

 
 「ちょっとあったまるべ」「コーヒー飲んでひと休み」。釜石高校では寄せ書き会(2月15日)があり、生徒たちはカラフルなペンでメッセージやイラストを書き込んだ。板谷美空(みく)さん(2年)は「苦しさやつらさに寄り添えられたら。少しでもほっと心が楽になるといいな」と思いやる。
 
色とりどりのペンでメッセージを書き込む生徒

色とりどりのペンでメッセージを書き込む生徒

 
被災地を思い釜石市民や客が寄せ書きしたスリーブ

被災地を思い釜石市民や客が寄せ書きしたスリーブ

 
 一瞬でも安らぐ時間を届けたい―。岩鼻さんは寄せ書きを能登半島へ持ち込み、2度目の活動中。今回も、被災者支援団体のメンバーとして七尾市を中心に回っている。思いが詰まったスリーブをカップに巻いて「はい、どうぞ」。人とのつながりが見えた時、より気持ちが伝わると感じていて、「優しい心が伝播(でんぱ)していくといい」と笑顔を添える。
 
こだわりのコーヒーを提供する岩鼻さん

こだわりのコーヒーを提供する岩鼻さん

 
おいしさアップ!会話を楽しむことが隠し味

おいしさアップ!会話を楽しむことが隠し味

 
 幸せのひとかけらを―。「Happy」と「Piece」を組み合わせた造語を店名にし、岩鼻さんはコーヒーという「人に安らぎを与えるもの」を届け続ける。カップからあふれるのは深い香りと味わい。豆は公正な取引を通じ原産国の生産者を支援するフェアトレードで仕入れ、自家焙煎(ばいせん)する。お湯を注いで丁寧に抽出する間が、客との触れ合いタイム。気さくな岩鼻さんの人柄に引かれ、会話目当ての人も多い。コーヒーを通じて人が集える場は釜石から能登へ。カンパ、寄せ書きへの協力を募って活動を継続する考えだ。

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小中学校規模、配置の適正化へ 釜石市教委 基本方針策定に向けた地域説明会開始 22日まで

小中学校の規模、配置の適正化基本方針へ住民の意見を聞いた地域説明会=中妻地区生活応援センター、15日

小中学校の規模、配置の適正化基本方針へ住民の意見を聞いた地域説明会=中妻地区生活応援センター、15日

 
 少子化の進行や人口減で、今後さらに児童生徒数の減少が見込まれる釜石市。市教育委員会(髙橋勝教育長)は子どもたちにとって望ましい教育環境を整備するため、小中学校の規模、配置の適正化を図る基本方針案をまとめた。15日から5中学校区の生活応援センターで、同案に対する住民の意見を聞く地域説明会が開かれている。市教委はパブリックコメントや保護者アンケートを含めた意見を参考に、本年度内の基本方針策定を目指す。
 
 市教委は児童生徒数の減少で学校の小規模校化が進む状況を踏まえ、2021年3月、釜石市学校規模適正化検討委員会(14人)を設置。学校、保護者、民間団体などから委嘱された委員が小中学生の教育環境をどう整えるべきか議論を重ね、22年11月、市教委に提言。これを受け、市立小・中の学校規模適正化、適正配置に向けた基本方針(案)が作成された。
 
 同市には9小学校、5中学校があるが、いずれも児童生徒数は年々減少。本年度、小学校全学年でクラス替えが可能なのは2校(小佐野、甲子)だけ。複式学級となっているのは3校(白山、栗林、唐丹)。出生数、居住区を基にした今後の推計で22年度と29年度の児童数を比較すると、釜石、双葉でほぼ半減、小佐野で約100人減が見込まれ、釜石、双葉では複式学級の必要性が出てくる。中学校では今後、双葉、釜石両小の児童数減に伴って釜石中の生徒数が大幅に減少する見込みで、34年度には現在の半数以下になることが予測される。釜石以外の4中学校は同年度には全学年1学級となる見込みで、小規模校化が顕著になっていく。
 
 小規模校化に伴う課題としては、小学校では▽同学年で切磋琢磨する環境を作りにくい▽音楽や体育での学習活動の制限▽複式学級担当教員の負担増、中学校では▽専門教科の免許を有する教員が配置されない▽部活動の選択肢が限られる-などが挙げられる。このため市教委は、子どもたちの望ましい教育環境の実現には「学校規模の適正化、適正配置が必要」とし、「全市的な観点からの学校統合」と「小中一貫教育導入の可能性」について検討したい考え。
 
児童生徒数の減少、学校規模確保への方策などが示された基本方針案について説明

児童生徒数の減少、学校規模確保への方策などが示された基本方針案について説明

 
 検討にあたり、学校は地域コミュニティーの中核的な役割も担っていることから、「当面は現在の5中学校区から学校がなくならないよう配慮し、各区内で1小学校は存続させることを基本」とする。いずれの場合も既存校舎を活用する予定。複式学級の措置は可能な限り行わず、小学校の規模は6学級以上(各学年1学級以上)を基準とする。中学校は9学級以上(各学年3学級以上)が望ましいが、学区が広範囲になるなどの課題があることから8学級以下もやむを得ないものとし、小中一貫教育の導入についても検討する。1学級は15~35人とする。配置は通学条件を考慮。通学時間は小学校45分以内、中学校1時間以内を目安とし、通学距離が小学校でおおむね2.6キロ、中学校で同4キロ以上の場合はスクールバスの運行など通学手段の確保に努める。小規模校を存続させる場合の教育の充実、保護者、地域、市民の理解を得ることも方針に盛り込む。
 
釜石中学校区の子どもを持つ親など地域住民(写真下)が市教委(同上)の説明に耳を傾けた

釜石中学校区の子どもを持つ親など地域住民(写真下)が市教委(同上)の説明に耳を傾けた

 
 基本方針案について意見を聞く地域説明会は15日の中妻地区生活応援センター(釜石中学区)を皮切りに始まった。市教委から髙橋教育長、藤井充彦教育部長(兼学校規模適正化推進室長)ら9人が出席。保護者を含む地域住民約20人が参加した。藤井教育部長が方針の概要を説明後、質疑応答が行われた。参加者からは今後のスケジュールの見通し、スクールバスの稼働状況などについて質問が出されたほか、魅力ある学校、育成の仕方、地域説明会の学校開催などに関し意見が出た。
 
 髙橋教育長は「教委としては、当面は複式学級の解消に力点を置きながら進めていきたい。小規模校も大規模校もそれぞれに良さがある。釜石の現状を踏まえ、子どもたちにとって何を大事にすべきか、皆さんと一緒に考えたい」と話した。
 
参加者からはさまざまな質問、意見が出された

参加者からはさまざまな質問、意見が出された

 
 市教委は策定した基本方針を具現化するため、24年度は推進計画の策定に取り組む。推進計画策定委を設け検討してもらうほか、保護者、地域住民との懇談を行いながら計画案を取りまとめていく予定。
 
 基本方針案の地域説明会は19日(月)に松倉地区コミュニティ消防センター、20日(火)に唐丹地区生活応援センター、22日(木)に平田地区生活応援センターで開催する。時間はいずれも午後6時30分から。事前申し込みは不要。

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助け合いの心のせ 釜石野球団、募金活動 能登半島地震の被災地へ「生きる力に」

募金活動を行う釜石野球団のメンバーら

募金活動を行う釜石野球団のメンバーら

 
 釜石市の社会人野球チーム「釜石野球団」(佐藤貴之監督、約30人)とその弟分・小学生を中心とした少年野球チーム「釜石野球団Jr.(ジュニア)」(大瀬優輝監督、23人)は10日、能登半島地震の被災地を支援しようと、大町の商業施設イオンタウン釜石で募金活動を行った。ジュニアメンバーは東日本大震災後に生まれたが、家族ら身近な人の話や学校生活の中で学び、記憶をつなぐ世代。「助けてもらったから、今度は…」。能登の状況を古里の記録に重ね、買い物客に元気いっぱい協力を呼びかけた。
 
 募金は、いち早く応援の取り組みをスタートさせた釜石市赤十字奉仕団(中川カヨ子団長、15人)の主催。野球団は大人、ジュニア合わせて約30人が集まり、奉仕団メンバーら約10人とともに活動した。呼びかけには市社会福祉協議会も協力した。
 
能登半島地震の被災地を思って寄付を呼びかけ

能登半島地震の被災地を思って寄付を呼びかけ

 
「協力を」。奉仕団とともに活動する野球少年ら

「協力を」。奉仕団とともに活動する野球少年ら

 
 参加者は施設入り口3カ所に並び、買い物客に「能登応援の活動をしています」「よろしくお願いします」などと約2時間アピール。ジュニアチーム主将の小林大空(かなた)君(11)は「震災の時は生まれていなかったけど、たくさん助けてもらった(と聞く)。この募金が被災した人たちの生きる力になればうれしい」と思いを寄せた。
 
子どもらの呼びかけに応え、買い物客らが善意を寄せた

子どもらの呼びかけに応え、買い物客らが善意を寄せた

 
 ジュニアは2022年春に発足し、保育園年長から小学生までの男女が野球などの運動に親しむ。能登地震を受け、子どもたちから「何かやらないの?」と声が上がり、応援活動を思案。野球道具の支援や子どもの遊び場確保に役立つことを―とも考えたが、大人たちの経験から「生活再建が最優先」と義援金を送る取り組みに決めた。チーム立ち上げ時に地元企業から運営費の協賛が寄せられたこともあり、地域貢献として施設周辺の美化活動も展開。ごみ袋を手に菓子の空き袋やたばこの吸い殻などを拾い集めた。
 
ごみ拾いで地域の美化活動に協力する子どもたち

ごみ拾いで地域の美化活動に協力する子どもたち

 
 佐藤監督(54)は「震災で助けられた経験を伝え聞いている子どもたちは『今度は自分たちが』という意識がある」と見守る。「やるか!」と実行した今回の活動で、「震災の記憶をつなぎ、助け合いの心を養ってもらえたら」と望むのは大瀬監督(34)。野球は助け合いのスポーツでもあり、「プレーに生きてくる」と信じる。
 
 この日、奉仕団は5時間にわたって呼びかけを展開した。託された義援金は28万9353円。他の活動で集まった思いと合わせて日本赤十字社に送り、被災地の人たちの生活支援に役立ててもらう。中川団長(76)は「息の長い活動になる」と、これからも「恩返し」の支援を続ける構えだ。

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一緒に楽しく~♪合唱ワークショップ ノイホフ・クワィアー 3月に釜石で演奏会

ノイホフ・クワィアーによる合唱ワークショップ

ノイホフ・クワィアーによる合唱ワークショップ

 
 釜石市の「親と子の合唱団ノイホフ・クワィアー」(小澤一郎代表)による歌のワークショップが3日、小佐野町の小佐野コミュニティ会館で開かれた。今後4回ほど練習日を設けた上で、参加者は3月中旬に予定する演奏会で発表する。
 
 「合唱をしてみたいが敷居が高い…」と感じている人や、「趣味を見つけたい」などと考えている人に、声を出すことの楽しさ、それが重なり合った時の奥深さを体感してもらおうと企画した。ワークショップには小学6年生から50代までの4人が参加。事務局の菊池恵美さん(41)が講師を務めた。
 
 同団は46年の歴史を誇る。入団条件は「楽譜が読めなくてもいい。歌が下手でもいい。0~100歳まで」。みんなで歌う楽しさを感じられるようにと、創立者の故渡辺顕麿さんが設けた。その中にある「楽譜」が特徴の一つ。平行な5本の線に音符が記された五線譜ではなく、ローマ字で「d(ド)/r(レ)/m(ミ)…」とつづった独自の楽譜を使う。
 
音符の代わりにローマ字が並ぶ楽譜がノイホフ流

音符の代わりにローマ字が並ぶ楽譜がノイホフ流

 
ペンを持って文字を追いながら声を出してみる

ペンを持って文字を追いながら声を出してみる

 
 まず、その楽譜の読み方からスタート。例えば、「so(ソ)」という文字の下に黒い点が付いているのは「低いso」、上に付いていれば「高いso」となる。音の長さを示す4分音符(1拍)をノイホフ方式にすると、文字だけの表記に。字の下に線が引かれているものは8分音符(2分の1拍)という感じで、参加者から「頭の体操だ」と声が聞かれた。
 
 演奏会への参加は任意だが出番は決まっていて、歌うのは「涙そうそう」「栄光の架橋」「世界に一つだけの花」の3曲。楽譜に慣れたら、早速声を合わせた。どの曲も耳なじみがあり、小学生の2人は「楽しかった。I like music(音楽が好き)だから」と笑顔を重ねた。
 
みんなで声を合わせる楽しさを体感する参加者

みんなで声を合わせる楽しさを体感する参加者

 
 大槌町の会社員阿部千夏さん(25)は、昨年末の「かまいしの第九」最終公演に感動し、「歌いたい」と刺激を受けた。そんな時に合唱ワークショップを知り、参加を即決。ローマ字表記、手書きの楽譜の珍しさに少し戸惑ったが、「音楽をゼロから感じる楽しさがある」と心を躍らせる。団員の練習風景も見学し、その歌声に背筋が伸びた様子。「一緒に歌えるのが楽しみ。スーッと声が出せるよう調子を整えたい。練習あるのみ」と気合を入れた。
 
ノイホフ団員たちも演奏会に向け練習を重ねる

ノイホフ団員たちも演奏会に向け練習を重ねる

 
 団員は現在、高校3年生から70代まで10人。年に2回程度の定期演奏会を開いている。ワークショップは「入団につながれば」との期待もあるが、体験だけでも歓迎。指揮も務める小澤代表は「楽しく一緒に歌いましょう」と控えめに見守る。
 
 本番となる同団の第145回ファミリーコンサートは3月17日(日)、釜石市民ホールTETTOのホールBで開催される。午後2時開演。

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「逃げろ!高台へ」津波避難の基本を体感 釜石・新春韋駄天競走11年目に 震災の教訓脈々と

津波避難場所の仙寿院境内を目指し、急坂を駆け上がる中学生ら=新春韋駄天競走

津波避難場所の仙寿院境内を目指し、急坂を駆け上がる中学生ら=新春韋駄天競走

 
 「津波発生時は迷わず、近くの高台へ―」。釜石市の津波避難啓発行事「新春韋駄天競走」が4日、大只越町の日蓮宗仙寿院(芝﨑恵応住職)周辺で行われた。同寺、釜石仏教会が主催し11回目の開催。市内外の2~63歳まで89人が参加し、地域の津波避難場所となっている高台の寺までの急坂を必死に駆け上がった。東日本大震災から間もなく13年となる沿岸被災地。今年は能登半島地震もあり、災害への心構えの大切さをより意識する日々が続く。参加者は震災の教訓を心に刻み、命を守る行動を体で覚えた。
 
 同行事は兵庫県西宮神社の新年開門神事「福男選び」をヒントに、“競走”という楽しみを盛り込みながら津波避難を体験してもらう節分行事。只越町の津波浸水域から震災時、1000人余りが避難した寺まで286メートル(高低差約26メートル)を駆け上がる。途中には急カーブや傾斜がきつい坂も。幼い子どもたちは父母に手を引かれながら、小学生以上は日ごろのスポーツ活動で鍛えた脚力も発揮しながら、それぞれにゴールを目指した。
 
午前11時、「親子の部」からスタート

午前11時、「親子の部」からスタート

 
父親に背中を押され、懸命に坂を上る子ども(左)。沿道では見物客が温かい拍手で応援(右)

父親に背中を押され、懸命に坂を上る子ども(左)。沿道では見物客が温かい拍手で応援(右)

 
只越町の消防屯所(集会所)前をスタート。高台の仙寿院までは高低差約26メートル

只越町の消防屯所(集会所)前をスタート。高台の仙寿院までは高低差約26メートル

 
女子、女性陣もありったけの力を振り絞り前へ進む

女子、女性陣もありったけの力を振り絞り前へ進む

 
 6部門を設け、それぞれの1位に「福○○」の称号を授与。芝﨑住職から認定書を受け取った人たちは、午後から行われた豆まきにも参加した。閉会式の最後には参加者や応援に集まった見物客全員で、海の方角に向かって黙とう。震災や能登半島地震の犠牲者の冥福を祈るとともに、同地震被災地の早期復興を願った。会場では能登支援の募金も呼び掛けた。
 
各部門で1位になった人たち。「福○○」のたすきをかけて感想を述べる

各部門で1位になった人たち。「福○○」のたすきをかけて感想を述べる

 
東日本大震災、能登半島地震の犠牲者を思い、黙とうをささげた

東日本大震災、能登半島地震の犠牲者を思い、黙とうをささげた

 
 例年、お囃子の太鼓で参加者を鼓舞している「只越虎舞」は、閉会式準備の間、踊りも披露。今年はメンバー3人がはんてん姿で競走にも参加した。応援側から初めて走る側になった菊池幸紘さん(31)は「きつかったですねー。ゴール直前の坂はかなりこたえた」と息を切らした。自身は震災時、浜町の自宅にいて津波にのまれ、がれきの山に流れついて一命をとりとめた。「早く逃げていれば…という思いは今でもある。『大丈夫だろう』という過信は絶対禁物。やっぱり、すぐに逃げるのが一番」と、教訓を深く心にとどめる。
 
今年初めて競走にも参加した「只越虎舞」のメンバーら

今年初めて競走にも参加した「只越虎舞」のメンバーら

 
ゴールまであと少し!沿道の声援を受けひたすら前へ…

ゴールまであと少し!沿道の声援を受けひたすら前へ…

 
 男性35歳以上の部で「福男」になったのは、一戸町の健康運動指導士西舘敦さん(44)。陸上競技に励む娘の朱里さん(18)と「思い出づくり、力試しに」と初参加。朱里さんも女性の部で「福女」になり、見事“親子福”で新春を飾った。
 
 なかなかの難コースに「気持ちで進まないとゴールにたどりつけない。後続の人を津波と思って、『逃げろ』という一心で駆け上がった」と敦さん。災害時は「誰かの手を引いたり、声を掛けながら一緒に逃げることも考えられる。自分の身は守って当たり前。訓練を重ねることで他の人も助けられる力をつけたい」と話す。親子で2カ月間練習を積んで、この日を迎えた。朱里さんは「いろいろな坂を見つけては走ってきた。今日のコースは本当にきつかったが、最後の最後まで競って福女になれたのは良かった」と喜びの表情。13年前の震災では「大きな揺れに怖い思いをした」記憶が残る。「津波はいつ起きてもおかしくないと聞く。沿岸部にいたら、すぐに逃げることを心がけたい」と気を引き締めた。
 
 「福女」の西舘朱里さん(写真左側奥)は僅差で1位に。父親の敦さん(写真右)は後続を寄せ付けず断トツの1位で「福男」に

「福女」の西舘朱里さん(写真左側奥)は僅差で1位に。父親の敦さん(写真右)は後続を寄せ付けず断トツの1位で「福男」に

 
福男、福女の認定書を手に笑顔を見せる西舘さん親子。母と一緒に記念の一枚!

福男、福女の認定書を手に笑顔を見せる西舘さん親子。母と一緒に記念の一枚!

 
 こうした防災の取り組みに父敦さんは「釜石市は震災伝承や避難の啓蒙活動がすごく盛んな印象。私たちも教訓とさせてもらっている」と刺激を受け、朱里さんも「この行事を周りに広め、避難の大切さを知ってもらいたい」と意識を高めた。
 
 芝﨑住職は「(震災を経験していない)子どもたちの参加が増えているのはありがたい。『大きな地震があったら必ず津波が来ると思って高台に避難をする』。この行事で学んだことを多くの方々に教えていただきたい」と望んだ。
 
震災後に生まれた子どもたちも父母と一緒に参加。津波避難を体で覚える

震災後に生まれた子どもたちも父母と一緒に参加。津波避難を体で覚える

 
ゴール前では芝﨑住職ら釜石仏教会のメンバーが参加者の頑張りをたたえた

ゴール前では芝﨑住職ら釜石仏教会のメンバーが参加者の頑張りをたたえた

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仲間・絆大切に 伝統を未来へ 釜石・唐丹小創立150周年 地域みんなで祝う

創立150周年記念式典で元気な歌声を響かせる唐丹小児童

創立150周年記念式典で元気な歌声を響かせる唐丹小児童

 
 創立150周年を迎えた釜石市立唐丹小学校(柏﨑裕之校長、児童52人)で3日、記念式典が開かれた。唐丹町の唐丹小中体育館には在校生、教職員のほか、保護者や同窓生でもある住民、来賓ら約170人が集合し、地域みんなで同校の“150歳”をお祝い。歴史を振り返り、伝統を未来につなぐ思いを新たにした。
 
 同校は1873(明治6)年3月、唐丹学校として創立。1896(明治29)年と1933(昭和8)年に三陸大津波、2011(平成23)年には東日本大震災津波で校舎が大きな被害を受けるなど幾度の災禍をこえ、「唐丹村立」から「釜石市立」への移行、統合、校舎移転など歴史を重ねてきた。
 
 震災では片岸地区にあった校舎のほとんどが損壊し、他地域の小学校を間借りして授業を継続。同様に利用不能となった小白浜地区の唐丹中跡地に仮設校舎が設けられると、地区に戻って中学生と一緒に過ごした。すぐそばで進む新校舎(小中併設)の建設を見守り、17年2月から新しい学びやで生活を始めた。
 
東日本大震災後に完成した唐丹小の校舎。中学生と共に学ぶ

東日本大震災後に完成した唐丹小の校舎。中学生と共に学ぶ

 
 唐丹小の卒業児童数は5000人超。「『自ら学び 心豊かで たくましい子ども』の育成」を教育目標に定め、子どもたちは日々学んでいる。地域と学校が一体となって教育振興に取り組んでいるのが特徴。また、30年以上続く新聞教育は内閣総理大臣賞を始め数多くの受賞歴があり、新聞作りを通して児童らは表現力を高め、ものの見方や感じ方を育んでいる。
 
歴史を振り返り、伝統をつなぐ思いを深めた記念式典

歴史を振り返り、伝統をつなぐ思いを深めた記念式典

 
 式典で、創立150周年実行委員会の留畑丈治実行委員長が主催者を代表して式辞。「みんなと一緒にお祝いができてうれしい。たくさんの応援を感じ、地域を愛する気持ちを持ち続けてほしい」と児童に呼びかけた。柏﨑校長は「地域とスクラムを組んで復興の歩みを進めてきた。これからも協働して歩み続ける。変わらぬ愛情と温かさを持って見守ってほしい」と望んだ。
 
 祝辞に立った小野共市長は同校の卒業生(1983年度卒)で、「地域の文化や伝統を引き継ぎ、明るくたくましく立派に成長して」と激励した。高橋勝教育長も地域協働の学校運営が続くことを期待。歴代校長10人、同PTA会長17人、震災関連などの支援者8人に感謝状を贈ったほか、PTA全国表彰を受けた1人に表彰状を伝達した。
 
表彰を受けた歴代校長や支援者、実行委、学校関係者

表彰を受けた歴代校長や支援者、実行委、学校関係者

 
 学校の歴史を振り返る写真をスライドショーで映した後、児童が思い出や祝いの言葉をつなぐ「呼びかけ」と合唱を披露。児童会長の小川原優陽君(6年)は「僕たちは震災の年に生まれた。家族や地域の支え、全国から支援を受けて今がある。すぐには恩返しできないけど、仲間や絆、誰かを支える気持ちを大切にしていきたい」と思いを込めた。「…荒波ときに よするとも 不屈の心 ゆるぎなし…」。校歌斉唱で締めくくった。
 
呼びかけで日頃の感謝を地域に伝える子どもたち

呼びかけで日頃の感謝を地域に伝える子どもたち

 
「来てくれてありがとう」。記念の紅白餅を手渡す児童

「来てくれてありがとう」。記念の紅白餅を手渡す児童

 

記念事業も 教育目標パネル作成、社交ダンス観賞

 
卒業生が制作した教育目標のパネルをお披露目した

卒業生が制作した教育目標のパネルをお披露目した

 
 記念事業として、教育目標を記したパネル(縦122センチ、横200センチ)を作成。式典に先立って除幕し、お披露目した。市外で看板業を営む卒業生が協力。青色の背景は唐丹の空と海をイメージし、輝く虹を加えた。文字はひらがなを多用し、低学年の児童が理解できるよう優しい配慮も。「唐丹から育った子どもたちが平和な世界を築くための懸け橋になってほしい」との願いを込めた。
  
 プロのダンサーとして活躍する卒業生を招いた「ようこそ先輩~社交ダンス鑑賞会」もその一つ。1月24日に同校で開かれ、東京で社交ダンス教室を経営する上村和之さん(40)=1994年度卒=と、妻の迪子さん(39)が講師を務めた。2人は「ワルツ」などで優雅な踊りを披露。特別レッスンでは子どもたちが実際にステップを踏み、ダンスの楽しさに触れた。
 
社交ダンス鑑賞会で華麗に踊る上村和之さん、迪子さんペア

社交ダンス鑑賞会で華麗に踊る上村和之さん、迪子さんペア

 
音楽に合わせてステップを踏んでみる。上村さんへの質問タイムも

音楽に合わせてステップを踏んでみる。上村さんへの質問タイムも

 
 「ペアで踊るのが魅力。頭も使う」と上村さん。プロを目指した理由を聞かれると、「人と向き合う仕事だから」と答えた。友達と向かい合って互いに手を取り、失敗しても楽しそうに歓声を上げる児童らの様子に目を細め、「思い切ってやりたいことをやってほしい」とエールを送った。
「いい思い出に」。先輩との交流を楽しんだ唐丹小6年生

「いい思い出に」。先輩との交流を楽しんだ唐丹小6年生

 
 子どもたちは「きれいでした」「カッコいい。また見たい」と感想。佐久間桜音(おと)さん(5年)は「少し難しかった。でもだんだん踊れるようになってうれしかった」と笑った。

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つなぐ記憶と教訓 発信に一役!?「大震災かまいしの伝承者」に挑戦 記者体験レポート

「大震災かまいしの伝承者」の基礎研修会

「大震災かまいしの伝承者」の基礎研修会

 
 東日本大震災の体験や教訓を後世に語り継ぐ「大震災かまいしの伝承者」。身近な人や市外から訪れる人たちに事実を伝えて記憶の風化を防ぎ、防災意識の向上につなげようと釜石市が養成する。震災から間もなく13年。経験をしていない世代が増える中、記憶を伝え続ける重みは増す。「どう受け継ぎ、残すか」。伝承者の基礎研修会に記者が参加してみた。
 
 この制度は2019年にスタート。地震のメカニズムと津波被害の特質、市が震災後に定めた防災市民憲章などに理解を深める基礎研修を終えると伝承者に認定される。第3期まで実施していて、累計で98人が修了。認定期間はおおむね2年間で、現在は59人が認定されている。伝承手法などを学べるステップアップ研修(任意)もある。
 
 今回、記者が臨んだのは4期目となる基礎研修会。1月28日に鵜住居町の鵜住居公民館で行われ、中学生から50歳代までの12人が参加した。これまで座学とグループワークを組み合わせ“一日がかり”だったが、今期はグループ活動を行わず、半日で終える内容に変更。代わりに、「釜石の震災」に重点を置く形にし、市の伝承施設「いのちをつなぐ未来館」の見学を組み込んだ。
 
基礎研修で配付されたテキスト

基礎研修で配付されたテキスト

 
メモを取りながら熱心に耳を傾ける参加者

メモを取りながら熱心に耳を傾ける参加者

 
 座学の講師は、岩手大学地域防災研究センターの山本英和准教授(地域防災工学)、小笠原敏記教授(海岸工学)、福留邦洋教授(都市防災・都市計画・復興まちづくり)の3人。合わせると90分ほどの講義は駆け足で進んだ印象。振り返りが必要だ。
 
講師を務めた岩手大学地域防災研究センターの教授ら

講師を務めた岩手大学地域防災研究センターの教授ら

 
 講師陣に共通する指摘は「災害は繰り返し発生し、どこにいても災禍に見舞われる可能性があること」。近年はさまざまな自然災害が各地で多発。講義で示された防災科学技術研究所「地震ハザードステーション」によると、今後30年間に岩手県沿岸地域が大きな揺れに見舞われる確率は約3%だという。が、空き巣や火災、ひったくり被害に遭うのと同程度の確率と聞けば、「低くない。あるかも」と感じた。
 
 「いつかはくる」と予想できても、「予知はできない」と講師ら。だからこそ、「備えを」と繰り返した。過去の災害の経験を後世に伝え、次の災害に備えることは大切である―。記憶の橋渡し、伝承者に期待される役割だと背筋が伸びる気がした。
 
いのちをつなぐ未来館を見学する参加者

いのちをつなぐ未来館を見学する参加者

 
語り部の川崎杏樹さん。経験を織り交ぜ教訓を伝える

語り部の川崎杏樹さん。経験を織り交ぜ教訓を伝える

 
 未来館を案内したのは、施設職員で語り部の川崎杏樹(あき)さん(27)。当時の小中学生が命を守り抜くことができた背景にある実践的な防災教育を紹介し、「この教訓を私たちと同じように発信してほしい」と望んだ。
 
 一方、避難した大勢が亡くなった鵜住居地区防災センターの事実を伝えるコーナーで強調したのは「避難場所」(災害から身を守るため一時的に逃げ込む先)と「避難所」(避難者が一定期間滞在し生活環境を確保できる場所)の違い。「2つの言葉の違いを覚えておく。こういう最低限の知識を身に付けていればいいと思う。小さい防災力が集まれば、大きな防災力になる」と訴えた。
 
研修を終えた参加者に伝承者証が手渡された

研修を終えた参加者に伝承者証が手渡された

 
 こうして研修は無事終了。12人に伝承者証と名札が交付された。これで認定者は71人に。震災の津波で祖父母を亡くした菊池音乃(のんの)さん(釜石高2年)は「当時は何もできなかったけど、これからは語り継ぐことで、災害で悲しむ人を少しでも減らしたい」と意欲を見せた。一緒に伝承者となった妹の音羽さん(甲子中1年)は地域を知る大切さを感じた様子だった。
 
伝承者証を手にする菊池音乃さん(左)と音羽さん姉妹

伝承者証を手にする菊池音乃さん(左)と音羽さん姉妹

 
 国土交通省東北地方整備局職員の沼﨑健(たける)さん(27)は、当時釜石東中2年生。独自に語り部として活動していたが、「独りよがりにならないよう共通認識を」と、古里が勤務地になったのを機に研修を受けた。高校入学時に地域を離れたこともあり、「その間の動きに触れることができ、有意義だった」と感想。同級生の川崎さんが熱心に伝える姿に刺激を受け、そして仲間も得て「語り続ける」気持ちを強めた。
 
 市震災検証室の正木浩二室長は「震災の体験、聞いたこと、学んだこと、防災市民憲章の理念を身近なところで、大切な人に、機会があるごとに語り継いでほしい」と求める。震災から時がたつこともあってか、研修への参加希望者は減少。それでも「未来の命を守るためにも伝え続けなければいけない」と、研修の内容など模索を続ける。
 
伝承者に仲間入りした12人と講師陣

伝承者に仲間入りした12人と講師陣

 
 「覚えてほしい」。講師や語り部たちが時折こぼした言葉。それを誰かに話す―それも伝承になるのではないか。体験者ではなくても、教訓を受け継ぎ、伝えることはできる。その行動が災害に備え、防災意識を高めることにつながるはず。あの日、津波にのまれるまちを「何だろう」とただ眺めていた…気がする。記者となったのは震災後。「自分の記憶も振り返ってみよう」。研修を終え、そんな気持ちになった。その気づきを生かし、まちの動き、市民の思いを伝え続けられるように。

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広報かまいし2024年2月1日号(No.1825)

広報かまいし2024年2月1日号(No.1825)
 

広報かまいし2024年2月1日号(No.1825)

広報かまいし2024年2月1日号(No.1825)

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【P1】
第13回全国虎舞フェスティバル

【P2-3】
令和6年能登半島地震への支援
釜石市地震・津波避難訓練 他

【P4-5】
物価高騰対策給付金
灯油等購入費の一部を助成します 他

【P6-7】
まちのお知らせ

【P8】
イベント案内 他

この記事に関するお問い合わせ
釜石市 総務企画部 広聴広報課 広聴広報係
〒026-8686 岩手県釜石市只越町3丁目9番13号
電話:0193-27-8419 / Fax 0193-22-2686 / メール
元記事:https://www.city.kamaishi.iwate.jp/docs/2024020100012/
釜石市

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歌に踊りに、餅つき!釜石平田地区・つながるカフェ 高齢者と中学生 心通わす

つながるカフェでは高齢者も中学生もみんな笑顔

つながるカフェでは高齢者も中学生もみんな笑顔

 
 釜石市平田地区の住民は22日、大平町の大平中(髙橋信昌校長)の1年生(19人)と交流し、餅つきや合唱などを楽しみながら心を通わせた。
 
 市(平田地区生活応援センター)と、地区内の特別養護老人ホームあいぜんの里を運営する社会福祉法人清風会が主催する「つながるカフェ」の一環。心身の健康維持や孤立予防などにつなげるのを狙いに継続し、17回目。
 
 上平田ニュータウン集会所に高齢者ら約30人が集まり、きねと臼を使った餅つきに挑戦。住民と生徒が2人一組になってきねを持ち、調子を合わせて振り上げた。周囲で見守る人たちは「よいしょー、よいしょー」と掛け声を上げて応援。つき上げた餅は小さく切り分け、お汁粉に入れて味わった。
 
餅つきで交流する大平中生と平田地区の住民ら

餅つきで交流する大平中生と平田地区の住民ら

 
「よいしょ」の掛け声と手拍子で餅つきを応援

「よいしょ」の掛け声と手拍子で餅つきを応援

 
 住民を楽しませようと、生徒たちは合唱を披露。「地域の支えで学校生活を送ることができる」と感謝を込めて選曲した「ふるさと」では住民も歌声を重ねた。“腹ごなし”に住民らが取り組む100歳体操を体験したり、「釜石小唄」に合わせて踊ったり。みんな笑顔で、気持ちを一つにして触れ合いを楽しんだ。
 
歌声を重ねる曲は「ふるさと」で決まり

歌声を重ねる曲は「ふるさと」で決まり

 
「釜石小唄」では自然に踊りの輪が広がった

「釜石小唄」では自然に踊りの輪が広がった

 
 孫世代との交流を喜ぶ佐藤清さん(80)は「若いパワーをもらって、より元気になった。孫たちは遠方にいて、子どもと交わる機会は少ないから、こういう場を設けてもらってありがたい。こうした時間を共有することで、地域に愛着を持ってもらえたら」と目を細めた。
 
みんなで元気に100歳体操も楽しむ

みんなで元気に100歳体操も楽しむ

 
 同校では総合的な学習の時間を活用し、3年間、福祉について学ぶ。同法人の支援を受け、介護の現場見学や技術体験、認知症サポーター養成講座などに取り組む。6年目の今年度、1年生はコミュニケーションについての座学で高齢者との関わり方などを学習。同ホームでの実践を予定していたが、感染症の影響で見送っていた。
 
準備や運営も住民と中学生が力を合わせる

準備や運営も住民と中学生が力を合わせる

 
つながるカフェで触れ合いを楽しんだ参加者

つながるカフェで触れ合いを楽しんだ参加者

 
 中島優南さんは、隣り合わせた高齢者に自分から声を掛けた。心がけたのは「ゆっくり、大きな声で話すこと」。家族以外の高齢者と触れ合う機会は少ないが、座学で福祉の大切さを実感。今回の実践は地域の人を知る場になり、「見かけたら、あいさつしたい」と笑顔を見せた。見守る教諭は「つながるカフェは実践の場。子どもたちが主体となって企画、運営できるようになれば」と先を見据えた。