新しい幹が順調に育つ和山のシナノキ
釜石市指定文化財(天然記念物)の巨木が複数ある栗橋地区で8日、鵜住居川流域巨木ツーリズムが開かれた。橋野町振興協議会(和田松男会長)が本年度取り組む「橋野地区地域資源利用魅力向上事業」の一環。昨年、同地区の古木調査を行った岩手大農学部附属演習林の白旗学助教(造林学)を講師に招き、地域住民ら約20人が樹木の生育環境や古木保全について理解を深めた。
参加者が巡ったのは、市指定文化財の▽明神かつら(1973年指定、栗林町砂子畑)▽上栗林のサクラ(2007年同、栗林町)▽古里の御神楽スギ(1969年同、橋野町)▽和山のシナノキ(1969年同、橋野町)―など6カ所。多くは地域住民に「ご神木」としてあがめられ、ほこらや石碑が見られる場所もある。
この日は地元講師として、釜石観光ガイド会会員でもある藤原信孝さん(栗林町在住)、三浦勉さん(橋野町出身)が現地を案内。それぞれの木の由縁や特徴、地域との関わりなどについて解説した。
釜石の代表的な巨木、古里の御神楽スギは樹高約30メートル。今でも幹の肥大成長が活発で、この日の実測では幹周り約8メートル。樹齢は400年以上と推定される。太い枝や葉の茂り方などから白旗助教は「屋久島(鹿児島県)の屋久杉に匹敵する立派さ」と絶賛。「長い年月をかけて土地に合った樹形を形成している。その土地の栄養分、水分の良さは樹高で判断する。今後、ドローンなどで上部の様子も確認してみては」と勧めた。
樹勢も良好。堂々とした姿に圧倒される古里の御神楽スギ
白旗助教は講義も行い、複数の調査から分かった同地区の巨木の現況を説明した。明神かつらでは年輪成長幅の変化を調査。年輪には過去の気象など歴史的痕跡が現れる。樹齢は推定300年以上。中央の主幹が朽ちているが、周囲から伸長した側枝が林立する特異な姿を見せる。
和山のシナノキでは周辺樹木や水分生理特性を調査。約30メートル四方に9種の樹木が生育するが、文化財のシナノキを境に西側は湿地状態で、樹木は東、南側に多く分布。同所は江戸時代、落葉広葉樹林が広がっていたが、江戸後期から明治にかけて製鉄に使う木炭生産のため伐採が進み、その後は牧場地に。昭和後期から再森林化が進み、現在に至る。
「年輪を読む限り、どの樹木も順調に成長しているが、湿地は負の影響になるので改善すべき」と白旗助教。巨樹・古木の保全には「現状を正しく把握し、環境の変化など100年単位の変遷にも留意する必要がある。木も寿命はあるので、子ども世代の株を次につないでいくことも大事」と助言した。
栗林町の小澤勲さん(77)は「地域柄、自然には興味がある。貴重な話を聞けて新鮮だった。家の近くにあるスギの大木も一度診断してもらいたい」と話した。
同振興協の和田会長は「近年、各地で大災害が起きている。山の環境を守ることは下流域の人たちの暮らしを守ることにもつながる。森林資源の活用、文化財保護の観点だけでなく、環境保全への認識を深める一つのきっかけになった」とツアーを振り返った。