第4Q終盤、連続得点で勢いづく岩手ビッグブルズ(紺)=13日
日本プロバスケットボール男子Bリーグ3部(B3)の岩手ビッグブルズは13、14の両日、釜石市鵜住居町の市民体育館で開かれた第5節のホーム戦で、岐阜スゥープスと対戦。2試合とも勝利し、通算9勝1敗で単独首位をキープした。東日本大震災復興祈念試合と位置づけられた本戦。「絶対負けられない」とチーム一丸となってもぎとった勝利は、地元の観客らに大きな感動を与え、震災から間もなく10年となる被災地を活気づけた。
ブルズの釜石での試合は、2019年12月の同体育館こけら落とし以来2回目。13日午後6時からの試合には、452人が来場した。
第1クオーター(Q)を21―12、上々の立ち上がりを見せたブルズだったが、その後、岐阜にじわじわと追い上げられ苦しい展開に。第3Q終了時点で60―57とリードを奪われた。最終第4Qも一進一退の攻防。地元応援団の力強い後押しを受け、勝利への執念を燃やすブルスは終盤の連続得点で必死の追い上げ。試合終了1分20秒前に79―79の同点に持ち込んだ。ドラマはまだまだ続く。残り9・9秒。岐阜のファウルでフリースローを得たブルズは、奥州市出身、在籍10年目の千葉慎也選手が2本とも確実に決め、逆転に成功。激しいディフェンスで最後まで守り切り、81―79で接戦を制した。
試合終了間際、ブルズの逆転に沸きたつブースターら
大槌町の会社員田中吉子さん(56)は「最後まで諦めない姿に感動した。最後の2点はみんなの気持ちが伝わったのかな。震災10年にあたり、(意義ある)大きなプレゼントになった」とチームをたたえた。
釜石市の双葉ミニバス少年団に所属する川村惺雅君(双葉小6年)は「接戦試合でめっちゃ面白かった。ブルズのプレーは自分たちのお手本。ドリブルの強さとかまねできるようになりたい」と憧れのまなざし。この日は前座のU―12の試合に釜石選抜メンバーの一人として出場した。
勝敗を左右するフリースローを決めた千葉選手(33)は、現選手の中で唯一の岩手県出身者。「この場面で自分かと運命的なものを感じた。この地の力も宿ったのかな。(ボールがゴールに)吸い込まれていった」。我慢強くプレーし、メンバー全員で被災地に届けられた価値ある勝利に喜びをにじませた。千葉選手はこの日、MVP賞も受賞した。
14日は109―57、今シーズン最多得点で快勝。連勝を6に伸ばした。第6、7節は3位につける東京エクセレンスとの4連戦に挑む。
小林覚さんによる特別ユニホームで躍動
復興祈念ユニホームについて紹介する小林覚さん(右)と松田文登副社長
今回の復興祈念試合で岩手ビッグブルズの選手を鼓舞したのが、釜石市出身のアーティスト小林覚さん(31)のアート作品をデザインした特別ユニホームの着用。被災地復興の力となるべく活動してきたクラブが、震災10年にあたり作成した。4月に宮古市で開催されるベルテックス静岡戦でも身に着ける。
釜石の試合で着用したのは、2色(紺・白)のうち紺色のユニホーム。一部に小林さんが描いたアートがあしらわれる。原画は小林さんが大好きなビリー・ジョエルの名曲「マイ・ライフ」(1978年)をイメージした作品。歌詞を自分の耳に聞こえたとおりに文字化し、小林さんならではの表現でつづっている。同曲は自分らしい生き方や心の豊かさが歌われている。
ユニホームにデザインされた小林さんの作品
復興祈念ユニホームの作成は、知的障害のあるアーティストの作品をさまざまな形で世に送り出している福祉企画会社、ヘラルボニー(松田崇弥社長、盛岡市)との共同企画。復興にかけるブルズの強い思いに共感した同社がデザインを担当した。
13日は小林さんと同社の松田文登副社長が試合を観戦。松田副社長は「障害のあるアーティストの作品をプロスポーツチームが取り入れるのは全国初。障害のイメージを変えていく一歩を岩手から踏み出せたのは大きい」と強調。
今回のタイアップを提案した伊藤良太主将(28)は「おしゃれでかっこいいユニホーム」と気持ちを高ぶらせ、「スポーツとのコラボで発信できる社会的メッセージは多い。この実現が力になり、次の10年につながっていけば」と願った。
被災地岩手でバスケットボールをする意義を選手全員で共有し、体現するブルズ。13日は試合前に岐阜の選手と釜石祈りのパークを訪れ献花、震災犠牲者の冥福を祈った。伊藤主将は「自分たちがバスケをする意味をあらためて考えさせられたと思う。つらい思いをしている方々に元気や明日への活力を与えられるようプレーしていきたい」と誓った。