修学旅行で鵜住居川水門を訪れた鶴岡第四中の3年生
東日本大震災から10年が経過し、水門や防潮堤など津波防災インフラの整備が完了する中、現地見学を通じて防災意識を高めてもらうツアーの受け入れが釜石市で始まった。県沿岸広域振興局土木部と県立大総合政策学部が昨年度から行ってきた、津波防災施設の利活用に関する地域協働研究の一環。3月に完成したばかりの「鵜住居川水門」には5月27日、山形県の鶴岡市立鶴岡第四中(遠田良弘校長、生徒340人)の3年生122人が修学旅行で訪れ、津波の脅威や震災の教訓を生かした施設整備、いざという時の避難行動を学んだ。
県職員の案内で水門(長さ180メートル、高さ14・5メートル)の各種設備を見学。津波を防ぐ5ゲート(門)は自動閉鎖システムが導入され、注意報、警報発表時に人工衛星を介して閉鎖の指令が送られること、動き出してから4分で閉まることなど、説明を受けた。職員が定期点検の際に入る機械室では生徒の代表が手動によるゲートの上げ下げを体験。外では他の生徒が動きを見守った。津波体験者の話を聞く時間も設けられた。
青いゲートは5つ(1門:幅32メートル、高さ5・17メートル)あり、自動閉鎖システムが導入される
点検時に入る機械室も見学。職員からは「津波は想定を超える場合も。防御施設を過信せず、注意報が出たら速やかに高台へ」との呼び掛けも
大槌湾に注ぐ鵜住居川河口部に設置された水門。総工費は約190億円。県や市の庁舎から遠隔操作もできる
佐藤巧都君は「津波は想像を超えることを判断できないと、自分も周りの人の命も救えない」、五十嵐琉月(るるな)さんは「今日の経験をこれからの人生に生かしていきたい」、阿部千尋君は「復興の様子を家族や知人に伝える。地元でも最近、地震があったので、岩手の人たちの対策を学びたい」と話した。
同校の修学旅行は戦地・沖縄県への訪問を計画していたが、新型コロナウイルス感染拡大で行き先を岩手、秋田両県に変更。これまで続けてきた命の学習を生かす形で、震災被災地・釜石市を訪れた。生徒らは、震災前に小・中学校があった釜石鵜住居復興スタジアムも訪れ、当時の児童生徒がとった避難行動も学んだ。遠田校長(59)は「身近に危険が迫った時、すぐ行動できる人になってほしい。いかに日常的に意識し備えておけるか。若者の率先した行動は地域の命を守ることにつながる」と生徒に期待した。
水門と連結する「片岸海岸防潮堤」の広場からゲートの動きを確認する生徒
県と同大は震災の復旧復興事業で整備された津波防災施設の活用策として、防災意識の普及につながる「インフラツーリズム」に着目。観光事業を手がけるかまいしDMCの協力を得て、修学旅行生の受け入れから開始した。今後、生徒らのアンケートも参考にしながら持続的実施に向けたプログラム化を図る。
同大の三好純矢講師(32)は「インフラ見学の魅力を明確に打ち出し、地域住民や一般旅行者にも足を運んでもらえるよう体制を整えたい。震災の風化は避けられないが、実際に現地に来て肌で感じてもらうことで、防災意識の向上にもつながっていくと思う」と今後の展開を見据えた。