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釜石祈りのパークを視察するインドネシア・アチェ州の関係者ら

津波からの復興共有、インドネシア・アチェ関係者 釜石視察〜防災教育に理解深める

釜石祈りのパークを視察するインドネシア・アチェ州の関係者ら

釜石祈りのパークを視察するインドネシア・アチェ州の関係者ら

 

 インドネシア・スマトラ島最北端にあるアチェ州のバンダ・アチェ市にあるアチェ津波博物館の関係者らが7日、釜石市鵜住居町の「うのすまい・トモス」を視察した。アチェ市では来年度から、JICA(国際協力機構)の草の根技術協力事業を活用し、地域住民参加型津波防災活動の導入プロジェクトがスタート。この活動に一般社団法人根浜MIND(マインド)が協力し、釜石での研修が計画されていることから、事前訪問で復興まちづくりへの住民の関わりや防災教育の取り組みについて理解を深めた。

 

 同博物館のハフニダール館長(43)、同州観光文化局のズルキフリ・ダウ次官(48)ら6人は祈りのパーク、いのちをつなぐ未来館を見学。復興事業の着手までに約4年かかっているが、復興まちづくりに市民が関わり協議する場がいくつも設けられたことに関心を示した。

 

いのちをつなぐ未来館も見学した

いのちをつなぐ未来館も見学した

 

 同州は2004年12月のスマトラ沖大地震・インド洋津波で、死者・行方不明者が約24万人に上るなど甚大な被害を受けた。発災から15年を経て、地域住民の防災意識の低下が課題。09年に開館した同博物館も震災伝承や資料のデジタル化などに課題があるという。

 

 日本は地震や津波被害が多いが、同州ではスマトラ沖地震以前の災害は80年前。一部の地域に津波の教訓を盛り込んで歌い継がれている叙事詩「スモン(津波)」があるが、多くの住民は忘れているという。

 

 「だから同じ被害を繰り返す。だからこそ語り継ぐことが大事」。防災市民憲章に明記された「語り継ぐ」の文字の前で、6人は「これ、いいね」と口をそろえた。

 

 ハフニダール館長は「てんでんこ、スモン。短い言葉で人々が思い出し、素早い避難につながるという共通性を感じる。この事業を通じ、教訓伝承、防災を学ぶ場としての機能を充実させたい」と期待した。

 

 同プロジェクトで、同法人は最長3年間、教育現場の取り組みや伝承活動のノウハウを同州の防災関係者に伝える。ズルキフリ次官は「津波に対する意識がしっかりしている釜石と連携し、防災を指導する側への教育や伝承という弱い部分を補いたい。住民の普段の心がけ、防災意識の向上、主体的な取り組みについて学びを持ち帰りたい」と意欲を高めた。

 

(復興釜石新聞 2019年12月11日発行 第849号より)

 

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「てんでんこ」忘れない、復興きねんマラソン大会〜鵜住居小全校児童、スタジアム駆け抜ける

「てんでんこ」忘れない、復興きねんマラソン大会〜鵜住居小全校児童、スタジアム駆け抜ける

釜石鵜住居復興スタジアムで開かれた鵜小のマラソン大会

釜石鵜住居復興スタジアムで開かれた鵜小のマラソン大会

 

 鵜住居小(中軽米利夫校長、児童158人)は7日、全校児童による「復興きねん てんでんこマラソン大会」を開いた。東日本大震災前に同校があった場所に整備された釜石鵜住居復興スタジアムを会場にし、2回目の実施。児童らはスタジアム周辺を走り、青々とした芝が広がるメイングラウンドにゴールするコースを懸命に駆け抜けた。

 

 コースは同スタジアムを中心に設定。距離は低学年が1キロ、中学年1・5キロ、高学年は2キロ。低学年は同スタジアム西側駐車場入り口、中学年は成ケ沢橋、高学年は高齢者介護施設「ございしょの里」付近でそれぞれ折り返す。

 

 午前9時、暖かい日差しが感じられる空模様の下、まず中学年が先頭を切ってスタート。他の学年の児童や応援に駆け付けた保護者らの「頑張れ」「ラスト!前へ」などの声援を受けながらゴールを目指した。

 

 このあと約30分おきに低学年、高学年がスタート。全員が完走した。

 

 3年生男子の1位は澤本真維(まなと)君。「校庭を1日5周走る練習の成果が出た。うれしい。気持ちよく走れた。『てんでんこ』という言葉を忘れないようにしたい」と喜びをかみしめた。

 

 同大会は、基礎体力の強化・向上、互いの頑張りを認め合うのが目的。同スタジアムで行うことで防災、復興への意識を高める狙いもある。

 

 「懸命に頑張る、苦しいけど最後まで走り抜くことが大切。諦めず挑戦する気持ちを忘れないでほしい」と見守る中軽米校長。この大会が「中学生、地域住民、市民が参加するような行事になれば」と期待する。

 

(復興釜石新聞 2019年11月9日発行 第840号より)

 

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釜石初の女性地域防災対策官に、釜石海上保安任命〜星 晴日さん、新たな挑戦に意欲

釜石初の女性地域防災対策官に、釜石海上保安部任命〜星 晴日さん、新たな挑戦に意欲

地域防災対策官の職務に奮闘する星さん

地域防災対策官の職務に奮闘する星さん

 

 東日本大震災を契機に、海上保安庁が出先機関に順次配置を進めている「地域防災対策官」。釜石海上保安部(渡辺博史部長)はこのほど、管理課の星晴日(はるか)さん(22)を任命した。同海保では初の女性登用だ。星さんは「希望したポジション。先輩に学ぶ日々ですが、新たな挑戦」と意欲的に職務に取り組んでいる。

 

 星さんは宮城県登米市出身。迫桜高校を卒業し、専門学校を経て海上保安学校(兵庫県舞鶴市)に入学。2018年3月、航海コースを卒業した。初任は釜石海保巡視船「きたかみ」の航海士補。1年半の乗船勤務を経て、10月の異動で管理課、地域防災対策官の辞令を受けた。

 

 海上保安官を志したのは専門学校で。「中学1年の時に発生した大震災。母の実家が南三陸町志津川にあり、親族も亡くなりました。海保の仕事はまったく未知の分野でしたが、震災の記憶が影響したと思います。『挑戦』でした」

 

 海上保安学校の生活は「学ぶ内容、実技なども驚くことばかり。それも楽しかった」。小・中学校でバレーボール、高校は弓道に親しんだが、「体力不足を痛感し、時間を見つけては必死にランニングしました」

 

 着任した巡視船の現場は「想像とは大きく異なり、座学や頭で考えたことだけでは通用しない。船の派遣業務でも、いい経験を積むことができました」

 

 上司の鳥居敏治管理課長らは、「初めて知ることばかり」と戸惑いながらも「驚きは楽し」と新たな職務に挑戦する星さんの積極的な姿勢を見守り、厳しくバックアップする。

 

 地域防災対策官は管理課長の指示で職務に当たる。主に自治体の防災機関の会議や訓練への参加、臨海部の危険施設への安全防災指導などを通じ、海上保安庁の人的資源と巡視船艇、航空機などの災害対応機能も周知する。海上保安庁機関の力を地域の防災力向上、被害の軽減、救難や復旧の効率化に結び付ける期待がある。

 

 同対策官は12年10月以降、全国20カ所の出先機関に配置される。第2管区海上保安本部(東北地方)管内では震災の被災地域(太平洋岸)を管轄する釜石と八戸、宮城、福島の4海上保安部、宮古、気仙沼、石巻の3海上保安署の7カ所で活動する。

 

(復興釜石新聞 2019年11月2日発行 第838号より)

関連情報 by 縁とらんす
釜石海上保安部ホームページ
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釜石での研究成果を報告する中川さん

震災の教訓を他地域にも、地域おこし研究員 中川さん成果発表〜「日常の訓練が避難につながる」当時の児童の証言から探る

釜石での研究成果を報告する中川さん

釜石での研究成果を報告する中川さん

 

 釜石市に定住し地方創生の研究実践を行う地域おこし研究員、中川優芽(ゆめ)さん(25)=慶応義塾大大学院2年=による成果発表会は23日、市役所で開かれた。東日本大震災で児童全員が無事だった小学校の事例から子どもたちの避難行動を分析。震災前から行われていた下校時の避難訓練が児童の避難行動を促進する要因の一つとの認識を得て、「震災の教訓を他地域にも生かすべきだ」と強調した。

 

 地域おこし研究員は、釜石と同大が締結する地方創生に関する連携協力協定に基づく取り組み。総務省の地域おこし協力隊制度を活用する。任期は2年。

 

 中川さんは静岡県富士宮市出身。静岡県内の小学校で教師をしていたが退職し、同大大学院に入学。教師時代に防災教育の重要性を感じ、かつてボランティアで訪れた震災被災地の釜石で学び直したいと考えたためで、昨年6月に同研究員として着任した。

 

 津波災害の経験がない児童が震災当時にどのような意思決定、避難行動をとったのか―。釜石小児童の作文(避難行動について記述のある52人分)、インタビュー(高校生となった釜石小の元児童13人)から探った。

 

 分析してみると、防災教育によって▽自らの判断で行動する力▽学区内の避難場所の把握▽地震から身を守る方法―など10の概念が児童らに身に付いていることが分かった。避難できた理由として、下校時の訓練が避難につながったとの声が共通していることも把握した。

 

 その上で、南海トラフ地震が想定される静岡県で釜石の研究を生かした訓練を企画したことを紹介した。海からの距離や児童数など釜石小と似た条件の千浜小(掛川市)で今年7月、初めての下校時訓練を実施。掛川市の沿岸部に津波が到達するのは最短で4分と想定されており、訓練で共有した課題を踏まえ、11月には千浜地区の住民らも参加する訓練を行う予定と報告した。

 

 野田武則市長ら市職員約10人を前に発表した中川さんは「南海トラフ地震などで少しでも多くの命が救われるよう、釜石の防災教育、取り組みを他地域に広めていきたい」と力を込めた。

 

 中川さんは来年3月まで同研究員として活動。4月以降は静岡県で小学校教諭として復帰することになっている。

 

(復興釜石新聞 2019年10月26日発行 第836号より)

 

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震災の記憶や教訓を語る菊池のどかさん(左)ら

あの日の悲しみと教訓語り継ぐ〜震災伝承の3人トーク、ファンゾーン特別企画

震災の記憶や教訓を語る菊池のどかさん(左)ら

震災の記憶や教訓を語る菊池のどかさん(左)ら

 

 釜石市大町の市民ホールTETTOに開設されているラグビーワールドカップ(W杯)のファンゾーンでは6日、東日本大震災の記憶を伝える特別企画として、「あの日の悲しみと教訓を永遠に語り継ぐ」と題したスペシャルトークが行われた。震災伝承に携わる3人が招かれ、8年半の時間の経過で思うことや今後の伝承のあり方などについて意見を交わした。

 

 陸前高田市で津波到達点に桜を植樹する活動を行う認定NPO法人桜ライン311代表の岡本翔馬さん、震災犠牲者の遺体を復元し納棺するボランティアを続けた北上市の笹原留似子さん、釜石東中3年時に小・中学生580人で率先避難を実践し、津波から逃れた釜石市の菊池のどかさん(いのちをつなぐ未来館勤務)が出演。IBC岩手放送の江幡平三郎アナウンサーが話を聞いた。

 

 岡本さんは震災で同級生ら多くの身近な人を失った。防災士の資格を取り全国で講演するが、「時間がたっていることで、伝えやすくなっている部分もある」と実感。今の小学3年生以下は震災の記憶がほとんどない。「今後は(震災を)受け止めやすい環境を作ってあげることも大事」と、桜ラインの意義を示した。

 

 笹原さんは、300人以上の犠牲者とその遺族に向き合ってきた経験を基に、県内外の学校で「命の授業」を行う。子どもたちには「明日は当たり前に来るわけではない。2度と戻らない時間を意識して生きることで明日が輝き、私たちを迎えてくれる」と話している。遺族との交流は今も続く。「悲しみを共有することは、大切な人との思い出を宝物に変えることにもつながる」と話した。

 

 菊池さんは震災前から防災教育を受けてきたが、災害を自分事として捉えられていなかった。震災で死に直面し、人の命に向き合うことを考えるように。大学を卒業した今年4月から鵜住居町の同館で働き始めた。「当時の体験、事実とともに、津波災害の要因や避難方法を正しく伝えていきたい」と菊池さん。「地域の一員として子どもたちを助けられる人間になりたい。全員が知識を得て生き残れるように」と願う。

 

 3・11を「大切な人を想う日」に―と開催された同企画では、「釜石あの日あの時甚句」の披露や特別展示なども行われた。

 

(復興釜石新聞 2019年10月12日発行 第832号より)

 

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防潮堤の完成を祝い、感謝の銘板を除幕した関係者

釜石の防潮堤すべて完成〜片岸海岸で銘板除幕、県外からの応援職員に感謝

防潮堤の完成を祝い、感謝の銘板を除幕した関係者

防潮堤の完成を祝い、感謝の銘板を除幕した関係者

 

 東日本大震災の津波で壊れ、県が復旧工事を進めてきた釜石市と大槌町の防潮堤がすべて完成した。これを受けて9日、釜石市の片岸海岸で、整備事業に携わってきた県外からの応援職員に感謝する会が開かれた。これまでに東京都や静岡県、福岡県から防潮堤の復旧工事に加わった応援職員は延べ約160人。感謝の会は工事を発注した県が主催し、関係者約50人が出席。完成した防潮堤の上を歩きながら、被災地の復興完遂を願った。

 

 感謝の会では、沿岸広域振興局の石川義晃局長が「震災では経験したことのない膨大、困難な課題が発生した。われわれの手だけではなし得なかった大工事を完成に導いてくれた皆さまに厚く感謝申し上げる」と式辞。東京都建設局の奥山宏二道路監、静岡県交通基盤部の長縄知行理事が祝辞として被災地の復興を願う思いを述べた。

 

 沿岸振興局の高橋正博土木部長が工事経過を報告。東京都、静岡、福岡の各県代表者に感謝状が贈られた。最後に、完成した防潮堤に設置される銘板を除幕。秋空に風船が放たれ、拍手で防潮堤の完成を祝った。

 

 「未来へトライ」と刻まれた防潮堤を背に記念撮影

「未来へトライ」と刻まれた防潮堤を背に記念撮影

 

 県が釜石市と大槌町で復旧整備した防潮堤は、片岸海岸のほか、水海、釜石港、小白浜の4カ所。延長は約2・8キロにも及び、事業費約276億円が投入された。それぞれ設置される銘板には、支援した1都2県への感謝の思いが刻まれている。

 

 片岸海岸は当初、2015年度末の完成を予定していたが、基礎部分の工法を見直したことなどから、完成が3年半遅れた。完成した防潮堤は、高さ14・5メートル、長さ約820メートル。堤体には、釜石鵜住居復興スタジアムで開かれるラグビーワールドカップ(W杯)にちなみ、「未来へトライ」と描かれている。

 

(復興釜石新聞 2019年10月12日発行 第832号より)

 

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太平洋津波博物館を訪問した感想を発表する生徒たち

太平洋津波博物館訪問成果報告〜釜石市内中学3年生の5人、「風化させない」思い新たに

太平洋津波博物館を訪問した感想を発表する生徒たち

太平洋津波博物館を訪問した感想を発表する生徒たち

 

 釜石市が実施した米国ハワイ州ヒロの太平洋津波博物館訪問視察事業に参加した市内の中学3年生5人は5日、鵜住居町の「いのちをつなぐ未来館」で報告会を開き、野田武則市長ら市関係者、市民らに訪問の成果を伝えた。海外の事例を学ぶことで東日本大震災の脅威を再認識した5人は、会場で報告に耳を傾けた約50人を前に「風化させないためにできることを考えたい」「命を守る活動に生かす」などと芽生えた思いを明かした。

 

 同事業は、震災の教訓や復興の記録を後世に継承する市の取り組みの一環。悲劇を繰り返さないための持続的な取り組みの推進に向け、手法や体制の検討が必要と判断し、地域史をふまえた展示が充実していることで知られる同博物館の訪問を計画した。

 

 今回の訪問(9月2日出国―6日帰国)に参加したのは小林茉央さん、高木海里君、上林励皇我(れおが)君(釜石中)、松下琉奈さん(大平中)、吉田陽香さん(甲子中)の5人。市の特命大使に任命され、将来的な相互協力などを申し入れる野田市長の親書を同博物館の館長に手渡す役目を担った。

 

 同博物館はハワイ州の中で最多の津波被災経験を持つヒロ地区にある。津波による被害を抑えるための教育を重視し運営されていて、1946年や60年にハワイ島を襲った津波の生存者の証言、地震や津波のメカニズムなど科学的な展示を組み合わせている。

 

 5人は現地の学生と津波について学びながら同世代と交流。同博物館は、震災で両石地区から流失した可能性がある視線誘導標を保管しており、展示状況も確認した。

 

 報告会では、同行した市職員が同博物館の概要を説明した後、生徒がそれぞれ視察で印象に残ったことや得た学びを発表。津波の知識や防災の意識がなかったことで被害が拡大した過去の事例と教訓を示す展示、震災を紹介する展示コーナーであらためて感じた津波の怖さを共通して挙げた。

 

 災害についての意識が弱かったと振り返る上林君は「命の大切さをあらためて考えた。防災に目を向けたい」と気持ちを一新。高木君はこれまで取り組んできた防災活動が命を守る取り組みにつながっていることを確信した。

 

 小林さんは「震災は世界に衝撃を与えた災害だったと実感。私たちの役目を考え、行動していきたい」と熱意をアピール。松下さんもさらに学びを深める考えを示した。

 

 吉田さんは、誘導標が漂着したことで世界のつながり、助け合いの大切さを強く意識。交流の継続を期待するとともに、「震災を風化させないためにイベントを通じて伝えていきたい」と力を込めた。

 

 野田市長は充実感をにじませる5人の成長ぶりに頼もしさを感じた様子。「得た学び、世界的視野を伝え、未来館の展示や防災教育に生かしてほしい」と期待した。

 

(復興釜石新聞 2019年10月9日発行 第831号より)

 

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三鉄平田駅近くの市道沿いの石柱(左)、津波到達点の石柱は平田小前にも(右)

「津波到達地点記憶碑」建立〜高台に逃げろ 次代に教訓残す、平田海浜地共有組合

組合員が久保組合長宅前に建立した津波記憶碑を除幕。未来の安全を願った

組合員が久保組合長宅前に建立した津波記憶碑を除幕。未来の安全を願った

 

 釜石市平田の平田海浜地共有組合(久保知久組合長、会員91人)は「東日本大震災津波到達地点記憶碑」を地区内に建立し、9月20日に除幕式を行った。記憶碑のほか2カ所に「津波到達地点」の石柱を建て、地域住民に津波避難の大切さを末永く伝える。

 

 同組合は戦前、平田湾などで採取する海藻類、雑魚などの干場(かんば=磯など海浜地)の管理団体として発足した。現在は干場の需要がほとんどないが、組合は共有地の管理や運営を続けている。

 

 津波記憶碑の建立は昨年夏に発議。役員会などで内容を検討、協議し、今年6月の総会で決定した。監事の佐藤増雄さん(73)、会計の髙澤貞樹さん(72)によると、「震災の津波について、住民が日々の生活で目にする場所に到達地点を明示し、津波への警戒を忘れず、後世に伝えるのが目的」という。

 

 「復興まちづくり、住宅再建が進み、これからも町並みが変化する。震災の記憶はあいまいになる恐れがある。特に将来を担う子どもたちには、しっかりした心の備えを持ってほしい」と久保会長(71)。「私たち組合の立場で地域防災に貢献できることは、慰霊碑ではなく、津波の記憶碑の建立だろう―と意見がまとまった」と経緯を話す。

 

三鉄平田駅近くの市道沿いの石柱(左)、津波到達点の石柱は平田小前にも(右)

三鉄平田駅近くの市道沿いの石柱(左)、津波到達点の石柱は平田小前にも(右)

 

 記憶碑の用地は久保組合長の自宅敷地、石柱2基の用地は組合員が所有地を提供した。石柱が建てられたのは平田小の正門前20メートル付近と三陸鉄道平田駅の市道ガード付近で、いずれも津波の到達点。記憶碑の標高は11・3メートルとした(9メートルという説もある)。

 

 記憶碑には発災日と建立期日を和洋で表記。組合、役員名を添え、「これより高台に逃げろ」とメッセージを刻んだ。碑は台座を含め高さ約1・5メートル。石柱も市道、通学路に面し、通行を邪魔することなく、周囲の景観も損なわず、さりげなく通行者の目に触れる位置にある。

 

(復興釜石新聞 2019年10月2日発行 第829号より)

 

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仲谷署長(中)、署員も気持ちを新たにした

釜石署 新庁舎完成〜沿岸免許センターも、16日から業務開始

大震災から8年4カ月ぶりに常設庁舎に復旧した釜石警察署

大震災から8年4カ月ぶりに常設庁舎に復旧した釜石警察署

 

 岩手県警本部は12日、釜石市中妻町の旧昭和園グラウンドに新築した釜石警察署(仲谷千春署長)の庁舎を報道関係者に公開した。東日本大震災の津波で庁舎が全壊した同署は16日、仮設庁舎を経て8年4カ月ぶりに常設庁舎での業務を開始した。県内で被災した警察署、駐在所21カ所は、統廃合した2施設を除く19施設すべてが復旧した。

 

 釜石署の新庁舎は敷地面積1万3642平方㍍、延べ床面積約5650平方メートルの鉄筋コンクリート造り4階建て(一部2階建て)。同署のほか交通機動隊沿岸分駐隊、高速道路交通警察隊釜石分駐隊、西側の2階建て区画には沿岸運転免許センターが配置された。JR釜石線に沿った、昭和園グラウンド時代に観客席だった土盛りは残された。

 

 同庁舎は災害対策拠点の一つに位置づけ、被災初期の3日間は電気、給水を自力でまかなう機能を備える。

 

仲谷署長(中)、署員も気持ちを新たにした

仲谷署長(中)、署員も気持ちを新たにした

 

 2011年3月の震災当時、嬉石町にあった釜石署庁舎(沿岸運転免許センター、交通機動隊沿岸分駐隊施設を含む)は2階天井付近まで浸水し、機能が失われた。本署機能は小佐野交番に置かれ、中妻地区の民間施設に移った。同年12月、八雲町の旧釜石第二中用地跡の仮設庁舎で、免許センターとともに業務を続けた。

 

 震災では釜石署管内で大槌町の大槌交番、吉里吉里駐在所、釜石市の鵜住居、平田、唐丹の3駐在所も建て替えが必要となり、すでに復旧した。

 

運転免許センターも広く、明るく、施設が充実

運転免許センターも広く、明るく、施設が充実

 

 新庁舎の用地には11年夏から仮設住宅が建ち並んだ。住民の転出、仮設の撤去を受け17年10月から、新庁舎建設工事に着手した。

 

 釜石署建設の事業費は約39億5千万円。県内警察施設の復旧事業費は総額92億円に上る。

 

 釜石署の仲谷署長は「新庁舎が釜石・大槌地域の復興のシンボルとなるよう、署員が一丸となって治安維持、交通事故防止などに全力を尽くす」と決意を示した。

 

(復興釜石新聞 2019年7月17日発行 第808号より)

 

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震災祈念碑に「あなたも逃げて」〜釜石鵜住居復興スタジアム、ワールドカップ観戦客に教訓伝える

震災祈念碑に「あなたも逃げて」〜釜石鵜住居復興スタジアム、ワールドカップ観戦客に教訓伝える

震災祈念碑を除幕し、海に向かって黙とうする関係者

震災祈念碑を除幕し、海に向かって黙とうする関係者

 

 今秋のラグビーワールドカップ(W杯)の試合会場となる釜石市鵜住居町の釜石鵜住居復興スタジアムに、東日本大震災の教訓、避難の重要性を訴える祈念碑が建立され、16日、現地で除幕式が行われた。碑に記された言葉は「あなたも逃げて」。悲劇を繰り返さないようにとの遺族らの願いを刻む言葉は、国内外から訪れる観戦客らに「あの日」の教訓を発信し続けるメッセージとなり、未来の命を守る。

 

 祈念碑は黒御影石製で、高さ約1・5メートル、幅約2メートル、奥行き約70センチ。盛岡市出身で東京在住の書家武田夏実さん(59)が揮ごうした「あなたも逃げて」と文字が刻まれている。

 

 上部には窓のような四角い箱型の造形物が載っている。のぞいてみると、見えるのは鵜住居の街並み。あの日の真実を見つめることで教訓をしっかり受け止め、同時に未来も見つめてもらえるよう思いを込めた。

 

 傍らには避難を訴える日本語と英語の説明板も設置。「命は、あなただけのものではありません」「自らの命が助からなければ、人を助けることができないから。だから必ず逃げて」などと呼び掛ける。

 

 祈念碑は同スタジアム西側にある掲揚ポールそばに整備された。そこは旧鵜住居小の跡地。震災時、校舎は津波にのまれ事務職員が行方不明のままとなっている。

 

 今も戻らぬ大切な人を思う遺族が、「逃げる」という避難の教訓を伝え続けるため形に残すべきだ―と、鵜住居地区復興まちづくり協議会(藤原博会長)に要望。思いをくみ取り、地域住民らからの寄付金(約200万円)を活用し同協議会が祈念碑を整備した。用地は市有地を無償で借りた。

 

 降りしきる雨の中で行われた除幕式で、同協議会の佐々木憲一郎会長代行(51)が刻まれた言葉に込めた思いを打ち明けた。「私は逃げる。だからあなたも逃げて。相手を思いやる、やわらかい言葉。被災した私たちだからこそのメッセージ。それだけでなく、逃げたくても逃げることができなかった人の声かもしれない…」。世界中から訪れる観光客でW杯が盛り上がることを望む一方、この地での開催意義を考えてほしいとも願う。雨風に耐える祈念碑。「未来の命を守ってくれる」と信じる。

 

 式に駆け付けた武田さんは「刻まれたのは呼び掛け、祈りのような願いの言葉。優しいけど凛(りん)とした叫びをイメージし、子どもたちも読めるように分かりやすく、動きのある印象強い字体にした」と紹介。「逃げる」ことが記憶に残り、伝えられていくことが「生きる」ことにつながる―と思いを寄せた。

 

 野田武則市長は「悲劇を繰り返さないまちづくりへ祈念碑が大きな役割を果たす」と、震災の教訓を次世代につなぐ思いを強めた。

 

(復興釜石新聞 2019年6月19日発行 第800号より)

 

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津波防災機能を向上させ、規模も拡大した水門、防潮堤の威容を体感する住民

小白浜海岸防潮堤を見学、地域住民「安心せず、避難を」〜6年をかけ3月に完成

津波防災機能を向上させ、規模も拡大した水門、防潮堤の威容を体感する住民

津波防災機能を向上させ、規模も拡大した水門、防潮堤の威容を体感する住民

 

 東日本大震災の復旧事業として県が施工した「小白浜海岸水門・防潮堤」の完成見学会は9日、地域住民25人が参加して行われた。沿岸広域振興局の担当者が案内し、住民は津波を想定した防災機能の高度化、優れた操作性を確認した。担当者は「津波の備えは向上したが、万一の際は避難する意識を持ってほしい」と訴えた。

 

堤体構造、設備を一新

 

 同防潮堤は水門や陸閘(りくこう)を備えていたが、震災の津波で壊れ、水門の機能も失った。復旧工事は2013年度から6年をかけ、今年3月に完了した。総事業費は約70億円。

 

 工事では、片岸川河口の水門部分を海側に85メートル移し、震災前には水門の右岸と防潮堤の北側(小白浜集落側)設置点の市道にあった陸閘を市道側の1カ所に集約した。片岸漁港につながる道路は、堤体の南端、片岸グラウンド側に「乗り越え式」で整備した。

 

 防潮堤の総延長520メートル、高さ14・5メートル。開閉する鉄製の水門は高さ4・7メートル、幅7・2メートルが2基。1基の重さは約100トンあり、機械や通信機器を収納する操作室3棟は堤頂から約7メートル立ち上がる。

 

 堤体の構造、形状は旧設備を拡充し、「粘り強い機能を持たせた」(担当者)。

 

 陸閘は幅7・2メートル、高さ4・7メートル、延長99・12メートル。海側に回転式の門扉を設置した。

 

 水門の閉鎖は、消防団員などの安全を確保する「県水門・陸閘自動閉鎖システム」に対応。津波注意報以上のレベルで自動的に起動し、約4分で閉鎖する。解除は遠隔操作、手動でも可能。陸閘の閉鎖も同様で、通行車両、人に拡声器で注意を促し、ランプやLEDの文字盤、遮断機で操作を周知する。

 

 遠隔操作の指示は県庁、沿岸広域振興局のほか、釜石市役所、釜石大槌地区消防本部庁舎でも可能だ。

 

 沿岸振興局土木部の千葉信英副部長は「防潮堤は地権者、地域の協力で完成できた。しかし、津波防災に完璧はない。あくまでも避難が大事」と強調した。

 

 小白浜地区の70代の女性は「説明を受け、立派な設備ができたので安心しました。でも、避難する気持ちは忘れてはいけない」と語った。

 

 市内では21漁港・海岸で河川の水門などの復旧工事が行われ、この3月までに小白浜など11カ所が完成した。

(写真説明)

 

(復興釜石新聞 2019年6月15日発行 第799号より)

 

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三陸防災復興プロジェクト開幕〜被災地再生 世界に発信、沿岸13市町村で8月7日まで

三陸防災復興プロジェクト開幕〜被災地再生 世界に発信、沿岸13市町村で8月7日まで

開幕セレモニーに続いて行われたパネル討論

開幕セレモニーに続いて行われたパネル討論

 

 東日本大震災の教訓を伝え、本県の復興の現状を発信する「三陸防災復興プロジェクト」が1日から開幕、オープニングセレモニーが釜石市大町の市民ホールTETTOで行われた。同プロジェクトは8月7日までの68日間にわたり、沿岸部13市町村を会場に防災に関するシンポジウムや展示会、コンサートなど22事業を展開。ラグビーワールドカップ(W杯)釜石開催などで三陸地域が世界から注目を集める中、復興に向けて力強く取り組んでいる地域の姿、多様な文化や魅力を広く発信する。

 

 オープニングセレモニーには、一般、関係者ら約700人が出席。実行委員長の達増拓也知事が「このプロジェクトを通じ、復興に取り組みながら、互いに幸福を守り育てる希望郷実現の一歩にしよう」と開幕を宣言した。

 

開幕セレモニーの司会を務め、「震災の風化防止へ、手に手を取り合おう」と呼び掛ける陸前高田市出身の俳優村上弘明さん(右)

開幕セレモニーの司会を務め、「震災の風化防止へ、手に手を取り合おう」と呼び掛ける陸前高田市出身の俳優村上弘明さん(右)

 

 国連防災機関駐日事務所の松岡由季代表は、震災が国際的な防災議論に与えた影響を説明。「東北のみなさんの経験は世界の防災・減災につながる。これを国際社会で共有し、意識啓発に役立てたい」と思いを述べた。

 

 米国大使館ジョセフ・ヤング主席公使は、「トモダチ作戦」として自身が関わった震災後の救援活動や、被災地の高校生が米国留学するなどの研修プログラムに触れ、「留学を経験した若者が誇りと志を持って生き生きと活躍している。今後も日米の防災協力に期待する」とスピーチした。

 

 同研修プログラムへの参加をきっかけに宮古市でNPO法人を立ち上げ活動する吉浜知輝さんが、復興への取り組みを報告。復興支援で岩手とのつながりが深いシンガー・ソングライター八神純子さんのライブもあった。

 

 八神さんは、大槌町の子どもたちとの交流から生まれた「かれ木に花を咲かせましょう」など7曲を披露。「声の続く限り、みなさんと一緒に歌い、歩んでいきたい」と呼び掛けた。

 

三陸復興へ歌声でエールを送る八神さん

三陸復興へ歌声でエールを送る八神さん

 

 続いて行われたシンポジウムでは、台湾・長栄大学の邵珮君教授が基調講演したあと、「災害に強い地域づくり」をテーマにパネル討論。「自助、共助、公助の連携、地域の総合防災力を高めることが、これからの災害に強い地域づくりに不可欠」との指摘もあった。

 

 市民ホールの周辺では「防災復興展示会」が開かれ、防災士による講座、応急手当て体験などが行われた。

 

 2日は、「災害看護・災害時の公衆衛生」をテーマに分科会が同ホールで開かれたほか、鵜住居公民館では「いわての復興教育」をテーマにパネル討論が行われた。

 

(復興釜石新聞 2019年6月5日発行 第796号より)

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