タグ別アーカイブ: 防災・安全

大槌湾に注ぐ鵜住居川河口部に設置された水門。総工費は約190億円。県や市の庁舎から遠隔操作もできる

インフラツアーで津波防災意識向上を~修学旅行生が鵜住居川水門を見学

修学旅行で鵜住居川水門を訪れた鶴岡第四中の3年生

修学旅行で鵜住居川水門を訪れた鶴岡第四中の3年生

 

 東日本大震災から10年が経過し、水門や防潮堤など津波防災インフラの整備が完了する中、現地見学を通じて防災意識を高めてもらうツアーの受け入れが釜石市で始まった。県沿岸広域振興局土木部と県立大総合政策学部が昨年度から行ってきた、津波防災施設の利活用に関する地域協働研究の一環。3月に完成したばかりの「鵜住居川水門」には5月27日、山形県の鶴岡市立鶴岡第四中(遠田良弘校長、生徒340人)の3年生122人が修学旅行で訪れ、津波の脅威や震災の教訓を生かした施設整備、いざという時の避難行動を学んだ。

 

 県職員の案内で水門(長さ180メートル、高さ14・5メートル)の各種設備を見学。津波を防ぐ5ゲート(門)は自動閉鎖システムが導入され、注意報、警報発表時に人工衛星を介して閉鎖の指令が送られること、動き出してから4分で閉まることなど、説明を受けた。職員が定期点検の際に入る機械室では生徒の代表が手動によるゲートの上げ下げを体験。外では他の生徒が動きを見守った。津波体験者の話を聞く時間も設けられた。

 

青いゲートは5つ(1門:幅32メートル、高さ5・17メートル)あり、自動閉鎖システムが導入される

青いゲートは5つ(1門:幅32メートル、高さ5・17メートル)あり、自動閉鎖システムが導入される

 

点検時に入る機械室も見学。職員からは「津波は想定を超える場合も。防御施設を過信せず、注意報が出たら速やかに高台へ」との呼び掛けも

点検時に入る機械室も見学。職員からは「津波は想定を超える場合も。防御施設を過信せず、注意報が出たら速やかに高台へ」との呼び掛けも

 

大槌湾に注ぐ鵜住居川河口部に設置された水門。総工費は約190億円。県や市の庁舎から遠隔操作もできる

大槌湾に注ぐ鵜住居川河口部に設置された水門。総工費は約190億円。県や市の庁舎から遠隔操作もできる

 

 佐藤巧都君は「津波は想像を超えることを判断できないと、自分も周りの人の命も救えない」、五十嵐琉月(るるな)さんは「今日の経験をこれからの人生に生かしていきたい」、阿部千尋君は「復興の様子を家族や知人に伝える。地元でも最近、地震があったので、岩手の人たちの対策を学びたい」と話した。

 

 同校の修学旅行は戦地・沖縄県への訪問を計画していたが、新型コロナウイルス感染拡大で行き先を岩手、秋田両県に変更。これまで続けてきた命の学習を生かす形で、震災被災地・釜石市を訪れた。生徒らは、震災前に小・中学校があった釜石鵜住居復興スタジアムも訪れ、当時の児童生徒がとった避難行動も学んだ。遠田校長(59)は「身近に危険が迫った時、すぐ行動できる人になってほしい。いかに日常的に意識し備えておけるか。若者の率先した行動は地域の命を守ることにつながる」と生徒に期待した。

 

水門と連結する「片岸海岸防潮堤」の広場からゲートの動きを確認する生徒

水門と連結する「片岸海岸防潮堤」の広場からゲートの動きを確認する生徒

 

 県と同大は震災の復旧復興事業で整備された津波防災施設の活用策として、防災意識の普及につながる「インフラツーリズム」に着目。観光事業を手がけるかまいしDMCの協力を得て、修学旅行生の受け入れから開始した。今後、生徒らのアンケートも参考にしながら持続的実施に向けたプログラム化を図る。

 

 同大の三好純矢講師(32)は「インフラ見学の魅力を明確に打ち出し、地域住民や一般旅行者にも足を運んでもらえるよう体制を整えたい。震災の風化は避けられないが、実際に現地に来て肌で感じてもらうことで、防災意識の向上にもつながっていくと思う」と今後の展開を見据えた。

「自転車安全利用モデル校」の指定書を手にする釜石高の立花さん(中)、鈴木校長(左)

釜石高を自転車安全利用モデル校に 釜石署が指定

「自転車安全利用モデル校」の指定書を手にする釜石高の立花さん(中)、鈴木校長(左)

「自転車安全利用モデル校」の指定書を手にする釜石高の立花さん(中)、鈴木校長(左)

 

 釜石地区「自転車安全利用モデル校」に釜石高(鈴木広樹校長、全日制467人、定時制26人)が指定された。5月18日、釜石市甲子町の同校を釜石警察署交通課の松舘茂雄課長が訪れ、生徒会交通安全委員長の立花珠希さん(3年)に指定書を伝達。立花さんは「地域の皆さんの手本となり、安心して暮らせるよう全校生徒で貢献したい」と決意を述べた。

 

 指定書は釜石市交通安全対策協議会(会長・野田武則市長)、釜石地区交通安全協会(菊池重人会長)、釜石警察署(前川剛署長)の3者連名による。基本的な交通ルールを正しく理解し、地域の模範となる行動や学校での自主的な交通安全活動の促進を目的にする。

 

 鈴木校長によると、生徒約50人が通学に自転車を利用する。学校への通学路は国道283号や市道を通り、国道は上下3車線の変則的な形状に注意が必要という。

 

 昨年、県内では自転車利用者の人身事故が187件で、全体の11%を占め、死者は4人。年代別では高齢者51件に次いで高校生47件が続き、中学生14件、小学生3件に比べ多い。事故の発生時間帯は登下校時に集中。事故の形態と原因別では出会い頭の衝突、不十分な安全確認が目立つ。

 

 松舘課長は「自転車事故の多くは重症化し、加害者にもなりうる。安全確認の徹底、歩行者保護の意識を持ってほしい」と求めた。

 

 同モデル校には大槌町立大槌学園7~9年生も町交通安全対策協議会(会長・平野公三町長)など3者の指定を受けた。釜石高とともに3年連続の指定となる。

クマ出没注意!~市が呼び掛け「農作業、入山時は十分な対策を」

クマ出没注意!~市が呼び掛け「農作業、入山時は十分な対策を」

クマ出没注意!~市が呼び掛け「農作業、入山時は十分な対策を」

 

 春を迎え、釜石市内でもクマ(ツキノワグマ)の目撃情報が増え始めている。不意の遭遇などで人身被害も予想されることから、十分な注意が必要。県や市は入山時、農作業中の予防行動、家屋にクマを寄せ付けないことなど被害防止を呼び掛ける。

 

 釜石市によると、4月1日~29日までに市に寄せられたクマの目撃情報は23件。目撃場所は甲子、定内、大平、平田、両石、橋野と市内一円にわたり、防災行政無線で注意を呼び掛けた。例年この時期は、冬眠明けのクマが活発に動き出し、えさを求めて人里に近づくケースが見られる。

 

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橋野町青ノ木で4月に目撃されたクマ

 

 市内では昨年、鵜住居、栗林、甲子で3件の人身事故が発生。農作業や散歩中などに被害にあい、負傷者が出た。市水産農林課林業振興係の佐々木徳明係長は「一人でもくもくと農作業をしているところにクマが鉢合わせし、驚いたクマが襲ってくるケースが多いよう。ラジオの音とかで人がいることをクマに知らせることが大事」と話す。

 

 農作業時には他に、①クマの行動が活発になる早朝、夕方は特に気を付ける②農地周辺の刈り払いを行う③できるだけ単独での作業は避ける―といった対策が必要。農地や民家にクマを引き寄せないために、①生ごみや廃棄野菜・果実の適切処理②収穫後の放置果実の適切除去③収穫物収納庫の施錠―なども呼び掛ける。

 

えさを探して歩き回る?

えさを探して歩き回る?

 

 これからの季節は山菜採り、登山、渓流釣りなどで山に入る人も増える。突然出会ってしまう危険性が一層高くなるため、対策を組み合わせて自身の安全を確保することが重要。複数で音(鈴、ラジオ)を出しながらの行動、周囲に気を配る、食べ残しは放置しない―など人里と同様の対策に加え、①周りの音が消される強風時や沢沿いは特に注意する②夜間、明け方、夕方の入山回避③クマ撃退グッズ(忌避スプレー、鉈など)の携行④地域のクマ情報の事前確認―を促す。

 

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畑の外の防護柵の木によじ登る姿も

 

 もし出会ってしまったら、「走って逃げない。背中を見せない。持ち物(リュックなど)を置いて注意をそらす。静かにゆっくり後退」が基本。クマを驚かせないように、落ち着いてその場を離れることが大切だという。山に入ることはクマの生活場所に入ること。何よりも出会わない工夫をすることが身を守ることにつながる。

 

資料写真提供/三浦勉さん

新しい消防ポンプ車が配備された消防団第6分団第4部の団員ら

釜石市消防団・第6分団第4部に新型消防ポンプ車を導入

新しい消防ポンプ車が配備された消防団第6分団第4部の団員ら

新しい消防ポンプ車が配備された消防団第6分団第4部の団員ら

 

 釜石市消防団・第6分団第4部=片岸町中心部(柏﨑成好部長、7人)に3月26日、新しい消防ポンプ車が引き渡され、部員が新たな機能と性能を確認した。2020年度の消防団関係の消防設備整備事業はほかに、小型ポンプ・積載車2台が更新され、3月末に第6分団第5部(鵜住居町川目地区)の消防屯所が移転・新築を完了した。

 

 新車両の操作説明会は鈴子町の釜石大槌地区行政事務組合消防本部庁舎で行われ、柏﨑部長ら4人が参加。車両の運転特性と、消防車独自の無線やアナウンスなど付帯装置の説明を受けた。甲子川の対岸、千鳥町の河川敷に移動し、ポンプ操作、メンテナンスを重点に説明を受け、実際に放水能力を確認した。

 

甲子川河川敷で新車両の放水能力を確認

甲子川河川敷で新車両の放水能力を確認

 

 新車両はディーゼルエンジン(3000㏄)を搭載、4WD、5速オートマチックミッションで、ダブルキャブ、乗車定員5人。最新の照明、電子サイレン、カーナビとバックモニター連動装置、ドライブレコーダーも装備した。ポンプは放水手順の迅速化が図られ、無給油式真空ポンプは吸水、放水能力(規格放水量毎分2㌧)とも同タイプの最高レベルだ。

 

 年度末の退団を控えた柏﨑部長(69)は「新しいポンプ車は最高だ。操作に早く習熟するよう訓練する必要がある。若い団員が加入してくれれば」と期待を語った。

 

 新ポンプ車の整備事業費は税込みで2612万5千円。旧車両は1998年度に配備され、22年が経過した。

唐丹町本郷 津波記念碑が震災遺構に〜国立民俗学博物館主導で補修

唐丹町本郷 津波記念碑が震災遺構に〜国立民俗学博物館主導で補修

津波記念碑を大震災遺構とする修復作業

津波記念碑を大震災遺構とする修復作業

 

 東日本大震災で損傷した釜石市唐丹町本郷地区の明治三陸大津波記念碑「海嘯遭難記念之碑」の保存事業は、16日に完了した。大津波の波力や漂流物の衝突で欠損、失われた碑文の一部をそのままに、残った板面を補強、接着し直す作業により、市内では珍しい石碑の「東日本大震災遺構」となり、後世に大災害を伝承する。

 

 この津波記念碑は1896(明治29)年6月15日に発生した三陸大津波の被災から三十三回忌に当たる1928(昭和3)年、地元住民の発案で建立された。一部はコンクリート基礎に埋め込まれた石碑の地上高は270センチ、幅160センチ、厚さ155センチのくさび形の自然石。上部に標板(横70センチ、縦35センチ)、碑文は縦1メートル、横75センチ。

 

 全文263文字の碑文は、大津波の発生(旧暦5月5日の端午の節句)、流失家屋300戸、犠牲者800人で、生存者20人の壊滅的な被害のほか、未来に伝え続けるよう強い思いを刻んだ。

 

 本来の建立地は南に約110メートルの地点だが、2008年に道路改良工事に伴い現在地に移転。1933(昭和8)年の三陸大津波、10年前の震災を伝える「伝えつなぐ大津波」と並ぶ。浮き彫りの銘板、刻字した碑文の基盤はアスファルト状の素材という珍しい形式だ。

 

 震災の津波で、碑文が欠損。残存部分は接着面の劣化で浮き上がり、多数の亀裂もあった。保存事業は、それらを修復し、半永久的に残す目的で行われた。全面的な「復元」ではなく、損傷したまま残す「震災遺構」とした。

 

 事業主体は「伝承碑修復事業実行委員会」で、本郷町内会の小池直太郎会長を会長に、市、唐丹地域会議(佐々木啓二議長)、釜石観光物産協会などで構成。公益財団法人東日本鉄道文化財団も参加し、事業費約100万円の半額を助成した。

 

 修復は国立民族学博物館(大阪府吹田市)の日高真吾教授(文化財保存科学専攻)が主導し、京都府の専門業者文化創造巧芸(和高智美代表)が参加。剥離、回収した断片を持ち帰り塩抜き。パーツを炭素繊維で固定し、本郷に持ち込んだ。16日まで3日間かけて元の位置に接着、前面の亀裂にパテを埋めて完了した。

 

 日高教授(49)は「記念碑には建立当時の人々の『伝え、残したい』という強い思いが込められており、感動した。三十三回忌まで建立の時間がかかったことに復興の苦難を感じる」と語った。小池会長(74)は「記念碑が震災の遺構となることは大事だ」と意義を強調した。

 

 同博物館では「復興を支える地域文化~3・11から10年」展を今月4日から5月18日まで開催中で、同記念碑の原寸大レプリカと、同博物館が復興を支援した釜石市の南部藩寿松院年行司支配太神楽、大槌町の大槌虎舞など6団体の衣装が展示されている。

防災学習に活用してもらおうとワークブックや顔出しパネルを製作した関係者

教訓伝承「てんでんこレンジャー」〜いのちをつなぐ未来館、顔出しパネルでアピール

防災学習に活用してもらおうとワークブックや顔出しパネルを製作した関係者

防災学習に活用してもらおうとワークブックや顔出しパネルを製作した関係者

 

 釜石市鵜住居町の津波伝承施設「いのちをつなぐ未来館」の名誉館長加藤孔子(こうこ)さん(63)=盛岡市、岩手大教員養成支援センター特命教授=や釜石出身の岩手大生らが、同館での防災学習に活用するワークブックを製作した。子どもに津波や防災をより身近に感じてもらおうと、災害から身を守るすべを分かりやすく伝える「てんでんこレンジャー」の顔出しパネルも設置。東日本大震災を経験していない世代が増える中、未来の命を守るための学習、教訓の伝承に力を注ぐ。

 

 ワークブックは3部構成で、「ステップ1」は釜石の歴史、過去の地震や津波被害を解説する。「2」は震災や釜石の防災学習などを紹介し、未来館ガイドの説明や展示物の内容を補足。「3」は学びを振り返るクイズなどを載せている。

  

 同大地域創生モデル構築活動によって作成。震災を経験した学生や大学院生が執筆者として加わり、災害時に生かされた学習活動を伝えている。

 

 同大大学院2年の岡道一平さん(24)は、母校釜石東中の防災学習を紹介する項目を担当。「次世代に伝えられる形として防災教育の一助になれば。津波、歴史に興味を持ち、学ぶ入り口にしてほしい」と願う。

 

 箱崎町出身で、思い出が多く詰まった自宅を津波で失った。考えると心が重くなる震災だが、進む道を見つけるきっかけになったのも「あの日」。この春、社会人となり、まちづくりやインフラ整備に関わる仕事で貢献したいと気持ちを引き締めた。

  

 顔出しパネルは見学後、振り返りの一助に役立ててもらうのが狙い。「自分だったら」と見学者それぞれに地域、周囲で起こり得る災害や備え、教えを考えてもらう。

 

 製作に合わせて館内の展示も充実。震災時の釜石小の子どもたちの避難経路を詳しく示し、手記も紹介する。

 

 加藤さんは「経験者の言葉はリアルで説得力がある。防災の力を子どもたちに伝え続け、未来の命を救っていきたい」と力を込めた。

「3.11」を目指し、ワークブックを作成する岩手大の学生ら

命を守るワークブック作成進む、鵜住居「いのちをつなぐ未来館」〜岩手大教員養成支援センター「生き抜く子どもを」教訓つなぐ

「3.11」を目指し、ワークブックを作成する岩手大の学生ら

「3.11」を目指し、ワークブックを作成する岩手大の学生ら

 

 釜石市鵜住居町の津波伝承施設「いのちをつなぐ未来館」の名誉館長加藤孔子(こうこ)さん(63)=盛岡市、岩手大教員養成支援センター特命教授=らは、同館を訪れる小中学生の学習を手助けするワークブックづくりを進めている。東日本大震災から10年。人々の記憶から徐々に薄れ始め、学校では記憶のない世代が増えている。「あの日を知り、命を大切に未来へ生き抜く子どもを」。震災を経験した釜石出身の学生らが記憶と教訓を伝えようと取り組みを支える。

 

 この取り組みは岩手大の地域創生モデル構築活動を活用する。釜石の防災教育、震災を実体験した学生、院生ら7人が災害時に生かされた学習活動を伝える形で参加。加藤さんが中心となってまとめ、同大地域防災研究センターの福留邦洋教授が助言する。

 

 作成中のワークブック(津波てんでんこVer.1)は3章からなり、ステップ1で釜石を発信する「○○のまち」を解説し、見学前に地域を知ることから始まる。震災や防災を学ぶのがステップ2。館内でガイドが実際に説明するルートをたどりながら展示物の補足をする形にし、学習を効果的に進められるよう工夫。ステップ3では感想を書き込んだり、クイズで振り返りができるようにした。

  

 鵜住居小5年生の時に震災を経験した八幡桃子さん(教育学部3年)は、発災当日の避難行動などをまとめた。その過程で当時の怖い体験がよみがえる。「生きるのに必死だった。頑張って生きていると感じた」。子どもたちに伝えたいことは、命を守る大切さ。「自分事として捉え、できることを考えるきっかけに」と願う。

 

 震災をきっかけに教員を目指す佐々木伊織君(大学院総合科学研究科地域創生専攻修士1年)は大平中出身。被災していない自分が参加していいか迷いがあったというが、防災教育の一端を担う取り組みに「やりたいことを実現できた」と充実感をにじませる。

 

 高校時代に伝承活動に取り組んでいた野呂文香さん(教育学部1年)は、コロナ禍で思い描いていた生活が一変。限られた活動に割り切れない心情を抱えていた。そんな中で参加した伝える活動は、自身の学びへの意欲を呼び戻す力になった。「このワークブックはもっとレベルアップできる。未来館で実際に使われている様子を見学し、改善できたらいい」と新たな展開を見いだした。

 

 震災当時釜石東中教諭だった佐々木良一さん(教職大学院修士1年、現下橋中教諭)は、震災を記憶していない子どもたちの災害に対する反応が「他人事のようだ」と感じることがあり、「伝えることは、これからより必要な活動だ」と指摘する。

  

 釜石市から同大に派遣されている共同研究員の佐々木千里さんも、伝え続ける必要性を確信。釜石東中出身の岡道一平君(大学院総合科学研究科理工学専攻修士2年)は会合には不参加だったが、ワークブックの中に登場する「てんでんこレンジャー」の活動を紹介している。

 

 未来館職員で語り部の川崎杏樹さん(24)はリモートで参加。「来館者の多くは滞在時間が限られている。形として残るワークブックが伝えきれないことを補い、見学後にどこにいても防災を振り返るものに。知識のアンテナを広げる手段になるのでは」と期待を込める。

 

 加藤さんは震災当時に釜石小校長を務め、防災教育に力を注いでいた。その時に実体験した学生らが生の声、思いを込めて精力的に関わる活動に手応えを実感。「みんなに背中を押されて実を結んだ。私たちの役目は伝えること。自分の命を守る人が増えてほしい」と切に望む。

 

 ワークブックはA4サイズ、約30ページとなる予定。来年度から活用できるよう調整する。

「津波だ、逃げろ高台へ」コロナに負けず教訓つなぐ〜仙寿院で韋駄天競争、震災から10年 風化防ぐ

「津波だ、逃げろ高台へ」コロナに負けず教訓つなぐ〜仙寿院で韋駄天競争、震災から10年 風化防ぐ

津波で浸水した只越町から津波避難場所となっている高台の仙寿院を目指し、元気に駆け出す親子

津波で浸水した只越町から津波避難場所となっている高台の仙寿院を目指し、元気に駆け出す親子

 

 津波発生時の迅速な高台避難を啓発する第8回「新春韋駄天(いだてん)競走」が7日、釜石市大只越町の日蓮宗仙寿院(芝﨑恵応住職)周辺で行われた。東日本大震災の教訓をつなぐ2014年からの節分行事。新型コロナウイルス感染拡大下の今年、主催者(同院・釜石仏教会)は開催可否に悩んだが、「どんな時でも災害は起こり得る」との認識のもと、各種感染防止策を講じ実施に踏み切った。震災から間もなく10年―。参加者は自らの命を守る避難行動を体験し、悲劇を繰り返さない意識を高めた。

 

ゴールまであと少し。幼児も父母らとがんばって坂を登る

ゴールまであと少し。幼児も父母らとがんばって坂を登る

 

 参加資格を市内在住(または通勤・通学など)、開催日前2週間に県外滞在歴がないこととし、開催部門を例年の6部門から3部門に縮小。観客にもマスク着用、拍手での応援を呼び掛け。飛沫(ひまつ)拡散防止、3密回避などの対策を徹底した。

  

 1歳から47歳まで57人が参加。15組(31人)が参加した親子の部からスタートし、只越町の消防屯所付近から高台の仙寿院まで286メートル、高低差約26メートルのコースを必死に駆け上がった。小・中学生の部には19人が出場。中学生の硬式野球チーム「釜石ボーイズ」や釜石中陸上部の団体参加も。一般の部には男性7人が参加した。

 

ゴール前でラストスパートを見せる中学生。日ごろからスポーツで鍛えているだけあって余裕の表情⁉

ゴール前でラストスパートを見せる中学生。日ごろからスポーツで鍛えているだけあって余裕の表情⁉

 

 各部門の1位には、芝﨑住職から「福親子」「福少年」「福男」の認定書が授与された。

 

 「福親子」となった箱崎町の小林直哉さん(41)と次男大空(かなた)君(8)は初参加。走るのが好きという大空君は「楽しかった」と一言。10年前の震災で直哉さんは、鵜住居小児童だった長男と一緒に避難し、津波から逃れた。「自分も小学校から津波防災教育を受けて育った。あの時は自然に体が動いた」と振り返る。震災の翌年に生まれた大空君は同小の3年生。「この子たちも今、学校でしっかり教育を受けている。こういう経験はいざという時、必ず生きるはず」と直哉さん。

 

「福親子」「福男」「福少年」(前列左から)に輝いた参加者

「福親子」「福男」「福少年」(前列左から)に輝いた参加者

 

 「福少年」は釜石ボーイズの仲間と継続参加する山田町の田村葵里君(15)=山田中3年=。「震災で自宅が被災し、避難の大切さを身にしみて感じている。〝逃げる〟ことをみんなに広めていけたら」と思いを行動で示す。「福男」は甲子町の伊藤嶺司さん(20)=法政大2年=が初参加で手にした。「災害はいつ起こるか分からない。津波時の高台避難を〝福男〟になった身として後世に伝えていきたい」と意を強くする。

  

 芝﨑住職は「震災後に生まれた子どもたちの参加が増えてきた。教訓を伝えたいという親の意思の表れ。来年もぜひ、参加を」と呼び掛けた。

カンパンを使った菓子作りを通じ防災食への理解を深めた参加者

カンパン使い菓子作り、鵜住居公民館「わんぱく子ども教室」〜楽しみながら防災食の調理実習

カンパンを使った菓子作りを通じ防災食への理解を深めた参加者

カンパンを使った菓子作りを通じ防災食への理解を深めた参加者

 

 釜石市鵜住居町の鵜住居公民館(笹村聡一館長)で14日、防災食について理解を深める調理実習が行われた。同公民館事業「わんぱく子ども教室」の一環で、市内の小学生と保護者ら12人が参加。自然災害発生時の避難後の限られた生活の中でも元気に過ごすための食の大切さを再認識した。

 

 講師は三陸ひとつなぎ自然学校の柏﨑未来さん(35)で、同公民館の村田奈々さん(37)がサポート。子どもたちは、釜石高の生徒が考えたカンパンを使った菓子作りに挑戦した。

 

 細かく砕いたカンパンに豆乳とチョコレートを加えて混ぜ、シュガーパウダーをからめて丸いボール型に整えると完成。密閉できる透明の袋や紙コップを用いて簡単にでき、子どもたちは楽しんで取り組んでいた。「甘いにおいがする。食べたーい」との声もあったが、新型コロナウイルス感染症の影響を考慮して試食は行わず、持ち帰りにした。

 

 座学の講師は、地域おこし企業人として江崎グリコ(大阪市)から釜石市に派遣されている大窪諒さん(30)。防災食の種類や普通食との違い、消費期限と賞味期限の違い、食品の劣化などを解説した。

 

 鵜住居小1年の佐々木智桜(ちさ)さんは「丸くするのが難しかったけど、できたから良かった。訓練はしたことがあるけど、実際に避難したら、教えてもらったことを生かしたい」とうなずいた。母智恵さん(38)は「親子で学ぶいい機会に。自宅でも備蓄している。期限を確認し、子どもたちと家で再挑戦したい」と意識を高めた。

「大震災かまいしの伝承者」(第2期)を募集します

「大震災かまいしの伝承者」(第2期)を募集します

平成31年3月11日に制定した「釜石市防災市民憲章」の理念を広め、市民一人ひとりに語り継ぐことの意識付けと防災意識の向上を図ることを目的とし、令和元年度に「大震災かまいしの伝承者」制度を設立しました。この度、第2期目となる「伝承者」の養成を推進するため、公募を実施しますので、ご案内申し上げます。

 

詳しくは、次のファイルをご覧ください。
「大震災かまいしの伝承者」(第2期)募集チラシ兼応募申込書[PDF:747KB]
「大震災かまいしの伝承者」(第2期)募集要項[PDF:183KB]

この記事に関するお問い合わせ
釜石市 総務企画部 総合政策課 震災検証室
〒026-8686 岩手県釜石市只越町3丁目9番13号
電話 0193-27-8413 / FAX 0193-22-2686 / メール
元記事:https://www.city.kamaishi.iwate.jp/docs/2020110200068/
釜石市

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釜石市公式サイトと連携し、縁とらんすがピックアップした記事を掲載しています。記事の内容に関するお問い合わせは、各記事の担当窓口までお問い合わせください。
優良幼年消防クラブ表彰を受けた鵜住居幼稚園の園児たち

防災の誓い新たに、鵜住居幼稚園幼年消防クラブ〜県幼少年婦人防火委員会会長表彰受賞

優良幼年消防クラブ表彰を受けた鵜住居幼稚園の園児たち

優良幼年消防クラブ表彰を受けた鵜住居幼稚園の園児たち

 

 釜石市鵜住居町の鵜住居幼稚園の全園児で組織する鵜住居幼稚園幼年消防クラブ(代表・磯田育子園長、20人)は18日、県内の火災予防活動の取り組みを対象とする本年度の県幼少年婦人防火委員会会長表彰(優良幼年消防クラブ表彰)を受けた。

 

 伝達式は同園で行われ、園児18人が参加。釜石大槌地区行政事務組合消防本部の金野裕之消防長が表彰状と記念品を贈り、「火事や災害のないまちになるよう、これからもみんなで力を合わせて頑張っていこう」と呼び掛けた。

 

 園児は大切なものが火事で無くならないよう、▽火遊びはしない▽火のそばで遊ばない▽火事を出さないよう気を付ける―と防火の誓いを宣言した。

 

 同園の幼年消防クラブは1984年5月の結成以来、幼年消防フェスティバルへの参加、火災や地震、津波を想定した避難訓練(月1回)を継続。東日本大震災後の2017年から防災教室を開催し、日頃から園児、職員ともに防災意識の向上に努めている。

 

 磯田園長は「(受賞は)今までみんなが懸命に取り組んで頑張ったしるし。これからも安全に逃げること、命を守ることを勉強していきたい」と見守った。

 

 同クラブ表彰は結成して5年以上経過し、火災予防意識の高揚、啓発に貢献、模範となる取り組みが認められる団体に贈られる。本年度は同園を含め3団体が選ばれた。

復興釜石新聞

復興釜石新聞(合同会社 釜石新聞社)

復興釜石新聞と連携し、各号紙面より数日の期間を設け記者のピックアップ記事を2〜3点掲載しています。

問い合わせ:0193-55-4713 〒026-0044 岩手県釜石市住吉町3-3

いのちをつなぐ未来館の名誉館長に就任した加藤孔子さん(右)

元釜石小校長の加藤さん、鵜住居・いのちをつなぐ未来館名誉館長に〜釜石の防災教育を広く発信、「聴く力を磨いて」と訴える

いのちをつなぐ未来館の名誉館長に就任した加藤孔子さん(右)

いのちをつなぐ未来館の名誉館長に就任した加藤孔子さん(右)

 

 東日本大震災当時、釜石市立釜石小の校長だった加藤孔子(こうこ)さん(62)=盛岡市在住=が、鵜住居町の津波伝承施設「いのちをつなぐ未来館」の名誉館長に就任した。現在、岩手大教員養成支援センター特命教授を務めており、同館では不定期に活動。展示やガイド内容の充実など助言を行う。18日には修学旅行で同館を訪れた小学生を特別ガイド。日頃から防災意識を高めておくために大切なこととして「聞く力を磨いてほしい」と訴えた。

 

 加藤さんは岩大教育学部卒業後、平田小で教員生活をスタート。2008年4月に校長として初めて着任したのが釜石小だった。12年3月まで勤務し、滝沢東小、見前小校長を歴任、18年3月に退職。19年4月から同特命教授を務めている。

 

 釜石小での勤務時、授業で「津波てんでんこ」の言い伝えをくり返し教えた加藤さん。通学路にある危険箇所、避難場所を知るため児童自らが歩いて探る防災安全マップづくり、災害時に児童が自らの判断で命を守ることを目標として下校時避難訓練に取り組んだ。

 

 震災発生時、全校児童184人の多くがすでに下校。学校の管理下になかったものの、一番近い避難場所や高台に避難するなど自分たちで判断、行動し、全員が各自で命を守った。

 

 学校で学んだことを思い出して行動しただけ―。子どもたちの言葉から、加藤さんは「友達や先生の話を普段から聞くことで命を救うことができる」と感じた。

 

 この日、一戸町立一戸南小(飯岡竜太郎校長、児童94人)の6年生14人らに対し、釜石小の事例を説明した加藤さん。「学校での話をよく聞いて、覚えていたから命が助かった。普段から話を聞くことが自分やたくさんの人を守ることにつながる」と呼び掛けた。

 

 同館で加藤さんの主な役割は防災学習や展示・企画展の助言、支援。これまで同館では鵜住居の子どもたちの避難行動を中心に伝えてきたが、今後は釜石小の事例も発信し、釜石の防災教育の成果と教訓を明らかにする取り組みに力を入れる考えだ。

 

 「防災教育というと避難訓練だけがピックアップされがちだが、普段から、当たり前に教育されていることが大切」と加藤さん。伝承活動に加え、地震のメカニズムなど専門的な要素を取り入れた体験プログラム、ワークショップの実施などを視野に入れている。

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