蒸した酒米を冷却機へ移す=浜千鳥仕込み体験会
釜石市小川町の酒造会社、浜千鳥(新里進社長)は、今季の酒造り体験塾の第3弾「仕込み体験会」を2月19、20の両日、同社の酒蔵で開いた。約50人が参加し、もろみ造りのための各種作業に挑戦。各方面で高い評価を受ける同社の酒造りの一端に触れ、地酒への愛着を深めた。
原料の酒米の田植えから醸造、製品化まで一連の工程を体験できる同塾は、24年目となる人気の企画。本年度も5月の田植え、9月の稲刈りを経て、仕込みの日を迎えた。大槌町の田んぼで育てた酒米「吟ぎんが」は高温の蒸気で蒸した後、機械で冷却。冷ました米は仕込み場に運び、酒母が入ったタンクに投入。発酵を促すため櫂(かい)棒でかき混ぜる「櫂入れ」作業を行った。翌日の仕込み用の洗米も体験した。
甑(こしき)の蒸し米を掘り起こす作業はなかなかの重労働
冷ました米を2人1組で仕込み場のタンクへ運ぶ
米を投入し、かき混ぜる「櫂(かい)入れ」作業
作業場に立ち上る蒸し米の湯気。米を洗う水の冷たさ。櫂入れの音。冬の酒造りを五感で味わい、力の要る作業に協力して取り組んだ参加者は、心地よい疲労とともに充実感に浸った。
新型コロナウイルス禍の本年度は体験塾参加者を県内在住者に限定する。盛岡市の上田寛修(ひろのぶ)さん(40)、幸枝さん(49)夫妻は、釜石出身者が経営する盛岡の居酒屋で“浜千鳥”の味を知り大ファンに。体験塾は初参加で、「酒造りは思った以上に手間がかかっていて大変なんだと実感。もっとありがたく飲まなきゃ」と口をそろえ、「来年度はぜひ田植えから参加し、出来上がったお酒を味わいたい」と望んだ。
最後の工程「しぼり体験会」は3月20日に行う予定。オリジナルラベルの「ゆめほなみ本醸造」を完成させる。
インターン生の青山学院大・鈴木詩織さん 浜千鳥の魅力をSNSで発信
仕込み体験会の様子を撮影するインターン生の鈴木詩織さん(右)
19日、仕込み体験会の様子をスマートフォンのカメラで熱心に撮影していたのは、青山学院大3年の鈴木詩織さん(21)。2月8日から約1カ月間の予定で、同社のインターン生として滞在中。SNSによる情報発信を担っている。
2年時に復興・創生インターンで宮城の自然農園を訪問以降、地方での活動を重ねる鈴木さん。地域に根付く産業に興味があり、今回は「釜石人に愛され、長い歴史がある浜千鳥」を選んだ。初めて蔵人の作業を目にし、「米1粒1粒に気を配り、水につける時間も秒単位。全ての工程において丁寧に仕事をされている」と驚きの日々を送る。酒造りに真摯(しんし)に向き合う姿、蔵人の思いを肌で感じ、「もっと多くの人に知ってもらいたい」と写真や動画配信に余念がない。
体験会参加者との交流に笑顔を広げる鈴木さん
自身は神奈川県出身。釜石の豊かな自然環境にも注目し、「地域が育む水、米など地元資源を積極的に活用しているのが素晴らしい。そういう産業がどんどん広がっていけば」と地方の未来を描く。卒業後は、地方創生に関わる仕事も選択肢の一つとして考える。
外国人にも認められる味 国際的コンテストで「浜千鳥大吟醸」が最優秀賞
浜千鳥の酒は、昨年10月に行われた国際的日本酒コンテスト「第15回インターナショナル・サケ・チャレンジ」で優秀な成績を修めた。「浜千鳥 大吟醸」が大吟醸・吟醸の部で最優秀賞にあたるトロフィー賞を受賞。他に、純米大吟醸の部で2銘柄、純米吟醸の部で1銘柄が銀賞を受賞した。同社のトロフィー賞受賞は2018年、19年に続き3回目。大吟醸は2回目の受賞となる。
第15回インターナショナル・サケ・チャレンジでトロフィー賞を受賞した「浜千鳥 大吟醸」
同コンテストは、日本酒の価値を世界に広める目的で07年にスタート。国内外の酒類の専門家が審査員を務め、本年度は7部門で審査が行われた。金(21点)、銀(55点)、銅(56点)の各賞が選出され、金賞の中から、特にレベルの高い11点にトロフィー賞が授与された。
「浜千鳥 大吟醸」は原料米が山田錦、岩手オリジナル吟醸酵母「ジョバンニの調べ」を使用して醸造しており、同銘柄は本年度の東北清酒鑑評会でも優等賞を受賞している。銀賞受賞の3銘柄は原料米に岩手オリジナル酒米「吟ぎんが」「結の香」を使用。いずれも、こだわりの地酒が評価された形となった。
同コンテストは元々あったワインコンテストから派生。新里社長は「品質に加え、蔵元の個性が評価のポイントになっているよう。地域の米や酵母を使い、個性と品質を高めるという価値観が今、出てきている。私たちがやってきたことが認められるのは大きな励み」と喜ぶ。
トロフィー賞の授賞式は2月4日に東京都内のホテルで開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、4月に延期された。