挑戦!釜石湾口防波堤で波力発電 マリンエナジー実証試験開始、再生エネルギー「地産地消」目指す
釜石港湾口防波堤上に設置された波力発電の装置
釜石港湾口防波堤を舞台に、波の力で発電してエネルギーを地産地消する仕組みづくりに向けた実証試験が7月31日、始まった。釜石市内の4社が立ち上げた「マリンエナジー」(泉修一社長)を主体に、環境省から委託を受けて実施。波力発電装置の設計から製造、設置、システム開発、維持管理までを地元や県内事業者の技術を結集させた「オール岩手」の取り組みで、関係者は「地域活性化につながる」と期待を寄せる。既設の防波堤に波力発電装置を設置するのは世界初の試みでもあり、実用化されれば全国、世界への幅広い展開という可能性を秘める。
発電装置は、湾口防北堤に設置。波の上下動で空気の流れをつくりタービンを回転させる仕組みで、空気の通り道となるダクト・空気室とタービン発電機を備えた機械・電機室からなる。高い波用と低い波用の2種類のタービンを組み合わせているのが特徴で、AI(人工知能)を使って波の強さを予測し、状況に応じてタービンを切り替えることで効率よく発電させるという。発電した電気は1・5キロの海底ケーブルで新浜町にある陸上観測所に送られ、陸上養殖実験施設など水産業に役立つ機器で活用する。
報道向けの見学会で設備を紹介する泉社長
機械・電機室にある2種類のタービン
マリンエナジーは、市内にある及川工務店(海洋土木工事)、小鯖造船工業(造船)、アイ・デン(電気工事)、エイワ(繊維強化プラスチック〔FRP〕製造)の4社が出資する株式会社。技術指導などで東京大先端科学技術研究センターや釜石・大槌地域産業育成センターなど多数の機関が共同で取り組み、2020年度から環境省事業の「インテリジェント吸波式波力発電による地域経済循環ビジネスモデル実証事業」を進めている。期間は22年度までの3年間で、予算は約3億9000万円。実証試験では23年3月まで発電装置1台を運転させ、実用化に向けたデータ収集や検証を行っていく。
運転開始のボタンを押す泉社長(左端)ら
この日、観測所で運転開始式を行い、関係者ら約50人が出席。マリンエナジーの泉社長は「世界でも例を見ない防波堤を活用した波力発電システムの開発から普及まで、地域の力を結集して進めていく。漁業への利活用を中心とした経済循環による地域の活性化を目指す」と力を込めた。代表者ら5人が運転開始のスイッチを押し、実証試験をスタートさせた。
将来的には装置を5台に増やす計画も。その場合の年間発電量は一般家庭約80世帯分に相当する約33万2800キロワット時を見込む。設備の大半が海面上にある今回のシステムは設置工事やメンテナンスが比較的容易でコスト削減を図れるのがメリットの一つ。泉社長は「改良を進めて量産化につながれば、全国の港湾や離島、海外島しょ国への展開も期待できる」と先を見据えている。
実証試験の開始に喜びつつ、気を引き締める関係者ら
釜石新聞NewS
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