竹灯籠の点灯が始まった根浜の避難階段=11日
東日本大震災の津波で大きな被害を受けた釜石市鵜住居町根浜地区―。震災命日まで1カ月となった11日、地域の高台へと続く避難階段に手作りの竹灯籠が設置された。犠牲者を追悼し、防災意識を高める取り組みは今年で2年目。灯籠の明かりが“命を守る道”を温かく照らす。3月まで、土日祝日の午後4時から同7時まで点灯される(3月26日最終)。
11日は午後5時から点灯式が行われ、灯籠作りに参加した家族や地域住民らが集まった。地元町内会「根浜親交会」の佐々木三男会長(61)が発電機の点灯スイッチを入れると、夕闇に光の階段が浮かび上がった。参加者らは階段を上り、高台避難を疑似体験。いざという時の行動を体で覚えた。
111段の避難階段は、震災後に整備された根浜海岸観光施設「根浜シーサイド」の敷地と海抜20メートルの市道箱崎半島線をつなぐ。施設内のキャンプ場から最短で高台に上がれるルートで、2021年春に完成した。竹灯籠の設置は、同施設を管理するかまいしDMC(河東英宜社長)が発案。灯籠の製作体験会も開き、市民らと思いを共有する。今年は54個の灯籠を作り上げた。明かりのLED豆電球の電力は、地域から出る廃食油を精製したバイオディーゼル燃料で発電し、環境に配慮する。
午後5時からの点灯式には家族連れらが参加した
辺りが暗くなるにつれて幻想的な光景が広がる
製作体験にも参加した東京都出身の永井淳子さん(40)は「すごくきれい。避難階段の周知も兼ねていると聞き、とてもいい取り組み」と感動。青年海外協力隊員の事前研修で1月から釜石市に滞在中。12年前の震災についても学び、「津波被害の大きさを知ることができた。今まで自宅周辺の避難場所も意識したことがなかったので、戻ったら確認しなければ」と防災への関心が高まった様子。
根浜地区在住の男性(40)は妻、生後5か月の子どもと足を運んだ。「避難階段には日ごろから散歩で来ている」というが、竹灯籠の点灯を目にするのは初めて。美しい光景を記憶にとどめた。震災の津波で同地区にあった自宅を失い、集団移転で新たに造成された高台の団地に再建。「今は少しは安心かな…。子どもが成長したら、機会あるごとに震災のことも教えていきたい」と話した。
自分たちで作った竹灯籠を見つめる親子
キャンプ場近くに設置されている避難階段。津波発生時の迅速な高台避難が可能
階段の上り口には根浜地区の津波避難場所を示す看板も立てられている
同キャンプ場には昨年7月、区画を定めないフリーサイトもオープン。利用客が増える夏季には40~50組が滞在する可能性がある。根浜シーサイドでは利用客へ複数の避難経路を周知。竹灯籠の点灯は、地域住民や周辺の通行車両などにも避難階段の場所を知ってもらう狙いがある。