東日本大震災の発生から間もなく12年となる沿岸被災地―。津波で大きな被害を受けた釜石市鵜住居町では犠牲者を追悼する準備が進む。キャンプ場などを有する観光施設「根浜シーサイド」は、敷地と高台の市道をつなぐ避難階段に設置する竹灯籠を製作中。1月28、29の両日は、一般向けの製作体験会が開かれた。階段での点灯式は2月11日午後5時から行われる。
同活動は観光施設の市指定管理者かまいしDMC(河東英宜社長)が、震災犠牲者の追悼、避難意識の啓発などを目的に昨年から実施。2年目の今年も震災命日の1カ月前から点灯するため、竹灯籠づくりが行われている。市民らと思いを共有しようと、今回も製作体験会を企画。2日間で約50人が参加した。
材料となる青竹は地域住民の協力で、根浜周辺の竹林から約15本を切り出してもらった。灯籠は直径10センチほどの竹の表面に電動ドリルで穴を開けた模様を施し、中に入れるLED豆電球の明かりが漏れるように細工。体験会参加者はその穴開け作業を行った。持ち帰り用の丈の短い灯籠を作った後、階段設置用の長い灯籠にも挑戦した。
市内の家族らが参加した竹灯籠づくり体験会=1月28日午後・根浜レストハウス
竹の表面に貼った型紙の模様に沿って電動ドリルで穴を開けた
頑張って完成させた持ち帰り用の竹灯籠を手に笑顔を見せる兄弟
甲子町の松田翔希君(12)は家族4人で初めて参加。「大小いろいろな穴があって開けるのが大変だったけど楽しかった。出来栄えは95点」と満足げ。震災時は0歳で記憶はないが、学校の防災授業などで当時のことを学んできた。「家や学校は津波の恐れはないが、海の近くにいる時に大きな地震が起こったら、すぐに高い所に逃げられるようにしたい」と気を引き締める。
平田の吉岡敬蔵さん(48)、真美さん(46)夫妻は昨年に続いての参加。桜の花模様とともに「光あれ」という文字を刻み、「未来への希望」を込めた。震災後、キリスト教会の支援メンバーとして大阪から移住。大町に開設する釜石アメイジンググレイス(AG)センターを拠点に被災者支援を続けてきた。10年を区切りに現地での活動から撤退した組織も多いが、「私たちはいられる限り残ってお役に立ちたい。1本1本の竹灯籠が集まって大きな光となるように、自分たちもこのまちの希望の一翼になれれば」と願った。
出来上がりを楽しみにしながら作業に集中!
同観光施設は、津波で被災した根浜集落跡地に2019年8月オープン。キャンプ場のほか、天然芝の広場や海水浴客が利用可能な大型駐車場を備える。キャンプ場から最短距離で高台に上がれる避難階段は21年春に完成。有事の際の利用のほか、高台移転した地区住民らの散歩コースとしても活用される。
根浜の避難階段の手すりに設置された竹灯籠=昨年の点灯式で撮影
避難階段には約50本の竹灯籠をともし、市内外から訪れる人たちにその場所を知ってもらう機会とする。明かりとなるLED電球の電力は、地域から排出される廃食油を精製したバイオディーゼル燃料で発電。環境に配慮した取り組みで、脱炭素社会実現への機運も高める。
同DMC地域創生事業部の佐藤奏子さん(44)は「美しい光景を記憶に残し、各家庭で震災伝承や防災意識醸成につなげてもらえれば。バイオ燃料や地域材の使用により、未来の暮らし方にも目を向けるきっかけになれば」と期待する。竹灯籠の点灯は2月11日から3月26日までの土・日曜と祝日に行う予定。