震災後、新設された片岸町の防潮堤を見学する「いわて復興未来塾」の参加者
2022年度第1回いわて復興未来塾(いわて未来づくり機構主催)は2、3の両日、東日本大震災の被災地・釜石市で開かれた。各分野で本県の復興に携わってきた人らが講演や座談会でこれまでの歩みを振り返り、伝承や発信、自治体間連携などについて意見を交わした。津波で被災した現場を訪れる体験プログラムもあり、参加者は11年前を思いながら、防災への心構えを新たにした。
2日、大町の釜石PITでは基調講演や事例報告、座談会が行われ、県内外から約70人が参加。IBC岩手放送メディア戦略部シニアマネジャーの相原優一さんは、自社が取り組んできた震災復興の情報発信、記憶の伝承について講演した。
デジタル技術を活用した震災伝承について話すIBC岩手放送・相原優一さんの基調講演
同社はVR(仮想現実)映像で津波石碑や震災遺構を記録し月命日にWEB上で公開したほか、学校でのVR体験授業、放送と新聞の融合による情報発信など、画期的なデジタルコンテンツを展開してきた。相原さんは、メディア環境の変化で「伝えているつもりでもなかなか届かない」状況を指摘。既存報道に加え、SNSやVR、AR(拡張現実)などデジタル技術を用いた伝達手法の必要性を示し、「これからは情報をデザインして、いかに分かりやすく伝えるかが大事。震災を知らない子どもたちでも理解できるようなコンテンツが求められる」と話した。
遠野市消防本部の千田一志さんは後方支援拠点となった同市の取り組み事例を紹介した
遠野市消防本部消防長の千田一志さんは、沿岸被災地の後方支援拠点となった同市の経験を紹介した。震災前の2007年に三陸地域の地震災害を見据えた後方支援拠点として名乗りを上げ、対応する防災訓練を重ねてきた同市。発災直後から救援部隊の受け入れ準備を開始し、炊き出しなど官民一体の活動で沿岸被災地を支え続けた。
千田さんは自治体間の横の連携「水平連携」の有効性にも着目。震災では被災自治体の要請を待たずして自ら情報収集し、適切な支援策を展開したが、これは超法規的対応でもあったため、「今後は横の連携を支える責任、権限、財源を踏まえた新しい仕組みの構築が必要」と訴えた。
応援職員OBによる座談会。赴任時を振り返った
震災後、本県被災地に派遣され、復興業務を担った東京、大阪、長野、愛知4都府県の自治体職員らが座談会。赴任時に手掛けた仕事の思い出や各自治体に戻って生かされていることを語り合った。
長野県職員(土木技師)の坂田健剛さんは県沿岸広域振興局宮古土木センターで防潮堤の避難階段設置工事などを担当。「仕事に取り組む姿勢、地域住民への丁寧な対応と、見習うべき点が多かった。『津波てんでんこ』のような地域の教訓が生かされていることも素晴らしい」と振り返った。
東京都職員の鍵本拓哉さんは県復興局での勤務を通じ、現地を見て生の声を聞く重要性を痛感。「発言の裏の背景、込められた気持ちをしっかり汲みとって住民の要望に応えることが大事。都の仕事にも生かしていきたい」と思いを強くした。
会場参加者から登壇者への質問も。震災の記憶を未来につなぐヒントを得た
3日は、震災の津波で大きな被害を受けた鵜住居町で現場体験プログラムが行われた。約30人が参加。震災伝承施設「いのちをつなぐ未来館」で市内の被災状況、当時の避難行動を学んだ後、地元小中学生がたどった避難コースを追体験。案内したのは当時、釜石東中の2年生で、同避難を体験した川崎杏樹さん(現いのちをつなぐ未来館スタッフ)。日ごろの防災学習の大切さを挙げ、「災害は必ず起きるととらえ、命を守るための備えを家族と一緒に考えてほしい」と呼び掛けた。
いのちをつなぐ未来館(鵜住居町)で釜石市の被災状況を学ぶ
地震発生後、津波から逃れるため小中学生がより高い場所へと駆け上がったルートを追体験
新設された鵜住居川水門と一体的に整備された片岸町の防潮堤も見学。震災の教訓を生かしたハード、ソフト両面の復興を知る機会になった。
4月に名古屋市から陸前高田市へ派遣された応援職員、早川佳孝さん(28)は「当時のことを知る人から話を聞くのはためになる。水門の機能も興味深かった。次の災害に備え、もう一段階進めた復興が大事」。名古屋市は南海トラフ地震の被災想定エリアに入っているが、住民の防災意識、備えへの実際の行動はまだ伴ってこない実態があるといい、「自分が勉強して教訓を名古屋に持ち帰り、住民に伝えたい」と意気込んだ。
鵜住居川水門のゲートをのぞき込む参加者。津波発生時は衛星回線でゲートを自動的に閉鎖する
同塾は、県内の産学官で構成する同機構が2015年に開始。年2~3回、盛岡市や沿岸市町村で開催する。今回は新型コロナウイルス感染拡大防止も視野に、会場の模様をインターネット番組で生配信した。