「浜千鳥酒造り体験塾」の田植え体験。塾開催は25年目を迎えた
釜石市小川町の酒造会社、浜千鳥(新里進社長)が開く「酒造り体験塾」が今年も始まった。5月29日、同社に酒米を供給する大槌町の農家の田んぼで田植え体験会が行われ、子どもから大人まで約70人が手植え作業に汗を流した。同社が大槌産の酒米を使うようになって今年で20年目。品質の良い「吟ぎんが」で仕込まれた地酒は、各種鑑評会や国際コンテストで高い評価を受ける。塾参加者は地元の自然の恵みと蔵人の技で造られる酒に思いをはせながら、今後の体験を心待ちにした。
新型コロナウイルス禍で過去2年は形を変えて行われてきた田植え体験。今年は休止していた神事を復活させ、時間をずらした2部制開催を一斉作業に戻すなど制限緩和を図った。神事では杜氏(とうじ)の奥村康太郎さん(41)が田んぼにくわ入れし、参加者の代表が植え始めの儀式を行った。
奥村康太郎杜氏による田んぼへのくわ入れの儀式
田んぼの所有者・佐々木重吾さんから苗の植え方の説明を聞く
田んぼの所有者・佐々木重吾さん(65)から植え方の説明を受けた後、一列に並び苗植えを開始。スタッフが張るロープに沿って丁寧に植え付けていった。抜けるような青空、目にも鮮やかな新緑、心地よい薫風―。参加者は季節感も味わいながら作業に精を出し、1時間半ほどかけて約7アールの田んぼへの植え付けを完了した。
腰をかがめての作業は重労働。昔ながらの手植え
素足の参加者は、ぬる水の泥の感触も楽しく!
ボーイスカウト釜石第2団は同体験塾の田植え、稲刈り参加の常連。この日は団員と保護者、指導者ら20人が訪れた。山崎健太君(平田小5年)は2回目の田植え。「今回は(苗が)あまり倒れることなく植えられた。農業に触れるとやさしい気持ちなる。自分たちが植えた米がお酒という商品になるのもうれしい。大人になったら飲んでみたい」と声を弾ませた。
田植えを楽しむボーイスカウト釜石第2団の団員
釜石市小佐野町の小国亜紀さん(46)は、夫が同塾に協力する大槌町の青年団体「波工房」のメンバー。自身も何度か田植えを経験するが、「今日は暑かったせいか大変だった」と農業の苦労を感じた様子。「日本酒は得意ではないが、浜千鳥のお酒だけは好きで飲む。他地域の方に送ると喜ばれ、リクエストされることもしばしば」と魅力を語り、体験塾で手にする完成品にも期待した。
次回の体験塾は稲刈り。9月下旬か10月上旬の実施を予定する。
「大槌産吟ぎんが」で仕込む酒 高評価、認知度拡大で浜千鳥の“顔”に
大槌町で浜千鳥に供給する酒米生産が始まったのは2003年。地場産米での酒造りを模索していた新里進社長が佐々木重吾さんに協力を求めたのがきっかけだった。佐々木さんは地元農家と「大槌酒米研究会」(佐々木会長)を立ち上げ、岩手オリジナル酒米「吟ぎんが」の生産に着手。メンバーを増やしながら徐々に作付面積を拡大し、今では5個人、1法人(農事組合法人大槌結ゆい=佐々木代表理事)で約20ヘクタールを耕作するまでになった。近年では年間70トン以上を供給する(昨年実績72トン)。
現在、同社が使う酒米の5割近くが大槌産。銘柄に「吟ぎんが」の名前が入る商品は全て“大槌産”に切り替わり、本年度から特別純米酒にも使われる予定だという。新里社長(64)は「米は酒の品質に直結する。同一地域から一定品質の米を安定的に仕入れられるのは非常にありがたい」と感謝。「大槌産吟ぎんが=浜千鳥」という地域ブランドの認知拡大も実感し、同研究会と歩んできた20年の重みをかみしめる。
浜千鳥の新里進社長(右から3人目)=2020年酒造り体験塾・稲刈り
研究会では米の品質向上を目指し、関係機関の指導のもと課題解決に向けたさまざまな取り組みも重ねてきた。「20年を振り返ると感慨深い」と佐々木さん。大槌産吟ぎんがで最初に生まれた酒「ゆめほなみ(夢穂波)」は町民にも愛される。「まちをあげて利用してもらっている感があり、生産者としてもうれしい」。地元ラグビーチームを応援する商品企画など地域密着の同社の企業姿勢にも共感し、「釜石・大槌の元気の源に自分たちも少し貢献できているかと思うと大きな励みになる」と話した。
大槌酒米研究会会長として同地域の酒米栽培をけん引してきた佐々木重吾さん(中央)=2018年酒造り体験塾・田植え
大槌町では今年、地元の豊富な湧水を活用したまちおこしの一環で、民間企業ソーシャル・ネイチャー・ワークスが浜千鳥の協力を得て「源水の湧水」と「大槌産吟ぎんが」で仕込んだ地域おこし酒を醸造。7月3日に行われる源水生き物観察会での試飲を予定する。