海図刊行150周年―第1号の地・釜石で記念講演会 郷土の歴史を知る手掛かりに
海図第1号「陸中国釜石港之図」の刊行150年を記念し開かれた講演会
日本人の手だけで初めて作られた海図第1号「陸中國釜石港之圖(りくちゅうのくにかまいしこうのず)」の刊行150周年を記念した講演会(第2管区海上保安本部、釜石海上保安部など主催)は5月29日、釜石市大町の市民ホールTETTOで開かれた。新型コロナウイルスの流行が続く中、ユーチューブのライブ配信を取り入れて行い、会場参加と合わせて約130人が聴講。「海図の歴史を巡る」をテーマにした3人の講演を通じ、海洋での活動に不可欠な海図の重要性、歴史的背景や意義について理解を深めた。
海図は、船が安全に航行できるよう海岸の地形や水深、灯台などの目標物を分かりやすく示した地図。海上保安庁海洋情報部の藤田雅之部長が海図の必要性や測量技術の変遷などを解説した。1872年(明治5年)、当時の兵部省海軍部水路局(現同海洋情報部)が刊行した「陸中國釜石港之圖」の特徴も紹介。釜石港が第1号の地に選ばれた背景について、▽東京―函館間航路の重要な補給地点▽官営製鉄所の開業を控えていた―ことなどを挙げ、近代化を進めるための重要な港湾だったと強調した。
海図作成の歴史を振り返り、教育現場での活用を提案した小林准教授
京都女子大文学部史学科の小林瑞穂准教授(日本近現代史)は第1号海図作成の背景について、「釜石は陸路が狭く、海からの輸送の実績があったからこそ、製鉄につながったのではないか。鉄という重要な資源の損失を出さないために測量、海図作成の重要性が増したと考えられる。釜石港之図は『鉄の都釜石』の証しでもある」などと歴史的意義を独自の視点で示した。
「海図は近代日本の殖産興業の礎となり、外交方針に果たした役割も重要だ」と指摘し、釜石港之図を日本史や地理、社会科の教材として教育現場で生かすことを提案。海図の更新は現在も海上保安庁によって行われており、東日本大震災の影響で変化した地形の情報も正確に反映している。震災を記憶する歴史資料としても重要で、保存と活用を期待。「歴史の証言者として、のちの釜石人に役立つもの。しっかりと受け渡してほしい」と求めた。
来場者は歴史の深さを感じながら専門家の話に聞き入った
浜町の曳船・内航運送業、海洋曳船の星野諭社長は「岩手三陸地域海上交通の今、昔」と題して講演。港湾内で他の船を押したり引っ張ったりするタグボートの歴史や種類を説明し、釜石港の変遷を紹介した。
海図の歴史などを紹介するパネル展示。興味津々に見つめる姿があった
会場では、第1号海図を印刷するために手彫りで作られた銅板や海図の歴史などを紹介するパネル展示も。第2管区海上保安本部の宮本伸二本部長は「海図第1号刊行の地で、綿々と培われてきた歴史、測量技術に触れ、海に理解を深めてほしい。海とともに生きてきたまち、先人たちに思いをはせる機会に」と期待した。
釜石新聞NewS
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