タグ別アーカイブ: 産業・経済

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吟醸も純米も、釜石の酒といえば…浜千鳥! 東北清酒鑑評会でダブル受賞、3年連続

東北清酒鑑評会で優等賞を受賞した浜千鳥の社員ら

東北清酒鑑評会で優等賞を受賞した浜千鳥の社員ら

  
 釜石市小川町の酒造会社、浜千鳥(新里進社長)は2022年の東北清酒鑑評会(仙台国税局主催)吟醸酒、純米酒の2部門で優等賞を受賞した。春の全国新種鑑評会(独立行政法人酒類総合研究所主催)で金賞受賞酒の3分の1を東北6県が占め、その東北産を評価する東北鑑評会での入賞は「全国より難しい」との声もある中で、3年連続のダブル受賞。新里社長は素直に喜びつつ、「地域に根差し、個性を生かした酒造りのため材料、技術を磨いて品質向上に励んでいく」と前を向く。
  
 東北清酒鑑評会は、清酒の製造技術と品質の向上を目的に毎年秋に開かれる。21酒造年度(21年7月~22年6月)に造られた清酒が対象。6県の142製造場(岩手県17製造場)から271点(同33点)が出品された。部門別では吟醸酒が120場137点(同12場14点)、純米酒は116場134点(同14場19点)。
   
 予審を経て10月7日に仙台市青葉区の国税局で決審があり、外国人2人を含む21人の評価員(国税局鑑定官、管内の指導機関職員、製造場の技術者など)が味や香りなどを評価。吟醸酒は41製造場の43点、純米酒は44製造場の47点を優等賞に選んだ。本県からは両部門で9製造場が受賞し、浜千鳥を含む3製造場がダブル受賞となったが、最優秀賞、これに次ぐ評価員特別賞の上位入賞はなかった。
   
釜石税務署の郡晴雅署長から表彰される浜千鳥の新里進社長(左)

釜石税務署の郡晴雅署長から表彰される浜千鳥の新里進社長(左)

   
 表彰式は11月16日に同社で行われ、釜石税務署の郡晴雅署長が表彰状を伝達。新里社長、奥村康太郎杜氏(とうじ)・醸造部長が受け取り、社員らと喜びを分かち合った。インバウンド消費や輸出促進に役立ててもらうため、英語の賞状も授与された。
   
 吟醸酒の部受賞の「浜千鳥 大吟醸」、純米酒の部受賞の「浜千鳥 純米大吟醸 結の香」は、共に岩手オリジナル酵母「ジョバンニの調べ」で醸造。麹(こうじ)菌も岩手オリジナル「Roots(ルーツ)36」を使う。純米大吟醸は本県最上級のオリジナル酒米「結の香」を原料とする。東北鑑評会ではここ5年で4回がダブル受賞。新里社長は自社製品に自信を見せながら、「岩手産の良さが認められた」と県全体の評価の高まりも実感し喜びを倍増させた。
   
地域の個性を生かし造り上げた代表銘柄「浜千鳥」を紹介する新里社長(左)

地域の個性を生かし造り上げた代表銘柄「浜千鳥」を紹介する新里社長(左)

   
 東北鑑評会には、冬場に仕込み、夏場に細心の注意を払って管理、熟成させた非常にレベルの高い清酒が出品され、製造技術の優劣も評価の要素となる。郡署長は「県内には地域の特産物を使ったこだわりの酒蔵が多い。その地でとれたものをさかなに酒を飲む…幸せなこと。おいしい岩手の酒のレベルがさらに上がることを期待」と酒好きの一面をのぞかせた。
 

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地元食材で「まるごと釜石給食」 試験養殖のサクラマス初登場 児童ら「おいしー!」

「まるごと釜石給食」を味わい、笑顔を広げる釜石小の3年児童

「まるごと釜石給食」を味わい、笑顔を広げる釜石小の3年児童

 
 釜石市内の全小中学校(小9・中5)で14日、地元食材を使用した「まるごと釜石給食」が提供された。地産地消、地域の農・水産業への理解促進を狙いに、市学校給食センターが実施。釜石湾での試験養殖が2年目を迎えた「釜石はまゆりサクラマス」も初めてメニューに採用された。釜石小(及川靖浩校長、児童92人)の3学年(10人)教室では市関係者4人が同席し、児童らと一緒に給食を味わった。
 
 この日の献立は▽釜石はまゆりサクラマスの塩こうじ焼き▽じゃがいものそぼろ煮▽三陸ワカメのみそ汁▽ご飯▽リンゴ▽牛乳―。地元で生産されたサクラマス、ワカメ、コメ(ひとめぼれ)、ジャガイモ、ダイコン、ハクサイ、ネギ、リンゴが使われた。釜石小3学年教室では食べる前に、市学校教育課学校給食センターの菅原良枝栄養教諭が食材について説明。「釜石のものを食べて元気に育ってほしいという地域の皆さんの願いがこもった献立です。感謝しながらよく味わって食べよう」と呼び掛けた。
 
サクラマスなど、釜石の味を楽しみにしながら給食の準備

サクラマスなど、釜石の味を楽しみにしながら給食の準備

 
食べる前に給食の献立と使われている食材について説明を受けた

食べる前に給食の献立と使われている食材について説明を受けた

 
 全員で「いただきます」と声を合わせ、昼食を開始した。給食初登場の釜石産サクラマスはほとんどの児童が初めて口にする魚。センター職員によると、今回は「うまみ、香りをシンプルに味わってもらおう」と塩こうじ焼きにしたという。小学生には40グラム、中学生には60グラムの切り身で提供された。児童らは新米のご飯とおかずを交互に口に運び、地元食材の素晴らしさを実感した。
 
黒板に掲げられた食材を確かめながら箸を進める

黒板に掲げられた食材を確かめながら箸を進める

 
初めて給食に出された釜石産サクラマスをいただく。さて、お味は?

初めて給食に出された釜石産サクラマスをいただく。さて、お味は?

 
 畝岡蓮恩君は「初めて食べたサクラマスは脂が乗っていておいしかった」と大満足。福士愛梨さんもサクラマスの味を気に入り、「釜石の海で養殖されていると聞きびっくり。もっといっぱい食べられるようになるといい」と期待した。
 
 同センターの山根美保子所長は「釜石にもおいしい農水産物があることを知ってほしい。これからも釜石産食材をできるだけ給食で提供していければ」と話す。センターでは今月11日には「鮭の日」にちなんだ給食を提供。8日の「いい歯の日」にちなみ、7日から11日まではかみごたえのある献立を取り入れ、子どもたちの食への関心を高めた。

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大学の知見をまちづくりに 「海と希望の学園祭」 釜石市・東京大連携協定記念で

「海と希望の学園祭」を太鼓演奏で盛り上げる重茂中(宮古市)の生徒

「海と希望の学園祭」を太鼓演奏で盛り上げる重茂中(宮古市)の生徒

 
 海と希望の学園祭(釜石市主催)は5、6の両日、同市大町の釜石PIT、市民ホールTETTOで開かれた。共同研究や技術開発、地域振興など各種分野で連携する同市と東京大3研究所の協定締結を記念し初めて開催。海洋研究や地域産業に関わる講演やパネル討論、楽しく海に親しむワークショップなど多彩な催しが行われ、幅広い年代が学びを深めた。
 
 同市と同大は2006年の同大社会科学研究所(社研)による「希望学」釜石調査を機につながり、東日本大震災後は「危機対応学」という新たな分野で研究連携を続けてきた。そうした実績を基に本年3月、社研、大槌町に研究施設を持つ同大大気海洋研究所、市の3者で「連携協力の推進に関する覚書」を締結。7月には、釜石港で実証試験が始まった波力発電の技術指導を行う同大先端科学技術研究センター(先端研)と市で「連携及び協力に関する協定」を締結した。
 
 記念の交流イベントとなった同祭。大気海洋研はヒトデやヤドカリ、ウニ、アメフラシなど海の生物に触れられるコーナーを開設し、来場者に生態などを教えた。中にはウニの一種ながら、硬貨のような平たい形状の「ハスノハカシパン」も。一般にはなじみのない生物で、来場者は興味深げに見入った。
 
海の生物に触れられるタッチプール。左下拡大は「ハスノハカシパン」

海の生物に触れられるタッチプール。左下拡大は「ハスノハカシパン」

 
 担当者の説明を熱心に聞いていた三浦海斗君(釜石中2年)は「いろいろな生物の特徴や生息場所を知れた。海には友だちとよく釣りに行く。今度行った時は、探してみたい」と貴重な学びを得た様子。「生き物に直接、触れられるのは面白い。これからもこういうイベントを続けてほしい」と望んだ。
 
 樹脂で作った海の生物フィギュアで注目を集めたのは大槌町のササキプラスチック(SASAMO)。魚やウニ、ホヤなどの身近な生物のほか、深海に生息する甲殻類の一種「オオグソクムシ」の大きなフィギュアがひときわ目を引いた。景品がもらえるキャスティングゲームもあり、釣りの楽しさも疑似体験できた。
 
ササキプラスチック製作海の生物フィギュアに目がくぎ付け。深海生物は重さもずっしり(右下)

ササキプラスチック製作海の生物フィギュアに目がくぎ付け。深海生物は重さもずっしり(右下)

 
 釜石海上保安部の海洋調査業務の展示、文京学院大の工作コーナー、海洋環境問題に関する映画上映も。大気海洋研との連携で「海と希望の学校」事業に取り組む重茂中(宮古市)の生徒35人は、学校で伝承する剣舞、鶏舞、魹埼太鼓を披露し、同祭を盛り上げた。
 
自分の船の位置を知るための角度測定に使う「六分儀」を体験する子ども=釜石海上保安部の展示

自分の船の位置を知るための角度測定に使う「六分儀」を体験する子ども=釜石海上保安部の展示

 
重茂中の生徒は郷土芸能「鶏舞」などを披露し、来場者を楽しませた

重茂中の生徒は郷土芸能「鶏舞」などを披露し、来場者を楽しませた

 
 講演やトークイベントは7プログラムを開催。3研究所の教授や准教授らが各種テーマで講演したほか、地元の観光や産業関係者を交えてのパネル討論などを行った。「海と希望のまち釜石~未来への船出~」をテーマとしたパネル討論には、教授3人と野田武則市長、かまいしDMCの河東英宜代表取締役が登壇。海洋環境、再生可能エネルギー、海を生かした観光、人材育成など多様な視点で意見を交わした。
 
 大気海洋研所長の河村知彦教授(海洋生態学、水産資源生物学)は海洋環境への関心喚起について「海の中は見えない。研究者が一般の人に伝え、みんなで共有していく必要がある。見えない部分に想像を働かせ、問題や可能性を見いだすことが大事」と述べた。先端研所長の杉山正和教授(再生可能エネルギーシステム)は地域におけるエネルギー政策について「資源はそれぞれ違う。画一的プランではなく、その地域ならではのロジック(論理、筋道)を作っていくことが重要。若い世代が自分たちの未来を考えるワークショップをしたり、地域の事情に合わせた展開が理想」とした。
 
5人が登壇した「海と希望のまち釜石」パネル討論。持続可能な未来へ意見を交わした

5人が登壇した「海と希望のまち釜石」パネル討論。持続可能な未来へ意見を交わした

 
パネル討論に聞き入る来場者

パネル討論に聞き入る来場者

 
 観光事業を行うDMCの河東代表取締役は「地域の魅力を生かしきれていない」との外部からの指摘に「増えている移住者の視点、地元住民の協力で魅力の掘り起こし、磨き上げ、発信に努めているところ。眠っている資源はまだまだある」と今後の可能性を示唆。野田市長は震災で発揮された防災教育の効果を例に挙げ、市民の学びの場の必要性に言及。「釜石は常に困難を乗り越えてきた歴史があるが、人口減もあり、次世代がその力を持ち続けられるかという不安もある。これからは多くの学びの中で気付きや感性を得て、課題解決に向かう力を養っていかなければならない」と話した。

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働くことにワクワクを! 若手社員、異業種交流セミナー 「未来の釜石」テーマに話し合う

期待するまちの将来像を発表する若手社員ら

期待するまちの将来像を発表する若手社員ら

 
 釜石市内の企業などで働く若手社員を対象とした「私たちがワクワクする働き方セミナー」(ジョブカフェかまいし主催)の最終講座が9日、港町のイオンタウン釜石内にある「しごと・くらしサポートセンター」で開かれた。社会人1~3年目の若者約20人が同年代との対話を通じ未来のまち、自身の姿を考えて発表。普段の働き方や自らの性格を見つめ直す機会にした。
 
 このセミナーは若手社員のキャリア形成支援や主体性の向上、同世代交流、職域を越えたコミュニティーづくりなどを目的に企画された。市内の民間事業所や行政機関など14団体の若手社員・職員ら計22人が参加。「釜石の未来」をテーマに個人やグループワークを行いながら個人の目標設定、望むまちの姿とそのために自分ができることを9月から2回にわたって考えてきた。
 
「未来の釜石」をテーマに話し合いをする参加者

「未来の釜石」をテーマに話し合いをする参加者

 
 最終回となる今回は、グループワークでまとめた成果や活動の中で発見したり確信したりした仕事や地域への思いなどを、派遣企業の経営者や人事担当者ら約20人を前に発表した。未来のまちについて、「夢物語」としつつ娯楽・商業施設の整備を語る人がいれば、「きらびやかなものを目指す必要はない」とした上で豊かな自然や地域資源を生かしレジャー、スポーツイベントの充実を提案する声もあった。
 
話し合いの成果をグループごとに発表した

話し合いの成果をグループごとに発表した

 
 未来に向けてできることとして共通していたのは、SNS(会員制交流サイト)を使った情報発信。「こういうのが欲しいな―と考え調べてみると、すでに存在していた。情報を知らない人が多く、周知が課題だと感じた。SNS発信は若い世代が得意とする分野。積極的にやっていけば、住みやすいまちになるはず」などと強調した。
 
 最後に、参加者それぞれが「宣言」。与えられた業務をこなすばかりで仕事に対し受け身だったと振り返った女性は「チャレンジをテーマに、できることを考えながら仕事したい」と力を込めた。仕事で注意されることが多く、後ろ向きな気持ちになっていたという若者は「ダメと言われても、やってやる!という気持ちになった」と前向きな姿勢を取り戻した様子。職場と家の往復という生活に視野の狭さを感じていた人は、同じ地域で暮らす多様な人との対話を通して「やっぱり釜石が好きだ」と再認識し、笑顔になった。
 
言葉を紡ぎながら「釜石が好き」という思いを深めた発表者

言葉を紡ぎながら「釜石が好き」という思いを深めた発表者

 
未来に向けてできることを書き出してみたり

未来に向けてできることを書き出してみたり

 
 産業振興釜石事業所(鈴子町)に就職して2年目の平野雅典さん(20)は「目標もやりたいこともなかった。同世代と話し意見を聞いて、ないものを見つけられた」と手応えを実感。趣味の釣りに行ったときは周辺のごみ拾いをして環境美化に協力、職場ではしっかりと仕事を覚え後輩に助言できるようにする―という目標を見いだした。
 
 釜石市地方創生アドバイザーで、女性の就労・キャリア形成支援などに取り組む「Will Lab(ウィル・ラボ)」(東京)代表の小安美和さんの講話も。「やりたいこと(will)」「できること(can)」「なすべきこと(must)」を考える自己理解作業などを紹介し、「自分を知り、対話することが大事。小さいwillでも言葉にすれば道が開ける。長距離の人生を生き抜くため、新しいことを学び続けてほしい」と激励した。
 
若手社員らの活動を見守り、助言した小安さん(中)

若手社員らの活動を見守り、助言した小安さん(中)

 
 トヨタレンタリース岩手釜石駅前店(鈴子町)の佐々愛佳さん(20)は「まちづくりについて考える過程は、仕事に対するモチベーションUPにつながる」と刺激を受けた。自己理解の手法で、これまでの働き方を見つめ直した様子。「レンタカーを利用するのは市外の方が多い。釜石ラーメンやまちの歴史について聞かれることもある。まちの魅力を発信できるようにしたい」とうなずいた。
 
セミナーに若手を送り出した企業関係者を交えて意見交換

セミナーに若手を送り出した企業関係者を交えて意見交換

 
 セミナーで同世代とざっくばらんに語り合い、「気づき」を得た若者たちの表情は明るかった。ジョブカフェかまいしでは今後も、人生そのものとも言える「キャリア」を主体的に考えるきっかけ、業種を超えた緩やかなつながりを促す場づくりを進めていく考えだ。
 

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釜石大観音仲見世通りに子連れオフィス「LIFULL FaM」 空き家改修しオープン

作業デスクに子どもと並んで座り、仕事をする母親

作業デスクに子どもと並んで座り、仕事をする母親

  
 働く母親が子どもを連れて出勤できる「子連れオフィス」が4日、釜石市大平町の釜石大観音仲見世通りに開所した。同市と東京都の不動産情報サービス業LIFULL(ライフル、井上高志社長)が結ぶ連携協定の一環で整備。テレワーク普及など働き方改革に関わる事業を行う同市のロコフィル(佐藤薫代表社員)が管理運営する。空き店舗を地域住民やボランティアの力を借りて改修。キッズスペースを備え、未就学児を持つ母親らの仕事と育児の両立を応援する。
  
子連れワークができるオフィス「LIFULL FaM釜石」

子連れワークができるオフィス「LIFULL FaM釜石」

 
釜石大観音仲見世通りの空き家を改修しオープン

釜石大観音仲見世通りの空き家を改修しオープン

 
 施設名は「LIFULL FaM(ライフル・ファム)釜石」。同通りにある木造2階建ての空き家を改修。延べ床面積は約70平方メートルで、1階は遊具などを置くキッズスペース、2階がテレワーカーの作業デスクなど配置したワークスペースで仕事や打合せなど多目的に利用することができる。
 
 同市とライフルは今年2月に結んだ連携協定に基づき、未就学児を持つ母親らの就労支援を促進。育児しながら仕事を通じてスキル取得やキャリアアップを目指すことができる新たな働き方として、Webマーケティングなどのテレワークへの挑戦を応援する。本年度は6~8月にテレワーカー育成研修を実施。修了生で、ロコフィルスタッフとして登録した人などの施設利用を想定する。
 
関係者がテープカットし、開所を祝った

関係者がテープカットし、開所を祝った

 
 この日、現地で開所式があり、関係者がテープカットで祝った。野田武則市長は「人口減に歯止めをかけるため、地元で暮らしながら、やりたい仕事ができるまちを目指したい。若者、子育て中の女性たちが活躍する拠点を温かい目で見守ってほしい」と願った。
 
 式の後には内覧会も。この空き家は、同通りでシェアオフィスを運営しながら、にぎわい再生と交流の場づくりに取り組んでいる宮崎達也さん(50)が、不動産賃貸事業を行う会社を新たに立ち上げて取得した。床の張り替えや壁塗りなど改修作業の大部分を地域住民や市内外の企業ボランティアの協力を得て進めた。階段には地元産スギ材を使い、木のぬくもりを感じてもらえるよう工夫。透かしの装飾が施された欄間(らんま)など和の雰囲気を残しつつ、温かみのある空間を作り上げた。
 
キッズスペースを備えたテレワークオフィスを内覧する関係者

キッズスペースを備えたテレワークオフィスを内覧する関係者

 
作業や打ち合わせなど多目的に利用できるワークスペース

作業や打ち合わせなど多目的に利用できるワークスペース

 
昔ながらの和の風情を残しつつ、落ち着いて仕事ができる環境を整えた

昔ながらの和の風情を残しつつ、落ち着いて仕事ができる環境を整えた

  
 研修の修了生で、5歳と2歳の娘を持つ源太沢町の平松寿倖(ひさこ)さん(32)は「託児付きで使える施設なら利用し、少しずつ仕事をしてみたい」と前向きに捉えた。ロコフィルから仕事の紹介を受け、「ママレポーター」として事業所紹介の記事作成を受注。今後もこうした情報通信技術(ICT)を活用し時間や場所の制約を受けず、柔軟に働く形を続けたいと考えていて、「作業している時に託児してもらえたり、子どもを遊ばせるスペースがあれば集中できる。同じ年代の子を持つ人たちとのつながりを持てるのもうれしい」と歓迎した。
 
保育士や子育て支援員らが見守る体制も用意する

保育士や子育て支援員らが見守る体制も用意する

 
 ライフルは、福井県鯖江市や島根県雲南市など全国にキッズスペース付きの拠点を開設しており、釜石は5カ所目。ライフルファム事業責任者の秋庭麻衣さんは「一人で仕事する日が続くとストレスを抱える。週に1、2回集まって話し合うコミュニケーションの場があることで、日々のモチベーションアップにもつながる」と利点を強調した。空き家の再生という地域と作り上げた施設にも手応えを実感。テレワーカーを目指す講座やイベントなどの開催を見据え、「気軽に来てもらえるような地域に開かれた場所にしたい」と力を込めた。

 

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脱炭素社会実現へ連携 釜石市、ゼロボード(東京都)、岩手銀行が基本合意

釜石市内における脱炭素社会実現に向けた連携について発表した(右から)岩手銀行の佐藤求専務、野田武則市長、ゼロボードの坂本洋一本部長

釜石市内における脱炭素社会実現に向けた連携について発表した(右から)岩手銀行の佐藤求専務、野田武則市長、ゼロボードの坂本洋一本部長

 
 釜石市は脱炭素社会実現に向け、温室効果ガス(GHG)排出量算定・可視化クラウドサービスを提供するゼロボード(渡慶次道隆代表取締役、東京都)、岩手銀行(岩山徹代表取締役頭取)と連携し各種取り組みを進めることを17日、発表した。同市の公共施設にサービスを導入し、GHG排出量を測定。計画を立て削減に取り組むとともに、市内企業への普及啓発を図っていく方針。両社と本県自治体との同様の連携は6例目となる。
 
 同市は昨年10月、2050年までにカーボンニュートラル(GHG排出量実質ゼロ)実現を目指すことを表明。本年1月、ゼロカーボンシティ推進室を立ち上げた。全市的な取り組みへの第一歩として、同市が所管する公共施設のGHG排出量を把握し、実効性のある削減策につなげる事業に着手する。排出量の測定にはゼロボードが開発、提供するシステムを利用。約350施設に順次導入し、測定データを基に23年度内に削減計画を策定。24年度から計画に基づく取り組みを開始したい考え。
 
 岩手銀行は6月から脱炭素経営に取り組む企業向けの融資を開始した。金利優遇などで支援するほか、事業者とゼロボードをつなぐ役割も果たす。ゼロボードはシステム利用の指導、データベース管理、削減に関するアドバイスなどを担う。
 
基本合意書締結にかかる発表会=17日、市役所

基本合意書締結にかかる発表会=17日、市役所

 
 3者は14日に基本合意書を締結。17日、市役所で経緯や連携内容などについて報道陣に発表した。野田武則市長は「これらの取り組みが市内に広く展開され、2050年までのカーボンニュートラル実現が加速することを期待する」、ゼロボードの坂本洋一ビジネス本部長は「環境配慮が深く根付く地域社会の達成に貢献したい」、岩手銀行の佐藤求取締役専務執行役員は「締結を機に地域の脱炭素支援に一層尽力していく」と思いを述べた。
 
 県は毎年、各自治体を対象にエネルギー使用量現況調査を実施。同市ではこれまでエクセル表でデータを取りまとめてきたが、集計などさまざまな業務の手間、表の見づらさがあった。導入するクラウドを使ったサービスは作業効率の向上、負担軽減、公表しやすさなどのメリットがある。市の担当者は「市役所が率先して見える化の取り組みを進めることで、企業を含め市全体の関心を高めていきたい」と話す。

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地元漁師、大学職員からサケの定置網漁学ぶ かまいしこども園児 海や魚に興味津々

海や魚について講師に質問する園児=かまいしこども園サケ学習

海や魚について講師に質問する園児=かまいしこども園サケ学習

 
 釜石市天神町のかまいしこども園(藤原けいと園長、園児77人)の年長児11人は11日、地元漁師や大学職員からサケの定置網漁について学んだ。海洋教育パイオニアスクールプログラム(笹川平和財団海洋政策研究所など主催)の助成で取り組むサケ学習の一環。映像を見ながら、サケの特徴や定置網での漁獲方法などを教わった。12月には雌サケの解体も予定する。
 
 7月に平田の県水産技術センターを見学し、本県でとれる魚などを学んだ園児たち。2回目となるこの日の学習は同園で行われた。講師を務めたのは釜石東部漁協所属の漁師佐々木崇真さん(37)と、魚食普及や漁業体験、海洋教育のコーディネートを行う「すなどり舎」代表で、岩手大三陸水産研究センター特任専門職員の齋藤孝信さん(61)。地元で行われる定置網漁の映像を見せながら解説した。
 
実物と同じ重さのサケのぬいぐるみを抱え、その大きさを実感

実物と同じ重さのサケのぬいぐるみを抱え、その大きさを実感

 
定置網でサケを漁獲する様子などを映像で見せた

定置網でサケを漁獲する様子などを映像で見せた

 
初めて見るサケ漁に目がくぎ付け。驚きの表情も

初めて見るサケ漁に目がくぎ付け。驚きの表情も

 
 佐々木さんは「サケの雄と雌は鼻の形で見分けることができ、卵を持つ雌は腹が膨れている」と説明。図を使って定置網漁の仕組みを教えた。定置網では魚が前にしか進めない特性を利用して囲われた網に誘導。周回するうちに魚が入る「落とし網」と呼ばれる場所に2船をつけ、片方の船が近づきながら網を絞り漁獲する。周回中に魚の約6割は網の外に逃げるため、「とりすぎない自然にやさしい漁法」と齋藤さん。
 
漁師の佐々木崇真さん(右下写真)が定置網の構造や魚の動きについて解説

漁師の佐々木崇真さん(右下写真)が定置網の構造や魚の動きについて解説

 
 三陸沿岸の近年のサケ水揚げ量は激減している。佐々木さんは「昔はこの時期になれば1万本ぐらいとれていたが、今は1カ月に3、4本ということも。水温が高くなってしまったことが要因」と海洋環境の変化も示した。この日は、同園の教諭らが撮影した釜石市魚市場の水揚げや競りの様子も上映。園児たちは市場の仕事についても学んだ。
 
 最後は園児からの質問コーナー。「魚はどうやって眠るの?」「サケが戻ってくる川にごみを捨てたらどうなるの?」「深い海にも魚はいるの?」―などなど、好奇心旺盛な疑問が飛び出した。中には、世界的な問題となっている海洋プラスチックごみについて質問する子も。齋藤さんは海ごみの流出原因などを説明し、「2050年には海の中の魚よりもプラスチックごみが多くなるという計算もある。そうなると魚も食べられなくなる。みんなも海にごみを流さないような努力をしてほしい」と話した。
 
「なぜ」「どうして」。子どもたちは知りたいことがいっぱい!

「なぜ」「どうして」。子どもたちは知りたいことがいっぱい!

 
園児の質問に丁寧に答える齋藤孝信さん。海洋環境への関心向上を願う

園児の質問に丁寧に答える齋藤孝信さん。海洋環境への関心向上を願う

 
 佐藤和君(5)は「お話聞くの、楽しかった。サケはお家でも食べる。塩焼きが好き。シャチのお勉強もしてみたい」と海の魚に興味津々。生のサケを見る次回の学習を心待ちにした。
 
 海洋教育パイオニアスクールプログラムは笹川平和財団、日本財団、東京大海洋教育センターが共同で実施。海の学びに取り組もうとする学校などに費用を助成する。幼児教育施設で取り組むのは全国で同園だけ。昨年度に続き2年目の採択を受け、「サケの学習を通して育む郷土愛と釜石のDNAの継承」と題して学習を進める。市内では本年度、同プログラムで釜石小がワカメの学習、釜石高が深海魚の学習に取り組んでいる。

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砂防工事現場 釜石の中学生が見学 沿岸振興局、担い手不足解消へ建設業の魅力紹介

砂防工事の現場見学で建設業に理解を深めた生徒たち

砂防工事の現場見学で建設業に理解を深めた生徒たち

 
 釜石市平田尾崎白浜地区で進められている砂防堰堤(えんてい)の工事現場を14日、大平中(蛸島茂雄校長、101人)の2年生33人が見学した。岩手県沿岸広域振興局土木部が主催したもので、生徒たちは土砂災害を予防する砂防事業や建設業への理解を深めた。
  
 生徒たちは、2019年の台風19号豪雨で発生した土石流などの被害を受けて沿岸振興局が同地区で手掛ける事業の現場2カ所を見学。1年余りかけて今年6月に完成したばかりの砂防堰堤では、大雨時、大量に流れてくる土砂をため込み下流に流れ出るのを防いだり、勢いを弱めたりする機能について説明を受けた。
  
砂防工事の現場見学会に参加した大平中生

砂防工事の現場見学会に参加した大平中生

  
 来年3月中旬までの工期で整備が進む砂防堰堤(堤長64メートル、高さ9・5メートル)では、工事を担う及川工務店(新浜町)の現場責任者らが概要や進ちょく状況を説明。生徒らはショベルカーなど重機に試乗したり、現場で実際に使われている測量機器を使って測量を体験したりもした。
  
建設現場で活躍する重機の試乗体験を楽しむ生徒

建設現場で活躍する重機の試乗体験を楽しむ生徒

 
子どもたちは普段見慣れない測量機器に興味津々

子どもたちは普段見慣れない測量機器に興味津々

  
 学校に戻って座学。沿岸振興局土木部の職員が土砂災害の種類、全国・県内の発生状況、災害対策などを解説した。近年の発生件数は増加傾向にあり、梅雨や台風など雨が多い時期に発生確率が高くなっていて注意が必要とした上で、砂防堰堤などの構造物整備により被害を防いだ県内の事例を紹介。ただ、自然災害は人の想像を超えることがあり、身を守るためには▽家の周りや避難経路などにある危険な場所を事前に確認▽いざという時は、勇気を持って早めに避難する―ことが大切だと強調した。
  
砂防事業の出前講座に臨む大平中の2年生

砂防事業の出前講座に臨む大平中の2年生

  
 模型を使って、土石流が勢いよく家や橋を押し流す様子、流出する土砂の勢いを弱める堰堤の対策の効果も試した。阿部愛華(あゆは)さんは「工事現場を見学するのは初めて。被害が起きないよう高い費用を使っていたり、いろんな人が関わっていることが分かった。災害に対しての備えも大事だとあらためて感じた」と学びを深めた。
  
砂防堰堤の設置の効果を模型で試す実習もあった

砂防堰堤の設置の効果を模型で試す実習もあった

  
 工事現場の見学会は建設業の担い手不足解消に向けた取り組みの一環で、中学生に建設業へ興味を持ってもらうのが目的。道路や橋などの社会基盤をつくる「土木」、住宅など建物をつくる「建築」の2種類があり、構造物の維持・修繕や災害復旧など「みんなが安心して暮らせるよう地域を守る」という役割があると魅力、やりがいも伝えた。砂防工事の現場を通じ、土砂災害とその対処の方法を知ってもらう狙いもある。東日本大震災後、釜石・大槌地区では初めての実施。本年度は1校のみだが、次年度以降も継続していく予定だ。

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「魚河岸ジェラート」に新メニュー 釜石産トマトのうまみ凝縮「すずこまシャーベット」

魚河岸ジェラート部の新メニュー「すずこまシャーベット」

魚河岸ジェラート部の新メニュー「すずこまシャーベット」

 
 釜石市魚河岸の魚河岸テラスで提供されている地域の味を取り入れたジェラートに今夏、地元農家が育てたトマト「すずこま」を使ったメニューが仲間入りした。トマトのうまみを凝縮し、レモン果汁を加えてフルーティーに仕上げた、その名は「すずこまシャーベット」。きれいな赤い色をした見た目も印象的な一品で、10月頃まで楽しめるという。
 
 指定管理者のかまいしDMCが運営する店舗「魚河岸ジェラート部」では常時10種類程度を販売。釜石特産の甲子柿、浜千鳥の酒かす、藤勇醸造のみそを使った菓子などを用いて地元色を前面に押し出した豊かな味わいがそろう。
 
すずこまを使ったシャーベットを開発した新沼さん

すずこまを使ったシャーベットを開発した新沼さん

 
 新メニューは、湯むきしたトマトを角切りにし種ごと煮込み、砂糖やレモン汁を加えてペースト状にしたものを、ベースのシャーベット(水に砂糖を加えて凍結させた冷菓)に混ぜて仕上げた。「そのまんま、すずこまで勝負」と自信を見せるのは、開発を担当した同社の新沼貴子さん(54)。「酸味が強めのトマトで、素材本来の味を生かすため加糖は最小限にとどめ、うまみと爽やかさのバランスを崩さないようこだわった。牛乳など動物性タンパク質を使っていないので、ベジタリアンやビーガン(完全菜食主義者)の方も楽しめる」とアピールする。
 
 すずこまは東北農業研究センター(盛岡市)などが開発した加熱調理用トマトで、抗酸化作用を持つリコピンを多く含む。生食でも味わえるが、火を通しても煮崩れしない、赤みがあせないなどの特徴があるという。釜石市が推奨する農産物の一つで、2021年度から市内の生産農家4人が試験栽培に取り組んでいる。
 
試食した生産者の佐々木さん(左)と二本松さんの評価は上々

試食した生産者の佐々木さん(左)と二本松さんの評価は上々

 
 8月31日に魚河岸テラスで発表会があり、生産者が試食した。鵜住居町の二本松誠さん(58)は「トマトの味が濃い。うまみがぎゅっと詰まっていておいしい」と太鼓判。すずこまは、「芽かき」作業が不要など栽培時に手間がかからず、40グラムほどの小ぶりな実が“鈴なり”になり、一定の収量も見込める。橋野町の佐々木かよさん(71)は加工品への活用が広がるのを歓迎。自身は遊休農地を活用するため栽培に協力していて、「生産者として作りがいがある。特産へと育ち、釜石を知ってもらうきっかけになれば」と期待した。
 
 すずこまシャーベットは、シングル280円。ジェラート部の開店時間は午後2時~同4時まで(月曜定休)。
 
地元色を押し出した豊かな味わいを提供する「魚河岸ジェラート部」

地元色を押し出した豊かな味わいを提供する「魚河岸ジェラート部」

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行政運営のデジタル化推進・地域産業振興へ 釜石市、2企業と連携協定

釜石市はデジタル化推進に向け県内2企業と連携協定を結んだ

釜石市はデジタル化推進に向け県内2企業と連携協定を結んだ

  
 釜石市は8月24日、行政運営のデジタル化推進や地域産業の振興に向け、ITベンチャー企業のエルテス(本店紫波町、菅原貴弘代表取締役)、NTT東日本岩手支店(盛岡市、片岡千夏支店長)とそれぞれ連携協定を結んだ。ICT(情報通信技術)を活用し、住民サービスの向上や地域活性化につなげる考えだ。
  
野田市長と協定書を取り交わしたエルテスの菅原代表取締役(右)=釜石市役所

野田市長と協定書を取り交わしたエルテスの菅原代表取締役(右)=釜石市役所

  
 エルテスとの締結式は釜石市役所で行われ、野田武則市長と菅原代表取締役が協定書を取り交わした。連携内容は▽行政サービスに関する情報取得や手続きなどができる住民総合ポータルアプリの導入▽お散歩アプリ導入による住民の健康促進▽情報セキュリティー研修の実施-など。デジタルリスク対策事業などを手掛ける同社は紫波町や矢巾町と同様の協定を結んでおり、これまでの知見を反映、発展させた取り組みを進める。
 
 菅原代表取締役は「ハイレベルなサービスを提供できる」と強調。野田市長は「誰一人取り残さないデジタル化を進めたい。使い方を広く普及することで利便性を享受できる地域づくりを」と期待した。
  
協定書を手にする野田市長とNTT東日本岩手支店の片岡支店長(左)=釜石情報交流センター

協定書を手にする野田市長とNTT東日本岩手支店の片岡支店長(左)=釜石情報交流センター

  
 NTT東日本岩手支店との締結式は大町の釜石情報交流センターで実施。野田市長と片岡支店長が協定書に署名した。協定書によると、◇養殖サクラマス「釜石はまゆりサクラマス」のブランド化◇市内企業のICT・デジタルトランスフォーメーション(DX)化支援◇ドローン空撮による漁港設備点検の実証など地域資源の新たな価値創造に関する取り組み―などを連携して進める。
  
 同社はすでに市内企業などと協働でサクラマスの脂質測定によるブランド化に取り組んでいて、片岡支店長は「縁を深めた結果の協定。情報通信事業者としての強みを生かし、付加価値を作り上げ、地域の振興発展に貢献したい」と意欲を示した。野田市長は「1次産業を中心とした地域資源の新たな価値創造、地域活性化につながる」と歓迎した。

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釜石港にサンマ第一船 4・7トン水揚げ 関係者「漁の好転」切に願う

釜石市・新浜町魚市場へのサンマ初水揚げ=8月28日午前6時20分ごろ

釜石市・新浜町魚市場へのサンマ初水揚げ=8月28日午前6時20分ごろ

 
 釜石市の新浜町魚市場に8月28日朝、今季初のサンマが水揚げされた。ここ5年では最も早い8月中の初水揚げとなったが、量は約4・7トンと低迷。地球温暖化の影響とみられる海水温の上昇や燃料費の高騰などサンマ漁を取り巻く環境は厳しさを増すが、関係者は「何とか好転してほしい」と本格化するシーズンに期待を寄せる。
 
 釜石港に入ったのは富山県魚津市の中島漁業の大型船、第八珠(す)の浦丸(199トン、乗組員17人)。大型船漁解禁日の20日、北海道根室市の花咲港を出港し、同港から東に約1300キロの北太平洋公海で操業。7年連続で釜石に初サンマを届けた。港では野田武則釜石市長や市漁業協同組合連合会の木村嘉人会長ら関係者が出迎え、飲料水などを差し入れした。サンマは1匹100グラム以下と全般に小型で、1キロ当たり430円で取引された。
 
サンマ水揚げのため釜石港に入る「第八珠の浦丸」=28日午前5時45分ごろ

サンマ水揚げのため釜石港に入る「第八珠の浦丸」=28日午前5時45分ごろ

 
猟田雄輔漁労長(中)に仙人秘水などを差し入れ

猟田雄輔漁労長(中)に仙人秘水などを差し入れ

 
北太平洋公海で漁獲されたサンマ

北太平洋公海で漁獲されたサンマ

 
 全量買い取った新浜町の水産加工会社「平庄」の平野隆司社長(46)は「8月に(サンマ船が)釜石に入るのはまれ。初水揚げはうれしいが、型が小さく単価的には厳しい」と複雑な面持ち。それでも、「昨年よりは取れるという予報もある。これから型が良くなり、量も増えてくれれば」と望みを託した。この日のサンマは大部分が関東方面に鮮魚出荷された。
 
釜石に初サンマを届けた第八珠の浦丸の乗組員ら

釜石に初サンマを届けた第八珠の浦丸の乗組員ら

 

 
 ロシアのウクライナ侵攻による日ロ関係悪化の影響で、公海に漁船が集中する今年のサンマ漁。ロシアが主張する排他的経済水域(EEZ)を迂回して漁場に向かう船もあり、航行距離が延びることでの燃料費の負担増なども漁業者を悩ませる。第八珠の浦丸の猟田雄輔漁労長(67)は「1つの漁場に外国船が約100隻、日本船が40~50隻集まっている。水温が高く、サンマが散って船の下に寄ってこない状況もあり、かなり厳しい。9月下旬になれば少しはいい型がでてくるとは思うが…」と現状を話した。
 

 
 釜石港の昨年のサンマ水揚げ量は255トン(取引額約2億468万円)。全国同様、過去最低の水揚げ量となった。近年の不漁傾向で先は見通せないが、市漁連の木村嘉人会長(68)は「廻来船が来てくれると市場の運営としても助かる。入る、入らないでは市場の活気も違う。1隻でも多く入港し、水揚げしてもらえれば」と漁の好転を願う。

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企業版ワーケーション受け入れ好調の釜石を視察 北海道・富良野市の観光関係者ら、応用へ手応え

ワーケーションの現場視察で釜石市を訪れた富良野市の関係者ら

ワーケーションの現場視察で釜石市を訪れた富良野市の関係者ら

 
 新型コロナウイルス禍で注目されるのが、仕事と休暇を組み合わせた労働形態「ワーケーション」。全国各地で普及に向けアイデア合戦が繰り広げられる一方、一過性にとどまらず都市から地方への人の流れを定着できるか試行錯誤が続く。美しいラベンダー畑など雄大な自然を抱く観光地、北海道富良野市もワーケーションによる「持続可能な観光(サスティナブル・ツーリズム)」に着目するが、発展途上。2018年以降4年連続で「世界の持続可能な観光地100選」に選ばれた釜石市の取り組みからヒントを探ろうと、富良野の市職員や観光関係者ら9人が5日から2泊3日の日程で来釜、現場を視察した。
 
 富良野はテレビドラマ「北の国から」のロケ地として知られ、コロナ禍前は延べ約190万人が訪れる人気観光地。ただ、ドラマファンらは50代以上と年齢が高めで、観光の先細りを防ぐため、若年者といった新しい客層の取り込みを模索する。美瑛町など近隣市町村と地域連携DMOを設立しているが、独自の取り組みを推進する必要性を認識。宿泊費助成などでワーケーション客の受け入れを進め、今年度、現時点での実績は約40人。全体ビジョンや戦略が固まっておらず、提供する体験プログラムの開発などが課題だという。
 
釜石情報交流センターや市民ホールがある中心市街地を視察

釜石情報交流センターや市民ホールがある中心市街地を視察

 
 釜石でワーケーション事業を担うのは、観光地域づくり法人「かまいしDMC」(河東英宜代表取締役)。ワーケーション施設を開設するだけでなく、市の観光振興ビジョン「釜石オープン・フィールド・ミュージアム構想」をもとに、釜石に生き、暮らす人、そのなりわいに光を当て、それらをプログラム化し、固有の自然や歴史、文化を学ぶことができる仕組みを作っている。地域交流を通じた新たな価値創造につながると期待が高まり、今年はこれまでに延べ約250人が利用する。
 
根浜海岸では震災後の地域づくりに理解を深めた

根浜海岸では震災後の地域づくりに理解を深めた

 
いのちをつなぐ未来館では利用状況を聞いた

いのちをつなぐ未来館では利用状況を聞いた

 
 今回の視察では5日に、河東代表取締役らの案内で大町の釜石市民ホール、鵜住居町のいのちをつなぐ未来館、根浜海岸などをめぐり、東日本大震災後の復興まちづくりや防災、海を生かした観光の取り組みなどの説明を受けた。かまいしDMCが指定管理する魚河岸の魚河岸テラスで、観光まちづくりの実践を聞き取った。
 
 河東代表取締役は「利用者は日常と離れた学び直しの機会に注目している。観光資源のない釜石が持続可能な観光づくりを進めるには体験プログラムを磨いていくしかない。地域のことを深く学び、関わることで繰り返し来る。それが釜石の観光」と強調。企業や団体をターゲットにニーズを聞きながらプログラムを充実させてきた経緯などを伝えた。
  
魚河岸テラスではワーケーション普及に向け意見交換した

魚河岸テラスではワーケーション普及に向け意見交換した

  
 富良野の10人は、釜石市内全域を「屋根のない博物館」に見立てた同構想に興味を持った様子。法人立ち上げの資金、プログラムの開発法、観光協会といった既存組織との連携などについて熱心に質問した。翌日には地元漁師が案内する漁船クルーズ体験を控え、富良野市企画振興課の松野健吾主査(51)は「富良野には応用できる地域資源、素材がある。やり方を工夫すれば魅力的なプログラムを作れる」と実感を込めた。
 
 同商工観光課の本田寛康課長(49)は「ワーケーションを企業単位で受け入れている成功事例が釜石。手法をまねれば、できるものでもない。参考にし、ワーケーション実践者を引き付けるものを見つけたい」と刺激を受けた。知名度を生かした観光に、持続可能性を見据えた取り組みを加えるには「民間の力が必要」と再認識。「地域の産業に密着し、実践者も地域も喜ぶ取り組みにしたい」と前を向いた。