タグ別アーカイブ: 文化・教育

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思い思いの釜石風景 市民絵画教室、42回目の作品展 刺激し合う関係 継続の力に

釜石市内の風景などが並んだ市民絵画教室の作品展

釜石市内の風景などが並んだ市民絵画教室の作品展

  
 釜石市民絵画教室(小野寺豊喜会長、会員11人)の作品展は7~9日まで大町の市民ホールTETTOで開かれた。会員と講師の菊池政時さん(87)が、この1年間に制作した作品など96点を展示。作品を見てもらう喜びを分かち合いつつ、互いの創作活動に刺激を受け、継続への意欲を高めた。
   
 同教室は1978年度、市の社会教育講座としてスタート。その後自主活動グループに移行し学習、作品発表を続ける。教室は毎月2回、隔週水曜日に青葉ビルで開催。合評会、スケッチ旅行(新型コロナウイルスの影響でここ数年は実施を見送る)を経て、絵画展で1年間の成果を示す。
   
1年間の成果を発表した市民絵画教室の会員ら

1年間の成果を発表した市民絵画教室の会員ら

   
 「私たちの絵画展」と銘打つ作品展は、今年で42回目となった。同教室で取り上げた花や魚の静物、市内の海景や街並み、庭先を彩る植物、自画像などテーマはさまざま。画材も油彩、水彩、アクリル、パステル、色鉛筆と多様だ。
  
作品に込めた思いを伝えたり、会話を楽しみながら絵画鑑賞する人も 

作品に込めた思いを伝えたり、会話を楽しみながら絵画鑑賞する人も

  
「釜石港」と題した松崎さんの作品。これからも描き続けたいテーマだという

「釜石港」と題した松崎さんの作品。これからも描き続けたいテーマだという

   
 「釜石に住んでいるなら、やっぱり海」と話したのは松崎洋さん(90)。釜石港や造船所、廃船など海にちなんだ作品を多く並べた。東日本大震災前は両石町で暮らしたが、被災し大渡町で生活を再建。拠点は変わっても海は身近にあり、描き続けたいテーマに変わりはない。今も自営業者として働いていて、「仕事が終わってボヤっとするよりは何か趣味があった方がいい」と、絵を描くことが元気のバロメーターになっている様子。教室にはできるだけ参加し、仲間と腕を磨き合う時間も楽しみで、「いい絵を描いているのを見ると、『負けないぞ』という気持ちになる」と意欲満々だった。
   
にこやかな笑顔で来場者を出迎えた女性会員ら

にこやかな笑顔で来場者を出迎えた女性会員ら

   
 小野寺会長(74)は「にぎやかな展示。描きたいものを自分なりに表現したり、大きいサイズの作品に挑戦したり、いい傾向」と、うれしそうに会場を見回した。創立45年となり、思い出すのは32回目の作品展のこと。その初日に起こった震災で、展示中の作品が津波にのみ込まれた。泥の中から回収・修復した作品を加えた絵画展を翌年に再開。その後のコロナ禍で2年開催を見送ったが、昨年から再始動し、「創作を楽しめる、いつもの日常が戻ってきた」と感じている。
  
 そして、続けることの大切さをあらためて思う展示にもなった。小野寺会長は「工夫したり勉強してきたものを発表できることは創作の力になる。自分にないものを、仲間を通して見いだすことができる。それを自分のものにするため研さんを積み、刺激し合っていきたい」と前を向いた。
 
 

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期待膨らむ!新学校生活スタート 釜石市内の小・中学校で入学式 桜も祝福

「はい!」。新入生が元気な声を響かせた双葉小の入学式=7日

「はい!」。新入生が元気な声を響かせた双葉小の入学式=7日

  
 釜石市内の小中学校は10日までに新年度の入学式が行われた。小学校は9校に190人、中学校は5校に172人が進んだ。桜が咲く中で迎えた「ハレ」の日。各校の新入生らは期待に胸を躍らせながら学校生活をスタートさせた。
   
 新町の双葉小(及川美香子校長、児童130人)には19人が仲間入りした。入学式は7日にあり、緑やピンク、水色といったカラフルなランドセルを背負った新1年生が保護者と登校。通学路や学校敷地内では桜が咲き誇り、その祝福に顔をほころばせた。
   
新入生を歓迎するかのように咲き誇る双葉小敷地内の桜=7日

新入生を歓迎するかのように咲き誇る双葉小敷地内の桜=7日

  
保護者と手をつないで初めて双葉小に登校する新1年生=7日

保護者と手をつないで初めて双葉小に登校する新1年生=7日

   
 体育館での式で新1年生は、教員や保護者、6年生(29人)が見守る中、入場。少し緊張気味だったが、名前を呼ばれると「はい」と元気よく返事し一礼した。
  
 及川校長は「早く学校に慣れて好きになってください。優しく、お友達が嫌がることをしないで正しいことをしっかりできる1年生になってほしい。あいさつもしっかりできるといいですね。心の中に双葉が育ち、大きな花を咲かせることができます」と呼びかけた。
  
心の双葉を育てるための取り組みを分かりやすく伝える及川美香子校長=7日

心の双葉を育てるための取り組みを分かりやすく伝える及川美香子校長=7日

  
校長先生の話や教職員の紹介に耳を傾ける双葉小の新入生=7日

校長先生の話や教職員の紹介に耳を傾ける双葉小の新入生=7日

  
 来賓の高橋勝教育長が告辞。「いろいろ、たくさん遊んで勉強し、周りの人たちのために頑張れる小学生になって」と期待を込めた。6年生は「おはようございます」「さようなら」と元気なあいさつの手本を見せ、新たな仲間を歓迎した。
  
 新入生の三浦伊織さんは「勉強を頑張りたい。一輪車に乗れるようになりたい。友達をつくるのも楽しみ」と期待を膨らませた。母の文子さん(40)は「元気いっぱい、いろんなことを経験してほしい」と優しいまなざしを向けた。
  
保護者や6年生らが見守る中、入学式を終えて退場する新1年生=7日

保護者や6年生らが見守る中、入学式を終えて退場する新1年生=7日

  
 新型コロナウイルス対策のマスク着用について、文部科学省は学校向けに緩和する通知を示しており、同校の入学式では新入生については着用を求めなかった。今月から学校の児童生徒や教職員は基本的に不要と通知されているが、出席者のほとんどはマスク姿で、そうした状況はまだ続くとみられる。

 

野田市長(左から2人目)らと記念撮影する小山さん(中央)=釜石市役所

将棋・小山怜央さん 古里釜石に帰省 プロ合格を報告、活躍誓う「応援力に」

釜石市に帰省して地元の子どもたちと指導対局する小山怜央さん(左)=小佐野コミュニティ会館

釜石市に帰省して地元の子どもたちと指導対局する小山怜央さん(左)=小佐野コミュニティ会館

 

 今年2月に将棋の棋士編入試験に合格した釜石市鵜住居町出身の小山怜央さん(29)=横浜市。4月1日付で岩手県初のプロ棋士としてデビューする。新たな舞台への一歩を踏み出す前に、古里に帰省。3月28日は子どもや将棋愛好家らへの指導対局、市長への表敬訪問などで大忙しだった。「おめでとう」「白星重ねて」「もっと強くなりたい」。行く先々で喜びや応援、希望を見いだす声を聞いた小山さんは「困難な時があっても地元の応援を力にし、今後も良いニュースを届けたい」と飛躍を誓う。

 

 小学2年生の頃に将棋を始めた小山さん。中学3年で棋士養成機関「奨励会」を受験するも不合格に終わった。高校2年時の東日本大震災で自宅を失い、避難所や仮設住宅での生活を余儀なくされたが、棋力は磨き続けた。岩手県立大進学後、数々のアマチュアタイトルを獲得。16年には奨励会の「三段リーグ」編入試験に挑戦したが、不合格となった。ただ、社会人になってもプロ棋士という夢を諦めず、アマとして臨んだプロの棋戦で好成績をあげ、編入試験の受験資格を獲得。22年11月から若手プロ棋士相手の五番勝負に挑み、3勝1敗と勝ち越して合格した。

 

将棋教室で特別指導

 

憧れの小山さんと(前列右から3人目)と交流し笑顔の子どもたち=小佐野コミュニティ会館

憧れの小山さんと(前列右から3人目)と交流し笑顔の子どもたち=小佐野コミュニティ会館

 

 合格後の初帰省。28日午前、小山さんは小佐野町の小佐野コミュニティ会館を訪れ、子ども将棋教室に特別参加した。将棋愛好家らでつくる「正棋会」が小佐野公民館と連携して企画する教室には小学生9人を含め20人ほどが集まっていて、「おめでとう」と拍手を添えて出迎えた。そして、時間を惜しむかのように、子ども3人が「六枚落ち」のハンデをもらって対局に挑んだ。

 

 対局後には「感想戦」も。勝負を振り返り敗因となった手などを語り合って、最善手を検討する時間だ。小山さんが「負けました」と発した一局。「完敗だった。金をとられたのが痛かった。いい手をとったね」と声をかけられた中澤朋哉君(釜石小4年)は照れ笑いした。棋士を目指す中澤君にとって、小山さんは夢を実現させた憧れの存在。ハンデありの勝ちは「うれしいけど、ちょっと悔しい。途中、勝ち!と思っていたら、怪しい技を繰り出してきて、ただじゃすまなかった。やっぱり、すごい。もっと強くならなきゃ」と刺激を受けた。

 

将棋愛好家や子どもらを相手に臨む「8面指し」=中妻地区生活応援センター

将棋愛好家や子どもらを相手に臨む「8面指し」=中妻地区生活応援センター

 

子どもも大人も小山さんとの勝負に熱中=中妻地区生活応援センター

子どもも大人も小山さんとの勝負に熱中=中妻地区生活応援センター

 

 午後は上中島町の中妻地区生活応援センターで指導対局。子どもや高齢の愛好家らを相手に真剣な表情で多面指しに臨んだ。小山さんに会うために山田町から駆け付けた斎藤稜平君(豊間根小3年)は「緊張してすごく疲れた。とても強かった。感想戦で攻めのことを教えてもらったから強化したい」と貴重な時間を楽しんだ様子。対局の喜びをかみしめるのは大人たちも同じで、「最高だ」と顔をほころばせていた。

 

市長を表敬訪問

 

野田市長(左から2人目)らと記念撮影する小山さん(中央)=釜石市役所

野田市長(左から2人目)らと記念撮影する小山さん(中央)=釜石市役所

 

 2つの指導対局の合間に、市役所の野田武則市長を訪ねて報告。4月から四段としてフリークラスに参戦する小山さんは「こんなに釜石の方が喜んだり応援してくださっていると改めて感じ、とてもうれしく思います。たくさんの声かけを力に勝利を重ねて少しでも早く突破できるよう頑張りたい」と力を込めた。

 

 同行した小山さんの父敏昭さん(60)、母聖子さん(60)は「諦めず夢をかなえた。試練はあると思うが応援してほしい」と望み、野田市長は「大きな偉業を成し遂げていただいた。勝利した瞬間から釜石の空気が明るい雰囲気に変わった。活躍が市民に元気と勇気を与える。厳しいことは多々あると思うが、市民が応援しているので頑張ってほしい」とエールを送った。

 

土橋さんらから贈られたネクタイを着用。同郷のアーティスト小林覚さんの作品「数字」がデザイン。「白星、数字を重ねて」との願いが込められている

応援への感謝と意気込みを伝える小山さん=釜石市役所

 

 幼少期の小山さんに将棋を教えた土橋吉孝さん(67)=日本将棋連盟釜石支部長=は「成長し、たくましくなった。余力があり、まだ伸びる。白星を稼いで上を目指してほしい。怜央はみんなの目標であり、将棋文化普及の力になる」と期待する。実際、小山さんの活躍により、子どもらの熱の高まりを感じていて、同支部では将棋教室の回数を増やす考え。コロナ禍で開催できずにいた市長杯も4月に予定する。

 

 自身も通った教室に今なお多くの人が集う様子をうれしそうに見つめる小山さん。「こんな、にぎやかな感じが続いていってほしい。子どもたちには、いろんな大会に出て経験を積んで頑張ってほしい。自分も勝負師なので、負けるのは悔しい。またチャレンジさせてください」。控えめながら、将棋にひたむきに向き合う姿勢が印象的だった。

 

応援への感謝と意気込みを伝える小山さん=釜石市役所

土橋さんらから贈られたネクタイを着用。同郷のアーティスト小林覚さんの作品「数字」がデザイン。「白星、数字を重ねて」との願いが込められている

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やりたいこと、実現!「かまっこまつり」準備中 釜石の子どもたち「来てー!」

手製のチラシを手に「かまっこまつり」をPRする子どもたち

手製のチラシを手に「かまっこまつり」をPRする子どもたち

 
 釜石市の子どもたちが中心となって企画する「かまっこまつり」が25日、大町の釜石PITで開かれる。自らアイデアを出し合い、準備から運営まで行う祭りは9回目。手作り雑貨や遊びの出店、ステージ発表などで市民をもてなす。今回は6歳~高校生約30人がスタッフに応募。昨年11月下旬から作戦会議、準備を重ねている。本番を1週間後に控えた18日に大町の青葉ビルで進められた作業をのぞいてみた。
 
 商品の袋詰めや店の看板づくり…。この日は、小中学生と保護者、大人スタッフら15人ほどが集まった。手製のスノードームなどを売り出す「なんか屋」チームの櫻井真衣さん(双葉小5年)は「ものづくりが好きだから楽しい」と手際よく作業。同級生の大井虹色(なな)さんは「春休みは暇だから。いつもと違ったことができるのかなと楽しみ。とにかく、買ってもらえたらよし!」と、せっせと手を動かしていた。
 
スノードームを作ったチーム。販売に向け袋詰めや飾り付けを進める

スノードームを作ったチーム。販売に向け袋詰めや飾り付けを進める

 
看板に描くイラストを考えたり、ダンスの振り付けを確かめたり…大忙し

看板に描くイラストを考えたり、ダンスの振り付けを確かめたり…大忙し

 
 他にもスライムづくりや宝探しゲーム、運動遊びコーナーなどが並ぶ予定。子どもたちは「ルールを考えるのが楽しい」「作り方を知りたいからやってみた」と生き生きした表情でもてなしの準備を進めている。チラシをつくって青葉ビル周辺の住民に配布。宣伝にも力を発揮する。
 
祭り限定の仮想通貨「かまっコイン」。みんなで丁寧に切り取り中

祭り限定の仮想通貨「かまっコイン」。みんなで丁寧に切り取り中

 
 そして祭りの特徴の一つが、限定の仮想通貨。今回の「かまっコイン」は、釜石の海と夕日がデザインされている。考えたのは松田桃さん(鵜住居小2年)。「きれいだと思ったから描いた。優しい気持ちで使ってほしい」とはにかんだ。来場者は受付で仮想通貨をもらって買い物や遊びを満喫。通貨を使い切ったら、各ブースで運営を手伝う“アルバイト”をして報酬の通貨を得る仕組みも楽しみどころだ。
  
「25日にやります。来てください」。チラシを配って呼びかけも

25日にやります。来てください」。チラシを配って呼びかけも

  
 釜石まちづくり株式会社が主催。祭りは東日本大震災後の子どもの居場所づくりを目的に「放課後子ども教室」を運営する市民団体が2013年に始めた。子どもたちのやりたいことを実現させ、地域の人たちとの出会いを促すのを目指し、本年度から同教室の運営を担う同社が取り組みを引き継いだ。
  
 これまで会場にしてきた鵜住居地区を飛び出し、市中心部に乗り込んで初開催。隣接する市民ホールTETTO前広場では、何でも100円で買えるフリーマーケット「かまいし百円市」(同社主催)も予定され、楽しさ倍増で街中ににぎわいを生み出す。同教室事業に長年携わる同社の岩城一哉さん(36)は「子どもたちが時間をかけて作り上げる成果を見てほしい。そして交流することで、互いに声がかけやすい関係づくり、発見や学び合うきっかけになれば」と来場を呼びかける。
 
 かまっこまつりは正午~午後3時まで。同時開催の百円市は同14時半まで楽しめる。
 

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勉強と部活を両立 卒業控えた釜高生4人へ努力の証し「小泉賞」 釜石市ボクシング協会

小泉賞を受けた佐々木悠さん(左)、鈴木佳穂さん(右)と釜石市ボクシング協会の小泉嘉明会長

小泉賞を受けた佐々木悠さん(左)、鈴木佳穂さん(右)と釜石市ボクシング協会の小泉嘉明会長

 
 釜石高ボクシング部で3年間部活動に励んだ3年生部員に贈られる「小泉賞」。肉体、精神ともに過酷なスポーツであるボクシング競技に挑み、そして学業との両立を実践した生徒をたたえようと、釜石市ボクシング協会(小泉嘉明会長)が1999年に創設した取り組みだ。毎年、卒業を控えたこの時期に贈呈式を行っていて、今年は2月21日に中妻町の昭和園クラブハウスで開催。選手2人、マネジャー2人の計4人が努力の証しとなるトロフィーを手にした。
 
昭和園クラブハウスで行われた贈呈式。小泉会長のあいさつに耳を傾ける釜石高ボクシング部員ら

昭和園クラブハウスで行われた贈呈式。小泉会長のあいさつに耳を傾ける釜石高ボクシング部員ら

 
笑顔や充実した表情を見せながらトロフィーを受け取った

笑顔や充実した表情を見せながらトロフィーを受け取った

 
 卒業する3年生のうち選手として活躍した佐々木悠さんと鈴木佳穂さんの2人が参加。小泉会長は「きついことも多かっただろう。それでも続けてきた頑張りには価値がある。今は分からずとも、後で利いてくる。3年間で成し遂げたことをかみしめつつ、人生を開拓してほしい」と激励。後輩や協会役員ら約20人も温かい拍手を送り、新たな道を歩み出す2人の背中を押した。
 
 同校ボクシング部は本年度、1~3年生16人(選手11、マネジャー5)で活動。顧問の和賀大毅教諭によると、女子ピン級の佐々木さんは細身ながら破壊力ある左ストレートが持ち味で、ライトフライ級の鈴木さんは入部後すぐに腰を痛めたものの、うまく付き合う方法を見いだし前に進み続ける頑張り屋。県高総体では佐々木さんが準優勝、鈴木さんは3位入賞と結果を残した。この日は不参加だったが、マネジャーの小野未優さん、菅原彩葉さんは手先の器用さを生かしたお守りづくり、洗濯やリングの掃除などでマメな気配りを発揮し、選手を支えた。
 
トロフィーを手に、経験を将来に生かす思いを新たにする佐々木さん(左)、鈴木さん

トロフィーを手に、経験を将来に生かす思いを新たにする佐々木さん(左)、鈴木さん

 
 佐々木さんと鈴木さんは幼少期からの幼なじみで、格闘技好きの鈴木さんの誘いに「高校では個人競技を」と考えていた佐々木さんが乗って入部。練習のつらさ、廃部の不安など一緒に乗り越えてきた。引退後、練習や試合に挑む後輩たちの姿に力をもらって受験勉強に集中。海洋生物に興味がある佐々木さんは岩手大農学部、鈴木さんはヘアメイクアーティストを目指し仙台市の美容系専門学校へ進学する。
 
 「ボクシングを次の世代につなげてほしい」。2人に共通する思いだ。「周りの支えがあってこそ、リングに立てる。誰かのために懸命になってくれる人がいつもいた」と鈴木さん。それが自身の頑張り、精神面の強化、そして「今度は私が誰かを笑顔にしたい」と夢を描くことにつながったと感じている。佐々木さんは部長として部員をまとめた経験がコミュニケーション力の向上になったと実感。個人競技だが、人との結びつきが強いボクシング部の継承に向け、「部員獲得を頑張ってほしい」と願った。
 
先輩から伝統を引き継ぎ、活躍を誓う佐々木夏さん(左)と菊池麗さん

先輩から伝統を引き継ぎ、活躍を誓う佐々木夏さん(左)と菊池麗さん

 
 同部では、卒業生たちの希望をつなぐ明るいニュースがあった。本年度の県新人戦で女子ピン級の菊池麗(あきら)さん、男子ピン級の佐々木夏さん(ともに2年)が優勝。東北大会へ進んだが、惜しくも全国は逃した。その実績を力に2人は「もっと上に行く」「燃え尽きることができるよう頑張る」と誓う。
  
 仲間の頑張りに刺激された部員たちは「高総体で優勝する」などとそれぞれ目標を設定。そんな頼もしい姿に、卒業生や小泉会長、協会役員らは目を細めていた。
 
 

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冬の星空、見上げてごらん 釜石・こどもエコクラブ 観察会で星座さがし楽しむ

釜石市鉄の歴史館前で夜空を見上げて星空観察を楽しむ子どもたち

釜石市鉄の歴史館前で夜空を見上げて星空観察を楽しむ子どもたち

 
 自然の中での体験活動を通して学び、環境保護の意識を育む「こどもエコクラブ」(釜石市主催)は2月18日、大平町の市鉄の歴史館で冬の星空観察会を開いた。本年度5回目の活動。市内の小学生約30人とその家族ら計約60人が参加し、冬の星座や星の輝きを楽しんだ。今回は最終回でもあり、身近な自然に理解を深めた子どもたちに修了証を授与。市では来年度も継続する方針で、子どもたちは「楽しくて不思議なことがいっぱい。もっと知りたい」とワクワク感を維持させる。
  
 日中、曇り空だったため、鉄の学習に変更。講師の大久保孝信さん(元市職員)が同館を案内した。市世界遺産課主査の髙橋岳さんは、鉄と宇宙の神秘を感じさせる展示物「ギベオン鉄隕石(いんせき)」を紹介。展示ケースから取り出して、じかに触れてもらう特別な体験も用意した。
  
大久保さん(左)の案内で鉄の学習に取り組む子どもたち

大久保さん(左)の案内で鉄の学習に取り組む子どもたち

  
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「ギベオン鉄隕石」に触れ、宇宙に思いをはせる体験も

  
 会が終わるころにはすっかり雲が晴れ、夜空にはたくさんのキラメキが。普段から星空観察を楽しんでいる大久保さんが「南の空を見てみよう」と、子どもたちを施設の外に誘い出した。輝く星々を示しながら、宇宙の知識を解説。冬を代表する星座オリオン座、その1等星ベテルギウスはおおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオンと「冬の大三角」を構成し、その姿を確認した。
  
歴史館の駐車場から見上げた星空

歴史館の駐車場から見上げた星空

  
静態保存されている蒸気機関車とパチリ「銀河鉄道⁉」

静態保存されている蒸気機関車とパチリ「銀河鉄道⁉」

  
 オリオン座のやや西には、おうし座の1等星アルデバランが赤く輝く。冬の星空には1等星が多く、ほかの季節に比べてもにぎやかだと大久保さん。「1等星たちを結んで、いろいろな形を楽しみながら星座を見つけてみて。冬のダイアモンドもあるよ」などと夜空を見上げる楽しさを伝えた。
  
 本年度のエコクラブは児童43人でスタート。全5回の活動を予定していたが、新型コロナウイルスの影響で1回中止となった。修了証は、1回以上参加した37人に贈られた。
  
「見えた」。子どもたちは望遠鏡をのぞき込んで歓声を上げた

「見えた」。子どもたちは望遠鏡をのぞき込んで歓声を上げた

  
 自前の望遠鏡を持ち込んだ根元璃玖君(釜石小3年)は「見えるよ、星」と感激。エコクラブの活動は毎回参加していて、「ホタルを見たり、釜石湾で船に乗ったり、イカの解剖もした。みんな楽しかったし、不思議でいっぱい調べて、いろんなことが分かった」と胸を張った。残念だったのは、昆虫採集が中止されたこと。エコクラブの活動が続くとしたら、「参加したい」と手を挙げた。
  
本年度の活動を終え、修了証を手にした子どもたち

本年度の活動を終え、修了証を手にした子どもたち

  
 市まちづくり課の平野敏也課長は「自然の中でさまざまなことを経験し、地域を知り、環境について勉強することは子どもたちの成長に役立つ」と意義を強調。昨年実施の第15回「かまいし鉄の検定」でエコクラブ出身者が満点を取るなどの実績も紹介する。次年度の実施を見据え、「エコクラブ出身の中学生がサポート役で参加したり、学びを継続できるような取り組みも考えたい」とした。

 

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震災の語り部活動、準備中!釜石高生「自分の言葉で伝えたい」 3月、うのスタで

自分の言葉で震災を伝えるため研修や練習に取り組む釜石高生

自分の言葉で震災を伝えるため研修や練習に取り組む釜石高生

 
 東日本大震災の経験や教訓、防災の取り組みを未来につなげようと活動する釜石高(釜石市甲子町)の生徒有志グループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」。地元のラグビーチーム釜石シーウェイブス(SW)RFCのホーム戦に合わせ、会場の釜石鵜住居復興スタジアム(鵜住居町)で語り部活動を展開してきた。今年も、3月に伝承活動を行う予定。震災被災者の経験談を聞いたり、「伝えたい」思いをまとめたり準備を進めている。
 
 夢団は2019年に結成。うのスタが会場となったラグビーワールドカップ(W杯)開催時に震災の教訓と復興支援への感謝を伝えようと活動した生徒らが、継続的な取り組みにすべく立ち上げた。生徒の発案で「津波伝承うちわ」「安否札」を作成・配布しながら、W杯やSWホーム戦の来場者に震災の記憶や防災力向上を発信してきた。
 
震災体験者の話を聞き取る研修=1月26日、鵜住居町

震災体験者の話を聞き取る研修=1月26日、鵜住居町

 
 今年は5人の生徒が語り部に挑む。いずれも2年生。震災当時は4、5歳で記憶していることは多くない。そこで、1月26日に研修として震災経験者から話を聞いた。鵜の郷交流館(鵜住居町)で体験を伝えたのは、嬉石町の横山幸雄さん(85)。「津波を目の前にして足がすくんだ。とっさに家の中に飛び込んだが、津波にのまれ意識を失った」などと、死と隣り合わせの経験を語った。意識を取り戻し、目についた電線を伝って電柱にたどり着き、奇跡的に命をつないだ。「私の行動は一歩間違えれば命取りになっていた」とした上で、「一番大事なのは命。災害時にどう行動するか、日頃から考えておくべきだ」と力説した。
 
 生徒たちは、住み慣れたまちが津波で失われるのを目の当たりにした時の心境や行動の選択で困ったこと、避難所の様子などを聞き取った。海が近い唐丹や鵜住居、平田で暮らす生徒らは、自身の体験との違いを感じた様子。体験者の話をじかに聞くのが初めての生徒もいて、新たに触れた視点を盛り込んで「伝える」との思いを強めていた。
 
横山さん(左)の経験談に耳を傾ける釜石高の生徒=1月26日、鵜住居町

横山さん(左)の経験談に耳を傾ける釜石高の生徒=1月26日、鵜住居町

 
 横山さんは「震災から10年以上がたち、風化を感じる。だからこそ、伝えていくことが大切だ」と強調。釜石観光ガイド会の一員として語り部活動を実践する先輩の立場から、「災害に負けてたまるか。命さえあれば、どんなことでも頑張れるはず。そう思い語り続けている」と明かし、伝承者としての姿勢を探る生徒たちにヒントを残した。
 
 いのちをつなぐ未来館では、施設職員で語り部の川崎杏樹(あき)さんの案内で展示を見て回りながら、おさらい。うのスタでの活動に向け台本作りも始めた。
 
いのちをつなぐ未来館で震災への理解を深める生徒ら=1月26日、鵜住居町

いのちをつなぐ未来館で震災への理解を深める生徒ら=1月26日、鵜住居町

 
放課後の学校で台本作りの準備をする高堰さん(奥)=2月14日、甲子町

放課後の学校で台本作りの準備をする高堰さん(奥)=2月14日、甲子町

 
 2月中旬からは、個別に台本を仕上げる作業を続けている。語り部デビューを目指す高堰愛さんは14日の放課後、同校で作業。夢団の活動を支える「さんつな」代表の伊藤聡さん(43)にアドバイスを受けながら、考えをまとめている。
 
 学校周辺の地区に住む高堰さんは津波の被災はないが、地震の怖さから車中泊をした記憶を残す。大槌町に祖父母が暮らしており、人的被害はなかったものの何度も訪れた思い出の場所が流されたことにショックを受けた。それでも、「津波を直接的に体験していない自分が語れるのか」「伝えられることもある」と自問自答。震災は被災の有無にかかわらず、多くの人の気持ちにダメージを与えたと感じていて、「(私は)思い出を失ったが、支えられ気持ちが楽になった。今度は支える立場になりたい」との思いを力にする。
 
高堰さんの「伝えたいこと」がつづられたノート=2月14日、甲子町

高堰さんの「伝えたいこと」がつづられたノート=2月14日、甲子町

 
 横山さんの話で印象に残ったのは、避難所での生活。津波から逃れても寒く、苦しく、大変な生活があったことを知った。そうした背景も織り交ぜながら、命を守ることや備えの大切さを伝える考え。「人前で話すのは苦手。でも台本があると読んでしまう」と自己分析し、台本は文章ではなく、伝えたい言葉を書き連ねるだけにするつもりだ。「自分の言葉で語りかけたい」。思いを紡いでいる。
 
 今月末に全体練習。SWホーム戦は3月5日、12日、19日に予定され、生徒たちは12日に思いを発信する。

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釜石市民劇場 26日公演 戦時下を生きた女学生、子どもの姿描く 艦砲射撃体験者の証言朗読も

本番まで1週間。釜石市民劇場キャストの稽古=18日、TETTO

本番まで1週間。釜石市民劇場キャストの稽古=18日、TETTO

 
 第36回釜石市民劇場(同実行委主催)は26日、釜石市大町の市民ホールTETTOで公演する。郷土の先人や歴史にスポットを当てた舞台公演を続ける同劇。本年度は太平洋戦争末期、2度の艦砲射撃により壊滅的な被害を受けた同市で、たくましく生き抜いた高等女学生や子どもたちの姿を描く。戦後77年が経過し、戦争体験者が減少していく今、罪なき人々の命を奪う戦争のむごさを確実に後世に伝え、二度と悲劇を繰り返してはならないという強い思いを発信する。当日は、ロシアによる侵攻で苦しい環境下に置かれるウクライナへの支援募金も呼び掛ける。
 
 「七十七年前の出来事」乙女たちの戦い―と題した劇は、戦況が悪化した1945(昭和20)年春から夏の釜石が舞台。国民学校(現小学校)の子どもたちは親元を離れて集団疎開。高等女学校(現中学校)の生徒らは勤労動員や軍事訓練を命ぜられ、敵の標的となった製鉄所では工員が危険と隣り合わせで働いていた。物語は高等女学生を主人公に展開。終戦間際に受けた艦砲射撃のすさまじさ、防空壕で恐怖におびえる市民の様子なども描く。
 
 劇中では当時、釜石高等女学校生徒だった4人の手記の朗読もある。元教諭の箱石邦夫さん(盛岡市在住)が釜石南高勤務時代、生徒たちと一緒に当事者から集めた証言書簡集「八月のあの日・乙女たちの仙人越え」(編者=箱石さん)から抜粋して聞かせる。同書は脚本にも生かされた。
 
小学生キャストは遠野へ疎開した釜石国民学校学童を演じる

小学生キャストは遠野へ疎開した釜石国民学校学童を演じる

 
釜石高等女学校生徒役の釜石商工高なぎなた部員らは劇中で技も披露する

釜石高等女学校生徒役の釜石商工高なぎなた部員らは劇中で技も披露する

 
主人公の両親役(左2人)は経験豊富なキャストが務める

主人公の両親役(左2人)は経験豊富なキャストが務める

 
 キャストは若手を中心とした18人。10人が初参加で、新しい風を吹き込む。公演まで約1週間となった18日は、会場となるホールAでの初稽古。動きながらのセリフ回し、広いステージの使い方などを確認しながら練習に励んだ。
 
 劇中でなぎなたを振るう高等女学生役で出演する高橋ことさん(17)は釜石商工高なぎなた部所属。小学校以来の演劇に挑む。曽祖母から戦時中の話を聞いて育ち、「曽祖母が経験したであろうことを自分が演じるのは不思議な巡り合わせ」と特別な思いを抱く。「公演当日までに完成度を高め、戦時中でも仲間と懸命に生きていた姿を見せられたら」と意を強くする。
 
 警備兵役の八幡祐哉さん(37)は職場の先輩に誘われ初参加。「当時の軍人の振る舞いなど想像がつかない部分があるが、やるからにはしっかり演じ切りたい」と役作りに励む。祖父は特攻訓練を経験、祖母は製鉄所のトンネルに避難し砲撃から逃れた。「今回の出演を亡き祖父母にも報告したい。劇を通して戦争を知らない世代にも伝わるものがあれば」と願う。
 
主人公の女学生「みよ」を演じる矢浦望羽さん(中央)。初の大役に奮闘中

主人公の女学生「みよ」を演じる矢浦望羽さん(中央)。初の大役に奮闘中

 
 主人公の女学生「みよ」を演じるのは、同劇8回目の出演となる矢浦望羽さん(17)。初の大役、戦争というテーマに難しさを感じ、「初めての壁にぶち当たっている」と頭を悩ます。みよは「思ったことをはっきり言うタイプ。感情表現もストレート」。場面ごとに異なる感情の表し方を模索し、努力を重ねる。ロシアとウクライナの戦闘は今なお続き、大勢の一般市民が犠牲になっている。「戦争はだめなもの。一生懸命演じることで、何らかのメッセージを受け取ってもらえたら」と矢浦さん。
 
 釜石市民劇場が戦争を題材にするのは、戦後60年で公演した2005年の作品以来。今回脚本を手がけた同実行委の久保秀俊会長(74)は「戦時下で抑圧されながらも、子どもたちは不平不満を言わずに過ごしていたのだろう。劇中では心の底で思っていたであろう本音も会話に盛り込んだ」と話す。当時、高等女学生だった人たちは多くが90歳以上。記憶のある世代の生の声を聞ける機会は今後さらに減っていく。「今だから伝えねば」と久保会長。
 
キャストの稽古を見守る久保秀俊会長(右側写真手前)

キャストの稽古を見守る久保秀俊会長(右側写真手前)

 
公演本番へ向け、役作りに集中。熱のこもった稽古が続く

公演本番へ向け、役作りに集中。熱のこもった稽古が続く

 
 26日は午前10時半、午後2時半の2回公演。前売り券は1000円(中学生以下500円)、当日券は1300円(同700円)。チケットは市民ホールTETTOなどで販売中。

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方言の面白さ満載!釜石・遠野・青森の語り部が地元に伝わる昔話を披露 相撲甚句の演出も

2年ぶりの対面開催となった「おらほ弁で昔話を語っぺし」の出演者

2年ぶりの対面開催となった「おらほ弁で昔話を語っぺし」の出演者

 
 第9回おらほ弁で昔話を語っぺし(岩手大主催)は4日、釜石市大町の市民ホールTETTOで開かれた。同市で方言による民話の伝承活動を行う、漁火の会(会員7人)が市内に伝わる逸話を語り聞かせたほか、民話劇も披露。交流が続く遠野市、青森県八戸市の語り部もゲスト出演し、舞台を盛り上げた。会場では約100人が楽しみ、ユーチューブ配信と地元ケーブルテレビ局の生放送でお茶の間にも“おらほ弁”の魅力を届けた。
 
 昨年、絵本の読み聞かせで同イベントデビューを飾った釜石市内の小学3年生、大信田さくらさんがトップバッター。同市両石町に伝わる「長い長い綱っこ」を暗唱し、堂々の語りを見せた。「漁火の会」の7人は地元釜石のほか、遠野市などに伝わる民話を聞かせた。千葉まき子さんは旧伊達藩唐丹村で語られた「椿姫の誕生」を初披露。北村弘子さんは江戸時代から橋野地域に残る「母人形(かかじんじょ)」を語った。「じんじょ」は人形(にんぎょう)を指す方言で、主に旧南部藩域で使われてきたという。
 
漁火の会会員も期待を寄せる“小学生語り部”大信田さくらさん

漁火の会会員も期待を寄せる“小学生語り部”大信田さくらさん

 
熟練の語りで観客を民話の世界に引き込む千葉まき子さん(左)と北村弘子さん(右)

熟練の語りで観客を民話の世界に引き込む千葉まき子さん(左)と北村弘子さん(右)

 
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 ゲストは「遠野昔話語り部の会」と「八戸童話会」の4人。八戸の語り部は新型コロナウイルス禍でビデオ出演が続いていたため、釜石での生語りは3年ぶり。同会の若手ホープ木下勝貴さん、ベテラン柾谷伸夫さんが身ぶり手ぶりを交えた寸劇のような舞台を繰り広げ、観客を笑わせた。
 
表現力豊かに物語を展開する八戸童話会の柾谷伸夫さん(左)と木下勝貴さん(右)

表現力豊かに物語を展開する八戸童話会の柾谷伸夫さん(左)と木下勝貴さん(右)

 
 最後は同イベント恒例となった漁火の会の“動く民話劇”。全国区の昔話「五徳と犬」を会員の全力演技で見せた。今回はサプライズ演出も。藤原マチ子さんが、得意の“相撲甚句”で民話を表現。2人の会員と力士姿で登場し、最後は土俵入りまでやってみせた。さまざまな趣向を凝らし楽しませようとする姿に、観客は惜しみない拍手を送った。
 
漁火の会による民話劇「五徳と犬」。コミカルな演技で会場の笑いを誘った

漁火の会による民話劇「五徳と犬」。コミカルな演技で会場の笑いを誘った

 
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土俵入りや相撲甚句で楽しませた漁火の会の藤原マチ子さん(中央)

 
 同市中妻町の60代女性は友人に誘われ、初めて来場。「方言のラジオ番組が好きで、よく聞いている。身近に使っている方言もけっこうあるが、孫たちは分からない。いつか自分も書き出してみたいと思う」と刺激を受けた様子。出演者の昔話語りを直接見聞きし、「自分もちょっとやってみたくなった」と興味をそそられていた。
 
 2019年に漁火の会に入った髙橋タミさん(77)は2回目の出演で、「まだ70点ぐらいかな」と自己評価。元々、同会の“追っかけ”をしていて「いつか仲間に入りたい」と思っていた。小学校や公民館で行う出前語りにも参加していて、「みんなが楽しんでくれるのがやりがい。語り部は年をとってもできる。自分の仕事だと思って頑張っている」と生涯現役を目指す。
 
2回目の大舞台で「海の水はなぜ辛い」を語る髙橋タミさん

2回目の大舞台で「海の水はなぜ辛い」を語る髙橋タミさん

 
 同イベントは東日本大震災後の2015年にスタート。方言の保存・継承活動で地域コミュニティー再生を後押しする、文化庁「被災地における方言の活性化支援事業」の採択を受け、継続開催されてきた。同じく事業に取り組む弘前学院大が第1回から共催する。本年度は、同庁が新たな枠組みで支援する「消滅の危機にある方言の記録作成及び啓発事業」の一環として実施された。

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古くて新しい!?釜石の未来「スチームパンク」で発信 大野晃平さん、CG作品展

TETTOで作品展「スチームパンク釜石」を開く大野晃平さん

TETTOで作品展「スチームパンク釜石」を開く大野晃平さん

 
 釜石市のイラストレーター大野晃平さん(47)=大町=の作品展「スチームパンク釜石」は、市民ホールTETTOギャラリーで開かれている。コンピューターグラフィックス(CG)を駆使し、古里の自然や文化、名所を盛り込んだ観光マップやポスター、東日本大震災をテーマにした作品などを紹介。「子どもたちにはデジタル技術を使った表現の楽しさを、年配の人たちには懐かしさを感じてもらえたら」と来場を呼びかける。
 
大観音、ラーメン…CGデザインで表現した「釜石押し」の作品が並ぶ

大観音、ラーメン…CGデザインで表現した「釜石押し」の作品が並ぶ

 
 震災後に生み出した50点を展示する。半数がB1判(72・8×103センチ)のポスター作品。釜石の街並みをデザインしたマップ風の作品はB0判(103×145・6センチ)という大きさのものもあって目を引く。スチームパンク――蒸気機関を使用した18世紀後半ごろの雰囲気を醸す作風が、かつて煙突が立ち並んだ「鉄のまち釜石」のイメージと重なる。電気的ではないが、機械仕掛けながら進化し続けてきた「可能性の未来世界」が表現され、若い世代の鑑賞者らは新しさを感じながら見入っている。
  
子どもたちをモチーフに柔らかい印象を残す小作品も紹介

子どもたちをモチーフに柔らかい印象を残す小作品も紹介

  
映画や漫画などからインスピレーションを得た作品コーナー

映画や漫画などからインスピレーションを得た作品コーナー

  
 大野さんは大学の芸術学科で油絵を学んだ後、家業を手伝うためUターン。現在は市内の事業所で働きながら、制作活動にも取り組む。岩手デザイナー協会、釜石の美術集団「サムディ45」所属。市内外の観光マップやポスター、パンフレット制作を担い、グループ展などで作品を発表している。個展は今回で2回目。
 
震災で亡くした友人への思いを込めた2連作「小佐野中学校」

震災で亡くした友人への思いを込めた2連作「小佐野中学校」

 
「生まれ変わって幸せに」との願いを込めた4連作「リインカーネーション」

「生まれ変わって幸せに」との願いを込めた4連作「リインカーネーション」

 
 震災の津波では家族が経営していた大町の着物店が被災したが、家族は無事だった。ただ、友人や知人が犠牲になったことなどもあり、「描くことに迷いを感じた時期がある。暗い色調のものも多くなった」と大野さん。「小佐野中学校」と題した2枚一組の作品は、亡くなった同級生がモチーフ。大野さんの母校でもある小佐野中は震災当時、廃校となっていたため、体育館が遺体安置所となった。作品に込めたのは「頑張っていた野球をまた友達と一緒に学校で楽しんでほしい」との願い。4連作「リインカーネーション(輪廻転生)」も犠牲者へ思いをはせた作品だ。
 
タブレットを使ったデジタル作品づくりのワークショップを開催

タブレットを使ったデジタル作品づくりのワークショップを開催

 
 期間中の3日間はワークショップを開催。手描きした下絵をパソコン上で合成、色を塗るという過程を体験してもらった。絵を描くことが大好きな佐々木陽菜さん(甲子小6年)は、デジタルアートに初挑戦。慣れない作業に大変さを感じたが、「新しいことに触れられて楽しかった」と目を輝かせた。
  
 小さい頃から絵が好きで、友達に頼まれてキャラクターの絵を描いていたという大野さん。その友達の喜ぶ顔が、今なお続く創作活動の原動力になっている。20代半ばにデジタルソフトをメインにした制作スタイルに移行したが、「これからの時代の子どもたちにはより早くその楽しさを知ってもらいたい」と考えている。パソコンやタブレットの画面上で作ったものをネット上で瞬時に発信。そんな体験を通じ、「手軽に釜石を発信してほしい」と期待する。
 
「スチームパンクKAMAISHI」(写真左)とホテルマルエのパンフレットデザイン画

「スチームパンクKAMAISHI」(写真左)とホテルマルエのパンフレットデザイン画

 
 「スチームパンクKAMAISHI」。震災後に落ち込んだ気持ちを回復させるきっかけとなった作品だ。「乗り気がしなかったことでも、やってみると新たな発見がある」と大野さん。こうした古里を描いたポスターや観光マップを作る中で寄せられたプラスの反響が、やる気と喜びを思い出させた。「好きなことだけでなく、いろんなことに挑戦したい。彫刻とか。作品作りにいい影響が出てくるはず」と信じる。
 
 同ホール自主事業「アートアットテット」の一環。12日まで。午前9時から午後9時(最終日は同4時)まで。問い合わせはTETTO(0193・22・2266)へ。
 
 

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世代超えて対局 釜石・子ども将棋教室 プロ試験挑戦中!小山怜央さんの影響で高まる将棋熱

将棋盤を囲んで交流する正棋会の会員と子どもたち

将棋盤を囲んで交流する正棋会の会員と子どもたち

 
 釜石市小佐野公民館(佐藤貴之館長)主催の子ども将棋教室が6日、小佐野町の小佐野コミュニティ会館で開かれ、市内の小学生10人が地域の人から将棋の手ほどきを受けた。冬休み中の子どもの居場所、体験・学習活動の場を提供する「冬休み寺子屋事業」の一環で、市内の将棋愛好者らでつくる「正棋会」(西田晃代表、会員約20人)の協力で、合わせて3回実施。例年、参加者を募ると即埋まるという人気の教室で、新型コロナウイルス禍で約2年ぶりの開催となった今回も定員(先着8人)を上回る申し込みがあった。
 
冬休み中の子どもたちが集まる小佐野公民館の将棋教室

冬休み中の子どもたちが集まる小佐野公民館の将棋教室

 
 「お、しばらくだったね。元気だった?」。顔なじみの高学年児童に声をかけた西田さん(77)は早速駒を並べて対局した。低学年の子どもたちは初顔合わせで、会員が指導対局。「ほー、そこにいくか」「ちょっと、ゆるくない(釜石地域の方言できつい・大変の意味)よ」「悩ませるなー」。会員をうならせる一手を繰り出す子もいて、互いに刺激を受けながら交流を楽しんでいた。
 
低学年の児童の対局は会員が見守り、助言した

低学年の児童の対局は会員が見守り、助言した

 
 1年ほど前に将棋を始めた近藤一葵(いつき)君(小佐野小2年)は、父親以外の大人と将棋を指すのは初めてで、「ドキドキする。でも楽しい」とにっこり。ハンデをもらっても負けてしまうが、「もう一局、お願いします」と何度も勝負を挑んだ。分からない所を教えてもらい、うれしそうな様子で、「パチッという音が、かっこいい。強くなりたい」と意欲を見せた。
 
 平田の澤田秀人さん(81)は、ひ孫のような子どもたちの腕前に「まだまだ」と頬を緩めつつ、「これからが楽しみだ」と優しく見守った。
 
子どもも大人も盤上の攻防に夢中になった

子どもも大人も盤上の攻防に夢中になった

 
 佐藤館長によると、同教室の人気は藤井聡太五冠(20)=竜王・王位・叡王・王将・棋聖=の活躍が影響しているという。しかし最近、市内では別の理由で将棋熱の高まりを感じる場面が増えている。プロの将棋棋士を目指し、アマチュアから編入試験5番勝負に挑んでいる地元・鵜住居町出身の小山怜央さん(29)の存在だ。
 
 少年期、高校生時代の小山さんを知る西田さんは「より強くなっているようだ」と目を細める。編入試験の第3局は20日。小山さんは初戦から連勝しており、あと1勝で棋士養成機関の奨励会未経験のアマチュアとして初めて、かつ岩手県初の棋士となる。「実力を出し切って合格してほしい」。期待を込め、エールを送っている。
 
 西田さん自身は週6日、将棋ざんまい。週2回の正棋会のほか、他地区の集まりにも顔を出して腕を磨いていて、「子どもたちの進歩は早い。どんどん強くなり、大人になっても一緒に将棋を楽しんでもらえれば。われわれも負けずに指し続けたい」と盤面に向かった。
 
 

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困難乗り越えつなぐ「歓喜の歌」 3年ぶり復活「かまいしの第九」に市民ら胸熱く

2019年以来3年ぶりに開かれた「かまいしの第九」演奏会。43回目の開催=11日

2019年以来3年ぶりに開かれた「かまいしの第九」演奏会。43回目の開催=11日

 
 釜石の師走に待望の「歓喜」の歌声が響いた―。新型コロナウイルス感染症の影響で中止が続いていた「かまいしの第九」演奏会(実行委主催)が11日、市民ホールTETTOで3年ぶりに開かれた。本番1カ月前に指揮者が急病で交替。東日本大震災以来の大きな困難に直面しながらも、持てる力を結集し堂々の演奏を聞かせたメンバーら。心を一つに“釜石の宝”をつなぎ、約350人の観衆を魅了した。
 
 オーケストラはウッドランドノーツ(東京都)、釜石市民吹奏楽団メンバーら総勢45人。合唱隊は感染拡大防止のため規模を縮小し、県内在住者を中心に68人で編成。ソリストとして4人の声楽家を迎えた。ベートーベンの交響曲第9番1~4楽章を演奏。合唱は例年の半数ほどの人員となったが、オーケストラに負けない歌声を響かせ、コロナ前と変わらない迫力の演奏で、会場を感動で包んだ。
 
ベートーベン交響曲第9番を「混声4部合唱」で歌い上げた

ベートーベン交響曲第9番を「混声4部合唱」で歌い上げた

 
開催できなかった2年分の思いを込め、力強い歌声を響かせる男性メンバー

開催できなかった2年分の思いを込め、力強い歌声を響かせる男性メンバー

 
 釜石市甲子町の佐藤登喜子さん(75)は「素晴らしかった。釜石の第九は平和の印。まだまだコロナも多くて心配だが、やっぱりこういう時間は必要。気持ちが豊かになりました」と余韻に浸った。大槌町の駒木明郎さん(85)は「一生懸命歌う姿が震災の年の第九と重なった。もう少しお客さんが入ってくれたら。合唱メンバーも高齢化が進む。もっと若い人たちが参加してくれるといいね」と願った。
 
 長年、指揮を担当する地元在住の音楽家山﨑眞行さん(72)が11月中旬、病に倒れ急きょ降板。山﨑さんの弟子で、東京で音楽活動を続ける釜石出身の瓦田尚さん(39、都立高教諭)が代役を務めた。瓦田さんは中学時代から同演奏会に参加。主宰するオーケストラ「ムジカ・プロムナード」で第九の指揮を経験している。実行委からの打診に「重責なので最初は迷った」というが、「自分の原点は釜石の第九。つながねば」と決意。本番では「力強くクリアな歌声。オケの集中力。全員のパワーと思いで成立した演奏」と出演者をたたえ、「来年は山﨑先生とまた一緒に…」と願った。
 
代役で指揮者を務めた釜石出身、東京在住の瓦田尚さん(中央)

代役で指揮者を務めた釜石出身、東京在住の瓦田尚さん(中央)

 
no95975
 
 釜石高音楽部の小林鈴菜さん(2年)は「初めての体験なのでワクワクしていた」と本番を心待ちにしていた様子。「ドイツ語の発音が難しく、足りていない部分はあったと思うが、オケの迫力に負けないよう頑張った。市民メンバーだけでこんなにすごい第九が歌えるなんて」と感動の言葉を口にした。
 
 大船渡市の土井尻季恵さん(78)は、ソリストとして出演を続けるソプラノ土井尻明子さん(46)の母で、明子さんの娘夏鈴ちゃん(6)と3世代初共演。明子さんは甲子小1年在学時に、季恵さんが手作りした衣装を着て同第九に初めて出演。今回、その時の衣装を夏鈴ちゃんが身にまとい、3人でステージに立った。季恵さんは「釜石の第九は次世代に歌い継ぐという使命がある。こういう日が来ることを望んでいた。家族、地域の支えがあって私たちは舞台を踏める。幸せなこと」と喜びを表した。明子さんと練習を重ねた夏鈴ちゃんは「楽器の音が大きくて自分の声が聞こえなかった。でも楽しかった!」とにっこり。初舞台を鮮明に覚えているという明子さんは「当時の体験が(声楽家としての)今の自分につながっている。思い出の地で母、娘と舞台に立てて感慨深い」と話した。
 
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演奏会のフィナーレは「歓喜の歌」を再度演奏

演奏会のフィナーレは「歓喜の歌」を再度演奏

 
例年、観客も一緒に声を重ねる最後の「歓喜の歌」は、今年は手拍子で…

例年、観客も一緒に声を重ねる最後の「歓喜の歌」は、今年は手拍子で…

 
 同演奏会は1978年の初演から毎年12月に開かれ、震災があった2011年も途切れることなく続けられてきた。コロナ禍で20、21年はやむなく中止したが、復活を期して本年から再始動。12月の感染状況が見通せない中ではあったが、7月から合唱練習を続け、念願の演奏会を実現させた。
 
 「かまいし第九」実行委の川向修一会長(70)は「大きな山をみんなの努力で越えられた。一人一人の思いが膨らみ、それが客席に届いたのではないか…」。今年に入り、長年一緒に歌い続けてきたメンバー、裏で舞台を支えてくれていた仲間を相次いで亡くした。コロナ禍だけでなく、メンバーの高齢化、資金面など継続への課題は多いが、「今回、少ない人数でもこれだけの第九ができるというのを感じられたのは一番の収穫。これを力に変え、何とか来年以降も続けていければ」と思いを込めた。
 
出演者には会場から惜しみない拍手が送られた

出演者には会場から惜しみない拍手が送られた

 
 同演奏会では2003年から、市内の中学校単位で合唱を披露する「オーケストラと歌おう」のコーナーを設けているが、本年はコロナ禍を考慮し見送った。