タグ別アーカイブ: 文化・教育

釜石高定時制の農業体験がスタート。サツマイモの苗などを植え付けた

野菜栽培に汗流す 釜石高定時制生徒、農業体験学習スタート

釜石高定時制の農業体験がスタート。サツマイモの苗などを植え付けた

釜石高定時制の農業体験がスタート。サツマイモの苗などを植え付けた

 
 釜石市甲子町の県立釜石高(青木裕信校長)定時制(生徒12人)は6日、地元農家の畑を借りて農業体験学習を始めた。ジャガイモの種イモとサツマイモの苗の植え付け作業に挑戦。10月まで計8回の活動を予定し、草取りや水やりなど環境整備に取り組みながら豊かな実りを待つ。
 
 農作業を中心とした体験学習を通じ、生産や協働の喜び、やりがいを実感してもらおうと、2018年から実施する授業の一環。多様な職業や年齢の人たちとの地域間交流により自己成長を図るのも狙いにする。本年度は地元・甲子町洞泉の「創作農家こすもす」(藤井サヱ子代表)で根菜類の植え付けや収穫、山田町でのそば打ち体験を予定する。
 
創作農家こすもすで開講式。藤井さん(左)が作業の進め方を説明した

創作農家こすもすで開講式。藤井さん(左)が作業の進め方を説明した

 
 初日は、こすもすで開講式を行い、畑を提供する藤井さん(77)が「交流しながら野菜を育てていきたい。力を貸してくださいね」と呼び掛け。種イモなどを約30センチ間隔で植えることや、芽が出やすいように土はかけすぎないことなど注意点を説明した。
 
 畑(約3アール)に足を踏み入れた生徒たちは、藤井さんの助言を受けながら男爵イモの種イモ10キロ、ベニアズマの苗28本を植え付けた。長方形をした平鍬(くわ)を使って畝(うね)作りに挑む男子生徒の姿も。みんなで協力し手際よく作業を進め、気持ちのいい汗を流していた。
 
畝づくり、種イモの植え付けなど農作業を体験する生徒たち

畝づくり、種イモの植え付けなど農作業を体験する生徒たち

 
藤井さん(右)の指導を受けながら苗の植え付け作業を進めた

藤井さん(右)の指導を受けながら苗の植え付け作業を進めた

 
 生徒会長の佐々木遼(はる)君(3年)は「一人ひとりが頑張って作業しよう」と仲間に声掛けする。「農業はここでしか触れられない貴重な体験。普段の授業とは違ったことをするので新鮮。自分で植え、育てたものが食材になる。達成感がある」と充実した表情。自身が中心となり、「みんなを引っ張っていく」と意気込む。
 
 生徒らは今後、除草作業などをしながら野菜栽培を体験する。8月にジャガイモを収穫し、釜高祭(9月)で加工したものを販売する予定。10月にサツマイモの収穫、11月には収穫祭を行う。

劇団もしょこむ主催 第1回演劇ワークショップ

「芝居づくりって面白い!」 釜石の劇団もしょこむ 市民ら対象にワークショップ

劇団もしょこむ主催 第1回演劇ワークショップ

劇団もしょこむ主催 第1回演劇ワークショップ

 
 釜石市の「劇団もしょこむ」(小笠原景子代表、10人)は5日、大町の釜石PITで、一般市民を対象にした演劇ワークショップ(WS)を開いた。芝居づくりの楽しさを味わってもらおうと初めて企画。高校生と社会人7人が、構想から台本作り、舞台上での演技まで一連のプロセスに挑戦。一から創り上げる演劇の魅力を体感した。
 
 小笠原代表(38)、同劇団立ち上げメンバーで、現在はプロの俳優として東京を拠点に活動する菅野結花さん(31)が講師を務めた。始めに、自分の気持ちに向き合う、仲間とコミュニケーションを取りながら体を動かすといった表現WSで心身をリラックス。2人1組で自己紹介し合った後、会話を文字に起こし、書き起こしたものを再現するという体験をした。
 
互いの自己紹介を文字に起こし再現する台本WS

互いの自己紹介を文字に起こし再現する台本WS

 
 「芝居というと舞台上で仰々しく演じるイメージがあるかもしれないが、今のような普通の会話のキャッチボールでも脚本(台本)ができ、1分半の芝居が完成する。難しく考えずにやってみて」と小笠原代表。この後、高校生(3人)と社会人(4人)に分かれチームを結成。劇団メンバー(3人)も1チームを作り、10分の芝居作りに取り組んだ。
 
 台本には、くじ引きで1人1枚ずつ引いた単語を何らかの形で盛り込むことが条件。高校生チームは「タンゴ、船、まほう」、社会人チームは「芸人、みかん、部活、○○太郎」、劇団チームは「病気、マイケル、平」という“お題”を劇中に入れ込むことに。アイデアを出し合い、試行錯誤しながらストーリーを作り上げた。
 
小笠原代表(中央)から台本作りの基礎を学ぶ

小笠原代表(中央)から台本作りの基礎を学ぶ

 
 台本完成後は演技の稽古。セリフや掛け合いの練習、衣装や小道具の準備、ステージの使い方のシミュレーションなど、発表に向けて各チームが奮闘した。最後は出来上がった芝居を披露。オリジナリティーあふれるストーリー展開、笑いの要素、堂々の演技など、4時間余りで作ったとは思えないほどの完成度を見せた。
 
 これまで釜石市民劇場に7回出演している高校生、矢浦望羽さん(16)は「お題に沿って話の構成を考えるのが難しかった。3人の意見をまとめるのも大変で…」と脚本作りに苦労した様子。それでも経験豊富な演技のほうはアドリブも飛び出す余裕。「自分なりに想像して演じるのが楽しくて大好き。今後はエキストラにも挑戦したい」と目を輝かせた。
 
息もぴったり!堂々とした演技で大人たちを感心させた高校生チーム

息もぴったり!堂々とした演技で大人たちを感心させた高校生チーム

 
話のオチも盛り込み、完成度の高い芝居を見せた大人チーム

話のオチも盛り込み、完成度の高い芝居を見せた大人チーム

 
 市職員の八木橋朋広さん(27)は「何げない会話が舞台の題材になりうるというのが面白い経験だった」と新鮮な驚き。演技自体も初めて体験。「人前で演じるのはまだハードルが高いが、こういう(WSの)機会があればまた参加してみたい」と興味をそそられていた。
 
 小笠原代表は釜石市民劇場や講師を務める宮古市のこども劇団で、子どもたちの生き生きとした姿を目の当たりにし、演劇を続けられる環境の必要性を実感。演じるだけでなく舞台を支えるさまざまな役割がある演劇には「いろいろな職業の種が散らばっている」とし、「個々の才能を生かせる場づくりのきっかけにもなれば」と今回のWSを企画した。今後も継続していきたい考え。
 
演劇の魅力を共有したWS参加者と劇団メンバー

演劇の魅力を共有したWS参加者と劇団メンバー

 

「もしょこむ」創設メンバーの菅野結花さん 釜石の演劇活動継続に喜び

 
劇団もしょこむの立ち上げメンバーで、現在は東京を拠点に俳優として活動する菅野結花さん

劇団もしょこむの立ち上げメンバーで、現在は東京を拠点に俳優として活動する菅野結花さん

 
 演劇WSで講師を務めた菅野結花さん(陸前高田市出身)は、2015年に誕生した「劇団もしょこむ」の初代メンバー。当時は岩手日報社の記者として釜石支局に勤務。市民劇場出演で知り合った小笠原景子さんと意気投合し、新劇団を立ち上げた。旗揚げ公演では、震災で両親を亡くし仮設住宅で暮らす姉妹の心の葛藤を描いた作品を演じ、被災者らの共感を得た。
 
15年3月の劇団旗揚げ公演「平行螺旋」。小笠原さん(右)と姉妹役を演じる菅野さん

15年3月の劇団旗揚げ公演「平行螺旋」。小笠原さん(右)と姉妹役を演じる菅野さん

 
 釜石を離れて1年後、俳優の道を志し上京。劇団青年座研究所を経て、現在は映像作品への出演を中心に活動する。今回は“古巣”での久しぶりの活動。自身のこれまでの経験を生かし、WS参加者に演劇の魅力を伝えた。
 
表現WSでは演劇で鍛えた体のしなやかさも披露。参加者を驚かせた

表現WSでは演劇で鍛えた体のしなやかさも披露。参加者を驚かせた

 
 「自分たちがやりたいことを実現するために、みんなで知恵やアイデアを出し合う。互いに学び合い、教えられる対等な関係でできるのが演劇」と菅野さん。「やりたいと思った時にすぐに参加できる場が身近にあることも大事」とし、今回のWSのような地方での学びの機会の意義を強調する。
 
 この日は懐かしい仲間とも再会を果たした。「勢いで立ち上がった劇団が7年も続いている。感慨深い」と喜びを口にし、興味を持つ若い世代への経験やノウハウの継承で釜石の演劇文化がさらに盛り上がっていくことを期待した。

かまいしDMC天文部が橋野鉄鉱山で開いた「春の星空観察会」

「見えた!」春の5星座に歓声 世界遺産・橋野鉄鉱山で楽しむ星空観察会

かまいしDMC天文部が橋野鉄鉱山で開いた「春の星空観察会」

かまいしDMC天文部が橋野鉄鉱山で開いた「春の星空観察会」

 
 釜石市の観光地域づくり法人、かまいしDMC(河東英宜代表取締役)は4月30日、橋野町の世界遺産「橋野鉄鉱山」で春の星空観察会を開いた。社員有志で結成する天文部(6人)が企画。市内の親子ら32人が参加し、“春の大三角形”で有名な星座群などを肉眼や望遠鏡で観察した。星空観察会は今後も四季ごとに開催していく予定。
 
 月明かりの少ない新月の時期に、鵜住居町根浜海岸などで行ってきた同観察会。今回は標高が高く、街灯の明かりの影響を受けない橋野鉄鉱山を観察会場に選んだ。天文部の川崎杏樹さん(25)=いのちをつなぐ未来館スタッフ=が解説を担当。春に見られる代表的な5星座を配布資料で示しながら紹介した。
 
星空観察会
 
配布資料を見ながら春の星座について学ぶ参加者

配布資料を見ながら春の星座について学ぶ参加者

 
 7つの星がひしゃく形に並ぶ“北斗七星”で知られる「おおぐま座」、“北極星(ポラリス)”が目印の「こぐま座」は、北の空で1年中見ることができるが、高く上る春からが観察におすすめ。「うしかい座」「おとめ座」「しし座」は、目印となる明るい星(一等星、二等星)を結んだ“春の大三角形”が有名。川崎さんは各星座の特徴、位置関係などを説明し、見つけ方をアドバイスした。
 
 観察会前日の29日が「東方最大離角」(内惑星が太陽から最も離れて見える時)で、水星の一番の観察チャンスとなったことも紹介。西の低い空に見えることから、西側が開けた場所での観察をすすめた。夜間の過剰な照明や不必要な点灯が動植物に与える影響「光害(ひかりがい)」についても解説し、環境問題への意識啓発を図った。
 
 会スタート時は薄曇りで星が見えるか心配されたが、資料解説が終わるころには雲が晴れ始め、頭上の北斗七星は肉眼でも確認できるまでに。参加者は天文部が用意した天体望遠鏡を代わる代わるのぞき込み、春の星座群に理解を深めた。
 
天体望遠鏡でも星を観察。なかなか見られない光景に興味津々

天体望遠鏡でも星を観察。なかなか見られない光景に興味津々

 
 鵜住居町の佐々木智桜さん(8)は「家から見るより、たくさんの星が見えた。しし座やおとめ座も見ることができた。自分の生まれ星座のうお座も見てみたい」と興味をそそられた様子。母智恵さん(39)は「街灯がないので見えやすい。解説にギリシャ神話の話もあったが、このような体験が子どもの読書や調べ学習のきっかけにもなれば」と期待する。
 
 同社天文部は星好きの社員が意気投合し、2020年12月に結成。「釜石にも星がきれいに見える場所があることを知ってほしい」と市民向けの観察会を始めた。メンバーは市主催の星空観察会でも講師を務める。佐々学さん(42)=うのすまい・トモス施設管理者=は「釜石は全体的に星がきれいだが、地元の人は意外と意識していない。ここ橋野では宇宙を旅した種から育てられた“宇宙桜”(日本三大桜・三春滝桜の子孫木)も育つ。子どもたちが天文学者を目指すなど宇宙に夢を持つ機会にもなれば」と、継続開催に意欲を見せた。
 
約1時間の観察を楽しみ、最後は全員で記念撮影

約1時間の観察を楽しみ、最後は全員で記念撮影

音楽ファンを魅了した釜石市民吹奏楽団のスプリングコンサート

春の爽やかさ、ブラス生演奏に乗せ~釜石市民吹奏楽団 半屋外型コンサート

音楽ファンを魅了した釜石市民吹奏楽団のスプリングコンサート

音楽ファンを魅了した釜石市民吹奏楽団のスプリングコンサート

 
 釜石市民吹奏楽団(山内真紀人団長、団員50人)は1日、大町の市民ホールTETTOでスプリングコンサートを開いた。昨年に続き2回目の開催で、新型コロナウイルスの影響が続いていることから、感染防止策を講じた屋外空間で演奏を楽しむスタイルを継続。肌寒い雨空にもかかわらず、音楽好きな市民らは懐かしい曲や軽やかな音色に足を止め聴き入っていた。
 
 ホールBと屋根のある広場を一体化する半屋外式の会場設営で行った。第一部はアンサンブルステージとし、5グループが出演。フルートをこよなく愛するメンバーによる五重奏ではディズニー映画、木管五重奏や金管五重奏で「春」をテーマにした曲を披露し、柔らかな暖かさを音で届けた。サックス八重奏、打楽器四重奏と続いた。
 
4~8人でチームを組んで演奏、楽器の魅力を伝えた

4~8人でチームを組んで演奏、楽器の魅力を伝えた

 
全団員による演奏では懐かしいサウンドやクラシックの名曲を聴かせた

全団員による演奏では懐かしいサウンドやクラシックの名曲を聴かせた

 
 第2部は全団員によるステージで、オープニングのマーチ「ベスト・フレンド」は「コロナ禍でも大好きな人に会いたいな」との思いを乗せて演奏。ポップスや歌謡曲など耳なじみのある7つのプログラムで観客を楽しませた。昭和アイドルコレクションでは「ダンシング・ヒーロー」「赤いスイトピー」など、クラシック・メドレー(ブラス・ロック)では「交響曲第9番新世界より第4楽章」「ウィリアム・テル序曲」などを聴かせた。アンコールに応え、演奏したのは「五月の風」。爽やかなマーチング曲で季節感を演出した。
 
 団員の家族という上中島町の60代男性は「いろんな音を近くで聴いたり、楽器の弾き方を見ることができて、いい。コロナ禍で何もしないのではなく、気を付けながら日常を送っていけば」と見守る。自身もクラシックギターの演奏を楽しんでいて、「音楽は聴くのも、演奏しても気持ちが安らぐ。ストレス発散にもなる」と実感を込めた。
 
立ち見が出るほど多くの人がブラスの生演奏を楽しんだ

立ち見が出るほど多くの人がブラスの生演奏を楽しんだ

 
 釜石市吹は沿岸他市(宮古~気仙沼)の社会人吹奏楽団と一緒に、三陸自動車道の早期完成を願う「ルート45港町コンサート」を1997年から毎年春に開催してきた。コロナの流行で中止され、代替えとして昨年、スプリングコンサートを企画。今年も発表の機会にと継続した。山内団長(48)は「コロナ禍でも、感染対策を講じてできること、形を発信したかった。楽器演奏や歌、音楽をやりたい若い人たちの受け皿になり、釜石に根付いた音楽文化を残していくことができるよう活動していきたい」と意欲を見せる。

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「人を描く」鵜住居町の古川祐市さん 震災で途切れた描く喜び取り戻し、地元で初個展

「人の姿」をテーマに絵を描き続けている古川祐市さん

「人の姿」をテーマに絵を描き続けている古川祐市さん

  
 工事現場で働く作業員、車いす生活を送る人、入院・自宅療養中の家族-。目に入らない、見えにくい場所で苦労したり努力している人々の姿を描いた作品を紹介する絵画展が大型連休中、いのちをつなぐ未来館(釜石市鵜住居町)で開かれた。描いたのは、地元のアマチュア画家古川祐市さん(32)。東日本大震災後、心身の不調から創作活動を離れた時期があり、自身も苦労を抱えた経験を持つ。描く喜びを取り戻して約5年。初めての個展を実現させた。
 
 絵画展では2018年以降に創作した油彩、アクリル画など17点を紹介。工事現場で一息つく作業員を描いた「復興へ」とタイトルが付けられた作品がある一方、震災で被災した母校跡地に建設中のスタジアムをモチーフにした絵には「復興はまだ終わっていない」と重機を前面に配置し、風刺を込めた。骨が浮き出るほど痩せ細った晩年の父、病院のベッドに横たわる穏やかな表情の祖母、ギプス姿でも笑顔を見せる母。身近な人、実在する人を写実的なタッチで「生かす」作品を並べた。
 
苦労している人、頑張る人の表情を描いた作品などが並んだ

苦労している人、頑張る人の表情を描いた作品などが並んだ

 
 古川さんは、よく絵を描いてくれたという父の影響で、幼い頃から、お絵かきが大好きだった。釜石北高で美術部、県立大宮古短期大学部では美術サークルに所属して油彩の腕を磨いた。釜石市内の水産加工会社に就職して1年後、震災の津波で鵜住居町の自宅が全壊。保管していた作品約100点も流失した。仮設住宅に移った後、多くのものを失ったショックや環境の変化で心身とも疲弊し、好きだった絵を描くこともできなくなった。
 
 入院療養を経て、17年に復興住宅に入居すると、新しい生活拠点を得たことで心が落ち着いた。日差しの明るさを感じられる環境に「そうだ!絵を描こう」と気持ちも前向きになり、再び筆を手にした。そんな、絵を描く喜びを取り戻した自身の心象風景を表現した「青い壁」も展示。青空というキャンバスに雲やシャボン玉の‶落書き″を楽しむ子どもの姿を描いた空想画だ。
 
絵を描く喜びを表現した「青い壁」。込めた思いを来場者に伝えた

絵を描く喜びを表現した「青い壁」。込めた思いを来場者に伝えた

 
 ほとんどの作品に登場するのが、「人」。これまでは気にとめていなかった場所、あまり目をとどめることのなかった所で苦労していながらも頑張っている人を見つけると、描きたい衝動に駆られるようになった。そして、震災前は「見たものをそのまま描かなければ」と気を張っていたが、今は「自分のイメージをのせて自由に描くのも面白い」と思考も変化。「震災がなければ、今の作風にはなっていなかった」と振り返る。
 
 「描くしか取りえがない。人の姿と、好きという気持ちを大事にして制作していきたい」と古川さん。現在、取り組んでいるテーマは「ロシアによるウクライナ侵攻」。作品を見てもらいたい―と、2回目の展示会に向け意欲を見せた。
 
 絵画展では、自身の作品を印刷したはがきを販売。売り上げの半分をウクライナの人道支援のために寄付することにしている。

「鵜住居青年会館」の落成を喜ぶ会員ら=16日

震災11年「鵜住居青年会館」待望の再建 会員ら地域の宝「虎舞」継承へ決意新た

「鵜住居青年会館」の落成を喜ぶ会員ら=16日

「鵜住居青年会館」の落成を喜ぶ会員ら=16日

 
 釜石市鵜住居町の虎舞保存団体「鵜住居青年会」(小原正人会長、会員50人)はこの春、東日本大震災の津波で流失した活動拠点「鵜住居青年会館」の再建を果たした。被災から11年を経て、やっと得られた本設拠点。会員らは寅(とら)年の本年に踏み出す新たな一歩にさらなる活動意欲を高め、江戸時代から受け継がれる地域の宝を守り伝えていくことへ思いを強くする。
 
 震災前の同会館は、被災して移転新設された現在の鵜住居小、釜石東中の駐車場付近にあった。建物の老朽化で2003年に新築したばかりだった会館は、11年の震災津波で跡形もなく流失。館内に保管していた虎舞の道具類も全て流された。希望の光となったのは、大量のがれきの中から見つかった道具類(小太鼓4、大太鼓3、虎頭1)。中には会所有で最古の1878(明治11)年作の大太鼓も。これらは全て修復され、大切に受け継がれる。
 
 震災後、小中学校の仮設校舎体育館、復興支援で設置されたプレハブ施設、生活応援センターなどを借りて稽古を継続し、市内外で舞を披露してきた同青年会。完全復活へ最後の懸案となっていたのが、同会館の再建だった。
 
再建された鵜住居青年会館の外観。左側にシャッター開閉の山車収納庫を備える

再建された鵜住居青年会館の外観。左側にシャッター開閉の山車収納庫を備える

  
 新たな会館は、同町2丁目、鵜住神社参道近くの市有地約80平方メートルを借用して建設。木造平屋建ての建物は、延べ床面積53・82平方メートル。神棚を祭ったフローリングの居室、山車収納庫、流し、トイレを備える。費用は同会の自己資金で賄い、大槌町の建設業者が施工。昨年12月に着工、本年3月に落成した。
 
「鵜住居虎舞」の踊りで使う虎頭が並ぶ居室

「鵜住居虎舞」の踊りで使う虎頭が並ぶ居室

 
天井が高い山車収納庫。左側に道具類を収納できる棚も設置されている

天井が高い山車収納庫。左側に道具類を収納できる棚も設置されている

 
 小原会長(35)は「ようやく念願の拠点ができた。まちの復興整備が遅れたこともあり、再建は今の時期にずれ込んだが、これでやっと落ち着ける」と一安心。震災後、転々としてきた道具類や山車の保管場、会議部屋などを確保でき、「今まで以上にもっといい踊りを見せられるよう精進したい」と意気込む。
 
 鵜住居町は市内で最も甚大な津波被害を受けた。青年会会員も多くが自宅を失い、家族や親族を亡くした。深い悲しみや数々の困難に直面しながらも、全国からの支援や励ましでいち早く立ち上がり、11年秋には活動を再開した同会。これまで、地域復興の原動力、住民の心の支えとして貢献してきた功績は非常に大きい。
 
震災から半年後、被災した住民を元気づけようと舞った鵜住居青年会=2011年9月25日

震災から半年後、被災した住民を元気づけようと舞った鵜住居青年会=2011年9月25日

 
がれきの中から見つかった太鼓を補修、代替道具などを用い手踊りを披露する会員

がれきの中から見つかった太鼓を補修、代替道具などを用い手踊りを披露する会員

 
 震災を機につながった全国の支援者との交流は今も続く。寅年の本年は、11年に招待された茨城県日立市の秋祭りへの出演が予定されている。「震災後、道具がそろって初めて、踊りを披露させてもらった思い出の地。10年以上たった今でも私たちのことを気にかけてくれる人たちがいるのは本当にありがたい」と小原会長。結ばれた絆を胸に最高の舞を届ける日を心待ちにする。

釜石市の中心市街地で自然観察の体験活動を行ったボーイスカウトの団員ら

自然の中で遊びまくれ!新団員獲得へ、ボーイスカウト体験活動 次回は4月23日「春を探そう」

釜石市の中心市街地で自然観察の体験活動を行ったボーイスカウトの団員ら

釜石市の中心市街地で自然観察の体験活動を行ったボーイスカウトの団員ら

 
 ボーイスカウト釜石第2団(菊地次雄育成会長、末永正志団委員長、約50人)の体験活動が9日、釜石市内で行われた。団員や入団に関心を持つ子どもや保護者ら約40人が参加し、自然観察をしながら街中を散策。ロープ結びなどの知識や観察力を確かめるクイズなどにも挑戦し、活動への理解を深めた。
 
 体験活動の発着点は、港町のホームセンター駐車場。子どもたちは2班に分かれ、大型ショッピングセンター内を通って大町広場へ。6人で協力し、ひもとゴムを使って空き缶を運び積み上げるゲームに挑んだ。「力いっぱい(ひもを)引っ張って」「そっと置いて」などと声を掛け合い、成功すると「よし!」とガッツポーズし喜びを表した。
 
大町広場では空き缶を運び積み上げるゲームに挑戦した

大町広場では空き缶を運び積み上げるゲームに挑戦した

 
 青葉公園(大只越町)に移動すると、「足元に注意。矢印を見つけて仙寿院へ」と指令を受けた子どもたち。矢印が示す方向に進んで高台にある仙寿院に着いたら、「階段は何段だった?」との質問が待ち受けていて、「途中まで数えていたけど…」などと思い悩む子どもたちの姿が見られた。
 
 一休みをした後は、石碑や津波避難場所を伝える看板などの写真でつくられた地図を手に、ゴールを目指して再び歩き出した。チェックポイントの釜石市役所本庁舎(只越町)前ではロープ結びに挑戦。高学年の児童や中学生メンバーが、「本」「はな」「8の字」「もやい」の4種の結び方を体験参加者、低学年の団員に教えた。
 
「疲れたー」と言いつつ、元気に階段を駆け上がる子どもたち

「疲れたー」と言いつつ、元気に階段を駆け上がる子どもたち

 
団員らは地図を手に、ゴールを目指して街中散策を楽しんだ

団員らは地図を手に、ゴールを目指して街中散策を楽しんだ

 
 入団を考えている菊地美有さん(白山小1年)は「いろんなところを歩いて楽しい」と感想。母礼美(ひろみ)さんは(49)は「自然を通した学びは考える力を養うことにつながり、いつか役に立つ。歩くことで新しい発見もある」と見守る。大槌町の藤原朋さん(37)はボーイスカウト出身で、長女ほのかさん(大槌学園小学部1年)に参加を提案。協調性を養い、世代交流、失敗と成功を繰り返す体験ができるといった利点に加え、「いろんな地区の子どもたちが集まり、コミュニティーが増えるのがいい」と勧める。
 
 班長を務めた阿部雅俊君(大槌学園中学部9年)は「日常生活とは違う、普段やらないことをたくさんできる。一緒にいろんな体験をしてほしい」と仲間が増えることを期待した。
 
ロープ結びに取り組む団員。野外活動を通じて安全、環境、防災などの知識とスキルを身に付ける

ロープ結びに取り組む団員。野外活動を通じて安全、環境、防災などの知識とスキルを身に付ける

 
 ボーイスカウトの活動は自然の中で集団活動しながら仲間たちとの友情と礼儀を身に付け、健全育成を図ることが目的。昨年創立60年を迎えた釜石2団では、ビーバー隊(小1、2)、カブ隊(小3~小5)、ボーイ隊(小6~中3)、ベンチャー隊(高校生)、ローバー隊(19~25歳)が活動する。近年は少子化や習い事の多様化などで会員が減少。こうした活動を知ってもらおうと、4~5月に希望者を交えた体験会を行っている。
  
 次回は23日に実施予定で、「春をさがそう」をテーマに自然観察ビンゴなど野外ゲームを楽しむ。現在、小学校1~3年生を対象に参加者を募集中。午前9時に甲子町大畑の「福祉の森」東屋(あずまや)に集合し、正午に現地解散となる。希望者は末永団委員長(電話090・7338・3043)に申し込みを。当日参加も可。未就学児も保護者同伴で参加できる。
 
 末永団委員長(72)は「自然の中での遊びを通じ、好きなことを見つけてもらえたら。仲間とともに楽しい思い出をつくり、釜石の良さを知ってほしい。自然の中で遊びまくれ」と呼び掛ける。

創作への精進ぶりを公開した釜石市民絵画教室の会員たち

衰えぬ意欲、挑戦を作品に込め 釜石市民絵画教室、3年ぶりの作品展

創作への精進ぶりを公開した釜石市民絵画教室の会員たち

創作への精進ぶりを公開した釜石市民絵画教室の会員たち

 
 釜石市民絵画教室(小野寺豊喜会長、会員13人)の第41回「わたくしたちの絵画展」は1日から3日まで大町の市民ホールで開かれた。新型コロナウイルスの影響で、展示会開催は3年ぶり。会員と講師の菊池政時さんが83点を出品し、多くの絵画ファンや仲間が多様な表現を楽しんだ。
 
 作品は同教室で取り上げた花や魚の静物、スケッチ旅行で訪れた風景など共通したテーマのほか、個々の好み、挑戦するモチーフが並び変化に富んだ。画材も水彩、油彩、パステル、色鉛筆、ボールペンと、さまざま。小野寺会長(73)は「会員それぞれが継続してきた活動が実を結びつつあり、力のある作品を展示することができた。会員の高齢化は進むが、何を描きたいか目標や焦点を定めたり、大きい作品に挑戦しようと、創作する意欲、表現技術は高まっている」と充実感をにじませた。
 
植物や自然風景などを描いた作品が並んだ絵画展

動植物や自然風景などを描いた作品が並んだ絵画展

 
 甲子町の鈴木光幸さん(72)は、第74回岩手芸術祭で洋画部門賞を受けた「絵画展後のひと時」(F50号、水彩)、甲子川で仲むつまじく羽休めするマガモのつがいを描いた「春を待つ」など8点を並べた。退職後、「第2の人生は絵を生きがいに」と創作を始めて4年目。「まだ、いろいろ描いてみたい時期。人前で展示させてもらうことを考えていなかったが、少しでも良い絵にしたい。『いいね』と言ってくれる人もいて、描く楽しみが大きくなっている」と意欲を膨らませる。
 
会員は作品に込めた思いを伝えながら来場者と交流した

会員は作品に込めた思いを伝えながら来場者と交流した

 
 同教室は1978年度、市の社会教育講座としてスタート。その後自主活動グループに移行し、学習、作品発表を続ける。絵画展は、学習会場となる旧市民文化会館展示室で年度末に開いていた。2011年の東日本大震災は32回目の展示会期間中で、作品は津波にのみ込まれた。作品を回収し、泥を取り除いて修復した作品を加えた絵画展を12年に再開、教室継続の〝のろし〟をあげた。
 
 教室は毎月2回、隔週水曜日に青葉ビルで開く。合評会、スケッチ旅行(コロナ禍でここ数年は実施を見送る)を経て、絵画展で1年間の成果を示す。市芸文祭にも参加する。

「根浜ハマナスプロジェクト」始動=3月29日

根浜海岸「ハマナス」群生地復活へ 震災から11年 育成プロジェクト本格化

「根浜ハマナスプロジェクト」始動=3月29日

「根浜ハマナスプロジェクト」始動=3月29日

 
 東日本大震災の津波で多くの海浜植物が失われた釜石市鵜住居町の根浜海岸―。同所の原風景である「ハマナス」が咲き誇る海辺を取り戻そうと、市民有志によるプロジェクトが今年も始動した。16日の植樹祭を前に、3月29日、ハマナスの勉強会と種を植えるためのプランター作りが根浜レストハウスで行われ、市内の親子ら16人が参加した。

 

 再生活動には、根浜ハマナスプロジェクト実行委(岩崎昭子代表)が昨春から取り組む。勉強会では、プロジェクトに協力する岩手県立大総合政策学部の島田直明准教授(植生学、景観生態学)から、ハマナスの特性、震災の津波がもたらした根浜海岸の砂浜や植生などの環境変化を学んだ。

 
ハマナスや根浜の海浜植生について震災前と比較しながら説明する島田准教授

ハマナスや根浜の海浜植生について震災前と比較しながら説明する島田准教授

 
今後植える予定のハマナスの種を観察する子ども

今後植える予定のハマナスの種を観察する子ども

 
 ハマナスはバラ科の落葉低木で、初夏に濃いピンク色の花を咲かせる。実はジャムや茶など食品に加工されるほか、花は香水の原料や漢方薬になる。震災前、約1・3キロの砂浜があった根浜海岸にはハマナスの群生が見られたが、津波で砂浜が流失。ハマナスやハマボウフウなど多くの海浜植物が失われた。

 

 プロジェクトでは、津波に耐えたハマナスから採取した種を植えて育て、苗木を海辺に戻すことを目指して活動する。この日は勉強会のあと、種を植えるためのプランター作りも行われた。使われなくなったフォークリストの木製パレットを材料とし、電動ドリルで使う電気はバイオディーゼル燃料で発電。リサイクル、脱炭素と地球環境を意識した取り組みとなった。

 
不用になった木製パレットを再利用し、プランター作り

不用になった木製パレットを再利用し、プランター作り

 
プランターはガスバーナーで焼き付け、仕上げた

プランターはガスバーナーで焼き付け、仕上げた

 
 弟、友人と参加した青木結惟さん(甲子小4年)は「釘とかドリルを使うのが難しかったけど、みんなで協力してうまくできた。ハマナスをたくさん植えて根浜をきれいな海辺に戻したい。花がいっぱい咲くのも見てみたい」と望んだ。

 

 実行委の岩崎代表は根浜の旅館・宝来館のおかみで、同海岸の原風景を知る一人。震災後、白砂にハマナスが咲き誇る以前の海岸の姿を写真で目にし、「この風景に返りたい」との思いを強くした。「幅広い世代が集い、ハマナスを育てながら自分たちも成長していく。海岸を花でいっぱいにするだけでなく、みんなで育ち合う場になれば」と根浜の未来を描く。

 

 16日午前11時からの植樹祭では、プランターへの種まきや育てた苗木の植樹に加え、飲食(テイクアウトのみ)やクラフトの出店などのイベントも予定される。根浜シーサイドのフェイスブックで、当日の内容、日程を見ることができる。

生活を楽しみにするかまいしこども園の新入園児ら

元気に楽しい思い出を! かまいしこども園で入園式、ワクワク新生活スタート

新生活を楽しみにするかまいしこども園の新入園児ら

新生活を楽しみにするかまいしこども園の新入園児ら

 

 釜石市天神町のかまいしこども園(藤原けいと園長、園児75人)の入園式は2日に開かれた。0~4歳児20人が新たに仲間入り。昨年度、途中入園となった0~5歳児9人も出席し、新しい生活の始まりに期待を膨らませた。

 

 新型コロナウイルス禍の中、保護者の同伴は2人までに制限。来賓の姿はなく、在園児の参加も控えた。藤原園長は「優しいお兄さん、お姉さんがいっぱい。楽しいこともたくさん待っている。元気に通ってほしい」とあいさつした。

 
「にゅうえん、おめでとう」。手製のメダルで新入園児を歓迎した

「にゅうえん、おめでとう」。手製のメダルで新入園児を歓迎した

 

 新入園児は名前を呼ばれると、ステージへ。職員は、手作りしたメダルを一人一人にプレゼントして仲間入りを歓迎した。年長児は動画でお祝いの言葉。「一緒に楽しく遊ぼう」と呼び掛けた。

 

 浜町の井上幸子さん(39)は長女陽葵(ひなた)ちゃん(3)、次男陽斗(はると)ちゃん(1)を託した。園での遊びにワクワク感をにじませている子どもたちを見つめ、「2人そろって預けることができて、安心。たくさんの友達と元気に楽しい思い出をつくってほしい」と願った。

 

設置された看板の前で記念撮影する家族らの姿が見られた

設置された看板の前で記念撮影する家族らの姿が見られた

 

 同園では、さまざまな遊びを通じ学び合う保育教育を実践する。郷土芸能「虎舞」や英語、茶道など心の成長につながる活動も導入。キリスト教保育を取り入れ、困っている人や悲しんでいる人に寄り添い助ける心、感謝、命を大切することなどを身に付ける取り組みも進める。

釜石スタディツアーで訪れた北海道厚真町の小中学生=3月27日、釜石PITでの交流会

地震被害を受けた北海道厚真町の小中学生 子ども目線の防災 釜石から学ぶ

釜石スタディツアーで訪れた北海道厚真町の小中学生=3月27日、釜石PITでの交流会

釜石スタディツアーで訪れた北海道厚真町の小中学生=3月27日、釜石PITでの交流会

 

 2018年9月の北海道胆振東部地震で道内最大の被害を受けた厚真町の小中学生6人が、3月26日から3日間、東日本大震災の被災地・釜石市を訪問。同市の子どもたちと大規模災害の経験を共有しながら、教訓を学び合った。厚真の小中学生は、震災後、率先して防災活動に取り組む釜石の中高校生の姿にも刺激を受け、未来の命を守るために自分たちができることを考えた。

 

 釜石訪問は、同町の放課後子ども教室事業を担う「オフィスあっぷ・ろーど」(上道和恵代表)が主催した防災学習プログラムの一環。1月から3回の講座で、地震発生のメカニズムや同町の災害ボランティア活動などについて学んできた小学4年~中学1年の児童生徒が参加した。

 

 初日は震災で甚大な被害を受けた鵜住居町を訪問。震災伝承施設「いのちをつなぐ未来館」、同市の犠牲者の芳名を刻んだ慰霊碑がある「釜石祈りのパーク」、被災した小中学校跡地に建設され、ラグビーワールドカップの会場となった「釜石鵜住居復興スタジアム」などを見学。当時の被災状況、住民の避難行動、復興への歩みについてガイドから話を聞いた。2日目は三陸鉄道で釜石―盛(大船渡市)間を往復。沿線の津波被害や復興状況を車窓からの景色を見て学んだ。

 

いのちをつなぐ未来館で東日本大震災について学ぶ=3月26日(関係者撮影)

いのちをつなぐ未来館で東日本大震災について学ぶ=3月26日(関係者撮影)

 

 釜石PITでの交流会には、地元の小中高生22人が参加。釜石高の震災伝承、防災活動グループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」は、自作の“防災すごろく”を初お披露目し、厚真、釜石の小中学生に体験してもらった。すごろくのマスには、地震発生時の避難行動で重要なポイントがちりばめられ、子どもたちは楽しみながら防災の知識を身に付けた。制作したゲーム班の山崎楓さん(2年)は「メンバーの実体験を組み込んだ。震災を知らない子どもたちに教訓や防災を教える手段として活用できれば」と望んだ。防災食班は、日常的に非常食を消費し、常に新しいものを備蓄しておく「ローリングストック法」を紹介。賞味期限切れでの廃棄を防ぎ、おいしく食べるレシピの一例として、パンの缶詰を使ったラスク作りを実演した。

 

「防災すごろく」を体験する厚真と釜石の子ども

「防災すごろく」を体験する厚真と釜石の子ども

 

釜石高生によるパンの缶詰を使ったラスク作りの実演。子どもたちも興味津々

釜石高生によるパンの缶詰を使ったラスク作りの実演。子どもたちも興味津々

 

 18年9月6日午前3時7分に発生した大地震で、厚真町は北海道観測史上初の震度7を記録。大規模な土砂災害などで建物や農地が被害を受け、37人(関連死含む)が犠牲になった。家業が神社という中村心陽(こはる)さん(厚真中央小4年)は「大きな揺れで飛び起きた。外に出たら神社の建物の土台がずれ、鳥居も倒れていた。すごく怖かった」と当時を振り返る。

 

 「地震のことをもっと知りたくて参加した」釜石ツアー。「多くの人が亡くなった場所にも行き、悲しい気持ちになった。先に地震を経験した釜石の子は、私たちの気持ちを分かって励ましてくれたり、自分の身を守る方法を教えてくれたりした」と中村さん。被災経験を生かし、防災活動に積極的に取り組む釜石の中高校生の姿を目にし、「私も誰かを助けられる人になりたい。厚真の地震で怖い思いをした高齢者とかにアドバイスしてあげて、みんなが安全に逃げられるようにしたい」と思いを語った。

 

防災すごろくで地震発生時の避難行動を疑似体験する中村心陽さん(左)

防災すごろくで地震発生時の避難行動を疑似体験する中村心陽さん(左)

 

互いに自己紹介し合う厚真と釜石の子どもたち

互いに自己紹介し合う厚真と釜石の子どもたち

 

 両市町を結ぶきっかけを作ったのは、震災の津波で自宅を失い、避難生活を経験した釜石東中2年の藤原菜穂華さん。北海道で同地震があった当時、小学6年生だった藤原さんは「震災でお世話になった北海道の人たちのために何かしたい」と支援活動に乗り出し、サポートする市内団体メンバーと一緒に19年3月、厚真町を訪問。被災した子どもたちに絵本の読み聞かせをしたり、森で一緒に遊んだりし、元気を取り戻すお手伝いをした。

 

 中学生になってからは、市が募集した「大震災かまいしの伝承者」に応募。研修を経て伝承者の認定を受け、語り部活動も始めた。今回、厚真の小中学生を迎えるにあたり、未来館でのガイドを担当。交流会では釜石の魅力を紹介し、双方のまちの子どもたちが交流を深める企画を自らプロデュースした。

 

独自の視点で釜石のまちの魅力を紹介する藤原菜穂華さん

独自の視点で釜石のまちの魅力を紹介する藤原菜穂華さん

 

災害の教訓を学び、互いのまちの良さも共有した交流会

災害の教訓を学び、互いのまちの良さも共有した交流会

 

 「3年前に訪れた時のことを厚真の子たちが覚えていてくれてうれしかった。同じ地震災害でも厚真は土砂災害、釜石は津波。今回の訪問でその違いを感じ、新たに気付かされたこともあったのでは」と藤原さん。今後は「災害を経験した子どもたち同士の交流が経験のない世代や地域にも広がり、防災について一緒に考えられるようになれば」と願う。

 

注)本文中の学年は取材日(3月27日)時点

黄色く染まったハンカチを掲げ、「春色だね」とほほ笑む参加者

きれいな春色!タマネギの皮で「草木染」 釜石・鵜住居公民館で体験講座

黄色く染まったハンカチを掲げ、「春色だね」とほほ笑む参加者

黄色く染まったハンカチを掲げ、「春色だね」とほほ笑む参加者

 

 草花や野菜など自然由来の素材を使って布を染める「草木染(くさきぞめ)」を楽しんでもらう体験講座が3月25日、釜石市鵜住居町の鵜住居公民館で開かれた。使ったのは、料理の際には捨ててしまう「野菜くず」のタマネギの皮。参加者はタマネギを煮出した染料に綿のハンカチ(28センチ四方)を浸し、オリジナル作品を完成させた。

 

 同館が不定期に開催する鵜住居交流講座の一環。新型コロナウイルスの影響で外出機会が減る中、ものづくり体験で地域住民の親交を深めようと企画し、住民5人が参加した。前日に、染まりを良くするための下準備「呉汁」(ごじる=大豆を水に浸し、すりつぶしたもの)処理を体験。今回は豆乳(無調整)と水を混ぜたもので代用し、液にハンカチを浸し、絞って陰干ししていた。

 

出来上がりを想像しながら輪ゴムや割りばしを使って模様付けした

出来上がりを想像しながら輪ゴムや割りばしを使って模様付けした

 

 25日の染色作業は染料となるタマネギの皮むきから開始。皮をゆでて染料を抽出す作業を3回繰り返した。最初は透明だった水が次第に黄色く色づいてくると、参加者は「スープみたいで、おいしそう。飲みたい感じ」と興味深そうにのぞき込んだ。煮出している合間に、ハンカチに模様を付けるための「絞り」に挑戦。ペットボトルのキャップや碁石などを輪ゴムで留めたり、布を折り畳んで割り箸で挟んだり、思い思いに手を動かした。

 

「きれいになーれ」。タマネギの皮でつくった染料に布を浸す女性たち

「きれいになーれ」。タマネギの皮でつくった染料に布を浸す女性たち

 

 タマネギの皮から抽出した染料に、模様付けたしたハンカチを約20分間浸した。待つ間に、染料の色落ちを防ぐために必要な「媒染(ばいせん)剤」づくり。今回はミョウバンを使い、ぬるま湯で溶かした媒染液に、さらに20分間浸した。明るい黄色に染まったハンカチに、参加者は「こんなにきれいな色が出るなんて」「春が来た感じ」と歓声。水洗いしながら輪ゴムなどを外すと、白い輪の模様などができていて、「いいね。かわいい」と笑顔を広げていた。

 

 町内の復興住宅で暮らす紺野眞知子さん(67)は、初めての染め物体験を楽しんだ様子。「タマネギの皮でこんなことができるなんて考えもしなかった。きれいな色に仕上がった。違った模様を作ってみたいと意欲が湧く。いろんな人と話ができるのもいいね」と目を細めた。

 

タマネギの皮をゆでている合間に、身を使った料理作りに取り組んだ

タマネギの皮をゆでている合間に、身を使った料理作りに取り組んだ

 

 同館では現在、染め物について研究を重ねている。ナスやアボカド、サクラやウメの枝などを使った方法を試行錯誤し、今回は家庭にあるもので手軽に使うことができるタマネギの皮を選んだ。講師役を務めた主任の村田奈々さん(38)は「食材を使い切る、あるものを上手に活用するのは大事なこと。SDGsや食品ロス、廃棄物の再利用、環境について考えるきっかけになれば。気軽に家庭でも染め物体験をして、世界に一つの自分だけのものを作ってみてほしい」と期待する。