釜石スタディツアーで訪れた北海道厚真町の小中学生=3月27日、釜石PITでの交流会
2018年9月の北海道胆振東部地震で道内最大の被害を受けた厚真町の小中学生6人が、3月26日から3日間、東日本大震災の被災地・釜石市を訪問。同市の子どもたちと大規模災害の経験を共有しながら、教訓を学び合った。厚真の小中学生は、震災後、率先して防災活動に取り組む釜石の中高校生の姿にも刺激を受け、未来の命を守るために自分たちができることを考えた。
釜石訪問は、同町の放課後子ども教室事業を担う「オフィスあっぷ・ろーど」(上道和恵代表)が主催した防災学習プログラムの一環。1月から3回の講座で、地震発生のメカニズムや同町の災害ボランティア活動などについて学んできた小学4年~中学1年の児童生徒が参加した。
初日は震災で甚大な被害を受けた鵜住居町を訪問。震災伝承施設「いのちをつなぐ未来館」、同市の犠牲者の芳名を刻んだ慰霊碑がある「釜石祈りのパーク」、被災した小中学校跡地に建設され、ラグビーワールドカップの会場となった「釜石鵜住居復興スタジアム」などを見学。当時の被災状況、住民の避難行動、復興への歩みについてガイドから話を聞いた。2日目は三陸鉄道で釜石―盛(大船渡市)間を往復。沿線の津波被害や復興状況を車窓からの景色を見て学んだ。
いのちをつなぐ未来館で東日本大震災について学ぶ=3月26日(関係者撮影)
釜石PITでの交流会には、地元の小中高生22人が参加。釜石高の震災伝承、防災活動グループ「夢団~未来へつなげるONE TEAM~」は、自作の“防災すごろく”を初お披露目し、厚真、釜石の小中学生に体験してもらった。すごろくのマスには、地震発生時の避難行動で重要なポイントがちりばめられ、子どもたちは楽しみながら防災の知識を身に付けた。制作したゲーム班の山崎楓さん(2年)は「メンバーの実体験を組み込んだ。震災を知らない子どもたちに教訓や防災を教える手段として活用できれば」と望んだ。防災食班は、日常的に非常食を消費し、常に新しいものを備蓄しておく「ローリングストック法」を紹介。賞味期限切れでの廃棄を防ぎ、おいしく食べるレシピの一例として、パンの缶詰を使ったラスク作りを実演した。
「防災すごろく」を体験する厚真と釜石の子ども
釜石高生によるパンの缶詰を使ったラスク作りの実演。子どもたちも興味津々
18年9月6日午前3時7分に発生した大地震で、厚真町は北海道観測史上初の震度7を記録。大規模な土砂災害などで建物や農地が被害を受け、37人(関連死含む)が犠牲になった。家業が神社という中村心陽(こはる)さん(厚真中央小4年)は「大きな揺れで飛び起きた。外に出たら神社の建物の土台がずれ、鳥居も倒れていた。すごく怖かった」と当時を振り返る。
「地震のことをもっと知りたくて参加した」釜石ツアー。「多くの人が亡くなった場所にも行き、悲しい気持ちになった。先に地震を経験した釜石の子は、私たちの気持ちを分かって励ましてくれたり、自分の身を守る方法を教えてくれたりした」と中村さん。被災経験を生かし、防災活動に積極的に取り組む釜石の中高校生の姿を目にし、「私も誰かを助けられる人になりたい。厚真の地震で怖い思いをした高齢者とかにアドバイスしてあげて、みんなが安全に逃げられるようにしたい」と思いを語った。
防災すごろくで地震発生時の避難行動を疑似体験する中村心陽さん(左)
互いに自己紹介し合う厚真と釜石の子どもたち
両市町を結ぶきっかけを作ったのは、震災の津波で自宅を失い、避難生活を経験した釜石東中2年の藤原菜穂華さん。北海道で同地震があった当時、小学6年生だった藤原さんは「震災でお世話になった北海道の人たちのために何かしたい」と支援活動に乗り出し、サポートする市内団体メンバーと一緒に19年3月、厚真町を訪問。被災した子どもたちに絵本の読み聞かせをしたり、森で一緒に遊んだりし、元気を取り戻すお手伝いをした。
中学生になってからは、市が募集した「大震災かまいしの伝承者」に応募。研修を経て伝承者の認定を受け、語り部活動も始めた。今回、厚真の小中学生を迎えるにあたり、未来館でのガイドを担当。交流会では釜石の魅力を紹介し、双方のまちの子どもたちが交流を深める企画を自らプロデュースした。
独自の視点で釜石のまちの魅力を紹介する藤原菜穂華さん
災害の教訓を学び、互いのまちの良さも共有した交流会
「3年前に訪れた時のことを厚真の子たちが覚えていてくれてうれしかった。同じ地震災害でも厚真は土砂災害、釜石は津波。今回の訪問でその違いを感じ、新たに気付かされたこともあったのでは」と藤原さん。今後は「災害を経験した子どもたち同士の交流が経験のない世代や地域にも広がり、防災について一緒に考えられるようになれば」と願う。
注)本文中の学年は取材日(3月27日)時点