「橋野の自然の一番の魅力は巨木が多いこと」と話す三浦勉さん
釜石市橋野町青ノ木出身で野田町に住む三浦勉さん(68)は、長年にわたり橋野の豊かな自然を写真に記録。自ら山に入り発見した巨木、滝、岩、山中で出くわした動物などの写真80点を鵜住居町のいのちをつなぐ未来館で公開している。動物による食害や土砂災害など、山の自然の変化が人間生活に及ぼす影響は大きい。三浦さんは写真展を通じて「自然、動物との共生を訴えたい」と話す。
同写真展は、津波伝承や防災学習の役目を担う未来館が「防災意識を高めるには地元の自然を知ることも大事」と考え、多くの自然写真を撮りためている三浦さんに協力を依頼。4月2日から館内での展示が始まった。
A4判の写真は、三浦さんが20年以上前から趣味の山歩きで記録し続けてきたもの。中でも圧巻は、推定樹齢が数百年級の巨木の数々。広大な森が残る橋野地域には、各所に“御神木”とされる大樹が脈々と生き、人々にあがめられてきた。トチ、ナラ、カツラなど樹種はさまざま。青ノ木西又沢にある「マダの巨大木」(地元ではシナをマダと呼ぶ)は幹回り約8メートル、推定樹齢700年の古木。「真ん中が空洞で、冬はクマが冬眠に使っていると思われる」と三浦さん。他にも人がくぐれる大きさの穴が開いたカツラの木もあり、その生命力に驚かされる。神社の御神木も複数あり、周辺にはかつて人が住んでいた屋敷跡が残る場所もあるという。
沢伝いに山に入ることが多い三浦さんは、地形や季節でさまざまな表情を見せる滝も多数確認。大平の外ヒサゴ沢では、地元で“幻の滝”と言われてきた推定落差30~40メートルの大滝のほか、下流に落差約8~15メートルの4つの滝を見つけている。
奇妙な形状の岩も印象的。青ノ木大森山にある烏帽子型の大岩(高さ5・5メートル)は、表面にマリア像の姿が浮き出たような凹凸が見られ、脇には供物台のような上部が平らな岩がある。「橋野で製鉄業が栄えたころ、ドイツ人がこの地に入っていたという話を伝え聞く。岩は欧州の方角を向いており、もしかしたら、外国人のキリスト教信仰の痕跡かも」と三浦さん。
人がなかなか入れない場所の巨木や滝にはほとんど名称が無く、展示写真には、三浦さんが付けた仮称が添えられる。写真説明には実測や推定の数字データ、アクセス、クマやシカの出没情報なども記載。確認した場所は、橋野の山々を俯瞰(ふかん)した地図に落とし込み、位置関係も分かるようになっている。
三浦さんは「人の知らない所に入るのが好き。橋野の山にはまだまだ足を踏み入れていない場所がある。覚えるだけでも財産。これからも続けたい」と未知の世界に期待を膨らませる。橋野鉄鉱山の世界遺産登録後は、釜石観光ガイド会員としても活躍中。「橋野鉄鉱山が36年も続いたのは、鉄鉱石はもちろん、高炉を造る石、木炭となる木、水車を動かす水がそろっていたから。フイゴにはタヌキの毛皮も使われた」と、同所の自然の豊かさを強調。「可能な限り、自然そのままの状態を後世に残していけたら」と願う。
未来館スタッフの蟹江美幸さん(39)は「防災意識は知識だけでは根付かない。自分たちの住む地域を守りたいと思うような郷土愛を育む機会も必要」と、同展開催の意義を示す。展示は30日まで(未来館は水曜定休)。
(復興釜石新聞 2020年4月18日発行 第885号より)
会場の「いのちをつなぐ未来館」は、新型コロナウイルスの影響により、4月21日〜5月6日まで臨時休館となりました。
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